ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝   作:ヴァルナル

85 / 421
11話 狡猾の神

[アザゼル side]

 

都内のとある高層高級ホテル。

俺はオーディンの爺さんと日本の神々との会談の仲介役としてホテルの一室に控えていた。

 

爺さんは・・・・珍しく真面目な顔で会談の予定をチェックしている。

 

「どうしたよ、爺さん。緊張するガラじゃないだろう?」

 

俺がからかうように言うと、爺さんは手にしている資料をテーブルに置き軽く笑んだ。

 

「まぁの。会談だけなら何も心配はしとらんよ。・・・・ロキのことじゃ」

 

ロキ、か・・・・。

 

「この歳までワシはジジイの知恵袋だけで何事も解決出来ると思っておった。実際、何とかなってきたしのぉ。だが、それは間違いじゃった。真に大切なのは若いもんの可能性じゃよ」

 

「おいおい、今さらかよ。気付くの遅すぎるぜ、爺さん」

 

「小僧が生意気を言いよる、と言いたいところじゃが・・・・まったくもって情けない話じゃ。ワシの今までの過ちがロキを生んだのかもしれん。そして、そのせいで今度は先のある若いもんに苦労をかけておる」

 

爺さんの眼は慈愛に満ちていた。

 

ったくよ、あんたがそんなだと調子狂うぜ。

 

俺は盛大にため息を吐いて頭をボリボリとかく。

 

「その若い者の可能性を潰さないためにも、今回の会談は成功させにゃならん。これはあんたにしかできないことだ。今回、ロキ達と戦うあいつらのためにも、頼むぜ爺さん」

 

「分かっておる」

 

爺さんは一言だけ返すと茶を啜った。

 

俺は時計に目をやる。

 

そろそろ日本の神々が来るはずだ。

天照を中心にした日本神話の神々達。

 

こいつらとの会談が上手くいけば各勢力同士の結びつきを強固にできる。

禍の団なんてもんがある以上、この結びつきは必ず必要になる。

 

「バラキエル、そっちの状況は?」

 

俺は通信用魔法陣を展開して屋上で待機しているバラキエルに通信を入れる。

 

『今のところは問題ない・・・が、そろそろ現れるだろう。向こうもこちらの位置は補足しているはずだからな』

 

「そうか・・・。すまんな。また、おまえに押し付けちまった」

 

バラキエルの妻・・・朱璃が死んだ時もそうだ。

俺が無理を頼んだせいでバラキエルは大切な者を失うことになってしまった。

 

俺は何度、同じことを繰り返せば学習するんだろうな・・・・。

 

『気にするな。今となってはこの任務に私を当ててくれたことを感謝しているくらいなのだ』

 

バラキエルの言葉を俺は怪訝に思い、首をかしげた。

恨み言なら分かるが礼を言われるようなことをした覚えはない。

 

『私は娘と・・・・朱乃と再び話をして、また父と呼んでもらうことが出来た』

 

―――――――!

 

なるほど、それでさっきはご機嫌だったのか。

 

「そうか、朱乃と話せたか。安心したぜ。おまえは不器用なやつだから心配していたんだが・・・・。それも杞憂だったな」

 

『ああ。アザゼル、今まで本当に世話になった。俺の代わりに朱乃を見てくれて・・・・。心から礼を言う、ありがとう』

 

「おいおい、そんな死亡フラグ立てるようなこと言うなよ。おまえに死なれては困るぜ」

 

『分かっている! 私は死なん! 生きて、また朱乃と親子の会話をするのだ!』

 

メチャクチャ張り切ってやがる・・・・。

 

まぁ、やっと家族に戻れるというんだ。

死ぬわけにはいかんわな。

 

「それじゃあ、そっちは頼んだぜ。バラキエル」

 

『了解だ!』

 

俺はそこで通信を切った。

 

ふぅ・・・・。

なんだか、少し肩の荷が下りた気がする。

 

やっとか。

やっとあいつらは家族に戻れるのか。

 

きっかけは・・・・・イッセーだろうな。

あいつが朱乃の本音を引き出したんだろう。

バラキエルからもあいつに話しかけられたことは聞いてる。

 

「なんじゃ、アザゼル坊? 何か良いことでもあったのかのぅ? 顔がニヤついているぞい」

 

おっと、顔に出ていたか。

まぁ、自然に笑みがこぼれるのも仕方がないさ。

 

「まぁな」

 

 

 

[アザゼル side out]

 

 

 

 

 

 

時刻は深夜。

決戦の時刻だ。

 

俺達は会談が行われるホテルの屋上で待機していた。

高層の建物のため屋上ともなるとかなり高い。

風もビュービュー吹いてる。

 

部長によれば会談ももうすぐ始まるとのこと。

つまり、ロキ達もそろそろ現れるということだ。

 

周囲のビルの屋上にシトリー眷属が配置されていて、いつでも転送できるようにしている。

 

匙は・・・・まだ到着していない。

いまだグリゴリの施設で特訓を受けているみたいだ。

本当に大丈夫なのかよ、あいつ・・・・。

 

この屋上には俺達オカ研メンバー以外に先生の代わりに戦闘に参加するバラキエルさん、鎧姿のロスヴァイセさん。

そしてヴァーリチームの面々がいた。

 

遙か上空にはティアとタンニーンのおっさんが宙に浮いている。

もちろん人には視認されないよう術をかけている。

 

「時間よ。会談が始まったわ」

 

部長の言葉に皆の顔が一層引き締まる。

 

会談が始まった。

 

それは、つまり―――――――

 

「小細工なしか。恐れ入る」

 

ヴァーリが苦笑した。

 

俺も上空の一点を睨む。

 

 

バチッ! バチッ!

 

 

ホテル上空の空間が歪み、大きな穴が開いていく。

 

そこから姿を現したのはロキ、ヘル、そしてフェンリル。

 

今回はいきなりフェンリルが出てきたか・・・・。

 

そんな俺の考えを見抜いたのか、ロキはニヤッと笑みを浮かべた。

 

「何か言いたそうだな、赤龍帝。フェンリルのことか?」

 

「まぁな。人間界にそんな危険なやつを何度も連れてくるなんてどうかしてるぜ」

 

「赤龍帝と白龍皇以外にも龍王が二人。それだけの者達を相手にするのだ。流石の我も本気でいかせてもらうさ」

 

「なるほどね・・・。引く気はないってことか」

 

「当然だ」

 

ロキがそう答えた瞬間、ホテル一帯を包むように巨大な結界魔法陣が展開された。

会長達シトリー眷属が俺達を戦場に転移させるための大型魔法陣を発動させたんだ。

 

「ふむ、場所を変えるか。良いだろう」

 

ロキ達は特に慌てる様子もなく、不敵に笑んで大人しくしていた。

 

そして、俺達は光に包まれた。

 

・・・・・・・

 

 

 

光が止み、目を開くとそこは大きく開けた土地だった。

岩肌ばかりで何もない。

 

そういえば古い採石跡地だっけ?

 

戦場を確認した後は仲間たちに目をやる。

うん、全員いるな。

 

「逃げないのね」

 

部長が皮肉気に言うと、ロキは笑う。

 

「逃げる必要などない。どうせ抵抗してくるだろう。それならば貴殿らを潰してからオーディンを殺せばいい」

 

「貴殿は危険な考えにとらわれているな」

 

バラキエルさんが言う。

 

「危険な考えを持ったのはそちらの方だ。各神話の協力など・・・・。愚かにもほどがある」

 

「やはり、話し合いは無理か」

 

バラキエルさんは雷光を纏い、背中に十枚もの黒い翼を展開した。

 

それを見て俺とヴァーリが前に出る。

 

「それでは、始めようか」

 

「ああ。あいつは俺達が止める」

 

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!!!』

 

 

『Vanishing Dragon Balance Breaker!!!!』

 

赤と白の閃光が戦場を覆う。

 

俺の体に赤龍帝の赤い鎧が装着され、ヴァーリも一切曇りのない純白の全身鎧に身を包んでいた。

 

それを見てロキが喚起した。

 

「これは素晴らしい! 二天龍が我を倒すために共闘しようというのか! フハハハハ!!!! こんなに心躍ることはないぞ!」

 

俺達を前にしても笑ってやがるぞ、ロキの野郎・・・・。

 

ロキはレーヴァテインを呼び出し、柄を握る。

 

「さぁ、来るがいい! 赤と白の競演を見せてもらおうではないか!」

 

こいつも誰かさんみたいに戦闘狂なのかよ。

 

まぁ、そんなのはどうでもいい。

 

俺はこいつをぶちのめすだけだ。

先日の借りもあるしな。

 

「美羽。おまえはティアと一緒にヘルの相手を任せる。戦況次第で、皆の回復も頼む。アーシアだけじゃ回復が追い付かないかもしれないからな」

 

アーシアの回復は凄まじいけれど、今回は相手が相手だ。

負傷者が次々に出ることになるだろう。

 

そうなれば、いくらアーシアでも限界が来る。

 

「分かった。皆のことは任せて」

 

美羽は頷くと、ティアの隣に立ちヘルと向かい合う。

 

見ればヘルはすでに魔物を呼び出していた。

百はいるか・・・・・。

 

ヘルは大量の魔物を呼び出すときは動きが止まるとミドガルズオルムが言っていたけど・・・・・・。

 

どうやら、予想よりも多そうだ。

 

 

「うふふふ。龍王最強と名高いティアマット様が私の相手をしてくださるとは光栄ですわ」

 

「ふん。心にもないことを。それに私一人ではない。おまえの相手をするのは私()だ」

 

ティアがそう言うと、レイナと部長、朱乃さんが前に出た。

 

そう、ヘルの相手をするのはティアと美羽だけじゃない。

この三人も加わる。

 

ヘルはそれを見て見下すように笑う。

 

「悪魔と堕天使ごときが私の前に立つなど・・・・・。身の程を知りなさい」

 

うーむ、性格悪いぜ。

 

美人だから、そこが勿体ないな。

 

ティアが部長に言う。

 

「・・・・・リアス・グレモリー、おまえ達は魔物共の相手をしろ。私と美羽はやつだけで手一杯なんでな」

 

「分かったわ。朱乃、レイナ、いくわよ」

 

「「了解!」」

 

部長の声に頷き、朱乃さんは雷光を、レイナは二丁銃を構える。

 

そして、魔物との戦闘に突入した。

 

俺達もいくか。

 

風を切る音と共にヴァーリが仕掛けた。

空中で光の軌道を描きながらロキに迫る!

 

俺も背中のブースターからオーラを噴出してそれに続いた!

 

ロキは笑みを浮かべながら俺たち目掛けて魔法による砲撃を放つ!

しかも、結構デカい一撃だ!

 

「こんなもん!」

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!』

 

拳を振りかぶり、迫る砲撃に叩きこむ!

 

激しい衝突音とともにロキの砲撃が消え去った!

 

ロキの初撃を避けたヴァーリがこの間の模擬戦で俺に披露してくれた北欧魔術を展開する!

一つじゃない。

ヴァーリの周囲にいくつもの魔法陣が展開されている!

 

「こちらのも受けてもらおうか」

 

斉射した!

ロキが放った奴よりも大きい!

この採石場を埋め尽くすんじゃないかと心配になるくらいの規模だ!

 

幸い味方は離れた場所で戦闘を行っているから巻き込まれずに済んだ。

 

攻撃が止んだ後、目の前にあったのは巨大な穴。

底が見えないくらいの深さだ。

 

流石はヴァーリ。

開幕早々からとんでもない攻撃を見せてくれるぜ。

 

だけど・・・・・

 

「ふはははは! なるほど! 良い威力だ!」

 

ヴァーリの攻撃で生じた爆風が止み、そこにいたのは無傷のまま宙に漂っているロキだ。

防御魔法陣がロキを覆うように展開されていた。

あれで防いだのだろう。

 

砲撃はよっぽどタイミングが合わないと軽く防がれるか・・・・。

ロキを倒すなら格闘戦が最適か。

 

ということで、例の秘密兵器を取り出す。

腰につけていたミョルニルのレプリカだ。

 

オーラを送って、手頃なサイズにする。

俺の身長の半分くらいの大きさだ。

 

少し重いけど全然振れる。

 

ロキは俺が手にしているのを見て目元をひくつかせていた。

 

「・・・・・ミョルニルか。いや、レプリカだな。そのような物を託すなど・・・・・! オーディンめ、それほどまでして・・・・・・!」

 

ロキのオーラが増し、先程までの静かなものから荒いものへと変化した。

オーディンの爺さんがこれを渡したことが許せないといった様子だな。

 

俺からしたらそんなことはどうでも良い。

 

ミョルニルを振り上げ、そのままロキへと迫る!

こいつは神をも倒せる雷を放つ!

 

こいつならどうよ!

 

ロキはこいつの危険性を知ってるからか、その場から大きく後退した。

 

空を切り、地面に直撃する。

 

 

ドオオオオオオオオオンッ!!!

 

 

・・・・・あれ?

 

地面に巨大なクレーターも生まれたし、かなりの威力なのは分かったけど・・・・・

 

肝心の雷が発生しない!?

 

予想外のことに戸惑う俺!

 

なんで!?

俺は何度か振ってみるが、ミョルニルはうんともすんとも言わなかった。

 

えええええええええっ!?

 

「ふははははは」

 

俺の情けない姿にロキが笑う!

 

「笑ってんじゃねぇよ!」

 

「いやはや、中々に笑えた。しかし、残念だ。その槌は力強く、純粋な心の持ち主にしか扱えない。貴殿には邪な心があるのではないか?」

 

うっ・・・・・

 

それって・・・・・・

 

「もしかして、俺がスケベだから?」

 

「貴殿は女人の体に興味があるのか。ふむ、若さゆえの邪心か」

 

納得しないで!

悲しくなるから! 

 

「まぁ、そう気を落とすな。男なら誰でも持つものだ。仕方がないだろう」

 

なにこの状況!?

俺、敵に励まされてるよ!

 

止めて!

 

あれ・・・・・なんか涙が・・・・・・。

 

まさか、俺のスケベ心がこんなところで足を引っ張るなんて・・・・・・。

 

今日から改心・・・・・・は出来ない!

スケベ心は捨てられねぇ!

 

俺はオーラを流すのを止めてミョルニルをしまう。

 

「もういいよ! おまえはミョルニル無しでやってやらぁ!」

 

俺は気を高める!

 

俺の周囲にはスパークが飛び交い、それと同時に俺の鎧が変化する!

 

「禁手第二階層――――天武(ゼノン)ッ!! おまえはこの拳で直接殴り飛ばす!」

 

俺が叫ぶとロキはレーヴァテインを正面に構えた。

 

「面白い! それではこちらも本格的に攻撃に移るとしよう!」

 

すると、離れたところでフェンリルを相手にしていたゼノヴィアが俺に何かを投げてきた。

 

「イッセー! そいつを返すぞ!」

 

俺はそれをキャッチする。

ゼノヴィアが俺に投げ渡してきたのはずっと貸しっぱなしだったアスカロンだった。

 

「良いタイミングだ、ゼノヴィア!」

 

俺は左手でアスカロンを握り、それをロキに向けた。

 

「いくぜ、ロキ! うおおおおおおおっ!!!!」

 

『Accell Booster!!』

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!!!』

 

第二階層の鎧を纏ったことで加速した倍増がスタートして、俺の力が一気に上がる!

 

全身に増設されたブースターから莫大なオーラを噴出して、そのままロキに突っ込む!

 

「ほう、聖剣か! しかし、そんなものが我がレーヴァテインに通じると思うな!」

 

 

ギィィィィィンッ!!

 

 

俺のアスカロンとロキのレーヴァテインが激しくぶつかり、火花を散らす!

それから俺とロキは空中で剣戟の応酬を繰り広げた!

互いの剣がぶつかるたびに空気を揺らし、周囲に影響を及ぼす!

 

「赤龍帝は剣をも扱えるか! 我と対等に打ち合える者に出会えたのは久しぶりだぞ!」

 

「そうかい!」

 

俺はそう言ってレーヴァテインの柄を蹴り上げる!

ロキの懐が空いた!

 

ここだ!

 

「だああああああああ!」

 

アスカロンをロキの腹部目掛けてフルスイングで振るう!

しかし・・・・ロキに当たる直前、防御魔法陣がロキの前面に展開され、俺の横凪の一撃は防がれた。

 

「クソッ」

 

俺の舌打ちにロキは不敵に笑む。

 

「いい線だが、惜しかったな。今ので我を取れると思ったか?」

 

それを訊いて今度は俺が笑った。

 

「はっ! おまえこそそれで防げたと思ってんのか? おまえの相手は俺()だぜ?」

 

その瞬間、ロキの背後に白い閃光が現れる。

 

「その通りだ。俺を忘れてもらっては困るな」

 

「そうだったな。我の相手は二天龍だった。ならば―――――フェンリル」

 

ヴァーリの手刀を防御魔法陣をもう一つ展開して防ぎながら、ロキはフェンリルに指示を出す。

 

今までタンニーンのおっさん達と攻防を繰り広げていたフェンリルがこちらを向き、ヴァーリに襲いかかろうとする。

 

それを見たバラキエルさんが叫んだ。

 

「今だ!」

 

「にゃん♪」

 

 

ブゥゥゥゥイイイイイイィィィィィンッ!

 

 

黒歌が笑むと同時にその周囲に魔法陣が展開して、地面から巨大で太い鎖が出現した。

あれが魔法の鎖、グレイプニルだ。

 

無事に届けられたのは良かったが持ち運びが難しいため、黒歌が独自の領域にしまい込んでいたんだ。

 

それをタンニーンのおっさんとバラキエルさん、そしてロキから離れた俺とヴァーリが掴み、フェンリルへと投げつける!

 

「ふははははは! 無駄だ! グレイプニルの対策など、とうの昔に―――――――」

 

ロキの嘲笑空しく、ダークエルフによって強化された魔法の鎖は意志を持ったかのようにフェンリルの体に巻きついていく!

 

 

『オオオオオオオオオンッ・・・・』

 

 

フェンリルが苦しそうな悲鳴を辺り一帯に響かせる。

 

「―――――――フェンリル、捕縛完了だ」

 

バラキエルさんが身動きが出来なくなったフェンリルを見て、そう口にした。

 

とりあえず、これでフェンリルは封じた。

 

 

「はぁあああああ!!!」

 

「このぉ!!」

 

ティアと美羽から放たれる嵐のような魔法攻撃がヘルに襲いかかっている。

 

「くっ・・・調子に乗って・・・・!」

 

あまりの強烈さにヘルも額に汗をにじませながら防御一辺倒になっているようだ。

次々と魔物を呼び出してはいるけど、それらは部長達の攻撃によって全て滅されていく。

 

あの調子なら、むこうも何とかなりそうだ。

 

ヘルはティアと美羽が抑えてくれているし、フェンリルは油断さえしなければタンニーンのおっさん達がいれば十分に撃破できる。

 

 

 

残るは―――――

 

 

 

「後はおまえだけだな、ロキ」

 

俺はアスカロンの切先をロキに向ける。

 

少しは焦ると思ったんだけど、ロキは感心するように見てくるだけ、か。

 

「この状況でまだ余裕があるのか?」

 

俺が問う。

 

「よもやフェンリルをこんなにも早く封じられるとは思わなかったのでな。グレイプニルを強化したのはダークエルフ。そして、そのことを貴殿らに教授したのはあの愚か者だな?」

 

愚か者・・・・ミドガルズオルムのことを言ってるんだろうな。

 

「まぁな。あいつには感謝してるぜ。あいつのおかげでこうしてフェンリルを封じられた」

 

「だが、我を倒さねば意味は無い」

 

「倒すさ。これからな!」

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!』

 

倍増すると共にロキ目掛けて飛翔する!

 

「面白い! やって見せろ!」

 

ロキもそれに応じて、自身の周囲に魔法陣を展開する。

そこから現れたのは無数の鎖だった!

 

またかよ!

 

あんなもんに気を取られてたら、やられる!

 

すると、俺の背後からものすごいスピードでヴァーリが飛んできた。

 

「兵藤一誠。ロキは一先ず俺が抑えよう。準備しておけ」

 

それだけ言うと、俺を追い抜かしヴァーリは単身、ロキに挑んでいった。

 

あいつ・・・・・

 

なるほど、そういうことかよ。

 

ヴァーリの思考を読み取った俺は立ち止まる。

 

迫るロキの鎖。

以前の比じゃないな。

 

ドライグ、すべて吹き飛ばすぞ。

 

『アルビオンに前衛を任せるのか。・・・・いや、あの技を使う気だな』

 

そういうことだ!

ヴァーリの準備が整うまでは俺はあいつのサポートに回るさ!

 

俺だってあの形態ならヴァーリ以上に砲撃戦もこなせるしな!

 

迫る鎖を睨みながら、鎧の形態を変化させる。

そう、砲撃特化のあの形態だ!

 

「禁手第二階層、砲撃特化――――――天撃(エクリプス)!!!!」

 

増設されていたブースターが消えて、その代わりにドラゴンの翼と六つのキャノン砲が形成される!

 

そして、砲門を全て展開する!

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!!!!』

 

 

ヴゥゥゥゥゥゥゥゥゥン

 

 

倍増によって瞬間的に高められた俺の気と魔力が混ざり合い、鳴動する!

 

それぞれの砲門の照準を定め、一斉斉射!!!

 

「いくぜぇぇぇぇええええ!!!! ドラゴン・フルブラスタァァァァァァァァ!!!!!!!」

 

『Highmat FuLL Blast!!!!』

 

六つの砲門から放たれたれる砲撃!

 

放たれた極大のオーラは無数の鎖を覆いそのまま消し飛ばしていく!

ついでに、ヴァーリを襲っていたロキの魔法砲撃をも全て相殺した!!

 

それにより生じた爆煙が辺り一帯を覆い、ロキとヴァーリの姿が見えなくなった。

 

「ほう! 本当に今代の赤龍帝は面白い! 先ほどまでとは全く違う力ではないか!」

 

ロキの笑い声が爆煙の中から聞こえてくる。

 

「その余裕が命取りだ」

 

ヴァーリが煙を振り払い、ロキに迫る!

拳に尋常じゃない程の魔力を纏わせてロキに放つ!

 

「どこがだ?」

 

しかし、その行動はロキには読まれていたようで、ヴァーリの拳を受け止めた。

 

そして、ロキがレーヴァテインを振るい、ヴァーリを斬り裂いた!

 

「ガハッ」

 

ヴァーリは咄嗟に体を捻って致命傷は避けたもののかなりのダメージを負ってしまう。

白龍皇の純白の鎧がヴァーリの血で赤く染まっていく。

 

「白龍皇。貴殿もかなりの実力だが、我にはまだ届かんよ」

 

ロキが笑みを浮かべてヴァーリを嘲笑う。

 

すると―――――

 

ヴァーリはロキのレーヴァテインを握る腕を掴んだ。

 

ロキはそれを振りほどこうとするがヴァーリは放さない。

 

「言ったはずだ。その余裕が命取りになるとな」

 

『Power Dispersion!!!!』

 

その音声が鳴った瞬間、ロキの圧倒的だったオーラが完全に消えた。

 

そう、ヴァーリが狙っていたのはこれだ。

 

「これは・・・・!? 我の力が消えた、だと・・・・!?」

 

ロキの顔から余裕が消えて焦りの表情となった。

 

その気持ちは分かるぜ。

 

俺もあれを食らった時はかなり焦ったからな!

 

「下がれ、ヴァーリィィィィィィィ!!!! ドラゴンフルブラスタァァァァァァァ!!!!!!」

 

『Highmat FuLL Blast!!!!』

 

俺が砲撃を放ったのとヴァーリがその場から退いたのは全く同時だった。

 

六つの砲門から放たれた莫大なオーラは混ざり合い、一つとなった!

そして、力を失ったロキへと一直線に突き進む!

 

今のロキに防ぐ術は無いが、ヴァーリの技の効果も直ぐに切れる。

そうなればこれも防がれてしまうだろう。

 

だから頼む!

間に合え!

間に合ってくれ!

 

「届けぇぇぇぇぇぇェええええええええ!!!!!」

 

俺の想いに呼応して鎧の出力が上昇した!

 

これなら!

 

「バカな! 我がこのようなところで! おのれぇぇぇぇぇぇ!」

 

俺の砲撃はロキの叫びをかき消し、そのすべてを覆い尽くした――――――――。

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・」

 

砲撃を終えた俺は天撃の形態を解除して、通常の鎧に戻っていた。

今のにかなりの力を込めたから、肩で息をしている状態だ。

ただでさえ、消耗が激しい第二階層をフルパワーで使ったんだ。

こうなるのも仕方がないか・・・・。

 

俺はゆっくりと地面に着地して、膝をついているヴァーリに声をかける。

 

「ヴァーリ、大丈夫か?」

 

ヴァーリの傷を見ると、剣に斬られた傷だけじゃなく火傷したように肌が焼けただれていた。

レーヴァテインに斬られるとこうなるのか・・・・・。

 

「ああ。少し傷が深いが、これくらいなら耐えられる」

 

「ったく、無茶しやがって。アーシア! ヴァーリの回復を頼む!」

 

「はい!」

 

アーシアが後方からヴァーリに回復のオーラを送ってくれる。

 

ヴァーリの体を淡い緑色の光が包み、ヴァーリの傷を癒していく。

遠方からの回復は直接傷を回復させるよりも遅い。

だけど、流石はアーシア。

数秒程度でヴァーリの傷は完治した。

 

「彼女の回復の力には驚かされるよ。神器を十分使いこなせているようだね」

 

ヴァーリはアーシアの力に賞賛を送った。

俺もそれには同意する。

 

「だろ? アーシアの成長はすごいんだ。俺と出会った頃と比べると段違いだぜ」

 

アーシアも毎日修行に励んでるからな。

ぐんぐん成長してるんだ。

アザゼル先生でさえ、舌を巻くほどだ。

 

・・・・きっかけさえあればいつでも至れるとは思うんだけど、どんな禁手になるんだろうか?

 

まぁ、何がきっかけになるかはその人次第だし、禁手も木場みたいに亜種とかがあるから、俺には予想のしようがないんだけどね。

 

それについては今はおいておこう。

 

俺達は同じ方向に視線を送る。

 

空中からロキがボロボロの姿で落ちてきていた。

 

ロキが地面に転がり、口から血を吐く。

 

「ゴブッ・・・・。まさか、こんなに早く終わってしまうことになるとは・・・・」

 

俺達はロキの方に歩を進めて、ロキから少し離れたところまで移動する。

ロキは全身から血を流していて、満身創痍の状態だった。

 

ヴァーリの技で力を霧散されているところに俺の全力の攻撃をまともにくらったんだ。

いかに神といってもこうなるのは当然だ。

 

「ふふふふ・・・。これが赤龍帝と白龍皇の力・・・・。何とも素晴らしいものだ・・・・。もう少し味わいたかったのだが、残念だ。・・・・・まぁ、我の役目は果たせたから良しとしよう・・・・」

 

その言葉を訊いて俺とヴァーリは怪訝に思った。

 

・・・・・・役目?

 

役目ってなんだよ?

こいつの目的はオーディンの爺さんを殺して神々の黄昏を迎えることだろ?

 

「・・・・後のことはロキに任せよう」

 

「「――――――――――――!?」」

 

 

 

次の瞬間、俺達の背後に気配が現れる。

 

 

 

「ああ、ご苦労だった――――――我が分身よ」

 

 

 

その声に俺とヴァーリは直ぐに反応して、後ろを振り返るが、

 

 

ザシュッ!

 

 

俺とヴァーリは腹部を横凪ぎに斬り裂かれ、その場に膝をつく。

斬られたことによる痛みと高熱を当てられたような痛みが一斉に襲ってくる。

 

でも、俺は痛みを忘れるくらいの衝撃を受けた。

 

俺達を斬り裂いた人物。

 

「な、なんで・・・・おまえが・・・・」

 

こんなことはあり得ない。

 

なぜなら、その人物は俺達の後ろで死にかけているからだ。

 

なのに俺達の目の前に立っているのは紛れもないその人物だった。

 

「なんで、おまえがそこに立ってんだよ!」

 

 

 

 

「赤龍帝と白龍皇。歴代でも最強と名高い二人を相手に、我が何の策なしに前に立つと思ったか?」

 

 

 

 

倒したと思っていたロキがレーヴァテインを地面に突き刺し、冷たい笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。