ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝   作:ヴァルナル

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64話 漢達の意地

その男―――――ライザー・フェニックスがフェニックスの翼を広げ、宙に浮かぶ。

炎の翼から放たれる熱量は尋常ではなく、離れていても焼かれてしまいそうなほどだ。

 

ライザーと相対するのはドラゴン型の眷獣。

実力で言えば、龍王クラスは確実だ。

 

俺の考えが正しければ、こいつを含めた眷獣の上位種は他の下位の眷獣の司令塔的な役割を担っているはずだ。

現に、他の場所でも一体の上位種を中心に、下位の眷獣が複数で動いているという状況がいくつも見てとれる。

こいつらが下位の眷獣に指示を出し、互いに連携をさせている可能性は十分にあり得るだろう。

知能を持った眷獣………ロスウォードの時ではそのようなものはいなかったが、アセムなら実現できそうだしな。

 

相手に作戦や連携があった場合、ただ暴れられるよりも面倒なのは言うまでもない。

しかし、逆に言えば、司令塔となる存在を討ち取れば相手は確実に崩れる。

そうなれば、こちらもかなり戦いやすくなるはずだ。

 

それで、ライザーがあのドラゴン型の眷獣と戦って勝てるかだが………正直、厳しいところではある。

ライザーの実力が知らぬ間に大幅アップしていたので、先程は驚いたが、相手が相手だ。

まともにやりあって勝てる相手ではない。

しかし、ライザーはドラゴン型の眷獣に臆するどころか、好戦的な笑みすら浮かべている。

 

何か策があるのか………それとも、相手の実力を認識できていないのか。

いや、そのどちらでもないな。

ライザーは理解しているんだ、自分と相手のとの差を。

そして、ライザーは相手を倒すための策なんて持っていない。

そもそも、俺を助けたのだって、偶然だろう。

この乱戦下、俺の位置を的確に見つけることは難しいからな。

 

ライザー一人で相手にするのは厳しい。

だが、ライザーの眷属が参戦すれば、それはライザーの足を引っ張ってしまうことになるだろう。

どうするつもりだ、ライザー?

 

そんなことを考えている間にライザーが先手を取った。

 

「ぬぅぅぅぅぅぅッ!」

 

唸るような声をあげながら、掌に業火の塊を作り出すと、眷獣目掛けて放った。

放たれた炎は真っ直ぐに進み、眷獣に直撃。

超高温の炎が炸裂した。

 

赤い炎が周囲を覆うなか―――――直撃を受けたはずのドラゴン型の眷獣は炎を突っ切り、ライザーへと迫った!

巨体にみあったサイズの二対の翼を動かして、猛スピードでライザーとの距離を詰めていく!

 

ライザーは眷獣の突貫を避けると舌打ちする。

 

「ちっ、今ので表面が焦げただけか。スピードもかなりのものだ。………それにしても、俺の相手がドラゴンの形をしているとはな。これも因縁か?」

 

苦い顔で呟くライザー。

 

リアスの婚約をかけたレーティングゲームで俺に負けてからライザーはドラゴン恐怖症になった。

俺が放った強烈なドラゴンのオーラがトラウマになったからだ。

あの後、暫くしてからライザーはドラゴン恐怖症を克服したのだが………。

確かに、ここに来てライザーの相手がドラゴンの形をしているのは因縁的なものがあるのかもしれない。

 

ライザーがフッと笑う。

 

「まぁ、いい。俺は貴様などよりも遥かに恐ろしいドラゴンと戦ったのだ。その程度でこのライザー・フェニックスが臆するものかッ!」

 

その瞬間、ライザーの纏う炎が爆発的に膨らんだ!

フェニックスの翼が更に大きく、高温になっていく!

 

「火の鳥と鳳凰! そして不死鳥フェニックスと称えられた我が一族の業火! その身で受け燃え尽きろ!」

 

それはあのレーティングゲームで俺に言い放った言葉。

あの時は全く脅威に思わなかった。

だけど、今は全く違う。

 

この覇気、感じられる強い意思と覚悟!

これがフェニックスの力!

これが誇り高き上級悪魔ライザー・フェニックスか!

 

強烈な熱風を巻き起こしながらライザーが突撃していく。

真っ向から勝負するつもりなのか!

炎を纏うライザーの拳が眷獣へと叩き込まれる!

だが、相手に通じている様子はない。

 

「硬いな! だがッ!」

 

途端、ライザーの炎が拳の一点に集中していく。

すると、拳全体から放出していた熱が一気に高まっていき―――――眷獣の表面を溶かし、拳が内側へとめり込んだ!

眷獣が苦悶の声をあげる!

 

ライザーが言う。

 

「俺はドラゴンと何度も手合わせしてきたんでな。ドラゴンの鱗がどれほどのものか良く分かっているつもりだ。ただ、炎を放つだけではドラゴンを超えることは出来ん。―――――フェニックスの業火を一点に集中させ、熱量を究極にまで上げていく。これが俺が修行で得たことだ。まだ完全に使いこなせているわけではないがな?」

 

そう言えば、ライザーはドラゴン恐怖症を克服した後もタンニーンのおっさんに頼み込んで、おっさんの配下のドラゴン達とガチンコ勝負をしていると聞いたことがある。

あそこにいるドラゴンはどれも強力な力を持っている。

そんなドラゴン達と真っ向勝負は相当ハードなはずだ。

 

過酷な修行の果てに得た力、か。

ライザーの奴、下手すりゃ最上級悪魔クラスに片足を突っ込んでるんじゃ………。

タンニーンのおっさんも見込みがあるとか言ってたし。

 

自分の力が通じることが判明したライザーは果敢に攻めていく。

火炎弾を放つことはせず、拳と蹴りによる完全な肉弾戦を行っているのは無駄な消耗を避けるためだろう。

拳の一点に集中させた超高温を直接ぶつけた方が効果的だからだ。

その行動は正しかったようで、ライザーの攻撃は確実にダメージを与えていっている。

 

だが、肉弾戦一本で攻める場合、リスクも大きい。

自分が相手の間合いの圏内にいるのだから、当然、相手の攻撃も受けやすくなる。

現に敵の鋭い牙と爪、そして灼熱のブレスはライザーに傷を負わせていっている。

時が経つほどに、ドラゴン型の眷獣の攻撃が更に激しく鋭くなっていく。

吐き出す火炎は周囲にいた多くの味方を焼き、無へと返してしまうほどだ。

その手数の多さに高速で移動するライザーも押されていき―――――遂にはドラゴン型の眷獣の鋭い攻撃がライザーの肉体を容易く貫いた。

 

ライザーに命により俺の護衛に回ってくれているユーベルーナさんが悲鳴に似た声をあげる。

 

「ライザー様ッ!」

 

しかし、

 

「狼狽えるなッ!」

 

ライザーはフェニックスの特性である不死の力で肉体を再生しながらそう返した。

ライザーは肩を上下させながら言う。

 

「強いな………。俺は厳しい修行で力を得たと思っていたが………まだまだということか。ったく、嫌になるぞ。だが、それでこそ鍛え甲斐があるというもの! さぁ、来い! このライザー・フェニックスはまだ立っているぞッ! 貴様が兵藤一誠を狙うというのなら、この俺を倒してからにしろッ!」

 

再びライザーが攻勢に回る。

眷獣の巨体に拳打を打ち込み、超高温で焼いていく。

しかし、そんなライザーを嘲笑う火のように眷獣の肉体は次から次へと再生し、一瞬で元に戻ってしまう。

そして、お返しと言わんばかりにライザーが繰り出した攻撃以上の攻撃をライザーにくらわせる。

鋭く重い一撃がライザーを捉えると、骨が砕ける嫌な音が聞こえてきた。

 

「ぐぅぅぅッ!」

 

吹き飛ばされるライザー。

 

見ていられない程にボロボロな姿。

腕は折れて垂れ下がり、顔面は流血で赤く染まってしまっている。

その傷も不死の特性で再生されるが………回復のスピードも少し前と比べ、格段に落ちている。

炎の出力も明らかに弱まっていて………。

 

「ライザー様ッ! くっ!」

 

ライザーの眷属達は主の元へと駆けつけようとするが、動けなくなった俺を守るために、この場から動けないでいる。

 

クソ………ッ!

このままじゃ、ライザーがやられる!

動けよ、俺の体!

俺が動けたら、この子達は主を助けに行けるんだ!

 

『無茶だ、相棒。この傷では………!』

 

ドライグがそう言ってくるが………俺は………!

 

「ライザー………!」

 

俺は痺れる体を起こすが、込み上げてきた血を吐き出して、すぐに倒れてしまう。

ライザーの眷属の女の子―――――『兵士』の棍棒使いのミラが俺を支えてくれるが………。

 

ドラゴン型の眷獣がライザーの前に立つ。

巨大な腕を振り上げ、ライザー目掛けて―――――。

 

 

「やらせるかってんだ!」

 

 

第三者の声。

すると、眷獣が振り上げた腕にいくつもの触手が巻かれ、動きを封じた。

更に黒い炎が四方から眷獣を覆い、焼いていく。

 

これは―――――。

 

『助けにきたぜ、兵藤!』

 

漆黒の鎧を纏う匙が複数の眷獣を黒炎で焼き尽くしながらの登場だ!

良いタイミングで来てくれたよ、こいつは!

 

漆黒の鎧から伸びる触手。

その周囲に浮かぶ呪詛が辺りにいる眷獣を捕まえ、次々と呪殺していく。

いつ見ても、恐ろしい力だな………。

 

匙の登場にライザーが言う。

 

「ソーナ・シトリーの『兵士』匙元士郎か」

 

『はい。うちの主がこちらの危機を察知して、俺を送り込んでくれたんです。かなり近場だったんで来れたというのもあるんですが、間に合って良かった』

 

「そうか。………礼を言うぞ。おまえが来なければ、危ないところだったからな」

 

礼を言うとライザーは匙と共に黒炎に包まれている眷獣へと視線を戻す。

匙の黒炎―――――龍王ヴリトラの黒炎はたとえ神であろうとそう簡単に振り払えるものではない。

龍王に匹敵する力を持つとはいえ、あの黒炎をそう簡単に解除できるとは思えないが………アセムのことだ、何かしらの仕掛けは施してそうだな。

 

ライザーと匙も警戒しながら様子を見守っている。

すると―――――。

 

『グォォォォォォァァァァァァッッ!』

 

黒炎に包まれている眷獣が咆哮をあげ、黒炎がかき消された!

 

匙が驚愕の声をあげる。

 

『おいおい、マジかよ………!?』

 

『我が炎を打ち消すか。我が分身よ、奴は先程までやりあった者共よりも格が上らしい。心してかかれ』

 

漆黒の鎧に埋め込まれている宝玉からヴリトラの声が聞こえてきた。

ヴリトラも気づいたか、眷獣達の中に頭が一つも二つも抜けている化物がいることに。

 

ライザーが深く息を吐いた。

 

「奴の攻撃、防御、スピード。どれを取っても化物だが、面倒なのはあの再生能力。焼いても焼いても再生されたのでは、こちらが先に参ってしまう」

 

『ということは、あいつの再生スピードを超える力で焼き尽くす必要があるということですね』

 

「簡単に言えばな。だが、俺一人では無理だ。今の俺では………。ったく、こいつらを作り出した異世界の神とやらは正真正銘の化物じゃないか」

 

『それとやり合える兵藤も大概ですよね』

 

なんだよ、その目は!?

俺もアセムと同類と見られてるの!?

 

ライザーが言う。

 

「匙元士郎。手伝ってくれるか?」

 

『ええ、そのために俺はここに来たので』

 

迷いのない言葉にライザーはフッと笑う。

そして―――――。

 

「ならば行こうか、匙元士郎!」

 

『望むところです!』

 

赤い炎と黒い炎を放出しながら、ライザーと匙が駆ける!

ライザーは右、匙は左から眷獣に迫り―――――それぞれが強烈な一撃を見舞う!

ライザーの炎が、匙の黒炎が眷獣を焼く!

 

眷獣は体を震わせて、二人を弾くと、口から莫大な火炎を吐き出した。

火炎が着弾した場所は熱で溶かされ、ドロドロのマグマへと変わっていく!

 

『あんなの食らったらお陀仏じゃないか! こいつならどうだ!』

 

匙は飛び上がると、鎧から生える触手を伸ばす。

伸びた触手は眷獣の腕と足、首に巻き付き、そこから黒炎が発生する。

更に―――――

 

『おまえの力を使わせてもらうぜ!』

 

匙がそう言うと触手が大きく脈動した。

次の瞬間、匙の纏うオーラが膨れ上がり、眷獣を襲う黒炎も一段とその火力を上げていく。

眷獣から吸いとった力を自分の力へと変換しているんだ。

 

そこにライザーが飛び込む。

ライザーの腕には匙の触手が接続されていて、匙と同じく眷獣から吸いとった力をライザーに流しているようだった。

 

ライザーは胸の位置で両手を合わせると、左右の掌の間に火炎を作り出す。

火炎は大きくはならず、それどころか徐々に小さくなり、最終的にはビー玉サイズへと変化した。

しかし、そこに籠められた熱は尋常ではない。

圧縮に圧縮を重ねたあの小さな炎はまるで小さな太陽だ。

 

「くたばれッ!」

 

ライザーが腕を振りかぶり、小さな火の球を投げた。

火の球は眷獣の鼻先に触れて――――――急激な膨張を引き起こす!

巨大化した灼熱の球体は眷獣を完全に呑み込んでいく!

 

匙がライザーに問う。

 

『やりましたかね?』

 

「分からん。だが、油断はするな」

 

「分かっています」

 

二人は気を緩めることなく、様子を見守る。

 

あれだけの攻撃だ。

いかに龍王クラスであろうと、力を吸われた状態で受ければ無事では済まないだろう。

 

ドライグも同意する。

 

『ああ、そうだな。前に言ったかもしれんが、フェニックスの炎はドラゴンの体にも傷をつけることが出来る。あの炎はまさにドラゴンをも降せるそれだ。しかし、面白い。あのヘタレた男がここまでのものになるとはな。ヴリトラを宿す小僧も大した成長だ』

 

龍王とフェニックス。

この二人の攻撃なら、あの眷獣でも………。

 

しかし――――――。

 

『ガッ………!?』

 

突如、匙が苦悶の声を漏らす。

見ると、何かが匙の脇腹を貫いていた。

 

ライザーが声をあげる。

 

「この土壇場で姿を変えただと!?」

 

ライザーの視線の先にあるのは無数の触手を生やしたドラゴン。

翼は炎で形作られており、ヴリトラとフェニックスを足したような姿をしている。

匙を貫いているのは無数に生える触手のうちの一つだ。

 

更に伸びてきた触手が匙の四肢を穿つ。

腹に続き、手足に風穴を開けられた匙は倒れてしまう。

 

まさか………!

 

「ライザーと匙の情報を得て、進化したということか!? いや、こいつは………!?」

 

辺りを見ると、あのドラゴン型の眷獣の周囲にいた他の眷獣にまで匙とライザーの特徴が現れている。

触手を繋げた相手から力を奪い、黒炎とフェニックスの炎を操って、自身の敵を屠っていく………!

 

他の場所でも、同様の事が起きているようで、半減の力を得た眷獣もいれば、滅びの魔力を操り始める眷獣まで現れている。

 

この戦場を見下ろすアセムが言う。

 

《フフフ、面白い仕掛けだろう? その子達には戦いながら相手の能力を模倣する力が備わっているのさ。長引かせば、その分だけ能力をコピーされることになる。それから、もう一つ》

 

アセムは魔法陣を展開すると、空へと放り投げた。

すると、魔法陣が強く発光し、上空にある映像が映し出される。

それはアセムが構築したこの世界と俺達の世界を繋ぐ(ゲート)の映像だった。

何事かと俺達が見ていると、そこにはとんでもない光景が流れていて、

 

「嘘だろ………!? こいつら、俺達の世界に乗り込んでるってのか!?」

 

そう、俺達が戦っている眷獣が門を潜り、俺達の世界に侵攻していた!

今も映像の向こうでは味方との激戦が繰り広げられている!

このままでは、人間界にも影響が―――――。

 

恐らく、それは誰もが考慮したことだろう。

しかし、アセムは俺達に追い討ちをかけてくる。

 

《人間界への影響を考えたね? でも、もう遅い。この戦いの映像は一般の人間達にも見られているよ。一部始終、全てをね。さぁ、どうする? 君達の世界が崩れる音が近づいてきたよ?》

 

神々からの絶大な攻撃の数々を片手であしらうアセム。

あいつ、徹底的に俺達を追い詰めるつもりか!?

 

 

―――――僕はまだ………世界の声を聞いていない………!

 

 

不意にアセムの言葉が頭の中に過る。

あいつはトライヘキサを吸収する直前、確かにそう言った。

これが、そのためのものだとでも言うのかよ、アセム………ッ!

 

匙が脇腹の傷を抑えながら立ち上がった。

指と指の間から夥しい量の血が吹き出しているにも関わらず、匙は強い瞳で眷獣を見る。

 

『行かせねぇよ、この先は………! これ以上、俺達の世界を滅茶苦茶にされてたまるかってんだ………!』

 

肩を上下させて、口からもゴポッと血を吐き出す匙。

今にも倒れそうな雰囲気の中、匙が俺に言ってきた。

 

『なぁ、兵藤。実は俺、妹と弟がいるんだ………。父さんと母さんが事故でいなくなって………代わりにじいちゃんが俺達を育ててくれた。けど、じいちゃんも少し前に………』

 

それは俺の知らなかった匙の家族についてだった。

 

『その後、俺はソーナ会長………ソーナさんと出会った』

 

それは偶然たったのか、必然だったのか。

匙はソーナと出会った。

 

ソーナは匙の内側に眠る力―――――神器『黒い龍脈』を見つけ、それを見事に発現してみせた匙はソーナと主従契約を結び、彼女の眷属となった。

シトリーという大きな後ろ楯を得ることが出来た匙は、そのお陰もあり、弟と妹を守ることができたという。

 

匙が言う。

 

『俺は………! 守られてばかりだった! じいちゃんにも、ソーナさんにも………! 今、あいつらを守ることが出来ているのも、俺の力じゃない………』

 

だから!、と匙が続ける。

その言葉には強い意思が籠められていて―――――。

 

『これからは俺が守るんだ! 大切な人を! 大切な家族を、仲間を! こんなところで、死んでたまるかよぉぉぉぉぉぉぉぉッ!』

 

天に向かい吠える黒き龍王。

それに続くのはもちろん、あの男。

 

「よく言った、匙元士郎! 若手にそこまで言われて、昂らなければ嘘と言うものだ!」

 

匙が倒れている間、一人でドラゴン型の眷獣を相手にしていたライザーが降りてくる。

パワーアップした眷獣にライザーもズタボロの姿だが、匙の言葉に笑みを浮かべていた。

 

匙が言う。

 

『ライザーさん、まだいけますか?』

 

「まだまだ余裕だ! ………と、見栄を張りたいところだが、俺に残された力はほんの僅かだ。精々、でかいのを一発、と言ったところか」

 

『奇遇ですね、俺もです』

 

ドラゴン型の眷獣が巨大な顎を開き、オーラを集めていく。

パワーアップしたことで、強大だった力がより凶悪さを増している。

あんなのを放たれたら、射線上にいる味方はたちまち消し飛ばされてしまうだろう。

チャージが終わり、眷獣のオーラが最大限にまで膨れ上がる。

そして――――――滅びの閃光が放たれた。

 

「いくぞ!」

 

『はい!』

 

匙とライザーの纏うオーラが大きくなる!

嵐のように巻き起こる熱風と呪詛を含んだ黒炎が混ざり、滅びの閃光を受け止めた!

 

「『はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!』」

 

激しく衝突する力と力!

だが、二人の炎は徐々に押されつつあった!

 

「匙! ライザー!」

 

俺がそう叫ぶ。

しかし、二人から返ってきたのは、

 

「ええい! 少し黙っていろ、兵藤一誠! 言ったはずだ、俺はおまえを倒す男だ! こんな場所では死んでも死にきれん!」

 

『兵藤はそこで休んでろ! ここは俺達でなんとかする! 大体な、俺もソーナさんと出来ちゃった婚するまで、死んでも死にきれねーんだ!』

 

「おまえ、さっきと言ってること違くないか!?」

 

やっぱり、シトリー眷属にもシリアスブレイカーの波が!?

第一号は君だと言うのか、匙君!

確かに、ソーナとの出来ちゃった婚はおまえの夢だったけども!

 

『大体なぁ………! これくらい、なんとか出来なくて龍王が名乗れるかよ! こんな時に体張れないで何が龍王だ!』

 

「この程度で根をあげるなど、なにがフェニックスか! フェニックス家の男なら、前に出てこそだろう! ………いや、違うな」

 

匙とライザーが手を突き出す。

相手の閃光に焼かれ、漆黒の鎧は粉々に砕け、ライザーの腕は半分、消し飛んでいる。

そんな中、二人の掌から極大の炎が現れる。

フェニックスの業火と龍王の黒炎が混ざり、更に大きく、更に強大になっていくのが見えた。

 

そして、二人は同時に叫んだ。

 

「『これくらい乗り越えられないで、なにが漢だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!!』」

 

混ざりあった二人の炎が滅びの閃光を押し返し、呑み込んでいき――――――強大な力を持った眷獣を跡形もなく焼き付くした。

微塵の灰すら残さずに。

 

 

 

 

 

 

[三人称 side]

 

 

「くそっ! なんだってんだ、こいつらは!?」

 

日本近海にある、二つの世界を繋ぐ(ゲート)付近。

ここはアセムが構築した世界に乗り込む時に、リアス達が戦っていた場所でもある。

チーム『D×D』のメンバーを含め、各勢力のオフェンス部隊が突入したところで、戦況はある程度落ち着いていた。

 

ところが、つい先程、(ゲート)を潜って新たな敵が現れたのだ。

それはアセムが新たに作り出した眷獣。

一体一体が高い戦闘力と再生能力を持っている上に、眷獣を指揮する上位の眷獣までいるという厄介極まりない群れだ。

 

当然、こちらでも一誠達と同様に苦戦を強いられた。

何度倒しても、無限に襲ってくる敵に精神を折られそうにもなった。

 

だが、戦士達は折れなかった。

それは彼らにも守りたいものがあったからなのかもしれない。

彼らが戦えた理由、それは―――――希望だ。

彼らには希望があった。

 

そう――――――物理戦士(まほうしょうじょ)の存在が!

 

「悪魔さん、ミルたんはやるにょ。悪魔さんの教えを今こそ! にょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

激しく隆起する筋肉!

見た目とはまるで合わないラブリーなオーラが嵐のごとく吹き荒れる!

何が起きようというのか!

いや、もう誰も驚きはしない!

なにをどうツッコめばいいのか分からないのだ!

ただ、言えることはとんでもないことになるということだけ!

 

さぁ、現れろ!

希望となりし者よ!

最強の漢の娘(おとこのこ)よ!

 

 

「トランザムにょぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

 

―――――――トランザムミルたん、始動。

 

 

 

 

物理戦士(まほうしょうじょ)は進化する。

 

 

 

[三人称 side out]

 

 




~次回予告~

アザゼル「神々すら赤ん坊扱いとはな………。トライヘキサを吸収したアセムがここまでとはな。おい、イッセー! 俺が思うに、あいつに勝てるのはおまえしかいない! さっさとケリつけてこい!」

イッセー「俺だってそうしたいんですよ! でも、今の俺じゃあ………!」

イグニス「焦ってはダメよ、二人とも。アザゼル君の言う通り、この戦いを終わらせることが出来るのはイッセーよ。でも、イッセーの力は一人のものじゃないの。皆の願いがイッセーの力になる。さぁ、いきましょう! おっぱいの彼方へ!」

アザゼル「おいおいおい、これはまさかの展開なのか? やはりそうなのか? いや、もう何も言うまい。それでこそ、おっぱいドラゴンなんだからな。いけ、イッセー! 吸え、おっぱいドラゴン!」 

イグニス「次回! 『乳龍降臨! 俺が吸わなきゃ誰が吸う!』」

アザゼル「絶対見てくれよな!」

イッセー「おぃぃぃぃぃぃ!? これマジか!? マジなのか!? つーか、そのタイトルどっかで見たことあるよ!?」


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