四連投稿アターック!
すいません、卒論終わってテンションがおかしくなってます(笑)
[美羽 side]
木場君達一行が結界の中に入ってから五分。
ボクとアリスさんは神姫化したまま、結界を維持している。
しているのだけど………。
「すいませーん! このおつまみ、おかわりー! あと、お煎餅もー!」
「は、はい!」
グリゴリの研究員の人におつまみのおかわりを要求するアリスさん。
床に座り込んだボク達はちゃぶ台を囲んで、のんびりお茶を啜っていた。
結界の中で厳しい修行に打ち込んでいる木場君達には申し訳ないけど、維持しているだけのボク達は結構暇だったりする。
研究員の人がおつまみとお煎餅を持ってくると、アリスさんはご機嫌な様子でそれを受け取っていた。
「ここのおつまみ美味しくて、いくらでもいけちゃう! お酒を飲めないことだけが残念!」
「い、一応、ボク達の役割も重要だからね?」
「分かってるって。だから、この場に留まってるんじゃない」
ボク達は結界を維持するためにこの場に留まる必要がある。
ここから離れると、結界の維持が難しくなってしまうからね。
だけど、そうなると結界の維持以外に出来ることはなく………かなり、まったりしてしまっていた。
皆、なんかゴメンね………。
「それにしても、木場君達は大丈夫かしら? モーリスの本気の修行って本当に厳しいからね。私も何度泣かされたことか………」
過去の自分を思い出して、薄っすら涙を浮かべるアリスさん。
え、えーと………アリスさんって相当強いよね?
『白雷姫』の二つ名を持つアリスさんが泣かされるって、どれだけ厳しい修行だったんだろう?
あまり結界の中のことは想像したくないなぁ………。
~そのころの木場くん達~
「おらぁ! そんなんじゃすぐにやられるぞぉぉぉぉぉぉぉ!」
「ちょ、ちょっと待っ―――――」
「相手は待ってくれねぇんだよ!」
「す、少し休――――」
「休んでる暇なんてあるか、バカ野郎!」
「うぇぇぇぇん! ダーリン、助けてぇぇぇぇぇ!」
「フハハハハハァー! 残念ながら、イッセーはいないんでな! 自分の身くらい自分で守りなァッ!」
「「「この人、恐い! 鬼だ!」」」
超がいくつも付く、激しい鬼修行は木場、ゼノヴィア、イリナを泣かせていた。
そして―――――
「み、みなさぁぁぁぁぁん!」
アーシアの叫びが響いていた。
~そのころの木場くん達、終わり~
「………なんだろう、今、アーシアさんの悲鳴が聞こえたような」
結界の外と内では完全に隔絶されているから、聞こえるはずがないんだけど………。
時間の流れも違うし………。
「大丈夫よ。私も何か聞こえたから」
「それ大丈夫じゃないよね!?」
木場君達、本当に大丈夫なの!?
嫌な予感しかしないよ!
心配するボクを安心させるように、微笑みを浮かべた。
「心配しないで。死にはしないわ。ちょっと精神崩壊するだけよ」
「ダメじゃん!」
精神崩壊するような修行ってなにさ!?
怖いよ!
本当に怖いよ!
木場君達、何されてるの!?
アリスさんはお煎餅を齧ると、小さく息を吐いた。
「そんな『剣聖』ですら、美羽ちゃんのお父さん―――――魔王シリウスには敵わなかったんだけどね」
「えっ………?」
突然の言葉にボクはつい訊き返してしまった。
アリスさんは一度、お茶を啜ると話を続けた。
「もしかしたら、お父さんから聞いてるかもしれないけど、モーリスとシリウスは何度も剣を交えたことがあるのよ。戦場で幾度も剣を交え―――――決着がつくことはなかった」
「決着がつかなかったの? でも、さっきは………」
「シリウスは剣も魔法も恐ろしく強かった。それなのに当時、シリウスは剣技だけでモーリスと渡り合ったのよ。魔法は一切使わずにね。今思い出しても、物凄い戦いだったわ。私なんて介入する余地がなかったもの」
お父さんは最強の魔王と称されるほどの実力者だった。
ボクが教わった魔法にはアスト・アーデでも最高レベルのものがいくつもある。
ボクが神姫化して、ようやく使える魔法もお父さんは平然と使っていたことから、どれだけ強かったかが今まで以上に理解できる。
「『炎帝』ジース、『魔皇将』フォーエンハイム、『人形師』フェジテ、『氷雪の魔女』フィール………その他の魔族軍幹部。数えればきりがないほど魔族側には名だたる猛者が多かった。そんな彼らを束ねていたのが魔王シリウス。彼が最強と呼ばれた理由は武力だけじゃない、あのカリスマ性にあった。だからこそ、魔王シリウスが率いていた魔族は結束力が強く、数で勝っているはずの私達は劣勢だった」
懐かしい名前が出てきた。
今出てきた人の中にはもう亡くなっている人もいる。
強くて、好戦的で………でも、ボクに優しくしてくれた、そんな人達だ。
皆といた頃を思い出すと、悲しい記憶もあるけど、楽しかった記憶も出てくる。
でも………。
「どうして………今、その話を……?」
これまで一緒に過ごしてきて、お父さんだけじゃなく、他の幹部の人達の名前を出されたのは始めてだった。
前線で戦っていたアリスさんが彼らを知らないわけがない。
そこは分かっている。
どうして、このタイミングで………?
すると、アリスさんはボクの目をじっと見つめながら、口を開いた。
「美羽ちゃん、アセムの姿を見てからずっと考えてるよね? 彼がなぜ、魔王の服なんて着ているのかって」
「…………っ」
ボクは言葉を詰まらせた。
アリスさんの指摘は正解だったからだ。
あの時、魔王の服を着たアセムを見て、ボクは色々なことを思い出した。
戦場で戦うお父さんの姿、戦場から帰ってきた時のお父さん、そして………戦争を終わらせるために、命を差し出した時の………。
お父さんは自分を最後の魔王にしたかった。
戦争を終わらせるために、恐怖の象徴である魔王を消す。
そのために―――――。
そして、何よりも、お父さんはボクに魔王の座を継がせないために魔王という存在を消した。
ボクが平和な日常を歩めるように。
だけど、魔王は現れてしまった。
アセムがあの服を纏うことによって。
ボクは俯きながら、小さく頷いた。
「うん………。アリスさんの言う通りだよ。あれからずっと考えてたんだ。なんで、あの人が魔王の服なんて着ているのかって………。でもね、それだけじゃないんだ………」
ボクは拳を握りしめて、続けた。
「あの姿を見たとき、驚きもあったけど、同時に怒りが沸いてきて………。お父さんの覚悟を踏みにじられたような………そんな気がして………」
なんで………どうして…………。
ボクにはアセムの考えは分からない。
アスト・アーデの魔王を恐怖の象徴として復活させたかったの?
もし、そうだったとしたら、ボクは彼を許せそうにない。
でも、ボクがこうして落ち着いていられるには理由があった。
ボクの考えを見透かしたようにアリスさんは言った。
「アセムには何か目的があるかもしれない。美羽ちゃんはそう考えているのね?」
ボクは頷いた。
「彼が最後に言い残した言葉が気になってね。本気でこの世界を滅ぼしにくるなら、あんなこと言わないと思うんだ」
『考えることだ。自分達が生き残るために、この世界が生き残るためにはどうすれば良いのか。一人一人が考え、己の役目を果たすことが、僕やトライヘキサを倒すことに繋がるだろう』
アセムはボク達に考えろと言った。
生き残るために、そのためにはどうすれば良いのか。
それがこの戦いを終わらせることに繋がると。
アセムは魔王になり、この戦いの先に何かを見ている。
そして、あの人はお兄ちゃんが来るのを待っている。
赤い龍の勇者と勇者を待つ魔王―――――。
あれ………?
この構図って………。
ボクの脳裏にかつての光景が浮かび上がった、その時だった。
「アリス、美羽さん。こちらはどんな感じですか?」
そう言ってこちらに歩いてくるのはリーシャさん。
彼女の両サイドにはサリィとフィーナがいて、リーシャさんと手を繋いでいる。
アリスさんがリーシャさんに問う。
「あれ? なんでここにいるの? 冥界にいたんじゃないの?」
「そうだったんですけどね。私もこの施設には用があったのですよ。アザゼルさんに武器の調整をお願いしていまして。さっき、最終調整が終わりました」
そういえば、ビットの数を増やすんだっけ………?
サリィとフィーナの協力があるとはいえ、リーシャさんの空間認識能力ってずば抜けているよね………。
フィーナが言う。
「私達のリンクも今まで以上に仕上がりました。これで、どれだけ相手が来ようとも問題ないです」
「ふっふっふー! どんな敵でも私達が蹴散らしてやる!」
挑戦的な笑みのサリィ。
リーシャさんもこちらにウインクを送りながら、
「二人の言う通りです。私達の準備は万端です。あとは狙い撃つだけ。とりあえず、新技も撃てますし」
「新技? そんなのあったの?」
それはボクも初耳だ。
サリィとフィーナの力を使った技だと思うんだけど………。
アリスさんの問いにリーシャさんは微笑みを浮かべて答えた。
「ええ。これは取って置きです。イッセーが目覚めたら、使おうと思ってます」
「イッセーが目覚めたらって………目覚めのキス!?」
「うふふ♪ 正解です♪」
イタズラな笑みのリーシャさん。
目覚めのキスって…………それは新技なの?
まぁ、お兄ちゃんの別のところが目覚めそう…………。
そういえば、リーシャさんって―――――。
「リーシャさんって、お兄ちゃんのこと好き?」
「ええ、もちろん。イッセーのことは大好きですよ♪ 可愛いじゃないですか、エッチなところも年頃の男の子って感じで」
「それって弟みたいな?」
「そうですねぇ………。それ
「それ………も………? ということは――――――」
ボクの問いにリーシャさんは満面の笑顔で頷いた。
「一人の男性としても好きですよ。いつも一生懸命で、真っすぐで。誰かのために熱くなれる。そんなイッセーが私は好きです」
―――――っ。
そっか、リーシャさんもやっぱりお兄ちゃんのことを………。
ふむふむ、なるほど。
これは、これは――――――。
「メモしとかなきゃ」
「美羽ちゃん………なに書いてるの?」
「うふふ♪」
ハーレム計画は―――――まだまだ続くね!
[美羽 side out]
▽
[三人称 side]
「父上はなぜ魔王の服を?」
「唐突だねぇ。どうしてだい?」
ヴァルスの問いかけにアセムは笑みと共に聞き返した。
「父上がどのような服を着ようとも勝手だとは思います。………が、そのお姿は魔王シリウスの意思に反するかと」
「不満かい?」
「ええ、不満です。理由を示してもらわなければ納得できませんね」
「そうかい」
アセムは掌を見つめると、ぐっと握りしめる。
すると、手の甲にとある術式が浮かび上がった。
複雑怪奇な文字が並べられたその術式はアセムが組み上げたオリジナルの術式。
―――――『システム』の中にあった情報を元にアセムが組み上げたもの。
天界で『システム』の中を覗いたのは単に赤龍帝の籠手を模倣するためではない。
あれはあくまでついでだ。
本当の理由はアセムが己の体に刻んだ術式、これにある。
アセムは自嘲気味に笑むと一言。
「これは………僕の覚悟、かな?」
「覚悟ですか?」
「初めて彼と話したとき、彼には覚悟を見せてもらった。なら、僕も覚悟を決めないとダメでしょ。この戦いは僕が始めたものだ。ならば最後まで責任を持つさ。………ヴィーカ達は上手く配置してくれたのかな?」
「とりあえず、父上の術式を各所に配しています。あとは父上が発動させれば…………」
「そっかそっか。上手くいけば良いけど………どうなるかな?」
「父上………あなたはこの戦いに何を掛けているのです?」
「そんなの言わなくても分かっているだろうに。何を掛けているか………それは僕の知識、記憶、技術、経験、そして命。僕の持てる全てをこの戦いに掛けよう」
アセムは踵を返して歩き出す。
その瞳は目の前の戦いよりも、更に先を見据えていて―――――。
すると、彼はふと思い出したように言った。
「あ、そうそう。ロッキー・ザ・ファイナル、TSUTAYAに返しといてくれない?」
「嫌です。自分でしてください」
「ぶー」
「可愛くしてもダメです」
[三人称 side out]
気づけば350話か………