ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝   作:ヴァルナル

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気付いたけど、最終章だけで一年やってる………!



70話 救い

空間が崩壊していく。

 

俺とアセムを囲む周囲の空間に亀裂が入り、砕け散った。

二人が放った強烈なエネルギーの衝突に、空間が耐えられなかったのだろう。

赤い血のような空から一変し、万華鏡を覗き込んだような世界が現れる。

 

―――――次元の狭間だ。

 

アセムが言う。

 

「どうやら、君も一人で文字通り世界を壊しかねない存在になったようだ。あれほど頑丈に作ったこの世界が崩れかけるとは………」

 

『半分はおまえがやったんだろ』

 

アセムの言葉に少し抗議しながら、俺は崩壊した空間に目をやった。

かなり広い範囲で空間が崩れているが、幸いアザゼル先生達が戦っている場所まではギリギリ届いていない。

 

距離を離しておいて良かった。

あの場でやり合っていたら、間違いなく大勢が巻き添えになっていただろうしな。

 

しかし………。

 

「今の君は無限や夢幻に匹敵する力を持っている。強大すぎる力を持てば今は良くても、危惧され、疎まれることになるだろうね。もしくは、君の力を利用しようとする者も現れるだろう。僕を殺し、この戦いを終わらせたとしても、後々、君は世界の厄介者になるかもしれないね」

 

アセムは不意にそんなことを言ってきた。

 

………分かってるさ。

美羽を守るためってこともあるが、シリウスを倒した後、俺は向こうの世界の厄介者になると考えたからこそ、こっちの世界に戻ってきた。

魔王を倒した勇者の影響力は大きい。

勇者がいる国は他の国よりもこれからの政治を有利に進めることが出来る。

それではまた争いが起こる。

そう考えたから、俺は………。 

 

正直なところ、こっちの世界に戻ってきた後、こんな大事に関わるとは思ってなかった。

俺自身もここまで力を付けるとは想像すらしてなかったよ。

無限や夢幻―――――二つに別れる前のオーフィスやグレートレッドに匹敵する力、か。

今、こうしてトライヘキサを取り込んだアセムと真っ向からやり合えているこの状況が何よりの証拠だな。

下手すりゃ、アセムの言う通り、この世界の厄介者として扱われる日も来るかもしれない。

 

『もし、そうだとしてもだ。俺にはこの力が必要なのさ』

 

「その力のせいで、愛する人が傷つくことになっても?」

 

そう問いかけてきたアセムの目は遠い過去を思い出しているようだった。

力を持っていたために、目をつけられ、利用され、その果てに愛する人を失った。

アセムは今の俺と昔の自分を重ねているのかもしれない。

 

俺は一度、瞑目して口を開いた。

 

『力がなきゃ、守りたいものすら守れない。俺はそれを痛いほど体験してきた。もし、大切な人が傷つきそうになった時は必ず守りきる。なにがなんでも、世界の法則ねじ曲げてでもな』

 

力がなければ、何も出来ない。

何かを成すためには相応の力が必要だ。

だが、力を持ちすぎれば新たな災いの種となる。

これが世界ってやつだ。

 

でも………だからこそ―――――。

 

『示す必要がある。この力の意味を。この力には皆の願いが籠められてるってことを。たとえ、どれだけ時間がかかろうとも』

 

「そっか。………まぁ、パワーアップするための糧がおっぱいという時点でそんなシリアス展開にならないと思うけどね」

 

『やめてくんない、人が格好良く決めてるのに、そういうこと言うの』

 

 

 

 

俺とアセムは一定の距離を置きながら、上へ上へと飛翔していき、やがてアセムの構築した世界から抜け出る。

俺達が新たな戦いの場として選んだのは次元の狭間だった。

 

次元の狭間。

オーフィスの故郷であり、現在はグレートレッドが支配している場所。

力を持たない者が立ち入れば、『無』に当てられ消滅してしまうという。

今の俺達には何も問題はない。

特に意識せずとも、普通に滞在できるだけの力を有しているからだ。

 

俺とアセムは次元の狭間に漂うものを肌で感じながら、衝突する。

俺は八翼ものドラゴンの翼を羽ばたかせて、アセム目掛けて突撃する。

アセムは真っ直ぐに突っ込んでくる俺に対して、魔法陣を手元に構築すると、凄まじい規模の魔法砲撃を放ってきた。

しかも、使用されているのは明らかに禁術レベルの魔法だ。

 

あの姿になってから、息をするように禁術を使ってくるな………。

禁術は使った時の代償が大きいと聞くが、トライヘキサを吸収したためか、そんなものお構いなしと言わんばかりにバカスカ撃ってきやがる。

威力も桁違い、今の俺でもまともにくらえば大ダメージは間違いなしだ。

 

『はぁッ!』

 

豪雨のごとく放たれる魔法砲撃の合間を潜り抜け、アセムの間近へと迫った俺は、極大のオーラを纏った拳を奴の展開する魔法陣の上から叩きつけた!

真紅に輝く拳が禁術を発動している魔法陣を破壊し、アセムのボディーに命中する!

 

「ぐぅっ!?」

 

次元の狭間の中で吹き飛ぶアセムだが、身を捻って強引に体勢を戻すと、全身からオーラを噴出させて向かってきた!

 

―――――速い!

 

一瞬で間合いを詰めてきたアセムは、その勢いのまま蹴りを入れてきた。

奴の蹴りが腹にめり込み、体がくの字に曲がる。

更にアセムは蹴りに魔法を仕込んでいたのだろう、奴の脚が俺に触れた瞬間に魔法陣が展開され―――――炸裂した!

アセムの蹴りと魔法による攻撃により、腹部の鎧が砕け散る!

 

炸裂の衝撃で体が痺れるが、動けないままじゃやられる!

現にアセムが追撃を仕掛けてきているからな!

 

やるぞ、ドライグ!

 

『準備は出来ているぞ!』

 

頼もしい相棒の声が返ってくる!

アセムの実力にこうなることを想定していたのか、流石だぜ!

 

『『はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!』』

 

俺とドライグの声が重なり、雄叫びをあげる!

全身から放出される虹のオーラが次元の狭間の流れすら変え、渦を作り出していく!

そして、俺達の力は爆発的に高まっていった!

 

『Boost Xenon Ultimate Drive!!!!!!!!!!』

 

宝玉から発せられる新たな音声。

その瞬間、鎧の各所から虹色の炎が噴出し、大きく揺らぎ始めた。

フルパワーのイグニスの熱にも等しい炎を纏い、極限の力は更なる領域へと突入した!

 

迫るアセムの腕を掴むと、固めた拳をアセムの腹に撃ち込んだ!

虹のオーラがアセムの体を突き抜けていく!

 

「ぐあっ!」

 

一瞬、動きの止まったアセムに、こちらの蹴りがまともにヒットする。

極限進化形態を更に強化しての攻撃だ。

いくらアセムが常軌を逸していたとしても、効かないはすがない。

その証拠にアセムは口から血を吐き出し、苦し気な表情をしている。

だが、ここで折れるような奴でもない。

 

「ぐっ………ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!」

 

アセムはオーラを高めて、何百ものエネルギー弾が放ってきた。

嫌な感覚を覚えた俺はすぐさま、その場から飛び上がるが………エネルギー弾は俺を追尾してくる!

どこに行こうとも、複雑な軌道を描いて飛ぼうとも、正確に俺を追ってくる!

 

これだけの力、これだけの数を正確に操作するとは流石だ。

だが、こっちも受けるわけにはいかない。

俺はそれら全てを避けきると、お返しとばかりに無数の気弾を放つ!

 

すると、アセムも流れるような動きでこちらの攻撃を全てかいくぐり、こちらへと向かってくる。

俺もまた、衝撃波を生み出しながらアセムに向けて飛んだ。

二人の拳が衝突した――――――その瞬間。

 

 

バギィン、グゥォォォォォォォォォン………

 

 

何か巨大なものが砕けるような凄まじい音がした。

見ると、次元の狭間の万華鏡を覗いたような光景にヒビが入っていた。

ヒビは俺達を中心にドンドン広がっていき、周囲一面がガラスを粉々にしたような光景になっていた。

 

ドライグも初めて見たようで驚愕の声を漏らしていた。

 

『まさか、空間のみならず次元そのものを壊すことになるとはな………』

 

それは………不味い、のか?

 

『分からん。だが、下手をすると俺達の戦いの余波だけで世界そのものを壊しかねないだろうな。今の俺達にはそれだけの力がある』

 

マジかよ………。

いや、本当に今の力が全盛期のオーフィスやグレートレッドに匹敵するならそれもあり得るのか?

もし、ドライグの言うことが正しければ―――――。

 

「早く僕を倒さないと取り返しのつかないことになる、かな?」

 

俺の考えを見透かしたようにアセムが言ってきた。

 

「だけど、まだまだ負けてあげるわけにはいかないな」

 

『なに?』

 

アセムの言葉に俺は怪訝にそう返した。

同時に思考がそこへと至ってしまった。

そして、その考えは次に発せられたアセムの言葉によって証明されることになる。

 

「君が戦いの中で進化するように、僕もまた進化する―――――」

 

次の瞬間、アセムから放たれるプレッシャーが膨れ上がった!

 

『おまえ、まだ上があるって言うのか?』

 

「進化するのはなにも君だけじゃない。仲間も成長するなら、敵も成長するものさ。―――――さぁ、いこうかトライヘキサ」

 

漆黒のオーラがアセムの体を包み込む。

オーラによってアセムの姿が確認できなくなった時、それは大きく脈動した。

アセムを包み込んだ黒い球体から発せられた波動が壊れた次元をも揺らしていく。

 

なにが………なにが起きようってんだ?

 

やがて、黒いオーラは引いていく波のように静かに消え去った。

内側から現れたのは――――――漆黒の魔王。

 

先程までのような化物じみたシルエットとは異なる。

変わったというよりは戻ったと言った方が正しいだろう。

今のアセムはトライヘキサを取り込む前の姿に近い。

漆黒の全身鎧を纏い、背には巨大な蝶の羽。

変わった点があるとすれば、そう―――――鎧の各所から漏れ出ている黒い炎のようなオーラ。

 

アセムが言う。

 

「フフフ、見た目的には随分スッキリしただろう? それに、君のそれとも対照的な姿になったと思うんだけど、どうだろう?」

 

『確かに似ている気がするな。おまえ、今まではトライヘキサを完全に支配下に置いていなかったのか?』

 

「いや、そうじゃない。これは進化だと言っただろう? 君との戦いが僕とトライヘキサを昂らせ、新たな世界に導いたのさ。そして、今この時を以て、僕達は完全体になったんだよ」

 

俺との戦いで新しい領域に至ったと………。

まぁ、確かに、俺達だけが戦いの中で進化すると決めつけるのはおかしいよな。

こいつも、こうして戦っているのだから。

 

俺は腰を落として構えた。

 

『それでも、俺は負けねぇよ。おまえを止めるためにな』

 

俺の敗北は全ての終わりを意味する。

もう、アセムを止められるのは俺しかいないんだからな。

 

すると、アセムが静かな口調で訊ねてきた。

 

「一つ、いいかい?」

 

『なんだよ?』

 

「君は僕を救うと言ったね。あれはどういうことかな? 僕は世界を滅ぼそうとする悪だ。そこにどんな理由があるにせよ、それは変わらない。君達にとっては滅ぼすべき存在だ」

 

『そうだな。でも、それじゃあ、なんでおまえは―――――泣いているんだ?』

 

「………ッ」

 

俺の言葉にアセムは声を詰まらせる。

籠手と兜を収納し、頬に触れる………が、そこには涙なんて流れていない。

でもな、

 

『今なら聞こえる。おまえの心の声がな』

 

 

 

―――――お願いだ。

 

 

―――――早く、僕を止めてくれ。

 

 

―――――でないと、本当に………。

 

 

 

『世界の理不尽に大切な者を奪われ、それでも、いずれ来るであろう脅威から世界を守るために悪を演じる。それで世界が救われたとして、誰がおまえを救うんだ? そこまで傷ついたおまえを誰が癒せるっていうんだ?』

 

俺はアセムの目を真っ直ぐ見て言う。

 

『おまえが俺を理解しているように、おまえの最大の理解者は俺だ。改めて宣言するぞ、アセム。―――――俺はおまえを止める。そして、おまえを救うぞ』

 

俺の言葉を聞き、黙るアセム。

アセムは小さく息を吐くと額に手を当てて、苦笑を浮かべた。

 

「参ったね………。やっぱり、君は優しすぎる」

 

『お互い様だろ』

 

「そうだね。でも、こんな形でこの戦いを終わらせるわけにはいかない」

 

ドンッと次元が震える。

アセムが高めたオーラが一帯を揺らしているんだ。

俺も応じるようにオーラをめいいっぱいまで高めた。

虹のオーラと漆黒のオーラが衝突し、次元を更に揺らし、砕き、破壊していく。

 

そして――――――。

 

 

『「いくぞッッ!!!!!!」』

 

 

 

 

[木場 side]

 

 

イッセー君とアセムが最後の戦いに突入した。

空を見上げると、二人の衝突によって空間が砕け散り、空一帯が次元の狭間のあの景色に塗り替えられている。

 

アザゼル先生が呟いた。

 

「これが神の次元すら超越した者同士の戦い、か………。早く決着をつけなければ、あの戦いの余波で世界が崩壊しかねないぞ」

 

「でも、そこはイッセー君も理解しているはずでは?」

 

「だろうな。だから、イッセーも短期決戦に持ち込むはずだ。それでアセムを倒せれば良いのだが………」

 

堕天使の長ですら、あの二人の力の底が見えないようだ。

いや、多分だけど、この世界の誰もあの二人の真の実力を推し量ることはできないのかもしれない。

 

そんなことを考えながら、眷獣やトライヘキサの分裂体を相手にしていた、その時。

 

「皆さん、長らくお待たせしました」

 

不意に声をかけられ、後ろを振り向くとそこに立っていたのは――――――リーシャさんだった。

 

見れば、リアス前部長達も出てきており、戦線に復帰していた。

…………イグニスさんの魔の手から逃れられたのだろうか?

怖いから聞かないけどね。

 

リーシャさんが懐から何かを取り出した。

アザゼル先生が問う。

 

「それは?」

 

「これは先程までロスヴァイセさんと共に作製したものです。イグニスさんの結界のおかげもあって、中では十分な時間が取れました」

 

リーシャさんは空を見上げると、言葉を続けた。

 

「―――――かの神とトライヘキサの繋がりを断ちます。恐らく、この戦いを終結させる最大のチャンスを作れるでしょう」

 

 

[木場 side out]

 




~あとがきミニストーリー~

イグニス「たくさん集めれば男の子達の夢を叶えてくれる。それがおっぱいボール」

イッセー「出でよ、おっぱい! そして願いを叶えたまえ!」


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