父さん達に見送られた後、俺とティアはアセムが展開している『
『門』を通過した俺達を待っていたのは血のように赤い空と何もない荒野だけの世界。
そして、トライヘキサ達と激戦を繰り広げている連合軍の人達。
「思っていたより、良いタイミングで来られたようだな」
「全くだ」
ティアの言葉に俺は頷いた。
到着したと思ったら、トライヘキサ達の一斉砲撃直前だったもんな。
慌ててEXAの砲撃で阻止したけど………マジで間一髪だった。
で、俺の砲撃をまともに受けたトライヘキサはというと、
「ちっ、あれでほとんど無傷か。化け物め」
ティアが煙をあげるトライヘキサを見て舌打ちする。
直撃した部位の肉が弾けて、煙が出ているが、ダメージを与えられたというほどじゃないな。
トライヘキサからすれば、せいぜい掠り傷といったところか。
流石はグレートレッド級の怪物、最強の魔物。
あれを倒しきるのは骨が折れそうだ。
ティアが言う。
「私がエスコート出来るのはここまでだ。これ以上、あの怪物を進ませるわけにはいかんからな」
「そうだな。リアス達のこと、頼むよ」
「ここは任せて、先に行くといい。だが、おまえを待つ者………おまえが行かなければならない場所はこの世界の中心。向こうに見える塔だ。あそこに向かうにはここを突破する必要があるが、どうする?」
それなんだよな…………。
正面にはトライヘキサがいるし、迂回しようにも辺り一面に邪龍やら、俺の複製体やら、ベルが生み出した魔物がいるし。
おまけに良く見ると、連合軍の人達の複製までいるし。
一つずつ倒すことも出来るが、それだと時間がかかる。
それにここでの消耗は出来るだけ避けたい。
すると、
『私に任せてください』
ここを突破する方法を考えていると、耳にはめたインカムに通信が入る。
声の主はリーシャだ。
俺の横を猛スピードで通過し、前に出るリーシャ。
リーシャの周囲を飛び交うのは計二十八に及ぶライフルビットとシールドビット。
全展開された遠隔装備は彼女の正面に配されると、その狙いを次々に定めていく。
赤く染まったリーシャの瞳が、更に赤く爛々と輝き―――――。
「さぁ、そこを退いてもらいますよッ!」
全ての銃口が火を噴いた!
放たれた火炎の弾丸が、氷の弾丸が、狙った獲物を貫いていく!
弾丸に貫かれた敵は燃やされるか、氷付けにされ、墜ちていく。
絶え間なく放たれ続けるリーシャの狙撃は最早、弾幕とも言える。
近づこうとする敵は一つの例外もなく、急所を狙い撃たれるため、俺達に接近することが出来ないでいた。
リーシャ先導の元、前に出ているとベルが生み出した百メートル級の巨人が立ちふさがった。
いくらリーシャでも、あれを一撃で仕留めるのは相性的に難しいだろう。
そう考えた俺は砲撃の体勢となった、瞬間―――――目の前の巨人は左右に分かれ、轟音と共に崩れ去る。
やったのは言うまでもなく………。
『随分遅かったじゃねぇか! ゆっくり眠れたか?』
インカムを通して聞こえるモーリスのおっさんの声。
「待たせて悪かったな! おかげさまだよ!」
『そうかい。イッセー、えらく声に張りがあるが、何か良いことでもあったのか?』
「まぁな。そう言うおっさんこそ、こんな時なのに元気な声してるな」
『そりゃあ、こうして大将が参戦したんだ。下っ端は大将がいるからこそ、真に力を発揮できるもんさ』
「………元騎士団長が下っ端とか、良く言うよ」
『フハハハー! 今の俺に役職なんてないんでな! 責任は全部、主様に任せるぜ!』
「おぃぃぃぃぃぃ! やっぱり、アリスのサボり癖はあんたのせいかぁぁぁぁぁぁ!」
俺のツッコミを無視してどんどん駆けていくおっさん!
おっさんが通った場所には細切れにされた邪龍の山!
その中には百メートル、二百メートル級の巨人もいて………相変わらず、無茶苦茶だよ!
ある程度、進んだところで、モーリスのおっさんとリーシャが立ち止まった。
おっさんは一度、剣を納刀して腰を沈め、リーシャは自身の正面に各種ビットを配置する。
配置されたビットは先程とは違い、規則正しく並べられていて、例えるならビットの壁といったところだ。
ビットが並べられた瞬間、リーシャとサリィ、フィーナの瞳に魔術的紋様が浮かび上がり―――――。
「「「
極太の光が放たれた!
光は正面だけでなく、正面斜め右と斜め左、合わせて三方に向けられていて、射線上の敵をまとめて一掃していく!
モーリスのおっさんは神速を越えた超神速の抜刀術を繰り出し、黒い剣撃を飛ばす!
黒い剣撃は空間をも両断し、ありとあらゆるものを斬り裂いていった!
砲撃を撃ち終わり、リーシャが叫んだ。
「行きなさい、イッセー! 決着を着けてきなさい!」
「他のことは俺達に任せな! おまえを待っている奴がいるんだろ!」
その声に頷き、俺はドラゴンの翼を羽ばたかせ、二人が切り開いてくれた道を突き進む。
同時にリーシャとおっさんの荒業に心底驚嘆していた。
空と大地を埋め尽くしていた敵がごっそり消えてやがる………。
数えるだけで馬鹿らしくなるけど、数万、数十万かそれ以上は屠ったはずだ。
というより、おっさんはともかく、リーシャの技はなんだ?
あんな技を使えるなんて聞いたことがない。
雰囲気的にはリアスの滅びと似ていた………が、滅びの魔力とは違う感じだった。
すると、イグニスが教えてくれる。
『どうやら、サリィちゃんとフィーナちゃん、二人の相反する属性を活かした技のようね』
サリィとフィーナの属性?
サリィが火で、フィーナが水か。
確かに火と水は相反する属性だけど………。
『相反する力は互いを打ち消し合う。リーシャちゃんはその打ち消し合う力そのものを放ったのよ。そして、この力は世界の理そのものと言っても良い。つまり、この技を防ぐことは出来ない』
なるほど………防ぐことが出来ないという点ではリアスの必殺技と似ているな。
俺が知らない間にリーシャはそんなおっかない技を編み出していたのかよ!
あんなの食らったらお陀仏じゃん!
つーか、今のを見ただけで、そこまで分かるのか!?
『だって、お姉さんは最強だもーん。ブイブイ』
そうですね!
そうでしたよ!
ただ、今の砲撃でリーシャ達が操るビットの動きが少し鈍くなってるな。
あまり連発は出来ない技みたいだ。
と、ここで美羽とアリスが合流してきた。
二人とも神姫化していて、美羽はベルと対峙、アリスは連合軍全体のサポートに回っているようだった。
美羽とアリスが嬉しそうに笑顔を浮かべた。
「おはよう、お兄ちゃん。ようやく来てくれたね」
「待たせ過ぎよ、この寝坊助さん」
「ゴメンゴメン。遅れた分の働きはするよ」
苦笑しながら謝ってみる。
すると、アリスは頬を赤くして言ってきた。
「それは当然でしょ? 許してほしかったら………あ、後でギュッとしてよ」
「あっ、アリスさん、ズルい。ボクもギュッてしてほしいな」
うん、やっぱり、アリスとニーナって姉妹だよね!
お願い事が同じじゃねーか!
可愛いな、ちくしょう!
今すぐにでも二人をギュッとしたい!
でも、状況が状況だから我慢します!
俺が悶えていると、近くで邪龍を貫いていたディルムッドがこちらを向く。
ディルムッドはアリスよりも顔を赤くして、モジモジしながら………。
「あっ………え、と………お、おはよう………にぃに」
「なっ…………にっ…………!?」
に、にぃに………だと!?
『お兄ちゃん』ではなく、『にぃに』だと!?
な、なんだ、この内から沸き上がる感覚は!?
そんなこと………そんなこと言われたらぁぁぁぁぁぁ!
「ゴブァッ! ブヘッ!」
俺は血を吐き出した。
全身の、穴という穴から血を噴き出した。
『相棒ぉぉぉぉぉぉぉ!? シスコンで死ぬ気かぁぁぁぁぁぁぁ!?』
「ちょ、ちょっと、イッセー!? 今回、血の量多くない!?」
ドライグとアリスのツッコミが戦場に響く!
俺は全身から血を噴き出しながら叫んだ!
「しょうがないじゃん! だって『にぃに』だよ!? 『にぃに』なんだよ!? フワァァァァァァッ!」
『アリスゥゥゥゥ! 今すぐに相棒を止めろぉぉぉぉぉぉぉ! このままだと、発狂して死ぬぞぉぉぉぉぉぉぉ!』
「このバカ! このシスコン! こんなタイミングでシスコン発動しないでよ!」
「ディルちゃん、可愛いぃぃぃぃぃぃ!」
「『人の話を聞けぇぇぇぇぇぇ!』」
「ブハッ!」
炸裂する二人のツッコミ&白雷のアリスパンチ!
アリスパンチで兜が砕けた!
頭に衝撃を受けて、ようやく冷静になれた俺。
くっ………これがディルちゃん効果というやつか。
なんて恐ろしいんだ!
危うく萌え死ぬところだったぜ!
よし、決めたぞ。
この戦いが終わったらディルちゃんのアルバムも作る!
日々の生活をシャッターにおさめようではないか!
美羽が苦笑しながら言う。
「まぁ、お兄ちゃんの気持ちは分かるかな。ディルちゃん、可愛いもん」
だよね!
ですよね!
素直になったせいなのか、出会った時の面影ないけど発狂するくらいに可愛いよね!
アリスが深くため息を吐いた。
「はぁ………。もう、シスコンでも何でも良いから、早く行って終わらせてきてよ。私だって、色々と我慢してるんだから………。約束は覚えてるわね?」
「もちろん。―――――一緒に家に帰る。約束だ」
▽
美羽とアリスと分かれた後、俺は更に突き進んだ。
すると―――――横合いからドス黒いオーラが伸びてきたっ!
危険を察知した俺は、空中で回転して避けたけど………ドラゴンの翼の一部が闇に触れてしまう。
途端に翼の端が溶けていく!
この闇は触れた相手を消し去るのか!
仕掛けてきたのは―――――。
「おまえがアポプスか」
《始めましてだな、現赤龍帝。そうだ、私がアポプスだ》
空に浮かぶ祭服を着た褐色の美男子で、手には聖杯を握っている。
見た目は人間だが、感じるオーラはかなり強大だ。
なるほど、こいつがあのクロウ・クルワッハと並び称される邪龍筆頭格の一体ってわけか。
「ここでおまえの相手をしている暇はない。そこを退いてもらおうか」
《あの異世界の神と契約を結ぶ時に貴公には手を出すなと言われたのだが………ふふふ、やはり私もドラゴンというわけだ。強者との戦いに心を踊らせてしまっている》
「おまえもバトルマニアってか………。ドラゴンってやつはどこまでも戦いを望むんだな」
《貴公もそれは同じではないか? 自らを昂らせてくれる相手に心を奪われる。そのような経験がないわけではあるまい?》
それを言われるとね………。
確かにサイラオーグさんやヴァーリなんかと拳を交えるのは楽しいと思える自分がいる。
どこまでも真っ直ぐに己の魂をぶつけ合うような戦いに心を踊らせてしまう。
そこは認める。
「あんた、邪龍の割にはクールだな」
俺が出会った邪龍はグレンデルを筆頭に頭のネジが外れた奴らが多かった。
クロウ・クルワッハみたいにドラゴン然とした奴もいるけど、目の前の邪龍はそれとも違う。
《私も戦闘は何よりも好みだ。だが、グレンデルやニーズヘッグのような粗暴な輩と一緒にされるのは少々残念だ》
なるほど………邪龍の中でも真に強い奴ってのはまだまともなのかね?
まぁ、トライヘキサ操って各勢力にケンカ売ってる時点でまともじゃないけど。
俺はアポプスに言う。
「どちらにせよ、俺はこの先に進まないといけない。あまり消耗したくないんでな」
《貴公はあの神と戦うつもりなのだろう? あれに勝てると本気で思っているのか? あの神はそこらの神とは次元が違う。私ですら、戦闘は避けたいと思えるほどにな》
「邪龍筆頭格にそこまで言わせるのか………。だが、ここで止まるわけにはいかないんだよ。向こうも俺を待っているんでな」
《どうやら、貴公の眼に私は写っていないようだ。ならば―――――》
アポプスのオーラが膨れ上がる。
奴の足元から闇が広がり、奴の体を覆っていく。
闇は一気に広がっていき、周囲一帯ごと、俺を闇の世界に閉じ込めていく!
《私と戦わざるを得ない状況にするだけだ》
「そこまでして、俺と戦いたいのか!」
《言っただろう? 私も戦いを好むと。相手が強者ならば、尚更だ》
奴の闇が完全に俺を包み込もうとする。
その時だった―――――。
闇の中、絶大なまでの聖なるオーラが、光の柱のように立ち昇った。
光の柱がアポプスの方に倒れていく。
アポプスはすんでのところで、回避するが…………。
俺はその光を生み出した者を見て驚いた。
輪後光を輝かせ、聖なる槍を肩に担ぐ男。
かつて、英雄を名乗り、俺と死闘を繰り広げた男だ。
「ここで、おまえが出てくるのか―――――曹操」
そう、その男とは曹操だった。
既に禁手となっている曹操は球体の一つに足を乗せて空に浮かんでいる。
曹操は俺の近くに現れると言ってきた。
「行け。ここは俺が………いや、俺達が受け持とう」
「俺………達?」
曹操の言葉に疑問を浮かべる俺。
その直後、曹操を囲むように霧が出現する。
肌を撫でるような生暖かいこの霧は………。
霧が止み、曹操の後ろに現れたのは複数の男女。
それはほとんどが見覚えのある顔で、
「ヘラクレス、ジャンヌ、ゲオルク!? あっ、あの時の影使い! そ、それに…………誰だっけ?」
「ペルセウスだ!」
「知らん!」
「だろうな! 俺とおまえは初対面だしな!」
ペルセウスと名乗った茶髪の男。
うん、初対面なら知らない。
なんで、そんなドヤ顔でいるんだよ?
「英雄派のメンバーがこうして揃うとは………」
俺がそう呟くとゲオルクがメガネを直しながら言う。
「ジークは木場祐斗に倒されてしまったがね。レオナルドもまだあの時の後遺症が残っているので、ここにはいないが、とりあえずは英雄派の幹部と一部の構成員が揃ったと言っておこう」
そう言えば魔獣創造の所有者だった男の子の姿がない。
あの時の………シャルバが滅茶苦茶やったせいで、かなりのダメージを負ったようだったしな。
流石に戦えないか。
で、それとは全く関係ないことで気になることがあるんだけど………。
「なんで、ヘラクレスは作業服? なんで、ジャンヌはエプロン姿?」
ヘラクレスはそっぽを向いて一言。
「うっせ」
ジャンヌはウインクをしながら、
「可愛いでしょ?」
確かに可愛いけど………。
曹操が説明してくれる。
「ヘラクレスは冥界の幼稚園で用務員の仕事をしている。ジャンヌはヴァチカンの戦士育成機関のコック見習いをしている。詳しくは省かせてもらうが、二人には仕事を抜けて、そのまま来てもらった」
幼稚園の用務員!?
ヘラクレスが!?
コック見習い!?
ジャンヌが!?
つーか、仕事抜けてきたのかよ!?
良いの、それ!?
ヘラクレスが舌打ちして言う。
「ちっ、それを言うなや………劉備」
「態々教えるなんて、リーダーったら意地悪だわ。ね、孫権」
「なんで、国を代えた!? 曹操だ! というか、その弄り方やめろ! 君達、まさかと思うが…………」
「「ディルムッドに教えてもらった」」
「やっぱりか! あの唐揚げ娘め!」
英雄派ってこんなにほのぼのしてたかな?
こいつらも中々に崩れてきてるな、キャラが。
あと、曹操のツッコミスキルも上がってきたな。
やはり、こいつにもツッコミの才能があるらしい。
そんな三人のやり取りにゲオルクは額に手を当てて深くため息を吐いた。
「変われば変わるものだな…………」
確かに変わったよね。
英雄派がこんなギャグチームになるなんて、誰が想像できただろう。
曹操は大きく咳払いする。
「と、とにかくだ。奴の相手は俺達が引き受ける。君は先に進むと良い。君を待つ者がいるのだろう?」
「まぁな。でも、良いのか? あの邪龍、滅茶苦茶強いぜ?」
すると、曹操はフッと笑みを浮かべ、アポプスに聖槍の切っ先を向けた。
「元々、俺達は世界の神仏にケンカを売っていた身。これくらい何とかして見せるさ。それに、君をこの先に届けることが未来に繋がるのなら、未来への道を確保するくらいのことはするさ。英雄のなり損ないでもそれぐらいは出来る」
英雄のなり損ない…………か。
ふと、曹操のオーラに目をやると、以前とは比べ物にならないほど濃密なオーラを纏っていた。
ヴァーリの言っていた通りだ。
こいつは、次にやりあう時には前よりも追い込まれるかもしれないな。
俺は曹操に背を向けるとただ一言だけ残していった。
「死ぬなよ?」
「ふふっ、君にリベンジするまでは死ねないな」
俺達は互いに笑みを浮かべると、それぞれの方向に飛び出していった。