[アザゼル side]
妹がついてる、か。
会談のとき、コカビエルを倒したことで兵藤一誠について何者だ、と尋ねたが俺はあの黒髪の少女、兵藤一誠の妹、兵藤美羽についても気になっていた。
あの娘についての報告は特には無かったが、この間会ってみてすぐに相当の実力者であることが分かった。
調査の結果ではあの娘は二年近く前に兵藤一誠の義妹となっていることが分かった。
そこには特に気にするところはない。
問題なのはそれ以前の記録が全く出てこなかったことだ。
俺達の組織、グリゴリは優秀ではあるが完璧じゃあない。全てを調べあげることは難しい。
そんなことは理解している。
だが、全く情報がないということはおかしい。
兵藤一誠自身も謎だ。
赤龍帝の力を使って戦った形跡が悪魔になった後でしか記録がない。
調べによれば悪魔に転生する前からかなりの実力を持っていたという。
ただの人間がそこまでの強さを手に入れるにはやはり、何処かで戦闘の形跡があるはずなんだ。
この兄妹は謎に包まれ過ぎている。
一体何者なんだよ?
まぁ、さっき話さなくて良いと言ったから聞きはしないけどよ。
とりあえず、この兄妹のことは後回しだ。
今はテロリストの対処だな。
「赤龍帝の言う通り、あのヴァンパイアが敵の手に落ちてないと考えると・・・・、敵さんの方にも時間停止系の神器持ちがいると考えても良いだろう」
『停止世界の邪眼』のような時間停止系の神器はいくつか存在が確認されている。
だが、この規模で時間停止を仕掛けてこれるのは、その所持者が禁手に至っているか、術式を仕掛けて無理矢理に一時的な禁手状態にしているか。
さっきから停止の力が強まってるところを見ると恐らく後者だ。
恐らく力を譲渡して無理な力を使わせているのだろう。
それでは術者がもたない。
後で何らかの後遺症を残すことになるだろう。
・・・・いや、このまま放置しておけば俺達も危ないか。
[アザゼル side out]
▽
「とりあえず、俺はギャスパーのところに行ってきます。美羽がいるから大丈夫だとは思いますけど、何が起こるか分からないので」
「待って、イッセー。私も行くわ」
「部長・・・・分かりました。サーゼクスさん、良いですか?」
サーゼクスさんは頷く。
「ああ。そちらはイッセー君とリアスに任せよう。その間に我々も状況の打開策を考えよう」
よし、了解は取れた。
すると、アザゼルさんがヴァーリに言う。
「ヴァーリ、お前は外に出て魔法使いどもを蹴散らせ。白龍皇であるお前が出れば、相手は動揺するだろうからな」
「……ふ。了解だ」
ヴァーリは少し鼻で笑う。
そして、眩い光を発しながら力を解放した。
『Vanishing Dragon Balance Breaker!!!!!!』
その音声と共にヴァーリの体は白い鎧によっておおわれる。
ヴァーリは俺を一瞥すると窓から飛び出していった。
魔法使いから放たれる攻撃をものともせずに宙を舞い、魔力弾を放って敵の魔法使いを次々に沈めていく。
あいつの力はどう見ても魔王クラス。
魔力量なんて俺とは比べ物にならないな。
あいつは俺と闘いたいみたいだけど、そうなったら本気でやるしかないか。
まぁ、そのあたりは後で考えよう。
「じゃあ、部長。行きましょうか」
「ええ」
俺と部長は部屋を出て、旧校舎へと向かった。
▽
[木場 side]
部長とイッセー君が旧校舎に向かった後。
会議室に突然、魔法陣が現れた。
それを見て、サーゼクス様は苦虫を噛み潰したような表情をされていた。
「これは―――レヴィアタンの魔法陣」
え?
確かに、この魔法陣はセラフォルー・レヴィアタン様の魔法陣とは違う紋様をしている。
僕が疑問に思っていると隣にいたゼノヴィアが呟いた。
「書物で見たことがある。あれは旧魔王のものだ」
・・・・・なるほど。
あれが旧魔王レヴィアタンのものなのか。
噂には聞いていたけど、まだ存在していたんだね。
魔法陣から現れたのは胸元が大きく開いていて、深いスリットの入ったドレスを着た一人の女性。
「ごきげんよう、現魔王サーゼクス殿、セラフォルー殿」
「先代の魔王レヴィアタンの血を引く者、カテレア・レヴィアタン。これはどういうつもりだ?」
「もちろん―――あなた方を滅ぼすため」
その瞬間、カテレアから巨大な魔力弾が放たれた。
光が僕たちを覆い、部屋を吹き飛ばしたけど僕達は無事だった。
「三勢力のトップが共同で防御結界ですか。なんと見苦しい」
見下すように笑うカテレア。
そう、僕達を襲った魔力弾はサーゼクス様、ミカエル、アザゼルの三人が張った結界が防いでくれたんだ。
この三人が防いでくれなければ、停止させられている皆だけでなく、動けている僕やゼノヴィアも危なかっただろう。
サーゼクス様がカテレアに問いかける。
「カテレア、なぜこのようなことを?」
「先程も言ったはずです。あなた方を滅ぼすため、と。我々はこの会談の反対の考えに至りました。神と魔王がいないのならばこの世界を変革すべきだと」
神の不在、三大勢力の和平、それを全て知った上でのクーデターということか。
しかも、その考えはここにいる方々とは全く逆。
イッセー君が聞いたら本気で怒るだろう。
「カテレアちゃん、止めて! どうして、こんな・・・・」
セラフォルー様の悲痛な叫びにカテレアは憎々しげな睨みを見せる。
「セラフォルー、私から『レヴィアタン』の座を奪っておいて、よくもぬけぬけと!」
「わ、私は・・・・」
「ふん、安心なさい。今日、この場であなたを殺して私が魔王レヴィアタンを名乗ります」
カテレアの言葉に表情を陰らせるセラフォルー様。
「やれやれ、悪魔のとんだクーデターに巻き込まれたと思ったが、おまえらの狙いはこの世界そのものってことか」
「ええ、アザゼル。神と魔王の死を取り繕うだけの世界。この腐敗した世界を私たちの手で再構築し、変革するのです」
両手を広げてそう答えるカテレア。
しかし、その答えを聞いてアザゼルはおかしそうに笑う。
「アザゼル、何がおかしいのです?」
カテレアの声には明らかに怒りが含まれている。
「腐敗? 変革? 陳腐だな、おい。そういうセリフは一番最初に死ぬ敵役の言うことだぜ?」
「あなたは私を愚弄するつもりですか!」
激怒するカテレアの全身から魔力のオーラが発せられる。
「サーゼクス、ミカエル、俺がやる。いいな?」
アザゼル―――堕天使総督が戦場に立つ。
その身からは薄暗いオーラを放っている。
本気ではないというのにすごい重圧を感じる。
「カテレア、下るつもりはないのか?」
「ええ、サーゼクス。あなたは良い魔王でしたが、残念ながら最高の魔王ではなかった」
カテレアはサーゼクス様の最後通告を断る。
「そうか・・・・残念だ」
アザゼルとカテレアは上空へと場所を変える。
「旧魔王レヴィアタンの末裔。『終末の怪物』の一匹。相手としては悪くない。ハルマゲドンとシャレこもうか?」
「堕天使の総督ごときが!」
ドンッ!!
その瞬間、堕天使総督と旧魔王の末裔の戦いが始まった。
[木場 side out]
▽
旧校舎に到着した俺と部長は部室へと急いだ。
中は特に戦闘を行った形跡はない。
部室の前まで来ると俺達は一度立ち止まる。
お互いに目で合図を送り、部室の扉を勢いよく開ける。
部室の中はにいたのは―――
「あ、おかえり。こっちはもう終わったよ」
結界の中でトランプをする美羽、小猫ちゃん、ギャスパーの三人の姿だった。
部屋の端には魔法でできたロープのようなもので縛られている女の魔法使いが数人。
全員気絶してるな。
この状況に戸惑う部長。
「え、えっと、これは?」
うん。
俺にもこの状況は分からん・・・・。
答えてくれたのは小猫ちゃんだった。
「五分ほど前にそこの魔法使いの人達が侵入してきたのですが、部室に入って来た瞬間に美羽先輩が全員を捕縛したんです」
そこは分かる。
このメンバーでここまで鮮やかに敵を捕縛出来るのは美羽だけだしな。
何故にトランプ・・・・・?
「何かが起こっていることは分かったのですが、いきなりギャー君の力に似たものに襲われたので美羽先輩が作った結界の中に入ったんです。それで、とりあえず安全が確認されるまでは結界の中で過ごそうということになりました」
「それでトランプ・・・?」
俺の問い三人は首を立てに振って頷く。
「一応、慌てるギャスパー君を落ち着かせる目的もあったんだけどね」
頬をポリポリとかきながら申し訳なさそうに言う美羽。
まぁ、ギャスパーがこの状況に慌てふためく姿は容易に想像できるな。
それに、ギャスパーは感情の起伏で神器が暴発する可能性もある。
そう言う意味ではこの判断は一概に悪いとは言えないか・・・・。
「まぁ、無事ならいいさ。よくやったな美羽」
「うん」
頭を撫でながら誉めてやると、いつものように凄く嬉しそうな表情を浮かべる美羽。
「・・・・一番の強敵は美羽なのかしら」
後ろで部長が何やら呟いているけど、どうしたんだろう?
・・・・ギャスパーが無事だということは、アザゼルさんが言っていたようにテロリスト側にも時間停止の神器の所有者がいるということで間違いないな。
だったらなんで、旧校舎を狙ったんだ?
すると、部長が言った。
「今回のテロは元々、ギャスパーを使って時間を停止させるつもりだった。それが失敗したから自分達が所有する神器所有者を使った、というところかしらね。・・・・もしこの考えが正しかったのなら最低な発想だわ」
なるほど。
出来るだけ自分達の手札は温存しておきたかったわけだ。
そのためにギャスパーを狙ったと・・・・。
「ギャスパー、落ち着いたか?」
「はい! 美羽先輩や小猫ちゃんのお陰です!」
「そっか。良かった」
よし。
ギャスパーのことはもう大丈夫だな。
後はテロリスト共を片付けるだけなんだけど・・・・。
問題は学園の上空で輝いている魔法陣。
恐らくあれが時間停止の作用を果たしているはずだ。
あれを止めることが出来れば・・・・・。
「イッセー先輩・・・・」
ギャスパーが俺の制服の袖を引張ってきた。
どうしたんだ?
何故か俯いているし。
すると、ギャスパーは顔を上げた。
その目は何かを決意しているように見えた。
「ぼ、僕も戦います!・・・・僕が敵の時間停止を破って見せます!」
「「「!?」」」
ギャスパーの言葉に俺達は驚いた。
まさか、こいつがそんなことを言うなんて・・・・・。
ギャスパーは続ける。
「ぼ、僕はいつも皆さんに守られてきました! リアス部長に拾ってもらったのに、イッセー先輩や美羽先輩、皆が僕を助けようとしてくれたのに、僕はまだ何にも役にたってません! だから・・・・僕も皆さんの役にたちたいんです!」
そんなことを考えてたのか・・・・
いや、こいつは以前、部長の役にたちたいと言っていた。
恐らく、ずっと前から思っていたんだろうな。
俺はギャスパーと向き合い、問う。
「ギャスパー、覚悟は出来ているか?」
「か、覚悟ですか?」
「ああ。誰かのために力を使うには覚悟が必要だ。自分の力に溺れず、誰かのために自分の力を振るうには相応の想いと覚悟がいる。・・・ギャスパー、もう一度聞くぞ。覚悟は出来ているか?」
俺の再びの問いにギャスパーは一瞬下を向いたけど、俺の目を見て、強い言葉で言った。
「か、覚悟は出来ています! ぼ、僕はもう逃げません! 以前のように目の前の現実から逃げたりなんてしません!」
その言葉を聞いた俺は笑みを浮かべ、ギャスパーの両肩に手を置いた。
「良く言った! なんだかんだで、おまえも男じゃないか! おまえが覚悟を決めたんなら俺ももう一度覚悟を決めよう。ギャスパー、おまえのことは俺が守ってやる。だから、何があっても心配すんな!」
「は、はい!」
▽
俺達は部室の窓から外に出て、上空に浮かぶ魔法陣を見上げる。
「いくぜ、ギャスパー! オカ研男子部員の先輩後輩タッグだ!」
「イッセー先輩、僕、頑張ります!」
良い返事だ!
俺は指を切り、流れる血をギャスパーに飲ませる。
ドクンッ
ギャスパーの体が脈打つ。
赤龍帝である俺の血を飲んだことでギャスパーの中に眠る力が解放されたんだ。
更に俺は溜めておいた力をギャスパーに譲渡!
『Transfer!!』
ギャスパーから発せられるオーラが格段に跳ね上がった!
「今だ! ギャスパー!」
「はい!」
ギャスパーの瞳が赤い輝きを発する。
そして―――
「時間の停止が止まった・・・・?」
部長が呟く。
校舎を見るとさっきまで止まっていた時計が動き始めている。
新校舎の方に意識を集中させると朱乃さんやアーシアの気も動いている。
やりやがった!
成功だ!
「やったぞ、ギャスパー!」
「は、はいぃ。つ、疲れましたぁぁ」
ヘナヘナとその場に崩れ落ちるギャスパー。
そのギャスパーを小猫ちゃんが支えてあげる。
「ギャー君、やればできる子」
「ありがとう、小猫ちゃん・・・」
部長もしゃがんでギャスパーを抱き締めた。
「ギャスパー、立派になったわね。嬉しいわ」
ギャスパー、顔を赤くして照れてるな。
うーん。
見た目が美少女だから少しドキッとしてしまうぜ。
「お兄ちゃん、ギャスパー君は男の子だよ?」
「美羽、それを言わんでくれ・・・・。とりあえず、皆のところに急ごうか。皆、魔法使いと戦っているようだしな」
新校舎の方から雷やら光の槍やらが見える。
動けるようになった朱乃さんやレイナ達も戦っているようだ。
「そうね。先を急ぎましょう。小猫、ギャスパーを連れてきてもらえるかしら?」
「了解です。ギャー君、私の背中に乗って」
「う、うん」
さっきのでギャスパーは力を使い果たしたみたいだしな。
仕方がないか。
こいつは十分に頑張ったんだ。
後は俺達で何とかするさ。
「行こうぜ、皆!」
俺達は新校舎の方で戦っている仲間の元へと急いだ。