ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝   作:ヴァルナル

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76話 心に刻まれたもの

[美羽 side]

 

 

「それじゃあ、行ってくるね。お母さん」

 

制服に着替え、朝食を終えたボクは玄関で見送りをしてくれるお母さんに手を振った。

 

お母さんが言う。

 

「ええ、いってらっしゃい。美羽は今日も行くのよね?」

 

「うん、授業が終わったらね」

 

そう言ってボクはリアスさん達と一緒に家を出る。

いつもと変わらない朝の風景。

朝の当行時間。

でも、いつもと違う。

ここには、今―――――お兄ちゃんがいない。

 

 

 

 

二月ももうすぐ終わり、三月に入ろうとしている。

時が経つのはあっという間だ。

二年生になってから一年。

リアスさんと出会い、お兄ちゃんが悪魔に転生した後は本当に色々あった。

お兄ちゃんが上級悪魔に昇格してからはボクも悪魔に転生して………うん、振り返るだけでもかなり濃い一年になったと思う。

 

午前の授業が終わり、昼休みに入った。

午前中は数日前に行われた期末テストの返却があり、教室の中は点数の見せ合いで賑わっている。

ボクのところにも話は振られて、

 

「ねぇ、兵藤さんは数学のテストどうだった?」

 

「ボク? 今回は九十三点だったよ」

 

「あれ? 珍しいね、兵藤さんが百点逃すって。数学は毎回百点なのに。いや、毎回百点取るってのが元々凄いんだけど」

 

「アハハ………。まぁ、今回はうっかりミスがあってね」

 

数学は得意中の得意科目。

実は毎回満点の優等生なのでした!

えっへん!

………と、少し自慢してみたいところだけど、今回はそんな気分じゃないかな。

いや、うっかりミスとかは関係ないよ?

べ、別に百点逃したからって悔しくことは………うん、少し悔しいかな。

入学してから取り続けたものを逃してしまうとは………!

この美羽、一生(?)の不覚!

 

今回の期末テスト、いつもと比べると若干、全体的に成績を落としてしまっている。

理由としては、勉強する時間がなかったということが大きい。

 

クラスの女子生徒が言ってくる。

 

「お兄さんが入院だもん。そりゃ、看病で勉強どころじゃないよね」

 

その子が教室のとある席に視線を移す。

そこは兵藤一誠の席。

でも、この二週間近く、そこにお兄ちゃんは座っていない。

お兄ちゃんは事故で意識を失い、入院している………ということになっている。

 

「お兄さん、具合どうなの?」

 

「ずっと眠ったままかな。点滴で必要な栄養は補給してるけど………」

 

「………ねぇ、今度、お見舞いに行ってもいいかな?」

 

「あ、私も行きたい」

 

「ありがとう。皆が来てくれたら、お兄ちゃんもきっと喜ぶよ」

 

クラスの女子がお見舞いに来る。

多分、お兄ちゃんにとっては嬉しいイベントなんだろうね。

 

というか、実はお兄ちゃん、モテてるよね普通に。

隠れファンという存在がいるみたいだし………。

実は今、話しているクラスメイトもその一人で、その子は顔を赤くしながら小さな声で言った。

 

「えっと、十月を過ぎたくらいからかな………。兵藤君がエッチなことをあまり言わなくなって………そしたら、段々、かっこ良く見え始めて………ね?」

 

「あー、分かる分かる。背も高いし、顔も悪くないよね。木場君とは違って、ワイルド系? それに、いざって時に守ってくれそうだし。エロいこと言わなければ、全然良いよね」

 

お兄ちゃん………どうやら、普段からエッチなことさえ言わなければ、優良物件扱いされてたみたいだよ。

自分で自分のモテ期を遅らせてどうするのさ………。

いや、ボクはエッチなお兄ちゃんでも全然良いけどね?

そこも含めて大好きだし。

というか、十月を過ぎた頃って、それってあの修学旅行の後じゃ………。

 

「まぁ、兵藤君には? 可愛い可愛い妹がいるからね~」

 

「うんうん、下手に告白したら怒られるよね!」

 

「アハハ………」

 

べ、別に怒ったりはしないけど………。

でも、昔のボクなら嫉妬したりしてた………かも。

うぅぅ、ボクもお兄ちゃんも修学旅行のあの夜から大人になったってことなんだね。

義理とはいえ、やはり兄妹とということか!

 

「で? 兵藤さんは兵藤君とはどうなの?」

 

「えっ?」

 

「だって、いつもベッタリだし。イチャイチャしてるし。実は………義理の兄妹で一線越えたり、した?」

 

「ぶふっ!」

 

あまりに唐突な話に吹き出してしまうボク!

そして、ボクの反応を見て勝手に盛り上がる彼女達!

 

「え、なになに? その反応、もしかして本当に………!」

 

「キャー! 兄妹の禁断のカップル! それ良い!」

 

「兄が妹を押し倒して、そのまま………! あんなお兄ちゃんなら、私、絶対に堕ちるわ!」

 

「待って! 戸惑う兄に妹が馬乗りになって迫る………というのもアリだと思うの!」

 

「あんた、妹攻め派閥だったの!?」

 

「そっちこそ、兄攻め派閥!? この兄妹なら妹が攻めでしょ!?」

 

そんな派閥聞いたことないよ!

いつの間にボク達兄妹はそんな派閥に分けられてたのさ!?

 

「「兵藤さん!」」

 

「は、はい!」

 

「「本当はどっちなの!? 兄×妹、妹×兄、どっち!?」」

 

「い、言えるわけないよ!」

 

「「言えるわけない!? ………ってことは、やっぱり兄妹で………! キャー!」」

 

あぁ、ボクの話を聞いてくれそうにない。

というか、ボク、自滅した感があるのは気のせいかな?

 

すると、他の女子達がボク達の輪に入ってきて、

 

「ちょっと、あんた達! 何言ってるのよ!」

 

おおっ、ついにまともな子が!

この何を話してもボクが敗北する状況を打ち壊してくれる救世主が―――――。

 

「そこは木場きゅん×兵藤君でしょ!」

 

第三勢力の出現!

この後に第四勢力『兵藤君×木場きゅん』派閥が参戦。

クラス中の女子を巻き込んで論争が始まった。

 

『兵藤兄×兵藤妹』派閥。

『兵藤妹×兵藤兄』派閥。

『木場きゅん×兵藤君』派閥。

『兵藤君×木場きゅん』派閥。

 

この四勢力の議論は平行線を辿り、駒王学園の女子全体を巻き込んでいく。

各派閥による白熱の語り合いは後に『女子生徒達の黄昏(ラグナロク)』として語り継がれるのだった。

 

 

 

 

放課後。

授業が終わった後、ボクはとある場所へと向かっていた。

………半分、泣きながら。

 

「うぅぅ………とんでもない目にあったよ………」

 

なんで、あんな論争に巻き込まれるかなぁ。

というか何、勝手に派閥なんて作ってるのさ。

逃げようとしても逃げられない………というか、逃がしてくれなかったし。

 

「ま、まぁ、元気出してよ、美羽ちゃん」

 

「そ、そうそう。あんな腐女子共の話はスルーして良いって」

 

そう励ましてくれるのは松田君と元浜君。

実は今、彼らと一緒に道を歩いている。

 

「そう言うなら、助けてほしかったよ」

 

怨めしそうに言うボクに松田君は目をそらす。

 

「い、いやぁ………あそこに突入するには流石に勇気がいるというか」

 

「うむ。俺達は勇者にはなれない。無駄死にするだけだ。分かってくれ、美羽ちゃん」

 

「無駄にかっこ良く言わなくて良いよ、元浜君」

 

あんな話、お兄ちゃんが聞いたら、ツッコミの嵐が吹き荒れるよ。

木場君との絡みについては特に。

 

そんな会話をしながら進むこと十分。

ボク達は目的の場所に到着した。

大きく、白い建築物。

看板には『駒王病院』と書かれている。

そう、ここはお兄ちゃんが入院している病院。

松田君と元浜君はお見舞いに来てくれたんだ。

 

ここも裏で三大勢力が取引している場所だったりする。

何でも、アザゼル先生がここの院長と飲み仲間らしい………って、アザゼル先生は本当に自由というか何というか。

 

本来なら、三大勢力、悪魔の医療機関に入院するのがベストなんだけど、今回はボクがアザゼル先生にお願いして、ここを手配してもらった。

その理由が松田君と元浜君の存在だ。

あの戦いが終わった後、駒王学園に登校した時、二人から訊かれたんだ。

 

―――――イッセーは大丈夫なのか、と。

 

戦後の処理の一つとして、人間界全体の記憶改竄が各勢力協力のもとで行われている。

トライヘキサという怪物を始め、ドラゴンから天使、悪魔、堕天使、妖怪。

アセムが世界に戦いの光景を配信したこともあり、異形の存在が公にされることになった。

 

当然、一般の人間は大混乱に陥り、テレビでも映像と共に議論されることに。

そこで混乱を治めるため、世界中で大掛かりな記憶改竄が行われることになった。

当然、二人もその記憶改竄の対象であるため、お兄ちゃんが戦っていた記憶は消えているはずなのだが………。

 

エレベーターを降り、廊下を進んだ先に個室がある。

入り口には『兵藤一誠』と書かれた文字。

 

元浜君が眼鏡をくいっとあげて言う。

 

「ここがあいつの病室か。個室とか、イッセーには勿体ないな」

 

「アハハ………」

 

苦笑するボクは部屋の扉を開ける。

中は清潔に保たれた広い空間。

棚にはバケツやタオルといった備品が並べられている。

そして、ベッドの上に―――――。

 

「お兄ちゃん、松田君と元浜君が来てくれたよ?」

 

未だ眠り続けるお兄ちゃんがいる。

 

皆の協力でお兄ちゃんは一命をとりとめた。

崩壊していた生命の泉は補強され、そこに注ぎ込まれた皆の生命力のおかげで何とか、命の方はもたせてある。

小猫ちゃんと黒歌さんの二人が毎日、仙術治療で回復してくれているが、こちらが完全回復するまでに数年はかかるとのこと。

危ぶまれたお兄ちゃんの精神の方も一応、安定している。

今もイグニスさんとドライグが内側でお兄ちゃんの精神を見守ってくれているみたいだ。

 

あの戦いから二週間経って目覚めないのは生命力が枯渇してしまったためで、今は肉体と精神を休めるために体が休止状態になっているから、とのことだ。

お兄ちゃんが目覚めるのはいつになるか分からないが、そろそろ起きてくれるだろうと、イグニスさんが言っていた。

 

元浜君がゴソゴソと鞄を漁り始める。

 

「これ、見舞品な」

 

「もしかして、エッチな本?」

 

「それも考えたけどな。今回は『ドラグ・ソボール(スーパー)』の最新刊」

 

「あ、それ、ボクも読みたかったやつだ」

 

「じゃあ、美羽ちゃんに渡しておくよ。後でイッセーに渡してやってくれ」

 

「うん、ありがとう、元浜君」

 

すると、松田君が言う。

 

「あっ、結構まともなやつ持ってきてたのかよ。俺は―――――」

 

松田君が鞄から取り出したのは―――――一房のバナナだった。

 

「見舞いと言えばこれかなって」

 

「まぁ、定番ではあるよね」

 

「だろ? イッセーの目が覚めなかったら、皆で食べてくれ」

 

お見舞いの品を持ってきてくれたのは嬉しいけど、そのバナナ、朝から持っていたのかな………。

ここに来る途中でスーパーとかに寄ってないし………。

 

バナナを棚に置いた松田君はベッドの側に置いてある椅子に腰掛け、お兄ちゃんの顔を覗き込む。

 

「ぐっすり寝てるなぁ。もしかして、美羽ちゃんが体拭いてやってるとか?」

 

「うん、妹だもん」

 

「クソッ、羨ましい奴め。俺も美羽ちゃんみたいな妹がほしいぞ!」

 

「全くだ。腹いせにおでこに『乳』と書いてやろうか。イッセー撲滅委員会としては当然の処置なのだが。とりあえず、こいつのモテフラグを全力で叩き潰したい」

 

多分、それは潰れないかと………。

次から次にモテフラグ建設されていくし。

下手すると、今後もお兄ちゃんに想いを寄せる人が出てくる可能性だってある。

………男女問わず。

 

ハハハ、と笑う二人だが途端に真剣な表情になる。

そして、眠っているお兄ちゃんに話しかけ始めた。

 

「なぁ、イッセー。おまえ、ずっと俺達に隠してることがあるだろ?」

 

「え………?」

 

松田君の言葉につい聞き返してしまった。

元浜君が続く。

 

「俺達は長い付き合いだからな。前々からなんとなく分かってたよ。それでも、あまり詮索しないようにしてたが………。美羽ちゃん、今回、イッセーが入院したのは事故が原因って聞いてるけどさ。本当は違うんじゃないか?」

 

「………なんで、そう思うの?」

 

「なんでって言われるとな………俺もなんて答えたら良いか分からないんだ。でも、イッセーが俺達のために血だらけで戦う、そんな夢を見てさ。右腕を無くしたのも、本当は事故じゃなくて、別の………」

 

松田君が言う。

 

「俺もだ。頭の中にイッセーの声が聞こえた、そんな記憶があるんだ。いつ、どこでかは思い出せないんだけどな」

 

一般の人間である二人は、先日の戦いについての記憶は改竄されている。

でも、二人はお兄ちゃんが戦っていたことを覚えていた。

覚えていた………というと、少し違うと思うけど、心のどこかに残っていたんだと思う。

お兄ちゃんの力は人の心に想いを刻み込むから。

 

二人の問いにボクはどう答えて良いか迷った。

改竄された記憶通りの内容を伝えるのか、それとも、真実を打ち明けるのか。

 

「あ、あのね、二人とも。お兄ちゃんは………」

 

何かを言わなきゃいけない。

そう思って口を開いた。

 

でも、それは松田君の言葉に遮られた。

 

「無理しなくて良いよ、美羽ちゃん。俺達がそれを聞くのはイッセーからだ。こいつが話したくなったら、その時に聞くとするよ」

 

「で、でもだよ? も、もし、お兄ちゃんが二人とは違う存在………とか言ったらどうする?」

 

恐る恐る訊ねるボク。

この流れで言えば、二人は冗談として受け止めるかもしれない。

普通に考えて、『この人は悪魔だ』とか言っても信じないだろう。

 

でも、二人は―――――。

 

「うーん、そこは良く分からないけど、イッセーはイッセーだろ」

 

「昔からつるんでるしな。こいつが宇宙人と言われても、驚きはすれ、そこから関係が変わるとは思えん。一つ聞くけど、ここにいるイッセーはおっぱい好きか?」

 

「そりゃあもう」

 

ボクが即答すると二人は吹き出した。

そして、笑いながら言った。

 

「じゃあ、こいつはイッセーだ。俺達が知ってる兵藤一誠だ」

 

「おっぱい大好き野郎で、最近は男達の嫉妬の的で、イッセー撲滅委員会の撲滅対象の兵藤一誠だ」

 

「うん、元浜君の台詞は必要なかったかな」

 

やっぱり、この二人はお兄ちゃんにとって親友なんだと心から思えた。

二人なら真実を打ち明けても、何ら変わらない関係でいてくれる………そんな気がする。

 

ボクは二人の前に立つと、深く頭を下げた。

 

「ありがとう、松田君、元浜君。これからもお兄ちゃんをよろしくお願いします」

 

「「おう!」」

 

 

 

 

それから少しして。

ボクは病院の前で二人を見送っていた。

 

「二人とも、今日は来てくれてありがとう」

 

ボクがお礼を言うと、二人は笑って答える。

 

「いーよいーよ、お礼なんて」

 

「俺達は三人でセットみたいなところあるしな。俺達は三人でエロバカ三人組だし」

 

「そうだよな………だが、あいつばかりがモテるのはやはり許せん。もし、あいつが脱童貞したとか言ったら、その時はマジでキレるかもしれん………!」

 

「それな!」

 

あ、お兄ちゃんアウトだ。

脱童貞どころか、今では経験豊富になっちゃったし………。

 

二人を見送った後、ボクはそのまま病室に戻ることに。

リアスさん達は戦後処理の手伝いでいないけど、後で来ることになってるし、もう暫くはボクもここに残るかな。

 

戦後処理と言えば、アリスさんがすっごく頑張ってくれている。

『王』が不在とのことで、『女王』として代行しているが………それはもう、毎日書類と格闘してるよ。

栄養ドリンクを何本空けたことか。

ボクも後で合流して、頑張らないとね。

 

そんなことを考えながら、病室に戻るボク。

部屋の扉を開けると―――――。

 

 

「お兄………ちゃん?」

 

 

ベッドの上で上半身を起こしたお兄ちゃんの姿。

お兄ちゃんはこちらを向くと、微笑んで、

 

「おはよう、美羽」

 

少し掠れてるけど、お兄ちゃんの声だった。

ボクは扉を閉め、ベッドに歩み寄っていく。

そして、

 

「寝過ぎだよ………おはよう、お兄ちゃん」

 

嬉し涙が頬を伝った。

 

 

[美羽 side out]

 




次回(もしくは次々回)で最終回になります!

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