[木場 side]
「コホン………まさか、店長からかかってくるとは思いませんでした」
ヴァルスが咳払いをした後、苦笑しているけど………。
僕達の驚きはそれ以上だよ。
なんでこのタイミングで電話がかかってくるんだろう?
なんで世界の運命をかけた戦いで、アルバイトの話になるんだろう?
「は、働いているのね………。私としてはそっちの方が驚きだわ………」
リアス前部長が目元をヒクつかせていた。
僕もそう思います。
この人達は人間界に溶け込みすぎているような………というより、楽しんでませんか!?
ヴァルスが爽やかな顔で言ってきた。
「いやぁ、初めはこちらの世界の情報を得るために働き始めたのですけどね」
「やってるとな、段々楽しくなってきたんだわ」
「安月給ですし、キツい時もある。ですが、得られるものも大きい! 仕事はやりがいが大事なのです! あぁ、労働とは実に素晴らしい!」
「「ねー」」
なぜか労働について語り始めたよ!
この人達、普段は何をしてるんだ!?
「うぅ………アザゼル様にも見習ってほしい」
レイナさんが号泣している!
アザゼル先生、あなたはどれだけ彼女に苦労をかけているんですか?
すると、ロスヴァイセさんが一歩前に出た。
ロスヴァイセさんはとても興味深そうな表情で、ヴァルスに尋ねた。
「ちなみにお仕事は何を?」
そこですか!
確かに気になるけど、本当に聞くんですね!
皆が注目する中、ロスヴァイセさんの問いにヴァルスは―――――
「トン・キホーテの店員、他にもいくつか」
「ラーメン屋もやってるぜ」
僕達の想像以上に彼らは働いていた。
▽
「さて、このまま私達の私生活を話すのも良いのですが、流石にそればかりと言うわけにはいきませんね」
そう言ってヴァルスは鞘から剣を引き抜いた。
彼の表情は先程の緩んだものから一転、不気味さを感じさせる。
彼と目が合うだけでこちらの全てを見透かされる、そんなことさえ感じてしまう。
いや、実際に見透かされているのだろう。
ヴァルスがアセムから与えられのは見通す能力なのだから。
ラズルも拳を合わせて全身からオーラをたぎらせ始めた。
まだ戦っていないのに感じるこの気迫。
アウロス学園の一件では天武状態のイッセー君を苦しめた程の実力。
近接戦闘ではイッセー君と互角かそれ以上と考えても良いだろう。
モーリスさんがヴァルスに言う。
「俺としては、こっちの世界については知らないことが多いから、兄ちゃん達の暮らしを聞くのもアリなんだがな」
「ええ、お酒でも酌み交わしながら色々と語れそうですね」
その言葉にモーリスさんは息を吐いた。
「この場でこんなことを言ってしまうのは問題なんだろうな。俺はおまえさん達を殺したくはない」
―――――っ。
モーリスさんの言ったことに僕達だけでなく、敵であるヴァルスとラズルですら目を見開いていた。
「ここまでに二度だけ。二度だけだが剣を交えた。そして、全てとは言わないが、おまえ達のことを理解したつもりだ。おまえ達が望むこと、それは―――――」
モーリスさんがそこまで言いかけた時、ヴァルスは人差し指を立てて口許に当てた。
「剣聖殿、それはここで言わない方が良いのでは? この場において、私達は敵同士。たとえ、互いが望むものが同じでも。それにしても………フフフ、殺したくはないですか。それは私達に勝てると言っているように聞こえますね」
「ま、流石に俺一人じゃ、本当の力を解放したおまえ達二人を相手に生き残る自信はないさ。相討ちならなんとかなると思うがな。だから、俺達がおまえ達を倒し、止める」
その言葉にラズルが言う。
「俺達の内側まで覗いたか。だが、良いのか? 『剣聖』はともかく、後ろの連中では荷が重いと思うぜ?」
ラズルが僕達を見てそう言った。
僕達の力が神に届くのか………そう言われると厳しいものがある。
確かに僕達は強くなったけど、上には上がいる。
今の実力でどこまで届くのか………。
だが、モーリスさんは不敵に笑んだ。
まるで、ラズルが言ったことが可笑しなことであったかのように。
「クックックッ………不可能だと思うか? たった十数年しか生きていない若造が、神クラスを降すことなど無理だと思うか? こいつらを甘く見るなよ? こいつらがここに至るまでに歩んできた道は生半可なものじゃない。おまえさん達が降したという緩い環境で過ごしていた神々なんぞよりもよっぽど強いさ。それとも、おまえはこいつらが弱いと思うのか?」
「いんや、思わないな。そいつらが強いことはこの場にこうして立っていること自体がその証明だ。それに剣聖のお墨付き。楽しみにしてるぜ」
ラズルから発せられるオーラが膨れ上がる。
戦闘意欲に満ちた顔で彼のオーラに触れるだけで悪寒がするレベルだ。
ヴァルスも戦意剥き出しの表情で言ってきた。
「さて、どうしましょうか。私としては剣聖殿と一対一で斬り合いたいのですが、聖魔剣や聖剣使いの彼女達とも戦ってみたいので………」
ヴァルスは手元に魔法陣を展開。
見たことがない魔法陣だが、それらは幾重にも重ねられていた。
魔法陣の輝きが一層強くなり―――――。
「なっ………!?」
光が病んだ時、誰かが驚愕の声を漏らした。
なぜなら―――――僕達の目の前には二人のヴァルスがいたからだ。
二人いる内の片方のヴァルスが言う。
「これは以前、北欧の悪神ロキがあなた方と戦う時に用いた切り札の一つと同じもの。禁術を用いて作製した分身体。能力は私と
「準備が良すぎるぜ」
「まぁ、作るのに多少命を削りましたがね」
モーリスさんの言葉に苦笑するヴァルス。
あの襲撃の時、ロキは歴代最高の二天龍―――――赤龍帝のイッセー君と白龍皇ヴァーリを同時に相手取る際、その切り札として自身の分身を先に彼らにぶつけた。
そして、分身体を倒し、最も油断した時、二人に自らの手で深手を与えた。
今回のヴァルスもあの時と同じ………いや、使っている分身は同じ構成だろうが、使い方が違う。
ヴァルスは自身の胸に手を当てる。
「私は剣聖殿と。分身体は聖魔剣と聖剣使いの三人と。いやぁ、ここまでの戦い振りを見ていましたが、お三方の成長は凄まじい!」
「オラ、ワクワクすっぞ!」
ヴァルス(本人)に続いて分身体がキャラじゃない言葉を発した!
これにはヴァルス(本人)も頭に疑問符を浮かべていて、
「おや? もしかしすると、私の部屋にあった漫画を読みましたね?」
「ええ、待機時間が暇だったので」
本人も緊張感がなければ、分身体も同じということか!
なにも、そんなところまで再現しなくても!
と、とにかく、僕とゼノヴィア、イリナの相手はヴァルス(分身体)。
先程、ここまでの戦いを見ていたと言っていたことから、僕達の新たなの手の内は把握されているということだろう。
更にヴァルスは自身とほぼ同じと言った。
つまり、それは―――――。
「ええ、その通りですよ木場祐斗殿。私は本体とほぼ同じ能力を有しています。つまり、未来視と心を読む能力は持っていますよ」
僕の心を呼んだのだろう。
ヴァルス(分身体)がそう言ってきた。
僕は彼の言葉に頷いた。
「なるほど。僕としては本体と違う点を伺いたいですね」
「それは私を倒した後、本体に聞いてください」
中々難易度が高いね………。
でも、それはモーリスさんに任せようかな?
「ハァァァァァァッ!」
「ぜぁぁぁぁぁぁッ!」
既にモーリスさんとヴァルス(本人)との戦いは始まっていた。
モーリスさんの双剣とヴァルスの剣が衝突、火花を散らしている。
モーリスさんが剣を振るいながら叫んだ。
「祐斗! ゼノヴィア! イリナ! その分身体とやらを倒してみな! もし倒せなかったら修行を百倍にしてやらぁ!」
「ええ! 今のあなた達なら倒せるはずです! 期待していますよぉぉぉぉぉぉ!」
「あなたは何がしたいんですか!?」
なんで、ヴァルスまで僕達を応援してるの!?
本当に何がしたいの!?
あと、モーリスさんが鬼過ぎる!
あの修行を百倍ですか!?
死にますよ!?
「木場、イリナ、絶対に勝つぞ。流石の私でもあの百倍は嫌だ」
「ええ! 勝つわ!」
ゼノヴィアとイリナもこんなことを言い出す!
でも、僕も同じことを考えてしまったよ!
僕は聖剣創造を第二階層へと至らせ、紅の龍騎士団を生み出す。
ゼノヴィアは蒼炎のオーラを高めて、長髪状態へ。
イリナは黄金のオーラを放って、浄化の力を纏う。
オーラを纏う僕達にヴァルス(分身体)は笑み、剣を引き抜く。
「私達も始めましょうか。禁術によって造られた仮初めの存在ですが、私も『覗者』ヴァルスには変わりありません。私を倒すことはあなた方の未来へと繋がるでしょう。―――――倒してみなさい。そして、未来を掴みなさい」
睨み合う僕達。
次の瞬間―――――僕達三人とヴァルス(分身体)は同時に飛び出した!
まず仕掛けたのは僕だった。
紅の龍騎士を先攻させてヴァルス(分身体)にぶつけていく。
紅の龍騎士に思考はない。
つまり、ヴァルスが持つ心を読む能力は使えない。
紅の龍騎士達は連携を組んで剣撃を繰り出していく。
一体が攻撃に回り、一体が防御に回る。
それにより攻撃と防御を同時に行っている。
だが、ヴァルス(分身体)は軽々と龍騎士の攻撃を捌き、魔法を纏わせた剣撃で龍騎士を破壊する。
「なるほど、まずは作り出した龍騎士に私の技を学ばせようという腹ですか。破壊された龍騎士は私の力を学習、強化した状態で再生される、ですか。慎重ですね」
「僕は一度、あなたに破れている。慎重にもなりますよ」
再生した龍騎士をも破壊すると、一足跳びでこちらに斬りかかってくる!
上段からの剣を受け止めると、僕とヴァルス(分身体)は剣撃の応酬を繰り広げた。
くっ………やはり強い!
モーリスさんに鍛えられ、剣の腕も上がっているはずなんだけどね。
それを余裕で超えてくるとは………!
それに―――――
「うんうん、私の剣と撃ち合えるということはあなたの実力は相当上がっていますよ。まぁ、龍騎士によって私の力の情報を得たこともあると思いますが」
そう、龍騎士が得た情報は僕にもフィードバックされる。
それにより、僕は相手の実力を剣を交える前に知ることができる。
だけど、ヴァルス(分身体)の力は―――――。
「くぅ………ッ!」
ヴァルスの斬撃によって、僕は後方に弾き飛ばされてしまう!
一撃が重い……!
「あなたは少々、考えすぎですね。私とは相性最悪だ」
「分かっていますよ、そんなことは。剣聖にも指摘されましたからね。でも、僕は一人じゃない!」
「その通りだ!」
上空から聞こえてくる声。
見上げれば、ゼノヴィアが急降下でヴァルス(分身体)へと突撃していた。
彼女の剣気で黒く染まったデュランダルとエクスカリバー。
ゼノヴィアは二振りの聖剣をクロスさせて、強烈な斬撃をヴァルス(分身体)に叩き込んだ!
ヴァルス(分身体)は横に跳んで、それをかわすが―――――ゼノヴィアによる攻撃の余波がヴァルスを斬り裂いた!
服が破け、肩から鮮血が噴き出す!
これにはヴァルス(分身体)も驚愕していて、
「余波だけでこれほどとは………! 紙一重で避けるだけではダメだと言うことですか!」
「フッ、見たか、私のパワーを!」
「しかも、直前まであなたの接近を思考を読むことが出来なかったとは………。あなたは私にとって相性最悪ですね。これが真の脳筋………ッ!」
「それは私は何も考えていないというのか!?」
笑みから一転、涙目で反撃するゼノヴィア。
なんということだ………!
やはり、ゼノヴィアは何も考えてなかったのか………!
「やっぱりゼノヴィアは本物の脳筋だったのね! アーメン!」
「イリナ! そこでアーメンはやめてくれ!」
ヴァルス(分身体)に浄化の力を纏った矢を放つイリナと更に涙目のゼノヴィアだった。
▽
僕達三人とモーリスさんの剣士メンバーが戦っている横では他のメンバーとラズルの戦いが幕を開けていた。
「ヴァルスのやつめ、剣聖とのサシの勝負とあの剣士三人組との戦いをとことん楽しむつもりだな? 俺も分身体作っときゃよかった………って、俺、魔法使えねーか」
ラズルはリアス前部長達を見渡しながら、ため息を吐いた。
今の口ぶりだと、ヴァルスのように分身体を作っていないようだ。
数では圧倒的にリアス前部長が有利。
だが………。
「イッセーの一撃を受けても倒れない防御力。リーシャがいるとはいえ油断は出来ないわね」
滅びの魔力を手元に溜めながらリアス前部長が言った。
リーシャさんがライフルビットとシールドビットを全て展開する。
「気を付けてください。アグレアスで一度、手合わせしましたが、彼は手の内をまだ隠しています。そして、それは間違いなく私一人では抑えきれないものでしょう」
「リーシャがそこまで言うなんてね………」
リーシャさんの言葉にリアス前部長達の表情が一層厳しくなる。
前衛に闇の獣と化したギャスパー君と白音モードの小猫ちゃん、ワルキュリアさん。
中衛にレイナさんとレイヴェルさん、リーシャさん。
後衛にリアス前部長と朱乃さん、ロスヴァイセさん、そして回復役のアーシアさんだ。
彼女達がフォーメーションを組んだのを確認するとラズルは言った。
「ヴァルスの奥の手が見られるまでには時間がかかるしなぁ。ここは一つ、おまえ達のド肝を抜きにいってみるか?」
次の瞬間――――――ドンッと衝撃が広がり、大地が揺れ始めた!
立っていることがやっとだ!
ラズルを中心に莫大なオーラが広がり、彼を中心に地割れが発生していく!
「オオオオオオオォォォォォォォアアアアアアァァァァァァァァァッッ!」
ラズルが雄叫びを挙げる。
とてつもない声量だ。
耳を塞いでいるというのに鼓膜が破れそうだ。
すると、ラズルの肉体に変化が訪れる。
オーラに包まれた彼の体が徐々に大きくなっていく。
彼の着ていた服が避け、鍛え上げられた肉体が露になる。
そして、露になった肌から赤い体毛が生え、ラズルの全身を覆った。
更に髪が伸び、彼の腰元まで達した。
「フー……フー……待たせたな」
変化が終わり、ラズルが顔を上げると、彼の目元には赤い隈取りが浮かび上がっていた。
目が開かれ、彼の瞳が戦場を捉えた瞬間―――――。
「なに、これ………?」
レイナさんは冷や汗を流して、一歩後ずさった。
彼女だけじゃない、ラズルと対峙しているメンバー全員がラズルに呑まれている。
なんだ、あれは………。
なんなんだ、この体の震えは………!
モーリスさんと斬りあいながら、ヴァルスが言う。
「それは純粋な恐怖ですよ、木場祐斗殿。絶対的な強者と相対した時に本能が感じ、沸き上がってくるもの。『破軍』ラズルの真の姿は相手に恐怖を抱かせる。それがどんな相手でも。恐怖の度合いはその人によって大小ありますがね。かのロスウォードの時もそうだったでしょう?」
確かにこの感覚は初めてロスウォードと出会った時と似ている。
変身を遂げたラズルが口を開く。
「『
次の瞬間、ラズルの姿が消える。
僕には彼の動きが見えなかった。
唯一見えていたのはモーリスさんだけで、
「避けろ、リーシャ!」
その警告が届く前に全ては終わっていた。
僕が見たのは僕達にとって信じられない光景で―――――。
「あ………」
リーシャさんの左腕が宙を舞った。
[木場 side out]