ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝   作:ヴァルナル

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お待たせしました~。
風邪でベッドの上から動けなかったので一気に進めちゃいました(* ̄∇ ̄*)



57話 燃える歌

「凄い………」

 

壮絶な爆音が鳴り響く中、隣にいる八重垣さんがそう呟いた。

 

モーリスのおっさんが放った剣気による一撃、ストラーダのじいさんの放ったデュランダルの一撃。

二人が放った攻撃は一瞬でアセムを呑み込んだ。

おっさんとじいさんの無駄のないコンビネーションはアセムの隙を作り、防御すらさせなかった。

 

トライヘキサを吸収したアセムは、あの怪物の意識を抑え込むため、今は本調子ではないようだが………。

それでも、アセムが強力な存在であることには変わりない。

今の状態でも並の神クラスは相手にならないだろう。

そのアセムを相手にあの二人は互角か、それ以上の戦いをして見せた。

 

これがあの二人の実力!

あれが歴戦の戦士、最強の剣士の力!

まともにぶつかればアセムに分がある。

しかし、あの二人は経験から来る予測と長年に渡り磨き続けた技、そして互いの実力を考慮した上でのコンビネーションでアセムに一撃を叩き込んだ。

俺達の世界とアスト・アーデ、二つの世界の最強の剣士が組むとここまでの戦いを繰り広げることが出来るのか……。

この二人は間違いなく、最強のコンビだろう。

 

俺と八重垣さんが目の前の光景に目を見開いていると、俺達の前にモーリスのおっさんが降りてくる。

 

「ちっ……やっぱ、飛ぶのは慣れねぇな。あいつら、どうやってコツを掴んだんだか……」

 

「あ、流石のおっさんも飛ぶのは苦手なのな」

 

「俺にも苦手なものくらいある。俺は何でもできる完璧人間じゃないんでな。………それはそうと、気を抜くなよ、おまえら」

 

「え?」

 

注意を促され、つい声を漏らす八重垣さん。  

すると、いつの間にか横に立っていたストラーダのじいさんが言った。

 

「まだ戦いは終わっていないということだ。無論、私達は決着をつけるつもりで剣を振るった。しかし、この程度で終わるような相手ではないだろう」

 

その言葉におっさんが続く。

おっさんの視線は未だ舞い続ける砂煙に向けられていて、

 

「あの神様は生きてる。そんでもって、ここからが真の戦いだ。そこは実際に戦ったイッセーが一番分かってるんじゃないか?」

 

その問いかけに俺は無言で頷いた。

 

おっさんとじいさんが撃ち込んだ一撃は大抵の者なら食らえば即アウトになるだろう。

だけど、アセムは違う。

奴は俺の拳を何度も受けて何度も向かってきた。

実力もそうだが、奴の精神もまた常軌を逸しているんだ。

だから、アセムはまだ終わっていない。

 

それに俺の勘が正しければ、アセムは―――――。

 

「フフフ………アハハハハハハハ!」

 

途端、砂埃の中から笑い声が聞こえてきた。

まるで、この戦いを楽しんでいるような愉快そうな声。

 

アセムの声が続いて聞こえてくる。

 

「凄いね、凄いよ、君達。この僕に一撃を入れる人間がいるなんてね。その辺の神クラスより遥かに強い。誰よりも濃密な時間を過ごしてきたが故の力だ。これは流石に効いた」

 

ゴウンッ、ゴウンッと雷鳴が轟き始める。

砂埃の中で発生した稲妻が周囲へと広がり、辺りを焼き焦がしていく。

稲妻が発生している起点、そこを中心に一陣の風が吹き、視界を遮っていた砂埃を吹き飛ばした。

 

その時、俺達の前に奴が現れる―――――。

 

「おいおい………マジか」

 

姿を見せたアセム。

奴の右肩から胴にかけてバッサリと刻まれた斬撃の跡。

傷口からはアセムの背後の景色を覗くことが可能で、上半身が千切れてもおかしくないような状態だ。

おっさんとじいさんの攻撃が通じた証なのだろう。

 

だが、その状態でアセムは平然としていた。

それどころか笑みさえ浮かべている。

異様な光景に目を見開く俺達。

すると―――――。

 

ゴボッ、ゴホボッという音を発しながらアセムの体の断面から肉が膨らみ、今にも千切れそうだった上半身を繋いでいく。

数秒もしないうちに、アセムの体は元通りになってしまった。

 

傷が完全に塞がったアセムを見て、おっさんが目を細めた。

 

「再生能力か………。反則も良いところだ」

 

ストラーダのじいさんが続く。

 

「それだけではない。赤龍帝ボーイとの戦いではそのような能力は持っていなかった。つまり、彼は少しずつではあるが、確実にトライヘキサの力を自身のものにしているということだ」

 

アセムは再生能力なんて持ってなかった。

そして、再生能力はトライヘキサの持っていた能力。

じいさんの言うように、アセムの支配がトライヘキサの意識と力を呑み込み始めている証拠だろう。

 

回復した傷を撫でながらアセムが言う。

 

「君達のような強者との戦いはトライヘキサにとって良い刺激になったようだね。トライヘキサの興味が君達へと向けられているのを感じるよ。もう少ししたら、協力的になってくれたりするのかな?」

 

「そいつは勘弁願いたいものだな」

 

短くそう返したおっさんが剣を振るった。

放たれる黒い一撃。

あらゆるものを、空間でさえ断ち斬る剣聖の斬撃。

 

それをアセムは―――――片手で弾き飛ばした。

 

あれを弾くのかよ………!

明らかにアセムの力が増大していやがる!

 

おっさんは舌打ちをしながらも、即座に駆け出した。

じいさんもおっさんに並ぶように走り、アセムとの距離を詰めていくと、剣を振るう。

 

二人の剣士による目にも映らぬ剣捌きがアセムを襲う。

だが、アセムはそれらを余裕の表情で迎え撃っていた。

おっさんの双剣とじいさんのデュランダルと真っ向から撃ち合ってやがる………!

 

しかも、先程よりも動きにキレがあるように見える。

本当にトライヘキサを自分のものにしつつあるとすれば、いくらチートの体現者のようなあの二人でもアセムの相手は厳しいだろう。

もし、アセムがトライヘキサの力の全てを支配することが出来たときどうなってしまうのか………。

 

おっさんの剣がアセムの剣を弾き、アセムの体勢を崩したところを、じいさんがデュランダルで斬りつけた。

腰を捻って回避するアセムだが、僅かにデュランダルの切っ先が奴の肩を掠めてしまう。

だが、次の瞬間、傷口から煙があがり、瞬く間に傷を塞いでしまった。

 

おっさんが言う。

 

「回復ってのが厄介だな。しかも、消耗なしに回復とは恐れ入る」

 

その言葉にじいさんが頷いた。

 

「掠り傷はもちろんのこと、先程のような深傷すらも治してしまうところを見ると、彼の肉体そのものを消すしかないだろう」

 

「消すねぇ………。難易度高くね? 奴はどんどん力を上げてきている。このままいけば、確実に俺達だけじゃ抑えきれなくなるぞ」

 

アセムのデタラメさにチートおじさんですら苦笑を浮かべるしかないらしい。

 

アセムがいつもの笑みを浮かべて近づいてくる。

 

「作戦会議は順調かな?」

 

「これが順調に見えるか? 見ての通り、こちとら手詰まりだよ。それとも、神様らしくあんたがアドバイスでもしてくれるのかね?」

 

「アハハハ♪ 残念ながら僕は神は神でも堕ちた神だ。僕のアドバイスなんて期待しない方が良いよ?」

 

そう告げるアセムの周囲に魔法陣が展開される。

魔法陣が強い輝きを放つと、ありとあらゆる属性の魔法が禁術も含めておっさん達へと降り注いだ!

二人は剣で無限に降り注ぐ魔法の数々を斬り落としていくが、一撃の重さと、圧倒的すぎる物量に推されていた!

 

「ちぃッ!」

 

「ぬぅッ!」

 

唸る二人。

見れば、二人の頬や肩に傷が刻まれている。

しかも、時が経つほどに二人の傷は増えていっている。

 

その光景に八重垣さんが目を見開いていた。

 

「あの二人が捌ききれないというのか………!」

 

魔法の雨を降らせるアセムは手に握る黒い剣振りかぶった。

切っ先にはとてつもない質量を持った力が乗せられていて、

 

「これならどうかな?」

 

振るわれる漆黒!

横凪ぎに放たれた莫大なオーラがおっさんとじいさん目掛けて迫っていく!

 

ヤバい!

あんなもん、防御のしようがねぇ!

しかも、これだけの広範囲に放たれた攻撃だ。

避けるのことすら至難の技だぞ!

 

おっさんは直ぐ様に避ける体勢を取った。

だが、おっさんは背後にいた俺達を一瞬だけ見ると―――――。

 

「ったく、しょうがねぇ!」

 

剣に濃密な剣気を纏わせていく。

見ているだけで身震いするような力の波動がおっさんから伝わってくる。

 

おっさんが何をしようとしているのか理解した俺は叫んだ。

 

「迎え撃つつもりかよ!? 無茶だ、避けろよ!」

 

「動けねぇ奴は黙ってな! 眼鏡の兄ちゃん、全力で防御しとけ! かなり手荒になるぞ!」

 

おっさんはそう言うと、一振りの剣を鞘に納め、もう一振りの剣を両手で握る。

剣気をこれでもかと纏わせた剣を振り上げ―――――。

 

「らぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」

 

迫るオーラの塊に剣を叩きつけた!

強大過ぎる二つの力の塊が衝突した影響で地面に大きな亀裂が入り四方に広がっていく!

空気が震え、空間が砕ける!

 

両者の力は拮抗しているように見えた。

だが………、

 

「ぐっ………! このやろ、こんなおっさんに向かってなんつー攻撃してきやがる………! ちったぁ、労りやがれ、くそったれがッ!」

 

踏ん張るおっさんの足が少しずつだが、後ろへと押し込まれていた。

顔に大量の汗を流し、苦痛に満ちた表情を浮かべている。

あのおっさんが押されているのか………!

あの剣聖がここまで押し込まれるのか………!

 

それでも、おっさんは斬り裂いた。

あの漆黒の砲撃を真っ二つに叩き割り、この窮地を凌いだんだ。

アセムからの攻撃を斬ったおっさんは少し息を荒くしていたが、どうにか呼吸を元に戻して、

 

「ふぅ………やってくれるぜ」

 

「今のを止めるのかい。ならば―――――」

 

アセムが更なる攻撃を仕掛けようとする………が、それは阻まれることになる。

奴の右から撃ち込まれてきた聖なる波動がアセムを遠くへと吹き飛ばした。

 

「私を忘れてもらっては困る」

 

「いやいや、忘れたつもりはないよ?」

 

始まるストラーダのじいさんとアセムの壮絶な斬り合い。

そこへ呼吸を戻したおっさんも加わり、二対一の戦いとなる。

だが、急激に力を上げていくアセムに二人は対応しきれなくなっていた。

先程まで攻勢だった二人は今、後手に回り始めている。

 

あの二人が俺達を守りながら戦っているのに、俺は………俺は………!

 

俺はズタボロの体に命じて立ち上がろうとする。

そんな俺を八重垣さんが止められた。

 

「無茶だ! 今の君は立ち上がることさえ出来ない! あの戦いに入ったところで足手まといになる!」

 

「分かってます! でも………それでも俺は………!」

 

制止を振りきろうとする俺に八重垣さんは俺の胸ぐらを掴んで、

 

「ここで君が消えてしまえば、悲しむ者がいる! 君は彼女を守ると誓ったんじゃないのか!」

 

「………ッ!」

 

八重垣さんの言葉が俺の胸に突き刺さった。

そして、嫌に暑くなっていた頭の中が一気にクリーンになった気がした。

 

ここで出ていけば、俺は間違いなく死ぬだろう。

もし皆を守ることが出来たとしても、その先は―――――。

 

八重垣さんは息を吐くと俺達を囲っていた龍を一度解くと前に出る。

それから八重垣さんは聖なるオーラで形作られた龍を一体、作り出すと俺を守護するように囲ませる。

 

「君はここにいるんだ。僕が出る」

 

「そんな………! ダメだ、八重垣さんの力じゃあの戦いには………!」

 

「だろうね。だが、君が出るよりも遥かにマシだ。一瞬だろうが、彼らが攻勢に出る時間くらいは作れるはずだ」

 

そうかもしれない。

作れる時間は確かに一瞬だろう。

瞬きする時間も得られないかもしれない。

だけど、それだけの時間があればあの二人なら反撃の糸口を掴んでくれるはずだ。

 

「でも、それじゃあ、八重垣さんが………!」

 

俺の言葉に八重垣さんは首を横に振った。

 

「僕は未来を得るためにここに来た。ここで何もしなければ、未来を得ることなんて出来ない。だから、僕はこの命に変えても今度こそ―――――」

 

八重垣さんが剣を構えた。

 

ダメだ、行ってはいけない。

たとえ元死人だとしても、あなたは今―――――。

 

飛び出そうとする八重垣さんに手を伸ばした。

その時―――――。

 

「おいおい、眼鏡の兄ちゃんよ! 俺との約束忘れてねぇか?」

 

前方でアセムの魔法を捌くおっさんから怒号にも似た声が飛んできた。

おっさんが叫ぶ。

 

「元死人だろうがなんだろうが、自分を犠牲にするようなことはするなと言っただろうが!」

 

それに、とおっさんは続ける。

 

「つーか、勝手に俺達が負けるって決めつけるなよ? こんなこともあろうかと、俺も秘密道具を持ってきているんだからな」

 

秘密道具?

おっさん、そんなものを持ってきていたのか。

いや、考えてみれば当然といえる。

相手の力量を考慮すれば、何かしらの秘策を持ってきておいても不思議ではない。

この危機的な状況だからこそ、おっさんはそれを使う決心をしたのだろう。

 

おっさんは懐を探ると、ある物を取り出し、それを俺へと投げ渡してきた。

掌に収まる四角い物体。

真ん中にはボタンがあり、横には小さな穴がいくつも空いている。

 

おっさんが叫ぶ。

 

「ボタンを押して起動させろ! そうすれば―――――」

 

こいつが何なのかは分からないが、おっさんがそう言うなら押すしかない。

この状況を脱するためにおっさんが用意した秘密道具だ。

何かしらの効果はあるはず。

 

そう思い、俺は言われるままボタンを押した。

すると――――――。

 

 

パンパカパーンパーパーパー

パンパカパーンパーパーパー

ドゥルル~ドゥルル~ドゥルル~

ドゥルル~ドゥルルルドゥルルル~

 

 

 

「………兵藤一誠くん」

 

「………はい」

 

「なんか、ロッキーっぽい曲が流れてきたんだけど」

 

「………そうですね」

 

八重垣さんの言葉に短く返す俺。

 

つーか、これって――――――。

 

「ただの音楽プレーヤーじゃねぇかぁぁぁぁぁぁぁぁ! なんで、ここでロッキィィィィィィッ!?」

 

「聞いてるだけで燃えてくるだろ」

 

「燃えませんよ! どんなタイミングでシリアス壊してくれてるんですかぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

これが八重垣さんの初ツッコミだった。

 

 




~あとがきミニストーリー~


美羽「ねぇねぇ、お兄ちゃん」

イッセー「どうした、我が妹よ」

美羽「ボクね、最近ずーっと思ってたんだけど………最終章に入ってから兄妹の絡みが少ない! というかほとんどないよ!」

イッセー「そうなんだよ! もうね、俺も色々限界なんだよ! イモウトニウムが切れて、限界なんだよ! だから、美羽! いいか!?」

美羽「うん! ボクもオニイチャンニウムが無くなって………だから、ボクをいっぱい抱き締めて!」

イッセー「美羽ぅぅぅぅぅぅぅ!」

美羽「お兄ちゃぁぁぁぁぁぁぁん!」

ディルムッド「にぃに、ねぇね………私も、良い?」

イッセー&美羽「「ディルちゃぁぁぁぁぁぁん!」」

この後、数時間、兄妹のハグは続いたという。


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