「イッセー!」
「お兄ちゃん!」
ライザーと匙がドラゴン型の眷獣を倒した後。
俺のところにアリスと美羽が駆けつけて来てくれた。
二人ともボロボロではあるが、大した傷を負っていないのは幸いだ。
美羽が俺の胸に手を当て、魔法陣を展開する。
こいつは回復の魔法、応急処置だ。
流石の美羽でもアーシアレベルの回復を実現するのは難しいようで、傷の治りもかなり遅い。
まぁ、神姫化した美羽より高い治癒力を持つアーシアがすごいんだけれども。
美羽が俺を治療しながら言う。
「アーシアさん、他の人の回復で手一杯だから………。今はこれで我慢してね?」
「ああ、助かるよ。応急処置だけでも、大分楽になる」
完全な回復は見込めないにしろ、痛みが和らぐのと出血を抑えられるのは大きい。
美羽には感謝だ。
俺が美羽に治療を受けている間、アリスはユーベルーナさんの援護に回っていた。
「あなた、ライザー・フェニックスの『女王』ユーベルーナさんよね? うちの主を守ってくれたこと、感謝するわ」
「いいえ、これは我が主ライザー様の指示ですもの。それにこの戦場、互いの協力なしに生き残るのは難しいのではないかしら、赤龍帝の『女王』」
「ええ、全くその通りよ」
白雷を纏い、光速で眷獣に突撃するアリス。
荒々しく振るわれた槍と高出力の雷が眷獣の肉体を四散させる。
ユーベルーナさんは後方からアリスを狙う眷獣を爆撃し、他の眷属と共にライザーの元へと移動し始めている。
ドラゴン型の眷獣によって深傷を負わされた匙だが、
「匙! あなたは本当に無茶をして………!」
「す、すいません………」
眷属と共に駆けつけたソーナに怒られながらも、彼女が持っていたフェニックスの涙によって傷はすっかり治っていた。
ソーナの方は………うん、怒っていることは怒ってるけど、匙が戻ってきたことを喜んでいるようだな。
涙を拭った後、匙のことを軽く抱き締めてるし。
匙………今のおまえ達、いい雰囲気だぞ!
それから、俺の危機を救ってくれたライザーは消耗はしているものの、傷自体は自身の特性で完全回復していた。
かなりの魔力を使ったのだろう、ライザーは少し魔力切れを起こしていて、
「ちっ、たった一体でこの様とはな………。こんな化物があと何体いるんだ? いい加減にしてほしいぞ、全く」
と、戦場を見渡しながら文句を言っていた。
ライザーの気持ちはすっごく分かる。
あんな化物クラスの怪物がまだまだいるってんだ、嫌にもなるよね。
まぁ、そんな奴らの相手は神々かそれに準ずるレベルの戦士が相手にしてくれているよ。
「兵藤一誠!」
俺の名前が呼ばれたと思うと、俺達の頭上になにか巨大なものが現れた。
上を見上げると、巨大なドラゴン―――――タンニーンのおっさんが浮かんでいた!
「タンニーンのおっさんも来てたのか!」
「当たり前だ。俺の配下のドラゴンも全員来ているぞ」
おっさんが指差した場所では何体ものドラゴンが眷獣の群れに突貫し、強力なブレスを浴びせていてる。
こうして見るとまさに大怪獣バトルだな。
「ふぅ、とりあえずは合流できたな?」
息を吐きながら降りてきたのはティアだった。
流石に無傷とはいかないようだが、ピンピンしてるのは流石は龍王最強。
というか、ティアも眷獣との戦いは慣れてたな。
一緒にアスト・アーデに行ってるし。
ティアがパチンと指を鳴らすと、上空にいくつもの魔法陣が展開され、極大の光線が放たれる。
放たれた光は多くの眷獣を一瞬で屠ってしまった。
ティアが言う。
「この程度で済む相手だけなら楽なんだがな。戦うことは嫌いではないが、あまりにしつこい相手は嫌になる。………合流早々にズタボロ姿の主を見るのは何気にショックなんだが?」
「あ、いや………油断はしてないよ?」
「油断していようと、していまいと、それだけの傷を負っているのなら同じだ」
うっ………うちの龍王様は手厳しい!
確かにその通りなんだけど………もっと優しくしてよ!
このズタボロな人にトゲを打ち込まないで!
その姉的包容力で俺を包み込んでよ、ティア姉!
すると、
「う、うむ! しょうがないやつだな、イッセーは」
「え?」
少し照れた顔でティア姉が抱き締めてきた!
「よしよし、甘えたいのなら、存分に甘えても良いのだぞ? ティア姉が甘えさせてやろう」
ふわぁぁぁぁぁぁぁぁ!
ティア姉のおっぱいが!
おっぱいが押し付けられるぅぅぅぅぅぅ!
つーか、やっぱり『ティア姉』って呼ばれるの好きなのな!
あと、何気に心の声読まれてるし!
あぁ、ティア姉に頭を撫でられるのが、ここまで心地良いとは………。
リーシャの時もそうだったけど、これが姉というものか!
そんな姉の包容力に包まれていると、ティア姉が言ってきた。
「ところで、今度はいつ幼児化するのだ? また見てみたいのだが。アザゼルの発明の中では唯一気に入ったのだが」
「それは勘弁してくれぇ!」
幼児化って!
美羽がアザゼル先生に頼んで作ってもらったあの装置だろ!?
どんだけ気に入ってんだ!?
「………ティアマットも、変わったものだな」
「おっさん! そんな遠い目で呟かないで! これはシリアスブレイクという毒に漬かっただけだから!」
▽
タンニーンのおっさんが配下のドラゴンの元へと戻るのと、入れ違いにリアス達が俺のところに辿り着いた。
どうやら、おっさんとティアがここに来る前に下位の眷獣を吹き飛ばしていたようだ。
それから、木場が言うには、
「匙君達があのドラゴン型のを倒してから、相手の動きが少し鈍ってね。それもあって、ここまで来れたんだ」
とのことだ。
やはり、あのドラゴン型の眷獣は下位の眷獣達の司令塔の一つでもあったということか。
俺の推測は当たっていたらしい。
こいつらを叩くには、司令塔になっている奴を先に倒してからの方が楽になるかと聞かれると、それが中々に難易度が高い。
司令塔の眷獣一体一体が神クラスだ。
早々倒せるものではない。
今も神々が自身の配下と共に超激戦中だ。
それからもう一つ。
仮に、こいつらを全滅させることが出来たとしても、この戦いは終わらないということ。
「無茶苦茶だわ………!」
厳しい声を漏らすリアスの視線の先、そこではアセムが複数の神々を相手にしていた。
神々は雷を、炎を、水を、大地を、それぞれが司る力をフルに使ってアセムに猛攻を仕掛けている。
中には凄まじいオーラを解き放ちながら、アセムに対して近接戦まで仕掛けている若い神もいた。
その神が放つ蹴りの余波だけで大地が吹き飛ぶが………アセムはそれを指の一つで軽々と受け止めている。
木場が呟く。
「神々の黄昏………。あれを見ていると、今が世界の終末だと思えてしまうね」
神々の黄昏、か。
ロキの奴が、自分が属する神話の主神であるオーディンのじいさんを襲撃してまで成そうとしたもの。
木場が感じたように、今、この時が世界の終末と認識してしまう。
「黄昏というよりは、ほぼ一方的な蹂躙だな」
その声が俺達の頭上から聞こえてきた。
降りてきたのはアザゼル先生だ。
アザゼル先生は神々を圧倒するアセムに嫌な汗を流していた。
「アースガルズの神に阿修羅神族、インド神話の神々。あれだけの力を持った神々が、総掛かりでも倒せないだと? 悪い冗談、もしくは悪い夢とでも思いたいくらいだ」
木場がアザゼル先生に問う。
「先生、やはりこのままでは?」
「ああ、かなり不味い状況だ。戦線が押されつつある。………アセムに集中砲火を与えたいところだが、この眷獣共が邪魔だ。逆に眷獣共に戦力を裂くとアセムの一撃でこちらが吹き飛ぶ。守備に徹してくれている勢力を呼びたいところだが、向こうも相当ギリギリらしくてな」
つまり、俺達にはもうこれ以上投入する戦力がない。
絶望的すぎて笑いが出るな。
「ったく、とんでもないことになったもんだ」
吹き飛ばされる複数の眷獣。
眷獣の群れのど真ん中でモーリスのおっさんが戦っていた。
………素手で。
振り下ろされる巨腕を流しては、その腕を掴んで見事な背負い投げを披露している。
木場が目元をひくつかせながら問う。
「あの、剣は………? というより、もう動いて大丈夫なんですか?」
「まぁな。相棒に関しちゃこの通りでな」
おっさんが鞘に納められた剣を引き抜く。
そこには砕かれ、刀身が半分になった剣があった。
アザゼル先生が言う。
「おまえと全盛期のストラーダでも勝てないか」
「そりゃあ、俺達は何でもできる完璧超人じゃないからな。言っておくが、あそこに交じるだけの体力は残ってないぞ?」
アセムの方を指差すと同時に眷獣を蹴り飛ばすおっさん。
少し離れたところではストラーダのじいさんが聖拳で眷獣を粉砕してるし………。
うん、やっぱりチートだわ、この二人。
「こんなチートおじさんでも勝てないってどんだけなのよ………」
「しかし、どうしましょう? あのままでは、彼に勝てるとは………撤退して、体勢を立て直すことも無理でしょうし」
「そんなことしたら、向こうにも時間を与えることになるわ。倒すなら今………なんだけどね」
そんな会話をしながら迫る眷獣を倒していくアリスと朱乃。
朱乃の雷光龍に乗り、アリスが猛烈に斬り込んでいる。
アリスは消耗を避けてか、今は神姫化を解いていつものスタイルで槍を振るっている。
美羽の方も同じくで、ディルムッドとレイヴェルの三人で組んで対処しているようだ。
木場とゼノヴィアは高速で切り込み、闇の獣と化したギャスパーは、闇を広げて眷獣を呑み込んでいく。
猫又モードの小猫ちゃんは闘気を籠めた拳で相手を殴り倒し、リアスが極大の滅びの力で跡形もなく消し飛ばしていた。
アーシアは全体の把握を行いながら回復のオーラを送っている。
………が、皆の表情はかなりきつそうだ。
ちなみに俺はアーシアの治癒で傷は回復しているものの、蓄積されたダメージが大きすぎるのか、未だに動けないでいる。
皆もそんな俺の状態を理解してか、俺を守るように戦ってくれている。
アザゼル先生が言ってくる。
「イッセー、今は回復に撤しておけ。恐らく、あの神に勝てるのはおまえだけだ。出来るだけの時間は俺達で稼ぐ」
『俺もその意見を支持する。リアス・グレモリー達と共に戦いたい気持ちは分かるが、ここで相棒を失えば、それこそ終わってしまうぞ』
ドライグもそう言ってきた。
分かっているよ、二人とも。
だから、こうして飛び出したい気持ちを無理矢理抑えているんだ。
すると、少し前からロセと何やら作業をしていたリーシャが言ってきた。
「もしかするとですが………彼を一時的に弱体化させることが出来るかもしれません」
『――――――ッ!』
その発現に皆が目を見開いた!
アザゼル先生が問う。
「そいつは本当か!? そいつ次第では状況はかなり変わってくるぞ!」
その問いにリーシャは少し微妙な表情で返した。
見ると、彼女の手元には莫大な数の術式が描かれた魔法陣が展開されていて、
「本当にもしかするとの話です。トライヘキサ捕縛用の術式、これを利用して新たな術式を構築するのです。彼の中にあるトライヘキサとの繋がりを絶ちます。そうすれば、猛威を振るうあの力も失われるでしょう」
ロセが続く。
「ですが、弱体化できる時間は極僅かな時間になると思います。数分、数秒………一瞬しか効果を発揮出来ないことも考えられます」
二人の意見を聞き、アザゼル先生が前髪をかき上げた。
「その僅かな時間で奴を倒せって言うのか………。そいつは………いや、そこに賭けるしかないのか?」
アセムの弱体化。
それが可能なら状況の好転が見込める。
だが、弱体化できる時間が短すぎる。
悪ければ、一瞬………瞬きをする間の時間に弱体化が解けてしまうかもしれない。
果たして、そんな短すぎる時間の間にアセムを倒せるのか?
判断に悩むアザゼル先生にリーシャが言う。
「彼に届くのはイッセーしかいないでしょう。ですが、万全でないイッセーでは無理です。そして、回復を待つ時間もありません」
「イッセーの全回復する前にこちらが潰されるか………。何とかして、イッセーをフルパワーにすることが出来れば………。リアスとアリスの乳でも吸わせるか?」
「私も最初にそれを考えましたが、二人とも乳力を使ってしまったようですし………困りましたね」
うーん、後半の会話がおかしいよね!
俺が二人のおっぱいで回復するのは間違ってないけどさ!
冥界の魔獣騒動の時はアリスのおっぱいで回復したし、アウロス学園襲撃の時はアリスとリアスのおっぱい吸って、
というか、リーシャは何で
なんで第一案がそれだったの!?
ふざけてるの!?
真面目なの!?
顔だけはシリアスだから分からねぇ!
「「………ごめん、なさい」」
リアスとアリスが謝った!?
なんで謝るの!?
なんで涙目なの!?
なんで悔しそうなの!?
リアスが言う。
「私があんなにチクビームを撃たなければ………」
アリスも言う。
「私の胸がもっと大きければ………グスッ」
うん、アリスのはともかく、リアスはなんでチクビームを撃ちまくったのか、そこを聞きたい。
と、とにかくだ。
俺の回復手段であるダブルスイッチ姫の力は使えない。
そうなると、自力で回復させるしかないわけで―――――。
「諦めるのはまだ早いわ!」
「とうっ!」とポーズを決めながら現れるイグニス!
このタイミングで来るとか、嫌な予感しかしない!
それはこの場の誰もが思ったことだろう!
しかし!
しかしだ!
この駄女神の進言は正しいのだ!
悔しいことに、彼女の進言により危機を乗り越えたこともあったのだ!
アザゼル先生もそう感じたのか、真剣な表情でイグニスに問う。
「イグニス、イッセーを回復させる手段があるんだな? 誰だ? 誰の乳だ? 誰の乳を吸えば良いんだ? アーシアか?」
「わ、私ですか!? だ、大丈夫です、イッセーさん! 私のおっぱいで回復できるのなら………す、吸ってください!」
アーシアちゃぁぁぁぁぁぁぁん!
その申し出は嬉しいけど、流石にこっちが恥ずかしい!
というか、滅茶苦茶覚悟を決めた顔になっているんですが!?
しかし、イグニスは首を横に振った。
アザゼル先生が再び訊ねる。
「違うのか? なら、美羽か?」
「ボク!? うぅぅ………た、確かにお兄ちゃんには何度もされたけど………こんなところじゃ………。で、でも! お兄ちゃんのためなら、ボクは脱ぐよ!?」
美羽ぅぅぅぅぅぅ!
我が愛しの妹よ、服のボタンを外すのが早すぎるぞ!
まだ脱がないで!
まだ決まってないから脱がないで!
しかし、イグニスは首を横に振る。
これにはアザゼル先生も驚いたようで、今度は切羽詰まった表情で訊ねた。
「違うだと!? じゃあ、誰なんだ! 朱乃か!? ゼノヴィアか!? イリナか!? レイナーレか!? レイヴェルか!? ロスヴァイセか!? 小猫か!? えぇい、イッセーの嫁が多すぎて絞り込めん!」
「あんた、どんだけ切羽詰まってるんだよ!? やめてあげて! 皆、顔真っ赤だから!」
「やかましい! この戦いを何とか出来るかもしれんのだぞ!? というか、ここで吸わずしておっぱいドラゴンを名乗れると思っているのか! いつ吸うの!?」
「今でしょ! ………じゃねーよ!」
「それでもおっぱいドラゴンか! そこは『俺が吸わなきゃ誰が吸う!』くらい言えよ!」
「うるせーよ! あんた、それが言いたいだけだろ!? というか、それでも教師か!?」
「おまえが誰の乳を吸うかに世界の命運がかかってるんだぞ! そんなもん知るか! さぁ、教えてくれ、イグニス! イッセーは誰の乳を吸えば良いんだ!?」
アザゼル先生の問いがイグニスに投げられ、皆の―――――主に女性陣の視線がイグニスに集中する。
な、なんだ、この無駄な緊張感は………?
だけど、アザゼル先生の言う通りで、俺が誰のおっぱいを吸うかでこの戦いが左右される。
ゴクリ、と喉が鳴った。
鼓動がやけに早い。
この僅かな沈黙が俺達を追い詰めてくる………!
答えてくれ、イグニス………!
俺はいったいどうすれば――――――。
「全員よ」
イグニスから返ってきた答えはあまりに短かく、予想外過ぎた。
全員の思考が停止する。
え………?
ぜ、全員………?
え、うそ………マジで………?
思考が追い付かない中、イグニスが言う。
「イッセーを想う女の子全員のおっぱいで、イッセーをフルパワーを更に越えたおっぱいドラゴン―――――『超フルパワーおっぱいドラゴン』にするの」
この駄女神はいったい何を言っているんだろう?
『超フルパワーおっぱいドラゴン』ってなに?
イグニスは不敵な笑みで告げた。
「さぁ、宴を始めましょうか。―――――《乳の宴》。イッセー、あなたはこれから新たなおっぱいドラゴンとして覚醒するわ」
――――――乳の宴。
とんでもなくアホなワードと共に、過去にない儀式が行われることになる。
今回はまだ降臨しませんでした(-_-;)