ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝   作:ヴァルナル

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80話 世界の繋ぎ手

[美羽 side]

 

 

「ちょっと待ってもらえるかしら。あなた、今なんて………」

 

状況を呑み込めていないのか、スケールの大きさに思考がついていけていないのか、リアスさんが困惑した声音でヴァルスに訊ねた。

 

それもそうだろう。

ボクも他の皆も何を言われたのか理解できていなかった。

だって、彼が言ったことは―――――。

 

ヴァルスはニッコリと微笑んで再度、ボク達に告げた。

 

「この世界とアスト・アーデ。二つの世界間で同盟を結ばせる。これが父上の計画なのです」

 

「………っ!」

 

もう一度、全く同じことを言われ、目を見開くリアスさん。

 

二つの世界間の同盟。

国や神話体系間の同盟なら、まだ分かる。

しかし、時空が異なる全く違う世界間での同盟だなんて………!

 

アザゼル先生が言う。

 

「なるほどな。リゼヴィムが向こうの邪神サイドに送った情報の中にはアスト・アーデの情報もあった。アスト・アーデが邪神のターゲットになる可能性は考えられる」

 

モーリスさんが続く。

 

「そんなトンデモな神様が俺達の世界に来たんじゃ、こっちも潰されるかもしれん。つまり、ターゲットになるであろう二つの世界の戦力を合わせて、その邪神様に立ち向かえ。簡単に言えば、そういうことなんだな?」

 

「ご理解が早くて助かります」

 

モーリスさんの言葉にヴァルスは頷いた。

 

二つの世界の協力関係。

それを行うには十分過ぎる理由ではあるのだろう。

そんな強力な敵がいるのなら、少しでも多くの味方が欲しくなるものだからね。

しかし………、

 

「だが、そいつはかなり難しくなるぞ。この世界じゃ、ある程度知ってる仲でも同盟に漕ぎ着くまで時間がかかったんだ。互いに知らない、未知の存在とそう簡単に協力関係を結べるとは思えん」

 

「そうね。私もそう思うわ。それにこの世界だってまだ一枚岩とは言えないし、そんな中で次元を越えた世界間での同盟となれば、色々と拗れると思うのだけど?」

 

アザゼル先生に続き、アリスさんまでそう返した。

これまでに様々な外交を行ってきた二人からすれば、絵空事のように感じてしまうのだろう。

 

ヴァルスは頷いた。

 

「お二人の考えは最もでしょう。父上の意思を受け継いだとはいえ、私もそう簡単に事が進むとは思っておりません。ですが、二つの世界には共通するものがあるのです。それはあなた方もよくご存じかと思います」

 

二つの世界に共通するもの………?

 

皆が考え込んでいると、ヴァルスはボクに微笑みかけてきた。

ヴァルスの隣にいるヴィーカも同様に、答えはすぐそこにあるといった表情でこちらに優しく微笑みをみせている。

 

そして―――――。

 

 

「………ラズル、これ拭いたよ?」

 

「おう、サンキュー! ベルは優しい子だなぁ! お兄ちゃん、感動だぞ!」

 

「ん………ベル、優しい?」

 

 

キッチンでお皿を仲良く拭いているラズルとベル。

うん、本当に仲良いね、そっちの兄妹も!

あぁ、ラズルがベルの頭を撫でているのを見てるとボクもお兄ちゃんに撫でてもらいたいという欲求が………!

お兄ちゃんに撫でてもらえるという光景を想像しただけでボクは………ボクはぁぁぁぁぁぁぁぁ!

 

「美羽さん、帰ってきて! ブラコンの世界から帰ってきて! 変な顔になってるから!」

 

「ハッ………! ボクは何を………!」

 

レイナさんに言われて、正気に戻るボク!

ダメだ、やはりオニイチャンニウムが枯渇している………!

お兄ちゃんの精神世界であんなに抱き締めてもらったのに数日もたないとは!

どうしよう、お兄ちゃん………ボク、欲求不満です!

 

そんなことを考えていると、ボクの手をそっと握ってくる人がいた。

 

「ねぇね………サラじゃ、ダメ?」

 

ディルちゃんことサラちゃんが甘えるような声でそんなことを言ってきた!

そんな顔で、そんなこと言われたら………!

 

「サラちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」

 

思いっきりギュッとしたくなっちゃう!

というか、現在進行形でギュッとしてる!

だって、可愛いんだもん!

可愛いは正義!

 

「はぅ………」

 

照れて、小さく漏らすその声がこれまた………良い!

イモウトニウムがチャージされていくのを感じるよ!

 

そんなボクとサラちゃんのやり取りを見ていたヴィーカが勢いよく立ち上がった。

 

「見せつけてくれるわね………! いいわ、私も見せてあげる! ベルゥゥゥゥゥゥ! お姉ちゃんにスリスリさせてぇぇぇぇぇぇ!」

 

と、叫びながらキッチンから出てきたベルに突撃!

相変わらず反応の小さいベルを抱き締めて、眠たそうなその顔に頬をスリスリさせていく!

 

「んんんん! やっぱり、ベルの頬っぺたプニプニしてて気持ちいいわ!」

 

「………ヴィーカ、苦しい」

 

「もうちょっと! もうちょっとだけだから! お姉ちゃんにイモウトニウムをちょうだい! そうだわ、ベル! お姉ちゃんのこと、好きって言って! あの時みたいに!」

 

「………ヴィーカのこと………すーき?」

 

「またもや疑問系! だけど、そこが………良い! カハッ」

 

興奮のあまり吐血するヴィーカ。

 

やっぱりだ。

彼女達とは心から通じ合えると思っていた。

 

サラちゃんを抱き締めるボクと、ベルを抱き締めるヴィーカの目が合う。

そして、ボク達は強く頷き―――――あの言葉を発した。

 

「「この気持ち、まさしく愛だ!」」

 

『ただのシスコンでしょうがぁぁぁぁぁぁぁ!』

 

今度はオカ研全員からツッコミをいただいた。

 

 

 

 

「ハハハハ。すいませんね、うちの姉妹が」

 

「いや、家のブラコンシスコン娘もあんな調子だったからな。お互い様だ」

 

互いに苦笑するヴァルスとアザゼル先生。

 

ごめんね、皆。

つい興奮しちゃいました………。

でもね?

妹って存在は最高に可愛いと思うんだ。

お兄ちゃんもこんな気持ちなんだと思うな。

 

二人は紅茶に口を着けると話を戻す。

 

「それで、そろそろお気づきになりましたかな?」

 

ヴァルスが皆を見渡してそう訊ねてくる。

皆ももう分かっているようで、その問いにはアーシアさんが答えた。

 

「イッセーさんです。イッセーさんは皆を、二つの世界を救った人ですから」

 

イリナさんが言う。

 

「ダーリンはアスト・アーデで勇者と呼ばれる存在だわ。そして、この世界でも英雄と評されている。もしかして………」

 

ヴァルスは笑みを浮かべて答えた。

 

「そう、彼は二つの世界にとっての勇者、英雄です。アスト・アーデではロスウォード、先の戦いではトライヘキサと父上。彼らを倒すために勇者殿は世界を繋いだ存在です。どちらの世界も彼に対する信頼は強いでしょう。その証拠に―――――」

 

「イッセーが消滅しかけた時、神も含めたあらゆる種族の者達があいつを救うために協力した。それは世界を救った勇者への信頼を示す。そうか、だからこそアセムはイッセーに拘っていたのか」

 

皆がただ一人を救うために手を取り合うなんて、そう簡単には出来ないことだ。

世界を救った勇者。

お兄ちゃんは皆にとっての勇者であり、失いたくない希望なんだと思う。

 

アセムもそんな存在だからこそ、お兄ちゃんがあの領域に至るまで待っていたんだろう。

お兄ちゃんならきっと、成せると信じて。

 

アリスさんが言う。

 

「彼はイッセーに二つの世界の繋ぎ手をさせるつもりなのね?」

 

「はい。勇者殿を中心とした異なる世界間の同盟。これが父上が望んだことなのです。来る絶望を乗り越えるために必要だと確信して。そして、そのためにアザゼル殿。あなたにこれを渡しておきましょう」

 

ヴァルスは懐から何かを取り出した。

それは何かのメモリーらしきものだった。

ヴァルスはそれをテーブルの上に置くと、滑らせるようにしてアザゼル先生の前に置く。

 

アザゼル先生はそれを受け取る。

 

「こいつは?」

 

「その中には父上の研究成果が入っています。―――――次元の渦。次元に生じる強烈な歪み。あれは時として二つの世界を結びつける働きをします。そして、そのメモリーに入っているのは次元の渦の安定方法。二つの世界を安定して繋ぐ道を作る方法が記されているのです」

 

「―――――ッ!」

 

中身を聞いたアザゼル先生は早速、魔法陣を展開して中のデータを探り始める。

アザゼル先生の手元には幾つもの文字や数字、術式が並べられていて、少し見ただけでは理解できない程の情報の数々が並べられている。

そんな情報をアザゼル先生は無言のまま読み進めていき、ある程度読んだところで深く息を吐いた。

 

「こいつはとんでもないな………。これをアセムは一人で解析したというのか」

 

「ええ。父上は神器にも大変な興味を持っていましたし、あなたとは気が合っていたのかもしれませんね」

 

「立場が違っていれば、奴とはもっと話してみたかったよ」

 

本当に残念だと付け足すアザゼル先生。

すると、何かを思い出したようにヴァルスに訊ねた。

 

「そういえば、奴が構築したあの世界。俺達がこちらに戻った時に『(ゲート)』が閉じてしまったんだが、あの世界はもう崩壊してしまったのか?」

 

そう、実は戦いが終わり、全軍が引き上げた後、あの世界を繋いでいた『門』が全て閉じてしまったんだ。

本当なら、少し時間を置いた後に各勢力の研究者チームを送り込んで調査をする予定だったのだけど………。

 

その問いにヴァルスは首を横に振った。

 

「いえ、あの世界はまだ存在していますよ。というよりは、一つ目の役割を終えたため、次の役割に向けて再構築されているところなのです」

 

「再構築?」

 

「あの世界、実はこの世界とアスト・アーデのちょうど中間地点に作られたものなのです。二つの世界が関わりを持つ際、いきなり互いの世界を訪れてしまうのは色々と問題が生じるでしょう。そこで、あの世界を二つの世界の会談の場として設けてしまおう………というのが父上の考えでして」

 

「………おまえの父親は本当に滅茶苦茶だな」

 

「フフフ、私もそう思います。ちなみに、あの世界の管理権限は父上が亡くなる前に勇者殿に無断で(・・・)譲渡してあるので、彼が目覚めたらお伝え願います」

 

「おいおい………。なんで、そんな肝心なことを無断でやってるんだよ………」

 

「父上の茶目っ気です」

 

「茶目っ気なのか、それは!?」

 

それって、お兄ちゃんの領土になるってことなのかな?

あの世界って、確か地球の三分の一の大きさがあったと思うんだけど………。

いや、その前に他の神話勢力に話をつけたりする必要があると思うけどね。

 

アザゼル先生もどう返せば良いのか分からないという雰囲気で、呆れた表情を浮かべていた。

 

ヴァルスが苦笑しながら言う。

 

「まぁ、二つの世界の交流の地として使っていただけたら幸いです。あ………そういえば、邪神が攻めてきた時用の戦闘フィールドとしての役目もあったりした、はず?」

 

「そこ、滅茶苦茶重要なところじゃねーか! なに、後から思い出したように付け足してんだよ!」

 

「いえ、復活した影響か記憶が曖昧で………」

 

「おまえ、死んでねーだろうが!」

 

「くっ、長旅の影響が今になって………!」

 

「そりゃ、不眠不休で日本一周旅行したらそうなるに決まってんだろ………。というか、おまえ、最初の緊張感薄れてないか? 段々、適当になっているような気がするのだが………」

 

「眠い………のでふ」

 

「語尾怪しくなってる!?」

 

うん、これもうダメなやつだ。

これ以上は真面目な話が出来ないパターンだよね。

 

ヴァルスが目が半分開いてない状態で言う。 

 

「と、とにかく、私共は伝えるべきことは伝えました。あとは………Zzzzzzzzz」

 

「寝たぞぉぉぉぉぉぉ!? こいつ、マジで寝やがった!」

 

やっぱり、もうダメだ!

ボクが言うのもなんだけど、この人達じゃシリアスが続かないよ!

寝たもん!

大事な話してたのに、敵地なのに、寝たもん!

鼻提灯出てるし!

 

ヴィーカが笑う。

 

「あらあら。まぁ、許してあげてね? 彼、お父様から色々と任されていたから、気を張っていたのよ」

 

「そうは見えないけど………。そういえば、ヴィーカ達は自分が生き返ること、知っていたの?」

 

これまでのやり取りや、あの戦いの時の彼女達を見ていると、どうにも彼女達は自身が生き返ること知らなかったように思える。

 

ヴィーカは小さく頷いた。

 

「そうね。ヴァルスは父上から聞いていたようだけど、私達三人は知らなかったわね。私達、そういうは顔に出てしまうから………。ヴァルスはその辺り、割り切って考えられるからね」

 

少し寂しそうな表情のヴィーカ。

やっぱり、彼女達にとってもこの状況は予想外だったようだ。

 

ラズルが言う。

 

「こうして親父殿が生き返らせてくれたのは、俺達にもまだ役目があるからだと思っている。これまでは敵として、おまえ達と関わってきたが、これからはおまえ達を裏で支えていくつもりだ」

 

「………ベルも、頑張るよ?」

 

ラズルに抱き抱えられているベルも、どこか覚悟を決めたような表情をしている。

彼らが敵としてではなく、味方として協力してくれるのなら、これ程心強いものはない。

 

アリスさんが問う。

 

「そっか。まぁ、あんた達がどう動くのかは分からないけれど信用しようじゃない。その言葉に嘘偽りがないのは、これまで矛を交えてきて分かっているから」

 

「フフフ、ありがと、王女様。そう言ってもらえると嬉しいわ♪」

 

そう微笑むとヴィーカは眠ったらヴァルスの肩を担いで立ち上がる。

 

「それじゃあ、私達はそろそろ失礼するわ」

 

「これから裏で支えてくれるらしいけど、具体的にはどうするつもりなの?」

 

ボクの問いにラズルが答える。

 

「とりあえず、世界中をかんこ………回って、復興の手伝いでもしようと思う」

 

「おい、今、観光って良いかけたよね? 観光するつもりだったの!?」

 

「い、いや………ついでに?」

 

「否定してよ! というか、ベルが持ってるそれ! 『グアム』って書いてるパンフレット! 思いっきり、バカンスするつもりだよね!?」

 

「グアムで復興作業があるかもしれないだろ!」

 

「ないよ! この間の戦いに関しては、そこ被害ゼロだよ!」

 

すると、ベルが小さく呟いた。

 

 

「………マカダミアナッツ、食べたい」

 

 

やはり、ベルは子供だった。

 

こうして、アセムの眷属の四人は兵藤家を去り、グアムへと旅立つのだが………。

兵藤家を出る直前にヴィーカがこんなことを言ってきた。

 

「あ、そうそう。これは個人的なことなんだけど、勇者君に伝言頼める?」

 

「伝言?」

 

「そうそう。実はね―――――」

 

 




イグニス「長かった。本当に長かった」

イッセー「ああ。ようやくここまでたどり着いたんだな」

イグニス「でも、まだよ。私達にはまだやるべきことがある! イッセー! 最後まで突き抜けるわよ!」

イッセー「おう! 最後までいくぜ、皆ぁぁぁぁぁぁ!」

イグニス「次回! 最終話『さらばおっぱい! また吸う日まで!』」

アザゼル「絶対に見てくれよな!」

木場「これはツッコミを入れた方が良いんでしょうか!? スルーしたいんですけど!?」

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