アカギ、傀、竜が清澄高校麻雀部に入部したそうです   作:叶芽

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#17 東横桃子

 

 

 

 

 

 

―――うわっ…びっくりしたぁ……いたんだ

 

 

 

 

―――こわ………

 

 

 

―――背後霊……

 

 

 

 

―――気持ち悪い………

 

 

 

 

 小学生の頃……言われていた。で、泣いていた。だから私は自分を消した。それらの言葉も言えないくらい、存在感を消し去った。認識すら出来ないのだから、怖がられることもない。

 でも、先輩に出会って変われた。たぶん今なら、誰に何を言われても平気。私には先輩がいる。先輩が私をみてくれる。世界が私を嫌っても、先輩だけは私を好きでいてくれる。だから私は先輩が好き………。でも…。

 

 

 

東四局 親 傀 ドラ {⑨}

 

「ツモ。裏なし……6000・12000…。傀、お前の親かぶりだな」

 

西家 加治木 手牌

 

{①①⑨⑨東東南南白白中中発} ツモ {発}

 

リーチ ツモ 七対子 混一色 混老頭 ドラ2 6000・12000

 

東四局終了時

 

久   15200

加治木 53200

桃子  20900

傀   10700

 

※席順はタチ親の久から、加治木、桃子、傀の順

 

 

 

「その手を鳴かずにアガれるとわねぇ……」

 

 なんだろう……

 

「この面子で鳴いてアガれるとは思っていないさ」

 

これ……

 

「私も頑張らなくちゃ…かな?」

「頑張ってくれないと困る。私たちを負かして、全国に行くのだからな」

 

 先輩は……笑っていた。とても自然に笑っていた。私に向ける笑顔と違って、すました笑顔って感じではなくて、とにかく自然、そんな感じの笑顔だった。

 

「それにしても傀…また東場はノー和了か?それともまた南場で爆発でもしてくれるのか?」

 

 よく……いつもよりよく喋っているように見えた。そして何より、楽しそうだった。どうしてだろうか。相手が強いからだろうか。清澄の部長さんとは合宿前も会っていたとさっき言っていた。それに…この男子に対してはさっきから呼び捨て…。

 

 

南一局 親 久 ドラ {⑧}

 

 7巡目、清澄の部長さんは上家(傀)から生牌の{西}(オタ風)を大明カンし、そしてドラの{⑧}を切った。カンドラ表示牌は{南}、{西}はごっそりドラに化けた。

 

東家 久 捨て牌 鳴き牌

 

{九北三④白発}

{⑦⑧}

 

チー {横123} カン {横西西西西}

 

 ドラ入りの両面塔子({⑦}、{⑧})を手出ししている。混一だろうか。

 次巡、彼女は{[5]}をツモ切った。イッツーなら{4}{5}{6}で赤{5}は残す。その時河に役牌はみえていて、{①}は死んでいて三色も無かった。つまり、本筋は混一かチャンタ。{[5]}を切ってるから両方かも。

 同巡先輩は{5}をノータイムで合わせ打ちした。そして私の番。

 

西家 東横 手牌

 

{三三三五七②②②56789} ツモ {[⑤]}

 

 赤牌。でも混一でもチャンタでもこれは通る…。それに…この人には私は視えて無いはず…。

 

「モモちゃんそれロンよー。18000」

 

東家 久 手牌

 

{456789⑤} チー {横123} カン {横西西西西} ロン {[⑤]}

 

一気通貫 ドラ4 赤1 18000

 

 悪待ち……。そういえばこの人は悪待ちの人だった。それに『モモちゃん』?馴れ馴れしい。しかし、まだ消えれていなかった。調子が狂わされていた。この人や、そこの男子の所為だと思いたい。

 

「まさかモモちゃんから直撃取れるとはねー。ステルスってのは時間が掛かるのかしら」

 

 いちいちうるさいっす。

 

「さすがだな久」

「同巡止めているくせによく言うわねー」

 

 先輩は私には何も言ってくれなかった。それどころか、私を攻撃した者と楽しく談笑していた。まるで…私が居ないみたいに。

 思い返してみるに、先輩はさっきの半荘からおかしかった。ずっと、清澄の男子の方をみていた。

 先輩は…どう思っているのだろう。もしかして、そこの清澄の部長さんやそこの男子のことが好き?明らかに今の先輩はいつもと違う。楽しそう…。私と居る時よりも。私は先輩が好きだった。でもそれは私からの一方通行に過ぎなかったのだろうか。

 今、先輩は私をみていない。いつもなら真っ先に「もも大丈夫か」とか「ももはさっき傀にも振り込んでてな、調子が戻らないんだ」とか言ってフォローに入ってくれるはずだった。今そうでなってないということが、先輩が私を想ってくれていない証明としか思えなかった。

 所詮は私の想いは一方通行で、先輩が私をみてくれていたのは、先輩の矢印の先が他に無かったからで、他に出来てしまえば、私なんか要らないんだ。そうなんだ…きっと……。私はなんてバカなんだろう。

 

 

 

 

―――私って、ほんとバカ……

 

 

 

 

 

南一局終了時

 

久   33200

加治木 53200

桃子  2900

傀   10700

 

 

 

 いや…元に戻るだけか。私を誰もみえなかった、あの頃に。

 消えよう。もう、傷つくのはいや。だから消えよう。

 

 

 

 

 

―――消えろ

 

 

―――消えろ………東横桃子……

 

 

―――もっと……もっと……

 

 

―――もっと……………………

 

 

 

 

 誰の記憶にも残らない。記録にも残らない。それが私。

 

 

 それが私なんだ。

 

 

 

 

 

 

―――ロン……リーチ、七対子、3200は3500っす。

 

 

西家 桃子 手牌

 

{①①③④④22西西北北発発} ロン {③}

 

ドラ無し リーチ 七対子 3200の一本場(3500)

 

捨て牌

 

{七④①北発西}

{④2横①二}

 

 対面(久)からの直撃。我ながら見事な和了形と捨て牌だと思う。もうこの『三人』には私はみえていない。居たという記憶すらない。振り込んだことにも気づいていない。全員の合計点にも違和感を抱いていない。だから後になっても、自分の点が減っていることへの疑問も起きない。その証拠に、一時的だけど点棒を支払ったこの人の目は虚ろだった。点棒を払う動作は機械的だった。そして、何事も無かったように次局へ。前以上に恐ろしく奇妙な現象だけど、それが今の現実。

 記憶までも支配する。これが……本当の私。だから……

 

 

―――ロン。24000っす。

 

南家 桃子 手牌

 

{①②③③③④④⑤⑤⑥⑥⑦⑧} ロン {⑨}

 

リーチ 清一 一気通貫 一盃口 平和 ドラ無し 24000(子 三倍満)

 

 

 こんな高い手も作りやすい。今のはツモも良かったけど、危険牌は前以上に堂々と切れるのだから。

 私は三倍満を先輩から奪った。私は先輩の目をみた。虚ろだった。先輩にも…やはり……やはり今の私はみえていなかった。みえて……いなかった……。

 

 

 

―――これで……誰も私をみえなくなったんすね。本当に。

 

 

 

 私の声も、誰にも届かない。

 たぶん、涙くらいは流していたんだと思う。でも………もういい。

 

 

 

南二局終了時

 

久   29700

加治木 29200

桃子  30400

傀   10700

 

 

 

 南三局、親は私。今三人にはどう認識されているのだろう。私が連荘していたら、いつの間にか点数がゼロになっていて、そしてゼロになっていることも気づかない。もう……勝負じゃないすね。これ……。ハハ……ハハハ………。アハハ……。

 

 

 

 

 ?

 

 

 

 

 清澄の男子……ツモらない?私はもう牌を切った。{東}。この牌は決してみえない。でも自分の番が来たことは分かっているはず。なのに…何故?

 この光景…前にどっかで……。いや……あり得ない。それはあり得ない。今の私は、あのおっぱいさんにもみることは決して出来ない。場に出た牌の記録さえも…残らないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――『御無礼』  ロンです  32000  

 

 

 

 

 

  

 

―――東横さんのトビで終了ですね

 

 

 

 

 

 

 

 は………?

 

 

 

 

 傀 手牌

 

{一九①⑨19東南西北白発中} ロン {東}

 

国士無双十三面  32000 (ダブル役満は認めていない)

 

 

 

 私の第一打を……ロン(人和は認めていない)。国士無双……十三面……。ありえない……。こんな……。

 

南三局終了時

 

久   29700

加治木 29200

桃子  -1600

傀   42700

 

 

 

「え?あれ?終わったの?」

 

 まるで今まで寝ていたかのような、そういった様子だった。

 

「も………も……?」

 

「どうしたんすか?先輩」

 

「……これ…は?」

 

「みえて……いなかったってことっすよ。先輩たちが」

 

「そんな…馬鹿な。私が、お前を視えなかったなんて…」

 

「気にしないでくださいっす。もう……いいっすから……」

 

 そんなことより、私には気になることがあった。

 

「傀さん……何者っすか?みえるはずのない私を、なんでみえたんすか?」

 

「視えるとか視えないとか…」

 

「そんなことを訊いているんじゃないっす!人間に!さっきの私がみえるはずはなかったんすよ!傀さん……。傀さんは……本当に人間っすか?」

 

 少し間を置いて、傀さんは言った。

 

 

 

 

 

 

―――自分は…『むこうぶち』ですから……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 むこうぶち……。傀さんも、私に似ているのかもしれない。いつの間にかそこに居て「なんで居るの?」「いつから居るの?」とか言われるタイプなのかもしれない。そういった雰囲気を、傀さんから感じた。

 

 

 

 後で、私はその言葉の意味を知った。そして、一つの疑問が上がった。

 

 

 

 なぜ傀さんは今………『そこ』に居るのだろう、と…。

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

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