[木場 side]
聖魔剣の代わりに創造した聖剣を逆手で握ると、足元から聖なるオーラが広がっていった。
目を閉じ、意識を内側へと向ける。
五感の全て断ち、ただ一点に精神の全てを集中させた。
どこまでも黒い世界が広がるなか、遠くに光が見えた。
目映い輝きを放つ紅蓮。
紅………それは僕が仕える主の色。
一生を捧げると誓った、ただ一人の主の色。
そして、この色は僕が追い付きたいと思っている男の色でもある。
優しく、強く、誇り高い。
何度転ぼうとも立ち上がる。
僕にとって、紅蓮というのは不滅の色だ。
僕は目を開くと、強くその言葉を発した。
「禁手第二階層――――『
広がっていた聖なるオーラが紅蓮の輝きを放ち、何かを形作っていく。
―――――現れるのはドラゴンの兜を持つ紅色の甲冑騎士達。
紅の甲冑騎士は僕の後ろに整列すると、腰に帯びていた剣を鞘から抜き放つと胸の前で構えた。
それと同時に僕の服装も変化し、紅を基調にしたコート姿となる。
見た目的には騎士王状態の紅色バージョンといったところだろう。
ロスヴァイセさんが目を開き、驚いたように言う。
「これが木場君の新たなイレギュラー………。二つ目の禁手の進化形態………」
そう、これが僕の修行の成果の一つ。
聖剣創造の禁手―――――聖覇の龍騎士団を更に上の次元に進化させた姿。
モーリスさんの無茶苦茶とも言える課題だったけど、何とかこうして形にできた。
僕はリアス前部長に視線を移すと背中越しに言った。
「この姿は僕の新たな決意の表れです。もう見失ったりしません。もう囚われたりしません。僕はリアス・グレモリーの剣として戦い―――――あなたを守ります」
それだけ言って、僕は甲冑騎士と共に飛び出した。
僕の言葉は下僕として当然の発言。
何を今さらと思われるかもしれない。
でも、これだけは伝えたかった。
死ぬはずだった僕に手を差し伸べてくれた。
こんな僕を見守ってくれた。
一度はあなたの想いを裏切ってしまった僕を受け入れてくれた。
………どれだけの恩があることか。
だからこそ、僕はこの命、あなたのために使いたい。
今も、これからも、ずっと。
ただ一つ………僕の我が儘が許されるなら、いつかは言葉にしたいと思うことがある。
僕にとって、あなたは主であり、姉のような―――――。
「まぁ、少し照れ臭くはあるんだけど」
そんなことを呟きながら、僕は邪龍へ肉薄する。
懐に入り―――――一閃。
邪龍は上半身と下半身で両断され、血を噴き出しながら海へ沈む。
僕が従えていた紅の甲冑騎士達もそれぞれ、邪龍へ斬りかかっていた。
量産型邪龍をただ一撃のもとに斬り伏せていく。
今までの甲冑騎士は僕の速さは再現できていたけど、テクニックまでは反映できていなかった。
その欠点をこの紅の甲冑騎士は克服している。
つまり、彼らは僕の完全なるコピーということ。
だけど、これは紅の甲冑騎士の力の一つに過ぎない。
「っ! イッセー君の複製が来ましたね………!」
ロスヴァイセさんが『門』の方を見ながら呟いた。
見ると、真っ黒な邪龍の群れの中に赤色が混じり始めている。
ついに赤龍帝の複製体が送り込まれてきたんだ。
あれはイッセー君の力を丸ごとコピーしている。
戦闘技術は真似できていないようだけど、攻撃力、防御力、スピードは読み取った時のイッセー君をそのまま再現している。
並の者はおろか、上級悪魔や最上級悪魔であっても苦戦は免れない。
あれを軽々と倒せてしまうのは………。
「不良品なんざ、瞬間で終いだ」
納刀した状態から繰り出される超神速の抜刀術。
モーリスさんの剣が複製体を両断し、そこから粉微塵にまで斬り刻まれる。
うん、あれをそんな風に倒してしまうのはあなたぐらいですよ。
イッセー君の複製体ですよ?
魔王クラスのパワーを持っているんですよ?
いったい、どれだけ規格外なんですか、あなたは。
紅の甲冑騎士達も複製体に立ち向かうが、流石にイッセー君の複製。
甲冑騎士を一撃で破壊してしまう。
過去の甲冑騎士なら、ここで終わっていただろう。
―――――ここからが紅の甲冑騎士団の真骨頂。
甲冑騎士を破壊した複製体に変化が訪れた。
複製体の各所から火が、氷が、雷が噴き出し、複製体を苦しめていく。
鎧にヒビが入り、崩れ、ついに塵と化していった。
そして、その場に紅に輝く粒子が集まり、甲冑騎士を復元。
甲冑騎士は新たな敵を定めて、剣を振るっていく。
これが紅の甲冑騎士の力の二つ目。
紅の甲冑騎士は破壊した者をあらゆる属性を以て苦しめる。
破壊された甲冑騎士はすぐに復活し、戦場へと戻っていく―――――先程よりも強化された状態で。
複数の甲冑騎士が複製体を取り囲むと、高速の動きで相手を翻弄。
コンビネーションで複製体の鎧に傷をつけ、最終的には四方からの同時の突きで串刺しにしてしまった。
その光景を美羽さんが呟いた。
「動きが違う………。もしかして、学習しているの?」
「そう。紅の甲冑騎士は強化された状態で復活する。その際、自分を倒した相手の攻撃力やスピードを学習し、最適な戦法で倒しにかかる。つまり、破壊されればされた分だけ強くなっていくんだよ」
「………転んでもただで転ばない。転んだらすぐに立ち上がる。木場君の能力って、お兄ちゃんの影響が本当に強いよね」
自分でもそう思うよ、本当。
でも、これは僕が願った力でもある。
白雷を纏い、純白の髪となったアリスさんが半目で言った。
「木場君の力もチートになりつつあるのね………。モーリスの影響かしら?」
それはどうだろう………。
あの人の力って、底が見えないからね。
新しい領域に至った僕とゼノヴィアとイリナの三人で同時にかかって、ようやく勝負になるレベルだから………。
僕はアリスさんに聞いてみた。
「あの修行空間でモーリスさんも更に上の領域に行こうとしてたんだけど………。いったい、どこを目指しているのかな?」
「そんなこと私に聞かれても………。あのおっさん、下手すれば無限に強くなるんじゃない? 笑いながら」
「なにそれ、怖い!」
アリスさんの言葉に美羽さんが顔を真っ青にして叫んだ。
本当に怖いよ!
実際、レベルアップした後の僕達三人と笑いながら斬りあってたよ!
僕は一度の斬戟で数万の敵を両断していくモーリスさんに訊いた。
「あの………本当にどこまで強くなるつもりですか?」
「あぁ? んなもん、死ぬまで限界を極め続けるに決まってるだろ。今日の自分は昨日の自分よりも強く、明日の自分は今日の自分よりも強く。そんで、今の自分は一分前、一秒前の自分よりも強くあれ。修行中にも言っただろうが」
確かに言っていた。
毎日の修行の中で、モーリスさんは常にその言葉を僕達に言い聞かせていた。
自分の果てを勝手に決めてはいけない。
果てが分かるのは死ぬ時。
その時が来るまで、人は永遠に極め続けられる。
問題はやるかやらないか、と。
モーリスさんはニッと笑みを浮かべて言った。
「祐斗、おまえ達はまだまだ強くなる。どこまでもな」
▽
モーリスさんの地獄の特訓の成果を遺憾無く発揮していく僕とゼノヴィアとイリナ。
加えて、リーシャさんの指導を受けたオカ研女子部員もあり、こちらに雪崩れ込んでくる邪龍の短時間に多くを殲滅した。
目指す『門』までもうすぐ。
皆が気合いを入れた――――――その時だった。
「全員、『門』から離れろォォォォォォォォォォッ!!」
何かを感じ取ったモーリスさんがこの戦場全域を揺らすほどの大声で叫んだ。
「皆さん、戦域から離脱してください! 急いで!」
あのリーシャさんまでもが、血相を変えて皆にたいひするように促した。
何事かと驚く者もいたけど、その声の迫力に体が勝手に反応し、『門』から大きく離れていく。
次の瞬間―――――『門』の向こうが煌めき、大出力の光の奔流がこちら目掛けて飛んできた!
それを視認した者達は全員が慌てて、その場から散っていく。
直径百メートルはゆうに越える光の奔流が僕達の真横を通過していき―――――神々が張り巡らせていた結界と衝突、紙を引き裂くように破壊していく!
今の攻撃は………!
「アセムが演出で放っていたものね………。あの結界を一撃で貫くなんて………!」
リアス前部長も、他のメンバーも冷や汗を流している。
僕も同じだ。
心臓の鼓動が嫌なほど早くなっている………!
冷たい汗が止まらない………!
もし、モーリスさん達が叫んでいなければ、僕達はあの光に呑み込まれ、この世に一片の肉片も残さずに消え去っていただろう。
現にあの光に呑み込まれていた者は邪龍も含め、姿を消している。
妖怪部隊のリーダー格らしき妖怪が部下に訊いている。
「各陣の被害は?」
「に、日本本土への被害はありません。で、ですが、い、今の攻撃で多くの味方を失ったとのこと………。報告によれば三割近い損失かと………!」
「ッ!?」
三割だと………!?
今の攻撃にそれだけの味方を失ったと言うのか………!
アリスさんが言う。
「あれほどの超広範囲への攻撃。しかも、手駒である量産型邪龍を巻き込んでも構わない、か。こちらが減っても、向こうは手駒を次から次へと増やすことが出来る。嫌な攻撃ね………。戦力差があるからこそ、出来る攻撃だわ」
ワルキュリアさんがアリスさんに問う。
「相手はこちらを徹底的に潰すつもりでしょうか?」
「全面戦争とか言ってたからね。今まではおちゃらけた敵だったけど、今度は本気みたいね………」
その言葉に全員が息を呑んだ。
圧倒的な力で多くの邪龍を凪ぎ払っていたゼノヴィアでさえも冷や汗を流し、手に力が入っている。
ソーナ前会長が言う。
「しかし、あれほどの攻撃を今の今までしなかったことが気になります。あの攻撃にはチャージする時間が必要なのでは?」
確かに先程の攻撃をもう一度、撃ち込んでくるような気配は感じられない。
彼女が言うように再度、撃つまでに時間がかかるのか、それとも、こちらにそう思わせるための罠か。
考えたところで答えは出ない。
それに、考える時間もあまりない。
リーシャさんが目を細める。
「どうやら、今度の相手は難易度が上がるみたいですね」
そう言われ、『門』の方に視線を移す僕達。
そこから現れたのは―――――百メートル級の超巨大魔獣。
かつて、冥界を破壊して回った超獣鬼と豪獣鬼クラスの怪物。
それらが数百、数千と群れを成して、こちらの世界に踏み入ってきた。
怪物の傍らには量産型邪龍や赤龍帝の複製体。
………先程より、相手のレベルが格段に上がっている!
アリスさんが言う。
「不味いわね………。あれを倒すことは出来ると思うけど、あまり時間をかけてもいられないわ」
「ええ。作戦は向こうの世界に乗り込んで、ようやくスタートラインに立てる。こんなところで足止めを食うわけには………。でも、どうやって………?」
リアス前部長も頷き、思考を張り巡らせていく。
美羽さんやアリスさんの神姫化は出来るだけ温存しておきたいため、ここで使わせるわけにはいかない。
リアス前部長の新必殺技………あれなら、広範囲の敵を滅ぼすことも出来るだろうが、あれは溜めの時間が必要な上、次から次へとやってくる敵には向いていない技。
となると、別の手段が必要になる。
リーシャさんが言う。
「敵を倒しつつ、強行突破。時間も限られています。やはり、この手しかないでしょう。アリス、極短時間の神姫化で消耗を抑えつつ、ここを突破することは出来ますか?」
「そうね………。私と美羽ちゃん………いや、モーリスやリーシャ、修行空間でパワーアップした皆の力を一点に集めれば、あの魔獣の壁に大穴を開けれるはず。そうすれば、私達以外のオフェンス部隊も突入できるはず………」
「決まりですね、それでは―――――」
リーシャさんが頷いた、その時だった。
小猫ちゃんが猫耳をピクピクさせて、何かに強く反応していた。
彼女の目は神々が展開している結界の向こう、日本本土へと向けられている。
リアス前部長が怪訝な表情で問う。
「小猫? どうかしたの?」
「強い………かなり強い気を感じます。この感覚は間違いありません。―――――錬環勁気功です」
『―――――っ!』
錬環勁気功………!
それは………それを使えるのは………!
小猫ちゃんの報告にこの場の誰もが笑みを浮かべた。
そうだ、彼だ。
彼が来たんだ。
―――――この危機的な情況で駆けつけてくれるのは彼しかいない!
「ミルキィィィィィィィィ・ゴッド・ファイナル・フラァァァァァァシュゥゥゥゥッッ!!!」
…………え?
[木場 side out]
シリアスブレイクゥゥゥゥゥゥッ!
この展開を予想できた者はいるだろうか!