[三人称 side]
イッセー達一行がフォレストニウムで一泊することが決まってから数時間後。
アスト・アーデにある国、オーディリア。
このオーディリアは自然豊かであり、土地も恵まれているため、年中良い作物を収穫できる国として有名である。
また、国を守るために設営されている王国騎士団は非常に練度が高いことでも知られており、他の国からも一目置かれている国でもある。
そんなオーディリアの王宮の廊下を歩く男性が一人。
年齢は四十~五十代くらいと言ったところか。
髪には白髪が混じっている。
だが、そんな彼の体からは歳を全く感じさせない覇気が放たれていて、歴戦の戦士のそれだ。
彼の名はモーリス・ノア。
王国騎士団の団長を務めており、かつてはイッセーと共に世界を旅した人物。
そして、アスト・アーデに飛ばされたイッセーのため、元の世界へ帰る方法を調べあげた人でもある。
いわば、イッセーの恩人だ。
そんな彼は廊下から中庭で稽古する兵士達を見ながらため息を吐いた。
「全く、どうしたものか・・・・・」
かつては魔王を倒すべく、世界を回り、その凄まじい剣技から『剣聖』とまで呼ばれた彼が悩んでいること。
それは今、この世界を脅かしている『滅びの神』についてだ。
モーリスはアリスやトリム達と共にゼムリアの救援に向かった際、一度だけ滅びの神の力を目にしている。
彼はゼムリアの人々の避難活動に従事していたため、実際に戦ったわけではないが・・・・・。
「奴さんとやり合うにはどう見ても戦力が足りなさすぎる。人間、魔族の全ての戦力を投入しても勝てる可能性は低い、か・・・・。まぁ、今は奴自身が出て来ないだけマシなんだが・・・・それもいつまでも続くもんじゃねぇ。奴は再び俺達の前に現れる。それまでに戦力の底上げをしねぇとヤバイな」
モーリスは頭をボリボリとかきながら、ブツブツと独り言を呟いた。
他国が怪物の襲撃を受けている中、今のところオーディリアは襲撃を受けてはいない。
しかし、それも長くは続かないだろうと彼は思っていた。
一見、国内は平和ではあるが、国民の間で不安は募っている状態であるのはモーリスも把握している。
国の政治にも関わっているモーリスはそちらの方でも何か対策をうたねばならない。
「ったく、どこぞの神のせいでストレス溜まるぜ。禿げたら一生恨んでやる」
なんて冗談を言う彼の目は割と本気だ。
彼は兵士達の稽古を見届けた後、自分の執務室へ戻ろうとした。
すると、向こうの方から慌てた様子で走ってくる兵士が一人。
「モ、モーリス様! ここにおられましたか!」
「おう、どうした、そんなに慌ててよ? と言うより、おまえさんはトリムとゲイルペインへ救援に行ってたよな?」
「は、はい!」
モーリスは彼の様子にハッとなる。
「まさか、奴らにやられたんじゃねぇだろうな!?」
モーリスは怪物の強さを知っている。
なので、トリム達が怪物にやられたのではと思ってしまったのだ。
焦るモーリスを宥めるように兵士は伝える。
「た、確かに数は予想より多く、我々も壊滅寸前になりましたが、なんとか全員無事です。トリム様もご無事です。怪物もなんとか退けることに成功しました」
「そうか・・・・。冷や汗をかいちまったぜ」
その言葉を聞いてモーリスは安堵する。
「それで、モーリス様に至急お伝えせよ、とトリム様から命が下り、戻って参りました」
「なに? 何か問題でもあったのか?」
モーリスは怪訝な表情をする。
今の話では怪物は倒し、トリム達も負傷はしているようだが、全員無事とのことだ。
問題があるとすれば魔族との間に何かあったぐらいしか浮かばないが、モーリスはすぐにそれを可能性からはずした。
現場のすぐ近くにあるフォレストニウム。
そこの長老とは知り合いで、人柄もよく知っている。
また、そこに住まう魔族の人々についてもモーリスは把握していた。
(彼らの性格を考えると問題が起こるなんてことはないはずたが・・・・・。それに負傷しているならフォレストニウムで保護してもらえるはずだ・・・・・)
モーリスが考え込んでいると兵士は弾んだ声でモーリスに伝えたのだった。
「イッセー殿が・・・・・イッセー殿が戻って来られました! それも元の世界の仲間を連れて!」
「な、なにぃ!? それは本当か!?」
予想もしていない伝令にモーリスは普段は出さないような驚愕の声をあげて、そのまま全ての思考を止める。
二年前に魔王シリウスを倒し、元の世界に帰っていったこの世界の勇者。
赤龍帝、兵藤一誠が再びこの世界に戻ってきた。
内心、もう二度と会うことは出来ないだろうと思っていた。
モーリスは思考を取り戻し、事態を把握すると直ぐに行動に移った。
「あいつが・・・・イッセーが帰ってきたのか! よし、直ぐに城中の兵士及び使用人に知らせろ! あいつはここに来るだろうからな! いつでも迎え入れる準備をしておけ!」
「はい! 直ちに!」
モーリスからの命を受け、兵士は颯爽とその場を去っていく。
一人になったモーリスは窓のから空を眺めながら笑みを浮かべる。
「よく戻ってきてくれたぞ、イッセー! 早くその面見せに来やがれ!」
モーリスの歓喜の声は城中に響き渡った。
[三人称 side out]
▽
フォレストニウムに一泊することが決まった俺達は夕食を食べた後、風呂に入ることになった。
ここフォレストニウムには大きい公衆浴場的な場所があり、集落に住む人達は日頃から活用しているそうだ。
俺はそこの女性専用を使わせてもらえることになった。
アザゼル先生や木場、ギャスパーは普通に男性専用を使っている。
それなのになぜ、俺だけが女性専用なのか。
その理由は俺がシリウスを倒したことにある。
一応、和平が結ばれたこともあり、魔族からの俺に対する敵意はほとんど無いとのことだ。
だけど、やはり俺に思うところがある人もいて、それはほとんどが男性らしい。
もし、俺が男性の方に入って魔族の人と鉢合わせになったら気まずいだろうとのウルムさんの気遣いで女性専用に入ることになった。
ちなみに、魔族の女性からは許可は得ている。
エルザも何だかんだで許してくれた。
そして、今。
「ねぇ、イッセー。気持ちいい?」
「うふふ。こんなのはどうですか、イッセー君?」
俺は部長と朱乃さん、二大お姉さまに体を洗われていた!
しかも胸で!
石鹸を胸で泡立て、俺の体の至るところに押し当ててくる!
お二人の胸の感触と石鹸の泡が混ざり合い、とんでもないことになってるよ!
「んっ・・・・それにしても、この石鹸すごいわ。肌がすごくスベスベになっていくのがわかるもの・・・・・あっ」
「そうですわね・・・・あんっ・・・・・それにイッセー君の体と擦れあって、とても気持ちいいですわ・・・・」
ヤバイ!
二人の甘い吐息に体が反応してしまう!
なんてこった!
もう色々とフィーバーしてるんですけど!
部長が潤んだ瞳で言ってくる。
「ウルムさんの話を聞いて私、なんだか体の底から熱くなったの。やっぱりイッセーは最高だと思ったわ。だから、ね?」
ああっ!
部長が抱きついてきたよ!
おっぱいが!
太ももが!
部長のありとあらゆる部分が俺に密着してくる!
「ねぇ、イッセーは私よりも年上なのでしょう? だったら呼び捨てで呼んでくれないかしら? リアスって」
「えっ? で、でも、部長は俺の先輩ですし・・・・失礼なんじゃ・・・・・」
「そんなこと関係ないわ。私はあなたに呼んでほしいの。ねぇ、お願い・・・・・・」
潤んだ瞳で、しかも上目使いで俺を見てくる!
な、なんて可愛いんだ部長!
普段のお姉さまはどこへ!?
すると、今度は部長と反対側に朱乃さんが抱きついてきた!
「リアスだけズルいわ。ねぇ、イッセー君。私も・・・・・」
はうっ!
なんなんだ、この状況は!
二大お姉さまが二人揃って甘えてくる!
こんなことを誰が予想しただろうか!
二人の壮絶な甘え攻撃に俺はたじろぎながらも言った。
「え、えーと、じゃあ・・・・リアス? 朱乃?」
俺がそう言うと二人の表情がパァッと一層明るいものとなった。
「「うれしい、イッセー!」」
ガバッ
二人がより密接に抱きつき、俺は浴場の床に押し倒されてしまった。
二人が俺に覆い被るように四つん這いになる。
俺の目の前で二人のおっぱいが凄いことになってる!
ブハッ!
鼻血が止まらねぇ!
「今日はイッセーにいっぱいご奉仕してあげたいの」
「良いかしら?」
ご奉仕!?
なんですかその素晴らしい言葉は!?
すると、浴槽の方から美羽達の声が聞こえてきた。
「うぅ・・・・・完全に主導権握られちゃったよ・・・・・・。ジャンケンも負けちゃったし・・・・・」
「あのお二人に勝てる気がしません・・・・・」
「むぅ・・・・ダメだ。入り込む隙が無い。ここはあの二人が終わるのを待つしかないのか・・・・・」
「でも、終わるのかな? 終わる気配が全くしないのだけれど」
「・・・・・多分、永遠に続くと思います。あの時、グーを出した自分を恨みます」
「ダメよ私! あんなの見てたら堕天しちゃう! ミカエル様、お助けくださいぃぃぃいいいい!」
オカ研女子部員がどこか羨むような目で二人をみていた。
風呂はいる前にしてたジャンケンってこれのことだったの!?
つーか、イリナは翼を白黒点滅させてるけど大丈夫かよ?
「さっき、卑猥なことは禁止って言ったのに・・・・・・見事にスルーされましたね。今のあの二人には何を言っても無駄なような気がします」
ロスヴァイセさんは諦めた様子でため息をついていた。
つーか、初めて見るロスヴァイセさんの裸!
タオルを体に巻いているが、スタイルの良さが分かる!
流石は北欧銀髪美女!
とりあえず脳内保存します!
「ねぇ、イッセー。どこを見ているの? 今は私達を見てくれないとイヤよ」
部長に顔を掴まれぐいっと向きを変えられる。
互いの鼻が当たる距離に部長の顔があった!
近い!
近すぎる!
ドクドクと流れていく鼻血。
このままでは失血で死んでしまう。
いや、この状況で逝けるなら本望かな・・・・・
美女二人に密着されながら逝く。
最高じゃないかと思うんだ。
その後、俺は部長と朱乃さんに体の隅々まで洗われた。
そして、ヒートアップした部長と朱乃さんが俺の下半身へと意識を向けた瞬間、皆に止められた・・・・・
▽
超刺激的な風呂から上がった後、俺は一人、巨大樹の幹の上で風に当たっていた。
まだ興奮が治まらないな・・・・・
とりあえずはこの興奮を治めることに集中しよう。
すると、俺のところへ先生が歩み寄ってきた。
「ここにいたのか、イッセー」
「あ、先生。どうでしたそっちの風呂は?」
「いい湯だったぜ。ウルムから酒ももらってな。これがまた美味かった。おまえの方は・・・・・・いや、大体分かるから言わなくていい。どうせ、リアスと朱乃が暴走しかけたんだろ?」
「あははは・・・・・」
流石は先生。
全てお見通しのようで。
「ま、これからおまえは色々と大変だろうけど、気張れや。男の見せどころだぜ?」
先生は笑いながら俺の隣に座る。
大変、か・・・・・。
まぁ、皆の過激なアプローチには戸惑うけど、それも良いかな。
エッチなお誘いなら俺はうれしいしな!
「おまえの過去の話を聞いてあいつらも盛り上がってるのさ。まぁ、戦争を終わらせて勇者とまで呼ばれたんだ。そうなるのも当然か」
「自分から勇者なんて名乗ったことはないんですけどね。周りが言ってるだけで・・・・・」
「そんなもんだろ。これまで俺は多くのものを見てきたが、勇者もしくは英雄と称賛された奴らは、民衆から認められた者がそうなっていった。自分から英雄だなんて名乗った奴はいねぇよ。・・・・・・おまえからすれば英雄派の奴らには思うところがあるんじゃないのか?」
「まぁ、そうですね」
英雄派・・・・・。
確かに俺はあいつらに思うところがある。
英雄の子孫だかなんだか知らないけど、その行いを見て誰が英雄と称えるのか疑問に思っていた。
あいつらは英雄の意味を知らない。
「あいつらがどんな思想で動いてるのかは俺も知らんがな。・・・・・とりあえず目先の問題は滅びの神だな。リアスの言う通り、情報が少なすぎる。明日の朝、ここを出発するんだろ?」
「はい。オーディリアという国に行きます。そこが俺が世話になったところなんです」
「確か旅の仲間もいると言っていたな。その国の王女も仲間だったか」
「アリスっていうんです。あいつとは結構死線を乗り越えた仲ですよ」
何度戦場で助けられたことか。
いや、あいつには日常でも助けられたっけ。
すると、先生は手を顎にやり何やら考え始めた。
「・・・・まさかとは思うが・・・・・そいつも? そうだとしたら・・・・とんでもねぇな・・・・・」
?
何を言ってるんだ?
よく分からないけど、そろそろ寝るか。
明日も早いし。
俺は立ち上がり、背伸びをした。
「それじゃあ、俺は寝ます。先生は?」
「俺はこの集落を探索してから寝ることにするさ。後でウルムに案内してもらう予定になってるからな」
この人のことだから、そんなことだろうとは思ってたけどね。
つーか、ウルムさんも案内引き受けてくれたのかよ。
そして、俺はその場を去り、用意された部屋へと戻った。
▽
部屋に戻り、眠りにつこうとした時。
ベッドを見ると――――
「やぁ、イッセー。待っていたよ」
「・・・・イッセー先輩。お邪魔しています」
ゼノヴィアと小猫ちゃんがベッドの上で待機していた。
「え、なんで?」
なんで二人がここに?
二人はそれぞれの部屋を用意されていたはずだが・・・・・
俺が尋ねると二人は胸を張って誇らしげに言った。
「ふふふ。今回はジャンケンに勝たせてもらったんでね。今夜はここで寝ることになった」
「・・・・流石にこのベッドで全員寝るのは無理なので」
ま、まぁ、確かに。
用意されたベッドは普通サイズよりも少し大きいくらいで、いつも寝ている物よりも大分と小さい。
せいぜい三人くらいしか眠れないだろう。
つーか、なんでジャンケンしてまで?
いや、俺は全然嬉しいけどさ。
そう言えば、美羽はエルザと寝るって言ってたっけ?
久しぶりにあった友人だからな。
互いに色々話したいこともあるんだろう。
ゼノヴィアがベッドをポンポンと叩く。
「さぁ、イッセー。こっちに来てくれ。風呂の時のあの二人を見ていたら私も君の温もりが欲しくなってしまってね。今日は三人でくっついて眠るとしよう」
なんか、こいつが言うと不安しかしないんだけど・・・・気のせいか?
まぁ、異世界に渡ったせいか俺も結構疲れたし、横になるとしますか。
俺はベッドの真ん中に大の字になって寝転がる。
ゼノヴィアと小猫ちゃんは俺を挟む形でベッドに転がった。
二人とも俺の腕を枕にしている。
ゼノヴィアが俺の腕を触りながら言う。
「これは良いものだな。いつもは部長や美羽達の独占状態だったから味わうことがなかったが・・・・・。これは独占したくなるな」
「そうなのか?」
「ああ。イッセーを一番近くで感じられるからね。今日は君と色々するつもりだったが・・・・・。これを楽しみたくなったから止めておくよ」
色々!?
色々って何をするつもりだった!?
やっぱりこいつは油断できねぇ!
嬉しいけど!
「・・・・にゃあ・・・・イッセー先輩の匂い・・・・・」
ゼノヴィアの反対側では小猫ちゃんが俺の服を掴んで猫みたいに丸くなっていた。
ぐはっ・・・・・なんだ、この可愛さは!
猫耳状態の小猫ちゃんの可愛さは尋常じゃない!
俺の心を鷲掴みにしてくる!
「さて、私も眠るとするよ。おやすみ、イッセー」
ゼノヴィアはそう言うと俺の顔に近づいてきて―――
チュッ
俺とゼノヴィアの唇が重なった・・・・・
俺の思考は一瞬フリーズするが、少ししてから何が起こったかを理解した!
えええええええっ!?
ちょ、不意打ちすぎるわ!
以前もこんなことあったよな!
混乱する俺をよそにゼノヴィアは目を閉じ、スースーと寝息をたて眠ってしまったいた。
なんか、寝顔がニヤけてる気がするんだけど・・・・・
ふと見ると小猫ちゃんも熟睡してる。
二人も疲れてたんだろうな。
こっちに来てから皆がやたらと積極的になったよなぁ。
先生はああ言ってたけど、俺って大したことしたつもりはないんだよね。
『そう思っているのは相棒だけだ。相棒がしてきたことは偉業と言ってもいい。相棒はこれまで多くのことを一度に経験してきたから感覚が狂っているのだろう』
そうかな・・・・?
『そうだ。まぁ、それが相棒が皆から慕われている理由の一つでもあるだろうがな』
慕われているねぇ・・・・・
ま、好かれている自覚はあるよ。
・・・・・ただ、女性陣の勢いに推されているだけで。
ハーレム王への道程は遠いな。
『ハハハハハ! 相棒はスケベなくせに押しに弱いからな! なんとも可笑しな話だ!』
うるせぇよ!
俺だってな、俺だってな・・・・・・前に進みたいんだよ!
つーか、進めようとしたこともあるし!
でもな、毎回毎回タイミングが悪すぎるんだよ!
神様は俺に恨みでもあんのか!?
『神? 聖書の神のことなら奴はすでにこの世にいないぞ?』
分かってるよ!
言ってみただけだから!
はぁ・・・・・もう疲れた・・・・・・
俺も寝る。
おやすみ、ドライグ。
『ああ。また明日だ、相棒』
俺はそのまま目を閉じ、両隣に温もりを感じながら眠りについた。
次回はイッセーが旅の仲間と再会します!(予定)