俺達が皆のところに向かい、校庭に着いた時だった。
敵の魔法使いは木場や朱乃さん達によってほぼ全滅させられていた。
もうすぐで片がつく。
そう思った時だった。
ドッガァァァアアアアアン!!!
俺達の前に何かが落ちてきた!
いきなりのことに部長達も驚いている。
立ち込める土煙が消え、そこにいたのは―――。
「・・・・チッ。俺もやきがまわったもんだ。この状況下で反旗かよ、ヴァーリ」
ダメージを負ったアザゼルさんだった。
「そうだよ、アザゼル」
白い光を放ちながら、俺達の前に白龍皇ヴァーリが舞い降りる。
その隣には知らないお姉さんがいた。
おお!
エッチな服だ!
胸元なんておっぱいがあんなに見える!
スリットも深く入っていて、太ももが!
エロい!
「なんだか、いやらしい視線を感じるわ。―――その子が赤龍帝なのですか、ヴァーリ?」
「ああ、そうだよ」
「あなたが言うほど私達の脅威になるとは思えませんが・・・・」
「カテレア。君はもっと相手を観察する目を養った方がいい。彼は普段はあんな感じで残念だが、戦闘の時はまるで別人だよ」
なんか、凄く失礼なことを言われたような気がする・・・・。
つーか、今のヴァーリの言葉に小猫ちゃんも頷いてるし・・・・
「・・・・イッセー先輩は戦ってる時はすごいですが、日常はダメダメです」
エロくてゴメンね!
アザゼルさんが服についた土を払いながらヴァーリに問う。
「いつからだ、ヴァーリ?」
「コカビエルを本部に連れ帰る途中で彼女達にオファーを受けたのさ。『アースガルズと戦ってみないか?』―――こんなことを言われたら自分の力を試してみたい俺には断れない」
「それで『
カオス・ブリゲード・・・・・?
なんだそりゃ?
疑問に思っているのは俺だけじゃなかった。
サーゼクスさんやセラフォルーさんも知らないようだ。
俺達の表情を見て、アザゼルさんが言う。
「そういえば、会談の席で言いかけてそれっきりだったな。実は最近、うちの副総督シェムハザがとある組織の存在を掴んでな。その組織は三大勢力の危険分子を集めているそうだ。・・・・そして、その組織がこいつらが所属する『禍の団』ってわけだ」
ということはヴァーリはテロリスト側だったということか・・・・
「そして、その組織のトップは『
「「「!!」」」
部長だけでなくサーゼクスさん達まで驚愕している。
「オーフィス・・・・そうか、彼が動いたのか・・・」
サーゼクスさんが険しい表情でそう呟く。
オーフィスって誰?
俺は全く知らん。
ウロボロなんたらドラゴンってそんなに凄い存在なのか?
『オーフィスか。懐かしい名だ』
知ってるのか、ドライグ?
『当然だ。やつは俺やアルビオンを越える存在。ドラゴン族最強の者、ドラゴンの神だ。そして、やつはこの世界で最強の存在だ』
なっ!?
俺はドライグの解説を聞いて絶句した。
そんなやつがテロリストのトップだってのか!
アザゼルさんが苦笑しながら言った。
「ったく、神と戦いたいねぇ。まぁ、おまえらしいと言えばお前らしいか」
すると、女性がアザゼルさんを嘲笑した
「今回の件は、我ら旧魔王派の一人、ヴァーリ・ルシファーが情報提供と下準備をしてくれました。彼の本質を理解しておきながら放置しておくなど、あなたらしくありませんね、アザゼル。……自分の首を自分で絞めたようなものです」
今、なんて言った・・・・?
旧魔王派とかは俺には分からない。
問題はその後だ。
ルシファー?
ヴァーリ・ルシファーだと?
ヴァーリは自身の胸に手を当て、俺に向かって言う。
「我が名はヴァーリ・ルシファー。死んだ先代の魔王ルシファーの孫である父と人間の母の間に生まれた混血児。ハーフなんだ」
ヴァーリの背中から光の翼と共に悪魔の翼が幾重にも生えだした。
マジかよ・・・・
今代の白龍皇が魔王の血族・・・・
「・・・・嘘よ・・・・そんな・・・・」
部長が驚愕の声を漏らす。
しかし、アザゼルさんは肯定した。
「事実だ。こいつは魔王の血を引きながら、人間の血をも引いているが故に白龍皇を宿すことが出来た冗談のような存在だ。こいつは過去現在未来において最強の白龍皇になるだろう」
最強の白龍皇・・・・
ったく、なんでよりによって俺の代の白龍皇がデタラメな存在なんだよ。
「規格外過ぎるだろ・・・・」
「それは君が言えることではないだろう、兵藤一誠。ただの人間から転生したにすぎない君は俺に匹敵する力を有している。考えようによっては君の方が規格外だ」
うーん。
こいつに言われるとなんか腹立つ。
『いや、実際相棒の強さは周囲からすれば、そう言われても仕方がないだろう』
同意してんじゃねぇよ、ドライグ。
「さあ、覚悟してもらいましょうか、アザゼル」
女性からとんでもないオーラが噴き出す。
なんだ?
いきなり力が上がったようだけど・・・・
「なるほど、オーフィスの『蛇』か。おまえら旧魔王派の連中はあいつにそれをもらったのか?」
「ええ。そうです、アザゼル。彼は無限の力を有するドラゴン。世界変革のため、少々力を借りました。おかげで私はあなた達、愚かな統率者を滅ぼすことができる」
「愚かな統率者か。まぁ、俺はそうかもな。いつもシェムハザの世話になりっぱなしの神器オタクだからな。だがよ、サーゼクスやミカエルは違うと思うぜ? 少なくともおまえらよりは遥かにマシさ」
「世迷い言を!」
アザゼルさんを睨み付ける女性。
すると、アザゼルさんは懐から何かを取り出した。
あれは・・・・短剣か?
「俺は神器マニアすぎてな。自作神器を創ったりしちまった。まぁ、そのほとんどがガラクタ、機能しないようなゴミだ。神器を作った『聖書の神』はすごい。俺が唯一、奴を尊敬するところだ。まぁ、禁手なんて神を滅ぼす力を残して死んでいったことに関しては詰めが甘いと思うが、それがあるから神器は面白い」
「安心なさい。新世界では神器なんてものは残さない。そんなものがなくとも世界は動きます。いずれはオーディンにも動いてもらい、世界を変動させなくてはなりません」
「ハッ! 横合いからオーディンに全部持ってかれるつもりかよ。まぁ、どのみちおまえはここでお仕舞いだ。俺から楽しみを奪うやつは――――消えてなくなれ」
アザゼルさんが短剣を逆手に構える。
「こいつは『
短剣が形を変えて、そこから光が噴き出した。
そして、アザゼルさんは力のある言葉を発した!
「
一瞬の閃光が辺りを包み込む。
光が止み、そこにいたのは黄金の全身鎧を身につけた者。
バッ!
背中から十二枚もの漆黒の翼を展開し、手に巨大な槍を作り出す!
「『
この波動はドラゴンのものか。
半端じゃねぇな。
これをあの人は作ったというのか・・・・
アザゼルさんの神器研究もここまでくるとオタクを通り越してるんじゃ・・・
「ハハハ! 流石だな、アザゼル!」
ヴァーリが笑う。
本当に強いやつにしか興味がないのかよ!
アザゼルさんがヴァーリの方へと顔を向ける。
「おまえの相手をしてやりたいところだが・・・・。今日は赤龍帝と仲良くしてな」
「フッ、今日は最初からそのつもりさ」
不敵に笑いながらヴァーリは俺を見てきやがった!
こんなやつとなんて仲良くしたくないわ!
もっとまともな奴を連れてこい!
それか可愛い女の子なら尚良し!
「さっ、来いよ」
アザゼルさんが女性に手招きをする。
「なめるなッ!」
女性が特大のオーラを纏ってアザゼルさんに突っ込む。
しかし―――
ブシュ!!
女性の体から鮮血が噴き出す。
今の一瞬の交錯の間にアザゼルさんが槍で斬ったんだ。
かなり傷が深い。
「ただではやられません!」
女性の腕が触手のように伸びてアザゼルさんの左腕に巻き付く。
そして、体中に怪しげな紋様が浮かび上がる!
「あなたを滅ぼせるのならば今ここでこの身が滅んでも意義がありましょう!!」
「自爆か? だが―――」
バシュッ!
光の槍で左腕を切断しやがった!
おいおい、マジか!
傷口からは鮮血が迸り、切り落とした左腕は消滅する。
「取引としては安すぎる!」
驚く女性の頭部をアザゼルさんが放った光の槍が貫く!
女性の体は爆破することはなく、塵と化して空へと消えた。
消滅したのは悪魔にとって光が猛毒だからだろう。
「ま、せいぜい左腕一本がいいところだ」
アザゼルさんの鎧が解除され、その手元には紫色の宝玉。
「まだまだ、改良の余地があるな。もう少し俺に付き合ってもらうぜ、龍王ファーブニル」
と、言って宝玉に軽くキスをした。
これが堕天使総督の実力か・・・・
「さて、アザゼルの方は終わったようだ。俺達も戦おうか、兵藤一誠」
あー、アザゼルさんの戦いが凄かったから忘れてた。
まぁ、こいつもあの戦いに見入っていたみたいだけど。
「もし、俺が断ればどうするつもりなんだ?」
俺がそう尋ねるとヴァーリは手を顎に当てる
「そうだな・・・・君の家族を殺すと言ったらどうだろう? まずはそこにいる君の妹からとか」
ヴァーリの言葉に体をビクッとさせる美羽。
・・・・・こいつ、そう言えば俺が断れないと踏んでワザと言ったな。
だが、断れば何の躊躇もなく実行に移すだろう。
「・・・・分かった。戦ってやるよ、ヴァーリ」
俺が一歩前に踏み出すと、制服の袖を掴まれた。
美羽だ。
凄く不安そうな顔をしている。
「大丈夫だよ、美羽」
「・・・・でも」
あらら・・・泣きそうになってるよ。
俺は美羽を抱き締める。
「心配すんな。俺は絶対に負けねぇよ。だから、俺を信じて待っててくれ」
「・・・・・」
「それとも俺のこと、信用できないか?」
「そんなことない! いつも信じてるよ!」
「だったら、今回も信じてくれよ。おまえの兄貴は誰にも負けないってな」
「・・・無茶はしないでね」
「ああ、分かってる」
俺はそう言うと美羽に背を向け、ヴァーリの方へと歩を進める。
「いくぜ、ヴァーリ」
「待っていたよ、この時を。さぁ、俺を楽しませてくれ!」
一瞬の静寂。
そして、俺は強く言葉を発した!
「
『Welsh Dragon Balance Breaker!!!!』
俺から莫大な赤いオーラが発せられ、この身に赤い龍の鎧を纏う!
「悪いが勝たせてもらうぜ! 妹が待ってるんでな!」
その瞬間、赤と白は激突した。
▽
「オラァ!!」
俺は右手を突きだし気弾を放つ。
「ふん!」
ヴァーリはそれを右手を横に薙いで弾き飛ばした。
今の攻撃程度ならヴァーリレベルが相手だと牽制にしかならないか。
ヴァーリも仕返しとばかりに無数の魔力弾を放って攻撃してくる。
一発一発が凶悪な威力を持ってる。
ここは避けた方が良さそうだ。
それにしてもなんて魔力量だ………。
流石は魔王の一族だけはあるか。
『相棒、やつの能力は覚えているな?』
触れたものの力を半減して、それを自らの力にするだったな。
『そうだ。やつに触れられれば、こちらの力は即座に半減される』
本当に厄介な能力だな。
かと言って、このまま砲撃戦ばかりしても埒が明かない。
ドライグ、突っ込むぞ!
『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!』
倍増により力が一気に上昇する!
俺は向かい来るヴァーリに小細工をすることなく、真正面から殴りかかる。
「格闘戦か! 面白い!」
「面白がってんじゃねぇ!」
始まるヴァーリと俺の壮絶な殴り合い。
俺がヴァーリの顔面を殴れば、ヴァーリは俺の腹に蹴りを入れる。
衝突するたびに互いの鎧が砕ける!
『Divide!』
ヴァーリからその音声が流れたと同時に俺の力が弱まった。
こいつが半減の力か!
『Boost!』
即座に倍加して、自身の力を元に戻す。
だけど、ヴァーリの力は俺から奪った力が加算されているからさっきよりも強くなってる。
こいつは赤龍帝の倍加能力だけで戦うのは骨が折れるな。
俺は錬環勁気功を発動。
赤龍帝の倍加に錬環勁気功による身体強化の上乗せだ。
「倍加による力の上昇が先程よりも上がってる・・・・? 何をした?」
「俺とおまえは敵だぜ? 教えるわけがねぇだろ」
「フッ、それもそうだな」
赤と白のオーラを纏って再びぶつかり合う俺とヴァーリ。
拳と拳、蹴りと蹴り。
時には砲撃戦による攻防。
お互いの技が衝突するたびに生まれる衝撃波が周囲に被害を及ぼしている。
「ハハハ! 良いぞ、兵藤一誠! まさか、ここまでとはな!」
こいつ、結構ダメージを受けているはずなのに笑ってやがる!
「随分楽しんでいるようだな!」
「それはそうだろう! 宿命のライバルが自分と互角の力を持っている! これほど嬉しいことはない!」
「そうかよ!」
このバトルマニアめ!
「うおおおおおお!!」
「ハアアアアアア!!」
本気の拳が互いの顔面を捉える!
俺とヴァーリの兜が壊れた!
ぐっ・・・・・!
今の一撃、かなり効いた!
正直言って俺もかなりのダメージを受けている。
今のところ俺とヴァーリの実力は完全に互角。
このままいけば相討ちなんてこともあり得るぞ。
俺とヴァーリは一度、校庭に降りて体勢を立て直す。
両者共にかなり息が荒い。
口からは血を流し、鎧も至るところが砕けている状態だ。
俺達は互いに息を整え構える。
すると―――
「兵藤一誠。君はまだ何かを隠しているだろう?」
▽
[木場 side]
イッセー君と白龍皇ヴァーリの戦いは激戦だった。
二人の実力は全くの互角。
堕天使総督アザゼルはイッセー君がヴァーリと互角であることに驚いていたけど、僕達からすればヴァーリがイッセー君と互角に戦えることに驚いていた。
イッセー君の力はすでに魔王クラス。
そんなイッセー君がここまで苦戦するところは僕達は初めて見た。
これが魔王クラスの全力の戦い。
ただ、拳が衝突するだけで校庭に大きなクレーターを作り、周囲に被害を及ぼす。
「ねぇ、サーゼクスちゃん。あの赤龍帝君は本当に下級悪魔なの?」
「セラフォルー、君の言いたいことは分かる。彼はもう魔王クラスの実力者だ」
サーゼクス様もセラフォルー様もこの様子だ。
二人の戦いは平行線を辿り、このまま相討ちになるとも考えられた。
だけど、その考えはヴァーリの驚愕の一言によって打ち砕かれた。
「兵藤一誠。君はまだ何かを隠しているだろう?」
その一言に僕達は騒然とする。
イッセー君が力を隠しているというのか・・・?
そんな、まさか・・・・。
今のイッセー君の力は全力ではないと言うのか?
だけど、イッセー君は息を荒くして、口からは血を流している。
とても、力を隠しているようには見えない。
全員の視線がイッセー君に集まる。
すると、イッセー君が口を開いた。
「別に隠してた訳じゃねぇんだ」
その言葉にこの場にいる全員が再び驚愕する。
「・・・・俺は悪魔に転生してから神器が不調になってな。しばらく禁手も使えないような状態だったんだ。コカビエルの時にやっと使えるようになったけどな。それで、禁手にかなりブランクができたから、ドライグに使用を控えるように言われてたんだ」
確かに、イッセー君は悪魔になってから神器が不調になっていた。
それは僕達だけでなく、サーゼクス様も知っていることだ。
「でも、使うしかないよな。・・・・・このままいけば俺たちは相討ちだ。それじゃあダメなんだ。俺は美羽に絶対に負けないって約束したからな。・・・・ドライグ、いけるな?」
『ああ、いつでも良いぞ相棒。ただし、無理はするなよ』
「分かってるさ。・・・・・いくぜ」
その瞬間、イッセー君から赤いオーラが発せられる!
彼を中心にして広範囲に波動が広がっていく!
「はあああああああああああああああッ!!!!!!」
イッセー君が拳を脇に構えて叫ぶ。
いったい、何をしようと言うんだ!?
赤い光がイッセー君を包み込み、学園の全てを赤く照らしていく。
そして、光が止みそこにいたのは―――
「
鎧を変化―――いや、進化させたイッセー君の姿だった。