[木場 side]
『フハハハハハ! よくも我輩を侮辱してくれたな! 最近、胸まで筋肉で硬くなっていないか気にし始めた脳筋娘と、夜な夜な甘い妄想に耽り、一人いかがわしい行為をしている自称幼馴染みのエロ天使よ!』
異様な気配を滲み出し、瞳を赤く不気味に輝かせるヴァルス(分身体)。
彼から感じる波動は先程とはまるで別人。
そう、先程、ゼノヴィアとイリナからイジメ………コホン、精神攻撃を受ける前の紳士的な雰囲気は皆無だった。
「な、ななななんで、そのことを知って………って、そうさじゃなくて! してないもん! い、いいいいかがわしいことなんてしてないもん!」
ヴァルス(分身体)の言葉に酷く狼狽えるイリナ。
目がぐるぐる回り、声も裏返っている。
………なんて分かりやすい。
「わ、わわわわ私の胸は柔らかいぞ! か、硬くなんてなってない! い、イッセーだって、柔らかいって言ってくれているんだ! い、いいいいかげんなこと言うなぁぁぁぁ!」
君もか、ゼノヴィア………。
あと、そういうことはこんな公の場で叫ぶことではないと思うんだ。
『フハハハハハ! 中々の羞恥感情、うむ、美味である! 我輩を侮辱した罪、貴様らの羞恥心を以て償ってもらうとしようか! フハハハハハ!』
それはそれは可笑しそうに笑うヴァルス(分身体)。
とてもじゃないけど、今の彼を見て、ガラスのハートの持ち主とは思えない。
この変化はいったいなんなんだろうか?
すると、そんな僕の疑問に答えるようにモーリスさんと斬り合っているヴァルスが言った。
「それは内なる私と言いますか………。私の精神がとことんまで追い詰められた時、内なる私が目を覚ますのです」
「それはあなたがより強くなるということですか?」
「戦闘力的には変わりません。ただ、精神力が強くなると言いますか………相手の恥ずかしい過去を覗き、暴露し、自身をおいつめた相手に復讐してしまうのですよ。そして、あいての羞恥心を感じて悦ぶようになるのです」
「性質が悪すぎる!」
どんな強化なんですか、それは!?
相手の恥ずかしい過去を暴露って、倍返しなんてレベルじゃないと思うんですけど!
僕が心の中で叫んでいる間も、覚醒したヴァルス(分身体)は高笑いと共に自身を追い詰めた二人への復讐を始める。
ヴァルス(分身体)は左右の指をL字にして、組み合わせると、イリナを指フレームの内側に捉えた。
『見える、見えるぞ、そこのエロ天使よ。ほうほう、どうやら屋外プレイというのにハマっているようではないか』
「いやあああああああああ! やめてぇぇぇぇぇぇ!」
耳を塞ぎ、絶叫するイリナ!
だが、ヴァルス(分身体)は追い討ちをかける!
『ラブルームとやらに一人忍び込み、なにやら色々と試しているようであるな』
「なにぃ!? イリナ、そんなことをしていたのか! 流石はエロ天使だ!」
「ゼノヴィアも聞かないでぇぇぇぇぇぇ!」
『しかも、甘いものを食べ過ぎたせいで体重が――――――』
「イヤァアアアアアアアアアア!?」
鼓膜が破れそうな程、絶叫するイリナ。
ヴァルス(分身体)はイリナの反応に笑みを浮かべると、次はゼノヴィアを指差した。
『そこの脳筋娘』
「脳筋ではない! わ、私は知られて困ることなど―――――」
『つい数週間前、風呂場の洗濯籠に入っていた兵藤一誠の衣服の匂いを嗅いでいたであろう? ついでに言えば、そのまま一人で慰めていたであろう?』
「なぁあああああああああ!?」
「ゼノヴィア、そんなことしてたの!?」
『兵藤一誠の汗の匂いを嗅ぐと体のうずきが止まらなくなるのはなぜか。さぁ、答えてみるがいい』
「や、やめろぉおおおおおおおおおお!」
頭を抱えてしゃがみ込むゼノヴィア。
なんというか…………君達は揃いも揃って何をしているんだ!?
『脳筋娘よ、貴様に問おう。洗濯籠に放り込まれていた元シスターが着ていた白いワンピース。これをコッソリ自分の体に当て、鏡の前でちょっと嬉しそうにしながら、「うん、これは………ないな。私には………うん、ないな」とぶつぶつ言っていたのはなぜか。しかも、自分でこれはないと言いながら、鏡の前でニッコリと微笑んでいたのはなぜか。そして、頬を染めてキョロキョロ周囲を確認し、気配がすると慌てて洗濯籠に戻して、その場から逃げるように部屋に戻ったのはなぜか』
そんな細かいところまで分かるのか!
なんて恐ろしい力なんだ!
『覗者』ヴァルス………いや、ここは覚醒ヴァルスとでも言うのか。
強い、強すぎる。
ゼノヴィアとイリナがしていた小学生のような悪口とはレベルが違う。
相手の知られたくない過去をその場で暴露する。
しかも自身の能力をフルに活用してだ。
あのゼノヴィアが顔を真っ赤にし、耳を塞いでいる。
それだけでこの言葉攻めがどれだけの威力を発揮しているかが分かる。
ゼノヴィアが涙目になりながら、ぶつぶつと何かを呟き始めた。
「ううぅ………わ、私にはアーシアが着ているような可愛らしい服は似合わないし………。でも、着てみたい気持ちはあって………。見かけてつい試したくなって………ぅぅぅぅ………ごめんなさい………」
赤い顔を両手で覆い、震え声で謝るゼノヴィア。
べ、別に謝る程のことではないと思うけど………。
うん、君も乙女だったってことだね。
この戦いが終わったら、イッセー君と服を買いに行くと良いよ。
『脳筋娘よ、石鹸をチーズと間違えて食べてしまったそこの脳筋娘よ』
「脳筋脳筋言うな! そ、それにあれは数年前の話だ!」
食べてしまったことは否定しないんだね!
一体、どんな状況だったんだろうね!
というより、ゼノヴィアへの当たりが強くありませんか?
やはり、イジメ………精神攻撃を始めた張本人だからだろうか………?
何かしらの反撃をしたかったのだろう。
ゼノヴィアは涙目のまま叫んだ。
「それ以上言うなら私も言い続けるぞ、ジミー!」
『フハハハハハ! 今さらそんな言葉が我輩に通じるわけがないであろう! 腹筋が異常に割れてきたことを気にし始めた脳筋娘よ! 兵藤一誠に裸体を見られるときは手でさりげなく隠しているのだろう?』
「な、ななななあああああああああ!?」
カウンターをくらってるじゃないか!
気にしなくていいよ、ゼノヴィア!
たくさん修行したんだ!
腹筋ぐらい割れるよ!
『この羞恥心、美味である! 美味であるぞ! フハハハハハ!』
うん………もうこの人、敵なしだと思うのは気のせいだろうか。
ま、まぁ、目の前にいるのはあくまで術で創られた分身体なんだけど………。
でも、そうなると本体も覚醒するとこんな感じになるわけで………。
口は災いの元ということなのか、何事も自分に返ってくるということなのか。
どちらにしても、僕に彼女達の弁護は出来ないかな………。
この状況で出来ることがあるとすれば、ツッコミくらいだし。
ひとしきり笑ったヴァルス(分身体)。
それはもう満足そうな、スッキリしたような表情だった。
ヴァルス(分身体)と傍観していた僕と目が合う。
すると、彼は元の落ち着いた口調で話しかけてきた。
「コホン………さて、少しスッキリしたところで」
「あ、元に戻ったんですね」
どうやら、元の性格に戻ってくれたらしい。
こちらとしてはその方が話しやすくてありがたい。
ヴァルス(分身体)は意味深な笑みを浮かべると口を開いた。
「そう言えば、一つ言い忘れていたことがありました。各勢力のトップ陣の計画、動きを封じたトライヘキサをどうするか。その内容は「D×D」のメンバーも知らされていないのでしょう?」
「………ッ!? なぜ、それを………!?」
封じたトライヘキサをどうやって倒すか。
それはここに来るまでに僕達の中であった懸念事項だ。
トライヘキサの動きを封じる結界を構築したロスヴァイセさんですら知らされていない、各勢力トップ陣だけが知る計画。
まさか、彼の口からその計画に関することが出てくるとは思わなかった。
驚く僕にヴァルス(分身体)はニヤッと笑む。
「なにも驚くことではないでしょう? 私の能力は一瞬先の未来を覗き、他者の心の内を覗くこと。各勢力の情報など容易く手に入る。そもそも私の能力は他の三人と比べると戦闘向きではないのです。どちらかと言うと諜報で真価を発揮する。父アセムもそれを期待して「覗者」の力を私に与えたのです」
「なるほど………どんな機密事項でもあなたの覗き見る力があれば余裕で知ることが出来る」
「その通り。それ故に私はトップ陣の計画を知っています。―――――隔離結界領域」
隔離結界領域………?
聞いたことがない単語だ。
「レーティングゲームの技術と魔王アジュカ・ベルゼブブが運営している『ゲーム』のノウハウ、天界の神器システムと奇跡を司る神の『システム』、北欧の世界樹ユグドラシルの理、グリゴリの研究成果、そして、元ヴァルキリーの彼女が構築した結界術式の研究成果。ありとあらゆる技術を用いて作り上げられた世界であり、トライヘキサ専用の檻です。彼ら各勢力のトップ陣は結界領域内でトライヘキサを倒すつもりなのですよ。―――――自らを犠牲にしてね」
「なっ………!?」
驚く僕達を前に、ヴァルス(分身体)は話を続ける。
「犠牲、というのは少し語弊があるかも知れませんね。確実に死ぬとは限らない。ですが、無傷という訳にもいかないでしょう。それだけあの怪物は規格外だ。各勢力のトップ陣は結界領域内で何千、何万年とトライヘキサが滅びるまで戦い続ける道を選んだ。そして、結界領域内に入るのメンバーの中には紅髪の魔王サーゼクス・ルシファーを含めた魔王三名と堕天使前総督アザゼル、天使長ミカエルも含まれています」
「「「――――――ッ!」」」
その情報はあまりに衝撃的だった。
同時に僕は理解した。
先生が言っていたとっておきの作戦とは、トップ陣がトライヘキサと共に隔離された領域に封じられることだったということを。
………サーゼクス様もミカエル様も、アザゼル先生も………僕達にとって大切な人達がそんな………。
イリナが呆然としながら呟く。
「嘘でしょ………私、ミカエル様からは何も………」
「ええ、そうでしょうね。ここまでに起きた争乱の数々。あなた方のような若者が前に立ち続けてきた。だからそこ、彼らは決意したのですよ。世界を守るがため、あなた方を守るがために今度は自分達の番だと」
「………ッ!」
ヴァルス(分身体)の言葉にイリナは目を見開き、その場に崩れ落ちた。
敬愛するミカエル様がトライヘキサとの永き戦いを覚悟し、隔離結界領域へと旅立とうとしている。
それが彼女にとってどれだけ辛いことか。
僕もサーゼクス様には恩義がある。
魔王様としても、一個人としてもあの方には心から敬意を抱いている。
だからこそ………。
いや、僕よりもリアス前部長がこのことを知ったら………。
大切な人達が目の前から去っていく。
僕達を守るために、全てを守るために。
そんなこと―――――。
「そこで考え込む時間があるのですか?」
衝撃に呑まれていると、ヴァルス(分身体)は声をかけてきた。
ヴァルス(分身体)は僕達一人一人の目を見ながら言う。
「考えて何になるというのです? そんな暇があるのなら、止まっている暇があるのなら………失いたくないのなら、目の前の理不尽を打ち砕いてみなさい。大切なものがあるのなら、立って、剣を握り、前を見なさい」
ヴァルス(分身体)は剣を構え、切っ先をこちらに向けて、
「――――――絶望するにはまだ早すぎる。そう思いませんか?」
………なんだろうね、この状況は。
敵に………それもこの戦いを引き起こした人に奮い立たされるなんてね。
道理で憎めないわけだ。
僕は………僕達は立ち上がった。
剣を握り、前を見た。
失いたくないのなら、立って、剣を握り、前を見ろ。
その通りさ。
まだ僕達には出来ることがある!
立ち上がった僕達にヴァルス(分身体)はフッと微笑んだ。
「ええ、それでこそです。―――――来なさい」
一瞬、ほんの僅かな時間、時間が停止する。
周囲の色が、各地から聞こえてくる激戦の音が消え去り、目の前の敵しか映らなくなった。
そして――――
「「「ハァアアアアアアアアアッッ!」」」
僕達は一斉に駆け出した!
猛スピードでヴァルス(分身体)に突撃し、剣を振るう!
僕達は三人とも『
それも今までで最も高いレベルで。
僕達はこれまでと同じく三人の連携を取った。
僕が斬り込み、イリナがサポートをし、ゼノヴィアが圧倒的なパワーで押し込む。
相手が相手だ、同じ手が通じるわけがない。
それは分かっている。
だけど、今のこの連携は同じじゃない。
振るっていて分かる。
自ら振るう剣の速さ、一撃の重さが増している。
それだけじゃない、ヴァルス(分身体)の剣捌きが読めるんだ。
今まではかわしきれなかった剣撃も今なら………!
ヴァルス(分身体)の剣がイリナの攻撃を弾き、彼女を後ろへと吹き飛ばす。
だが、イリナは空中で回転しながら、浄化の力を纏った聖なる力を鞭状に変え、高速で振るった。
「その炎の剣、もらうわ!」
しなる黄金の鞭が、ヴァルス(分身体)が握っていた炎の剣を弾き飛ばした!
「なんと………! ですが、まだまだ!」
ヴァルス(分身体)は僕の攻撃を剣で受け止めると、反対側から迫るイリナのオートクレールを鞘で受け止めた!
僕達三人の猛攻を剣と鞘で捌くヴァルス(分身体)。
だが―――――。
「………ッ!」
僕の聖魔剣がヴァルス(分身体)の頬を掠め、ヴァルス(分身体)は目を見開く。
腕も足も掠り傷程度だけど血が滲み出ている。
そう、徐々にだけど、僕達の攻撃は彼に届き始めていた。
一瞬先の未来を見る力と相手の心を読む力。
これを攻略する方法、それは一瞬先の未来を見られても、心の内を知られても回避できない攻撃を繰り出すこと。
流石に今の僕達にはモーリスさんのような無茶苦茶な力はない。
だけど――――――。
「いくよ、ゼノヴィアッ!」
僕はゼノヴィアとヴァルス(分身体)に目掛けて短剣型の聖魔剣を投げた。
ヴァルス(分身体)は軽やかに避けたので、一本は地面に突き刺さる。
もう一本はゼノヴィアの体に触れて―――――彼女を聖魔剣が刺さった場所へ強制的に転移させた。
これはリアス前部長の新技に使った触れた相手を転移させる聖魔剣。
転移できる場所は同じ力を持つ聖魔剣がある場所。
つまり、この一帯にその能力を持つ聖魔剣をばら蒔くと、その聖魔剣がある場所に自由に転移できる。
そして、この力は応用の幅はかなり広い。
攻撃を飛ばすだけでなく、今のように人も飛ばすことが出来る。
ヴァルス(分身体)の背後を取ったゼノヴィアは凶悪なオーラを纏わせたデュランダルとエクスカリバーを振り上げた。
「一人では無理でも、仲間とならおまえを超えられる! これで決めさせてもらうぞッ!」
放たれるのはゼロ距離でのクロス・クライシス。
空間をも破壊するゼノヴィアの必殺技。
蒼炎を纏うゼノヴィアの砲撃を避けきれなかったヴァルス(分身体)は―――――。
剣に魔法を付与して、真正面から斬りかかった!
再度、衝突するクロス・クライシスとヴァルス(分身体)の剣!
だが、前回のような余裕はないようで、ヴァルス(分身体)が押され始めていた!
「まだよ!」
イリナがゼノヴィアの隣に立ち、黄金のオーラを刀身から放ち始める。
これが彼女が持てる全てなのだろう。
ゼノヴィアにひけをとらない程、力強い波動を放っている!
蒼炎と黄金のオーラが混ざり、更に膨らんでいく!
このまま、押しきれるか………!
だが―――――。
「ぬぅぅぅぅぅんッッッ!」
ヴァルス(分身体)は剣を横凪ぎに払い、二人の砲撃を遥か彼方へと弾き飛ばした。
オーラが着弾したところを目映い光が覆うが………。
「はっ、はっ、はっ………ふぅ。いやはや、今のは危なかった。良い攻撃でしたよ。あと少し、あと少しだけ私の対処が遅れていたら確実にやられていましたよ」
額に流れる汗を拭うヴァルス(分身体)。
そんな彼の言葉に僕達は唖然としていた。
ゼノヴィアが肩を上下させながら言う。
「なんて奴だ………あれを受け流すのか!」
今の攻撃は間違いなく、過去にない威力だった。
ゼノヴィアとイリナ―――――デュランダルとエクスカリバー、オートクレールの伝説の聖剣から放たれる砲撃。
それを受け流した。
まだ………届かないというのか………!
ヴァルス(分身体)は剣を納めると腰を沈めた。
あの構えは―――――。
「さて、私も必殺技というものを出してみましょうか。これを見せるのはあなた達が始めてです」
「「「………ッ!?」」」
ヴァルス(分身体)のオーラが膨れ上がる!
このプレッシャー………まるで、こちらの首を絞められているような感覚だ。
これは不味い………!
僕と同じことを考えたのか、ゼノヴィアが飛び出した。
「させんっ!」
デュランダルを振り上げ、ヴァルス(分身体)へと斬りかかる。
その刹那の瞬間、ヴァルス(分身体)は不敵な笑みを浮かべ――――――。
「
「なんで、このタイミングでシリアスブレイクゥゥゥゥゥゥッ!?」
僕のツッコミが天を貫いた。
[木場 side out]
~あとがきミニストーリー~
イグニス「イッセーの新必殺技を考えたわ」
イッセー「………嫌な予感しかしないけど、一応聞いとくよ。どんなの?」
イグニス「フフフ………その名も『ツイン
イッセー「ほらね! やっぱりきたよ! なんだよ、
イグニス「説明しよう! ツイン
イッセー「ごめん! 意味わかんない! ツッコミどころが多すぎる! つーか、威力半端無さすぎだろッ!?」
イグニス「―――――おっぱいは出ているわ」
イッセー「人の話聞けやぁぁぁぁぁぁ! って、もう出てんのかいぃぃぃぃぃ! ありがとうございます、眼福ですぅぅぅぅ!」
ドライグ「…………」
~あとがきミニストーリー 終~
うん、やはりシリアルか………。