ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝   作:ヴァルナル

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7話 物知りなドラゴンです!!

翌日。

 

俺の家にはオカ研メンバー、アザゼル先生、そしてヴァーリチームの面々が集まっていた。

 

まさか、ヴァーリとその仲間が家に来るなんてな。

思っても見なかったぜ。

 

ヴァーリ達のことはサーゼクスさんにも伝わっているらしく、このことは了承しているとのことだ。

まぁ、俺達は旧魔王派の時と今回、ヴァーリに二度助けられているからな。

そのあたりもあるのだろう。

 

それに皆もヴァーリが他の旧魔王派とは違うことは一応認識しているようだ。

部長も渋々とはいえ、家に来ることを了承したしね。

 

「えっと、ヴァーリ君だったかしら? お飲み物は何が良い?」

 

と、母さんがヴァーリに声をかけた。

 

母さんもこいつがテロリストの一味だと知って驚いていたけど、俺達が何度か助けられたことを話したとたん、フレンドリーになった。

 

「ああ、すまない。ではコーヒーをいただこう」

 

「じゃあ、俺っちはコーラで」

 

「私は紅茶をいただけますか?」

 

「えーと、私は普通にお茶でいいかな~」

 

うーん、緊張感ねぇな、こいつら。

まぁ、そんなものを期待するのは無駄だと思うけど。

黒歌と美猴なんて、ソファでゴロゴロしてるしな!

 

オーディンの爺さんの護衛の件だけど、三大勢力が協力することになった。

当然、爺さんの会談を成就させるためなんだけど・・・・・

援軍をこちらに送ることは難しいらしい。

どの勢力も英雄派から神器所有者を送り込まれている状況でそちらにも人員を回さなけらばならないとのことだ。

つまり、この町のメンバーで守れということ。

 

ったく、簡単に言ってくれるよなお偉いさんは。

 

相手はロキとヘル、そしてフェンリル。

こいつらを俺達だけで退けろとか無茶にも程がある。

 

フェンリルに関しては封じられる前の二天龍に匹敵するほどの力を持っているという。

先生やタンニーンのおっさんでも単独では勝てない。

 

俺やヴァーリもまだ二天龍の力を全て引き出せていないので、フェンリルには勝てない。

 

ヴァーリ曰く、『覇龍(ジャガーノート・ドライブ)』ならば何とかなるらしいが、フェンリルを倒せたとしても残る神二人まで保たないそうだ。

 

俺は・・・・・・使いたくはない。

暴走し仲間を傷つける可能性がある以上、使いたくない。

また、歴代の奴等が何か言ってきたら無視してやろうか。

 

最悪の場合はイグニスを使うさ。

例え左腕まで使えなくなったとしてもそれで守れるのなら安いもんだ。

 

とりあえず、今は犠牲を出さないようにするための作戦会議をしている。

 

 

「まず、ヴァーリ。俺達に協力する理由を話してもらう。こうなった以上、昨日みたいなのは無しだ」

 

ホワイトボードの前に立った先生が疑問をヴァーリにぶつける。

まぁ、それは気になるところだよな。

 

ヴァーリは不敵に笑むと口を開く。

 

「奴等と戦ってみたいだけだ。美猴達も了承済み。この理由では不服か?」

 

うん、そんなところだろうとは思ってたよ。

戦闘マニアだもんな。

 

先生は嘆息する。

 

「まぁ、不服と言えば不服だな。だが、こちらとしては戦力として欲しいのは確かだ」

 

「だろうな。そちらは援軍の見込みがない上に、兵藤一誠も万全の状態ではない。今の戦力で一戦交えれば確実に犠牲者が出る。それはそちらとしては望むところではないだろう?」

 

「そりゃあな。・・・・・まぁ、サーゼクスも了承しているし、俺も協力してもらいたいと思っている」

 

「そうね。納得出来ないことが多いけれど、今はそんなことを言っている場合じゃないものね」

 

部長が先生に続く。

文句はあるようだけど、現状が現状だからな。

 

ソーナ会長も了承しているようだったし。

 

俺もヴァーリ達が味方として参戦してくれるなら心強いと思っている。

こいつらは戦力としては申し分ないほどの猛者の集まりだからな。

 

「まぁ、ヴァーリのことは置いておく。話をロキ対策の方に移行するぞ。やつらの対策はある者に訊く予定だ」

 

「ある者?」

 

先生が部長の言葉に頷く。

 

「そう、あいつらに詳しいのがいてな。そいつにご教授してもらうのさ」

 

「それは誰ですか?」

 

俺が尋ねる。

 

「五大龍王の一角、『終末の大龍(スリーピング・ドラゴン)』ミドガルズオルムだ」

 

――――!

 

ここで龍王が出てきますか!

その龍王がなんで関係してくるんだ?

 

「まぁ、順当だな。だが、やつが俺達の声に応えるのだろうか?」

 

ヴァーリの問いに先生が答える。

 

「二天龍、龍王―――ティアマット、ファーブニル、ヴリトラの力、タンニーンの力で龍門(ドラゴン・ゲート)を開く。そこからやつの意識を呼び寄せるのさ。これだけいれば奴も応えてくれるだろうよ」

 

へぇ。

そんな方法があるのか。

 

「もしかして、俺も・・・・・?」

 

匙がおそるおそる手を挙げる。

 

「心配するな。おまえには要素の一つとして来てもらうだけだ。大方のことは俺達に任せろ。とりあえず、俺はタンニーンと連絡をとる。イッセーはティアマットに連絡を入れておいてくれ」

 

「了解です」

 

「よし、それじゃあ俺はシェムハザと対策について話してくる。バラキエル、付いてきてくれ」

 

「了解した」

 

先生はそう言ってバラキエルさんと魔法陣で転移していった。

 

残されたのは俺達オカ研と生徒会。

そしてヴァーリチームの面々。

 

微妙な空気が部屋に流れる。

 

「赤龍帝!」

 

美猴が手を挙げる。

 

「なんだよ?」

 

「この下にある屋内プールに入っていいかい?」

 

「あ、私も入りたーい」

 

黒歌までそれに続きやがった。

 

こいつら・・・・・・・。

 

確認するけど、一応敵同士だからね、俺達。

おまえら自分達がテロリストの一味だってこと忘れてないよね?

 

「まぁ、いいんじゃね? ただし、変なことはするなよ? 家の中荒らしたりとか」

 

こいつらイタズラとか好きそうだもんなぁ。

 

俺がそう言うと美猴は頬をかきながら言う。

 

「そんなことしねぇよ。俺っちはただ泳ぎたいだけだぜぃ。ほら、水着もこのとおり」

 

と、美猴が海パンを袋の中から取り出す。

 

なんで今持ってんだよ!?

はなからプールで泳ぐ気だったのか!?

 

「はぁ・・・・・。分かったよ。この部屋を出て地下に降りればプールだ。テキトーに泳いでくれ」

 

「サンキュー!」

 

そのまま美猴はこの部屋を出ていってしまった。

 

「こ、これが最後のエクスカリバーなんですね! すごーい!」

 

「ええ。ヴァーリが独自の情報を得まして、私の家に伝わる伝承と照らし合わせた結果、見つかったのですよ」

 

声のする方を向けばイリナとアーサーがエクスカリバーについて話していた。

イリナって本当に誰とでも打ち解けるな。

 

横では木場とゼノヴィアが警戒しながらも二人の話を聞いていた。

 

剣士としてはやっぱり気になるんだろうな。

 

すると、アーサーは俺に視線を移して、声をかけてきた。

 

「赤龍帝」

 

「ん? どうした?」

 

「あなたも面白い剣を所有しているとヴァーリから聞きました。よろしければ見せてもらえないでしょうか?」

 

「あ、私も見たい! なんでも物凄い剣だって木場君とゼノヴィアから聞いたわ! この間は一瞬でよく見えなかったし」

 

イリナまでそんなことを言ってきた。

 

イグニスを見たいって言われてもなぁ。

 

「悪いな。あれはかなり危険なものでさ。俺でも制御しきれてないんだ。ここで出したら辺り一帯が灼熱地獄に変わっちまう」

 

ロキの時に出したけど、あれは場所が遥か上空だったのが幸いだった。

それに出した時間も一瞬だったしな。

 

それを聞いて二人は目を開いて驚いているようだった。

 

「ヴァーリを倒すほどの力を持つあなたが制御仕切れてないとは・・・・・。いやはや、とんでもないですね」

 

「まぁな。俺の右腕がこうなったのもアレを使ったからだし」

 

俺は右腕をアーサーに見せる。

そこにあるのは生々しい火傷の跡。

 

「なるほど・・・・・・・分かりました。本当ならあなたと剣を交えてみたかったのですが、そう言うことでは仕方がありませんね。またの機会にしましょう」

 

おおっ、分かってくれたか。

アーサーも戦闘が好きそうだけど、ヴァーリチームの中では一番まともかもしれない。

 

俺の視界にもう一組のやり取りが映った。

 

「・・・・・・」

 

「にゃん♪」

 

小猫ちゃんと黒歌か。

 

小猫ちゃんは警戒しながらお姉さんを睨み、黒歌の方は妖艶な笑みを浮かべている。

 

黒歌のやつ、何してんだよ?

 

俺は近づき、両者の間に入る。

 

「小猫ちゃんは連れていかせないぜ?」

 

俺は黒歌にいった。

まぁ、大丈夫だとは思うけど一応の釘はさしておこう。

 

すると、黒歌はイタズラ笑顔で俺をジロジロと見てきた。

 

なんだなんだ?

 

「むふふ。赤龍帝も結構凛々しい顔してるのよねぇ」

 

俺の頬を撫でながら上目使いで言ってくる黒歌。

 

うーん、可愛いな!

流石は小猫ちゃんのお姉さんだ!

 

つーか、前屈みになってるから黒歌の着物の間からおっぱいが!

良いおっぱいしてるな!

 

小猫ちゃんも将来、こういう感じになるのかな?

だったら、最高だな!

 

「ねねね、一つお願いがあるんだけど」

 

「なんだよ?」

 

「私と子供作ってみない?」

 

「・・・・・・・・・・・へ?」

 

こいつ、今、何て言ったよ・・・・・・・?

 

突然のことに困惑する俺。

 

黒歌は構わず続ける。

 

「私ね、ドラゴンの子が欲しいの。特別強いドラゴンの子。ヴァーリにも頼んだんだけど、断られちゃって。だったら、あんたしかいないし。二天龍だし、強いし、赤龍帝なら申し分ないにゃん。つまり―――」

 

「えーと、つまり・・・・・・?」

 

「あんたの遺伝子を提供してほしいにゃん」

 

・・・・・・・・・・・

 

なんか、ゼノヴィアみたいなこと言ってきやがったよ。

 

そんなに二天龍の遺伝子って魅力的なのか?

 

「にゃははは、今ならお買い得にゃん。妊娠するまでの関係でいいからどうかにゃ?」

 

エロい!

エロすぎるぜ、小猫ちゃんのお姉さん!

こんなお姉さんが相手なら断る理由もない!

 

ぜひお願いします!

と、俺が了承の返事を返そうとすると、小猫ちゃんが俺と黒歌の間に入った。

 

「・・・・・・・姉さまに先輩の・・・・・・・・・・・は渡しません」

 

何やら頬を赤くして呟く小猫ちゃん。

 

途中が全く聞き取れなかったけど、黒歌には通じたのか楽しそうに笑んだ。

 

「へぇ。あの白音がねぇ・・・・・」

 

黒歌はにんまり笑うと俺と小猫ちゃんに手を振って、ヴァーリの方へと行ってしまった。

 

あー、俺の初体験が・・・・・・

 

チャンスを逃した俺はガックリとなるのであった。

 

 

 

 

 

 

先生が帰ってきた後、俺と匙、ヴァーリは転移魔法陣で兵藤家からとある場所へと飛んだ。

 

なんでも例の龍王を呼び寄せるために特別に場所を用意したとか。

 

着いた場所は白い空間だった。

部屋自体には特にこれといって目立ったところは無い。

 

「先日以来だな、兵藤一誠」

 

「お、来たかイッセー。待っていたぞ」

 

声をかけてきたのは大きなドラゴンと長い青髪の美女。

 

「タンニーンのおっさんとティアじゃん。先に来てたんだな」

 

「ああ、おまえに連絡をもらった後に堕天使の総督殿のところに行ってな。そしたらここへ案内された。着いたのはつい数分前だよ」

 

と、ティアが解説してくれた。

 

おっさんの方はというと匙を見ていた。

 

「・・・・・そちらがヴリトラを宿す者か」

 

「ド、ド、ドラゴン・・・・・・龍王! 最上級悪魔の・・・・・・!」

 

おいおい、ビビりすぎだろ、匙よ。

体が震えてるぞ。

 

いや、緊張だけじゃなくて、どこか尊敬が混じってるような目だな。

 

俺は匙の肩に手を置く。

 

「緊張すんなって。おっさんは強面だけど、いいドラゴンだぞ? 厳しいけど優しいんだ」

 

「バ、バカ! 最上級悪魔のタンニーンさまだぞ! お、おっさんだなんて失礼だろ!」

 

「そうか?」

 

おっさんはおっさんだしなぁ。

修行中もずっとおっさんって呼んでたし。

 

俺に指を突きつけて匙が言う。

 

「最上級悪魔ってのはな、冥界でも選ばれた者しかなれない。冥界への貢献度、ゲームでの実績、能力、それら全てが最高ランクの評価をしてもらって初めて得られる、悪魔にとって最上級の位なんだよ」

 

と、匙が熱弁する。

 

へー、そこまですごいもんなのか。

 

いや、でも・・・・・・・

 

「でもよ、俺、サーゼクスさんに魔王になってみないかって言われたぞ?」

 

そう、三大勢力の会談の前、サーゼクスさんが家に泊まった時の話だ。

夕食の時と、寝る前にサーゼクスは俺に「魔王になってみないか」と言ってきた。

サーゼクスさんは割りと本気だったことを覚えているよ。

 

「・・・・・・・は?」

 

あ、匙が口を開けて固まった。

 

目の前で掌を振っても返事が返ってこない。

ただの屍のようだ。

 

そして数秒後。

 

「は、はあぁぁぁぁぁぁあああ!?」

 

うおっ!?

 

匙が絶叫しやがった!

 

「お、おま、おまえ・・・・・マジかよ!?」

 

「あ、ああ。まぁな」

 

なんか、メチャクチャ驚いてるよ、こいつ。

 

隣を見るとタンニーンのおっさんとティアがふむふむと納得しているような表情だった。

 

「なるほど。サーゼクスから既に声をかけられていたか。まぁ、兵藤一誠の実力は既に魔王クラス。素の状態でも最上級悪魔クラスだからな」

 

「そうだな。実力的には申し分ないだろう。後は魔王として政治やその他の職務をこなせるかどうかが問題だな」

 

ティアの言葉に俺は頷く。

 

「あー、それな。俺もそこが心配なんだよ。サーゼクスさんに言われて一応考えてみるって言ったけどさ。俺って頭よくないし」

 

「まぁ、そこはまだ心配しなくても良いのではないか? 仮にイッセーが魔王になるにしてももっと先の話だ。これからゆっくり学んでいけばいい」

 

ティアは笑いながらそう言ってくれた。

 

うーん、勉強って苦手なんだよなぁ。

でも、期待してくれているならそれに応えてみたい。

 

ティアの言うとおり、ゆっくりでもいいからコツコツ勉強していこう。

 

何事も日々の努力だからな。

 

おっさんの視線がヴァーリに移る。

 

「・・・・・白龍皇か。妙な真似だけはしてくれるなよ? その時は躊躇いなく噛み砕くぞ」

 

その言葉にヴァーリは苦笑するだけだった。

 

アザぜル先生が術式を展開して専用の魔法陣を地面に描いていく。

光が走っていき、独特の紋様を形作っていた。

 

「それで、今から会うドラゴンってどんなやつなんだ?」

 

俺が尋ねるとティアが嘆息する。

 

「ミドガルズオルムか・・・・・。まぁ、なんと言うか・・・・・。一言で言えば、ただのグータラ野郎だな」

 

グータラ野郎?

どういうこと?

 

俺が怪訝な表情をしているとタンニーンのおっさんが教えてくれた。

 

「あやつは基本的には動かん。世界に動き出すものの一匹だからな。使命が来るその時まで眠りについているのだ。最後に会ったのは数百年前だが、世界の終わりまで深海で寝て過ごすと言って、そのまま海の底へと潜ってしまった。それ以来あやつとは会っていない」

 

マジか・・・・・・

そんなドラゴンが龍王に・・・・・・

 

いったいどんなドラゴンなんだよ・・・・・・

 

「さて、魔法陣の基礎はできた。あとは各員、指定された場所に立ってくれ」

 

先生に指示され、魔法陣の上に立った。

 

各自指定ポイントに立ったことを先生が確認すると、手元の魔法陣を操作した。

 

 

カッ

 

 

淡い光が下の魔法陣に走り、俺のところが赤く光り、ヴァーリのところが白く光った。

そんでもって、先生のところが金、匙のところが黒、ティアのところが青、そしておっさんのところが紫色に光り輝く。

 

『それぞれが各ドラゴンの特徴を反映した色だ』

 

と、ドライグが説明してくれる。

 

なるほど。

言われてみれば確かに。

 

魔法陣が発動し、部屋が一瞬、光に包まれた。

 

すると、魔法陣から何やらが投影され始めた。

立体映像が徐々に俺達の頭上に作られ――――

 

俺達の目の前にこの空間を埋め尽くす勢いの巨大な生物が写し出された!

 

でけぇぇぇぇぇぇぇ!!!

 

グレートレッドよりもデカいじゃねぇか!

 

目の前のドラゴンは東洋の細長いタイプのドラゴンで、その長い体でとぐろを巻いているようだった。

 

俺が驚いているのを見て、おっさんが言う。

 

「こいつはドラゴンの中で最大の大きさを誇る。グレートレッドの五、六倍くらいはあるだろう」

 

ひぇぇぇ

 

つーことは五、六百メートルくらいはあるってことかよ。

 

驚く俺の耳にデカイ奇っ怪な音が飛び込んできた。

 

『・・・・・・・ぐごごごごごごごごごごごごごぉぉぉぉおおおおおおん・・・・・・・・』

 

おっさんが言ってた通り、本当に寝てるよ、このドラゴン・・・・・

 

「案の定、寝ているな。おい、起きろ、ミドガルズオルム」

 

タンニーンのおっさんが話しかける。

 

しかし、

 

『・・・・・・・ぐごごごごごごごごごごごごご・・・・・・』

 

返ってくるのはデカイいびきだけ。

 

熟睡中だな。

 

「おい、ミドガルズオルム! 起きんか!」

 

おおっ

 

タンニーンのおっさんが怒ったぞ。

 

その怒鳴り声を聞いて、ようやく目の前のドラゴンは目を開けた。

 

『・・・・ん? おぉ、タンニーンじゃないか。久し振りだねぇ』

 

なんともゆっくりな口調だな。

 

『・・・・・ドライグとアルビオン、ティアマットまでいる。・・・・・それにファーブニルと・・・・・ヴリトラも・・・・? どうしたんだい? もしかして、世界の終末なのかい?』

 

「いや、違う。今日はおまえに訊きたいことがあってこの場に意識のみを呼び寄せたのだ。それで訊きたいこというのは―――」

 

『・・・・・ぐごごごごごごごごごごごごご・・・・・・ずぴー・・・・・・』

 

ミドガルズオルムが再びいびきをかき始めた! 

ダメだ、このドラゴン!

話出来ないじゃん!

 

「まったく、こいつは・・・・・。変わらんな・・・・・」

 

ティアが嘆息している。

どこか諦めてない!?

 

ヴァーリなんて苦笑してるぞ。

 

「寝るな! どれだけ寝れば気がすむんだ、おまえは!」

 

再度、怒鳴るおっさん。

 

ミドガルズオルムも大木な目を再び開ける。

 

『・・・・・タンニーンはいつも怒ってるなぁ・・・・・。それで僕に訊きたいことって?』

 

「聞きたいことは他でもない。おまえの父と兄、姉について訊きたい」

 

おっさんがそう訊く。

 

なんで、ミドガルズオルムの家族について訊いてるんだ?

つーか、このドラゴンに兄姉がいたのな。

 

怪訝に思う俺に気づいたのか、ティアが解説してくれた。

 

「ミドガルズオルムは元来、ロキが作り出したドラゴンでな。強大な力を持っているんだが、見ての通りこの性格だ。北欧の神々もこの性格には困り果ててな。結局は海の底で眠るように促したのだ。せめて、世界の終末が来たときには何かしら働けと言ってな」

 

「何かしらって・・・・・・。それで良いのかよ・・・・・・」

 

「まぁ、既に北欧の神々もこいつには何も期待してないだろうがな」

 

ティアは苦笑しながら言う。

 

ひ、ひどい話だ・・・・・・。

残念すぎるぞ、ミドガルズオルム!

 

おっさんの質問にミドガルズオルムが答える。

 

『ダディとワンワンとお姉ちゃんのことかぁ。いいよぉ。あの三人にはこれといって思い入れはないしぃ・・・・・。あ、タンニーン、一つだけ聞かせてよぉ』

 

「なんだ?」

 

『ドライグとアルビオンの戦いはやらないのぉ?』

 

俺とヴァーリを交互に見ながら言ってきた。

 

「ああ、やらん。今回は共同戦線でロキ達を打倒する予定だからな」

 

『へぇ。二人が戦いもせずに並んでいるから不思議だったよぉ。今代の赤と白はどちらも実力者みたいだからねぇ。面白い戦いになると思うんだけどなぁ』

 

「確かに今代はどちらもかなりの実力を持っているが・・・・。今回はそうも言ってられんのでな」

 

そりゃそうだ。

 

ロキ達を相手にする前に俺とヴァーリがやりあったら、それだけでえらいことになるぞ。

 

『ワンワンが一番厄介だねぇ。只でさえ強いのに、噛まれたら死んじゃうことが多いからねぇ。でも、弱点はあるんだぁ。ドワーフが作った魔法の鎖、グレイプニルで捕らえることができるよぉ。それで足は止められるねぇ』

 

「・・・オーディンから貰った情報では、グレイプニルではフェンリルは抑えることが出来なかったそうでな。それでおまえから更なる秘策を得ようと思っているのだ」

 

『なるほどねぇ・・・・・。ダディったらワンワンを強化したのかなぁ? なら北欧に住むダークエルフに協力してもらって、鎖を強化してもらえばいいんじゃない? 確か長老がドワーフの加工品に宿った魔法を強化する術を知ってるはずぅ』

 

へぇ。

こっちの世界にもエルフっているんだ。

 

先生がヴァーリの方を指さす。

 

「そのダークエルフが住む位置情報を白龍皇に送ってくれ。この手の類のことはヴァーリの方が詳しい」

 

『はいは~い』

 

ヴァーリが情報を捉え、口にする。

 

「―――把握した。アザゼル、立体映像で世界地図を展開してくれ」

 

先生がケータイを開いて操作すると、画面から世界地図が宙へ映写される。

ヴァーリがとある場所を指差し、先生がその情報を仲間に送り出した。

 

連絡を終えた先生が言う。

 

「よし。フェンリルについてはとりあえず良しとしよう。残るはロキとヘルか・・・・・・」

 

『ダディとお姉ちゃんかぁ・・・・・。二人とも魔法が上手だし、お姉ちゃんなんかヘルヘイムの魔物やら死人を呼び出せるから面倒だよぉ。呼び出せる数は千じゃそこらじゃないからねぇ』

 

マジかよ・・・・・。

ヘルの方も相当に厄介じゃねぇか。

こちらは数が限られている分、呼び出されたらかなりキツいぞ。

 

アザゼル先生も顎に手をやり、むぅと唸っていた。

 

「恐らく呼び出す魔物の一匹一匹はそこまで強くないだろうが、数でこられるとマズイな」

 

『多くの魔物を呼び出す時にはお姉ちゃんの動きが止まるから、そこを攻撃すればいいんじゃないかなぁ』

 

「なるほどな。それは良いことを聞いた。ではロキの方はどうだ?」

 

『そうだねぇ。ダディは魔法だけじゃなくて剣を用いた格闘戦もできるからねぇ』

 

そうなんだよなぁ。

ロキの野郎、魔法も出来て格闘戦までこなせるからチートなんだよ。

レーヴァテインなんて剣まで持ってるし。

 

『ダディを倒すとしたら結局は正攻法しかないかなぁ。そうだねぇ、ミョルニルでも撃ち込めばなんとかなるんじゃないかなぁ』

 

ミドガルズオルムの話を聞いて、先生は考え込む。

 

「ミョルニルか・・・・・。確かにそれならばロキにも十分通じるだろうな。だが、雷神トールが貸してくれるだろうか・・・・・。あれは神族が使用する武器の一つだからな」

 

『それなら、さっきのダークエルフに頼んでごらんよぉ。ミョルニルのレプリカをオーディンから預かってたはずぅ』

 

「物知りで助かるよ、ミドガルズオルム」

 

先生は苦笑しながら礼を言う。

 

本当に物知りだよな、このドラゴン。

実は龍王と呼ばれるのはこの辺りから来てるんじゃないだろうか・・・・・。

 

『いやいや。たまにはこういうのも楽しいよ。・・・・・ふはぁぁぁぁぁ・・・そろそろ僕も眠くなって来たから、また今度ね・・・・・・・』

 

大きなあくびをするミドガルズオルム。

少しずつ映像が途切れてきた。

 

「ああ、起こしてすまなかった」

 

おっさんの礼にミドガルズオルムは少し笑んだ。

 

『いいさ。また何かあったら起こしてよ』

 

それだけ言い残すと、映像は完全に消えてしまった。

 

うーん、ミドガルズオルムか。

悪いやつではないんだけど、変なドラゴンだったな。

 

とにもかくにも、ミドガルズオルムから得た情報を基に俺達は動き出すこととなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




異世界篇について質問があったので、ここで少しだけ答えます。
今のところはぐれ勇者原作とは全く違う流れにしようと思っています。
完全なオリジナルを考えています。

まぁ、まだまだ思案中なので投稿するのは先になりますが・・・・

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