アカギ、傀、竜が清澄高校麻雀部に入部したそうです   作:叶芽

13 / 50
#13 福路美穂子

 

東一局

 

東家 アカギ(タチ親)  25000

南家 福路       25000

西家 久        25000

北家 衣        25000

 

(上埜さんを見かけたからついてきてしまってこうなってしまったけど、空気が重いというか、ピリピリする)

 

 久の表情は一応は笑顔だがその眼は笑ってなかった。

 一方衣の方は、久から発せられているプレッシャーを気にもかけておらず、アカギとすぐに打ちたい、そういう思いでいっぱいだった。

 

(それにしても、やっぱり上埜さんは私のことを覚えていない。個人戦では当たらなかったし、直接対決は県大会決勝以来になるけど。この合宿でも、上埜さんとは打てる回数は限られているし、少しでも多く打ちたい。三年前のインターミドルで私を苦しめたあの不思議な打ち回しを、もっと見たい)

 

 竹井久ともう一度打つ。福路の目的はそれもあったが、天江衣と打ちたい気持ちもあった。後世のために、衣の言う新しい支配の調査、そして後輩の池田華菜のために。

 

「ツモりました。700・1300です」

 

 5巡。早い段階で福路はアガった。

 今はまだ朝。夜でも満月でもない今、衣の支配は弱い。衣の新しい力についても、まだわかるわけもない。

 しかし福路には気になる点があった。それは彼女の視点移動。

 視えないはずの、相手の手牌を比較的よく視ていた。河よりも。海底よりも。そして次に山も視ていた。これも視えるはずのないものだった。

 

 

「リーチ」

 

 東二局、6巡目で衣からリーチが入る。これまで、彼女のリーチは海底一巡前が比較的に多かった。一発で確実にツモれるためである。

 

「ツモ…2000・4000」

 

 そのツモは一発。しかし、その形は不自然なものだった。

 

 

西家 衣手牌

 

{三四五六六六3566667} ツモ {3}

 

リーチ一発ツモタンヤオ(40符)

 

2000・4000

 

西家 衣 捨て牌

 

{南西⑧⑨中横二}

 

 

 最後の{二}を残しておけば、{一}、{四}、{七}、{二}、{五}待ちの多面張。

 それを捨てての{3}単騎の不合理な待ち。海底一巡前なら理解は出来るが、今回はそうではない。

 

「あらー?アカギ君のまねかしら?」

 

 久が言った。表情は穏やかだったが、声からは嫌味のように聞こえる。

 あの形は合宿初日の、清澄男子四人の対局、その東一局のアカギの手牌、その形に似ていた。

 

 

 

 

 

 

清澄男子戦東一局

 

 

西家 アカギ手牌

 

{二三四五六六六777789}

 

捨て牌

 

{南西⑧⑨中1}(対面ポン)

 

 

 この形なら{1}を切った時にリーチでも十分よかったのかもしれない。

 だが、次巡{3}をツモってきており、{1}をポンした対面の傀はその時には辺{3}待ちになっていて、リーチをしていたら振り込んでいた。

 リーチ自重。

 アカギの後ろで見ていた福路は、そこまでは理解できた。

 しかし彼女は、{3}単騎の『リーチ』は意味が分からなかった。

 後の下家の竜君の{3}切りを防ぐためなのか、それとも三家和に合わせるためなのか…、謎が多いリーチだった。

 

 

 

(そういえば、アカギ君も悪待ちが多かったわね)

 

 そう福路は思い出した。

 

「『貴様』と同じにするな…」

 

 久の嫌味に対し、衣が返した。

 

「あら?何のことかしらね天江さん」

「ま……まぁまぁ、そこらへんで…」

 

 重い。ピリピリしている。そんな空気を、彼女は何とかなだめようとした。

 

「ククク…まぁ、違うだろうな…その待ちは…」

「ほう…もう分かったのかアカギ」

「まぁ、だいたいな…」

「えー教えてよー」

「なに、難しいものでもありません。部長もすぐにわかりますよ」

 

 アカギの発言から、今のアガリに、衣の新しい力が隠されている、ということらしい。だが、福路には見当もつかなかった。

 東3局、またも早い段階で結果が現れた。

 5巡目の久の振り込みである。相手は衣。

 

南家 衣 手牌

 

{四③④[⑤]123456789} ロン {四}

 

一通赤1 5200

 

南家 衣 捨て牌

 

{⑨北南②}

 

 

 またも不可解な単騎待ち。天江衣に関しては、不可解な待ち自体は珍しいものでもない。相手の心理を突いての変則待ち、直撃狙いは大会でもよく見られた。

 

(そう華菜に対してもしてきたように)

 

 この待ちはそうにも見えない。衣は久とはこれが初戦。心理を読むための基盤はまだ出来ていない。

 

(もしかしたら、心理ではないものが視えているのかもしれない。例えば、相手の手牌を全て透けて…。いや、早計すぎる…かな。そうミスリードさせる……アカギ君のような戦術の一つかもしれない。でも、天江さんがそうするようにも思えない。天江さんは純粋な印象を受けるし、これまで彼女は感覚で打ってきたのだから)

 

 福路は思考を巡らす。しかし、開始数分もたたない今の段階で、結論が出せるものでもなかった。

 

 

東三局終了時

 

アカギ  21700

福路   23700

久    17100

衣    37500

 

 

 東四局は流局した。

 

「残念だ…。この局でアカギに止めを刺せると思ったのに…」

 

東家 衣手牌 

 

{四四四五五五⑦⑦⑦333北}

 

 

 四暗刻単騎。

 県大会決勝、その後半の『豪運』がまだ残っているとも思わせるような形だった。

 

「そう…うまくいくもんじゃない、ってこと……ノーテンだ…」

「ノーテンだと?張っているだろう。もう衣にはそういうブラフは通じないぞ」

 

 アカギは福路の方に目だけを向けた。

 その目は、何を言おうとしているのかを、彼女は考えた。彼女の手もテンパイの形だった。

 

 

西家 福路 手牌

 

{一二三四[五]六七八九南南北北}

 

(普通なら、テンパイ宣言…。でも……)

 

「ノーテンです…」

 

 福路は衣の反応を見た。

 衣は特に、彼女の方には注目もしなかった。

 

(アカギ君のみを意識しているのかな…。それとも…アカギ君のは『視えていて』私のは『視えていない』?それに、さっきから気になるのは天江さんの視点移動。この四局とも、その焦点は、第一に相手の手牌、第二に山、第三に河だった。河に関しては殆ど見ていないに近い。そして…今の出来事…。勘ってのは当たるものなのかしら)

 

「ククク……天江……どうやら今回の俺の相手はお前じゃないみたいだ…」

 

「なんだと?どういうことだアカギ」

 

 

 この対局は自分とアカギだけのものであり、他はただのモブ。そう思っていた衣にとっては意外な一言だった。

 

「それは聞き捨てならないわねアカギ君」

 

 名前すら呼ばれなかった久にとっては、怒りの感情もその言葉に込めていた。

 

 

(これはかなり厄介…まるで傀と打っている気分だ……面白い…)

 

 

(風越の部長さんか……)

「福路美穂子…さん、だったわよね?」

「え?…ええ」

 

 もともと眼中には無かったが、アカギに『指名』されたのもあり、久は福路を意識した。

 

「どっかで、見たことあるんだけど…前、会ったかしら…」

 

 真実はそうであっても、久に声をかけられた福路にはそんなことは知る由もない。ただ、単純に嬉しかった。

 

「はい…インターミドルで…三年前の…」

「あれ…?ちょっと待って…。あ…もしよければ、その右目開けてもらえるかしら」

「え…?あ・・・はい…」

 

 左右非対称の色をした彼女は、その青い瞳を他人に見せるのは恥ずかしいのか、普段は閉じている。

 

「あー思い出したわ。なんで忘れていたのかしら。こんなに綺麗な瞳の子なのに」

「あ…ありがとうございます……」

「え?なぜお礼?」

「え?あ、いえ……その、思い出してくれて…」

 

 顔を赤らめた福路は急にもじもじし始めた。

 

「おい、次行くぞ。早く牌を卓に戻してくれ」

 

 不機嫌そうに衣が急かした。そのぷくっとした表情を見て、久は微かに笑った。

 

 

 

東四局一本場 親 衣

 

「リーチ…」

 

 9巡目に南家のアカギからリーチが入った。

 問題はそこではなく、アカギのリーチ後、衣が現物オンリー、完全に降りにまわった、ということだった。

 福路は最初は衣にはまだ、アカギへのトラウマがあるのかと思った。

 だが、先の推理通り、相手の手牌が視えているのなら、あるいは山も見えているのならアカギのリーチは怖くないはずである。

 

 5巡後…

 

「ツモ」

 

 

南家 アカギ 手牌

 

{三四[五]七八九③③③456西} ツモ {西}

 

リーチツモ赤1

 

1000・2000の一本場

 

南家 アカギ 捨て牌

 

{南北⑧⑨13}

{西一横二五⑤西}

{南}

 

 

 単騎待ちに対してはもはや誰も驚かなかった。

 驚愕すべき点は、捨て牌に{西}が『2枚』ある点であり、フリテンの単騎待ちである点であった。

 しかも、二枚目の{西}は『リーチ後』である。

 その意味を理解できたのは、天江衣ただ一人であり、衣はまたも、アカギに恐怖を覚えた。

 

 

東四局一本場終了時

 

アカギ  25000

福路   21600

久    15000

衣    38400

 

 

 

 

 最も最悪の待ちは何か。竹井久は時々考える。

 待ちが悪ければ悪いほど、彼女の和了率は上がる。非合理的だが、帰納的推論から彼女は『もうそういうものなんだ』と割り切ってしまっている。相手の心理を読み切って、結果的に悪待ちになるアカギや、最速のルートを辿った結果悪待ちになる衣とも違う。それらの目的のための過程をすっ飛ばして、ただ悪待ちに向かう。

 それが、竹井久の麻雀のメカニズム。

 

(だから…)

 

南一局 親 アカギ ドラ {三}

 

西家 久 手牌

 

{②}  チー {横三二四} ポン {⑦横⑦⑦} ポン {横777} ポン {北北横北}

 

 このような、形になると久は安心する。悪待ちの一種と言える裸単騎。

 警戒が真っ先にされ、まず出アガリは厳しくなる。また、単騎待ちゆえに、待ちは少ない。しかも、この形の最も悲惨なところは、役が無いことである。

 それでも彼女は安心する。それでもアガってしまうのだ、と。

 

「カン」

 

 彼女は{7}を加カンした。

 

(たとえば、こういうこととかね…)

 

「竜君じゃないけど…ごめんなさい、ツモっちゃったわ」

 

 

西家 久 手牌

 

{②}  チー {横三二四} ポン {⑦横⑦⑦}  ポン {北北横北} 加カン {横7(横7)77} ツモ {②}

 

「あら…新ドラ乗っちゃった。3000・6000ね」

 

新ドラ {7}

 

嶺上開花ドラ5 3000・6000

 

 

南一局終了時

 

アカギ  19000

福路   18600

久    27000

衣    35400

 

 

 

(さすが、上埜さん…といったところね…。そしてこの局も天江さんの打ち方には違和感があった。上埜さんが裸単騎になったとたんに攻めっ気が無くなっていた。やはり、視えていた、っていうのは私の考えすぎで、実際は視えていないのかしら。あるいは『視えないことがわかっている』…とか。うん。そっちの方が筋が通るわね)

 

南二局 親 福路 ドラ {北}

 

 福路は衣の視点移動に対し集中的に観察した。

 南二局が開始されたとたん、彼女が他家の手牌を眺めているのを、福路は観た。

 まだ何も切られていないのになぜ視ているのか。それをもう少し詳しく観るため、彼女は理牌の速度を少し落とし、さらに衣の眼球の動きを観た。

 

(『視ている』時間が、一定じゃない。寧ろ、極端に…まるで『視ていない』ポイントがある。全ての牌が視えているなら、おそらくそれはない。ふふふ。わかってきたわ。天江さん…)

 

 福路の推理はこうである。衣は牌が透けて視えている。

 だが、全ての牌が視えているわけではない。衣の視点移動の観察の結果、同じ種類の牌の4枚中3枚が視えている。過去の観察記録も統合し、福路はそう結論付けた。

 

(ならここからは簡単ね)

 

「天江さん。ロンです…一盃口のみ。2000です」

 

「うっ…」

 

 

東家 福路 手牌

 

{①①②②③③345789二} ロン {二}

 

一盃口(40符) 2000

 

 

(視えていない牌でこっそり待てばいい)

 

 福路は衣の視点移動から、何が視えていないかがわかる。

 今回の場合。彼女の手牌では{①}一枚、{③}一枚、{7}、{9}一枚、{二}が衣には視えていなかった。

 衣視点での福路の手牌は

 

{■①②②■③345■89■}

 

 

 の形であり、テンパイしているかもわからない。

 今回衣からアガれたのはあくまで偶然だが、衣にとっては不規則な待ちでの直撃のため、衝撃は大きかった。

 

(この程度の能力を誇っていたなんて…天江さんも結構子供なのね。新しいおもちゃが手に入って、自慢している子供みたい。それにしても華菜…。華菜を苦しめたものが、こんな小物だったなんて…)

 

 表には出さなかったが、彼女の心中は落胆を含んだ怒りで満ち溢れていた。

 

 

 南二局一本場、福路の観察は続く。

 

(今度は殆どが視えていない。なら…)

 

「リーチ」

 

(リー棒一本。もう11巡目で、天江さんの手も肥えている頃だろうけど、これで天江さんは降りるんじゃないかしら…ふふふ…)

 

 状況は福路の予想した通りになり、衣は降り、そして彼女は難なくタンピンの2600オール(一本場)をツモった。

 彼女の観察はさらに鋭さを増し、二本場に3900(4500)を、三本場に7700(8600)を衣から奪った。

 

 

南二局三本場終了時

 

アカギ  16300

福路   41800

久    24300

衣    17600

 

 

 

 不可解な待ちに3度振り込んだ衣は、その表情に自信を無くしていた。体格相応の年齢の子供のように、その状況に怯えていた。

 地区大会決勝のアカギと戦っていた…あの時のように。

 

(まだよ…まだよ天江さん…。私と華菜の無念は、そんなもので晴れるものではないわ。華菜は一年苦しんで、そしてまた一年苦しむのよ。一年、自分を責め続けてきた華菜が、またもう一年…。天江さん。あなたには、この合宿で、二度と私に挑めないよう、そのメンタルを再起不能にしてあげる)

 

 福路は次にアカギの方を見た。

 

(アカギ君…。天江さんの謎が解けたのはあなたのおかげでもあるけど、でも、あなたも華菜を苦しめた人の一人。まだ、動きを見せてこないけど、来ても返り討ちにしてあげるから…)

 

 

 

 

南二局四本場 親 福路 ドラ {九}

 

 たったの数局であったにもかかわらず、既に衣の心は限界に来ており、かつ、この流れを何とかしなくてはと思っていた。

 そんな衣が選択した道は、差し込み。衣から視えているアカギの手牌は

 

 

北家 アカギ手牌

 

{二二三三四四①②③78北北}

 

 

 という形であり、奇跡的にすべての牌が視えていた。

 衣はアカギの待ちである{6}、{9}のうち{9}を持っていた。

 役は一盃口のみの安手({北}は自風のため平和はつかない)、差し込みには絶好の形だった。

 無人島でSOSの信号を空のヘリに送るように、助けを求めるように彼女は{9}を切った。

 しかし、アカギはスル―。見向きもしなかった。衣の表情はさらに絶望感を増した。

 その光景を、もちろん福路は見逃さなかった。

 

(あの{9}…差し込みね。王子様に助けを求めた…か。残念だったわね天江さん。天江さんの視点移動から、アカギ君の手は全部視えている。{9}は、間違いなくアタリ牌…)

 

 福路も手牌に余り牌という形で{9}を所持していた。

 

 

東家 福路 手牌

 

{七七八八九九九九349西西}

 

 

(アカギ君は今ラス…。直撃を奪いたいとしたら、当然私から。直撃狙いの麻雀は、彼もする。当然山越しだってする。天江さんの差し込みの見逃しは、私からの直撃狙いの布石、と言ったところかしら。私はそんな陳腐な作戦には引っかかりませんよ?)

 

 福路のこの考察は、次の瞬間に崩れ去った。

 衣からの差し込み拒否の同巡、アカギは{9}をツモ切った。

 

「え?……」

 

 福路は思わず声を出してしまった。

 

「あ…その…すみません。なんでもありません……」

 

(どういうこと?その牌を切ったら…私からの直撃は出来ない。ツモアガリもしない…。狙いは一体何…?)

 

「通るのか?」

 

「え……えぇ…」

 

「なら…リーチだ…」

 

 ますます福路には理解できなかった。差し込みも、ツモアガリも拒否してのリーチ…。メリットなどどこにもない戦術…。

 福路は同巡{2}をツモる。{9}が安牌と知った今、躊躇わず打{9}でテンパイにとった。しかし、リーチは自重した。

 

「ツモ…一発・・・裏は二つ…3000・6000の四本場…」

 

 

北家 アカギ手牌

 

{二二三三四四①②③78北北} ツモ {9}

 

裏ドラ {北} 

 

リーチ 一発 ツモ 一盃口 裏2 3000・6000の4本場

 

 

(これは…こんなことが?偶然?それとも、彼も視えているの?)

 

「ふー。……やっぱり手ごわいなあんた…。まったく…堅い」

 

 アカギは福路に言った。

 

「あ……はい?……」

 

 若干混乱気味だった彼女の反応は鈍かった。

 

「こうでもしなきゃあんたは揺るがないからな…」

 

(まさか…私を動揺させる為『だけ』に今のリーチを…?もしかしてツモる確証なんて、無かったの?……。そんな、いやあり得るわ。彼は県大会決勝。負けられないはずの戦いでも、平然とノーテンリーチをした。しかも、その結果はまったく報われないものだった。でも華菜は、それに惑わされた…。鶴賀は、それで足を止められた…)

 

 

 

南三局 親 久 ドラ{四}

 

 

「リーチ」

 

西家 アカギ 捨て牌

 

{横北}

 

 

 そのダブルリーチは福路を思考の迷宮に引きずり込んだ。

 

(ダブル…リーチ…。待ちは…まったくわからない。一応、手牌に{北}(現物)はあるけど

…。この局は降りれるだけ降りるわ…)

 

北家 福路 手牌

 

{二三四①②③⑤347南西北} ツモ {2} 打 {北}

 

(これだけの配牌をもらって降りないといけないなんて。でも『観察』は捨て牌が観えての観察…。ダブリ―はどうしようもないわ…)

「チー」

 

 次巡、衣が久から、{2}を鳴いた。{3}、{4}を持っての両面チーだった。

 

(天江さん…流れを変えようとしているの?)

 

「カン」

 

 ダブリ―をしたアカギが{8}を暗槓をした。新ドラ表示牌は{7}…。つまり新ドラは{8索}。ドラ4が確定した。

 

(なんて…運…。いや…この光景…)

 

 福路は県大会決勝、大将戦を思い出した。その前半戦東一局、東二局とほぼ同じ光景だったからだ。

 アカギがリーチ後、暗槓をし、槓ドラが乗る。その光景と。しかも、その時のアカギのリーチはノーテンだった。

 

(まさか、このリーチ……ノーテン?…じゃあなんで。あ・・・)

 

 暗槓が入ったことにより、その局の海底は衣…。つまり、自分が降りることで…衣が海底をツモるかもしれない。

 そう福路は思ってしまった。

 

(いや・・・それなら筋が通るわ。ダブリ―をしたのは、その時の海底が天江さんだから。暗カンをしたのは、天江さんがチーをして海底がずれたから(暗カンをすれば海底は天江さんに戻る)。天江さんにもう一度流れを掴まして、私を削るつもりね。確かに、自分の麻雀は比較的に堅いものだと思う。振り込みもほとんどしない。だけど、流れを掴んだ天江さんには、振り込むかもしれない。天江さんには牌が視えている。さっきのアカギ君のように、全ての牌が透けてしまう…そういうこともあるかも…)

 

 福路は降りず、最速でアガる道に切り替えた。

 

(ノーテンなら…攻めれる。上埜さんや、天江さんに今流れは無い。これだけの配牌をもらっている私には、まだ勢いがあるわ)

 

北家 福路 手牌

 

第二ツモ {6} 打 {西} {二三四①②③⑤23467南}

第三ツモ {5} 打 {南} {二三四①②③⑤234567}

第四ツモ {①}

 

(4連続有効牌…流れはある。打{⑤}を切れば三色付きもある。ここはリーチもかけよう。今は、何を切っても通るのだから)

 

「リー……」

 

 

 

「通らないな…。…ロン」

 

「は………?」

 

(え?)

 

アカギ手牌

 

{七八九[⑤][⑤]⑥⑦⑧東東} 暗槓 {■88■} ロン {⑤}

 

ダブリ―ドラ4赤2(裏ドラ無し)   16000

 

 

 

(…………やられた………完全に私…乱されてる……)

 

 彼女の敗因を述べるなら、考える必要もない部分まで思考を巡らしてしまった点である。

 アカギのダブリ―の意図など、あるいは衣の『海底撈月』など、考える必要など無かったのだ。そこまで考えてしまったのは、アカギのミステリアス性を含んだ戦術に、福路が呑まれてしまった…ただそれだけのことだった。

 

 

 

 

南三局終了時

 

アカギ  45500

福路   19400

久    20900

衣    14200

 

 

 

南四局  親  衣 ドラ{1}

 

 

 オーラス、衣に流れが訪れた。『海底撈月』の支配である。満月でない今…その支配は弱く、この半荘に訪れるかどうかもわからなかった支配だが、ようやく訪れた。

 

「衣は、やっぱりこっちの方がいい…」

 

 海底一巡前(海底はアカギ)衣は{2}を暗槓(海底は衣)し、そしてリーチした。当然のように、結果は一発ツモに終わった。

 

東家 衣 手牌

 

{五六七九九九777①} 暗カン {■22■} ツモ {①}

 

リーチ 一発ツモ 三暗刻 海底撈月

 

 

 

南四局終了時

 

アカギ 39500

福路  13400

久   14900

衣   32200

 

 

「満月だったら…これで衣がドラを乗せて勝っていたんだからなアカギ!」

「おいおいまだ勝負は終わってないぜ。お前親だろ。連荘しろよ」

「当然だ!」

 

(もう流れは来ない…かな…)

 

 福路は半ばあきらめていた。ずっと開いていた右目も、もう閉じていた。

 

「キャプテン!!!」

 

 後ろから、声……後輩の声…。池田華菜が、そこにいた。

 

「華菜?どうしてここに?」

「どうしてって部屋にいなかったですから…探していたら、ここにキャプテンがいて…ってそれより、キャプテンあきらめないでください!」

 

「え?私…そんな」

「諦めてますよ!背中からそんな感じ、伝わってきます!」

 

「ククク…言われちまったな…」

 

「うるさいな、お前は黙ってろ。一年のくせにキャプテンに向かって…」

 

「いえ…いいのよ華菜…ありがとう…。でも私、諦めてたわ。風越のキャプテン、失格ね」

 

 その声は、半分涙声となっていた。

 

「そんなこと!無いですよキャプテン。情けないこと言わないでください」

「ええ。…だから、私は…もう一度頑張るわ。華菜が経験した絶望…それとは程遠い点差…まだ逆転もできるわ。私…あきらめないわ」

 

「キャプテン!」

 

「おい。話は終わったか?賽を回すぞ」

「ふん!天江衣!あれであたしに勝ったと思うなよ!この合宿で、お前をギッタンギッタンにしてやるんだからな!」

 

(合宿…そうね…合宿はまだ…始まったばかりだわ……)

 

 

 

南四局一本場 

 

 

「あのさぁ…」

 

 久が頭を掻きながら言った。

 

「上埜…さん?」

 

「あ、私の昔の姓知ってるの?あ、そっか三年前は上埜だったわね。いやそれより、ちょっと私が空気かなーって思ってさ」

 

「それが…どうかしましたか?部長?」

 

「つまりさ、私が言いたいのは…あ、そこの風越の大将じゃないけど…」

 

 彼女は一度大きなため息をした。

 

「そろそろまぜろよ!ってことよ!」

 

「パクんなし!!」

 

 

 四校合同合宿は…まだ始まったばかりである。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。