ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝   作:ヴァルナル

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今日から一人暮らし~というわけで、引っ越しは無事に終わりました。
これから色々と忙しくなると思うので投稿ペースが落ちます(-_-;)


29話 明星の白龍皇

[ヴァ―リ side]

 

偽りの世界が崩れていき、元の世界が戻ってくる。

各所から爆音と轟音が鳴り響く戦場。

間違いなく、俺は帰って来たんだ。

 

目の前にいる三つ首の邪龍が訊いてくる。

 

『良い夢だったか?』

 

「ああ。最高の夢だった」

 

もしかしたら、あったかもしれない世界。

弟と妹、そして母さん。

父親は………フフフ、少し言うのが照れくさいな。

 

本当にいい夢だった。

そして、改めて覚悟を決めることが出来た。

俺は――――まだまだ戦える。

 

すると、アジ・ダハーカの態度は一変して、真に迫った表情となった。

 

『白龍皇ヴァ―リ・ルシファー、よくぞ我が術を破った。下劣な術にて、貴公を陥れようとしたことを詫びよう。貴公こそ、我が最大の好敵手として認識させてもらうッ!』

 

戦意からふざけた雰囲気が一切なくなっている。

これからが本番ということか。

 

「こちらもだ、アジ・ダハーカよ。おまえと心の底より戦えることを誇りに思おう! 俺はおまえを、おまえ達を倒して、あの家族を守り切るッッ!」

 

俺の中で何かが吹っ切れていた。

一切のもやがなく、晴れ渡るほどに心は澄んでいた。

 

守る。

初めて芽生えたその想いが俺を奮い立たせる。

立ち上がらせてくれる。

 

アルビオンが言う。

 

『ヴァ―リよ。幻の世界で、私はおまえの覚悟を見た。ならば、私も一度は捨てたその名を今一度拾い上げようではないか』

 

アルビオンがかつては否定した自分を受け入れようとした時だった。

全身の宝玉がかつてなく優しい、力強い輝きを放ち始める。

その光はあの幻の世界で過ごした温もりを思い出させる。

 

その時、神器を通して話しかけてくる者がいた。

 

『―――――ヴァ―リ。我の声、届く?』

 

オーフィスの声だった。

彼女は今、兵藤一誠の自宅で療養中のはず。

周囲にも彼女の姿がないことから、意識だけをこちらに飛ばしているのだろう。

 

『ヴァ―リ、次の領域に進む時が来た。その身に宿る力を開花させる時。―――――我と謳おう』

 

謳う、か。

君と謳えるなら、それは素晴らしいことなのだろう。

 

『ヴァ―リがヴァ―リを認め、アルビオンがアルビオンを受け止めたから、できたこと。我はそれを手伝うだけ』

 

龍神の君が手を差し伸べてくれる。

なんと心強いことだろう。

 

『――――ヴァ―リ、我と話してくれて、ありがとう』

 

オーフィスが『禍の団』の首領だった頃、俺は彼女の話し相手だった。

アジトの一室で一人座っているだけの彼女を見かけたことが切っ掛けだった。

今でこそオーフィスは表情から感情が読み取れるが、以前は全くと言っていいほど感情が見えなかった。

だが、俺には彼女が孤独に見えた。

 

いや、実際に孤独だったのだろう。

シャルバも曹操も担いでおいて、彼女に与えたのは孤独だったのだから。

 

オーフィス、これからも俺と話をしよう。

なんでもいい。

君が楽しいと思えることを―――――。

 

『私も謳おう、ヴァ―リ、オーフィスよ』

 

アルビオンも応じてくれた。

 

そうか、おまえも謳ってくれるのか。

ならば、これはともと相棒と謳う、龍神と天龍、ルシファーの三重唱だ。

 

「我に宿りし無垢なる白龍よ、覇の理を降せ―――――」

 

覇を超えた白銀の鎧に――――漆黒が加わっていく。

 

『我が宿りし白銀の明星よ、黎明の王位に至れ―――――』

 

アルビオンの歌声に応じて、背中の光翼が黒くなる。

更に新たな翼が増え、広がっていく。

 

「濡羽色の無限の神よ―――――」

 

俺の歌にオーフィスが続く。

 

『玄玄たる悪魔の父よ―――――』

 

背には六対十二枚に及ぶ漆黒の翼が生えていた。

鎧の形状も至る所が鋭角に、有機的な形状へと変化した。

 

「『窮極を超克する我らが戒めを受け入れよ―――――』」

 

俺とアルビオンの声が重なると、宝玉の全てに魔王ルシファーの紋様が浮かび上がる。

そして、全身の鎧が激しく輝いていく!

強く神々しい光が周囲一帯を照らす!

 

最後の一節は俺とアルビオン、オーフィスによる三重唱だった。

 

「『『汝、玲瓏のごとく我らが耀にて跪拝せよッッ!』』」

 

『LLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLucifer!!!!!!!!!!!』

 

全身の宝玉からけたたましく鳴り響く音声!

そして、豪然たる新たな音声が鳴り響いた!

 

『Dragon Lucifer Drive!!!!!!』

 

鎧全体が極大の輝きとオーラを放って、弾けた!

 

オーラが止み、嵐のような輝きも収まった。

背中には十二枚のルシファーの翼。

鎧は白銀と漆黒を基調にし、形も覇龍を思わせる有機的で、かつ流麗なフォルムをしている。

全身からは白銀と黒―――――白龍皇と魔王ルシファーの波動が迸っている。

 

「白龍皇アルビオン・グウィバーとしての力、そして魔王ルシファーとしての力。俺が持つ全てを発現させたこの形態………アジ・ダハーカ、おまえにぶつけようッ!」

 

白龍皇の力を有した魔王ルシファーとして発言する誓いがあの呪文には込められている。

赤龍帝の兵藤一誠が勇者であるならば、白龍皇の俺は魔王。

故に―――――魔王化。

 

勇者と魔王が友であるのは、少し変な気分だが………まぁ、良いだろう。

 

アジ・ダハーカは俺の新たな姿に感心しているようだった。

 

『すげぇな、すげぇよ! リゼヴィムは所詮、魔王ルシファーの贋作だった。だが、おまえは違う! おまえこそ真のルシファーなんだろうよ。なぁ、そうだろう? 真の魔王を継ぎし者、ヴァ―リ・ルシファーよ』

 

「ああ、そうだな。今なら心の底から言えそうだ。――――我が名はルシファー。魔王の血を継し者、ヴァ―リ・ルシファーだ!」

 

俺の真の名。

俺の誇り。

俺の持てる全てをこの戦いに捧げよう!

 

俺の宣言に伝説の邪龍は莫大なオーラを滾らせて吼えた。

 

『やっぱりなぁぁぁぁぁぁぁぁ! 同じルシファーでも、リゼ公よりも断然好きになれそうだぜ! なぁ、ヴァ―リ・ルシファァァァァァァァァァァァァァアッ!!!!!!!』

 

「奇遇だな! 俺もリゼヴィムよりおまえの方がよっぽどやりやすい! アジ・ダハーカッッッ!!!!!」

 

俺達は同時に空へと飛びあがった!

魔王化を遂げた俺が十二枚のルシファーの黒翼を羽ばたかせただけで、嵐が吹き荒れる!

 

突き出した手から魔力の塊を放出する。

放たれた魔力弾は瞬く間にアジ・ダハーカへと迫るが、相手は一瞬で空間転移魔法を発動して、こちらの攻撃を避けた。

 

虚しく空を切った魔力の塊は遥か彼方まで飛んでいき―――――一帯を揺るがすほどの大爆発を起こす。

大地が爆ぜ、地響きが鳴り響く。

 

予想以上にパワーが上がっている。

今のはただの魔力の塊を放っただけ。

それだけでここまでの一撃を放てるようになっているのか。

 

転移で距離を取ったアジ・ダハーカは目の前の現象に驚愕しているが、同時に歓喜していた。

 

『とんでもねぇ! 軽くでそれか!』

 

『おっそろしい!』

 

『とんでも性能!』

 

俺は翼を広げてアジ・ダハーカに向かっていく。

白銀と黒のオーラで空中に軌跡を描く俺に対して、アジ・ダハーカはこれまでを遥かに越える規模の魔法を発動した。

空を埋め尽くさんばかりの魔法陣。

幾つもの魔法陣が光輝き、一斉に魔法を射出する。

更に新たな魔法陣が連続的に展開され、次々に発動する。

ありとあらゆる属性魔法が、禁術が、複雑な軌道を描いて俺へと降り注ぐ。

幻術世界に取り込まれる前の攻撃を遥かに越えた規模だ。

 

一度捕まれば、全ての魔法が一切の容赦なく俺を殺しにかかるだろう。

 

『『『LLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLL』』』

 

俺が前に手を突き出したと同時に鎧の各宝玉からエラーのような音声が鳴り響く。

 

次の瞬間――――――。

 

 

『ガフッ………!?』

 

鈍い音がこだました。

同時にアジ・ダハーカの口から吐瀉物が吐き出される。

驚愕するアジ・ダハーカの瞳が写すのは俺の拳が突き刺さった己の腹。

 

アジ・ダハーカは後ろによろめきながらも、俺の攻撃の正体を探っていた。

 

『んだ、今のは………!? 空間転移………いや、違う。何をした………!?』

 

アジ・ダハーカは俺の動きに反応できていなかった。

奴が放った全ての魔法を潜り抜けた上、あの距離を一瞬で埋めた俺の動きが。

反応できなくて当然だ。

 

なぜなら、俺は―――――。

 

構えるアジ・ダハーカ。

奴が魔法を放つと、俺は再び姿を消し、奴に直接拳を叩き込む。

 

『ぐうっ!?』

 

アジ・ダハーカの口から呻くような声が漏れ、体が空中で大きく回転する。

そこへ魔力の塊を放ち、奴の体を吹き飛ばした。

 

魔力弾に押されながら大地に着弾したアジ・ダハーカを中心に巨大なクレーターが咲く。

大量の土を被りながら、アジ・ダハーカは楽しげに笑んだ。

 

『なるほどなぁ………わかったぜ、今の攻撃の正体。おまえ、距離を半減しているな? いや………これはもう半減どころの話じゃねぇか』

 

「流石だ。たった二撃で看破するとはな」

 

白龍皇の力を応用し、俺は半減の領域を作ってきた。

その力を前方一転に集中し、連続的に半減を行った結果、俺と奴の距離は一瞬で埋まる。

簡単に言えば、擬似的な瞬間移動と言ったところだろう。

 

それを僅かな攻撃で見破るアジ・ダハーカの実力もずば抜けているが。

 

俺はルシファーの翼の先に力を込めて強く念じる。

 

『『『LLLLLLLLLLLLLLLLLLLLL』』』

 

すると、十二枚の翼が真ん中で分離して、背から射出される。

分かれた十二枚の一部は変形して姿を変える。

―――――兵藤一誠のフェザービットのように。

 

兵藤一誠が得た力の一つ、禁手第三階層―――――天翼。

あの姿の力には攻防一体の遠隔兵装が備えられている。

 

なるほど、俺の力も彼の影響を受けているらしい。

どこまで行っても、俺は彼をライバルとして強く認識しているようだ。

 

分離した翼―――――フェザービットが俺の周囲を飛び回る。

 

「行けッ!」

 

俺が指示を出すと、十二のビットがアジ・ダハーカへと向かっていく。

ビットの先端にオーラが集められ、極大の砲撃を放つ!

十二の砲門から放たれる砲撃が一斉にアジ・ダハーカへと降り注ぐ!

同時に俺は距離の半減を行い、奴との距離を詰めようとするが―――――。

 

『させるかよっ!』

 

アジ・ダハーカの三つの首、全ての瞳が怪しく輝いた。

目に小さな魔法陣が幾つも展開して、ビットから放たれた砲撃と俺を止めてしまう。

止めたというよりは見えない壁に遮られているような感覚だ。

 

次第にビットから放たれたオーラは小さくなっていき、完全に消えてしまう。

俺はオーラを高めて、奴の術から逃れたが…………。

 

アルビオンが言う。

 

『奴はバロールの邪眼を再現する魔法と私の半減を再現する魔法を同時に作り上げ、発動したのだろう』

 

今の僅かな時間にそのような離れ業を成し遂げたのか。

あらゆる属性、空間と時間、そして半減の力すら再現してしまう。

これが純粋なまでに己の力を高めた伝説の邪龍!

 

ビットは縦横無尽に空を駆け回り、何度も砲撃を繰り返していく。

アジ・ダハーカはそれらを軽やかにかわすが、奴の背後にあったビットにオーラが直撃し―――――。

 

『Reflect!』

 

音声が響き、白いオーラが反射される!

 

アジ・ダハーカは背中に防御魔法陣を展開して防ぐと同時に魔法陣を空一面に展開していく。

 

『こいつはどうよ!』

 

アジ・ダハーカが数千、数万の魔法を撃ち出してくる!

魔法のフルバーストは凄まじい密度で迫ってくる!

 

ビットは俺の正面に並び、先端からオーラを発生させる。

展開されるのはクリアーブルーの障壁。

そう、兵藤一誠が使う防御障壁と同じものだ。

 

正面、広範囲に展開された防御障壁は五桁に及ぶ魔法を完全に防ぎきる。

 

『赤龍帝と同じ技を使えるのか! ライバルだからって意識しすぎだぜ!』

 

「ああ、自分でもそう思う。だが、彼を追いかけるだけではないぞ!」

 

アジ・ダハーカ手を翳すと十二のビットは高速で動き、奴を囲む。

左右、前後、そして上下。

全ての方位を塞ぐように配置する。

そして、凄まじい密度の力を解き放った!

 

『『『Half Dimension!!』』』

 

全てのビットから展開される半減領域。

全方位から放たれる半減の力がアジ・ダハーカを襲った。

 

『チィッッ! そいつもその技を使えるのか!?』

 

咄嗟に周囲に強固な結界を張り巡らせて、やり過ごしたアジ・ダハーカだが驚きは隠せていない。

アジ・ダハーカは自身に張った結界の内側で空間転移魔法を発動し、半減領域の外へと脱出する。

 

奴は全く違う場所に姿を見せると、幻術で自分の分身を百単位で出現させてくる。

全ての分身体が魔法陣を展開して、かつてない規模で魔法を発動する。

当然のように禁術も混ぜて。

 

どれが幻術かのか………いや、これまで常軌を逸したレベルで魔法を繰り出してきた奴のことだ。

全てが本物だとしてもおかしくはない!

 

そう決断したところで、俺は爆発的に力を高めて、解き放った!

 

『『『LLLLLLLLLLLLLLLLLLLLL』』』

 

『Satan Compression Divider!!!!!!』

 

放たれる魔なる絶対の耀。

白銀と漆黒が入り交じった耀はアジ・ダハーカ達が撃ち出してきた凶悪な魔法の全てを瞬時に圧縮。

僅かな時間で圧縮を繰返し、消し去ってしまう。

振り撒いたオーラでアジ・ダハーカの分身体は全て消え、本体だけが空に残る。

 

この結果には流石のアジ・ダハーカも仰天しているようだった。

そして、奴は俺を見つめながら呟いた。

 

『――――明けの明星』

 

それはルシファーを体現する言葉。

アジ・ダハーカは今の俺を見て、そう述べた。

 

「伝説の邪龍にそう称されるとは光栄だ」

 

『そうか? 今のおまえは正にルシファーって感じだぜ? 十二のルシファーの黒翼を昂然と広げ、白銀と漆黒の耀を放つ白い龍。―――――「明星の白龍皇」ヴァーリ・ルシファー、か。グッグッグッ、良いねぇ。たまんねぇな、おい!』

 

アジ・ダハーカのオーラが更に膨れ上がる。

奴の体は至るところが傷だらけだった。

新たな力を開花させた俺の攻撃を幾度もその身に受け、疲労は相当なもののはずだ。

しかし、奴は倒れる気配を見せない。

 

どこまでも俺を見据え、笑みを浮かべながら戦意を高めてくる。

美猴達なら、とっくに嫌気がさしているだろう。

だが、俺はどこまでも戦意を失わないアジ・ダハーカの姿に強く打ち震えた。

 

互いに戦意を高めていく中、この場に似つかわしくないものが現れる。

量産された邪龍達だ。

おそらく、俺とアジ・ダハーカの戦いを感じ取り、介入してきたのだろう。

多くの邪龍が俺を敵と定めて飛来してくる――――――。

 

『邪魔すんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!』

 

アジ・ダハーカは叫ぶなり、魔法陣を複数展開して、邪龍を消し去った。

奴は舌打ちしながら言う。

 

『ったく、空気の読めねぇ奴らだぜ』

 

俺もその意見には同意だった。

俺はビットを飛ばして、周囲にオーラを放つ。

 

『Venom!!』

 

その音声が鳴り響く。

ビットから視覚化するほどの――――――禁手に至った匙元士郎と似たような濃い呪詛が浮かび上がる。

展開された呪詛の空間に入り込んだ邪龍が苦しみだし、血の塊を吐き出して落ちていく。

 

この結果を見て、アジ・ダハーカは興味を抱いたように呟く。

 

『周囲の邪龍どもが苦しみだした? ほう、こいつは………!』

 

「おまえが見たがっていたアルビオン………グウィバーの力。毒―――――『減少』」

 

アルビオンが続く。

 

『我が毒は無機物以外の存在のあらゆるものを減らしていく。血、骨、肉、魂まで削り、超常の存在―――――神であろうとその身を形成する全てを確実に「減少」させていく。この毒が効かなかった唯一の存在が―――――赤龍帝ア・ドライグ・ゴッホだ』

 

アルビオンは語る。

 

『私はドライグと出会い変われた。あいつのように真に強いドラゴンになりたいと思えたのだ。毒などに頼らずとも、正面から強いドラゴンでいたいとな』

 

アルビオンの毒は無限だった頃のオーフィス、夢幻を司るグレートレッドにも通じないだろう。

だが、それ以外の存在は神であろうと確実に通じる。

 

それでも、アルビオンは毒以外の力を求めた。

それが『半減』と『反射』。

アルビオンは己を研磨し、能力を開発していった。

 

赤龍帝ドライグと出会わなければ、アルビオンは毒だけが得意技のドラゴンになっていただろう。

赤龍帝ドライグと出会わなければ、白龍皇アルビオンはこの世に存在しなかっただろう。

そして、この二体のドラゴンが出会わなければ――――――二天龍と称されることはなかっただろう。

 

アジ・ダハーカがアルビオンに訊く。

 

『俺には使わないのか?』

 

『言ったはずだ。もう捨てた力だと。ドライグとは己の牙で、爪で、覇気で、オーラで、純粋な力をもってお互いを高め合ってきた! ドライグと同じ天龍を名乗るならば、毒の力などもう必要ない!』

 

それでこそだよ、アルビオン。

おまえがそう言ってくれるから、俺も―――――

 

「アルビオンの言う通りだ、アジ・ダハーカ。それとも、今の俺達では不服か?」

 

俺の問いにアジ・ダハーカは――――――笑った。

 

言葉を交わさずに飛び出す俺達。

アジ・ダハーカの魔法が、俺が放つルシファーと白龍皇の力が衝突し、周囲に存在する全てを消し去っていく。

量産型邪龍など、衝突の波動だけで焼かれて死んでいく。

近くで戦闘を行っていた連合軍側の者は身の危険を感じ、その場から遠ざかっていた。

 

これほど昂ったのはいつ以来か。

初めてライバルと拳を交えた時………いや、それ以上か!

 

俺は前面に半減を集中させて、アジ・ダハーカとの距離を縮め、一瞬で懐に入り込む。

アジ・ダハーカはこちらの動きを読んでいたか、強固な結界を幾重にも展開し、突撃を阻む。

稲妻をまき散らしながら、ぶつかる拳と結界。

俺はルシファーのオーラを高め――――――力づくで結界を破壊する!

 

全ての結界を撃ち破り、拳がアジ・ダハーカの肉体に突き刺さる。

内臓に深いダメージを与えることが出来たのだろう。

アジ・ダハーカは血の塊を吐き出すが、奴もこちらを殴り返してくる。

更に禁術の炎を発動させ、こちらを燃やしにかかる!

炎に触れた瞬間、その個所の鎧が爆散した!

 

生身に走る激痛に耐えながら、負けじとルシファーの魔力を撃ち出し、奴の右首を消滅させる!

 

『ッ!』

 

三つあった首のうち、一つを消されたことに驚くアジ・ダハーカ。

だが、奴もそこで動きをとめるわけがない。

ラッシュを仕掛ける俺に対し、カウンターとして、魔法を上乗せした蹴りを放ってくる。

 

半減と反射で相手の魔法で捌きながら、ルシファーの魔力と己の拳をもって戦う俺。

各種属性魔法と禁術、加えて、拳や蹴りを振るってきたアジ・ダハーカ。

 

こちらの鎧もかなり砕けて、少なくないダメージを負っているが、相手もこれまでの攻防で左首を失い、全身から血を噴き出している。

アジ・ダハーカも肉体に深いダメージを受けている。

そして―――――ついには片膝を地につけてしまう。

 

俺は追い込みをかけるためにビットと連携して特大の魔力を浴びせていくと、アジ・ダハーカは防御魔法陣を展開しながら、カウンター魔法を繰り出してくる。

 

激しい攻防を繰り広げる中、アジ・ダハーカは新たな魔法陣を展開した。

魔法陣の輝きはこちらに向けられたものではなく、アジ・ダハーカの体を包んでいった。

すると、アジ・ダハーカが負っていた傷が塞がっていき、失った首も再生した。

 

「回復魔法か………」

 

回復の術式は最上級の魔法。

失った部位を再生させるとなると、異常なまでの魔法力か、禁術を使うことになる。

肩を上下させているところを見ると、両方か。

 

傷を回復させ、向かってくるアジ・ダハーカ。

俺達は再び拳を交える。

相手にダメージを与えれば与えるほど、相手もありったけの力をぶつけてくる。

 

破損した鎧も一部修復できていない。

が、アジ・ダハーカもこちらの砲撃で再生した首を再び失い、両翼、片腕をも失っている。

再生させるそぶりがない。

 

俺もアジ・ダハーカももう余裕がなくなってきている。

 

だが――――――。

 

『まだまだぁぁぁぁぁッ!』

 

アジ・ダハーカは大地を強く蹴って飛び出してくる。

俺はそれを避けようとするが――――――奴を見失った。

 

「ぐぅっ!?」

 

気づいた時には肉体に強い痛みが走っていた。

見ると、アジ・ダハーカは俺の体に噛みついてきていた!

 

最後の魔法力、全てを使って瞬間移動したのだろうが、何という執念!

なんという戦闘意欲だ!

 

奴の牙が鎧を砕き、肉体に深く突き刺さる。

このままでは体を引き裂かれてしまう………!

 

死すら意識した、その時―――――母さんと弟、妹の顔が浮かんだ。

田舎町でみた三人の笑顔。

 

守ると誓った。

会えなくてもいい、俺のことを覚えてなくてもいい。

それでも、俺は誓ったんだ!

 

「俺は………死ねないッッ!」

 

『ここが正念場だぞ、ヴァ―リッ!』

 

力が高まっていく。

限界を迎えそうになっていたはずが、体の内側から湧き上がってくる。

 

そうか、理解したよ。

兵藤一誠、君が困難を強敵を倒してきた、その力の根源。

これが―――――。

 

鎧の胸と腹の部分がスライドして、発射口が現れる。

そこにオーラが集中、鳴動していく。

 

チャージされていくオーラの危険性を察知したアジ・ダハーカは離れようとするが、俺は奴の体を掴んだ。

ここで離してしまえば、後でどうなるか分からない。

深手を負い、力が残っていなかったとしても相手は伝説の邪龍。

なにより、ここまで戦ってきた俺自身がこの邪龍を分かっている。

 

だからこそ―――――。

 

「―――――これで終わりだ」

 

『LLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLucifer!!!!!!!!!!!!!』

 

『『『Satan Lucifer Smasher!!!!!!!!!!!』』』

 

白銀と漆黒が入り交じる絶大で絶対の砲撃がアジ・ダハーカは呑まれていった――――――。

 

 

 

 

砲撃が終わり、残ったのは数キロ先まで深く抉れた大地と、降る雪のように空に残る白銀と漆黒のオーラ。

そして、絶命寸前のアジ・ダハーカ。

 

アジ・ダハーカは首だけになっており、もうすぐ消えそうになっている。

伝説の邪龍は死の間際でも不敵に笑っていた。

 

『………満足だ。最高のケンカだった。………まぁ、俺はどこまでもしつこい邪龍だ、いつかまた復活してやるさ………二、三千年ほど待ってろや………絶対に、おまえとまたケンカするために蘇ってやるからな』

 

唯一残されたアジ・ダハーカの首も崩壊が進んでいる。

完全に消える直前、アジ・ダハーカは―――――

 

『………いつか、もう一度、ケンカしようぜ、ルシファー―――――』

 

それが伝説の邪龍が言い残した最後の言葉だった。

 

唯一残った首も塵と化し、奴の姿はこの世のどこにもいない。

だが、それでも再び目の前に立ちふさがりそうな、そんな強敵だった。

 

俺は白銀と漆黒の雪が降る空を見上げて、

 

「ああ、心から待っているぞ。我が好敵手、アジ・ダハーカ」

 

 

 

 

それからすぐのことだった。

 

「こっちは終わったようだな」

 

背後から声をかけられる。

振り返ると、十二枚の黒い翼を広げるアザゼルがいた。

 

アザゼルは今の俺の姿を見て、驚きながらも嬉しそうに頷いた。

 

「そいつがおまえの選んだ姿か。見事なもんだ。リゼヴィムよりも、ずっとルシファーらしい」

 

なんだろうな、アザゼルにそう言われるとこそばゆく感じながらも、嬉しく思っている自分がいる。

 

あの幻術世界の影響だろうか。

俺はアザゼルを――――――。

 

いや、やめておこう。

言ったら言ったで、色々言われてしまいそうだ。

今のままでいい。

今はこれで十分なのだから。

 

ただ………

 

「アザゼル」

 

「なんだよ?」

 

「ありがとう」

 

俺がそう言うと、アザゼルは目を丸くして、

 

「おいおい、アジ・ダハーカに頭でもやられたか? いったいどうしたんだよ?」

 

「フフフ、なんでもないさ」

 

 

[ヴァ―リ side out]

 


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