ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝   作:ヴァルナル

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9話 黒猫

俺と部長はエレベーターで一階まで降りた後、外に出た。

 

 

「イッセー、小猫の気配は追えるかしら?」

 

「はい。今は森の奥に向かってるみたいです」

 

「森? ホテル周辺の森にあの子は行ったのね?」

 

「みたいですね。俺達も行きましょう」

 

「分かったわ」

 

 

ホテルから少し離れた森の中を俺と部長は走り抜く。

 

森の中はある程度は人の手が入っているようで部長も問題なく走れている。

 

森を進むこと数分。

 

俺は部長の手を引いて木の影に隠れる。

 

顔を覗かせると小猫ちゃんを視認できた。

 

 

小猫ちゃん以外の気配を感じる・・・・

 

誰だ?

 

 

小猫ちゃんもそれに気づいたのかその気配がした方へと視線を移す。

 

 

「久しぶりじゃない、白音。元気してた?」

 

聞き覚えのない声。

 

現れたのは黒い着物を身に包んだ女性。

 

頭部に猫耳・・・・ってことは、もしかして・・・・・

 

 

「黒歌姉さま・・・・!」

 

目を見開き、絞り出すような声を出す小猫ちゃん。

 

やっぱり、あの女性が小猫ちゃんのお姉さん・・・・

 

確かにどことなく似ているような気もする。

 

 

そういえばさっき、あの人は小猫ちゃんのことを『白音』って呼んでたな。

 

それが小猫ちゃんの本名・・・・?

 

 

それにしても美人だな。

 

おっぱいも部長や朱乃さんに負けないくらい大きいぞ!

 

小猫ちゃんも将来あんな感じになるのかな?

 

それは楽しみだぜ!

 

 

お姉さんの足元に黒い猫がすり寄る。

 

「会場に紛れ込ませたこの黒猫一匹でここまで来てくれるなんて、お姉ちゃん感動しちゃうにゃー」

 

なるほど。

 

小猫ちゃんはあの黒猫を追いかけてここまで来たのか。

 

「・・・・姉さま。どういうつもりですか?」

 

「そんな怖い顔しないでほしいにゃ。ちょっと野暮用なのよ。まぁ、悪魔さんのパーティーを見に来たって感じかにゃん♪」

 

手を猫みたいにしてウインクするお姉さん!

 

うん、可愛いぞ!

 

猫耳お姉さん、最高だな!

 

 

ギュゥ

 

 

イタタタ・・・・部長、頬を引張らないでくださいよ・・・・

 

 

すると、感じたことのある気配が現れる。

 

「ハハハハ、こいつ、もしかしてグレモリー眷属かい?」

 

そう言って姿を表したのは古代中国の鎧みたいなのを着た男。

 

会談の時にヴァーリを迎えに来た孫悟空の末裔、美候。

 

あいつがいるってことは小猫ちゃんのお姉さんもヴァーリの仲間ってところか。

 

 

ふいに美候の視線がこちらに向けられる。

 

「気配を消しても無駄無駄。俺っちや黒歌みたいに仙術知ってると、気の流れの少しの変化でだいたいわかるんだよねぃ」

 

あれ?

 

俺は完全に気を消していたから気付かれるはずがないんだけど・・・・

 

 

あ、部長か・・・・

 

 

はぁ・・・・

 

俺は渋々姿を現すことにした。

 

部長もそれに続く。

 

俺達を確認して小猫ちゃんは驚いていた。

 

「・・・・イッセー先輩、リアス部長」

 

「よう、この間ぶりだな。クソ猿さん。ヴァーリは元気かよ?」

 

「おいおい、赤龍帝もいたのかよ。おまえさんには気付かなかったぜぃ。ヴァーリのやつは元気にやってるよ。おまえさんとの再戦に燃えて今も修行してるはずだぜぃ」

 

うわー、その情報は聞きたくなかった。

 

ヴァーリのやつマジで燃えてそうだもん。

 

げんなりしている俺を見て美猴はケラケラ笑う。

 

「もしかしたら、ヴァーリが挑みにいくかもしんねぇけど、その時はよろしく頼むわ」

 

「・・・・出来れば来ないでほしいね。・・・まぁ、それは置いといて、なんでここにいるんだよ? テロか?」

 

俺が直球に聞いてみると、二人は軽く笑んだ。

 

「いんや、そういうのは俺っちらには降りてきてないねぃ。今日は俺も黒歌も非番なのさ。したら、黒歌が悪魔のパーティ会場を見学してくるって言いだしてねぃ。なかなか帰ってこないから、こうして迎えに来たわけ。OK?」

 

無駄に話してくれたけど、嘘はついていないみたいだ。

 

「美猴、この子が赤龍帝?」

 

小猫ちゃんのお姉さんが俺を指差して美猴に尋ねる。

 

「そうだぜぃ」

 

それを聞いて、お姉さんは目を丸くする。

 

「へぇ~。これがヴァーリを退けたスケベな現赤龍帝なのね」

 

お姉さんがマジマジと俺を見てくる。

 

 

スケベな現赤龍帝、か。

 

否定は出来んね。

 

『そこは否定しろ』

 

それは無理だぜ、ドライグ。

 

だって、事実だし。

 

 

 

美猴はあくびをしながら言う。

 

「黒歌~、帰ろうや。どうせ俺っちらはあのパーティに参加できないんだしよぅ」

 

「そうね。でも、白音はいただいて行くにゃん。あのとき連れていってあげられなかったしね♪」

 

「勝手に連れ帰ったらヴァーリが怒るかもだぜ?」

 

「この子にも私と同じ力が流れていると知れば、オーフィスもヴァーリも納得するでしょ?」

 

「そりゃそうかもしれんけどさ」

 

お姉さんが目を細めると、小猫ちゃんはそれを見て体をビクつかせる。

 

嫌がっている・・・・というよりは怖がっているようだ。

 

 

 

すると、部長が間に入る。

 

「この子は私の眷属よ。指一本でも触れさせないわ」

 

この行動を見て、美猴もお姉さんも笑う。

 

「あらあらあらあら、何を言っているのかにゃ?それは私の妹。上級悪魔様にはあげないわよ」

 

「それによぅ、俺っちと黒歌を相手には出来んでしょ? 今回はその娘もらえればソッコーで帰るからさ、それで良しとしようやな?」

 

 

 

「おいおい、ふざけたことぬかすなよ。ここには俺がいるんだぜ?」

 

俺は部長と小猫ちゃんの前に立つ。

 

「小猫ちゃんを連れていく? させるわけがねぇだろ」

 

ピリッ。

 

俺と美猴、小猫ちゃんのお姉さんが睨み合い、周囲の空気が変わる。

 

だけど、お姉さんは睨むのを止めてニッコリと笑う。

 

「めんどいから殺すにゃん♪」

 

その瞬間、妙な感覚が俺を襲う。

 

これは・・・・結界か?

 

「……黒歌、あなた、仙術、妖術、魔力だけじゃなく、空間を操る術まで覚えたのね?」

 

部長が苦虫を噛んだ表情で言う。

 

「時間を操る術までは覚えられないけどねん。空間はそこそこ覚えたわ。結界術の要領があれば割かし楽だったり。この森一帯の空間を結界で覆って外界から遮断したにゃん。だから、ここでド派手な事をしても外には漏れないし、外から悪魔が入ってくる事もない。あなた達は私達にここでころころ殺されてグッバイにゃ♪」

 

なるほど・・・・。

 

俺達を森ごと閉じ込めたってわけか。

 

援軍は来ないのは別に良いとして、問題は小猫ちゃんの目の前でお姉さんと戦うことになることか・・・・。

 

逃がそうにも結界の外に逃げられそうにはない。

 

俺が力を解放すれば結界を壊せるだろうけど、その時の余波で部長や小猫ちゃんが傷つくかもしれない。

 

さて、どうするかな・・・・。

 

 

俺が考えていた時だった。

 

空から声が聞こえてくる。

 

「リアス嬢と兵藤一誠がこの森に行ったと報告を受けて急いで来てみれば、結界で封じられるとはな・・・・」

 

「タンニーンのおっさん!」

 

良いタイミングで来てくれた!

 

どうやら、小猫ちゃんのお姉さんが結界を張る直前に入り込んだみたいだ!

 

「おっさん! 部長と小猫ちゃんを頼めるか? この二人の相手は俺がするから!」

 

俺がそう言うと部長と小猫ちゃんは驚いていた。

 

小猫ちゃんが俺の服の袖を掴む。

 

「・・・・ダメです! 姉さまの力は私が一番よく知っています。姉さまの力は最上級悪魔に匹敵するもの。いくらイッセー先輩でも幻術と仙術に長ける姉さまを捉えきれるとは思えません。姉さまだけでも勝つことは難しいのに、あの男の人も同時に相手にするなんて・・・・」

 

そう言う小猫ちゃんは泣きそうな顔をしていた。

 

自分のために誰かが傷つくのが嫌なのだろう。

 

俺は小猫ちゃんの頭を撫でて上げる。

 

「大丈夫。心配ないよ、小猫ちゃん。・・・・俺を信じてくれ。絶対に守るから。・・・・・部長、小猫ちゃんを連れておっさんのところへ」

 

「・・・・分かったわ。小猫・・・」

 

部長は何か言いたげだったけど、頷いて小猫ちゃんと共にタンニーンのおっさんの背に乗る。

 

 

 

「へぇ。私達を同時に相手にしようだなんて、言ってくれるじゃない。よっぽど自信があるのかしら?」

 

「いんや、黒歌。赤龍帝はヴァーリを倒してるんだぜぃ? 舐めてかかるとこっちがやられるって」

 

美猴は黒歌に注意を促すとどこからか棍を取り出す。

 

・・・・どっから出したんだろう?

 

まぁ、それは今はどうでもいいか。

 

俺も籠手を展開してアスカロンを引き抜く。

 

「そりゃ龍殺しの聖剣かい? ドラゴンが龍殺したぁシャレてるねぃ」

 

「やっぱりそう思う?」

 

俺と美猴は軽口を叩きながら笑う。

 

そして―――

 

 

 

ギィン!

 

 

互いの剣と棍が衝突し、火花を散らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そら!」

 

「おっと!」

 

俺と美猴の互いの武器が衝突し次々に火花を散らしていく。

 

何合か打ち合っているけど今のところはこれといったダメージを受けてもないし、与えてもいない。

 

「へぇ、神器無しでも強いじゃねぇの。流石はヴァーリを倒すことはあるか!」

 

そう言いながら美猴は棍で殴りかかってくる。

 

俺はそれをアスカロンで受け止める。

 

「そりゃあ、鍛えてるからな!」

 

 

すると、周囲に黒い霧が発生していた。

 

濃いっていうほどじゃない。

 

前方が確認できるからな。

 

ただ、不気味な雰囲気を持っていた。

 

ふと、横を見ると黒歌の体から発せられている。

 

 

なんだこれ?

 

 

「ありゃりゃ? この霧は悪魔や妖怪になら効く毒霧なんだけど・・・・・。赤龍帝には効かないのかしら? ドラゴンだから?」

 

今、サラリとえげつないこと言ったな。

 

これ毒霧かよ!

 

まぁ、俺には効かないみたいだけどさ。

 

部長と小猫ちゃんに退避してもらっといて正解だったな。

 

 

「毒霧が効かないのなら撃っちゃうにゃん♪」

 

お姉さんから魔力の弾らしきものが放たれる。

 

生身でくらうのはマズそうなので、俺はアスカロンを振るい魔力弾を真っ二つに斬る。

 

素の隙に美猴が俺に攻撃を仕掛けてくる。

 

 

「伸びろ!如意棒ッ!」

 

うおっ!?

 

美猴の棍が伸びた!?

 

「便利だなそれ!」

 

「だろ? ほしいかい? まぁ、やらないけどねぃ」

 

「いや、別にほしいとは言ってないけど」

 

それにアザゼル先生あたりに頼めば作ってくれそうだし・・・

 

 

とりあえず、俺は次々と放たれる美猴と黒歌の攻撃を捌きながらアスカロンによる斬撃と気弾による攻撃を繰り出す。

 

気弾が黒歌に命中・・・・したかのように見えたが、黒歌の姿が霧散する。

 

「良い一撃ね。でも、無駄よ。自分の分身くらい幻術で簡単に作れるわ」

 

黒歌の声が森に木霊する。

 

フッと霧の中に人影が次々と生まれ、その全てが黒歌!

 

幻術か!

 

 

いやー、それにしても美女がいっぱいいるってのは幻だとしても良い光景だな!

 

俺に棍を振り降ろしてくるこのクソ猿も美女だったら最高なのによ!

 

「ねぇ、美猴。なんか喜ばれてるような気がするんだけど・・・・」

 

「俺っちに聞くな! つーか、なんで赤龍帝は俺っちを残念そうな目で見てくる!?」

 

そりゃ、男となんざ戯れたくないわ!

 

小猫ちゃんのお姉さんと代われ!

 

 

ギィィンッ!

 

 

振り降ろされた棍をアスカロンで弾き、一旦距離を取る。

 

アスカロンを構えて、二人と視線を合わせる。

 

すると、美猴が尋ねてきた。

 

「なぁ、赤龍帝。鎧は使わないのかい? さっきから全然本気を出してないじゃねぇの」

 

「まぁな。今回はアスカロンを使う良い機会だったんだよ。おかげで大分慣れてきたけどな」

 

「そいつぁ良かった。それで? いつまで続けるよ?」

 

「出来れば、おまえ達にはこのまま帰ってほしいところだよ。小猫ちゃんの前でお姉さんを倒すのも気が引けるしな」

 

「だってよ。言われてるぜ、黒歌」

 

美猴が尋ねると黒歌は目を細めて俺目掛けて殺気を放ってくる。

 

「へぇ、ずいぶん舐めたこと言ってくれるじゃない。私に帰ってほしいなら白音を渡しなさい。あの子は私の妹よ」

 

「それは無理だ。小猫ちゃんは俺達の大切な仲間だ。渡すわけにはいかないな。・・・・・それに今、小猫ちゃんは自身の力と向き合おうとしている。しばらくはそっとしておいてくれないか?」

 

「なら尚更、連れていかないわけにはいかないわね。白音の力は私が一番分かってる。私があの子の力を見てあげるのが一番だとは思わない?」

 

「それを小猫ちゃんが嫌がってもか?」

 

「それがあの子のためよ」

 

互いの意見が平行線を辿る。

 

これは何がなんでも小猫ちゃんを連れていくつもりだな・・・・。

 

仕方がない。

 

お姉さんには悪いけど、ここは強引にでもお引き取り願うか・・・・。

 

まぁ、強引と言っても傷つける気はないけどね。

 

俺はアスカロンを籠手に収納する。

 

 

 

禁手化(バランス・ブレイク)ッ!!」

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!!!』

 

 

鎧を纏った俺の体から、莫大なオーラが発せられる!

 

 

禁手の余波で、地面が揺れて森がざわめく。

 

そして、周囲を覆っていた結界に亀裂が入り、崩れ去る。

 

 

「結界が・・・・っ!?」

 

「今代の二天龍は両方化け物だねぃ」

 

結界が崩れたことに驚愕の表情を浮かべる黒歌と美猴。

 

 

その時、美猴の後ろの空間に裂け目が生まれた。

 

なんだ?

 

俺が疑問に思っていると裂け目から一人の若い男が現れた。

 

背広を着て、手には極大のオーラを放つ剣が握られている。

 

あの剣は・・・・聖剣か?

 

「そこまでです、美猴、黒歌。悪魔が気づきましたよ」

 

眼鏡をした男性はそう言う。

 

口振りからするに二人の仲間か?

 

「おまえ、ヴァーリの付き添いじゃなかったかい?」

 

「黒歌が遅いのでね、見に来たのですよ。そうしたら美猴までいる。まったく、何をしているのやら」

 

ため息をつく男性。

 

「兵藤一誠、そいつに近づくな! 手に持っているものが厄介だぞ!」

 

タンニーンのおっさんが俺にそう叫ぶ。

 

「聖王剣コールブランド。またの名をカリバーン。地上最強の聖剣と呼ばれるコールブランドが白龍皇のもとにあるとは・・・・」

 

マジか。

 

あれが最強の聖剣・・・・・

 

ゼノヴィアのデュランダルよりも強いんだろうか・・・・?

 

「そっちの鞘に収めている方も聖剣だな?」

 

「これは最近見つけ出した最後のエクスカリバーにして、七本中最強のエクスカリバー。『支配の聖剣(エクスカリバー・ルーラー)』ですよ」

 

おいおい、それって行方不明になってるっていうやつじゃ・・・・・。

 

「そんなに話して平気なの?」

 

黒歌の言葉に男性は頷く。

 

「ええ、実は私もそちらのお仲間さんに大変興味がありましてね。赤龍帝殿、聖魔剣の使い手さんと聖剣デュランダルの使い手さんによろしく言っておいてくださいますか?いつかお互い一剣士として相まみえたい―――と」

 

大胆不敵というか。

 

あの二人がこの話を聞いたらどう思うだろうか。

 

「さて、逃げ帰りましょうか」

 

男性が手に持つ聖剣で空を斬ると空間の裂け目が更に広がり、人が数人潜れるほどの大きさになる。

 

男性と美猴が先に潜り、最後に残った黒歌もそれにつづこうとする。

 

それを俺は呼び止める。

 

「なぁ、小猫ちゃんのお姉さん」

 

「なによ?」

 

「・・・・あんた、本当に力に呑まれて主を殺したのか?」

 

俺がそう尋ねると黒歌は軽く笑みを浮かべた。

 

 

 

「さぁ、どうだったかしら」

 

 

 

それだけ言い残すと黒歌は空間の裂け目を潜り、この場を去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

それから五分後。

 

騒ぎを嗅ぎ付けた悪魔の皆さんに俺達は保護された。

 

そして、魔王主催のパーティーは『禍の団(カオス・ブリゲード)』の襲来により急遽中止となった。

 

 


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