ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝   作:ヴァルナル

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20話 混乱する戦場

[三人称 side]

 

「ようやく、それなりの数がこっちに入ってきたねぇ」

 

アセムは円卓に移した映像を見ながらほくそ笑む。

その視線の先には各所に展開している『門』から自身が構築した世界に入り込んでくる戦士達。

自分達の世界を守らんがために、立ち上がった者達だ。

 

その中には『D×D』―――――美羽達の姿も映されている。

 

「勇者君が見当たらないけど………まだ目が覚めないのかな?」

 

ヴァルスが頷く。

 

「そのようですね。他の『門』も確認しましたが、彼の姿はありません」

 

「なんだよ、いねーのかよ。つまんねぇーな」

 

「ラズル、彼の相手は父上のはず。つまるもつまらないもないでしょう? というより、進化した今の彼にあなたが敵うとは思いません」

 

「勝てる勝てないってのは関係ねーよ。俺はただ闘いを楽しめたらそれで良いんだよ。おまえも同じだろうに。で? 向こうの狙いは聖杯なんだろう? どーするんだよ?」

 

ラズルの問いにアセムは頷く。

 

「僕を倒すにしろ、トライヘキサを倒すにしろ、聖杯は止めないといけないだろうね。まぁ、そう簡単にはやらせないさ。彼らには更なる理不尽を乗り越えて貰わないと困る。この先を乗りきって貰うためにもね」

 

アセムの視線はベルへと向けられる。

彼女の傍らには赤龍帝の複製体。

 

「まだまだビックリイベントはある。彼らがどう対応するか楽しみだ」

 

 

それはそうと…………

 

 

「あ、ビックリイベントといえば、さっきの凄かったよね! あの猫耳のマッチョマン! どんだけチートなんだろうね! アハハハ!」

 

「ええ! あれほどの戦士がこの世界にいたとは驚きです! ブフッ」

 

「あれはマジでスゲェよ! ぜひとも手合わせ願いたいもんだ! つーか、マジで笑った! 面白すぎるだろ!」

 

アセムの言葉でミルたんの話題に入る三人。

先程、映像で見た雄姿に三人は心踊らせていた。

 

三人がテンションを上げていると、部屋に入ってくる者がいた。

『武器庫』ヴィーカだ。

 

「お父様、ロッキー・ザ・ファイナルはTSUTAYAに返しておきました。あと、お土産のプリンです」

 

「わーい、ありがとー」

 

[三人称 side out]

 

 

 

 

[木場 side]

 

色々、思考が追い付かないイベントがあったけど、僕達『D×D』はどうにか『門』を潜ることが出来た。

 

次元の狭間みたいに万華鏡を覗いたような断面を持つ『門』。

ここを抜けた先にあるのはアセムが構築した疑似異世界だ。

 

飛ぶこと二分弱。

僕達は『門』の向こう側へと到着した。

 

広がっていたのは―――――血のように赤い空と焼け野原のように黒く染まった大地。

世界の終末を迎えた後のような毒々しい光景だった。

 

向こうの方に視線をやると、アセムが待ち構えていると思われる巨大な建造物があり、その周囲には白いブロックを幾つも組み合わせたような物体がぎっしりと建ち並んでいる。

 

こうして見るとRPGなんかでよくある魔王の城のようにも見える。

 

リアス前部長が言う。

 

「これだけ広大な世界を創造しただなんて………。これが夢だと言われた方がまだ現実味があるわね」

 

「リアス、驚いている場合ではありません。私達には役目があるのですから」

 

「分かっているわ、ソーナ。………あと少し、向こうで足止めを食らっていたら危なかったわね」

 

リアス前部長の視線の先には巨大な怪物―――――トライヘキサの分裂体の一つが佇んでおり、こちらへゆっくりと進軍していた。

傍らには邪龍や複製体はもちろん、超巨大魔獣やベルが生み出した魔神までもがいる。

 

そして―――――。

 

「アポプス………。どうやら、当りみたいね」

 

レイナさんがトライヘキサの真上に佇む者に目を向けた。

褐色の肌をした祭服の青年―――――人間態のアポプスだ。

その手には聖杯が浮かんでいるのが見える。

どうやら、こちらの読みは当たったようだ。

 

既にこのエリアでは連合軍のオフェンス部隊が交戦に入っており、轟音が轟いている。

中には神クラスもいて、赤龍帝の複製体や魔神、トライヘキサを相手取っていた。

 

レイヴェルさんが耳にはめたインカムから得た情報を僕達にくれる。

 

「ヴァーリチーム、刃狗チームの皆さまも無事にこちらの世界に入ることが出来たみたいですわ。各神話の神々も多数が交戦に入っているとのこと。今のところ、戦況は拮抗しているようですわ」

 

神々が多く参戦している状況で拮抗か………。

あまり良いとは言えない。

 

「分裂したトライヘキサ、七体全ての位置を特定できました。準備が完了次第、術式を発動させます」

 

そう言って、ロスヴァイセさんは手元に数百に及ぶ魔法陣を展開して、結界発動の準備に取りかかる。

 

その間、ロスヴァイセさんは動けないので、僕達は術式の要である彼女を守りながらの戦闘となる。

 

「ここからが正念場。皆さん、ペース配分に気を付けてくださいね?」

 

「とりあえず、うちの大将が来ないと相手の大将も出てくるまいよ。それまでに―――――」

 

金属音が響く。

刹那―――――敵が空間ごと両断された。

 

やったのは言うまでもなく、モーリスさん。

そこにリーシャさんの狙撃が加わり、多くの邪龍が地へ落ちていく。

 

「出来るだけ、潰しておくか」

 

 

 

 

蒼炎を纏うゼノヴィアと黄金の輝きを纏うイリナが邪龍をごっそり撃ち落としていく。

この戦いが始まってから、彼女達の活躍は凄まじいものがあった。

 

僕も彼女達に負けじと紅の甲冑騎士で複数の邪龍と複製体に対応していた。

 

「先輩達が取りこぼした邪龍は私が焼きます!」

 

前衛の僕達を潜り抜けた邪龍は白音モードの小猫ちゃんが応じてくれた。

無数の火車を放って、邪龍を消し去っていく。

 

「あら、炎は私の十八番ですわ!」

 

更にレイヴェルさんが炎の翼を羽ばたかせて、強烈な業火をお見舞いしていた。

友人であり、ライバルでもある小猫ちゃんとレイヴェルさんの連携は見事なものだった。

 

小猫ちゃんが右手に火車を、レイヴェルさんが左手に火炎を展開して、二人はそれを合わせる。

 

そして―――――

 

「「はっ!」」

 

フェニックスを型どった業火が放たれる!

火車の炎を纏っているからだろう、放たれたフェニックスは邪龍を大規模で、跡形もなく消滅させていく。

 

うーん、これはリーシャさんの指導の賜物なのだろうか、凄い威力だ!

 

後輩の活躍に喜ぶ僕にリーシャが笑む。

 

「合わせ技って燃えますよね♪」

 

「リーシャさんって、結構お茶目ですよね」

 

初めて会った時はあまり感じなかったけど、イッセー君の眷属になってからは、こういう面が出てきているような気がする。

 

すると、会話を聞いていたアリスさんが息を覇気ながら言った。

 

「木場君、リーシャは昔からこんな感じよ。他にもイジメっ子なところがあるの」

 

「あれはアリス限定ですよ?」

 

「私限定なの!?」

 

「うふふ♪」

 

「そんな笑顔で返されても困るんだけど!? ちょっと、リーシャ!? もう! これが終わったら問い詰めるからね!」

 

そう言いながら、アリスさんは突貫してしまう。

白雷を纏った彼女が槍を振るうと、彼女の周囲にいた邪龍は丸焦げにされていた。

 

神姫化を使わないのは後のことを考えているからだろう。

美羽さんも今は神姫化せずに力を振るっていて、魔法のフルバーストを撃ち込んでいた。

 

その美羽さんの隣には右手に槍、左手に剣というスタイルで戦うディルムッドの姿があって、

 

「ねぇねは私が守る!」

 

「ディルちゃんはボクが守るよ!」

 

義姉妹となった二人は戦闘時のコンビネーションも凄まじいものがあるね。

息ピッタリじゃないか。

 

あれ…………?

 

今、ディルムッドが美羽さんのこと、ねぇね(・・・)って言ったような………。

他のメンバーもそれに何となく気づいたのか、視線を二人に向けていて………。

 

すると、美羽さんはブイサインをこちらに送りながら言った。

 

「色々あって、ボクのことは『ねぇね』って呼んでもらうことになったよ!」

 

ディルムッドは顔を赤くしながら、

 

「だ、だって、お姉ちゃんって言うの………恥ずかしい………」

 

「「「…………」」」

 

うん、イッセー君も言ってたけど、彼女の羞恥の基準が分からない。

とりあえず、美羽さんは『ねぇね』なんだね。

 

その流れでいくと、イッセー君は『にぃに』になると思うんだけど………。

きっと、狂喜乱舞して吐血するに違いない。

シスコンが悪化するのが目に見えるよ。

 

その一方で、闇の獣と化したギャスパー君がヴァレリーさんを抱えながら、近寄る邪龍を殴り倒していた。

 

《ヴァレリーに触れるなっ!》

 

「うふふ、ギャスパー、カッコいいわ」

 

言葉遣いまで荒くなっているバロール状態のギャスパー君。

あの状態の彼を怒らせると怖いんだけど………僕から見るとイッセー君に似ていて、頼もしく感じてしまう。

 

『燃え尽きろッッ!』

 

匙君も黒い邪炎で邪龍を複数焼き尽くす。

 

「ハッ!」

 

ソーナ元会長は得意の水の魔力で巨大なドラゴンを形成し、邪龍を丸のみにしている。

元々、テクニック方面に秀でていたソーナ元会長も最近はパワー方面も伸びていて、一度に複数の邪龍を倒していた。

 

ソーナ元会長に襲いかかる邪龍は真羅元副会長がフォローに回り、対応している。

他のシトリーメンバーも互いにサポート、フォローをしながら息の合った連携を見せてくれていた。

 

「朱乃!」

 

「はい、朱雀姉さま!」

 

今度は朱乃さんと従姉妹の朱雀さん。

五大宗家の人員もオフェンス部隊として、こちらの世界に乗り込んでいる。

その中心となるのが朱雀さんだ。

 

朱乃さんは堕天使の翼を、朱雀さんは式神である巨大な朱色の鳥に乗っている。

 

朱雀さんが大出力の炎を生み出す。

それが形を成して、巨大な炎の鳥となった。

 

ここに来るまでに横目で見ていたけど、あれが姫島家が司る霊獣『朱雀』。

当主になる者が代々、名と共に継承してきたというものだ。

 

次に朱乃さんが雷光龍を生み出した………が、今までの雷光龍とは規模が違う。

長い三つの首を持つ黄金のドラゴンが激しい光と共に朱乃さんの背後に降臨したんだ。

 

あれが朱乃さんの修行の成果!

 

二人がそれぞれ作り出した霊獣『朱雀』と三つ首の雷光龍が数多くの邪龍を焼いていく!

従姉妹の共演は壮絶なもので、合わさった業火と雷光は広範囲に広がっていった。

 

「皆さま、凄まじいですね。私など到底、並んで戦えるレベルではありません」

 

普段と口調の変わらないワルキュリアさん。

彼女は基本的にサポートで、劣勢になっているメンバーを後方から支援している。

 

邪龍に追い込まれている妖怪を見つけたワルキュリアさんはスカートの中からクナイを取りだし、邪龍目掛けて鋭く射出する。

放たれたクナイは邪龍の腕に突き刺さるが、これで倒せるほど相手は甘くない。

 

しかし、よく見るとクナイの持ち手には細い鉄線が結ばれていて、それを辿るとワルキュリアさんの手元にたどり着いた。

 

「―――――雷よ、焼け」

 

ワルキュリアさんが呪文を唱える。

 

すると―――――手元から発した雷が鉄線を辿り、クナイまで走っていく!

雷はクナイに達すると、邪龍を内側から焼いていった!

雷で感電し、弱ったところを妖怪達が倒していく。

 

他にも毒針を投げて邪龍の目を潰したり、ワイヤーを広げて敵の手足を絡め取ったりと、攻撃力はないがサポートという面でワルキュリアさんは活躍を見せてくれた。

 

僕は彼女の戦い方に恐ろしさを感じてしまっていた。

相手の弱点を狙った攻撃、最小の労力で最大の成果を出す戦い。

………イッセー君や他のメンバーのように派手さはないが、彼らとは違う方向で脅威だ。

感情の昂りもなく、表情を一切変えない。

坦々と弱点を突く戦法。

レーティグゲームではあまり相手にしたくない類いだと感じてしまう。

 

「皆、大盤振る舞いだねぇ。なら、俺も超本気モードになろうかな!」

 

―――――『D×D』のリーダー、デュリオさんが前に出る。

デュリオさんは十枚の翼を羽ばたかせて、一気に光力を高めていった!

 

「禁手化!」

 

その一声と共にオーラが大きく弾け、空一面が一時的に晴れ渡った!

デュリオさんの背にはセラフと同じ数の十二枚の黄金の翼。

頭の光輪も四重になっている。

 

デュリオさんが両手を広げて、前に出した。

すると、彼の前方にいる邪龍、複製体が百単位でシャボン玉のような透明な球体に覆われていった。

 

次の瞬間、シャボン玉の内側で激しい業火の渦、裂くような猛烈な突風、全てを凍りつかせる冷気、神の怒りのような苛烈な雷、ありとあらゆる自然現象が次々と発生していった!

 

デュリオさんはシャボン玉の数を更に増やしていき、一帯をシャボン玉で埋め尽くしていった。

その全てに邪龍と複製体が閉じ込められている。

そこでも同様のことが起こり、激しい攻撃が繰り広げられていた。

 

デュリオさんが首を鳴らしながら言う。

 

「これが煌天雷獄の禁手、『聖天虹使(フラジェッロ・ディ・コロリ・)の必罰(デル・アルコバレーノ)終末の綺羅星(スペランツァ・ディ・ブリスコラ)』。そのシャボン玉は戦いを止めさせるあのシャボン玉とは真逆でね。あらゆる天罰を受けてもらうためのシャボン玉だっ! 長ったらしい名前でゴメンね! どうも使っていたら亜種っぽくなっちゃったんだよね!」

 

亜種の禁手!

上位神滅具である煌天雷獄は、その気になれば国一つの天候を変えることも出来ると耳にしたが………この光景を見ていると十分に可能だと思えてしまう!

 

「流石は私達のリーダーね。でも、私だって負けてられないわ」

 

そう言うリアス前部長の視線の先にはベルが作り出した百メートルを越える超巨大魔獣の群れ。

魔獣の攻撃は、その一撃で味方の部隊を蹴散らしている。

あの豪腕で振るわれる拳や吐き出される炎は一撃必殺の威力を持っていた。

 

魔獣の相手は自分がしようと、美羽さんが神姫化をしようとするが、リアス前部長がそれを止めた。

 

「今の私ならあれを――――。祐斗、いけるわね?」

 

「もちろんです」

 

笑みを浮かべる主に僕も笑みで返した。

 

リアス前部長が手元に滅びの魔力を溜めていく。

大きさで言えば、バスケットボールサイズだが………見るだけで寒気がする程の濃密さを持っている。

近くにいるだけで滅ぼされるような、そんな気にさえなってしまう。

 

リアス前部長の準備が完了したところで、僕は紅の甲冑騎士を一度消して、騎士王の姿になる。

黒いコート姿になり、聖と魔の二つの力を身に纏った。

 

右手にはいつもの日本刀の形状をした聖魔剣と、左手に短剣の形状をした聖魔剣を二つ。

 

僕はリアス前部長と頷き合うと、短剣型の聖魔剣を地に突き刺し、騎士王のスピードで飛び出していった。

今の僕が出せる最高スピードで戦場を駆け抜け、行く手を阻むものは一太刀のもとに斬り伏せる。

 

そして、ある程度進んだところで、もう一方の短剣型の聖魔剣を投擲した。

短剣型の聖魔剣は一直線に空中を突き抜けると、超巨大魔獣の一体、その頭に突き刺さった。

 

血すら出ていないところを見ると、あれの皮はかなり分厚いらしい。

相応の攻撃をしなければ、傷つけることも出来ないか………。

 

だけど、今のは倒すための攻撃じゃないから気にしてない。

あれは―――――飛ばすための攻撃なのだから。

 

いつの間にか、短剣の柄の上に紅黒い塊が浮かんでいた。

あれはリアス前部長が溜めていた滅びの魔力だ。

 

それを視認した時、リアス前部長が指を鳴らす。

すると、滅びの球体の中で魔力の乱回転が起こり、爆発的に膨れ上がった!

周囲にいた魔獣も、邪龍も、複製体をも滅びの渦の中に巻き込んでいく!

 

滅びの魔力が引き起こした突風で確認しにくいが、よく見ると膨れ上がった滅びの球体の中にいる敵が半分、更に半分と切断されてから、肉体を消されていた。

 

あれは………。

 

リアス前部長が言う。

 

「リーシャの助言よ。お兄さまのように絶大な滅びを有しているのならともかく、今の私ではまだまだ限界がある。それなら、大きな塊を一度に消そうとするよりも、小さくしてから消した方が効率が良い。だから、私は滅びの魔力に少し手を加えてみたの。――――あれに取り込まれた物は刃と化した滅びの魔力よって斬り刻まれながら、消滅していく。―――――『滅魔改・滅殺の紅魔星(ルイン・イクステンション・スター)』。成長しているのは祐斗達だけじゃないってことよ」

 

しかし、とリアス前部長は続ける。

 

「射出速度が遅いのは相変わらず。爆発的に膨れ上がる変わりに、消滅の魔星のように吸引力もないし、下手すると味方を巻き込んでしまう。これは祐斗との連携が必須ね。一応、形にはなったけれど、まだまだ改良の余地ありだわ」

 

 

 

 

種族を超えた同盟軍の力により、トライヘキサを囲っていた相手の手勢はかなりの数を減らしていた。

アポプスが聖杯を使い、邪龍や複製体を次々に出現させていくが、こちらもその対応には慣れてきた。

 

苦しい戦いだけど、確実にトライヘキサへと近づいていく僕達。

 

もう少しで聖杯を止められる。

聖杯を止めてしまえば、相手の生産ラインは確実に一つは潰せるんだ。

少なくともこの場所は乗り切れるだろう。

そうすれば、この世界の中枢、もしくは他の戦場で戦っている味方と合流することが出来る。

 

あと一歩、そう思った。

 

《ほう、それは面白そうだ》

 

トライヘキサの頭部に立つ人間態のアポプスが笑みを浮かべた。

奴の耳元には魔法陣が展開されていることから、アセムと通信をしているのだろう。

 

………何か企んでいるのか?

 

アポプスの笑みに気づいた者達が身構える。

その次の瞬間―――――。

 

世界を黒が染めた。

地も空も全てが黒。

まるで墨汁を浴びせたように黒に侵食されていく。

 

「これは………!」

 

「ええ、あの時の感覚と同じですわ………! でも、あれは………!」

 

美羽さんとレイヴェルさんが何かに気づいたようで、顔色を変えていた。

その表情は焦りだった。

 

美羽さんが叫ぶ。

 

「アリスさん! 今すぐ、神姫化して! 他の皆もこの黒に触れないように! 急いで!」

 

必死の表情にアリスさんも黄金の輝きを纏い、疑似神格を発動させる。

僕達もこの黒に捕まらないようにするが………。

 

「うわっ!」

 

「な、なにこれ!?」

 

前衛のゼノヴィアとイリナが悲鳴をあげた。

何事かとそちらを見ると、二人が黒く染まった大地から伸びた触手のようなものに捕らえられている!

助けに向かおうとするが、黒い触手が僕の方にも迫ってくる!

 

「くっ………!」

 

僕は追ってくる触手を切り払うが、縦横無尽に動く無数の触手に足を捕まれてしまった!

他の『D×D』メンバーやオフェンス部隊も同様で、モーリスさんやリーシャさんですら捕まえられている!

 

捕まっていないのは神姫化した美羽さんとアリスさんだけで………。

 

触手から逃れようともがく僕達。

しかし………少しすると触手は呆気なく引き下がり、僕達を手放していった。

 

その不可解な行動にこの場にいる誰もが怪訝に思った。

 

「なんだったんだ、今のは…………? 攻撃じゃないのか?」

 

誰かがそう呟いた。

 

触手が生えてきた大地は未だ黒いまま。

だが、次の瞬間―――――。

 

黒く染まった大地が波立ち、ボコボコと泡を噴き始めた。

黒い液体が立ち上ぼり、人一人を包めるくらいの大きさになる。

やがて、黒い部分だけが消え去り、内側から何かが姿を現した。

 

内側から出てきたそれは僕を仰天させた。

 

なぜなら―――――。

 

「僕………?」

 

そこに立っていたのは紛れもない僕、木場祐斗だったからだ。

僕が二人いる状況だ。

 

辺りを見渡すとリアス前部長や朱乃さん、ゼノヴィア、イリナといったメンバーも二人いる。

モーリスさんやリーシャさん、デュリオさん、他のオフェンス部隊の人達まで。

つまり、あの黒い触手に捕まれた者は全員が二人いるんだ。

 

これはまさか―――――。

 

美羽さんがとある方向に視線を向けた。

そこに佇んでいるのは中学生くらいの背丈の少女。

真っ白な肌に足元まである真っ白な髪。

少女の傍らには赤龍帝の複製体。

 

美羽さんは少女を睨みながら言う。

 

「ベル………! そうか、そういうことなんだね。君の複製能力を赤龍帝の力で引き上げた。だから、直接触れなくても複製できるようになった。しかも、これだけの広範囲で………!」

 

少女―――――ベルは小さく頷くと、表情を変えないまま言った。

 

「うん。ベル達も戦う、よ?」

 

ベルがこちらに手を向ける。

それに応じて、僕達の複製体が一斉に斬りかかってきた。

 

戦いは本物対偽物という構図へと移行する―――――。

 

 

[木場 side out]

 

 

 

 

爽やかな風が吹き抜けていく。

草木の香りが俺の鼻腔を擽り、俺の意識を呼び起こした。

 

「ここは………」

 

俺が立っていたのはどこまでも緑広がる草原の真ん中だった。

上は真っ青な晴天、向こうには大きな山が幾つも連なっている。

 

初めて来た場所だ。

だけど、どこか懐かしさを感じる。

 

この感覚は何なんだろうな?

 

俺は何かに導かれるように歩み始めた。

辺りを見渡すこともせず、ただ真っ直ぐにその方向へ進む。

 

迷いなんてない。

この道であっていると確信がある。

 

暫く進んだところで、俺は立ち止まった。

目の前には小高い丘がある。

 

その丘の頂上には一人の人物が座っていて、遠くの景色を眺めていた。

そいつの背中には見覚えがある。

俺はこいつの背中をずっと追い続けていた。

 

そいつはゆっくりと立ち上がると、こちらを振り向き―――――。

 

「よう、イッセー」

 

「おう、ライト」

 

 




リアス新技は螺旋手裏剣の滅びの魔力バージョン、木場の新しい聖魔剣は飛雷神の術です(笑)

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