ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝   作:ヴァルナル

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15話 作戦開始

[木場 side]

 

「集まれる面子は全員揃ったな」

 

アザゼル先生は僕達を見渡してそう言った。

 

僕達『D×D』メンバーは再び召集され、今は冥界の魔王城にいる。

グレモリー眷属、シトリー眷属、バアル眷属、アガレス眷属、ヴァーリチーム、天界組であるデュリオさんとイリナ、堕天使組である刃狗チームとレイナさん、そして―――――イッセー君が不在の赤龍帝眷属。

 

サイラオーグ・バアルさんが口を開く。

 

「兵藤一誠はまだ?」

 

「ええ。イッセーが起き上がるにはまだ時間がかかるみたい」

 

「そうか………」

 

決戦の時となった今でもイッセー君は目覚める気配がない。

ここに来る前に顔は見ておいたんだけどね………声をかけても反応はなかった。

 

しかし、リアス前部長は凛とした表情で全員に告げた。

 

「心配ないわ。世界の危機にイッセーが立ち上がらないはずがないもの。彼は必ず来る。私達はそう信じているわ」

 

その言葉に僕達は強く頷いた。

 

僕達の反応にサイラオーグ・バアルさんは笑んだ。

 

「そうだな、ここ事態にあの男が立ち上がらないはずがない。おまえ達が信じるのなら、俺も信じて先に戦場に立とうではないか。…………ところで、リアス」

 

「なにかしら?」

 

「なぜ顔が赤いのだ? この場に来てから気になっていたのだが…………」

 

「…………」

 

その問いに黙るリアス前部長。

 

実は僕も気になっていた。

合流した時に気づいていたんだけど、なぜかリアス前部長とアリスさんの顔が赤くなっていて、完全に涙目だった。

 

何があったのか聞こうと思ったんだけど、なぜか聞いてはいけないような気がして…………。

 

イッセー君の家に住んでいる女性陣は理由をしっているみたいなんだけど、彼女達は苦笑するだけ。

 

うん、何となくわかった気がするから、この件は放置しよう。

僕の判断は間違っていないはず。

 

そんなことを考えているとアザゼル先生が話を続けた。

 

「分かっていることだが、あえて言わせてもらう。これからの戦いは宗教や種族、善神も悪神も関係ない、この世界に住まう全ての者が世界の命運をかけて挑むものだ。それぞれ守りたいものは違う。だが、全勢力が手を取り合わなければ、この危機を脱することは叶わない」

 

これまで関わりを持とうとしなかった者達、互いに敵対し合っていた者達が共通の敵を前に手を取る。

それぞれで思うところはあるだろうが、そうしなければ生き残れない。

 

「確認している者もいると思うが、冥界の一般市民の中には義勇軍として戦いに参戦しようとしている者もいる。その中には暴動に参加していた者もいてな、こんな時に不謹慎だが、面白い状況になってきているのさ」

 

義勇軍。

 

そうか、そんな動きも出ていたのか。

恐らく、先日のアセムの一件で自分達が何をすべきかを考えた、その結果なのだろう。

 

「戦う力はなくとも、後方支援くらいは出来るだろうとのことだ。正直、彼らがこうして立ち上がってくれたことは想定外であり、嬉しいことでもある」

 

そう言うとアザゼル先生は僕達を見渡して、

 

「いいか、絶対に勝つぞ。この戦いに敗北は許されない。力無き者達が立ち上がったんだ、力ある俺達は何がなんでも彼らを守りきる。こいつは絶対だ」

 

『はいっ!』

 

全員が力強く頷いた。

 

ヴァーリも強い決心をしたような瞳をしていて、どこか熱が入っている。

これから戦う強敵に心踊らせているのか、それとも―――――。

 

アザゼル先生は正面に置かれているテーブルに魔法陣を展開すると、空中に映像を投影した。

そこにはトライヘキサの襲撃を受けた場所の現在状況が映っていた。

 

「トライヘキサの襲撃を受けたグリゴリ、天界、北欧はとりあえず落ち着いている。修復も少しだけだが進んだ。グリゴリと天界に関してはアーシアの活躍もあって、ケガ人の治療も粗方済んでいる。良くやってくれた。助かったぞ、アーシア」

 

アザゼル先生はアーシアさんにお礼を言うと話を次に移した。

 

「この三日で各勢力との連携はある程度取れた。作戦会議も済んでいる。理不尽の塊みたいな奴らにどこまで通じるかは分からんが………」

 

そう言うと先生は指を二つ立てた。

 

「この作戦は大きく分けて攻撃と防御………つまり、アセムが陣取るあの世界に飛び込んで、奴らを叩くチームとこちらの世界へ入ってくる奴らの手駒を潰すチームに別れる」

 

「それを全勢力で行うと?」

 

「そうだ。例えば日本なら、日本神話勢力と各勢力から派遣される戦闘員が組む。といっても、一つの指揮系統で動く訳じゃない。ただ役割を分けるだけだ。実際にどう動くかは現場に任せることになるだろう。そして、おまえ達『D×D』メンバーはオフェンス。つまり、あの『門』を潜って敵を叩く側だ」

 

先生が用意されていたボードに記していく。

 

グレモリー眷属とシトリー眷属、赤龍帝眷属、天界組は日本近海に開かれている『門』から攻める。

そして、バアル眷属とアガレス眷属は冥界から、ヴァーリチームと刃狗チームは北欧に開かれている『門』から向こうの世界に突入する。

 

日本近海側に人員を多めに割いたのは最も一般の人間が住む空間に近い場所にあるからだろう。

 

「前に来てくれ」

 

チームの分担が出来たところでアザゼル先生が誰かに声をかける。

すると、ギャスパー君の隣から前に出てくる者がいた。

 

美しい吸血鬼の女性―――――ヴァレリーさんだ。

 

「堕天使のおじさまにお呼ばれされてしまったの。皆さん、よろしくね?」

 

「実は今回の作戦にはヴァレリーの協力が必要不可欠なんだ。色々と各勢力に協力してもらって、一時的に彼女を外に出しても問題ないようにした。制限時間付きだから、作戦はぶっつけ本番でやる」

 

その言葉にヴァーリは何かを得心したようで、

 

「聖杯を制御できる術を見つけたのか?」

 

「まぁ、似たようなもんだ。ちょいと聖杯に関しての隠し資料が吸血鬼の国で見つかってな。それを応用すれば聖杯で増殖している奴らを止められるかもしれない。で、それを見つけてくれたのがそっちの協力者なわけだ」

 

先生が顔をとある方向に向けた。

 

そちらを見るとフードを深く被った小柄な誰か。

フードを取り払うと金髪の吸血鬼―――――エルメンヒルデだった。

 

アリスさんが声をあげる。

 

「ああっ! クマさんパンツ!」

 

「どんな覚え方してるんですか! エルメンヒルデです!」

 

「今もクマさんなのかしら? おこちゃまパンツなのかしら? プークスクス」

 

「違いますし! 今はもう少し大人なデザイン…………って何を言わせるんですかぁぁぁぁぁッ!」

 

涙目で抗議するエルメンヒルデ。

純血の吸血鬼特有である血の気のない人形のような表情がみるみる真っ赤に、人間らしい表情に。

 

………登場早々、お気の毒に。

 

赤龍帝眷属と関わるとシリアスを壊されるという噂が『禍の団』ではあったみたいだけど、間違ってはいないよね。

純然たる事実だよね。

 

しかし、出会った当時と比べると彼女も随分と丸くなったと思う。

 

祖国が壊滅的被害を受けてから、彼女は世界中を駆け回り復興に必要なものをかき集めていると聞く。

物であったり、他国の協力であったり。

 

あれほど他国、他勢力との協力を否定していた彼女だったけど、今では形振り構わずといったところだろう。

それだけ、彼女が国を想う心が本物だということだ。

 

アリスさんがエルメンヒルデをからかう中、リーシャさんが言った。

 

「まぁまぁ、そのあたりで。アリスも昔はイチゴパンツでしたし」

 

「なに暴露してくれてるの!? というか、それって子供の頃の話でしょ!? あれはセーフよ、セーフ!」

 

「そういえば、十歳ぐらいの時に私の下着を―――――」

 

「やめてぇぇぇぇぇ! それ以上、掘り返すのやめてぇぇぇぇぇ! あの時の悲しみを思い出させないでぇぇぇぇ!」

 

頭を抱えて首を横に振るアリスさんだが………。

リーシャさん、あなたもシリアスを壊しに来るとは思いませんでしたよ。

というより、リーシャさんって実はイジメッ子なところがあります?

 

そんな空気の中でヴァレリーさんは懐から何かを取り出した。

それは紫色の十字架だった。

 

先生が言う。

 

「そいつは回収した神滅具の紫炎祭主による磔台をちょいといじって作った十字架だ。神滅具の十字架なわけだが…………そいつをヴァレリーの聖杯と同調させる」

 

紫炎のヴァルブルガが持っていた神滅具を十字架の形にした。

更にヴァレリーさんの聖杯と同調させる。

 

それがどのような効果を生み出すのか気になっていると、ヴァーリが先生に問うた。

 

「彼女の聖杯は不安定で、聖十字架は神具自体が所有者を選ぶという危険な代物だと聞く。それらを同調させては何が起こるかわからない。だが、隠し資料とやらから打開策が生まれたというんだな?」

 

「ヴァレリーの兄――――マリウスの研究資料に書かれていたことなんだが、聖杯を調べているときに一度危険な状況に陥りかけたことがあったそうだ。その時にツェペシュ派が秘宝として隠し持っていた聖なる釘の欠片を使って、その場面を乗り切ったそうだ。その時の術式も解析済みだ」

 

エルメンヒルデが続く。

 

「吸血鬼は一番敵対関係であったキリスト教会のことを古くよりよく調べております。あらゆる研究をしている中で、ツェペシュ側は独自のルートで聖釘の欠片を手に入れていたのでしょう。恐らく、王族のみに伝承された、どの歴史、文献にも残っていない代物です。まぁ、それも資料と一緒に回収して、三大勢力にお渡ししましたが」

 

先生が笑う。

 

「聖釘の欠片をヴァチカンに渡したら大喜びしてたぜ。ただでさえ、聖遺物は過去の戦争で諸々消失していたからな。欠片とはいえ、良くあったもんだ。………案外、他の勢力も隠し持っているのかもな」

 

などと言いつつ、先生は肩をすくめた。

 

ヴァレリーさんと紫色の十字架を交互に見ながら、リアス前部長が言う。

 

「聖遺物と同調させて聖杯を止められることが分かっている。ならば、相手が持っている聖杯にもその技術を使えばいい、ということね?」

 

「そういうことだ。既にヴァレリーに持たせた聖十字架は調整済みだ。その状態でヴァレリーと聖十字架の力が上手く同調すれば相手が持っている聖杯自体を止められるだろう。そうすれば、聖杯による量産型の邪龍の増殖は終わる。だが、問題はある」

 

「肝心の聖杯を誰が持っているのか。そして、アセムが言っていたシステムですね? 彼が言うには分裂したトライヘキサを一体使うとか。それを止められるか………」

 

ソーナ前会長が眼鏡を人差し指で抑えながら冷静に言った。

 

アザゼル先生も頷く。

 

「聖杯を持っているのはアポプスかアジ・ダハーカだろう。手を組んだとはいえ、奴らが容易に切り札を渡すとは思えないからな。聖杯の場所を特定でき次第、ヴァレリーがその場所へ接近する必要がある。極めて危険な任務だが………」

 

先生の言葉に反応したのはギャスパー君だった。

 

「ヴァレリーを連れていく役目は僕が受け持ちます。僕はヴァレリーの聖杯を取り戻して、全てを終わらせたい!」

 

力強い一言を言ってくれた。

これでこそ、グレモリー男子って感じだね。

 

ギャスパー君の返事に笑むアザゼル先生。

教え子の成長を喜ぶように彼の頭に手を置いた。

 

先生は話を続ける。

 

「奴が言うシステムとやらは聖杯の情報をもとに構築したものだろうと俺は考えている。聖杯を止めることに成功した場合、そちらも止めることが出来ると思う。トライヘキサが動力になっているとはいえ、システムの根幹そのものを潰してしまえば問題はないはずだが………」

 

「そちらは実質、賭けになりますね」

 

「残念ながらな。ただ、あいての生産ラインは確実に減らせる。聖杯さえ止めてしまえば、相手の増殖数は抑えられるだろう。更にこちらは対トライヘキサ用の術式も完成している。………以前、モーリスがぶった斬ってくれたおかげで一から見直す羽目になったが、恐ろしく強固な術式が仕上がった。恐らく、かなりの効力を発揮するはずだ」

 

「俺のおかげだな、えっへん」

 

「あなたという人は…………私がどれだけ苦労したと思ってるんですかァ!」

 

胸を張るモーリスさんと涙目で怒るロスヴァイセさん。

 

………あれからかなり苦労したんだろうね。

お疲れさまです、ロスヴァイセさん。

 

ロスヴァイセさんは一度咳払いをする。

 

「今回の作戦で分裂したトライヘキサ七体全部に対して、私達が構築した専用の束縛結界を同時に使います。制限時間付きですが、ほぼ確実にあの怪物を止められるでしょう。そうすれば、アザゼル先生の言うようにあの疑似異世界にあるシステムも止められるはずです。ただ、トライヘキサの一体はアセムが言うシステムに組み込まれているようなので、こちらがどのようになっているか……。……それに……」

 

言いよどむロスヴァイセさんに先生が続く。

 

「結界は一度きりの使い捨てだ。再度使うには違う術式で一から練り直すしかない。今回の結界でトライヘキサに術の耐性が出来るだろうからな。トライヘキサを止めている間、アセムが何かしら仕掛けてくるだろう。つまり―――――」

 

「トライヘキサを止めてからが勝負。僅かな時間で異世界の神を倒す必要があるということか」

 

ヴァーリの言葉にアザゼル先生は頷いた。

 

「向こうの世界に乗り込んだ後、トライヘキサを止めて、邪龍共を蹴散らしつつ、聖杯を止める。そして、本丸を落とす。こういう流れだ。言うのは簡単だが、実際に行うとなると難易度はかなり高い」

 

「だろうな。しかし、仮に作戦が順調に進んだ後はどうするつもりだ? トライヘキサはあくまで動けなくなっているだけだろう? あれを倒しきるのは神々でも骨が折れると思うが」

 

ヴァーリが言うように一度はトライヘキサを束縛し、動きを止めることは出来るだろう。

しかし、それは制限時間付きだ。

再び活動を再開させる前に対処する必要がある。

 

「今、アジュカ・ベルゼブブとその眷属達があの『門』を解析している。上手くいけばあの『門』を閉じてトライヘキサを疑似異世界とやらに閉じ込めることも出来るだろう。………もし、それが上手くいかなかった場合は………一応は考えてある。まぁ、何とかして成功させるつもりさ」

 

少し気になる言い方だけど、アザゼル先生には何か考えがあるのだろうか?

 

怪訝に思うなかで、幾瀬さんが神妙な面持ちでインカムに手をつけて飛んできた情報を聞いていた。

 

そして、こう述べる。

 

「情報が来ました。相手が動き出したようです」

 

『―――――っ!』

 

その情報を受けて、アザゼル先生はテーブルに映像を映し出す。

 

映された『門』の向こうで何かがゆっくり蠢いているのが分かる。

無数の邪龍と赤龍帝の複製体、超獣鬼級の魔獣の数々。

 

ゆっくりではあるが、確実にこちらに歩みを進めている………!

ついに敵が動き出したのか!

 

アザゼル先生が舌打ちしながら言う。

 

「ちっ、動き出したか………。出来れば、奴らが本格的に動く前に片付けたかったんだがな。行くぞ、おまえ達。俺も部下達への指示を終えたら、すぐに突入する。―――――死ぬな。必ず勝って、生きて日常に戻るんだ。いいな?」

 

『了解!』

 

「よし。―――――全員、行ってくれ!」

 

先生の声に僕達はそれぞれの持ち場へと向かう。

 

 

―――――世界の命運をかけた戦いが始まる!

 

 

[木場 side out]

 

 

 




木場「ついに最終決戦だ。この戦いは何がなんでも負けられないね」

ゼノヴィア「ああ。イッセーはまだ目覚めないようだが………。イッセーの分まで私が相手を斬ろうじゃないか!」

イリナ「そうよそうよ! 私もダーリンの分まで頑張っちゃうんだから!」

モーリス「おまえら、その意気だ! 限界を超えた姿を見せつけてやれ! ゼノヴィア! おまえはもうパワープレイで良い! おまえの新しい力を見せてみろ!」

ゼノヴィア「任せてくれ! 新しい私のお披露目といこうじゃないか!」

イリナ「でも、大丈夫かしら………? ゼノヴィアのあれって、更に脳き――――」



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