美羽が来てから半年が経った。
桜の花がいたるところで咲き誇る四月。
本当にあっという間だった。
俺と美羽は無事に第一志望である、ここ駒王学園に入学することができた。
駒王学園は元々女子高だったけど、数年前に共学になったばかりだから比較的、女子の割合が多い。
実は俺の志望動機はここにあったりもする。
女の子に囲まれての学校生活!
男子の憧れってもんだ!
「おーい、イッセー。ここにいたのか」
「お、美羽ちゃんもいたのか。なんで、イッセーにだけこんな可愛い妹ができるんだ。俺達と同じスケベ男子なのに………」
今、俺達のところに来たのは俺の昔からの悪友。
ハゲの方が松田で眼鏡をかけているのは元浜だ。
こいつらは俺同様にスケベなことで有名で女子からは嫌われがちだけど、基本的には仲間思いの良いやつだ。
「妹ができるのにスケベは関係ないだろ」
元浜の発言に反論する俺。
うん、間違ったことは言ってないはずだ。
確かに可愛い妹であるが、そこにスケベは関係ない。
だけど、こいつらはいきなりキレやがった。
「そんなこと分かっとるわ! 羨ましいんだよ!」
「それにおまえ、去年の夏休み明けたとき、スゲー体鍛えてただろ! しかも身長も一気に伸ばしてよ! あの時から、女子のおまえへの反応が変わったよな!」
「そうだ! 俺達三人のモテない同盟は!? 俺達と同じくらいスケベなおまえだけモテるなんて絶対おかしい!」
そう言って同時に殴りかかって来やがった!
仕方ねぇだろ、鍛えないと生きられなかったんだからよ!
それに身長も三年分伸びたんだよ!
まぁ、こいつらにそんなことは言えるはずもないけど。
とりあえず、俺はこいつらの拳を掌で受け流す。
「「ゴフッ!」」
あ、上手い具合に松田と元浜が相討ちになったな。
鼻を抑えて蹲る二人に美羽が声をかける。
「大丈夫? 松田君、元浜君」
「美羽、こいつらなら大丈夫だ。心配しなくていいぞ」
俺が言うも、美羽は二人の鼻血を拭いてあげている。
やっぱり美羽はやさしいな。
美羽の優しさ、というより美少女に手当されていることに感涙する悪友二人。
「くぅ~。美羽ちゃんの優しさが心にしみるぜ」
「裏切り者のイッセーとは違うな」
そこまで言うか、元浜よ!
別に裏切った訳じゃねぇよ!
………まぁ、こいつらより女子からの評価が高いのは事実だけど。
「三人ともそろそろ教室に行かないと入学早々遅刻するぞ?」
とりあえず、俺は三人を引き連れて教室に向かった。
▽
今日は少し長めのHRだけだったので授業はなく、昼で解散となった。
ちなみにだけど、俺と美羽は同じクラスだ。
正直、運が良かった。
半年経ったけど、美羽にはまだまだ不安なところがあるからな。
サポートが非常にしやすい。
付け足すなら松田と元浜も同じクラスだったりもする。
まぁ、二人は美羽とも仲が良いから色々と助けてくれるだろう。
これも運が良かったと言えるかもな。
………美羽に手を出したらお兄さん怒るけどね♪
さて、美羽と昼飯でも行くかな。
今日は母さんが寝坊したから弁当がないので、学食に行くことになってるんだけど………。
「あれ………美羽はどこだ?」
俺が教室を見渡すと人だかりが出来ていた。
何かあったのかと気になった俺は、人だかりに近づくと―――――美羽が男子に囲まれて質問をされまくっていた。
ふむ、美羽の美少女っぷりに早速、男子の注目の的になったわけだ。
ここは兄として助けてやらないとだ。
「おーい、美羽。昼飯に行こうぜ!」
「あ、お兄ちゃん! 皆、ゴメンね。お兄ちゃんが呼んでるから行ってくるよ」
「「「お兄ちゃん!?」」」
美羽の言葉にクラス中の声が一つになった。
すると、近くにいた女子生徒が俺に聞いてきた。
「え~と、兵藤君? 出席の時にも気になったんだけど、美羽さんとは双子なの?」
なるほどな。
事情を知らない人はそう思うか。
同じ苗字だし、HRが始まる前も仲良く話してたからな。
俺は苦笑しながら答えた。
「いや、双子じゃないよ。俺と美羽は義理の兄妹なんだ。色々あって、美羽は家の養子になったから血の繋がりはないんだ」
俺がそう言うと教室の時が止まった。
数秒後…………。
「「「えええええええ!!!」」」
再びクラス中の声が一つになった!
そこまで驚くことか!?
「羨ましいぞ、兵藤!」
「そうだ! 俺の妹と交換してくれ! あの生意気な妹と!」
クラスの男子が俺に言ってくる。
誰が交換なんかするか!
あと、おまえの妹とか知らん!
美羽の方を見ると美羽は女子に囲まれていた。
「いいなー。エロくても良いから、私もあんなカッコいいお兄ちゃんがほしい!」
「ねぇ、美羽さん。私のバカ兄と交換してよ!」
入学初日で何故に俺がエロいことを知ってる!?
けど、正直言うと女子の反応はうれしいです!
「「死ね!この裏切り者!」」
おっと、松田と元浜が殴りかかってきた。
まぁ、俺は受け流すんだけどね。
「え、えーと………あの………」
やばい、美羽が完全にフリーズしてる!
頭から湯気が出てるよ!
質問ラッシュに混乱してる!
俺は美羽の腕を掴むとすぐさま教室を飛び出した。
▽
美羽を連れて教室を出た後、
「入学早々、大変だな。大丈夫か?」
「う、うん。ありがとう。助かったよ………ねぇ、お兄ちゃん」
「どうした?」
「ここ、どこ?」
「え?」
美羽に言われて見渡すと全く知らない場所………森の中だった。
えっと………やたらと教室が賑やかになった上、俺達について来ようとしたクラスメイトがいたから、できるだけ校舎から離れたんだけど。
クラスメイトと話す機会を作るのは良いことだが、あの状況では美羽が余計に混乱しそうだったしね。
うん、それはともかくここはどこだ?
まさか、迷った?
自分が通う学校で迷子?
つーか、どんだけ広いんだよこの学園!
なんで敷地に森があるんだよ!?
いつか遭難者が出るぞ!(多分!)
とりあえず、地図でも探すか………。
こんだけ広いんだ、どっかにあるだろ。
いや、それより周囲の気を探って人を見つけた方が早いか?
そんなことを考えていると、美羽が俺の制服の袖を引っ張ってきた。
「ねぇ、お兄ちゃん。あそこに学生かな? 人がいるけど」
「どこに?」
「ほら、あそこの道を歩いてる、あの人だよ」
「でかした、美羽。 おーい、そこの人! ちょっと良いか?」
俺はその人、男子学生に大きな声で助けを呼ぶ。
すると、その男子は俺の声が聞こえたようで俺達のところに駆けつけてくれた。
「どうしたんだい? 何か困っているようだけど………」
金髪のやさしそうな男だった。
俺はその男子生徒に事情を説明する。
「いや、迷子になっちゃって。誰かいないかなと………」
「ハハハ………。まぁ、この学園は広いからね。毎年、必ず新入生の迷子がでるくらいだしね。とりあえず、校舎まで案内するよ」
爽やかな笑顔でそう答えてくれる。
つーか、毎年いるのかよ!?
なんか対策しろよ、駒王学園!
俺は男子生徒に礼を言う。
「すまん。助かったよ」
「ありがとうございます」
「そんなに堅くならなくてもいいよ。僕も新入生だしね」
「そうなのか? それにしてはやけにこの学園の地理に詳しいな」
「まぁね。僕の知り合いがこの学園に通っていてね。何度か来たことがあるんだよ。さっきもその人が所属している部活に顔を出して来たところなんだ」
「へぇ。そこに入るのか?」
「そうだよ。えっと…………」
「あ、悪い。自己紹介がまだだったな。俺は兵藤一誠。クラスは一年C組だ。それで、こいつは妹の兵藤美羽だ」
「兵藤美羽です。よろしくお願いします」
「僕は木場祐斗。一年B組だよ。これからよろしくね、兵藤君に兵藤さん。………あれ? 妹ってことは君達は双子なのかな?」
「いや、さっきも教室で聞かれたんだけど、俺達は義理の兄妹なんだ」
「なるほど、それで。さぁ、着いたよ」
木場と話しているうちに校舎に着いた。
いやーもう少しで学校で遭難するところだったぜ。
「ありがとな、木場。助かったよ。今度なんか奢らせてくれ」
「そんなに気にしなくてもいいよ、兵藤君。僕はこれから寄るところがあるから、また今度ね」
「おう。またな」
「ありがとうございました、木場さん」
俺達は木場に案内してもらい、ここで別れることになった。
木場の姿が完全に見えなくなったところで、俺は美羽に確認する。
「………気が付いたか?」
「うん。木場さん、人間じゃないよね。それに、この学園の中には何人か人間じゃない人がいるみたい」
「ああ。気配は上手く誤魔化してたけど明らかに人とは違う気配があった。ドライグ分かるか?」
俺はドライグに聞いてみることにした。
こっちの世界にも人外がいることは知っていたけど、実際に会ったことはなく、こっちの世界で会うのは今回が初めてだった。
ドライグなら何か知っているだろう。
『あれは悪魔だな』
「「悪魔?」」
俺と美羽はドライグに聞き返した。
『以前、話したことを覚えているか?』
ドライグに言われて俺は記憶を探った。
「確か、ドライグを封印した種族の一つだっけ?」
『そうだ。この世界には神話に語られる存在が実在している。悪魔もその一つで聖書に記される存在だ。かつて、神と天使、堕天使、悪魔、これら三者が大昔に戦争をしていたのは教えたな?』
「ああ。それで数を減らした三勢力は休戦したんだよな?」
『そうだ。その三勢力の内の一つが悪魔だ』
「悪魔って言うけど、木場さんってそんな悪そうな感じはしなかったよね? むしろ、優しい人だと思ったんだけど」
美羽の言うように木場から悪意なんて感じられなかったな。優しいやつだと俺も思う。
『まぁ、悪魔というのは一つの種族を指す言葉だからな。人間と同じように善人もいれば悪人もいるってことだ』
なるほどな、悪魔だからと言って必ずしも悪人ではないってことか。
木場が悪人でなくて良かったよ。種族は違ってもあいつとはこれから仲良くしていきたいしな。
俺がドライグの解説に安堵した時だった。
ぐぅぅぅぅぅぅぅ
美羽のお腹が盛大に鳴った。
美羽の顔を見ると耳まで真っ赤に染まっている。
「クスッ」
「笑うなんてひどいよ、お兄ちゃん!」
美羽はポカポカと俺を叩いて可愛く抗議してきた。
うん、やっぱり可愛いわ。
「ゴメンゴメン。俺も腹へったし、食堂行くか」
とりあえず、俺は美羽の頭を撫でて謝る。
こういうとき、頭を撫でてやると美羽は機嫌が良くなるんだ。
「うん!」
頭を撫でたことで美羽は機嫌を直してくれたみたいだ。
「早く行こうよ、お兄ちゃん!」
美羽は俺の腕を引っ張って走り出す。
そんなに腹減ってたのか?
「分かった分かった」
俺は美羽に引っ張られるまま食堂に向かった。
ちなみにだが美羽はこの後、定食を3つほど注文し全て完食した。
美羽の食べっぷりには食堂にいた全員が驚いたのは言うまでもない。
というより、俺も驚いていた。こんなことは初めてだ。
食堂のおばちゃんなんか旨そうに食べる美羽を見て、喜んでいたっけな。
▽
それから一年間、俺達は平和に学生生活を送ることができた。
勉強して、学校行事に参加して、クラスの皆と共に過ごして。
それに、木場とも仲良くやれている。
俺も美羽も非常に充実した一年だったと思う。
これで、プロローグは終わりです。
次回から本編に入ります!