[木場 side]
「ひとまず、ってところね」
イッセー君が入院している病院に戻って来た僕とリアス前部長と朱乃さんの三名。
僕達は一度、グレモリー領に向かった後、混乱の収拾を図るため動いてきた。
リアス前部長の父――――つまりはグレモリー現当主の協力の元、領民への説明、避難誘導をしてもらった。
グレモリー領では今のところ滞りなく、避難は行われている。
まぁ、僕達が向かった時には既に動いていたんだけどね。
「流石はお母様。他の領地よりも混乱度合いは小さい。私の出る幕なんてほとんどなかった」
「うふふ、ヴェネラナ様ですもの。冥界であの方の手腕を上回る者などそうはいないでしょう」
リアス前部長の母、ヴェネラナ様はバアル最強の女性として勇名を馳せた。
しかし、彼女の凄いところはその武力だけじゃない。
彼女の持つカリスマ性、統率力は他の上級悪魔の貴族と比べても群を抜いている。
もしかすると、現魔王様方よりも『王』としての資質は高いんじゃないか、そんなことすら思える時がある。
ただ、グレモリーがこれだけ早く動けたのは他にも理由がある。
それはグレモリー現当主が異世界のことを認知していたこと。
サーゼクス様も異世界のことが一般に知れ渡るのを考慮して、予め事情を知る者達と連携を取っていたことが功を奏した。
本当なら他の領主にも異世界のことが伝わっていれば良かったんだろうけど、異世界については秘匿事項だったからね。
これは全勢力首脳陣の間でも共通事項だった。
まぁ、ヴェネラナ様のおかげで僕達は予想よりも早く戻れることになった、ということには変わらないんだけど。
朱乃さんの励ましに気を取り直したリアス前部長は真剣な顔つきで言う。
「バアル城に侵入した賊………ビィディゼ・アバドン。『王』の駒を使用した者。この事態に乗じて、不正の全責任を初代バアルとバアル現当主に押し付けようとした………か」
この混乱に乗じて動く者がいた。
それは各地で潜伏していた旧魔王派の残党であったり、『禍の団』の構成員だったりする。
しかし、それ以外にも邪な心を持って己の利のために行動している者もいたんだ。
その内の一人がレーティング・ゲームのプロプレイヤーにして、現ランキング三位、ビィディゼ・アバドン。
番外の悪魔、アバドン家の出身だ。
皇帝が冥界市民に向けて流した情報、つまり、『王』の駒を用いて不正を行っていた者の中にはビィディゼ・アバドンの名前があった。
現ランキング三位の不正は冥界市民に衝撃を与えるのには十分過ぎる。
当然、彼のファンは問いただすだろう。
しかし、不正の事実を覆すのは難しい。
それだけ皇帝の言葉というのは重みがあるのだから。
そこで彼がとった行動が不正の根源を絶つこと。
―――――大王の首を取ることだった。
自分は大王に利用されたのだと民衆に訴え、その上で大王バアルの首を以て一連の事件の根源を始末したと主張する。
不正の根源を正した元三位のプレイヤーとして、勇退すするために。
それがビィディゼ・アバドン………不正に手を染めきった男の思惑だった。
「己の名誉を守るために、『正義』を捏造するなんて………。英雄とまで称された人の本性がそれだなんて、あまり信じたくないわね」
「ビィディゼ・アバドンを止めた匙君とサイラオーグ・バアルは?」
ビィディゼ・アバドンの襲撃を止めるため、匙君はバアル城へと乗り込こみ、彼と対峙した。
だが、不正をして力を手に入れたとはいえ、相手は魔王クラスの実力者。
今の匙君では彼を相手取るには難しく、追い込まれてしまった。
そこに現れたのがサイラオーグ・バアルだった。
リアス前部長が言う。
「二人とも無事よ。流石に無傷とまではいかなかったようだけど、治療を終えて今も冥界各地で動いてくれているそうよ」
魔王クラスと称された現ランキング三位を止めるとは………。
いや、サイラオーグ・バアルはあのレーティング・ゲームで魔王クラスであるイッセー君と真正面から打ち合った猛者だ。
敗北してからは打倒イッセー君に燃えていると耳にしたことがあるし、今では恐ろしく強くなっているのだろう。
それに名誉欲に溺れた者に彼が劣るとは思えない。
あの男の拳はどこまでも真っすぐ、相手の魂まで届く。
実際に受けたことがある僕だからこそ言えることだ。
――――――サイラオーグ・バアルの拳がまがい物の力に屈するはずがない。
もちろん、彼の力だけでビィディゼ・アバドンを倒したとは言わない。
「最終的に倒したのはサイラオーグのようだけど、それまで持ちこたえた匙君の成長も凄まじいものがあるわね。………やっぱり、ソーナに告白したことも大きいのかしら?」
そう、ソーナ前会長に告白してから、匙君の伸びは目を見張るものがある。
何度も倒されているのに弱るどころか、彼の黒炎は激しさを増す。
恐らく、彼の黒炎はビィディゼ・アバドンを拘束し続けたことだろう。
朱乃さんが微笑みながら言う。
「彼にとってソーナは仕えるべき主というだけでなく、一人の守りたい女性。守りたい人がいるというのは、限界以上に力を引き出せるもの。うふふ、匙君も段々、イッセー君みたいになってきましたわね。というより、祐斗君もギャスパー君も、ライザー様も。彼に関わる男性は皆、彼の影響を強く受けていますわ」
ハハハ………うん、それは否定できないね。
自分でもそれは感じているよ。
僕は彼と出会い、彼の過去を知り、彼の生き様に憧れた。
彼の背中をずっと追い続けてきた。
一度………いや、二度か。
僕は道を見失い、忘れてしまった。
だけど、もう見失うことはない。
僕は彼とは違う、彼にはなれない。
それは分かっている。
それでも―――――僕は彼のように生きたい。
そして、僕なりの答えを見つけたい。
心からそう思っている。
「ウフフ」
「あらあら、祐斗君」
リアス前部長と朱乃さんが僕のことを微笑まし気に見てくる。
うーん………なんというか、お二人には敵わないね。
まぁ、それはいつものことかな?
そんな風に話しながら廊下を歩いていると、イッセー君の病室に着いていた。
中では美羽さんとアリスさんがメフィスト会長から送られてきた術式を見直しているはずだ。
予め彼女達から伝えられていた時間だと、そろそろ終わっている頃だと思うんだけど………。
リアス前部長が病室の扉を開ける。
すると―――――。
「エヘヘ………お兄ちゃん………」
「もう………早く戻ってきてよ………寂しいじゃない」
美羽さんとアリスさんが未だ目覚めないイッセー君に抱き着いていた。
ベッドに入り込み、意識のないイッセー君に頬ずりまでしていた。
「「あっ………」」
「「あっ………?」」
ハハハ………こんな時、僕はどうすればいいんだろうね………?
▽
「「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…………」」
床に頭を着けて何度も「ごめんなさい」と言い続ける美羽さんとアリスさん。
彼女たちの土下座はそれはもう見事なもので。
二人の前にはご立腹のオカ研女子メンバー達。
天界、堕天使領に向かっていたメンバーも帰ってきている。
ロスヴァイセさんとギャスパー君だけはまだアザゼル先生といるようだが………。
そして、赤龍帝眷属も戻ってきていて………。
腕を組んだゼノヴィアが言う。
「抜け駆けとはいただけないな」
アーシアさんとイリナも頬を膨らませていて、
「お二人だけズルいですぅ!」
「私もダーリンとくっつきたいのにぃ!」
レイナさんと小猫ちゃんは半目で二人を見下ろしながら、
「まさかこんな時に………」
「油断大敵………なにしてるんですか」
レイヴェルさんも何とも言えない様子で、
「これは流石に弁護できませんわ」
と、美羽さん達と眷属仲間である彼女もこういう具合だ。
第一発見者であるリアス前部長と朱乃さんのお怒り具合は彼女達の比ではない。
お二人は体から紅の魔力と黄金の魔力を迸らせているほどだ。
「「………」」
無言のプレッシャーを放っている………!
この魔力の質と量は………危険だ………!
周囲に巻き散らしているわけではないが、後ろにいる僕まで息苦しくなってくる………!
「おいおい………なんつー魔力だよ。戦っている時よりもヤバいじゃねぇか」
モーリスさんですら冷や汗を流すレベル!
感じられる波動は既に最上級悪魔クラスに到達している!
お二人はイッセー君のこととなるとどれだけ力を発揮するというのだろう………?
よく見るとアーシアさん達まで凄まじい力を纏っていた。
リーシャさんが言う。
「これは二人がサボっていたことに対する怒り………ではなく、嫉妬が大きいのでしょうね。うふふ、微笑ましいです。青春ですね♪」
リーシャさん、これは青春と言えるんですか?
下手をすれば、イッセー君を巡って戦争が起こってしまいそうな勢いなんですけど………。
「リーシャ、お腹すいたー」
「もうお腹ペコペコです」
リーシャさんの手を握るサリィとフィーナは我関せずという雰囲気だ。
すると、ニーナさんが一歩前に出た。
彼女の顔はいつものように優し気な表情だが………例に漏れず、こちらも凄まじいプレッシャーを放っていた。
「ねぇ、お姉ちゃん」
「うん」
「一応、言い分を聞いてあげるね?」
その一言に美羽さんとアリスさんは顔を上げて、
「「色々、我慢できませんでした」」
この後、リアス前部長達によるお説教タイムが幕を開けた――――――。
▽
「うぇ、うぇぇぇぇ…………ディルちゃん、ありがとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ………えぐっ」
「グスッ………怖かったよぉ………」
号泣しながら、ディルムッドに抱き着く美羽さん。
アリスさんも半分泣きながら、ディルムッドを抱きしめていた。
かれこれ一時間近く続いた二人へのお説教。
端から見ているだけだったけど、それはもう苛烈だった。
モーリスさんなんて、「ちょっくら、つまみ買ってくるわ」と言い残して病室を出てから戻ってくる気配がない。
きっと………いや、十中八九、逃げたんだろうね。
僕もついて行けば良かったと後悔している。
それほど激しく………長かった。
皆のお説教が第二ラウンドに突入しようとした、その時―――――ディルムッドが両者の間に入ったんだ。
彼女は美羽さん達を庇うように立つと、瞳を潤ませながら………。
『も、もう………お、お姉ちゃん達を………許して、あげて………?』
あの冷たい口調はどこに行ってしまったのだろうね………。
いつもはクールな雰囲気を出している彼女に言われてしまっては、もう何も言えなくなったのだろう。
何より、ここにいるメンバーの中では最年少であるディルムッドの願い。
皆もお説教を終えるしかなかったようだ。
………僕は未だにディルムッドが十五歳ということに衝撃を受けるけど………。
見た目的には小猫ちゃんはもちろん、リアス前部長よりも大人びて見えるからね。
リアス前部長が頬を赤くしながら、小さく咳払いする。
「ま、まぁ、二人の気持ちは分からなくもないし………。同じ立場なら、私も………。少し言い過ぎたかもしれないわね。私もイッセーに触れるのを我慢していたものだから………つい、ヒートアップしてしまったわ。ごめんなさいね」
「「うわぁぁぁぁぁぁんっ! リアスさん、ごめんなさいぃぃぃぃぃぃぃぃぃ! そして、ありがとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」」
今度はリアス前部長に抱き着く二人。
これで事態は収拾した、ということで良いのかな?
僕は額に流れる汗を拭って、深く息を吐いた。
こ、怖かった………本当に怖かった………。
これが女性のパワーというものなのだろうか。
イッセー君、僕は君を目標に生きていくつもりだけど、女性関係については無理そうだ。
元々、ハーレム願望なんてないけど。
君はかなり苦労すると思うけど、どうか頑張ってほしい。
僕はいつも通り、陰ながら応援するよ。
ようやく場が収まったところで、病室の扉が開いた。
そこに立ったいたのは苦笑するモーリスさんとやれやれと言った表情のアザゼル先生。
「ようやく終わったか。女ってやつは恐ろしいねぇ」
「こいつらはここ数日、イッセーと触れ合ってないからな。イッセー成分なるものが枯渇していたんだろ。そこに美羽とアリスへの嫉妬。色々、爆発もするんだろうさ」
イッセー成分の枯渇………。
結局のところ、そのイッセー成分って何なんだろうね?
リアス前部長がアザゼル先生に言う。
「そちらの用は済んだの? ロスヴァイセとギャスパーは?」
「あいつらにはまだ作業してもらっている。万全の状態にしておきたいんでな。念入りに見てもらっているのさ。俺が戻ってきたのは、モーリスの提案に必要な場所の確保が出来たからだ。………だが、その話に入る前に会わせておきたいやつがいる」
「会わせておきたい………? それは?」
リアス前部長が聞き返す。
アザゼル先生は頷くと扉の向こうに声をかけて、部屋に入ってくるよう促した。
扉が開き、入ってきたのは一人の男性。
その男性の登場に僕達は目を見開き驚いた。
驚いていないのはイリナさんと彼を知らないメンバーぐらいだろう。
長い黒髪を後ろで束ねた男性は一礼すると部屋に入ってくる。
彼の腰には剣―――――聖剣が帯剣されていた。
男性は僕達を見渡すと、ベッドに眠るイッセー君へと目を移し、目を細めた。
「この中にははじめましての人もいるみたいだが…………久し振りだね、グレモリー眷属」
「あなたは………。なぜ、ここに?」
リアス前部長の問いに男性は―――――。
「ミカエル様のご命令でね。………過去の者が未来を得るために来た、と言えば君達はどう思うのかな?」
男性―――――八重垣正臣は自嘲気味にそう答えた。
[木場 side out]