[リアス side]
「リーシャ!」
私の悲鳴が周囲に響く。
この場の誰もが目を見開き、その光景に息を呑んだ。
―――――リーシャの左腕が宙を舞い、地面に落ちる。
それはあまりに衝撃的な光景だった。
彼女の実力は折り紙つき。
私達もその力を目の当たりにしている。
そんなリーシャが何もできずに腕を吹き飛ばされた………?
「ち、治療します! リーシャさん!」
アーシアが手元に淡い緑色のオーラを集めて、立ち尽くすリーシャに駆け寄ろうとした。
しかし―――――。
「その必要はありませんよ、アーシアさん」
その声は上から聞こえてきた。
見上げるとそこには―――――左腕を失ったはずのリーシャが宙に佇み、こちらを見下ろしていた。
しかし、私達の目の前にもリーシャはいる。
こちらはラズルによって左腕を吹き飛ばされたまま。
「ど、どういうこと………? リーシャが二人………?」
疑問を口にする私だったけど、その答えはすぐに出た。
―――――左腕を失ったリーシャの体にヒビが入り、全身に拡散。
彼女の体が砕け散った。
「これは………氷?」
ロスヴァイセの呟きに上空に佇むリーシャが笑みを浮かべる。
「ええ。今そこにいた私はフィーナの力で作り出した氷の分身。ただの人形です。まぁ、モーリスの警告がなければ、本当に私の腕は無くなって、早々に戦線離脱していたでしょうけど」
―――――っ!
あの一瞬で氷の分身で身代わりをしていただなんて!
状況判断の速さは流石としか言えないわね………。
それに彼女が契約している妖精、フィーナとの連携も凄まじいの一言ね。
リーシャの視線が変身したラズルへと向けられる。
彼女は目を細めて言った。
「まさか、切り札の一つをいきなり使うはめになるとは思いませんでした。恐るべきスピードと攻撃力ですね。今のあなたは以前より増して脅威です」
「ガハハハ、そりゃ、こっちの台詞だな。あれを避けられるとは思わなかった。だが、同じ技が二度通じるとは思うなよ?」
「分かっていますとも。その前にあなたを倒します」
銃口がラズルへと向けられたと同時にレーザーが放たれる。
上級悪魔でさえ一撃必殺と成る攻撃が一斉に、何発も敵であるラズルに降りかかる。
アグレアスの時は目を撃ち抜き、肩を貫いた。
一撃で撃ち抜けないのなら、同じポイントに何度もぶつければ良いというリーシャの離れ技によって。
しかし、降り注いだ光の雨はラズルに衝突した瞬間に弾けて消え去った。
それを見て、リーシャが呟く。
「なるほど、防御力も遥かに向上しているようですね。ますます相性最悪です」
《ならば、僕が行こう!》
リーシャの声に最初に応じたのはギャスパーだった。
闇の巨体で素早くラズルへと詰め、豪腕を振るう。
打ち出した拳が、蹴りがラズルにぶつかる度に轟音が響く。
イッセー仕込みの肉弾戦は相手を徹底的に破壊する。
だけど、そんな攻撃を受けてもラズルの体は微動だにしない。
防御もせず、ただギャスパーの攻撃を一方的に受けている。
《………っ! 僕の攻撃をまともに受けているのに………!》
驚愕するギャスパーは口から闇の塊を放つが、それすらも嬉々として受けている。
「いいねぇ、籠った拳だ。大抵の奴ならその一撃で屠れる。だが―――――」
ラズルが拳を握り―――――ギャスパー目掛けて繰り出した!
巨大な拳がギャスパーが纏う闇の衣を貫き、あの巨大を地面に叩きつける!
その衝撃で大地にクレーターが咲き、剥がれた地面の塊が浮き上がっていった!
「なんて破壊力………!」
砂埃がおさまり、見えてきたのは地面に埋もれ、闇の衣が薄れたギャスパー。
《ガハッ………》
ギャスパーは血の塊を吐き出した。
生身にダメージが達したというの………!
アーシアが即座に回復のオーラを送ったから、ギャスパーの傷は塞がったけど………。
「今度はおまえ達だ」
ギャスパーをその場に放置したラズルが猛スピードでこちらへ飛んでくる!
あんな強烈な一撃を受ければ、もたない!
なんとかして、ラズルの攻撃から逃れようとするが、防御魔法陣で受けたところでガラスのように壊されるのがオチだろう。
そうなると、全力で避けるしか他ない。
しかし、ラズルのスピードはとても振りきれるものじゃない。
どうすれば………!
その時、私は周囲の異変に気がついた。
見れば周りの空間が揺らいでいて、何か影のようなものが幾つも立ち上っていた。
ラズルのターゲットに選んだのは朱乃。
あの豪腕が朱乃を捉え、細い体を砕く―――――ことはなかった。
ラズルの拳が朱乃に当たった瞬間、その空間がぐにゃりと歪んで、ラズルの攻撃は虚しく空を切った。
「こいつは………。なるほど、そういうことかい」
ラズルが周囲を見渡しどこか納得したように頷いた。
彼の周囲にあったのは何十、何百という私達の姿。
分身だ。
私や朱乃が何かをしたわけじゃない。
リーシャが言う。
「蜃気楼。一帯の空気を調整して作り出した分身です。サリィの力があれば、これぐらいは容易いこと。更に小猫さんの仙術………いえ、この場合、錬環勁気功の範疇なのでしょうね」
「イッセー先輩に教えてもらった技と姉様に教えてもらったことを自分なりにミックスしました。分身一体一体が気配を持っているので、識別は困難です」
そう、これはリーシャと小猫の合わせ技で作り出した気配を有する分身。
あの修行空間で得た切り札の一つで、アセム眷属を相手取ることを想定して編み出した技。
だけど、この状況でラズルは不敵に笑んで見せた。
「確かに本物を見分けるのは難しいが、そんなもん関係ねぇな!」
ラズルが地面を殴り付けると、まるで大地震が起きたかのように大地が激しく揺れた。
その余波でリーシャと小猫が作り出した分身まで消えてしまう。
「無茶苦茶だわ………!」
私達は冷や汗を流しながらも、連携を取って攻撃を仕掛ける。
だけど、その全てをラズルは嬉々として受け、無傷で歩を進めてくる。
白音モードの小猫が飛びだし、自身の回りに火車を幾つも展開する。
放った火車が弧を描いて迫り、ラズルを襲う。
だが、その火車すらもラズルは正面から受け止めてしまう。
その光景に小猫が驚愕の声を漏らした。
「そんな………! 浄化の力が効かないなんて………」
《動きを止めますっ!》
回復したギャスパーの瞳が赤く輝き、ラズルの動きを停止させようとする。
しかし――――それすらもラズルは破って見せた。
ラズルは首を回しながら言う。
「その力は俺には通じない。なぜだか分かるか? それだけ、力の差があるってことだ」
それならばと、小猫は拳に気を込める。
外部からの攻撃が効かないのなら、内側から破壊しようというのだ。
「まぁ、そうくるよな」
上から振り下ろされる豪腕が小猫へと迫る―――――が、その拳は小猫に届く直前に止まった。
見れば、ラズルの腕に鎖が巻かれ、腕の内側には焼けた跡がある。
鎖を辿った先にいるのはワルキュリア、ラズルを挟んで反対側にはリーシャ。
二人の連携でラズルの攻撃を止めたのだろう。
そこへ小猫の気を纏った掌底が放たれる。
腹へと撃ち込まれた気がラズルの動きを僅かに止める。
ラズルの動きが止まった瞬間、私は滅びの魔力を、朱乃が雷光を、レイナが光の槍を、ロスヴァイセが魔法のフルバーストを、レイヴェルがフェニックスを模した業火を放った。
加えて、リーシャによる一斉射撃。
怒濤の一斉攻撃がラズルを包み込んだ。
引き金を引きながらリーシャが叫ぶ。
「止めてはいけません! この程度で倒れる相手ではありませんから!」
「分かっているわ!」
私は手元に滅びの魔力を圧縮に圧縮を重ね、魔力に変化を加える。
皆が攻撃の手を止めない中で私は修行で得た新たな必殺技を作り出す!
その技が完成した時、私はリーシャに叫んだ。
「いけるわ!」
「了解です!」
その瞬間、リーシャの周囲で飛んでいたライフルビットとシールドビットが陣形を組始める。
二十八に及ぶビットがリーシャの正面に配置され―――――。
「リアスさん! 私達と一緒に!
「皆、伏せて!
リーシャから放たれる全てを消滅させる光の奔流と私が投げた滅殺の魔星。
性質の異なる滅びがラズルを呑み込んでいった―――――。
▽
滅びの嵐が巻き起こっていた。
私の技とリーシャの技が混ざり合い、絶対ともいえる力がこの一帯を破壊し尽くしている。
それは時間が経過した今でもおさまることなく、永遠と破壊と滅びを繰り返していく。
その光景を眺めながら、リーシャは私の横に降りてきた。
私はリーシャに問う。
「やったと思う?」
「どうでしょうね。本来なら抗うことが出来ない力を重ねがけしていますが………」
「倒しきれていない可能性もあるってことね。それが本当なら嫌になるわ」
未だに渦巻く滅びの光。
あの中では幾千、幾億もの滅びの刃がラズルを斬り裂き、その身を消滅へと導いているだろう。
出来れば、このまま………。
「………っ! やはり、ダメですか………」
途端にリーシャが厳しい表情で光の中を睨んだ。
次の瞬間―――――全てを滅ぼすまで消えないはずの光は内側から破壊され、かき消されてしまった。
それと同時に尋常ではないプレッシャーが私達を襲う。
「しっかりしていなければ、気を失ってしまう………!」
地面が擦れる音が聞こえ、それは徐々にこちらに近づいてくる。
現れたのは悠然と歩いてくるラズル。
所々から血が流れているから、全くダメージがない訳ではないのでしょう。
だけど、あんな僅かな傷しか与えることが出来なかっただなんて………!
「ガハハハ! 今のは中々だったぜ? この姿になってなかったら危なかったかもしれねぇな」
豪快に笑うラズル。
彼は笑いながらこちらに手を突き出し、
「次は俺の番だな」
その言葉と同時に私達は何かに掴まった。
自分の意思とは無関係に体がラズルの方へと近づいていく!
「引き寄せる力ね………! それなら!」
アグレアス戦でリーシャがやったように私達は連続で攻撃を放った。
引き寄せる力は時として諸刃の剣となる。
引力で勢いを得た攻撃はラズルへとぶつかり、爆発するが………。
ラズルには全く堪えている様子がなかった。
「悪いが今のおまえ達の攻撃じゃ、俺には届かねぇな。せめて、さっきくらいのをしてもらわねぇとな!」
ラズルが合わせた掌にエネルギーが集まっていく。
それは異質なほど濃密で―――――。
「―――――吹っ飛べ」
ラズルがそう告げた瞬間、それは弾けた。
引き寄せる力がいきなり逆転、私達を塵紙のように吹き飛ばし、地面に次々と叩きつけていく。
私も、朱乃も、ラズルと対峙していた皆が今の一撃だけでボロボロになってしまっていた。
叩きつけられた衝撃で息が………っ。
恐らく、骨にヒビが入っている。
「こんなことで………! カハッ」
私は耐えきれず血の塊を吐き出した。
手足が痺れて力が入らない。
リーシャですらも今の衝撃波で深いダメージを負ったようで、立つことがやっとという雰囲気だ。
「皆!」
ヴァルスと対峙しているゼノヴィアがこちらにかけつけようとするが、ヴァルスがそれをはばむ。
「あなたの相手は私ですよ?」
「邪魔だ! そこをどけぇ!」
祐斗、ゼノヴィア、イリナの三人がかりでヴァルスの分身体に挑んでいるけど、こちらも戦況はあまり良いとは言えない。
三人は全身に傷を負い、肩で息をしているのに対してヴァルスの分身体はそこまでの傷が見えない。
三人がかりでもまだヴァルスが推している。
「リアスお姉さま! 皆さん!」
禁手となったアーシアが黄金のオーラを広げて私達の回復を急ぐ。
そのお陰で動けるようにはなったけれど、危機的な状況は変わらない。
ラズルは私達を見下ろして告げる。
「退きな。おまえ達と俺とでは力の差がありすぎて勝負にならねぇ。たとえ、赤瞳の狙撃手だろうが、あんたの攻撃力じゃあ、今の俺を倒すのは無理だ」
「悔しいですが、あなたの言う通りです。先程の攻撃をまともに受けて倒れないのなら、私達にはあなたの防御力を上回る手がありません。ですが―――――」
回復が終わり、立ち上がるリーシャ。
そんな彼女も至るところが傷だらけ。
彼女の周囲には破壊されたライフルビットとシールドビットの数々。
残っているのは手持ちの魔装銃が一丁だけ。
それでも、彼女の瞳にはまだ火が灯っていた。
「退くわけにはいかないのです」
「あんたはもっと頭が良いと思ったんだがな。その判断は間違ってるぜ?」
「ええ、分かっていますとも。本当ならここで退き、体勢を整えるのが正しいのでしょう。ですが、私達にはもう後がない。ここで退けば、そこで全てが終わってしまう」
リーシャは魔装銃を構えると、その銃口をラズルへと向けた。
「この戦い、負ければそれまで。私達は未来を掴むために、あなたに勝ちます」
その通りだわ。
私も、倒れてばかりではいられない。
必ず勝って、あの家に帰ると約束した。
皆と一緒に誓った。
だから………!
痺れる体に鞭打ち、立ち上がった私は持てる全てを吐き出すように叫んだ。
「どれだけボロボロになろうとも! どれだけ可能性がなくとも! 私達は必ずあなたを吹き飛ばしてあげる!」
私は全身から滅びの魔力を滲ませた。
私に続くように眷属の皆も体からオーラを発し、膨らませていく。
そんな私達を見て、ラズルはため息を吐いた。
「やれやれ………既に見えている勝負。ボロボロの相手を殴るのは嫌なんだがな。だが、その気概に応じなければ、おまえ達の誇りを、想いを踏みにじることになる………か。しょうがねぇ………」
ラズルのオーラが一段上がる!
彼から放たれる赤熱のオーラは天を穿ち、地を割る!
どれだけ力が高まると言うの………!?
「本気も本気だ。恨むなとは言わねぇ」
刹那、ラズルの姿が消え―――――私の前に現れた。
「リアス! 逃げて!」
朱乃の声が耳に届く。
だけど、私の体は動いてくれなくて―――――。
「終わりだ、紅髪の姉ちゃん。あんたを止めれば、少なくともあんたの眷属は止まってくれるだろう?」
ラズルの巨腕が振り下ろされる―――――。
「悪いが、俺の親類なのだ。手を出してもらっては困るな」
その声が耳に入った瞬間、ラズルの巨体が横合いから飛んできたそれによって吹き飛ばされた。
ラズルは空中で一回転して、難なく着地するが、自分を吹き飛ばした者の登場に笑みを浮かべた。
「ほぉ………ここでおまえさんが来るのかい」
ラズルの視線の先に立つのは黄金の獅子を纏った男性。
私も彼の登場には驚きを隠せなくて―――――。
「サイラオーグ………来てくれたのね」
バアル眷属が駆けつけてくれたのだった。
[リアス side out]
~予告~
世界滅亡まで残り僅か。
神をも退ける圧倒的な理不尽によって、世界は蹂躙されていった。
人々は抗う術を失い、彼らを絶望が支配する。
誰もそれには敵わない。
何人たりともそれを退けることは出来ない。
だが、それでも、立ち上がる者はいる。
世界の危機に彼―――――否、彼女は立ち上がった。
ラブリーな衣装を纏い、拳で敵を打ち砕くその姿はまさに漢の娘。
弱き者を守るため、漢の娘は激戦に身を投じた。
全ては彼女に委ねられた。
彼女は世界の命運をかけて、その拳を振るう――――。
「悪い人はミルたんが許さないにょ!」
『ハイスクールD×D 異世界帰りのミルたん』近日公開
―――――君はまだ本当の
※ウソ予告です(笑)