ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝   作:ヴァルナル

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6話 一歩前へ!!

「ギャスパー、出てきてちょうだい。無理して小猫に連れて行かせた私が悪かったわ」

 

ギャスパーはまた引きこもってしまった。

小猫ちゃんとお得意様の所に一緒に行ったのだが、そこで怖い目にあい、神器を無意識に使ってしまったらしい。

ちなみにそのお得意様とは森沢さんだ。

ギャスパーを見た森沢さんが興奮したらしい。

森沢さん、なにやってくれてんの!?

 

「眷属の誰かと一緒に行けば、あなたの為になると思ったのだけれど………」

 

『ふぇええええええぇぇぇぇぇえええんっっ!』

 

部長が謝るけど、一向に泣き止む気配がない。

人嫌いなこと、自分が神器を使いこなせずに迷惑をかけていること、ギャスパーが抱える問題は中々にややこしい。

 

実はさっき、部長からギャスパーのことを聞いたんだ。

ギャスパーは名門の吸血鬼を父親に持つが、人間の妾との間に生まれたハーフだったため純血ではなかった。

吸血鬼は悪魔以上に純血か、そうでないかを意識するらしく、実の親兄弟ですらギャスパーを軽視し、侮蔑してきたと言う。

更には、類稀なる吸血鬼の才能を持ちながら特殊な神器を宿してしまっていたため友達もできなかったらしい

仲良くしようとしても、ちょっとした拍子に相手を停めてしまう。

 

『ぼ、僕は………こんな神器なんていらない! だ、だって皆停まっちゃうんだ! 皆、僕を嫌がる! 僕だって嫌だ! もう友達を停めたくないよ………停まった大切な人の顔を見るのは………もう嫌だ』

 

ギャスパーは家から追い出された後、人間と吸血鬼、どちらの世界でも生きていけずに路頭に迷った。

そして、ヴァンパイアハンターに狙われ命を落としたところを部長に拾われたらしい。

 

「困ったわ。この子をまた引きこもらせるなんて『王』失格ね」

 

肩を落とし落ち込む部長。

この件に関して、部長は悪くないし、ギャスパーも悪くない。

 

どうすればいい?

俺はギャスパーに何をしてやれる?

俺の頭の中ではそれがずっと渦巻いている。

 

悩む俺と部長。

そこへ―――――。

 

「リアスさん、ここはボクに任せてくれないかな?」

 

廊下の向こうから美羽が姿を現す。

 

「美羽?」

 

「リアスさんはこれから用事があるんでしょ?」

 

「それはそうだけど………」

 

確かに部長はサーゼクスさん達と打ち合わせがある。

ここで、時間を取られては打ち合わせに間に合わなくなるだろう。

サーゼクスさん達も忙しい(ああ見えて)から、時間を延ばしてもらう訳にもいかないたろう。

 

俺も美羽の意見に賛同する。

 

「行ってください部長。ここは俺達が何とかします」

 

「でも………」

 

「部長は部長が今やるべきことをやってください。俺達も自分達がやるべきことをします」

 

「………分かったわ。二人ともギャスパーのこと、お願いね」

 

「「はい!」」

 

俺達の勢いある返事を聞いて、部長は微笑みうなずいた。

部長は心配そうにギャスパーの部屋を一瞥すると、魔法陣で転移していった。

 

「それで、美羽はどうするつもりなんだ?」

 

「一先ず、ギャスパー君が落ち着くまでここで待つよ」

 

俺と美羽は扉の前に座り、ギャスパーが泣き止むのを待った。

 

 

 

 

それから、一時間ほど経ったものの、変化はない。

出てくる気配もなかった。

やっぱり、黙って座り込むだけじゃダメか。

俺達からギャスパーに歩み寄らないと。

 

俺がそう思って口を開こうとした時だった。

 

「ねぇ、ギャスパー君。自分の力が怖い?」

 

先に語りかけたのは美羽だった。

 

「ボクもね。昔はギャスパー君みたいにひきこもりだったんだよ?」

 

『………え?』

 

ギャスパーから返事が返ってきた。

良かった、話は聞いてくれているみたいだ。

 

「ボクの死んだ本当のお父さんはね、凄い魔力と魔法の力を持ってたんだ。それはもう向かうところ敵無しって言うくらいに強かったんだ。当然、お父さんの娘であるボクにもその力は受け継がれたんだけど、小さい頃のボクはその力の制御が出来なくて、いつも周りの人に迷惑をかけてばっかりだったんだ」

 

この話は俺も聞いたことがない、美羽の小さい頃の話。

恐らく、俺が異世界に飛ばされるよりも以前の話だろう。

つまり、シリウスが生きていたころの話だ。

 

「それで、力を暴発させるたびに部屋に閉じ籠って一人で泣いてたんだよ。それでね、それを繰り返してたらお父さんに言われたんだ」

 

美羽はそこで一旦話を切る。

はぁ、と一度息を吐いて言った。

 

「『おまえはまた泣いて終わるのか? 泣くだけで再び同じことを繰り返すのか? おまえに力が宿ってしまったことはもう変えられない。もう変えられないことを泣き、嘆き、呪うのは下らないことだ。おまえをそんなことも分からない愚か者に育てた覚えはない』だって。・・・正直、八歳の娘に言う言葉じゃないよね」

 

き、厳しい。

うーん、シリウスのやつ、娘にも容赦無かったんだな………。

 

『き、厳しいお父さんだったんですね』

 

ギャスパーもこの反応だ。

美羽も苦笑いしてる。

 

「でもね、こうも言われたんだ。『もし、おまえが自分の力から逃げず、本当に力を使えるようになりたいと願うのならば、私はいくらでも手を差し伸べよう』って」

 

『………』

 

「ねぇ、ギャスパー君は自分の力を使いこなせるようになりたくない? ギャスパー君だって、今のままじゃダメだって思ってるから訓練をしようと思ったんじゃないかな?」

 

『ぼ、僕は………僕を拾ってくれたリアス部長のお役にたちたいです』

 

震える声で答えるギャスパー。

その答えを聞いて、美羽は微笑んだ。

 

「なら、ボクはギャスパー君に手を貸すよ。いくらでも。お父さんがボクにしてくれたようにね」

 

それから数十秒後。

俺達を遮っていた扉がゆっくりと開き、ギャスパーが僅かに顔を覗かせる。

 

「ぼ、僕にも出来るでしょうか………この力を使いこなすことが」

 

「大丈夫だよ。ギャスパー君がその気になれば出来る。ボクだけじゃない、部員の皆だってそう思ってる。ギャスパー君はやればできる子だって。ねぇ、お兄ちゃん」

 

「おまえなら出来るさ、ギャスパー。自分を信じろ。そして、仲間の俺達を信じてくれ。失敗してもいいじゃないか。最初から出来るやつなんていねーよ。そんでもって、それくらいでおまえを見捨てる俺達じゃないさ」

 

俺達がそう言うと、ギャスパーの瞳から大量の涙が零れた。

 

「グスッ………イッセー先輩………美羽先輩………僕、もう一度、頑張ってみますぅ!」

 

「おう! 俺達も全力でサポートするぜ!」

 

泣きじゃくってはいるけど、ギャスパーも一歩前に進めたようだ。

 

 

 

 

「それにしても、時を停める能力か。俺からしたら羨ましい限りなんだけどなぁ」

 

「―――っ」

 

俺の一言に心底驚いた表情をギャスパーは浮かべる。

 

あれ?

俺、なんか変なこと言ったか?

 

「だってよ、時間が停められるって最高の能力じゃないか。もし、俺がその神器を持っていたら、きっと、学園中の女子にいかがわしいことをしていたに違いない。これは断言できるな。廊下を匍匐前進しながらスカートの中を覗き見し放題だろうし。いや、部長や朱乃さんのおっぱいを揉むのも最高だな!」

 

あー、妄想が止まらんよ!

次から次へと浮かんでくるぜ!

 

「お兄ちゃん………さっきまでの感動のシーンを返してよ」

 

「あ、す、すまん! つい………ね?」

 

しまった!

やってしまった!

だって、時間を停められる能力ってそれだけ魅力的なんだもん!

もしかして、ギャスパーに呆れられたんじゃ………。

そう思ったんだけど、ギャスパーは嬉しそうに微笑んでいた。

 

「す、すごいです、イッセー先輩!」

 

「へっ?」

 

「神器の能力をそこまで卑猥な方向に考えることができるなんて、僕には真似出来ないことです! でも、今の言葉を聞いて、僕も少し考えが変わりました。ようは使いようなんだと」

 

「そうだ! その通りだぞ、ギャスパー! 神器なんてもんはな、その時にどう使うかで価値が変わる! 例えばだ、俺が赤龍帝の力をギャスパーに譲渡する。そして、ギャスパーが周囲の時を停める。その間、俺は停止した女子を触り放題だ」

 

「!!」

 

「つまりだ、おまえの停止能力も使い方しだいではハッピーになれるやつがいる、ということだ。どうだ、そう考えたら、おまえの能力も捨てたもんじゃないだろう?」

 

「は、はい! 今の話を聞いて僕も少し、この力が実は素晴らしいものなんだと思えました!」

 

 

おお!

ギャスパーが自分の力について前向きになりはじめた!

これはかなりの進展なんじゃないのか?

 

「お兄ちゃん、例えがエッチすぎるよ………。まぁ、お兄ちゃんらしいけどさ。あと、本当にしたら、ボクが怒るよ?」

 

「すまん! しないから、怒らないで!」

 

あと、スケベでゴメンね!!

でも、エロは俺を構成する重要要素なんだ!

そこは許してくれ!

 

「ところで、ギャスパー君はなんで段ボールの中に入ってるの?」

 

あ、それは俺も気になってた。

何故に段ボール?

 

「すみません、人と話すとき、段ボールの中にいると落ち着くんです」

 

と、ギャスパーは申し訳なさそうに言う。

まぁ、そこが落ち着くなら、別に良いんじゃないか?

無理強いするのもなんだし。

徐々に段ボールから外に出していこう。

 

「あー、やっぱり段ボールの中は落ち着きますぅ。ここだけが僕の心のオアシスですぅ」

 

段ボールの中が癒しの空間って………。

いや、俺も昔は段ボールで秘密基地を作って、そこに閉じ籠ったことがあるけど、それと同じ感覚か?

それにしても、何故か段ボールが似合うギャスパー。

 

段ボール吸血鬼か………新しいな。

 

「ねぇねぇ、こんなのはどうかな?」

 

そう言って美羽が取り出したのは二つの穴を開けた紙袋。

 

美羽はそれをギャスパーにかぶせる。

 

紙袋を頭にかぶった男の娘。

 

「ギャスパー君、どう?」

 

いやいや、これはいくらなんでも………。

 

「………あ、これ良いかも」

 

マジで?

どういうこと?

 

俺が美羽に視線を送ると解説してくれた。

 

「えっとね、ギャスパー君は暗くて狭い所が好きそうだったから、何となくやってみたの」

 

な、なるほど。

美羽の考えを聞いて納得してしまう俺。

 

でもな、美羽。

ギャスパーをよく見てみろ。

穴の空いた部分から赤い眼光がギラリと光り、ゾンビのようにノロノロと歩いてるんだぜ?

どう見ても変質者だぞ!

 

「僕、これ気に入りましたぁ。美羽先輩、ありがとうございますぅ」

 

「ギャスパー、俺は初めておまえを凄いと思ったよ」

 

「本当ですかぁ? これをかぶれば僕も吸血鬼としてハクがつくかも」

 

それはどうだろう。

 

 

 

 

その日の夜。

 

部長はギャスパーと話すために旧校舎に泊まり、アーシアも今日はゼノヴィアが借りているアパートに泊まることになった。

 

そのため、俺と美羽は久しぶりに二人で寝ている。

 

「二人で寝るのは久しぶりだね」

 

「そうだなぁ。アーシアが家に来る前以来か? 兄妹水入らずってやつだ」

 

部長やアーシアとも普段、一緒に寝ているから今夜はベッドが広く感じる。

 

なんだろうな。

美羽とこうして寝るのが久しぶりだからか、少しドキドキしてる。

美羽も心なしか顔が赤い。

 

「今日はありがとうな」

 

「なにが?」

 

「ギャスパーのことだよ。もし、あそこで美羽が話してくれていなかったら、ギャスパーは心を開いてくれなかったかもしれない」

 

「そんなことないよ。お兄ちゃんが話しても結果は同じだったんじゃないかな」

 

「それでも、もう少し時間がかかったはずだ。あの時、美羽が話してくれたからこそ、あいつは今日、一歩前に踏み出せたんだ」

 

本当にそう思う。

実際、あの時の俺はどうすればいいか悩んでいた。

 

俺はあいつの気持ちを理解してやることが出来なかったんだ。

あいつはこれまで、自身の力を必要ないと思って生きてきた。

神器のせいで人生を狂わされたと言ってもいいからな。

 

だけど、俺は神器の力を使わざるを得ない環境にあった。

そうじゃないと、生きることが出来なかったし、なにより、守りたいものを守れなかった。

だから、神器を不要だと思ったことなんてなかった。

 

美羽が自らの過去を話してくれたからこそ、あいつも勇気を出せたんだ。

 

「だから、ありがとうな」

 

「もう、そんなに真っ直ぐに言われると照れるよ・・・・」

 

美羽はプイッと顔を反対に向ける。

耳まで赤くなってるのが後ろからでも分かる。

 

照れすぎじゃね?

まぁ、可愛いけどね。

 

「さて、明日も早いしそろそろ寝るか」

 

「そうだね。お休みなさい」

 

「ああ、お休み」

 

俺は目を閉じて今日の出来事を振り返る。

 

色々とあったけど、ギャスパーが心を開いてくれて本当に良かった。

今後、もしかしたら、あいつを傷つけるやつが現れるかもしれない。

その時、俺はあいつのことを守ってやりたい。

せっかく出来た男子の後輩で仲間だしな!

 

 


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