「我は魔の王にして絶対無比の存在なりき……。万物の長たるは我以外にはなし。神に作られしデク人形共よ、まだそれがわからぬのか。かつておまえ達が神と崇めし者は、我が永劫の闇に葬り去った。愚かなる者よ、そなたらに我を崇めるほか生きる道はないのだ。我が名はアセム。万物の王にして天地を束ねる者。さあ来るがよい。我が名をそなたらの骸に永遠に刻みこんでやろう」
「おぃぃぃぃぃぃ!? おまえ、完全にドラクエやってただろ!? それ、ラスボスの台詞じゃねーか!」
「よく分かったね。Ⅶだよ」
「聞いてねーし! つーか、知ってるし!」
「いやぁ、一度、言ってみたかったんだよねぇ、この台詞。アッハッハッハッハッ」
「腹立つ、こいつ腹立つ。ねぇ、とりあえず殴らせてくんない? 一発だけで良いから殴らせてくんない? お願い、三百円あげるから!」
「やーだよ」
やっぱり、こいつ超腹立つ。
殴りたい。
もう世界の命運とか関係なしに個人的に殴りたい。
なんで、いきなりシリアス壊してくるの?
良い感じの再会だったのに、ここでシリアス壊すか、普通…………って、こいつにとってはこれが普通なのか。
俺は深くため息を吐くと、アセムが身に付けているものに視線を向けた。
闇色の服。
控えめな装飾でシンプルなデザインだけど、禍々しさと強い畏怖を感じる。
アスト・アーデ歴代魔王の戦闘服であり、シリウスも戦う時は身に付けていた。
俺と戦った時も。
アセムは俺が考えていることを見透かしたように笑んだ。
「色々と懐かしいでしょ? この服も、この場所も」
「そうだな。懐かしすぎて、逆に違和感があるけどな」
「まぁ、そんなこと言わないでよ。結構、作り込んでるんだよ? この場所を作る時に一番、手間がかかったし~」
「確かに。よくもまぁ、ここまで精巧に作り上げたもんだ」
「ここは君が歩んできた道のりの中で、最も記憶に残る場所の一つだろうからね。君とシリウス君が決着をつけた場所だし」
そう、この場所はどこからどう見ても俺とシリウスが最後に拳を交えた場所。
石造りの壁や床。
広大な空間に幾つも並び立つ極太の柱。
空間の最奥にある祭壇。
全てが再現されている。
あの時はアスト・アーデの未来をかけて戦った。
結果的にはシリウスの計算通りに事が運び、人と魔族が和平を結んだが………。
「アセム。おまえ、魔王にでもなるつもりか? その服を着ることの意味を理解していないわけでもないだろう?」
俺の問いにアセムは苦笑する。
「その質問、ヴァルス達からもされたよ。この服は僕の覚悟だ。最後の魔王はシリウス君じゃない。その役目は僕が引き受ける」
「あいつは美羽を魔王にしたくなかった。過去の因縁、積み重なってきた業を全て引き受けるために、魔王という存在を自分で最後にしようとした。それを理解してのことなんだな?」
「そうさ」
簡素にそう返してくるアセム。
シリウスの覚悟も全て理解した上でそれを纏っているということか………。
出会った時のような愉快犯的な雰囲気を残しつつも、言葉に重みがある。
瞳の奥で何かが静かに燃えている。
変わらないようで以前とはまるで違う。
俺はアセムに訊いた。
「何がおまえを動かしているんだ? おまえの目的はこの世界を壊すことじゃない。それは分かってる。おまえはただ、この世界に変化を求めている。これ以上ないくらいに強引なやり方でな」
俺の問いを聞いたアセムは逆に訊いてきた。
「前に僕が言ったことを覚えているかな?」
「どれのことだよ? 心当たりが多すぎて絞り込めねぇ」
「君が倒れる直前に僕が話していたことだよ。まぁ、あの時はトライヘキサの復活に遮られてしまったけどね」
そこまで言われて俺は思い出した。
そういや、トライヘキサの復活でそれどころじゃなかったんだった。
まぁ、その直後に俺は倒れちゃったんだけど。
あの時、確かアセムは…………。
「………俺達がいるこの世界とアスト・アーデ。異なる世界は既に二つ存在している、ってところだったか」
記憶から探りだしてきた言葉にアセムは頷いた。
「そう。君達の世界………『コードD』とでも名付けておこう。『D×D』たるグレートレッドが次元を守護しているからね。そして、アスト・アーデ。存在そのものが全く異なる世界は二つある。君達は今まで、アスト・アーデにしか注目していなかったようだけど。君達は気付かなかったのかい? 疑問に思ったりはしなかったのかい? 可能性は一つじゃない。それこそ無限に存在する」
「………っ。おいおい、まさかと思うが、それって………!」
ようやくそこへと行き着いた俺の思考。
思い返せば、確かにアセムの言う通りだ。
可能性なんて無限にある。
それなのに俺達はなぜ、その可能性を考えてこなかった?
あり得ないと思っていた?
それとも、アスト・アーデという一つの異世界に頭を持っていかれていた?
様々な思考が駆け巡る中、アセムは意味深な笑みで俺に告げた。
「―――――異なる世界は他にも存在するのさ。僕の見立てでは最低でも五つの世界が存在している。この世界とアスト・アーデも含めた数だけどね」
「なっ………!?」
予想を遥かに越えてきたアセムの言葉は俺の頭の中を停止させるには十分な威力を持っていた。
異なる世界が………五つだと!?
俺達の世界とアスト・アーデを含めた数ということは、それ以外に違う世界が三つもあるということになる。
「そんなことが………いや、おまえの言う通りか。だけど、五つって多くない? 思ってたより多いんだけど?」
「フフフ、驚いているね。五つというのは僕が観測している最低の数。他にも異なる世界が存在する可能性は大いにある」
マジかよ…………。
異世界って、そんなに存在するものなの?
まぁ、小学校くらいの時とか「俺達地球人がいるんだから、宇宙人は存在する」的な話で盛り上がったこともあったけど。
宇宙は広いどころの話じゃないな。
次元は広いって話になってくるぞ、これ。
アセムは人差し指を立てて、追加情報をくれた。
「ちなみに、今は亡きリゼ爺が異世界の一つと通信しちゃったんだよね」
「はぁっ!?」
更なる衝撃的な事実に驚く俺!
アセムは続ける。
「その世界の名前は『
「よりにもよって、ヤバそうな奴らの方かよ………」
「そう。リゼ爺は向こうに色々と情報を送っていてねぇ。この世界のことだけでなく、僕から得たアスト・アーデの情報も送っているのさ」
「つまり、その邪神サイドの連中は俺達の世界だけでなく、アスト・アーデのことも知ってしまった、ということか」
「しかも、次元の渦を含め、転移に関する情報を送っているんだよ。『来られるものなら、来てみな、バーカ』って挑発も加えてね」
あんのクソジジイ、どこまでも余計なことを…………。
死んだ後でも悪意の塊であり続ける。
マジであらゆるものを巻き込んで戦争を起こすつもりなのか………ッ!
それが例え異世界でも…………!
アセムが息を吐いて言う。
「僕が気づいた時にはもう遅くてねぇ。いやはや、リゼ爺も中々にやってくれる。僕は彼の事を三流と称したけど、ここまで来ると逆に一流を与えたくなるよ。一流の馬鹿」
「おまえが言っていたのはそういうことか。時間がないってのは、つまり…………」
「そうさ。彼らはいずれ、この世界とアスト・アーデ、二つの世界に接触してくる。悪意を持ってね。僕の計算が正しければ、早ければ十数年後には来るんじゃないかな? やれやれ、本当に余計なことをしてくれたものだよ。おかげで、僕の予定は大幅に狂った」
十数年………人間でも短く感じてしまう時間だな。
俺がここまでデカくなるのもあっという間だったし。
人間でそれなら、超常の存在からは一瞬だ。
その一瞬を過ぎた後に待つのは異なる世界間での争い。
そこで俺はあることに気づいた。
「なるほど………そうか、そういうことか。おまえが三日という猶予を俺達に与えた理由、そして、こんな大規模な世界構築をした理由は―――――」
俺がそこまで言うとアセムは頷いた。
「流石は勇者くんだ。察しが良い。この戦いはいずれ来るその時に備えての予行演習なのさ。次元を越えて行われる世界間の戦争のね。他にも色々と意味はあるんだけど」
アセムは祭壇に設けられている階段を降りながら、説明し始める。
「守りだけでは勝てない。じゃあ、攻めはどうするか。当然、次元を越えて相手の陣地に入り込む必要がある。いずれ敵が来ることが分かっている中、短時間でどれだけの対抗策、対抗戦力を用意できるか。どれだけ各勢力間での連携がとれるか。この戦いはその練習に過ぎないのさ。本番はもっと規模が大きくなるだろう。だからさ――――」
アセムは俺の前に立つと、背中に強い寒気が走る程の目で言った。
「―――――君達にはこの程度の理不尽、乗り越えて貰わないと困るんだよ」
「…………ッッ!」
一瞬だけだと言うのに、まだ余韻が残ってる。
これがアセムの殺気なのか………?
今でのようなお遊びな雰囲気とはまるで別物じゃないか…………。
そういや、ここに来る前にアポプスが言ってたな、アセムは次元が違うって。
そりゃ、こんな奴を知ったら誰でもそう思ってしまうよ。
少し前なら、完全にビビってたレベルだ。
でもな…………。
「あれ? 思ってたよりビビらないね。かなり強目に殺気を放ったのに。大抵の相手なら失神するか、下手すると命を落とすレベルなのに」
「殺気だけで相手を殺せるとか、滅茶苦茶だな。だけど、ここは退けないな。退くわけにはいかないんだよ」
「なぜだい?」
「簡単だ。俺はおまえを止めに来た。ここに来るまでに色々と託されてきたんだよ。だからさ、ここでビビって逃げる訳にはいかねぇんだ」
俺はライトに皆を、未来を託された。
家族に、仲間に、ライバルにここまでの道を切り開いてもらった。
俺を慕い、俺が慕う人達が俺に想ってくれるから、俺は今、ここにいる。
目を閉じると皆の顔が浮かんでくる。
どこからか、声も聞こえてきて………。
その時、俺の内側に火が灯った。
虹色に輝く火は大きくなり、体から溢れ出る。
内側から膨らむ虹色の力に耐えられなくなったのか、纏っていた鎧の全身にビビが入り、砕けていく。
砕けた鎧の欠片が宙に消えていき、アセムの前には生身の俺が現れる。
「―――――変革者の力。その瞳の輝き、そのオーラ。フフフ、感じるよ。君の中にはいくつもの光が煌々と輝いているのがね。それこそが君が得た進化した姿というわけだね」
虹色の輝きを纏う俺を見てアセムが笑みを浮かべてそう言った。
その声音はリゼヴィムとは違い、どこか楽しんでいるような声だった。
虹のオーラは強く、熱く燃え盛り、赤い長羽織を揺らしていく。
アセムが俺が羽織っているものを見て、少し驚いたような表情を浮かべた。
「まさか、その格好で来てくれていたとは思わなかった」
「だろうな。前のやつはもう無くなってるしな。こいつは母さんが作ってくれたのさ」
「君は良いお母さんを持ったみたいだね」
「まぁな。だけど、母さんだけじゃない。父さんの、美羽の、アリスの、皆の想いがこいつには籠められているんだ。言っておくぜ、アセム。俺はおまえを止めるぞ」
「フフフ………良いね。勇者が魔王に向かってくるこの状況。僕が想定していた以上だ」
アセムの体を様々な色が混ざったような闇色のオーラが覆う。
薄く、放つ波動も小さいが、プレッシャーは桁違いに上がっている。
俺達は互いに一歩を踏み出すと、更に一歩、もう一歩と距離を詰めていく。
手を伸ばしてちょうど届く距離で俺達は歩みを止める。
「アセム、おまえ、俺の質問にまだ完全に答えていないよな?」
「あれ? まだ答えていないことがあったかな?」
「惚けんな。何がおまえを動かしているのか、おまえがこの戦いの先に何を見ているのか。答えてもらうぞ」
「勇者くん、質問が増えてるよ?」
「細かいこと気にするんじゃねーよ」
「細かくないと思うけどなぁー。まぁ、良いけど。どうせ、答える気ないし。どうしても知りたければ、拳で聞いてみなよ。君はずっと、そうしてきたじゃないか」
「おいおい、俺が力付くで物事解決してきたみたいなこと言うなよ」
「違うのかい?」
「半分正解で半分外れだ」
不敵に笑む俺達。
互いの視線が交錯した瞬間―――――二人の拳は衝突した。
▽
グゥォォォォン、と空間が軋む音が鳴り響いている。
その次に空を切る音、その次に何かが弾ける音と、音がズレて聞こえてくる。
その理由はただ一つ。
俺達の攻防に世界が追い付いていないからだ。
「らぁっ!」
繰り出した右のストレートは周囲の空間を破壊、巻き込みながらアセムヘと突き進む。
アセムは俺の拳を掌で反らして、俺の腹目掛けて掌底を放ってくる。
こちらも俺のと同じく空間を破壊しながらの一撃。
一見、普通に見えても、あれには常軌を逸した破壊力が籠められている。
俺は空いている左腕で掌底をガード。
アセムの手を叩き落とすような形で防ぎ、そのままの流れで左の肘撃ちを顎目掛けて放つ………が、アセムは簡単に左手で受け止めてしまう。
「危ないねぇ!」
「どこが! 全然余裕じゃねぇか!」
気弾を掌に構え、至近距離で撃ち込んでみる。
すると、アセムは分かっていたようにオーラの塊をぶつけてこちらの攻撃を相殺してくる!
二つの強大なエネルギーが衝突して、大爆発を起こす。
俺達は爆発の衝撃に合わせて後ろへ飛ぶ。
俺が着地した、その瞬間。
背後に気配が現れる!
咄嗟に屈んで避けるが、コンマ数秒でも遅れていたらアウトだっただろう。
頭上を通過していったアセムの手刀は空間をも切断し、正面にあるものを全て真っ二つにしていった!
「切れ味最高かよ!? もう少しで頭が胴体とおさらばするところだったぞ!?」
「いやいや、君の拳も似たようなものだからね? これまでの攻防で何人の神様を殺せたことか。でも、僕達の戦いはまだまだ序盤だろう?」
そう言うとアセムは例の禍々しいオーラで形成された蝶の羽を広げる。
冥府調査の時、あの段階で放てる俺の最強の砲撃を防いだやつだ。
多分というより、間違いなく防御面では俺が今まで戦ってきた中で最硬だろう。
邪龍はもちろん、下手するとロスウォードの防御力よりも高そうだ。
ただ、どう見ても防御だけのものとは思えない。
アセムが両翼を広げると―――――羽と同じ色をした小さな槍のようなものを無数に展開した!
アセムが指を鳴らすと降り注ぐ雨のごとく、こちらに向かってくる!
「ちぃっ、この手の技は面倒なんだよなっ!」
俺は高速のバク転で後方に下がると、石造りの床を思いきり蹴って跳ね上がる。
床にめをやると、先程まで俺がいた場所が―――――丸ごと無くなっている!
破壊されたとか、そういう感じじゃない。
どちらかと言うと削り取られたような………リアスやサーゼクスさんの滅びと似ている?
アセムが言う。
「それに触れたら、完全に消失するよ。何であろうと全てね。物質も空間も含めて、あらゆるものを消し去る。滅びの魔力よりも更に上の次元―――――破滅の力とでも言うかな」
破滅の力!
もう名前だけでヤバいじゃないか!
というか、この槍、追尾してくるのか!
避けても避けても俺を追ってくる!
床を蹴り、柱を蹴って軌道を変えても空中でUターンしてきやがる!
こうなったら、全部撃ち落とすまでだ!
「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!」
俺は両手に虹色のオーラを溜めて、連続で気弾を放つ!
マシンガンのごとく放つ気弾と降り注いでくる破滅の槍がぶつかっていく!
完全に相殺できたと思いきや、巻き起こる爆煙の向こうから瞳を危険な色に輝かせるアセムが躍り出てくる!
『来るぞ、相棒!』
「分かっている!」
ドライグの声に応じて、横に飛び退く。
アセムの蹴りが床へと突き刺さり――――――辺り一帯に破壊の嵐を呼び起こした!
床は完全に陥没し、空間が大きく裂けている!
アセムの蹴りが空間を大きく削り取った影響なのか、空間の裂け目から突風が生じ、俺を吸い込もうとする!
滅茶苦茶な吸引力で、身動きが………!
「そんなところで立ち止まっている暇があるのかい? ―――――隙だらけだ」
真下から聞こえてくるアセムの声。
いつの間にか、奴は俺の懐に入り込んでいて、破滅のオーラに包まれた拳を構えていて。
奴の拳が俺の胸を貫こうとした、その刹那の瞬間―――――。
「ハァァァァァァァァァァァッッッ!!!!」
「………ッ!?」
俺は咆哮と共に虹のオーラを爆発させた!
俺を中心に全方位に広がっていく虹はアセムの拳を遮り、奴を吹き飛ばす!
アセムはこちらの勢いに吹き飛ばされながらも、宙返りして着地していた。
俺は間髪入れずに前に飛び出し――――――。
「このタイミングで対応できるのかよ」
「そっちこそ、完全にとったと思ったんだけどねぇ」
俺の拳はアセムの、アセムの拳は俺の顔の横を通り抜けている。
俺が拳を放った瞬間にアセムは迷わず、迎撃してきた。
互いの拳は相手の頬を掠っただけに留まったが………。
ふと、頬に熱いものが伝う。
どうやら、アセムの拳で頬を切ったようだ。
アセムの頬にも血が伝っていて―――――。
「フフフ………これは想像以上に楽しめそうだ」
「ハッ、まだまだ序盤なんだろ? 存分に見せてやるよ、俺達の力をな」
勇者と魔王の戦いは更に激しさを増していく―――――。
イッセーの変身ですが、イメージとしては悟空が超サイヤ人ブルーになるときに青色のオーラが剥がれていく感じです。