―――――約束よ、イッセー。必ず帰ってきて………。
ああ、約束だ。
俺は必ず帰ってくる。
必ず―――――。
「いこう、エクセリア」
『ええ、いきましょう。広げなさい、イッセー。繋げなさい、皆の想いを』
背から八翼の龍の翼が広げられる。
大きく広がったそれぞれの翼から一つづつ、フェザービットが飛び出し、俺を囲むように配置されていく。
配されたフェザービットが強く光輝き、虹色の粒子が放出された。
虹色の輝きが俺を中心に溢れ出す―――――。
『Quantum Burst Full Over!!!!!!!!!!』
左腕の籠手、その宝玉から新たな音声が鳴り響く。
その瞬間、虹の粒子が花の花弁のように広がり始める。
アセムが構築したこの世界だけじゃない。
世界を越え、次元を越えて、冥界、天界、人間界、全ての世界へと届いている。
虹色の花弁はどこまでも大きく、どこまでも遠くへ―――――。
その瞬間、俺の中にいくつもの、それこそ何千、何万、何億という人達の感情が流れ込んできた!
「ぐっ………! 意識が飛びそうに…………流されそうになる!」
イグニス―――――エクセリアが言っていた、『器』になるって、こういうことか………!
内側に注ぎ込まれる無数の意思が、俺という存在を巻き込んでいく!
激流に流されていくような、そんな感覚だ………!
いつまで、俺が俺でいられるか分からない!
俺は両手を前に突き出し、アセムの放った灼熱の海を押し返す!
「ッ! これを押し返すというのか! ………だが!」
驚愕の表情となるアセム。
しかし、押し返せたのはほんの僅かだ。
破滅までの時間を伸ばしたに過ぎない。
僅かに押し戻した状態で俺とアセムの力は拮抗し始める!
「ぐぐぐぐぐぐぐ………ぁぁぁぁぁぁぁ!」
「ぬぅぅぅぅ………はぁぁぁぁぁぁぁ!」
互いにボロボロの姿で雄叫びをあげる。
俺もアセムも鎧など、とうの昔に砕けて残っていない。
アセムなんて、半身が失われた状態のままだ。
トライヘキサの力は戻っているはずなのに、回復していない………?
まさか、あの野郎―――――。
俺が何かを察すると、アセムが答えた。
「気づいたみたいだね。そう、僕とトライヘキサの全てをこの一撃に注いでいる! 回復の力も、僕の命も全てだ!」
「文字通り、全てをかけた攻撃ってか………! おまえがやると、規模が違いすぎる………!」
このままじゃ、先に力尽きた方が終わりとなる。
エクセリアの力を解放しているのに、これじゃあ俺は………!
エクセリアが言う。
『いいえ。あなたが使っているのはまだほんの一部に過ぎない。忘れたわけじゃないでしょう? あなたの力はなに? あなたの想いはなに?』
エクセリアは諭すように告げてくる。
俺の力、俺の想い。
俺はなんだ?
どんな存在だ?
そうだ、俺は―――――。
「頼む! 皆の力を俺に貸してくれ! 皆の想いを、俺にくれぇぇぇぇぇぇぇぇッ!」
俺は乞うように願い、叫んだ。
俺は変革者、繋ぐ者。
皆の想いが俺を強くする。
俺は皆を、この世界を守りたい。
そして、あいつを………!
だから、頼む。
一方的な願いかもしれない。
それでも、俺に皆の想いを………!
『これは………! イッセー!』
ドライグが何かに気づいたように叫ぶ。
その瞬間、俺から放たれる虹の力が段階を上げて膨らみ始めた!
溢れる虹の力がより濃密に、より巨大になっていく!
それにより、アセムの攻撃を更に押し戻すことに成功する!
俺と押し合う中、アセムが納得したように言う。
「なるほど、変革者の君の力か。全世界の人々の想いを自らの力に変えて………!」
「そういうことだ!」
今、俺に届いたのは冥界からのもの。
冥界の子供達の声が聞こえてくる。
俺を応援する子供達の声が!
――――――頑張れ、おっぱいドラゴン!
ああ、任せとけ、チビッ子共!
絶対に守ってやるからよ!
皆の想いが俺の力を高めてくれる。
そして、高めた力がエクセリアの本来の力を引き起こす!
「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!」
両腕を力一杯、アセムへと向け、全ての力を解放する!
引き出されたエクセリアの力がアセムの攻撃を退けようとして―――――。
パァン、と何かが弾ける音がした。
数秒後、視界が真っ赤に染まって………。
「なん、だ………これ………」
見れば、全身の血管が浮き上がり、次々に破裂していた。
今のはこめかみの血管が弾けた音だったんだ。
信じられない量の血が流れ落ちていく。
アセムが言う。
「今、理解したよ。君は彼女の、原初の力を解放したんだね? 確かに彼女の力は強大だろう。しかし、君の体は彼女の力に耐えられない」
俺の力不足だっていうのか………!
俺じゃ、エクセリアの力を扱いきれないのか………!?
クソッ、身体中が悲鳴をあげる!
こうして力を解放するだけで、骨が砕ける音まで聞こえてくる!
世界中から注がれる意思が俺の自我を呑み込もうとし、かといって皆の力がなければ、エクセリアの力を解放しきれない。
だが、エクセリアの力を解放すれば、俺の肉体がもたない、か。
どうしたものかね………!
エクセリアが言ってくる。
『イッセー、あなたは「器」。世界の総意が注がれる存在よ。でも、ただ注がれるだけでは真価を発揮することは出来ない。―――――受け止めなさい。皆の想いを、皆の願いを!』
「分かってる! 分かってるんだよ! 受け止めようとしたら、俺の中の何かが壊れそうになるんだよ! 全身がバラバラに砕けて、しまいそうになるんだ………!」
心も体も、何もかもが消えてしまう、そんな感覚が襲ってくるんだ!
頼む、俺の体よ、心よ!
せめて、ここを乗り切るまではもってくれ!
しかし、そんな俺の願いは否定される。
俺の右手の傷から煙が上がり始める。
それを認識した瞬間―――――右手が赤い粒子と化し消えていく。
右手だけじゃない、全身のいたるところから、煙があがり、赤い粒子へと変わり始めた。
体が消えていく………!
なんでだ?
俺じゃダメだっていうのか?
そう思った瞬間、過去の光景がフラッシュバックする。
今まで、何度もあった。
守ろうとして守れなかったことが山ほどあった。
また………守れないのか?
俺はまた失ってしまうのか?
嫌だ、そんなことは絶対に嫌なんだ………!
誰か、俺を支えてくれ。
俺の側に来てくれ。
でないと、俺は―――――。
「大丈夫だよ、お兄ちゃん」
その声が聞こえた時、体にそっと手を添えられた。
ゆっくり目を開けると、俺の隣には美羽がいた。
俺と目が合うと、美羽はいつもの優しい微笑みを浮かべてくれて、
「お兄ちゃんは一人じゃないんだよ? ボク達がいる。お兄ちゃんが受け止めるものは、ボク達も一緒になって受け止めるよ。そうだよね、皆?」
美羽が後ろへと問いかけた。
そこにはアリス、リアス、アーシア、朱乃、小猫ちゃん、ゼノヴィア、イリナ、レイヴェル、レイナ、ロセ、ティア、サラ、リーシャ、ワルキュリア。
木場にギャスパー、アザゼル先生、モーリスのおっさん。
ヴァーリや曹操、サイラオーグさんに匙。
それ以外にも多くの人達が俺の後ろで、俺を支えるように立っていた。
アリスが笑みを浮かべる。
「あんたはいっつも無茶ばかりするんだから。あんたが守りたいものは、私達も守りたいのよ。私達にも受け止めさせなさいよ」
リアスも続く。
「そうよ、イッセー。私達は家族、仲間なのでしょう? 楽しい時も、辛い時も私達はあなたと共にあるわ。これまでも、これからも―――――」
二人の言葉に続くように皆は強く頷いた。
すると、小猫ちゃんの側に黒歌が立っているのが目に入る。
肩に手を置かれた小猫ちゃんは小さく黒歌の名前を呼んだ。
「黒歌姉さま………」
「にゃはは。まぁ、ここまで来たら私達もこうするしかないでしょ、白音? それにね、赤龍帝ちん」
黒歌はいつものイタズラな笑顔とは違った笑顔で言ってきた。
「私もあんたには死んでほしくない。あんたのおかげで私は白音とこうしていられる。本当に感謝してる」
「大したことはしてねーよ。頑張ったのはおまえと小猫ちゃん。だろ?」
「にゃはは、そうかもね!」
「姉さま、調子に乗りすぎです」
ああ、そうだな。
おまえ達姉妹もこれからなんだ。
こんなところで消させやしないさ。
木場が言う。
「イッセー君、君にはまだまだ教えてもらいたいことが山ほどある。これからも僕は君の背中を追いかけていくよ?」
「おまえならマッハで追い抜きそうだけどな」
木場、おまえはもう過去を乗り越えたんだ。
これから、おまえはもっと強くなるよ。
俺もまだまだ追い抜かれるつもりはないけどな!
ヴァーリが言う。
「兵藤一誠。俺とラーメンを食べに行く約束、忘れたわけではないだろう?」
「約束は守るさ。今のうちに腹空かせとけよ?」
冗談を言う俺にヴァーリは軽く笑んだ。
「約束は俺もあるぞ。こちらの挑戦を受けたんだ。ここで死んでくれるなよ、兵藤一誠?」
「それは俺もしたことだ。分かっているな、兵藤一誠?」
「おいおい、兵藤の奴、どれだけ挑戦を受けてるんだ? でも、俺もいつかはおまえに勝ってみせるからな!」
「フッ、並大抵の修行では奴には追い付けんぞ、匙元士郎?」
曹操、サイラオーグさん、匙、ライザーと俺に挑もうとする男連中!
もう、なんで、俺は男ばかりから熱い視線が注がれるかな!
やめろ、おまえら!
そんな目で俺を見るんじゃない!
まぁ、でも―――――。
「ええぃ、分かったよ! 忘れてないし、その挑戦、受けてやるよ! いつでもかかってきやがれぃ!」
半ばヤケクソになりながら叫ぶ俺!
全く、どいつもこいつも!
まぁ、こういう野郎同士のやり取りも悪くないかな!
俺の体を支える美羽がおかしそうに笑った。
「やっぱり、お兄ちゃんは大人気だね。お兄ちゃんがこれまで積み重ねてきたものがここにあるんだよ?」
ここまで積み重ねてきたものね。
家族であり、仲間であり、ライバルであり、師であり、最初は敵だった奴もいる。
俺と関わった人達がこうして集まっているところを見ると、それも間違っていない気がする。
目を閉じるとここにいない人達の声も聞こえてきて―――――。
―――――イッセー、必ず帰ってこい!
―――――約束したものね! また、この家に帰ってくるって!
父さん、母さんの声。
―――――お兄さん! 戦えなくても、この想いはお兄さんと一緒だよ!
―――――我の想い、イッセーと共にある。
ニーナ、オーフィスの声だ。
―――――悪魔さん! 頑張ってにょ!
ミルたん!
そういや、ミルたんも戦ってたな!
あんたはどれだけ無茶苦茶なんだ!
ツッコミどころが多すぎるよ!
でも、ありがとよ!
他にも駒王町の人達の声が聞こえてきて………。
そっか、あの悪友共にも届いたか。
分かったよ、今度、色々と話さないとな。
これまで黙っていた分だ、何か奢らせろよ!
俺は口元から血を流しながらも、ニッと笑んだ。
そして、再び腕を突き出す。
既に粒子と化して完全に失われた右腕の変わりに、美羽が前に手を伸ばした。
「いこう、お兄ちゃん………イッセー」
「ああ………美羽」
「なに?」
「―――――大好きだ。皆、大好きだ!」
「うん!」
伸ばした手のひらから虹の力がかつてない程に溢れ出す。
世界中に広がった虹が皆を繋ぎ、皆の願いと想いを力に変えていく!
これなら………いけるか、エクセリア!
『ええ、あなたは確かに繋いだわ。さぁ、使いなさい! 私の全てを! 彼女達と共に!』
エクセリアの力が輝きを放つ!
そして、俺は皆に向けて叫んだ!
「いくぞ、皆ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
『いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』
俺の声に応じて、皆の声が一つとなる!
虹の力がアセムの攻撃を呑み込み、瞬く間に消し去った!
空に伸びた虹は空間を割り、次元すらも壊し、更に向こうまで突き抜けていく!
世界が虹色に、温かな光に満たされていく―――――。
灼熱の海を消されたアセムは成す術もなく、虹に呑まれていく。
いや、成す術がないというのは少し違うな。
諦めたとも違う。
灼熱の海が破られた瞬間、アセムは自分から手を降ろした。
まるで、もう十分だと言わんばかりに。
虹に呑まれながらアセムは言う。
「僕の負け、だね」
「………おまえが聞きたかった声は届いたか?」
「うん………確かに届いたよ。彼らの声が十分すぎるくらいにね」
アセムの体が崩壊していく。
虹の力のせいなのか、アセムの体が限界なのか。
再生する力すらも攻撃に回していたせいなのか、体が元に戻る様子もない。
「僕はね、皆に分かってほしかった。世界の可能性を。どんな理不尽だって必ず乗り越えられるということを。どんな絶望の中にも希望はある。でもね、それは一人じゃダメなんだ。皆の想いが真に一つにならなければ………」
アセムは続ける。
「世界が一つになるなんて、難しいと言うけどね。僕は違うと思うな。皆が複雑に考えすぎているだけで、世界はこうも単純なんだよ」
アセムはフッと笑う。
そして、途切れ途切れの声で言った。
「でも、これで、皆………。まだまだ、問題はあると思う。それでも、皆の心に刻みこまれた、この光は必ず、いつか………」
体が消え行くなか、アセムは胸の前で何か印らしきものを組んだ。
すると、アセムの体に紋様が浮かび上がった。
その紋様は白い輝きを放つと魔法陣を構築、空へと上がり、消えていった。
俺はその光景を見て、それを察した。
「おまえ………最初からそのつもりで………」
「フフフ………まぁ、せめてもの償いってのもあるかな。でもね、それだけじゃないんだ。言ったよね、痛みがなければ世界は変わらないって。でもね、痛みだけでは本当の意味で世界は変わることはできない。だから、ね………」
体の大半が失われつつある。
もう少しすれば、完全に消えてしまうだろう。
アセムは言う。
「僕は………色々と間違え過ぎた」
「そうだな。おまえのやり方はやっぱり認められない。でも、その想いは本物だった。おまえが願ったのはただ………」
「………最後に一つだけ、いいかな?」
「なんだ?」
俺が聞き返すと、アセムは消えかけの声で、それでも確かに俺に届く声で言ってきた。
「あとは任せていいかい?」
そう言うアセムの目はかつて、俺に託していった人達に似ている。
ライトとシリウス。
世界の平和な未来を願った偉大な勇者と魔王と同じ目をしていた。
俺は不意に溢れてきた涙を振り払い、一言だけ返した。
「ああ………任せろ!」
俺の答えにアセムは満足そうに微笑んで、
「ありがとう、兵藤一誠」
そうして、優しい悪神は消えていった。
この虹の彼方に―――――。
▽
[美羽 side]
虹の輝きが止み、全てが終わった後。
「終わったよ、お兄ちゃん」
「………」
「お兄………ちゃん?」
ボクは最初、気づかなかった。
この時、お兄ちゃんはもう―――――。
[美羽 side out]