ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝   作:ヴァルナル

391 / 421
ついに………!

活動報告の方で人気投票やってます!
よろしければ、ぜひ!


51話 赤は紅へ

「はっ……はっ……はっ………」

 

荒い俺の呼吸と吹く風の音。

あれだけ激しい戦いを繰り広げていたこの場所で聞こえるのはそれだけだった。

 

「………今のを避けるんだ。流石だね」

 

感心するような口調のアセム。

手に握った鎌は下に下ろして楽な体勢を取っていた。

 

対する俺は―――――顔を斜めに大きく斬られ、全身から嫌な汗を流していた。

顔の傷、骨には達していないから見た目ほど深いものじゃない………が、一瞬でも判断が遅ければそこで俺は終わっていた。

あそこで動けたのは自分でも奇跡だと思う。

 

分からなかった………アセムの動きが分からなかった………!

嘘だろ………!?

超越者のリゼヴィムが怪物と化して、手も足も出なかった変革者の状態だぞ………!?

それなのに―――――。

 

アセムは観察するような視線をこちらに向けながら口を開く。

 

「驚いているようだね」

 

「驚くしかねぇだろうが………ッ! どんなパワーアップだよ………ッ!」

 

「言っただろう? これは君達で言うところの禁手。天界で『システム』を覗き、これまでの君を参考して造り上げた『絶望蝶の籠手(カラミティ・レーゲン・スタイン)』。僕の力に合わせて調整した僕だけの神具。能力は単純、僕のパワーアップさ」

 

冥府でアセムはあの黒い籠手を使っていた。

その時に同じことを俺は聞かされて、その段階で禁手に近い何かがあると思っていたし、この戦いでも警戒はしていた。

だけど、この力の跳ね上がり方はなんなんだよ………!

 

能力は単純にアセムのパワーアップとのことだが、シンプル過ぎるから逆に攻略が難しい。

今のところアセム本人にも弱点と言える弱点は見つかっていない。

魔法も徒手空拳も強い。

武器を握らせても強い。

 

じゃあ、あの黒い籠手に何かデメリットはないか?

鎧を纏う前にアセムは俺の最高火力で相当なダメージを負っていた。

にも関わらず、今の動き。

何か―――――。

 

すると、アセムが言った。

 

「なるほど。驚きはした。焦りもある。………が、すぐに頭を切り換えてこの力について探ろうとしている、か。極限の戦闘において、それは正しい行動だ。だけど、君がそうであるように僕も君のことを見ている(・・・・・・・・・・・)

 

その瞬間、ゾクリと背中に悪寒が走った。

俺は咄嗟に頭を屈めて―――――頭上を鎌の刃が通り抜けた。

 

「二度目で完璧に避けるか」

 

確かに今度は掠めることなく避けた。

だけど、アセムの動きが分かったからじゃない。

ただの直感だ。

 

そして、今回で俺は理解した。

三度目はないと。

 

「クソッ………!」

 

俺は足に力を入れると、トップスピードで飛び上がった。

 

確実に通じる対策がない限り、正面からのぶつかり合いで勝機はない………!

ここは距離を取って―――――。

 

「――――再び僕の虚を突く、かな?」

 

「………ッ!?」

 

その声に振り返ると蝶の羽を広げたアセムが待ち構えていて、

 

「それは甘過ぎるな」

 

そう言うとアセムは俺の頭を掴んで、急降下し始めた!

アセムの力が強く、振り払えない!

更に急降下で俺の体に加わる圧力が尋常じゃない………!

アセムはそのまま俺を地面に投げつけて、

 

「カハッ………!」

 

あまりの圧力に受け身すら取れなかった俺は背中から衝突。

全身に強い痛みが走ると同時に肺が圧迫されて、一時的に呼吸が出来なくなった。

 

それでも何とか立ち上がった俺は空を睨む………が、既にアセムの姿はそこになく、

 

「どこを見ているのかな?」

 

後ろから肩を叩かれたと思ったと同時に俺は物凄い衝撃に吹っ飛ばされた。

吹き飛ばされる直前にギリギリ見えたけど………今のは蹴りか!

 

何度も地面をバウンドしていく俺。

叩きつけられた時と同様、勢いの強さに抗えない俺はどこまでも転がっていく。

勢いがようやく弱まり、体勢を整えようと構えた時には既に遅く、

 

「ぐっ………!」

 

突如として飛来した槍に左肩を貫かれた。

 

オーラで形成された槍………!

あの野郎、俺に反撃の機会を与えないつもりか………!

 

「その通り」

 

瞬時に間合いを詰めてきたアセムが俺の心の内を読んだようにそう言った。

ここで懐に入られたのはマズい………!

 

そう感じた瞬間にズンッと重い一撃が俺を穿った。

 

 

 

 

アセムに吹っ飛ばされた俺は、最初に拳を交えたあの漆黒の塔で瓦礫の下敷きになっていた。

 

「ゲホッゲホッ………痛ぇ………ッ」

 

全身がズキズキするし、鉛のように重たい。

ちくしょう………ここまでの差があるなんてよ………!

完全にサンドバック状態じゃねぇか。

 

俺は体に乗っかっている瓦礫を押し退けて、立ち上がる。

すると、こちらの後を追うように俺が突き破った壁の穴からアセムがやって来た。

 

「ちっ………!」

 

舌打ちをしながらも、俺は行動にでる。

正直、このままいくと奴の弱点を探し当てる前にこっちが参ってしまう。

ならば前に出るしかない。

 

こっちは全く手を抜いていないのに対して、アセムはまだまだ余裕がある。

普通に戦っていても、勝てる相手ではない。

 

だから―――――。

 

「このクソ広い場所なら、遠慮なく使えるだろ!」

 

突き出した右手に赤い粒子が集まり、姿を見せる大剣―――――イグニス。

これではその強すぎる力から、周囲を巻き込んでしまうため使用できる機会が少なかった………が、幸いにもここには俺とアセムしかおらず、アセムが構築した世界が広大なため、誰かを巻き込むことはない。

 

俺はイグニスの柄を両手で握りしめると、前に出た勢いのまま斬りかかった!

アセムは鎌の柄でイグニスの刃を受け止めて言う。

 

「なるほど、ロスウォードを倒したその剣ならば僕を倒せるだろう。まぁ、その刃が僕に届けばの話だけど」

 

確かに、どれだけ武器が優れていても、相手に届かなければ意味がない。

俺とアセムの間にある絶対的な力の差。

こいつを乗り越えなければ、イグニスの刃がアセムに届くことはない。

 

―――――なら、乗り越えるしかないだろう?

 

俺はイグニスを振るって、アセムを吹き飛ばすと、全身から虹のオーラを放出した。

 

かなり無茶をやることになる………!

これが通用しなければ、もう俺には手がなくなる………!

 

「こいつに賭けるしかねぇ! ハァァァァァァァァァァァァ………ッ!」

 

錬環勁気功を全力で発動。

周囲から許容を遥かに超える量の気を吸収、全身に供給する。

脳にも気を回して、『領域(ゾーン)』にも突入した。

 

「………ッ!? これは………!?」

 

急激に上昇する俺の力にアセムが驚愕の声を漏らす。

その間にも、俺の力は五倍、六倍、七倍、八倍と段階を踏んで膨れ上がっていく。

力が上昇する度に体の至るところが悲鳴をあげていて………。

 

長期戦の考えを捨てた、超短期決戦用の力………!

変革者の状態で、錬環勁気功の奥義を極限を超えて使ったこの力………!

 

「フフフフ………! この土壇場でこれだけの力を発揮してくるとはね………! 嬉しいよ、勇者くん!」

 

笑みを浮かべ、そう喜びを口にしたアセム。

そんな奴の真横に俺は出現した。

高速移動から繋げる形で放った右の蹴り。

しかし、俺の蹴りはアセムの腕に受け止められ、

 

「甘ぇよ………!」

 

力の籠った声音でそう告げながら、俺は蹴りを振り抜いた。

振り抜いた瞬間、鎧にヒビが入ったのが見えて、

 

「なっ―――――」

 

真横へと吹っ飛ばされたアセムは塔の壁を突き破り、再び外へ。

奴は空中で宙返りして、体勢を整えようとして―――――その時、既に俺は奴の真下にいた。

突き上げるようにして、アセムの顎へアッパーを繰り出す。

 

凄まじい衝撃音が響き、アセムの体が上空へ飛ぶ。

それでも、アセムがこちらに攻撃を繰り出してきたのは流石と言うべきだろう。

アセムは手元に極太の槍を作り出すと、こちらへ投げてきた!

 

俺はイグニスを構えると―――――全てを焼き尽くす真焱を放った。

赤熱の炎が周囲を覆い突くして、アセムの槍を消し飛ばす!

 

空をイグニスの炎が支配する中、その炎を突っ切って、アセムが現れる。

アセムは俺の手元を蹴り上げると、イグニスを弾き飛ばした。

 

「ちぃ………!」

 

アセムの足を掴むと、塔に向けて、力一杯投げ飛ばした。

大の字になって、塔の壁にめり込んだアセム目掛けて、

 

「くらえ………!」

 

アセムの腹へ拳を叩き込んだ。

大気を震わす轟音と共に、拳の衝撃で巨大な塔の壁が崩れ去る。

アセムは塔の内部を破壊しながら、反対側の壁に衝突し、

 

「オォォォォラァァァァァッ!」

 

俺は拳の乱打を撃ち放った。

 

もう体が限界に近い………!

ここで倒さないと後がない………!

 

拳に練り上げたオーラを纏わせ、渾身の一撃を放つ―――――が、アセムに届く直前に止められた。

アセムの左手がいつの間にか、俺の右の手首を掴んでいて―――――骨が砕ける壮絶な音がした。

 

「ぐっああああぁぁぁぁぁぁッ!」

 

右手に走った激痛。

俺はよろめくように後ろへ下がると同時に、激しい衝撃を腹に受けた。

ズザザァ………と砂漠に背中を擦り付けながら吹き飛ばされる。

 

「ぐぅ………あ、う………ッ」

 

苦痛に満ちた声を漏らしながら、何とか上半身を起こした。

右手が燃えるように熱い。

見ると、手首から先がだらんと垂れ下がっていた。

どうやら、手首を完全に潰されたらしく、皮膚だけで繋がっているような状態らしい。

 

「素晴らしい力だったよ」

 

その声に空を見上げると、平然と佇むアセムの姿があった。

蝶の羽を広げて、ゆったりとした動きで降りてくるアセムからは一切のダメージを感じさせない。

 

すると、アセムは俺の心を読んだかのように言った。

 

「ダメージはあるよ。だけど、僕を倒せるほどじゃなかった」

 

………ったく、またまた信じたくない情報だ。

今の連続攻撃を受けて、それかよ。

こっちは残った体力も、気力も、全てを使い果たしたんだぞ?

それでも倒すには至らないのかよ………!

 

ここから逆転できる可能性はゼロに近い。

切り札を失い、右手は完全に破壊された。

自分でも分かってた。

これで倒せなければ、後がないと。

もう俺に勝機はないのは誰の目から見ても明らかだろう。

だが、

 

「この………お………おッ!」

 

ボロボロの体で俺は立ち上がった。

こんなでも、体はまだ動く。

なら、まだ戦える。

勝てる可能性はゼロに近い、それでも―――――ゼロじゃない。

 

「まだ立つんだね。もう戦えるような体ではないだろうに。虹の輝きも消えているよ?」

 

アセムの指摘に俺は自身の体に目をやった。

奴の言う通り、虹の輝きも消え、変革者の姿から元に戻ってしまっている。

 

「終わりにしようか」

 

「………勝手に終わらせんな。俺はまだ立ってるんだぜ?」

 

アセムを睨み、痛みに耐えながら俺はそう返した。

すると、アセムは蝶の羽を大きく広げ始めた。

 

「今までとは違う。この戦いにおいて、僕は手を抜きはしない。最後まで全力で戦わせてもらおう」

 

アセムが静かな口調で言うのと同時だった。

禍々しい色の蝶の羽が羽ばたき、周囲に黒い粒子が放出された。

まるで、鱗粉が振り撒かれているように。

そして、その黒い粒子は俺を囲み混むと―――――漆黒の球体を形成。

俺をその内側へと閉じ込めた。

 

「なんだ、これ………?」

 

俺は自身を閉じ込める球体、その壁に左手で触れると―――――指先が砂のように崩れ去った。

気づくと、足の指先や肩も同様で、球体内部で渦巻く力によって、全身が崩壊し始めていた。

 

「ッ!? こいつは………!?」

 

自身の肉体が崩れていくことに驚く俺。

アセムが坦々とした口調で告げた。

 

「それは僕の力を圧縮したものさ。内側に閉じ込めたものを分解し、消滅させる。抗えるのは僕と同等以上の力を持った者だけだろうね」

 

俺が意識を失いそうになっていると、アセムはゆっくりこちらに歩み寄ってくる。

そして、球体の表面に触れながら言った。

 

「これで最後だよ。さよならだ、勇者くん」

 

その言葉を最後に、俺の視界は完全に闇に覆われた。

 

 

 

 

―――――また、か。

 

意識が遠のいていく中で、俺はポツリとそう呟いた。

 

この海の底に引きずり込まれるような感覚はロスウォードに殺された時と似ている。

守ると誓って、必ず帰ると約束して、それなのに俺はまた死ぬのか。

また皆を泣かせるのか。

誰かを失うあの絶望を俺は知っている。

それなのに、俺は皆をその絶望に落とすのか。

 

………ほんと、ろくでもない男だよな。

 

奇跡なんてそう起きるものじゃない。

そんなのは分かっている。

それでも、俺が生まれたことに意味があるのなら、俺が世界の意思とやらでアスト・アーデに飛ばされたことに意味があるのなら―――――頼む。

 

もう一度………俺に立ち上がるだけの力を………。

せめて、皆を守れるだけの力を………。

 

もう絶望はいらない。

絶対に負けるわけにはいかないんだ。

 

 

 

だから―――――。

 

 

 

『今代の相棒は随分興味深い状況にいるじゃないか』

 

ふいに頭の中に男の声が響いた。

 

『ふん、才能は皆無か………今回は白い奴に先を越されるかもしれんな。だが………』

 

目の前が真っ白になったと思うと、俺は燃え盛る火の中にいた。

 

そして、正面には巨大な赤いドラゴン。

 

『俺の名はドライグ。かつて赤き龍の帝王と呼ばれた者だ………というやり取りは初めて出会った時以来だな、相棒』

 

そう言うと赤いドラゴン―――――ドライグはニッと笑んだ。

 

気づくと俺は真っ白な空間で、ドライグと向かい合うように立っていた。

ドライグの言葉に俺はクスッと笑って、肩をすくめた。

 

「あの時はいきなり酷いことを言われたよな。才能皆無って、かなりショックだったんだぞ?」

 

『仕方がないだろう。相棒に才能が無かったのは事実だったのだから。体力も、魔力も歴代最低クラス。変わった点を挙げるとすれば、異世界なんぞに飛ばされているという点くらいだ。あとはどうしようもないおっぱい野郎というところか』

 

「うるせーよ。つーか、歴代の先輩でかなりしょうもない理由で覇龍使っていた人いただろ。そんな人に比べたら遥かにマシじゃね?」

 

『それは言うな!』

 

「あと、歴代の先輩全員がMに目覚めただろ」

 

『あれはあの駄女神のせいだ! それを言うなら、相棒だって、Sに目覚めたじゃないか! 歴代の女連中を縄で縛り、虐めて喜んでいたのはどこの誰だ!』

 

「それこそ、あの駄女神のせいだろ!? 俺だって好きでSに目覚めたわけじゃねーんだよ!」

 

『好きで目覚めたわけじゃないとかよく言えたな! 最近じゃ、率先して縛ってるじゃないか!』

 

「あれは歴代の女性陣が求めてくるからだろうがぁぁぁぁぁぁ!」 

 

Sが切れると神器の中で騒ぐんだもん!

仕方ないじゃん!

 

 

それからも、俺達の言い合いは続き―――――

 

 

『ふんだ! 相棒のおっぱい野郎!』

 

「ふんだ! ドライグの赤トカゲ!」

 

以前と全く同じやり取りをしていた。

そこへ、女性の声が聞こえてきて、

 

「あらあら、なーにケンカしてるの? 仲良くしないとダメでしょ?」

 

「『来たな、全ての元凶である駄女神!』」

 

俺とドライグの声が重なった!

 

そーだよ!

もともとこの駄女神が俺をSに目覚めさせ、歴代達をMに目覚めさせたんだ!

 

「『やっぱり、俺達はあの駄女神に抗議する! 訴えてやるぅぅぅぅぅぅ!』」

 

「やれるものならやってみなさいな。二人とも後悔するわよ? さぁ、縛られたい子から前に出なさい! ベッドの上で泣かせてあ・げ・る♡」

 

「『調子乗ってすいません! それだけは勘弁してください!』」

 

瞬間で屈する俺達!

やはり駄女神には勝てない………!

 

ドライグは暇潰しのドラゴンSMとやらで何度も縛られ、恐怖を植え付けられてるし、俺はティアとイグニスとした時に極限まで搾り取られたもの!

真っ白な灰になったもの!

最強の駄女神、マジで半端ねぇよ!

 

こんな緊張感の欠片もない会話の後、イグニスはドライグに語りかけた。

それはとても真剣な表情で、

 

「さて、ドライグ。あなたも変わる準備は出来たわね?」

 

変わる………?

イグニスの言葉に疑問符を浮かべていると、ドライグが言った。

 

『相棒。これまでアセムを相手にしていたその力は相棒の力であり、そこに赤龍帝としての力は含まれていない』

 

「………ああ」

 

今の力に目覚めてから、俺は籠手を使わなかった。

いや、正確には使えなかった。

 

ドライグは続ける。

 

『相棒の変革者としての力、その真髄は他者の想いを自身の力にすることにある。だが、その力はあまりに大きすぎてな。変革者となった相棒に俺が着いていくことが出来なかったのだ。だが、ようやくだ。ようやく俺も共に戦えるようになった』

 

そう言うと、ドライグの体が光輝き始める。

強い光はこの真っ白な世界を照らしていく。

 

光が止み、目を開けると―――――赤よりも鮮やかな紅。

紅のドラゴンが雄大に翼を広げていた。

 

「ドライグ、なのか………?」

 

『そうだ』

 

俺の問いに紅と化したドライグがそう返してきた。

ドライグは紅く染まった自身の肉体を見ながら言う。

 

『相棒、おまえは変わった。出会った頃とは見違える程に体も心も強くなった。そして、その強さは俺を超え、俺の力など必要のないくらいになった。それが嬉しく………同時に悔しかった。進化し変わっていく相棒の力になれない自分の無力さがな。この感情は相棒が友を失った時のそれだ』

 

ライトが目の前で命を失った時。

俺は自身の愚かさが、無力さが堪らなく恨めしかった。

もっと自分に力があればと何度も思った。

 

そして、今。

ドライグもあの時の俺と同じ―――――。

 

『少し遅くなってしまったが、俺も変わることが出来た。まぁ、こうして変われたのはオーフィスのおかげでもあるがな?』

 

苦笑するドライグ。

 

オーフィスのおかげって………もしかして、目覚めのキスをされた時か?

あの時、オーフィスの力が内側に流れ込んできた。

オーフィスの龍神としての力が天龍であるドライグを変えたと言うのだろうか?

 

『他者の力で変わる。それはアルビオンに対して申し訳なく思う。天龍失格かもしれん。だが、今は、今だけは相棒………おまえのために変わろう。おまえと共に戦わせてくれ』

 

そう言うとドライグは拳を突き出してきた。

俺は頷くと、ドライグの拳に拳を合わせた。

 

そんな俺達の手にそっとイグニスの手が添えられる。

 

「イッセー、ドライグ。あなた達は二人で赤龍帝。皆のために変わることの出来る、だけど、大切なところは変わらない。そんな優しく強い人」

 

イグニスは俺とドライグと目を合わせると微笑んだ。

 

「さぁ、謳いなさい。あなた達の呪文(うた)を―――――」

 

 

そして―――――

 

 

「我に宿りし赤き天龍よ、理を越えよ―――――」

 

『我と歩みし真の勇よ、遥かな高みに至れ―――――』

 

俺とドライグは謳う。

その呪文に己の全てを乗せて。

 

「紅く輝く紅蓮の魂よ―――――」

 

『全てを守りし、高潔なる魂よ―――――』

 

「『絶望を打ち砕く希望となれ―――――』」

 

そこまで唱えた時、ふと手を暖かいものが包み込んだ。

それは誰かの手だった。

でも、それが誰のものなのかはすぐに分かった。

 

 

美羽、アリス、リアス、アーシア、朱乃、小猫ちゃん、ゼノヴィア、イリナ、レイヴェル、レイナ、ロセ、ティア、イグニス、ディルムッド、ニーナ。

俺を好きだと言ってくれた大切な女性達。

 

 

木場、ギャスパー、ヴァーリ、サイラオーグさん、曹操。

俺を好敵手だと、俺の勝利を信じてくれる男達。

 

 

モーリスのおっさん、リーシャ、ワルキュリア。

俺を見守り、支えてくれた人達。

 

 

ライト。

俺の憧れ、俺の親友。

ライトの存在が俺を変えてくれた。

 

 

―――――行ってきなさい。そんでもって、必ず皆で帰ってくること。良いわね?

 

―――――俺達はずっと待ってる。ここはおまえの家だ。いつまでもおまえ達の帰りを待ってるからな。

 

必ず帰ってくると信じて送り出してくれた母さんと父さん。

 

皆の想いが俺達を包み、背中を押してくれる。

そんな暖かさに見守られながら、俺達は最後の一節を静かに唱えた。

 

「『我ら、極限へと至りし者なり―――――』」

 

その瞬間、一筋の風が吹いた。

全てを唱え終えた俺はフッと笑んだ。

 

「なぁ、ドライグ。おまえは俺が変わったと言うけど、俺は兵藤一誠だ。これまでもこれからも」

 

『そうだな。相棒の芯は変わらない。まぁ、おっぱい野郎というのも変わらんのだろうが………』

 

「うん」

 

『即答か! 泣くぞ!? 俺を泣かせてそんなに楽しいか!?』

 

別に泣かせたいわけじゃないけど、おっぱい好きなのはこれからも変わらないと思うんだ。

いや、本当に泣かせたいわけじゃないんだよ?

ドライグ泣かせてもしょうがないし。

 

ドライグは盛大に息を吐くと、真っ直ぐな目で俺を見てきて、

 

『いこうか。全てを守るぞ―――――イッセー!』

 

「ああ、いこうぜ―――――ア・ドライグ・ゴッホ!」

 

紅く優しい光が俺達を包み込んだ。

 




~あとがきミニストーリー~


アセム「おっす! オラ、アセム!」

イッセー「一人称変わってるぞ!?」

アセム「追い詰められた勇者君がドライグと共に更なるステージへ至る。フフフ………どれ程のものか、実に楽しみだよ。神の次元すら超越した二人が超フルパワーで衝突する! 果たして勇者君はこの戦いに終止符を打てるのか! オラ、ワクワクすっぞ!」

イッセー「次回予告してるところ悪いけど、ツッコミしか出てこねぇ! とりあえず、一人称を戻せ!」

アセム「次回『極限進化』。海賊王にオラはなるってばよ!」

イッセー「おいいいいいいいい! パクるにしても、せめて統一しろぉぉぉぉぉぉぉぉ! つーか、海賊王になりたいの!?」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。