やっべぇ、中々時間とれねぇ………。
[木場 side]
ロスヴァイセさんが考案した術式により、どうにかトライヘキサの動きを封じた僕達。
巨体を結界で包み込まれたトライヘキサはピクリともせず、再び動き出す様子はない。
通信用魔法陣でアザゼル先生と連絡を取っていたロスヴァイセさんが口を開く。
「他の分裂体も動きを止めたようです」
どうやら上手くいったらしい。
ロスヴァイセさんは停止しているトライヘキサを見上げながら続ける。
「これで一先ずは大丈夫です。ですが、この結界がいつまで保つかは術式を考案した私にもわかりません」
「トライヘキサの動きを封じた後の手はずは聞かされていないのよね?」
「アザゼル先生を始めとした各勢力の首脳陣クラスではその後の計画が決まっているようですが、残念ながら私にも教えてくれませんでした」
リアス前部長の問いに首を横に振るロスヴァイセさん。
出撃前のミーティングでも感じたけど………アザゼル先生は僕達に何かを隠している?
各勢力の首脳陣クラスしか知らない計画ということは僕達『D×D』にも極秘の作戦ということだろう。
僕達はアザゼル先生に絶対の信頼を置いている。
何があっても大丈夫だと、そう思いたいが………。
リアス前部長は顎に手をやりながら言う。
「胸騒ぎがするわね………。アザゼルのことだから問題ないとは思うのだけど」
「とにかく先を急ぐしかありませんわ。まだ戦いは続いているのですから」
地平線に蠢く黒い影。
魔獣騒動の再来とも言える超巨大魔獣の数々。
空には巨鳥、大型のドラゴンまでいる。
量産型邪龍とは違うタイプのドラゴンだ。
トライヘキサを停止させても、アポプスを倒しても、敵の兵力は尋常ではない。
聖杯を取り返したため、これ以上増えることはないと思うが………それでも敵の力はあまりにも大きい。
英雄派によってアポプスが倒された今でも激戦は続いていて、雄叫びや轟音が絶えず聞こえてくる。
朱乃さんが言う。
「ここまでの戦いで味方はかなり疲弊しています。どうにかして、突破しませんと………」
「イッセーの元へと行けない、というわけね」
リアス前部長もそう続く。
その時―――――上空にとてつもない規模で魔法陣が展開される。
そして、災厄のようなレベルの魔法が魔獣の大群目掛けて撃ち込まれた!
鳴り響く轟音!
揺れる大地!
魔法の餌食になった敵の勢力は丸ごと消え去っていた!
こんな大規模で攻撃を仕掛けたのは―――――
「ここまで数が多いと嫌になるな。やはり、私もイッセーと行くべきだったか?」
そう言いながら降りてきたのは龍王の一角であるティアマット――――ティアさんだ。
彼女はイッセー君のエスコート役として彼をここまで連れてきてくれたのだが、別れてからはここの戦線でその力を振るってくれていた。
だが、最強の龍王をもってしても、相手の戦力は尋常ではないようだ。
ティアさんが上空を見上げる。
そこでは神姫化した美羽さんとアセムの配下の一人『絵師』ベルによる壮絶な戦いが繰り広げられていた。
美羽さんが繰り出す数々の魔法に対し、ベルは魔法と作り出した魔獣、赤龍帝の複製体を組み合わせて対応している。
現状、美羽さんの方が推しているようには見えるが、ベルは傷を負った様子もなければ、消耗しているような感じでもない。
神の力を得た美羽さんとあそこまで撃ち合えるとは………。
四人いる内の一人、『絵師』ベルは現在、美羽さんと戦闘中。
残るのは『武器庫』ヴィーカ、『覗者』ヴァルス、『破軍』ラズル。
どれも強力な力を持った者達だが―――――。
「危ないっ! 皆、伏せて!」
何かに気づいたリアス前部長が叫んだ。
その声に朱乃さんやロスヴァイセさん達が防御魔法陣を何十にも重ねて展開するが、飛来した何かによって貫かれていく!
「そらッ!」
最後の防御魔法陣が突破されそうになった時、モーリスさんが間に入り、双剣で飛来物を弾き飛ばしていった。
豪雨のごとく降り注ぐそれらは、モーリスさんの絶技によって僕達に届く前に遮られる。
弾き飛ばされ、地面に突き刺さったそれらは―――――無数の武器。
聖剣、魔剣、聖槍、魔槍と一つ一つが強力な力を持った武器の数々だ。
この数、この攻撃は―――――。
「いきなりやってくれるな。こいつは釣りだ」
そう告げたモーリスさんが剣気による剣撃を飛ばす。
だが、彼の攻撃は空中で真っ二つにされ、目標から反れてしまった。
モーリスさんの剣撃を斬っただと………?
そんなことが………。
すると、唖然とする僕の耳に女性の声が入ってきた。
「ウフフ、どうせ防がれると分かっていたもの。これくらいは挨拶みたいなものでしょう?」
僕達の前に人影が現れる。
浅黒い肌に白い長髪を持つ女性。
手には禍々しいオーラを放つ魔槍。
―――――『武器庫』ヴィーカ。
あらゆる武器を創造する能力を持つ。
僕が所持する神器『魔剣創造』『聖剣創造』と似た能力ではあるが、創造できる幅の広さ、創造した武器の強大さはレベルが違う。
一度、アリスさんを降したことから、その実力は本物だ。
ヴィーカは唇に指を当てて微笑んだ。
「こんばんわ、チーム『D×D』の皆さま」
妖艶な雰囲気を出しながら、彼女は話しかけてくる。
敵意も闘志も悪意も今は感じられないけど………下手に動けば、剣の雨が降ってくるだろう。
そんな確信が僕達にはあった。
「アポプス君も負けちゃったようだし………何より、妹が戦っているから、お姉ちゃんが待機しておくわけにはいかないのよね。だから、ここは私がお相手しましょう」
すると、彼女の背後から上空にかけて数千、数万の魔法陣が展開される!
魔法陣からは先程のような武器が出現した!
まさか―――――。
「簡単にお父様のところに向かわせるわけにはいかないの。向こうはまだまだお楽しみ中のようだしね♪」
ヴィーカが指を鳴らす。
刹那、先程の規模を遥かに越える物量で、武器の豪雨が降り注いできた!
無数の武器が味方陣営を襲い、多くの味方を消滅させていく!
助けにいきたいけど、僕達も自分を守るので精一杯な程、ヴィーカの攻撃は激しいものだった!
「皆さんッ!」
黄金のオーラを放つアーシアさん。
彼女を中心に広がっていく輝きはこの一帯を覆い、味方の盾となった。
黄金のオーラがヴィーカの攻撃を遮り、味方をこの豪雨から守っていく。
「あら、やるじゃない。なら―――――」
ヴィーカがオーラを高めて、次なる手を使用しようとした。
その時―――――。
「やらせると思って?」
その声が聞こえたと思うと、天空から大出力の白い雷がヴィーカ目掛けて降ってきた!
地に立つヴィーカを殴り付けるような攻撃!
攻撃の余波で大地が深く抉れていく!
空に浮かぶのは神々しい光を放つ神。
白金のオーラを纏った偽りの神―――――。
「ウフフ、来ると思っていたわ」
「ええ、決着をつけにね」
僕達とヴィーカの間に舞い降りた神―――――疑似神格を発動させたアリスさん。
アリスさんはヴィーカと向き合うと真正面から言った。
「色々聞こえたけど、あんたがここに来たのは私とのケリをつけるためでしょ?」
彼女の問いにヴィーカはニコリと笑んで、
「分かってるじゃない、その通りよ。正直、私にとって、この戦いはお父様の願いを叶える以外ではあなたとの決着つけるためのものでもあるの」
「そう」
ヴィーカの言葉にアリスさんは深く息を吐く。
そして、僕達に言った。
「皆、ここは私に任せて先に………イッセーのところに行って」
「っ! ダメよ! 私達も―――――」
リアス前部長が続きを言おうとするが、それを遮るようにアリスさんは言う。
「私もあの女とは決着をつけるつもりで来たの。あの女に勝たない限り、私も先に進めない、そんなところがあるのよ。大丈夫よ、絶対勝つから。絶対追い付いてみせるわ。それに―――――」
アリスさんは僕達の方に顔を向けると、笑みを浮かべて言った。
「皆の想いがイッセーを強くする。皆が近くにいれば、イッセーは今よりも強くなる。だから、皆があいつの傍にいてくれた方が私も安心できるのよ」
すると、アリスさんの隣に美羽さんが降りてくる。
同時に向こう側、ヴィーカの隣にはベルが降り立った。
美羽さんは微笑みながら僕達に言った。
「ここはアリスさんだけじゃなくて、ボクもいる。心配ないよ。皆と帰るっていう、お兄ちゃんとの約束もあるし」
美羽さんとアリスさん―――――夜を司る神と光を司る神のオーラが膨れ上がる。
二人の眼が捉えるのは目の前の敵。
これまで彼女達は何度もぶつかってきた。
だからこそ、アリスさんだけでなく、美羽さんもここで全てを終わらせるつもりなんだ。
僕はリアス前部長に言った。
「行きましょう、イッセー君のところへ」
「………そうね。美羽! アリスさん! 二人とも後で合流するわよ!」
「「もちろん!」」
僕達は二人にその場を任せ、駆け出した。
▽
「ハァァァァァァッ!」
「やぁぁぁぁぁっ!」
ゼノヴィアとイリナの聖剣コンビが仲間の道を切り開くように突撃していく。
蒼いオーラと黄金のオーラを纏った二人の勢いは疲弊を感じさせず、巨大な魔獣をも撃退していた。
リアス前部長や朱乃さん達も後方から濃密な魔力を大規模に放ち、魔獣や邪龍を滅していく。
僕も紅の龍騎士団を展開して、一つ一つ確実に倒していった。
美羽さん、アリスさんと別れてから、僕達はかなりの距離を進んでいる。
それぞれが翼を広げて赤い空を飛翔するのだが………、
「………もう一度、飛行魔法かけてくれ。やっぱり難しいな、これ」
「それは構いませんが、モーリスはまだ悪魔の翼に慣れてないようですね」
そう、モーリスさんは悪魔の翼で飛ぶことに苦戦していた。
浮くこと自体は難なく出来ているけど、スピードを出すとなると難しいらしい。
今も飛べてはいるけど、そのスピードは僕達の中でも遅くて………アーシアさんの半分も出ていない。
『門』を潜る前まではリーシャさんの飛行魔法でサポートしてもらっていたんだけど、アリスさんと別れてはからは「この際だから練習する」なんて言って自力で飛ぼうとして………今に至る。
リーシャさんは魔法陣を展開して、モーリスさんに飛行魔法をかける。
そうすることで、モーリスさんの飛行が安定する。
「あんまり意地を張らなくても良いのですよ? 良い歳なんですから」
「リーシャ様の言う通りです。もうすぐ五十なんですから」
「やかましい! 俺ァ、こういうのが苦手なんだよ。つーか、何で同時期に悪魔になったおまえらはすんなりマスターしてんだよ?」
「「センスの差ですね」」
「ふんだ。俺だって、すぐに慣れてやるからな。見てろよ?」
アハハハ………モーリスさんのこういうところは初めて見るよ。
いつもは超人というか、人間版超越者というか、『剣聖』の名に恥じない実力を発揮する人なんだけど………。
どうにも苦手な分野もあるらしい。
「大体なぁ、おまえら、こっちの世界に来てから順応早すぎないか? 誰か俺にケータイの使い方教えてくれ! 祐斗!」
「僕ですか!?」
「アプリとか絵文字とか全然分からねーんだよ! あと、小猫! この間、教えてもらったテレビゲームだっけか? あれ、全然クリアできん! また教えてくれ!」
「………帰ったら教えますよ」
小猫ちゃん、モーリスさんとテレビゲームしてたんだね………。
というより、モーリスさん、こっちの世界に来てから全力で楽しんでませんか?
役職を退いてから、フリーダムになってませんか?
やがて、この世界の中心、アセムがいるであろう黒い塔を視認できるところまで来ることができた。
「あそこにイッセーがいるのね」
リアス前部長の言葉に皆の気がより引き締まる。
あそこはアセムの根城。
つまりはそこに向かったイッセー君もいるもいうこと。
イッセー君は強大過ぎる敵と戦っている。
その時―――――何か強烈なオーラを感じた!
この波動は………!
「出てきやがったな」
モーリスさんの視線の先には二人組の男性。
茶髪を後ろで括った長身痩躯の男性と三メートル近くある巨漢。
―――――『覗者』ヴァルスと『破軍』ラズル。
出てくるとは思っていたけど、僕達の前に現れるとはね………。
ヴァルスは僕達を見上げると、お辞儀した後に口を開く。
「よくぞ、ここまで辿り着きました。現在、ここまで辿りついたのは勇者殿を除けば神クラスを含めた僅かな者。そして、あなた方。神々ですら消滅するであろうこの戦場を潜り抜けてきたあなた方に敬意を表します」
モーリスさんが問う。
「その神々の相手はしなくて良いのか?」
「しましたよ。私達と対峙した神は消滅させました。といっても、三柱程度ですが。ここに辿り着いた者の殆どがベルの生み出した魔神と戦闘中でして」
「赤龍帝の力で強化したベルが作った魔神だからな。おまえらが相手してきた奴よりかなり強いぜ? ま、そのおかげで俺らが暇してるんだがな」
………っ!
神クラスを消滅させただなんて………!
トライヘキサが復活してから既に何柱もの神が消滅させられた。
このまま神々の消滅が続けば、世界の均衡が大きく崩れてしまう………!
僕は騎士王の姿になり、剣を構えた。
他のメンバーも魔力を高め、ヴァルス達と対峙する覚悟を決める。
ヴァルスは僕達の戦意に挑戦的な笑みを浮かべる。
「良いプレッシャーです。ここまでの戦いで消耗しているのでしょうが、それを感じさせないとは見事。では、ここから先は尋常に―――――」
ヴァルスが腰に帯びていた剣を引き抜こうとした―――――その時。
チャララ~チャーラーラーラーラーチャララ~
デデデーンデデデデデーン
「もしもし、ヴァルスです」
全員がずっこけた!
なんでここで携帯!?
なんで電波通じてるの!?
《い、今のは必殺シリーズのBGMですぅ!》
闇の獣と化したギャスパー君からの情報!
知ってるよ、有名だもの!
ツッコミが止まらない僕だが、電話に出たヴァルスはというと、
「あ、店長ですか。こんばんわ、どうしました?」
店長!?
この人、働いてるの!?
「ええ、はい。………え? いや、まさか、そんな………! そんなはずは! そ、そう………ですか………。申し訳………ありません………」
何やら顔色を悪くして慌てはじめた。
それから少しの問答の後、ヴァルスは電話を切り、彼は膝を着いた。
そして、天を見上げて―――――。
「今日、シフト入ってたぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
絶叫し出した!
ヴァルスの叫びにラズルも衝撃を受けたようで、彼の肩を掴んで言った。
「う、嘘だろ………? おまえ、今日は休みを入れたって………」
「入れましたよ! ですが………入力ミスで………!」
「ちゃんと確認しとけよぉぉぉぉぉぉ! あの店長、キレたら怖いんだからよぉぉぉぉぉぉ!」
「クソォォォォォォォォ!」
悔し涙を浮かべるヴァルスとラズル。
その光景に僕達は―――――。
「「「どうでも良いわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」」」
全力でツッコミを入れた。
[木場 side out]
~あとがきミニエピソード~
アセム達が初めてアグレアスを見たときの反応。
アセム「ラピュタは本当にあったんだ!」
ヴァルス「目がぁぁぁ! 目がぁぁぁ!」
ラズル「空から女の子が!」
ヴィーカ「見ろ! 人がゴミのようだ!」
ベル「…………バルス!」