全然終わらねぇじゃねぇかぁぁぁぁぁぁ!
というわけで、今回も最終回ではありません!
すいませんでしたぁぁぁぁぁぁ!
[美羽 side]
『フハハハハ! 注文した漫画だと思ったか? 残念、我輩でした! その悪感情、大変、美味であるぞ! 頭だけでなく腹筋まで硬い脳筋娘よ!』
兵藤家の玄関。
そこで高らかに笑う男性。
長身痩躯で、茶髪を後ろで括ったその男性は間違いない。
彼は――――――。
「ヴァルス!? どうしてここに!? というか、あなた、生きて………!?」
目を見開き、驚愕の声をあげるリアスさん。
その頬には汗が伝っていて………。
リアスさんの気持ちは分かる。
だって、彼はモーリスさんと戦って………。
すると、のんびりとした足取りで階段を降りてきたモーリスさんが言った。
「ん? 俺、その兄ちゃんにトドメさしてねーぞ?」
『ええええええええええっ!?』
驚愕の事実発覚!
モーリスさん、何やってんの!?
木場君がモーリスさんを問い詰める。
「モーリスさん、どうして………!? 彼は僕達の敵ですよ!? アセムの配下の一人ですよ!?」
「んなこたぁ、言われんでも分かってるよ。だが、この兄ちゃんを始末するのは惜しい気がしてなぁ。まぁ、不意討ちみたいなことはしないし、その辺りは弁えてる。来るなら一対一だろう」
モーリスさんはヴァルスを見て、
「この兄ちゃんが挑んできても、俺が勝つ。つまり、俺が出張りゃそれで終いだ」
『………』
その一言に玄関が静まり返った。
………うん、どうしよう。
ものすっごく納得してしまった………!
滅茶苦茶だよ、この人!
絶対、神姫化したボクとアリスさんより強いよ!
今更だけど、お兄ちゃん、よく眷属に出来たよね、この人!
モーリスさんの放った言葉にヴァルスは笑って返す。
「ハハハハハ! 剣聖殿に言われると返しようがありませんね。ええ、私はリゼヴィム殿のように回りくどいことはしません。やるなら一対一の真剣勝負を望みます。そして、今の私があなたに挑んでも、勝ち目はないでしょう」
あれだけボク達を苦しめた悪神の眷属に勝ち目がないと言われる人ってどうなんだろう。
悪魔化して長い寿命を得た今、モーリスさんは更に先へと行きそうで恐い。
仮にレーティングゲームに出場したら、笑いながら戦ってそう………。
あれ?
そういえば、ヴァルスの口調………。
ボクと同じことを思ったのか木場君がヴァルスに訊ねた。
「先程の口調、あれは内なるあなた………ですよね? たしか、精神的に追い詰められた時に表に出てきてしまうと」
なに、それ………初耳だよ。
というか、精神的に追い詰められたら、あんな風になるの、この人!?
「ええ、今は通常に戻ってますけどね」
「では、先程はなぜ?」
木場君が問うと、ヴァルスは腰を抜かしているゼノヴィアさんを見て―――――ニッコリと微笑んだ。
「彼女の気配を感じましてね。つい虐めたくなったと言いますか………テヘッ☆」
全然、可愛くないテヘペロをいただいた。
アザゼル先生がヴァルスに訊ねる。
「おまえさんがここに来た理由を話してもらおうか。おまえにどんな考えがあるにせよ、あれだけ大規模な戦争を引き起こしたんだ。見つかれば、即戦滅されるのが普通だろう。そこを理解して、それでも、この地に来たということは何か、俺達に伝えなければならないことがある。そう思って良いんだな?」
「その通りです、アザゼル殿。私は今、戦うつもりは一切ありません。信用できないのならば、この腕と足を切り落としても構いません」
じっとこちらを見つめるその瞳には言い知れぬ迫力があった。
自分の手足を切り落として良いというのは本心なのだろう。
しかし、殺気が含まれていないというのに、このプレッシャーは………!
ふざけた雰囲気は全く感じられない………。
死地を前に覚悟を決めた、そんな雰囲気が今のヴァルスから感じられる!
ヴァルスの迫力に押され、冷や汗を流すボク達。
すると、後ろのモーリスさんがやれやれといった声で言った。
「引け、おまえ達。今の言葉から、この兄ちゃんの覚悟は十分に伝わったはずだ。戦うつもりはないと言っているんだ。ここは話ぐらいは聞いても良いんじゃないか? なぁ、アザゼル」
「………ったく、面倒なことになっちまった。折角、助かった命なのに、まーた首を締めることになっちまうだろうが。責任取らされるのは俺なんだぞ? おい、ヴァルス。それだけの価値があるんだな?」
アザゼル先生の言葉にヴァルスは静かに頷いた。
「ええ。そこは保証します。私は我が父アセムの意思を伝えに来たのですから」
▽
話を聞くため、ボク達は家にヴァルスを入れることになった。
………で、今はなぜか重要な会議に使用されるVIPルームではなく兵藤家のリビングに集まっている。
「いやぁ、すいません。私、会議室みたいなガチガチの空気の部屋って苦手でして」
今からガチガチの話をしようっていう顔じゃないよね。
ものすっごくヘラヘラしてるんだけど。
ふいにヴァルスは何かを思い出したように掌をポンっと叩いた。
「突然おじゃまするのです。お詫びにこれを………」
ヴァルスが魔法陣を展開する。
すると、机に幾つか小さい魔法陣が描かれていき、何かが姿を見せる。
それは――――――。
「えー、まず左から。沖縄名物のソーキ蕎麦、熊本の馬刺、博多の明太子、香川のうどん、京都のお漬物、名古屋の手羽先と味噌カツ、東京の東京バナナ、宮城の牛タンとずんだ餅、秋田のきりたんぽ、岩手の蕎麦、青森のリンゴ、北海道の蟹。それから―――――」
「観光ぉぉぉぉぉぉ!? これ、観光行ってたよね!? 完全にお土産だよね!? もしかして、日本一周してきた!?」
炸裂するボクのツッコミ!
だって、机一杯に並べられてるのって、日本各地の名物・特産だもの!
ヴァルスが言う。
「あの戦いが終わった後、傷ついた体を癒しに慰安旅行を」
「皆が戦後処理で大変な時になにやってるのさ!? というか、三日でこれ全部行ったの!?」
「不眠不休でいけば余裕です!」
「全然休めてないよ! というか、遊ぶことに命かけてない!?」
「それが我が父の教えですから。人生、楽しんだもの勝ち。遊びにこそ全力を尽くせ!」
それを聞いたアザゼル先生は、
「わかる!」
「アザゼル様!? なに、共感しちゃってるんですか!?」
「人生、いつ、何が起こるか分かったもんじゃない。だからこそ、その時を全力で楽しむのさ! だから、俺は趣味に没頭するのさ!」
「かっこつけてないで仕事してください!」
レイナさんのツッコミ&ハリセンがアザゼル先生に叩き込まれていく!
鋭く叩き込まれたハリセンがアザゼル先生の頭を揺らした!
「かに」
「めんたいこ」
いつの間にかオーフィスさんと彼女の分身体リリスさんが来ていて、机に置かれたご当地名物の数々に目を輝かせていた。
我が家の龍神様は今日も元気で自由です!
ちなみにリリスさんに関しては彼女も家で引き取ることになった。
もちろん、これはオーフィスさんと同じく極秘扱い。
リリスの姿を見たヴァルスは彼女の頭を撫でる。
「おや、リリス。お久し振りですね」
「ヴァルス、久し振り」
そう返すリリスにヴァルスはニッコリと微笑んだ。
「リゼヴィム殿の元にいた頃よりも感情が見られるようになりましたね。ここはあなたにとって、安らげる場所になるでしょう。あ、その明太子はご飯に乗せて食べると美味しいですよ」
「そうする。めんたいこ、ごはん………めんたいこごはん」
明太子の箱を片手にキッチンへと小走りするリリスさん。
うーん、食いしん坊なところはオーフィスさんと同じ………?
オーフィスさんが服の袖を引っ張りながら言ってくる。
「我、かに食べたい」
「あ、うん。えっとね、それはそのままじゃ食べられないから、今度、蟹鍋にしよう。それまでは待っててね?」
「蟹鍋………我、待つ」
我が家の龍神様はとても素直だった。
さて、ヴァルスの広げたご当地名物の数々に話が脱線したけど、そろそろ戻そう。
「あと、神戸でチョコレートも………」
「ありがとう! でも、もうそろそろ話を戻そうね!」
本当にどれだけ観光してるのさ!?
よく、そんなお金あったね!
というか、本当に三日で全部回れたの!?
ヴァルスは心を読む能力を使ったのか、ボクの疑問に答えた。
「私の秘術に時間を操作するものがあるのですよ。対象人物の中の時間を加速させることが出来るので、通常の三倍の観光が出来るのです」
「どう考えても戦闘用の術ですよね!? なに、観光に使ってるんですか!?」
木場君のツッコミ!
しかし、ヴァルスは驚いたように言う。
「そうか! 戦闘に使うという手がありましたね!」
「気づいてなかったんですか!?」
「全力で観光するために開発した術ですから」
「どんな力の無駄遣い!?」
そのツッコミを最後に、木場君は床に手をついてしまう。
「そんな………僕はこんな人と………。僕の全てをかけたあの戦いは何だったんだ…………」
そういえば、木場君はゼノヴィアさん、イリナさんの三人で複製体とはいえ、ヴァルスと戦ったんだったね。
限界を超え、その更に限界を超えるという果てしない斬り合いだったと聞く。
その相手が………ね?
木場君の心情は複雑なものだろう。
すると、
「ハハハハ………ウフフフフ………」
木場君がいきなり笑い始めた。
その目は焦点があっておらず、虚空を見つめていて、
「ゆ、祐斗先輩………?」
「どうせ………僕達がどんなに頑張っても、シリアスは壊されるんだ………。シリアス? ツッコミ? ナニソレオイシイノ?」
「祐斗先輩がまた壊れましたぁぁぁぁぁぁ!」
「祐斗!? しっかりなさい! なんてこと………! 祐斗の目が死んでるわ!」
「アハハハハ…………シリ、シリ、シリ………シリアルゥゥゥゥゥ!」
「イヤァァァァァァ! 祐斗ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
「祐斗先輩ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
リアスさんとギャスパー君の嘆きが兵藤家のリビングにこだまする。
………木場君には暫くお休みが必要なのかもしれない。
心の病気だよ、あれは。
モーリスさんが言う。
「ったく、情けねぇ野郎だ。よし、今から俺が祐斗を鍛え直してやる」
壊れたように笑う木場君の服の襟を掴み、ズルズルと引きずっていくモーリスさん!
それをゼノヴィアさんとイリナさんが阻止しようとする!
「やめてくれ! もう木場は………! これ以上、木場を追い詰めないでくれ!」
「そうよ! こんな木場君、もう見てられないわ! お願い、木場君を壊さないであげて!」
だよね!
今、モーリスさんの修行を受けた、木場君が廃人になっちゃう!
もう帰ってこられなくなる!
二人の言葉に、モーリスさんは遠くを見つめて言う。
「人生辛いことも、悲しいこともある。絶望する時だってある。だがな、そこで立ち止まってしまったらダメなのさ。前に進まないと、どうしようもないのさ。祐斗、俺がおまえの背を押してやる。今こそ―――――ツッコミからボケにシフトチェンジするんだぁぁぁぁぁぁ!」
「「「やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」」」
木場君がボケるところとか見たくないよ!
そんなの酷すぎて、見てられない!
お願いだから、ツッコミのままでいて!
「あらあら、相変わらず賑やかね」
聞き覚えのある女性の声がした。
振り返れば、そこに浅黒い肌に長く白い髪の女性がいて、テーブルに何かを運んでいるところだった。
その女性に皆の思考が固まった。
数秒後―――――。
「なんで、あんたがいるのよ―――――ヴィーカ!?」
アリスさんがその女性の名を叫んだ。
そう、あのヴィーカが目の前にいたんだ!
「あんたは確かにあの時、倒した………なんで生きてるのよ………!? っていうか、その前に―――――」
アリスさんはヴィーカの運んできたものを指差して訊ねた。
「なんで、チャーハン!?」
テーブルに置かれた一枚の大きな皿。
そこには黄金色に輝くチャーハンがあった。
この色に、この香ばしい香り………!
ダメだ、お腹がすいてしまう………!
ヴィーカがきょとんとした表情で答えた。
「だって………お腹空いたでしょ?」
ヴィーカが時計を指差すと、昼の十二時を過ぎている。
確かにお腹が空く時間だ!
ぬっ、とキッチンから大きな人影が現れる。
一人の巨漢、そして小さな女の子がそこにいて―――――。
「さーて、食うかぁ」
「ん………お腹、空いた」
「ラズル!? ベル!? あんた達も………って、なんでエプロンしてるのよ!?」
アリスさんの問いに二人は、
「皿洗い」
「………お手伝い?」
ダメだ………どうやっても思考が止まる。
この三人はいつ、この家に入ってきたのか。
そもそも、なぜ、生きているのか。
あと、なんで、勝手にチャーハン作ってるのか。
ヴィーカが言う。
「とりあえず、冷蔵庫にあった卵とハムで適当に作ったわ。さぁ、皆で食べましょう」
「「いただきまーす」」
手を合わせて食事に入ろうとするヴィーカ、ラズル、ベル。
色々と言いたいこと、聞きたいことはある。
でも、その前にボクは――――――。
「それ家の卵、それ家のハム、それ家のチャーハンンンンンンンンンンンンンンッ!!!!!!」
全身全霊でツッコミを入れた。
今回、何一つ肝心の話をしていない…………!