意識があの白い空間から戻った時、俺は上空から真っ逆さまに落ちていた。
あの爆発―――――俺とアセムのフルパワーの衝突で生じた爆発は俺を呑み込み、鎧の大半を砕いた。
手足が痺れて動かせないところを見ると、生身にも相当のダメージを受けたらしい。
しかも、フルパワーを使った反動で体が思ったように動かせず―――――俺は受け身すら取れず、地面に墜落した。
「くぅ………ッ!」
地面に叩きつけられた俺の体は全身に鈍い痛みが走り、呻き声が漏れた。
痛みでまともに呼吸すら出来ない状況が少しの間続いたが、それも少しずつ治まってきた。
痺れもましになり、体を動かせるようになった俺は右手を僅かに動かして、視界に入れる。
右手の籠手は粉々に砕け散り、破片しか残っていない状態だった。
………極限進化形態の鎧がここまでボロボロにされるなんてな。
オーフィスの加護もあったはずなんだが、それだけの攻撃だったというわけか。
そんな自分の状況と先程の衝突について考えていると、近くから苦痛に満ちた声が聞こえてきた。
首を動かして、その声が聞こえた方を見ると、同じくボロボロになったアセムが横たわっていた。
「うっ……! カハッ………!」
口から血の塊を吐き出すアセム。
あの様子だと、あいつも受け身取れずに墜落したんだな。
砕けた鎧を修復できていないことから、アセムも限界まで体力を使ったらしい。
互いに痛みと疲労でその場から立ち上がれないでいると、アセムが自嘲気味に笑った。
「フフ……愚かだと思っただろう?」
「え……?」
「たった一人、愛した女性を守れず、怒りに呑まれて世界を滅びへと導いた。その代償に力を失い、本来なら助けられたはずのあの子を救えなかった。愚かだよ………ああ、愚かすぎる。………何が神だ」
最後に漏らした言葉が酷く弱々しく聞こえた。
いつもの陽気な雰囲気も、こちらを畏怖させてきた不気味で強大なオーラも微塵も感じられない………。
俺は未だ横たわったまま、アセムに問う。
「なぁ、なんでだ? なんで最初に出会った時に嘘ついた?」
ロスウォードを生み出した過程と少年の体を乗っ取ったという過程。
結果は同じかもしれないが、決して愉快犯的な思想で行ったわけじゃなかった。
こいつも俺と同じだったんだ。
大切な人を失って、怒りに呑まれて………。
今のアセムはもしかしたら、あり得たかもしれない俺なんだと思う。
アセムは笑う。
「最初から全てを明かしてしまえば、君達は僕に対して殺意を持てないだろう? 僅かに芽生えた同情心はそれだけで剣を迷わせる。八重垣君が良い例じゃないか。君達は彼を倒しこそすれ、殺意を持てなかった。………君達は優しすぎる」
「………戦わなくても分かりあえたはずだ。こんなことまでしなくたって」
「アハッ、言っただろう? ここまでしないと間に合わないのさ。向こうの世界『E×E』邪神様はそれだけ強大。この世界は変わりつつある。だけど、このままでは遅すぎるのさ。彼らが総力を挙げたら確実に滅ぼされてしまう」
一体、どれだけ強力なんだよ………。
「………おまえがこの世界にそこまでする理由は………」
「この体の少年への誓いを守るためさ。いつかはこの子が生まれ変わる日が来る。その時、もう同じ想いをしなくて良いように。だから、僕は変える。この世界が滅びの道を辿らぬよう―――――たとえ、どんな痛みを伴っても」
「………ッ!」
アセムの体から強烈な力が噴き出した………!?
まだこれ程の力を残していたというのか!?
アセムはフラフラになりながらも立ち上がり、俺を見下ろしてくる。
「唐突だけど勇者君。君は世界が変わるのに必要なものはなんだと思う?」
「必要なもの?」
俺が聞き返すと、アセムは小さく頷いた。
そして、その答えを口にした。
「僕はね、世界が変わるには『痛み』が必要だと思う。人は『痛み』を知り、後悔をして、ようやく変わることができる。アスト・アーデの神々も、アザゼル君達も、そして君も。君は目の前で親友を失って変わった。違うかい?」
「………ッ!」
アセムの言葉に俺は言葉を詰まらせた。
………俺はライトを失って変わった。
元々、平凡な日常を送っていた俺は戦争とか、大事な人を失うとか、知識としてはあったけど、無縁だと思ってた。
でも、アスト・アーデという世界に飛ばされて、戦争に巻き込まれて、目の前で親友を失って………。
俺は『痛み』を知って、そこで変わったんだ。
アセムの言う通りに。
アセムは続ける。
「『痛み』を知り、もう二度と失いたくない、もう二度と後悔したくない。そんな思いが人々の意識を変え、やがては世界をも変える。どんな時代、どんな世界でもそれは同じことなんじゃないかな?」
アザゼル先生やサーゼクスさん、ミカエルさんだって同じだと思う。
かつての戦争があったから、今は和平の道を選んでいる。
アセムが言うこともまた真理なのかもしれない。
「だから、僕はこの戦いを通して強者にも弱者にも等しく『痛み』を知ってもらうことにした。そして、知らしめてやるのさ。自分達は無関係ではない、どんな力を持っていても、どれだけ高いプライドを持っていようとも君達は世界の一部でしかないことを。この戦いを始めた理由の一つさ。もう一度言うよ、勇者君。僕は『痛み』を以てこの世界に変革をもたらす」
それを聞いた俺は内側から何かが込み上げてきた。
体が、心が、全力でそれを否定しようと、動かないはずの体を突き動かして、俺を再び立ち上がらせた。
「『痛み』で世界を変える………ふざけんじゃねぇよ。………おまえの想いは分かった。けど、そのやり方だけは認められねぇ………!」
拳に力を籠める。
内に灯った炎が再び燃え上がったように、全身からオーラが溢れだしてくる。
俺が俺自身に言っているんだ、こいつを止めろと。
俺とアセムは互いにオーラを纏い相手を睨み―――――駆け出した。
地面を蹴り、前に出る。
御世辞にも速いとは言えないスピードで俺達は走る。
相手と接近した瞬間、拳を振りかぶり―――――
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
相手の顔面を全力で殴った。
互いの拳が互いの頬にめり込み、相手をよろめかせる。
たった一発。
それだけで体が悲鳴を挙げた。
崩れそうになる体を足が踏ん張り、ギリギリのところでもたせてくれる。
崩れた体勢を完全に整える、その前に体が動き出す。
俺は上半身に反動をつけて、殴りかかる。
狙うは顔面。
放った一撃は吸い込まれるようにアセムの頬にめり込んでいく。
受けた拳の勢いでアセムは大きく仰け反る………が、倒れはしなかった。
アセムもまたふらつく体で堪え忍び、拳を握った。
アセムの右のアッパーが俺の鳩尾を捉え、俺の体がくの字に折れ曲がる。
膝が折れそうになった。
それでも………!
「つぁぁぁぁぁぁぁッ!」
仕返しのアッパーがアセムの顎を打ち上げた。
アセムの体が浮き上がり、背中を地面に打ち付ける。
俺は肩を上下させながら、地面に仰向けになるアセムへ言った。
「ああ、そうだよ。俺はライトを失って変わったよ。おまえの言う通り、『痛み』を知って変わった。だけどよ………俺達が戦ってきたのは、『痛み』を繰り返させないためだ………! もう誰にも傷ついてほしくないからだ………!」
アセムは血を拭いながら、立ち上がる。
「なら、僕の言うことは正しいんじゃないかな?」
そう言うとアセムは構えをとった。
俺もまた拳を構え、俺達は再び衝突する。
ただ殴った。
ただ殴られた。
ひたすら殴られ、ひたすら殴られた。
顔を、腹を、胸を、腕を。
拳で皮膚が切れ、出血する。
俺は拳を打ち込みながら叫んだ。
「いいや、間違ってる! たとえ、未来のためだろうと、おまえのやり方は今を懸命に生きる人達を踏みにじるものだ! だから、俺は何度だって言う! おまえのやり方は認めねぇ!」
リアスも、ソーナも、匙も、サイラオーグさんも、冥界の子供達も皆が夢を持って前に進んでいるんだ。
俺はアウロス学園でのことを思い出した。
「夢を持った子供達がいる! 描いた夢を叶えるために、魔法を学び始めた子がいた! 皆みたいに魔法が発動できなくて、悩んで、もがいて、それでも頑張って! そうして、やっと小さな炎を出せた子がいた! おまえはその子から未来を奪うのか!?」
「今は良くても、このままではいずれ絶望がこの世界を覆う! そうなったら、夢も! 希望も! 未来も! 何もかもが無へと変わる! それが分かるんだよ!」
叫びと共に撃ち込まれたアセムの拳が俺の芯へと響く。
内から込み上げたものを耐えきれず、俺は口から血の塊を吐き出した。
真っ赤な血が留まることなく、零れ落ち、足元を赤く染めていく。
崩れそうになる中、ドライグの声が聞こえてきた。
『堪えろ、イッセー! もう少しで力が渡せる! 今は堪えるんだ!』
………分かってるよ、ドライグ。
倒れるわけにはいかないもんな。
絶対に倒れないよ、俺は。
こいつを倒すまで、俺は―――――。
「絶対に………! 倒れねぇ………ッ!」
全身に力を入れて、何とかボロボロの体をもたせた。
………無限とも思えた力が、今となってはほとんど残ってない。
気力、根性だけで俺は立っている。
アセムが小さく笑みを浮かべて言う。
「………倒れないね」
「………倒れないさ」
どんなにボロボロにされようと。
何度膝を着きそうになっても。
この魂だけは絶対に折れない。
だから、俺は倒れない。
それに―――――。
「俺には守りたいものがある。家族、仲間、他にも………気づいたら、俺には守りたいものがたくさんあった」
「そうか………それは大変そうだ」
「まぁな。だけど………だからこそ、俺は勝つんだよ」
ぜーはーと息を切らして満身創痍の俺達。
それでも、体は動き続ける。
オーラを拳に籠めて。
その時、その時で出せる全力で―――――。
「ぜぇぇぇぇぇぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッ!」
「ぬぅ……オォォォォォォォォォッッッ!」
戦場に響くのは俺達の叫びと、拳がぶつかる音。
体力なんて限界をとうに超えているはずなのに、体力に反比例するようにオーラが高まっていく。
拳で打ち合うだけで、大地も割れ、空間が裂けていく。
痛みが感じられなくなってきた。
もういつ死んでもおかしくないくらいに殴り、殴られたはずなのにだ。
数え切れない拳の連打が止まらない、止まらない、止まってくれない。
なぜなら、相手が倒れてくれないからだ。
相手が倒れないのなら、絶対に倒れられないんだ。
俺はオーラを高めながら叫んだ。
「アセムッ! おまえは言ったな、『痛み』がなければ世界は変わらないと! なら、彼女はどうだったんだ!」
「………ッ!」
俺の叫びにアセムが目を見開き、奴の手が緩む。
その時、ドライグが俺の中で叫んだ。
『イッセー! カウントファイブだ!』
「カウント頼む!」
―――――五秒。
その間、俺は絶対に崩れてはいけない。
相棒を信じて、この局面を乗りきってみせる!
『Ⅴ』
左腕を覆う真紅の籠手。
その宝玉に数字が浮かび上がる。
俺はそれを確認しながら奴の拳を受け止めた。
互いの手を組み合い、力で押し合う形になる。
オーラを噴き出しながら、押す中で俺は叫びを続けた。
「おまえが守りたかった彼女は『痛み』で変わったのか! 違うだろ! おまえがいたから、おまえの心が彼女を変えたんじゃないのかよ!」
カウントが進む。
『Ⅳ』
残り四秒!
急いでくれ!
アセムが俺の腕を引き、俺の体勢を崩しにかかる。
「だけど、彼女は消えてしまった! 愛したはずの世界の手によって!」
そして、反動をつけて頭突きをくらわせてきた。
今ので切ったのか、額から流れた血が視界を赤く染めていく。
『Ⅲ』
感情剥き出しに叫ぶアセムは右の回し蹴りを繰り出してくる。
防御が間に合わず、まともに受けた俺は地面へと叩きつけられてしまう。
「ゲホッ………ガハッ!」
この土壇場でなんて重い一撃なんだ………!
動こうとすれば、背中に痛みが走る………!
背骨をやられたか………!?
「彼女も、この体の少年も、理不尽が全てを奪った! だから、僕は……!」
メリメリッ、ゴキンッと深く食い込んだ一撃!
動けない俺へと撃ち込まれる一撃が俺の肉体を破壊して、精神をもへし折りに来る!
『Ⅱ』
アセムがもう一撃を叩き込もうとした時、俺は奴の腹を蹴り飛ばして、それを阻止。
痛みで悲鳴をあげる体を無理矢理動かして、奴と向かい合う。
俺は前かがみの体勢で言う。
「この世界を変えるために、おまえが理不尽となる、か? だけど、おまえも忘れてないか? おまえ自身も世界の一部だってこと………。彼女はおまえが世界から外れることなんて望んでないぞ。彼女が愛した世界の中にはおまえも含まれているのだから―――――」
俺は前に出る。
一歩、また一歩。
地面を強く踏み締め、アセムへと走り出す。
「変わるのに『痛み』なんて必要ない! そんなものが無くても人は、世界は変われる!」
接近した俺に放たれるストレート。
俺は右手でアセムの拳を反らし、受け流す。
『Ⅰ』
懐に入り込んだ俺とアセムの視線が交錯する―――――。
『Extreme Full Booster!!!!』
籠手から新たな音声が鳴り響く。
今までのどれよりも、力強い響きだ。
その時、左の籠手から莫大なオーラ、真紅の炎が噴き出した。
『今だ、イッセー! 撃ち破れぇぇぇぇぇ!』
ドライグが叫ぶ!
俺は真紅の炎を纏った左の拳を振り上げた。
極限にまで高められた真紅の光が龍を形成して―――――。
「彼女が愛したおまえは、本当のおまえは! 人の心の光の可能性を知っているはずだ! それはどんな理不尽だって乗り越えられる! そんなこと、分かっているはずだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!!!!」
『Welsh Impact!!!!!!!!』
真紅の龍を乗せた拳がアセムの顔面を捉え、そのまま大地へと叩きつけた――――――。
次回、決着………か!?
~あとがきミニストーリー~
小猫「……私の胸はいつになったら大きくなるのでしょうか」
イグニス「大丈夫よ、小猫ちゃん。小猫ちゃんのおっぱいはイッセーが大きくしてくれるわ。ね、イッセー! さっそく揉みましょう! 今すぐ大きくしてあげなさいな♪」
イッセー「俺かよ!? いやいやいや、今すぐってのは流石に無理だろ………。でも、任せてくれ! 小猫ちゃんのおっぱいは俺が大きくしてみせる! これから時間をかけて育てていこうじゃないか!」
小猫ちゃん「鼻血出てますよ、イッセー先輩。それに鼻息荒いです………大丈夫ですか?」
イッセー「俺はおっぱいの成長に急ぎすぎもしなければ、貧乳に絶望もしちゃいない!」
イグニス「流石はイッセーだわ! おっぱいドラゴンは伊達じゃない!」
小猫「………よく分からないけど、色々最低です。というより、そろそろ怒られますよ?」