「はぁー、スッキリした!」
ボロボロになってる俺の横で獣人の女性が背中を伸ばしていた。
この人の顔には見覚えがある。
昔、魔族との大規模な戦闘があった際、前線で戦っていた女性の戦士だ。
褐色の肌でスタイル抜群!
戦士だからか引き締まった体をしている!
更にはおっぱいも大きい!
部長や朱乃さんほどではないがゼノヴィアクラスはある!
という、素晴らしいお体をしていたので、当時の俺はたまらず
その裸体を脳内メモリーに焼き付けたんだ。
今でもその光景が目に浮かぶ。
いやー、中々刺激的だった。
周囲で戦っていた人間、魔族の男性の視線も彼女に釘付けとなり、戦場が一時停止したこともあったな。
まぁ、戦闘後にアリスにグーパンチをもらったのはまた別の話だ・・・・・・
「とりあえず、これでチャラにしてやるよ」
「は、はい・・・・すいませんでした」
これ以上されたら俺はスクラップにされてしまう!
まだ始まったばかりなのに戦闘不能とか勘弁してくよ!
イタタタタ・・・・・
あー、身体中が痛いよ・・・・・
女性はハンマーを下ろして俺の隣に座る。
「なぁ、おまえがミュウを保護してくれていたんだろ?」
「えっ?」
「だーかーらー、おまえがシリウス様からミュウを託されたのか聞いてんだよ」
「ま、まぁね・・・・・あれ、もしかして、君が美羽の?」
俺が尋ねると、女性は笑って頷いた。
「おう。私はエルザ。ミュウとは小さい頃からよく遊んでてな。長い付き合いなんだ。と言っても昔のあいつは引きこもりがちだったから、外で遊んだ方が少ないけどな」
そっか。
やっぱり、この人が美羽の友達なんだ。
「おまえ、ミュウに変なことしてないだろうな?」
おおう!?
やたらと迫力のある睨みで俺を見てくる!
俺は慌ててブンブンと首を横に振った。
「してないしてない! 断じて手は出してません!」
「本当だろうな?」
「本当です!」
天地神明に誓って手は出してないよ!
一瞬、そういう空気になりかけたことはあったけど、なんとか我慢したし!
すると、エルザは睨むのを止めて、ニッと笑った。
「ま、信じてやるよ。おまえがミュウを悲しませてないならそれで良いさ。おまえもあいつのことを大切にしてくれているみたいだしな」
「分かるのか?」
「あいつの顔見てりゃ分かる。おまえと過ごしていてあいつは満足してるんだろうよ」
エルザは美羽がいるウルムさんの自宅を見る。
そして、俺に拳を差し出してきた。
「これからもあいつのことを頼む。あいつは泣き虫だからな」
「ああ、分かってるよ。俺も何がなんでもあいつは守るって誓ったからな」
その拳に俺も自分の拳を合わせた。
▽
俺とエルザがウルムさんのところに戻ると皆がエルザによって破壊された壁の修復をしていた。
戻ってきた俺達の姿を確認するなりウルムさんがエルザを叱る。
「全く、私の家をこんなにして・・・・・。おまえは少しは考えてから行動せんか」
「あははは・・・・・すいません、長老~」
「笑っとらんと、おまえも手伝いなさい」
「は、はい・・・・・ごめんなさい・・・・・」
エルザは頭をポリポリかきながら申し訳なさそうに修復作業を手伝う。
壁を壊したこともあるんだろうけど、どうやらエルザはウルムさんに頭が上がらないらしい。
おれも手伝うか・・・・・と言っても俺は魔力量も少ないし、魔法も使えないから足を引張るだけなんだよなぁ。
とりあえず、ホウキで部屋の掃除でもしますか。
「ウルムさん、ホウキはどこに?」
「ああ、申し訳ない。こちらです」
ウルムさんに案内されて掃除道具が納められている場所に行く。
お、あったあった。
ホウキとチリトリらしきものを入手した俺は部屋に戻る。
すると、
「さっきはいきなりで驚いたけど、やっぱりエルザだったんだね」
「おう。ミュウも元気そうで何よりだ。あのスケベ勇者のところにいたんだろ? 随分楽しそうにしてるじゃないか」
「うん。おにい・・・・イッセーとの生活は楽しいよ。家族も増えたし」
「ん? おまえ、今、お兄ちゃんって言いかけたか? まさかと思うが、あのスケベ勇者の妹になったのか?」
「うん」
「なっ!?」
美羽の肩を掴み驚愕するエルザ。
まぁ、自分の父親を倒した男の妹になったんだ。
そりゃ、驚くわな。
エルザは嘆息する。
「ったく・・・・おまえ、昔から兄弟を欲しがってたけどさ・・・・・。まさか、あのスケベ勇者の妹になるなんて、想像を絶してるぜ」
「でも、イッセーはすごく優しくて、ボクを大切にしてくれているよ。ボク、今はすごく幸せなんだ」
うーん、そこまで言われると俺も少し照れるね。
まぁ、確かに美羽は毎日を本当に楽しく過ごしていると思う。
学校に友達がいて、家では父さん、母さん、俺、そしてオカ研の皆がいる。
すると、俺の隣にいたウルムさんが笑う。
「ふぉっふぉっふぉっ。イッセー殿。感謝しております。ミュウ様を本当に大切にしてくれているようで」
「まぁ、守るって約束したし・・・・それに」
「それに?」
「あいつは俺にとってもかけがえのない大切な存在なんです」
「・・・・・そうですか。やはりシリウス様の判断は間違いではなかった。それが分かり嬉しく思います」
▽
それから少しして、壁の修復が終わり、俺達は再び席に着いた。
これからの話は俺達がこの世界に来た本来の目的。
「トリムさん、ウルムさん。聞かせてくれ。俺がこの世界を去ってからのことを。俺はそのために戻ってきたんだ」
この世界で何かが起こっているのは既に察しがついている。
ロキの言ってたこともそうだけど、さっき戦ったあの白い怪物。
あんなやつは見たことがない。
俺の問いに二人はむぅ、と唸る。
「そうですね・・・・。まずはイッセー殿が去ってから起こったことを順を追って話しましょう。まず、気になっていると思いますが、我々人間と魔族の関係についてですが、一先ず、二つの種族間に和平協定が結ばれ、今後、争いが無いよう約束が取り交わされました」
「「っ!!」」
これには俺と美羽も驚き、歓喜した。
トリムさんがここに普通にいるから、もしかしたらと思ってたけど、マジで和平が結ばれたのか!
「よかった・・・・! 本当によかったよ・・・・!」
喜びのあまり、美羽は涙を流す。
この世界を離れてからもずっと気にしていたからな。
これであんな悲劇が起こらなくて済むって分かったんだ。
そりゃ、こうなるさ。
「ああ、やったな!」
俺は美羽の頭を撫でてやる。
俺だって嬉しいんだ。
喜ぶ俺達を見て、ウルムさんも微笑む。
「イッセー殿がシリウス様を倒されてから、我々と敵対していた国には魔族を滅ぼそうという意見がありました。しかし、オーディリア国のアリス様やその他の重鎮の皆様のご尽力のおかげでこうして我々は生きております。あの方々には感謝の念が尽きません」
そうか・・・・アリスのやつ、本当にやりやがったのか!
多分、モーリスのおっさんやリーシャ、ニーナ達の助けもあったんだろうけど、よく他の国を説得できたな。
トリムさんが話を続ける。
「そうして、私達オーディリアを中心に人間と魔族の間で和平を結ぶことが出来たのです。今では貿易も行うほど、関係は良好なものになっています。しかし・・・・・」
そこまで言うとトリムさんが厳しい表情となった。
ウルムさんまで、額にシワを寄せている。
「この世界に異変が起きたのはつい二ヶ月ほど前のことです。・・・・・イッセー殿、さきほど対峙したあの怪物のことをどう思われますか?」
「一言で言うならとにかくしぶとい、かな・・・・。力もそれなりにあったし、厄介なやつだとは思ったよ」
実際、俺の攻撃を受けても生きてたし、先生やティアですら驚くほどのしぶとさだった。
あれは尋常じゃない。
「そうですか・・・・・。実はあの怪物はこの世界各地に出現しているのです」
「「「「なっ!?」」」」
トリムさんの情報に俺達は驚愕の声をあげた。
あんなやつが、あちこちに現れるのかよ!?
並の兵士じゃ太刀打ち出来ないぞ!?
「お察しの通り、奴らはそれなりの使い手でなければ相手になりません。そして、奴らによる被害は既に深刻なものとなっています。オーディリアと付き合いのあったゼムリアという国を覚えていらっしゃいますか?」
「ああ」
ゼムリアはアリスの国、オーディリアと古くから付き合いのある国で、かなり大きな国だ。
そこの王族の人達とは何度か会ったことがあるし、旅の途中で何度か寄ったこともある。
「そのゼムリアは一ヶ月ほど前に蹂躙されました。しかも、たった一日で・・・・・」
「っ! マジかよ・・・・・」
「そして、アリス様と我々は直ぐに救援に向かったのですが、『奴』の前には力及ばず・・・・・ッ」
トリムさんは悔しそうに言うと、唇を強く噛む。
唇から血が滲み出ていた。
アザゼル先生が問う。
「その『奴』ってのはさっきの怪物共の親玉だな?」
恐らく、そいつがロキが言っていた『かの者』。
いずれ、俺達の世界に現れるという存在。
部長達も息を飲む。
ウルムさんが美羽の方を向く。
「姫様。『滅びの神』の伝承は覚えておられますかな?」
「あ、うん」
滅びの神の伝承・・・・・
それは俺も聞いたことがあるな。
部長が尋ねてきた。
「イッセーも知っているの?」
「ええ。昔、アリスってやつから聞かされた事があるので」
「どんな話なの?」
「えっとですね・・・・・」
俺はアリスから聞かされた話を思い出しながらその伝承を語り出した。
▽
それは遥か昔、まだ人間と魔族が共生していた頃の話。
当時、人間と魔族の人達は今のように国を分けることも争うことなく、共に笑い、互いを助け合い平和な日々を送っていた。
しかし、ある日のこと。
その平和は『彼』によって崩れ去る。
『彼』は天より現れ、地に立つと自らの眷属を産み出し、その地を蹂躙した。
『彼』に抗おうと人間と魔族が力を合わせ立ち向かうも、圧倒的な力を持つ『彼』と産み出された眷属の前には遠く及ばず、殺されてしまう。
そうして、『彼』は瞬く間に世界の半分を蹂躙した。
『彼』の前では全てが無力とほとんどの者が悟り剣を握ることを諦めていくなか、一人の人間と一人の魔族の者は立ち上がり、『彼』に向かっていった。
天は彼らに『彼』を倒すための力を与える。
それは全てを焼き尽くす炎の剣。
剣を授かった彼らは『彼』に挑み、長きに渡る戦いの末、ようやく封印に至った。
『彼』は深き海の底に封印され、そのまま目覚めることはなく、彼らは世界に平和を取り戻したのであった。
▽
「・・・・・って言う伝承なんですよね。というより俺が聞かされたのは小さい子供向けの童話なんで、これ以上は知らないんですけど」
この童話をアリスやその妹のニーナからよく聞かされたもんだ。
二人はこの話がお気に入りで毎回のように読んでたからな。
それに、この童話こそアリス達が人間と魔族の和平を願う切っ掛けになったらしいんだよね。
「でも、これってただの言い伝えだろ?」
「いえ、それがそうでもないのです。実際に私達は『奴』と遭遇しています」
トリムさんがそう答えると先生が言った。
「だとしたら、よく無事に帰ってこれたな。そんな危ない奴を前にして・・・・・」
「ええ、『奴』の力の前に私達も死を覚悟したのですが・・・・・。『奴』は私達を殺すことなくどこかへ去ってしまったのです」
「なに・・・・・?」
アザゼル先生は眉をひそめる。
去った?
どう言うことだよ?
「理由は分かりません・・・・が、そのおかげで私達は命拾いしました。現在は『奴』を倒すべく、人間と魔族を合わせた各国首脳で議論を繰り返しています」
「ちょっと待て。その敵さんが今どこにいるのか、おまえらは捕捉しているのか?」
「それが・・・・・奴は私達の前から去った後、どこにも姿を見せていないのです。この一ヶ月、どこにも現れることなく、出現するのはあの怪物のみ。・・・・・私達も情報が不足しているため、今はこうして各国で連携を取り、怪物が現れた場合はそこに兵を派遣して討伐することしか出来ていません」
話を聞いてますます謎が深まったな・・・・・。
アリス達は魔族、人間の二つの種族を合わせても上位クラスの実力だ。
そのアリス達でも手も足もでないとなると、そいつはかなりの実力だ。
わざわざ、あの怪物を使わなくてもそいつが一人でやった方が早いんじゃないのか?
先生が言う。
「この世界にも神クラスはいるんだろう? イッセーからの話だと神層階という神々が住まう場所があると聞いている。なぜ、そいつらは出てこない? まさかと思うが世界の危機に傍観をきめこんでる訳じゃないだろうな」
それには俺が答えた。
「神層階の神は下界、つまりはこの世界に干渉出来ないことになっているんです。神の力は大きすぎて下界に及ぼす影響が大きすぎるため、固く禁じられているらしいですよ。だから、下界に降りることも出来ないんですよ」
「ちっ・・・・めんどくせぇ世界だ。だが、さっきの伝承ではその『滅びの神』ってのはその神層階から現れたんじゃないのか? もし、そうだとしたらおかしくないか?」
「うーん、そう言われると、俺には何とも・・・・・」
確か、師匠から聞いた話ではそうだったんだけどな・・・・
でも、先生の言う通りで、その『滅びの神』が神層階から現れたんだとしたら色々と納得できない点がある。
神層階の神は下界には降りられない。
そして、全ての神は神層階に住んでいる。
これは間違いない。
だとしたら、その『滅びの神』ってのは何者なんだ?
うーん、色々と考えてみるけど全く分からん。
先生がトリムさんとウルムさんの二人に問う。
「なぁ、ロキという神の名前に聞き覚えはあるか?」
「いえ、私は存じませんが・・・・」
「同じく」
二人はロキのことを知らない、か・・・・・。
ロキはこちらの世界に来たことがない?
だったら、なんであいつは『滅びの神』のことを知ってたんだ?
そもそも、どうやって俺と美羽のことを知った・・・・?
まぁ、聞いたのがこの二人だけだから、まだ何とも言えないけど・・・・・。
部長がため息をつく。
「どうやら分からないことだらけのようね・・・・・。まずはその神について情報を集めないと対策のしようがないわ」
「そうですわね。ですが、今日のところは体を休めた方が良いのでは? 情報収集はそれからでも遅くないでしょう?」
「それもそうね。ウルムさん、私達がこの集落で一晩過ごすことを許してもらえるかしら?」
部長がそう尋ねるとウルムさんは微笑む。
「ええ、もちろん。既に皆様の宿も用意しておりますので、今日のところはゆっくりしていって下さい」
「ありがとうございます。お世話になりますわ」
こうして俺達はこの集落で一泊することになった。
『滅びの神』についてはモーリスのおっさん達と合流した後、改めて調査することにした。