それ以外は変えていません。
それでは第1章2話目をどうぞ!
「おい、イッセー。なんで朝っぱらからうなだれているんだ?」
どうも、イッセーです。
松田が言うとおり、俺は机に突っ伏しています。
理由はというと、昨日どっかで財布を無くしたんだ。
寝る前に気付いて、今日も朝早くから探したんだけど見つからなかったんだよね。
あの財布、去年の誕生日の時に美羽がプレゼントしてくれたやつですごく愛用してたんだけどな………。
あ、そうそう、昨日の堕天使のことは美羽と父さん、母さんの三人には話したよ。
心配させるのも正直どうかと思ったけど、ある程度情報を持っておく必要はあると思ったんだ。
ドライグによると神器を持っている本人だけじゃなく、その家族も殺されたケースもあるみたいだしな。
俺はうなだれながら松田に訊く。
「なぁ、松田。俺の財布知らないか?」
「いや、知らんが?」
だよなぁ。
仕方ない、帰りに交番に寄るか。
もしかしたら親切な人が届けてくれているかもしれない。
そうであってくれ。
頼むから。
三百円あげるから。
そんなことを考えていると教室が賑わいだ。
女子が騒いでる………というより、黄色い歓声が聞こえてきて、
「き、木場キュン!?」
「どうしたの!?」
机に突っ伏している俺からは見えてないけど、どうやら木場が来たようだ。
つーか、キュンって…………。
「えーと、兵藤君はいるかな?」
女子にそう訊ねる木場。
どうやら俺に用があるらしい。
あいつがこうして俺を訪ねてくるのは珍しいな。
「よう、木場。俺ならいるぞ」
俺が声をかけると木場は気付いたようで、俺のところに来た。
「どうしたんだ? 珍しいな」
「うん。実は僕が所属している部活の部長が君に用があるらしくてね。放課後、部室に来てほしいそうだよ」
「確か、木場が所属してるのってオカルト研究部だったよな? ということはリアス先輩が?」
「そうなんだ。なんでも君の財布を拾ったとかで」
「―――――ッ!」
木場の情報に俺は机から飛び起き、木場の肩を掴んだ。
「マジでか!?」
「う、うん。それで、財布を取りに来てほしいっていうのと、君に少し聞きたいことがあるとかで…………」
リアス先輩が俺に話?
俺ってリアス先輩と面識あったかな?
ドライグが言ってくる。
『大方、昨日の堕天使のことだろう』
あーなるほど。
ということは俺が財布を落としたのは公園か。
多分、俺が堕天使と戦ったことに気付いてるんだろうなぁ。
「了解。じゃあ、放課後に案内してくれ」
「分かったよ。じゃあ、放課後迎えに来るね」
そう言うと木場は帰って行った。
面倒なことになったな。
まぁ、財布は帰ってきそうだし良しとするか。
とりあえず、俺は放課後に木場が迎えに来るのを待つことにした。
▽
放課後。
教室で待っていると木場がやって来た。
「やぁ、兵藤君。迎えに来たよ」
木場ァ!
それは不味いだろう!
俺がそう思った瞬間、クラスにいた女子が沸いた。
「キタアァァァァァ!!!!」
「木場君×兵藤君!!」
「何言ってるのよ! ここは兵藤君×木場君よ!!」
「いやいや、ここは~」
どっちでもいいわ!
いや、やっぱりよくねぇ!
そもそも俺と木場はそんな関係じゃねぇし!
「木場ァ! さっさと行くぞ!」
「え? どうかしたのかい?」
「分からねぇのか!? この空間に俺たちが居続けることの危険性が!」
早くこの場から逃げないと腐女子どもの餌食になるぞ!
俺は木場の襟首を掴んでさっさと教室を出た。
手を掴むとあらぬ噂を立てられそうだしな…………。
▽
俺は木場に案内されて学園敷地内にある森を歩いている。
「オカルト研究部の部室って旧校舎だっけ?」
「そうだよ。ここを抜けたところにあるんだ」
しばらく歩くと白い壁の建物―――――旧校舎が見えてきた。
旧校舎に入った後もそのまま木場について行くと、とある部屋に辿り着く。
入口のドアには『オカルト研究部』と書かれたプレート。
「部長、連れてきました」
扉越しに木場が言うと中から声が聞こえた。
「入ってちょうだい」
おお、今のはリアス先輩の声じゃないか!
実はなんだかんだで、ここに来るのは楽しみにしてたんだよな。
なんて言ったってリアス先輩と言えば学園一の美女!
おまけにリアス先輩と一緒に二大お姉さまとして知られている姫島先輩や学園のマスコット的な存在の塔城小猫ちゃんも所属しているという、美女美少女揃いの部活!
皆、悪魔のようだけどそんなものは関係ない!
まさに夢のようだぜ!
その声を確認すると扉を開け、俺と木場は中に入った。
「兵藤君はここに座っておいてね」
木場にそう言われ俺はソファーに座る。
部屋の中を見渡すと至る所にろうそくが置かれ、壁や床、天井にまで様々な魔法陣が描かれていて、中々に怪しげな空間だ。
オカルト研究部を名乗るだけはある。
部室内を見渡していると、俺の前にティーカップが置かれた。
「どうぞ、お茶ですわ」
そう言って優しく微笑むのは姫島朱乃先輩だ。
黒髪のポニーテールが特徴的な大和撫子美少女!
やっぱり美人だし、なにより巨乳………いや、爆乳!
揺れるおっぱいについ目がいってしまうぜ!
「ありがとうございます」
俺はお礼を言ってカップに口をつける。
「このお茶、すごく美味しいですよ、姫島先輩」
「あらあら、お口に合って何よりですわ」
「あれ? そういえばリアス先輩は?」
肝心のリアス先輩がいない。
気配は感じるけど…………。
木場は壁にもたれかかっている。
姫島先輩は俺の目の前。
塔城小猫ちゃんは俺の隣で羊羹を食べている………あ、目が合った。
「………あげませんよ」
「………とらないよ」
うーん、物静かな娘だな。
「部長は今、シャワーを浴びてますわ」
「シャワー? あ、さっきから聞こえるこの音ってシャワーの」
…………ということは、今リアス先輩は全裸!
極上の女体がすぐそこに!
くはぁ~、覗きたい!
今すぐにでも覗きたい!
そんなことするわけにもいかないので妄想の中で楽しもうとした時―――――バスタオルを巻いたリアス先輩が出てきた!
しかも、俺の目の前で着替えだしたよ!
マジですか!
良いんですか、リアス先輩!?
俺、思いっきり見ちゃってますけど!?
よし、とりあえず俺がいまするべきことは、この光景の脳内保存だ!
ちなみに、木場は見ないように後ろを向いていた。
「………先輩、目つきがいやらしいです」
小猫ちゃんが睨んでくる!
ゴメンなさい!
でもね、リアス先輩みたいな美少女の生着替えだもの、しょうがないと思うんだ!
「呼び出してしまって、ごめんなさいね。はじめまして。私の名前はリアス・グレモリー。兵藤一誠君、これってあなたの財布よね?」
「あ、こちらこそはじめまして。2年の兵藤一誠です。いやぁ、本当に助かりました。滅茶苦茶探してたもんで………。本当にありがとうございます」
「いいのよ。それでね、祐斗から伝わっていると思うのだけど………」
「そういえば、俺に話があるんですよね?」
「そうなの。…………単刀直入に聞くわ。あなた、昨日の夕方に堕天使と戦ったでしょう?」
やっぱり、来たかこの話題。
正直に答えるか、はぐらかすか………。
俺は一拍置いた後、聞き返す。
「なんで、そう思うんですか?」
「そうね。まずは私達のことを言っておく必要があるわね。実は………私達は全員、悪魔なのよ」
リアス先輩はそう言うと―――――背中から翼を広げた。
黒い蝙蝠のような翼。
それはリアス先輩だけじゃない。
木場も姫島先輩も隣にいる小猫ちゃんもだ。
リアス先輩が言う。
「私の知り合いに物の記憶を見ることができる人がいるのだけど、その人に見てもらったのよ。ごめんなさいね。プライバシーの侵害とも思ったのだけど、悪魔の仕事上仕方がなかったのよ」
「いえ、それはいいんですけど………」
物の記憶を見る、か。
そうなると、しらばっくれるのは無理か。
リアス先輩は真剣な表情で続ける。
「それであなたが堕天使と交戦しているのが分かったの。………兵藤一誠君。正直に答えてくれないかしら? 昨日のことを」
これは本当に正直に話すしかなさそうだ。
現場に落ちていた俺の財布。
しかも、物の記憶を探る能力とやらで、財布の記憶を見られている。
どうあがいても、俺が無関係と言い張るのは無理だ。
俺は小さくため息をついて、昨日のことを話すことにした。
「リアス先輩の言うとおりです。………俺は昨日の夕方、堕天使に襲われて戦いました」
「そう。堕天使の狙いは分かるかしら?」
「俺が神器を持ってるから殺すって言ってましたよ。よく分からないけど計画の邪魔になるとかで」
「っ! あなた神器を持っているのね?」
「ええ、まぁ」
「見せてもらうことはできないかしら?」
見せろっていわれてもなぁ………。
ドライグはどう思う?
『まぁ、問題ないだろう。襲われても相棒なら切り抜けられるだろうしな』
それもそうだな。
分かった。
「来い、赤龍帝の籠手」
俺は左腕に籠手を展開する。
これにはリアス先輩達も驚いていて、
「赤龍帝の籠手! 二天龍の一角、赤い竜を封印した十三種の神滅具の一つ…………。まさか、こんなに近くに所有者がいたなんて…………!」
木場達も出現した赤龍帝の籠手を見て、息を呑み、目を見開いていた。
この反応を見るに、赤龍帝の籠手ってやっぱりすごいんだな。
流石は十三種しかない神滅具ってところなのか?
『当然だ。極めれば神や魔王をも超えることが可能なのだからな。まぁ、相棒は異世界の魔王を倒してしまったが…………』
でも、シリウスってこっちの世界だとどれくらい強いんだ?
『恐らくだが、こちらの魔王とほぼ同等………いや、それ以上かもしれん。実力というのは単純な力だけで推し量ることは出来ないから、正確な比較は出来んが。なにより、今の魔王の力を俺は知らん』
そういえば、大昔の戦争で四大魔王が全員死んだって言ってたな。
それで、今の魔王ってのは生き残った悪魔の中から選ばれたんだっけ?
そんな魔王達とシリウスは同レベル以上ってことね。
まぁ、そのあたりはまた今度にして、今は話を戻そう。
「そういうことで、俺が今代の赤龍帝なんですよ。堕天使には神器を見せてないんで気付かれていないはずですけど」
「堕天使相手に素の状態で戦ったというの!? あなた、何者なの………?」
「何者と言われましても………」
異世界で勇者って呼ばれてました、なんてこと言えるわけないしな。
今代の赤龍帝じゃダメですか?
どう答えるか頭を悩ませる俺にリアス先輩が言ってくる。
「ねぇ、あなた良かったら私の眷属になってみないかしら?」
突然、リアス先輩が俺に提案してきたんだけど………。
眷属になるってどういうことだ?
ドライグからもそんな話は聞いてないぞ。
「えっと、リアス先輩。それってどういうことですか?」
俺が尋ねると、リアス先輩は懐から赤いチェスの駒を取り出して説明してくれた。
「眷属になるというのはこのチェスの駒―――――
「それって、何かメリットはあるんですか? あと、デメリットも」
「もちろんあるわ。まずメリットは――――」
リアス先輩の説明をまとめるとこうだ。
まずメリットだが、悪魔になることで音声言語限定で世界中のどこでも俺の言葉が通じるようになる。また、身体能力が上がり夜が近づくにつれて五感が鋭敏化するとのこと。
そして魔力。頭の中で思い浮かべたイメージを現実に起こすことができるようになるらしい。こちらはその者の力量しだいだそうだ。
あとは寿命がかなり延びるらしい。なんでも、1万年生きるとか。
持て余しそうだな…………。
次にデメリットだ。
日光を含めた光や聖書・聖水・十字架などの聖なるモノに対するダメージがかなり増えること。神社や教会に行くだけで頭痛がするらしい。
あとは、出生率が極端に下がることくらいか。
後者はともかく、前者は結構大きいな。天使や堕天使の光をくらえば大ダメージらしいし。
まぁ、当たらなければいいんだけど。
「――――っていう感じかしらね。それで話を聞いてみてどうかしら?」
そうだな。メリットとデメリットは分かった。
だけど、俺はそれ以上に気になることがあった。
「質問いいですか?」
「ええ。なんでも聞いてちょうだい」
「仮に俺がリアス先輩の眷属になったとして、俺の家族の保護とかってしてもらえるんですか? 俺の籠手に宿るドラゴンに聞いたんですけど、神器を持っている本人だけじゃなく、その家族も殺されたケースがあるって。だから、そのあたりはどうなのかなと…………」
「それは当然行うわ。私は眷属のことを家族だと思ってるの。眷属の家族は私の家族。家族のことは絶対に守って見せるわ」
それを聞いて安心した。
確かに俺は異世界で修行をして強くなった。
だけど、家族を絶対に守り切れるかというと、そんな自信は俺にはない。
いくら強くなったとしても俺一人だとやっぱり限界はある。
異世界で戦ったときだってアリス達の助けがなかったらどうにもならない場面も多かったしな。
だから、俺は仲間がいることの大切さがよく分かる。
ドライグ、この件のことどう思う?
意見を聞きたい。
『後ろ盾を得るという意味ではそう悪い話ではないと俺は思う。そもそも、相棒はドラゴンの力を宿す以上、大きな力を引き寄せる運命にある。先日の堕天使も良い例だ。こちらの世界に帰還してからは平穏が続いてきたが、今後は何かしらの事件に巻き込まれることもあるだろう』
ドラゴンは力を引き寄せる。
強大な力はより強大な力を―――――。
それが赤龍帝たる俺の宿命。
もし、その宿命に父さん、母さん、そして美羽が巻き込まれてしまうなら………。
ドライグが言うように後ろ盾を得ることで、協力者を作るのは悪くない考えなのかもしれない。
『それに、グレモリーといえば悪魔の中でも情愛が深いことで有名だ。他の悪魔や種族に属するよりもいいのではないか?』
ドライグの意見を聞いているとリアス先輩が俺に言ってきた。
「ねぇ、兵藤君。イッセーって呼んでいいかしら?」
「いいですよ。友達からはそう呼ばれてますし、その方が気軽なんで」
「そう。じゃあ、イッセー。あのね、この誘いを無理に受ける必要は無いのよ。このことはその場ですぐに返事が出せるほど軽いことではないもの。上級悪魔の眷属になる以上、こちらの事情に付き合ってもらわなけらばならなくなる。あなたも戦いに赴く必要だって出てくるわ。………たった一度だけの人生なんだから、よく考えてみてほしいの。あ、言っておくけど眷属にならなかったからと言ってあなたの家族を保護しない、なんてことはないから安心していいわ。この町の住民を守ることは私の仕事ですもの」
リアス先輩は真直ぐな目で俺を見て言ってくれた。
その言葉に嘘はないと思う。
すべてが本心で、俺のことを本気で想って言ってくれていることが伝わってくる。
悪魔に転生する以上、悪魔の事情やルールに従わなければならなくなるのだろう。
リアス先輩の話だと戦いに駆り出されることもあるようだ。
でも、俺が戦うことで守れるのなら―――――。
それでも、俺は………。
「そうですね。お言葉に甘えて、もう少しよく考えてみます」
そう言うとリアス先輩は微笑んだ。
「ええ。分かったわ。よく考えてみて」
話が終わり、そろそろ帰ろうかと思った時だった。
リアス先輩が何か思いついたように言ってきた。
「そうだわ。ねぇ、イッセー。あなた、オカルト研究部に入部してみない?」
「入部? 俺が、オカルト研究部に、ですか?」
「そう、入部。せっかく知り合えたんですもの。悪魔とかそういうのは関係なしに、この学園に通う生徒として」
なるほど、確かにそれは良い考えなのかもしれない。
悪魔とか転生とか関係なしに、生徒として部活に参加する。
俺も時に部活に入っているわけでもないし、特に問題はない。
それに何より、美少女軍団と称されるオカルト研究部に入部できるとか幸運以外の何物でもない。
ただ、
「………気になっていたんですけど、この部活って何をしているんですか?」
「基本的にはUMAのような未確認生物について調べたりして、その調査結果を展示して報告するの。実際に河童のところに行って取材したり、ネッシーを調べに現地に行ったりとかもしているわ。暇な日はお茶やお菓子を楽しんでいるの」
河童に取材!?
ネッシー調べに現地見学!?
なにそれ。
スゲェ楽しそうなんですけど!
「そうですね。それじゃあ、せっかくのお誘いですし、オカルト研究部に入ろうと思います」
「じゃあ、この入部届にサインして今度持ってきてくれる?」
俺は手渡された入部届を鞄にしまった。
時計を見るともう午後の7時を過ぎてる。
そろそろ帰らないと母さんに怒られるな。
すると、俺の携帯が鳴った。
ゲッ、母さんだ………。
「も、もしもし………」
『イッセー! こんな時間まで何をしているの!?』
「ち、ちょっと学校で用事が………」
『学校? 学校にいるのね? 遅くなるんだったら連絡ぐらいしなさい』
「はい………。以後気を付けます………」
俺は電話を切ってポケットに携帯をしまい、苦笑しながら言った。
「すいません、母さんが怒ってるんでそろそろ帰ります………」
「そうね、もうこんな時間だもの。私達も解散しましょう。………イッセー、眷属になる話、よく考えて結論を出すのよ?」
「はい」
リアス先輩に念を押され、俺はそれだけ返すと部室を後にした。