ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝   作:ヴァルナル

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それなりにシリアス


40話 更なる高みへ

[木場 side]

 

 

「馬鹿な………」

 

ヴァルス(分身体)は信じられないといった表情を浮かべる。

彼の目の前に広がるのは、まるで爆撃でもされたような荒れ地。

地面は抉れ、土砂が散らばり、至るところで砂煙が上がっている。

そして、クレーターの中央に埋まっているのはぼろ雑巾のようにされた自身の本体―――――『覗者』ヴァルス本人だ。

 

アセムの眷属は全員が神クラスの力を持っていると言って良い。

派手な能力は持っていないものの、相手を見通す能力、磨かれた剣技、絶大な魔法は強力だ。

そのヴァルスがここまで圧倒された。

 

それを成したのは言うまでもなく………、

 

「さて、俺も参加しても良いか? 俺の教え子達にこれ以上、無理はさせられんのでな」

 

不敵に告げるのは『剣聖』モーリス・ノア。

異世界『アスト・アーデ』における最強の剣士だ。

 

ヴァルス(分身体)はモーリスさんと本体であるヴァルスを交互に見ると天を見上げて――――――。

 

「いや、順番おかしいでしょうがぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

頭を抱えて叫んだ!

 

ヴァルス(分身体)は本体に詰め寄ると襟首を掴む!

 

「なんで、私の本体であるあなたが先にやられてるのですか!? 今の展開って、普通、あなたがモーリス殿を追い詰めて、彼らのピンチを煽るところでしょう!? もしくは、分身体である私が倒されてから、あなたが敗れるのが王道展開でしょう!?」

 

そんな王道展開いらないよ!

というか、ツッコミ入れるところはそこですか!?

 

「いや、だって…………あの人、強すぎるんだもん………」

 

目をそらし、申し訳なさそうに言うヴァルス!

そうですね、モーリスさんが強すぎるんですよね!

 

そんな返しにヴァルス(分身体)はヴァルスの襟首を掴んだまま前後に激しく揺さぶり始める。

 

「そこはなんとかしてくださいよ! グダグダじゃないですか! どーするんですか、この空気!」

 

「そうは言ってもですね………見てくださいよ、あれ」

 

ボロボロのヴァルスが指差した向こうにあるのは―――――大地が、空が、空間そのものが真っ二つにされている光景。

地面の断面は鋭利な刃物で斬られたように綺麗で、空は赤い雲が空間の切れ目に生じた修正力で歪に変形してしまっている。

 

―――――世界そのものが斬られた、そんな光景に思えた。

 

ヴァルス(分身体)はポカンと口を開けて、その光景に言葉を失う。

そして、数秒後…………。

 

「………これはしょうがない」

 

「………でしょう?」

 

血で赤く染まった顔で苦笑するヴァルス。

どうやら、悪神の眷属でも剣聖の力は規格外らしい。

 

そんな彼らを見て、モーリスさんは言った。

 

「言わなかったか? 今の俺に斬れないものはねぇ。魔王だろうが、神だろうが、そんなものは関係ねぇ。こいつらの前に立ちはだかると言うのなら、俺は全てを降してやるよ」

 

ヴァルスが言う。

 

「………言ってないです」

 

「あら、悪い」

 

フッと笑むモーリスさん。

 

イッセー君………この人、チート過ぎるよ。

よくこんな人を眷属に出来たね………。

どうすれば、この人に勝てるのか見えてこない………。

 

だけど、モーリスさんがあそこまで傷を負ったところは見たことがない。

服は大きく破け、前は全開。

胸には深く刻まれた十字傷に皮膚が焼けただれている。

恐らく、ヴァルスが得意とする火炎の魔法を受けたのだろう。

出血が止まらず、今も赤い血が滴り落ちている。

明らかに重傷だ。

 

そんな僕の考えが分かったのか、モーリスさんは口を開いた。

 

「傷の痛みを耐えるのは戦いに身を置く者には至極当然のこと。これぐらい屁でもねぇよ」

 

そう言うと彼は血に染まった上着を脱ぎ捨てると目を細める。

 

「事情が色々と変わっちまったな………。あの怪物と共に隔離世界にいくだぁ? チッ、そういうことなら、俺にも一声かけてくれても良いだろうが、アザゼルの野郎。おまえがいなくなったら、飲み仲間が減って困るんだよ。つーかよ………」

 

モーリスさんはため息を吐く。

 

「おまえにも先が見たい奴はいるだろうに。その成長を間近で見ることが出来ない………そいつは思っているより淋しいものだぞ? まぁ、その隔離結界とやらにあの怪物が連れ込まれる前に全てを片付ければ良いだけのこと。なぁ、そうだろう?」

 

モーリスさんの言葉を受けて、ヴァルスが言う。

 

「あなたは………トライヘイサを斬るつもりで? あれを倒せると?」

 

「さぁな。ぶっちゃけてしまえば、あんな化け物倒せる奴がいるのかすら疑問だ。だが、やるしかあるまいよ」

 

モーリスさんの目付きが鋭くなる。

彼の殺気に耐えきれなくなったのか、ヴァルスの近くにあった、砂の塊にヒビが入り、爆ぜた。

剣気に覆われた双剣を握り、悠然と立つ姿からは消耗を感じられない。

あれ程の傷を負っていながら、ここまでの力を………!

 

「やろうか、分身体さんよ。見ての通り、傷は負っている………が、今の俺はおまえよりも強い」

 

「………ッ!」

 

闘志を向けられたヴァルス(分身体)が冷や汗を流しながら剣を構える。

 

畏怖している。

底の見えない目の前の剣士に。

 

モーリスさんとヴァルス(分身体)の戦いが始まろうとした、その時―――――

 

「―――――待ってくれ」

 

僕達の後ろから制止の声が聞こえてきた。

声の主は先程までモーリスさんに与えられた課題と向き合っていたゼノヴィア。

彼女はデュランダルとエクスカリバーを両手に握ると強い歩みでこちらに近づいてきた。

 

「まだ私達の戦いは終わっていない。これは私達三人の戦いだ」

 

そう言うとゼノヴィアは消えていた蒼炎のオーラを再び纏う。

オーラの復活に伴い、ゼノヴィアの髪が腰の辺りまで伸びた。

 

――――――『蒼炎の斬姫』。

彼女は再びその姿になったのだ。

 

「確かにモーリスが出れば勝てるのかもしれない。だが………ここで任せてしまったら、ここで守られてはダメなんだ」

 

この時、僕はゼノヴィアの雰囲気に違和感を覚えた。

いや、違和感と言ってしまうと少し違う。

―――――ゼノヴィアから感じる波動が聖剣のそれなんだ。

 

「モーリス、あなたは言ってくれた。私達の覚悟と可能性を信じると。ならば、今この時こそ信じてほしい。私は、私達は今こそ、立ちはだかる壁を破壊して見せる」

 

ゼノヴィアが纏う蒼炎のオーラに変化が訪れる。

その色はより深い蒼になっていた。

彼女の髪も、瞳の色も、より深く、より美しくなっていく。

見ているこちらが吸い込まれそうな………そう、深海のような深蒼。

 

深蒼のオーラを纏ったゼノヴィアはヴァルス(分身体)と対峙する。

 

『待たせたな、これが私の全てだ』

 

彼女の声音が違う。

まるで何人もの声が重なったような声。

 

彼女の新たな姿にヴァルスが言う。

 

「これは………なるほど。剣聖殿、あなたも中々に無茶をさせる」

 

問われたモーリスさんは頷く。

 

「デュランダルとエクスカリバー。こいつら伝説の聖剣には意思がある。それは剣そのものの意思でもあり、かつて、この聖剣達と歩んできた者達の意思も含まれている。ゼノヴィアはこの意思を自身に取り込み、本当に一つの剣となった。………下手すりゃ、流れてきた意思に自我を奪われかねないが………」

 

モーリスさんは深蒼に染まったゼノヴィアを見て、言った。

 

「こいつなら出来る、そう信じてのことだ。まぁ、かなりギリギリになっちまったがな」

 

ゼノヴィアが言う。

 

『………分かる。今まで、デュランダルとエクスカリバーの所有者がどんな道を辿ってきたのか。そこに籠められた想いも全てが理解できる』

 

次の瞬間―――――ゼノヴィアの姿がその場から消える!

彼女が立っていた場所は抉れ、土が舞った!

 

驚く僕の耳に入ってきたのは甲高い金属音。

振り向くと、そこではゼノヴィアとヴァルス(分身体)が激突していた!

 

ヴァルス(分身体)が驚愕の声を漏らす。

 

「これは………このスピードとパワーは………!」

 

『私は、持てる全てをおまえにぶつける! そして、必ず倒す! 私達はイッセーのもとに行くんだ! その道を阻ませはしない!』

 

二振りの聖剣が荒々しく振るわれる!

剣が降ろされる度、地面が抉れ、空間が悲鳴をあげる!

相手の剣と衝突すると、圧倒的な力で押し返している!

 

あのヴァルス(分身体)の剣が押されている………!

ゼノヴィアのパワーに力負けしているんだ!

 

苦い顔でエクスカリバーを受け止めるとヴァルス(分身体)が言う。

 

「このパワー………! あの技を砲撃として放たず、維持したまま剣を振るっているのですか!」

 

その言葉に僕は目を見開いた。

 

クロス・クライシスを放たずに、あの力を剣に纏わせたまま剣撃を繰り出しているのか!

確かに、それならばヴァルス(分身体)の剣であっても力負けしてしまうだろう。

そして、それを可能にしたゼノヴィアの進化。

二振りの聖剣と完全に、深い領域で繋がることでここまでの力を発揮できるとは………!

 

モーリスさんはあの聖剣達には、かつての所有者の意思も宿っていると言った。

そこには英雄ローランやストラーダ猊下も含まれているのだろうか………?

もしそうだとしたら、その力は未知数だ!

 

ヴァルス(分身体)は押されながらも、華麗な剣捌きでゼノヴィアの猛攻を捌きながら言った。

 

「確かにこれほどの力ならば、神にも届くでしょう。ですが!」

 

彼は魔法で自身の剣を強化すると、ゼノヴィアと競り合う格好となる。

 

「今のあなたはその力を長く維持することは出来ない。なぜなら、流れ込んでくる意思と力に、あなたの精神と肉体が耐えられないからだ。保っても数分が良いところでしょう。あなた一人で私が倒せますか?」

 

良く見るとゼノヴィアの口許には血が滲んでいた。

彼の言うように、あの力を維持するには相当な負荷がかかるようだ。

 

ヴァルス(分身体)の周囲に魔法陣が幾つも展開される。

そこから現れるのは無数の光の矢。

照準は当然、ゼノヴィア。

ヴァルス(分身体)の剣を受けながら、あれだけの数を捌くのはいくら今のゼノヴィアでも厳しいだろう!

 

放たれた矢がゼノヴィアを穿とうとした時―――――ゼノヴィアを守る形で黄金の波動が矢を阻んだ!

 

「相方が戦っているのに、寝てられないわ!」

 

その声と共にヴァルス(分身体)に突貫するのは、気を失っていたはずのイリナ!

イリナは猛スピードでヴァルス(分身体)に斬りかかる!

 

『イリナ、無理をするな! 君の傷はかなり深いんだぞ!』

 

「そう言うゼノヴィアだって、ボロボロじゃない! 無理をしないってこと自体が無理よ!」

 

互いの身を案じながら、彼女達は抜群のコンビネーションでヴァルス(分身体)と激しい攻防を繰り広げていく。

 

すごいとしか言いようがない。

二人がかりとは言え、あのヴァルス(分身体)と互角にやりあっている。

 

だけど、それは長く続かないだろう。

現在、渡り合えているのはゼノヴィアがあの姿になっていることが大きい。

あの深蒼の輝きが消えた瞬間に立場は逆転。

またヴァルス(分身体)の剣に斬り裂かれてしまう。

 

僕は力の入らない肉体を無理矢理、起こして立ち上がった。

 

「ここで見ている場合じゃないだろう! 二人が命を削りながら戦っているのに、男の僕が立ち上がらないでどうするって言うんだ!」

 

魔獣騒動の直前、イッセー君がシャルバ・ベルゼブブに囚われたオーフィスを救おうと英雄派が構築したあの疑似空間に残ろうとした時、彼は言った。

 

 

――――オカ研男子として女の子は絶対に守れ!

 

 

僕はオカ研男子で、グレモリーの男子………リアス・グレモリーの騎士だ!

ここで彼女達を守れずに、それが名乗れると思っているのか!

 

否だ!

僕の命に変えても、彼女達を守ってみせる!

だから………!

 

「僕の体よ、動け………! 動いてくれ………!」

 

僕の意思に答えてくれない肉体に苛立ちを覚えていると、僕の体をモーリスさんが支えてくれた。

 

「落ち着け、祐斗。焦りはおまえが持つ本来の力を殺す。体から力を抜け、そして深呼吸だ」

 

そんな呑気なことを………と言いかけた僕だったけど、モーリスさんの言葉はなぜか素直に受け入れることが出来た。

彼の言葉は頭に籠っていた熱を消し、体から無駄な力を抜き出してくれた。

僕は言われた通りに深呼吸する。

 

モーリスさんは僕の体を支えたまま口を開いた。

 

「おまえには二つの神器が宿ってる。それぞれが聖と魔を司ってる。聖書の神と魔王が死んだことが原因らしいが………不思議なもんだ」

 

モーリスさんはフッと笑むとこう続けた。

 

「相反する力が共存し、手を取り合う。俺には、おまえの力は平和を象徴する力に思える」

 

僕の聖魔剣は本来ならあり得ない力の組み合わせだ。

聖書の神の不在が起こしたバグとも言われている。

この力は各機関から研究対称にもなっているけど、今のような言葉は初めて言われた。

 

「以前、ストラーダの爺さんが言ってたな。聖と魔の狭間こそがおまえの力の根源になると。おまえの力は聖と魔、二つの力が互いを高め合うことで真の力を発揮する。なぁ、祐斗。そろそろ新しい答えを出しても良いんじゃないか? おまえも考えたことがあるんだろう?」

 

「―――――!」

 

この人は僕の考えていたことを見抜いていたらしい。

あの修行空間で僕は新たな力を得ることが出来た。

モーリスさんの課題をクリアし、二つの神器を次の次元へと進めた。

 

でも、強くなっていくなかで、僕は今まで考えていたことを実現したいと思うようになった。

不可能を可能にする………イッセー君に肩を並べたいと思うからこそ、僕は―――――。

 

僕の表情から何かを感じ取ったモーリスさんは後ろに下がった。

 

僕が持っていた魔の力。

同胞達が授けてくれた聖の力。

 

僕は聖魔剣を一振り創造すると、瞑目した。

 

 

 

―――――いこう、イザイヤ。

 

 

 

内側から誰かが声をかけてくれた。

その声は暗闇を模索する僕に光を当ててくれる。

 

僕はその光に手を伸ばした。

紅く輝くその光に。

僕を導いてくれるその光に。

 

紅い光に触れた瞬間―――――。

 

「聖魔剣が紅く………」

 

創造した聖魔剣が紅く輝きを放っていた。

鮮やかな光は僕を優しく包み込んでいく。

 

 

そして――――――。

 

 

「神器融合『真紅纏いし(クリムゾン・)双覇の騎士王(パラディン・オブ・ビトレイヤー)』」

 

 

 

[木場 side out]

 




木場の新フォームは次回で!



~あとがきミニエピソード~

ディルムッド「にぃに………アザゼルが私の唐揚げ取った………」

イッセー「よし、お兄ちゃんに任せておけ。ちょっと絞めてくる。手羽先にしてくるわ」

アザゼル「手羽先!? 俺、喰われるの!? 机に置いてたやつ、一個摘まんだだけじゃねーか! つーか、まだまだ山のようにあるし!」

イッセー「一個だけでも、ディルちゃんの唐揚げを食ったことには変わりない!」

美羽「アザゼル先生、有罪(ギルティ)

アザゼル「おまえもかよ! って、ギャァァアアアアアア! シスコン共に殺されるぅぅぅぅぅぅ! 手羽先にされるぅぅぅぅぅ!」


アーメン。


~あとがきミニエピソード 終~

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