ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝   作:ヴァルナル

414 / 421
ここ最近、就活で忙しいけど、少し前よりペース上がった!
エントリーシートと同時進行です☆


74話 信じているからこそ

[美羽 side]

 

 

世界を覆っていた虹の輝きが時と共に薄まり、消えていく。

あれほど圧倒的な絶望を打ち消した温かな光が弱まっていくと、破壊された空間が世界の修正力で元に戻り始めていた。

虹が完全に消えた後、ボク達の前には既にアセムの姿はない。

トライヘキサの気配も完全に消えている。

つまり、この戦いを引き起こし、あれほどの脅威を振り撒いていたアセムとトライヘキサを倒すことが出来たということ。

今度こそ、ボク達は―――――。

 

「やった………」

 

どこからかポツリと呟くような声が聞こえてくる。

それは現実をようやく認識できたような、呆然とした声音だった。

未だに信じられない、といった感じなのだろう。

だけど、その認識は徐々に確かなものになっていき――――。

 

「やったぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!』

 

誰かの叫びに応じて、この戦場にいる全ての人達が歓喜の雄叫びをあげた!

 

「勝ったんだよな! 俺達は勝ったんだよな!」

 

「ああ、やったぞ! やったんだよ!」

 

「ようやく終わったんだな………!」

 

「生きてるんだよな? 俺、本当に生きてるんだよな!?」

 

「生きてる生きてる! なんなら、頬っぺたつねってやるよ! ハハハハハ!」

 

「良かった………これで、妻にまた会える………」

 

勝利を確かめ合う人から、本当に自分が生きているのか確かめる人。

自分を待ってくれている人に想いを馳せる人まで。

中には、

 

「くぅぅぅ………俺、帰ったら結婚するんだ!」

 

なんて死亡フラグになりそうなことを言う人までいる。

まぁ、多分、無事に結婚できると思うけどね?

 

アザゼル先生がやれやれと深く息を吐いた。

 

「ちっ、浮かれやがって。ま、今はそれくらい許されるか。あーあー! 俺は一生、独り身だよ!」

 

「アザゼル。今度、私の知人を紹介………」

 

「てめ、サーゼクス! なに、変な気を使ってんだ! やめろ、その哀れむような目!」

 

アザゼル先生、とりあえず会ってみたらどうだろう?

趣味に生きるのも良いけど、出会いは大切だと思うな、うん。

 

そんな感じで皆がようやく終わった戦いに、それぞれの感情を抱く中、ボクは隣にいるお兄ちゃんに目を移した。

虹の輝きが消えた後、ガクンと崩れ落ちたお兄ちゃんは今、ボクがその体を支えている。

あれだけの力を使った、その反動なのか、今は気を失っている。

 

「アーシアさん、お兄ちゃんのケガを治してあげて?」

 

「はい、任せてください!」

 

ボクのお願いを快く受けてくれたアーシアさんはさっそく、神器による治療を開始する。

 

お兄ちゃんが治療を受けるなか、ボクは言った。

 

「終わったよ、お兄ちゃん」

 

お兄ちゃんが守ったんだよ?

ボク達も、この世界も。

そのことを伝えるかのようにボクはお兄ちゃんの体を抱き締めた―――――その時。

 

「………え?」

 

違和感を感じた。

いくら気を失っているとはいえ、感じられるはずのものが感じられなかったんだ。

ボクはお兄ちゃんの顔、次に胸に耳を当て、そこでようやく気付いた。

 

―――――お兄ちゃんの鼓動が止まっていることに。

 

「そんな………! アーシアさん! 小猫ちゃんも来て! 早く!」

 

皆が浮かれる中、一人、血相を変えて叫ぶボクに周囲が静まり返り、注目が集まった。

 

アーシアさんがお兄ちゃんの傷を治癒しながら、怪訝な表情で訊ねてくる。

 

「美羽さん………? どうしたんですか?」

 

「お兄ちゃんの心臓が止まってる………息もしてない!」

 

ボクの告げた内容に周囲の人達の表情が変わる。

 

先の衝突でお兄ちゃんは右腕を失い、体のあちこちが削れたような状態になっていた。

アーシアさんが回復してくれていたおかげで、失われた右腕以外の傷はすっかり治っている。

でも、お兄ちゃんは目覚めない。

鼓動も、呼吸も回復しない。

 

アーシアさんが悲鳴をあげながら、治療を続ける。

 

「どうして………!? イッセーさん! 戻ってきてください! イッセーさん!」

 

何度もお兄ちゃんの名前を呼ぶアーシアさん。

それでも、お兄ちゃんの意識が戻ってくる気配がない。

 

すると、小猫ちゃんが何かに気付き、顔を青くした。

 

「イッセー先輩の気がどんどん小さくなって………! 命が失われていきます………!」

 

『………ッ!?』

 

小猫ちゃんの告げた内容に全員が言葉を詰まらせた。

 

お兄ちゃんの命が消えていく?

そんなことって………!

ボクはお兄ちゃんを地面に寝かせると、すがる想いで小猫ちゃんに頼んだ。

 

「小猫ちゃん、お願い………! お兄ちゃんを助けて………!」

 

生命の根元である気を扱う小猫ちゃんなら………。

仙術だけでなく、お兄ちゃんから錬環勁気功も習っている小猫ちゃんなら。

そう考えての言葉だった。

 

小猫ちゃんはすぐに仙術による治療を開始する。

しかし、その表情は厳しいもので、

 

「ダメです………私の力じゃ、イッセー先輩は………」

 

「仙術でもどうにもならないの?」

 

「命には核となる生命の源泉があるんです。それが壊れたり枯れていなければ、仙術で活性が可能なのですが………」

 

小猫ちゃんはお兄ちゃんの顔を見て続ける。

 

「イッセー先輩の、それはもうボロボロで………私の仙術じゃ、間に合わなくて………! イッセー先輩………!」

 

ポロポロと涙を落としながら、それでも仙術を施し、何とかしようとする小猫ちゃん。

すると、黒歌さんが小猫ちゃんの隣に座り込み、お兄ちゃんに手をかざし始めた。

 

「ちょっと、白音? なに泣いてるのよ?」

 

「姉さま………」

 

「仙術は術者の精神状態で効果がまるで変わってくる。そんなので、赤龍帝ちんを助けられると思ってるの?」

 

そう言うと、黒歌さんの手が淡く輝き始める。

 

「赤龍帝ちんは死なせない。私も手伝うから、あんたも気合い入れなさい。絶対に助ける、絶対に死なせないって」

 

それは姉として、妹を導くような声音だった。

黒歌さんの言葉を聞いた小猫ちゃんは、涙を拭って仙術による治癒を継続する。

 

黒歌さんは額から汗を流して言った。

 

「でも、確かにこれはまずいわ。私と白音じゃ、修復する前に命が消えてしまう」

 

「じゃあ、他に仙術が使える奴を呼ぶ。それならどうだ?」

 

アザゼル先生がそう提案する。

だけど、黒歌さんは首を横に振った。

 

「それでもダメ。これは仙術で修復できるレベルを明らかに越えてる。仙術で出来るのは少しでも生命の泉が枯れないように、時間を稼ぐことしか出来ない。崩壊のスピードが早すぎて、その時間稼ぎすら、あと何分出来るか………」

 

仙術に精通する黒歌さんの言うことは正しいのだろう。

 

頼みの仙術でもお兄ちゃんは救えない。

じゃあ、どうすれば良いの?

このまま見ているだけしか出来ないの?

 

すると、アリスさんが何か思い付いたように言った。

 

「ねぇ、私と美羽ちゃんの疑似神格ならなんとか出来ないかな?」

 

「疑似神格で?」

 

「そう。今は私とイッセー、美羽ちゃんで三つに分けてるけど、それをもう一度、一つにすれば………。疑似神格の力でその生命の泉を修復出来ないかしら?」

 

なるほど、あれは元々一つだった。

三つに分けた後でもあれだけ巨大な力だったんだ。

もしかしたら、お兄ちゃんの命を―――――。

 

 

『そうね、それは正しい判断だわ』

 

 

女性の声が響いた。

お兄ちゃんの側に虹色の粒子が集まったと思うと、そこに一人の女性が現れる。

虹色の髪を持つ女神。

前にも一度だけ会ったことがある。

 

アザゼル先生が問う。

 

「おまえ、イグニスか?」

 

『ええ。これが私の本来の姿よ』

 

そう、彼女は疑似神格を分ける儀式の際に見たイグニスさんの本当の姿。

お兄ちゃんは彼女の本当の名前を知り、あの力を使えるようになったんだ。

 

イグニスさんはボクとアリスさんを見る。

 

『二人の疑似神格を使って、生命の泉を一時的に修復することは可能よ』

 

「一時的に?」

 

アリスさんが聞き返すと、イグニスさんは頷いた。

 

『生命の根元とは非常にデリケートなもの。強い力で急速に治すことなんて出来ないわ。二人の疑似神格でイッセーの生命の泉が崩壊するのを抑え、その間に仙術で修復していく。もちろん、修復には長い時が必要でしょうけど、それが今できる最善の方法よ』

 

アザゼル先生が言う。

 

「なるほど。言いたいことは分かる。だが、二人の疑似神格とやらの操作はどうするつもりだ? それについて知っているのはおまえ達しかいない。俺達ではどうすることも出来んぞ。おまえがするのか?」

 

『そうね。でも、私にはそれとは別にやることがあるわ』

 

「なに? この状況で他にやることがあるってのか?」

 

『そうよ。もし、イッセーの生命力を回復できたとしても、このままではイッセーは帰ってこない』

 

「………そいつはどういうことだ?」

 

アザゼル先生が再度、問いただすと、イグニスさんは静かな口調で答えた。

 

『イッセーは世界中の願いを受け止める器となった。本来の私の力を使うために。器となったイッセーの中には何万、何億もの人の意思が流れ込むことになる。その状態で個を保つことが出来ると思う?』

 

「まさか………」

 

アザゼル先生はその言葉で何かを察したようだった。

先生以外の皆は内容を呑み込めていないでいる。

そんなボク達にイグニスさんは告げた。

 

『このままでは、彼の中に注ぎ込まれた無数の意識によって「兵藤一誠」という意識は完全に消え去ることになる』

 

『――――――ッ!』

 

その言葉にボク達は酷く動揺した。

イグニスさんの言うことが本当なら、お兄ちゃんの生命力が回復したとしても、そこにお兄ちゃんはいない。

それって………。

 

『空っぽの存在。目覚めても、ただ虚空を見つめるだけの存在になるだけよ』

 

それはあまりに残酷すぎる話だった。

 

お兄ちゃんを想う他のメンバーも涙を流し、呆然とした表情で地面に膝をついた。

 

「嘘でしょ………。ようやく、また会えたと思ったのに………イッセー………」

 

ダメだ、思考が止まる。

イグニスさんの言う光景を想像しただけで、胸が苦しくなる。

こんなの、ないよ………。

ボク達だけ生き残っても、そこにお兄ちゃんがいない未来なんて………そんなの………!

 

『諦めるのはまだ早いわ。言ったでしょう? まだやることがあるって』

 

イグニスさんの言葉にボクは顔を上げる。

 

「手があるの? お兄ちゃんを、助けられるの?」

 

『もちろん、あなた達次第だけど。………イッセーはね、あの力を使った後、こうなることが分かってた。でも、それでも使うって決めたの。なぜなら―――――』

 

    

―――――俺は仲間と家族を信じてる。だからこそ、その力を使わせてもらう。

 

 

『イッセーはあなた達が、自分を救い出してくれると信じてた。あなた達を信じたからこそ、あの力を使ったのよ』

 

イグニスさんはお兄ちゃんの頬に触れると言った。

 

『イッセーは今も抗ってるわ。自分の命を、意思を消えるギリギリのところでもたせてる。あなた達が手を伸ばすのを待ってる』

 

ボク達を信じて―――――。

その言葉だけで、ボク達を奮い立たせるには十分だった。

お兄ちゃんが信じてくれたのなら、何がなんでも応えるしかないじゃないか。

まだ、出来ることはある。

少しでも可能性が残っているのなら―――――。

 

ボクは立ち上がると、イグニスさんの目を真っ直ぐに見て、訊ねた。

 

「教えて、イグニスさん。ボク達は何をすれば良いの?」

 

『フフフ、良い目になったわ。力を使うと決めた時のイッセーみたい。やっと、いつもの皆に戻った』

 

イグニスさんはボク達を見渡して、一人一人の目を見ていく。

皆、お兄ちゃんを助けるためなら、どんなことでもする、そんな覚悟を決めていた。

 

『彼は今も戦っている。イッセーを救えるのはこの場にいるあなた達だけ。―――――一緒に助けましょう。私達が愛した彼を。世界を救った勇者を』

 

『はいッ!』

 

 

待ってて、お兄ちゃん。

絶対に助けてみせる………!

 

 

[美羽 side out]




~あとがきミニストーリー~


乳の宴を乗り越えたイッセーとアセムの会話IF.ver


アセム「何者だ………何者なんだ、君は………」

イッセー「もうとっくにご存じなんだろ? 俺はおまえを倒すために乳の宴を乗り越えたおっぱいドラゴン………ツッコミの精神を持ちながら、おっぱいを吸って目覚めた伝説の戦士………超フルパワーおっぱいドラゴン兵藤一誠だ!」

アセム「ブフッ! うん、知ってた!」


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。