アカギ、傀、竜が清澄高校麻雀部に入部したそうです   作:叶芽

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#18 国広一

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―――透華を取られる……透華が取られる………あの人に透華が……透華があの人に……いや……いやだ…………いやだそんなの…………勝たなきゃ……あの人に勝って……勝てば……きっと透華は………

 

―――……あの人を負かす……あの人が負ければ……透華はわかってくれるはず……透華には……あの人はいらない……透華の世界に、アイツはいちゃいけないんだ…………

 

 

 

「ふっ……」

 

 

―――笑った……またあの人が笑った……………

 

 

 

 

 

 合宿も残り二日となった。最後の一日は各校が帰宅となるため、事実上最後の一日である。

 もうその頃には、国広一は確信せざるを得なかった。龍門渕透華の異変。最早彼女の目に映っているのは自分ではなく、清澄の竜であることに。このままでは透華を取られる。そう思った彼女は竜に挑んだ。しかし

 

 

 

「悪いナ……それロンだ………」

「ぐっ……」

 

 

 彼は牌を倒す。彼女の心を見透かしたように、嘲笑うかのように。はじめにはそうされているようにしか思えなかった。三戦連続で飛ばされ、もう彼女は震えを止めることが出来なかった。怒りなのか、悔しさなのか。それらに耐えることはもう出来なかった。

 

「透華、ごめん……」

 

 後ろで対局を観ていた透華に対し、はじめは言った。そして彼女は、自分を曲げた。

 

「はじめ!?」

 

 四回戦目冒頭、東一局、彼女はダブリ―をした。しかしその手牌は

 

{四五九⑦⑦⑧⑨345699}

 

 悪くない配牌だが、聴牌には程遠い形。彼女のした行為はノーテンリーチだった。しかし、透華は知っている。このリーチは脅しのためのものでは無く、和了るためのリーチであることを。国広一が『手品』をするということを。

 

「ツモ……ダブリ―ツモ平和、ドラ2……3000・6000」

「あわわ、親かぶりです……」

 

東一局終了時

 

妹尾   19000

竜    22000

咲    22000

一    37000

 

 親かぶりを受け、困惑したようなそぶりをする妹尾を、はじめは一瞬睨み付けた。前三回戦のうち二回戦、はじめは彼女にも苦しめられたからである。

 

「はじめ……今………あなた……」

「だから……ごめん透華。でも……勝たなきゃ駄目なんだ……」

「でも!……」

「もう透華に嫌われてもいい……でも透華が、あの人の所に行くのは、ボクは耐えられないよ……」

「はじめ?な、何を言って……」

 

 『手品』を防ぐための拘束具は、もはや機能などしていなかった。彼女がその気になれば、拘束具など外さなくとも手品は出来る。彼女にとってツモは、不要牌を山に戻す作業と化している。今は、監視カメラなど無い。

 

「あンた、手品師かい?」

 

 対面の竜が、言った。

 

(!?……今のが……視えたの?たった一回で……いや、それでも)

 

「……何?何か言いたいことあるの?」

 

 竜は何も返さなかった。

 

(もし視えていても、カメラが無い以上現場を押さえなければ意味がない。ボクの早さに、あの人が追いつけるものか……)

 

 彼女のしたイカサマはいたってシンプル。ツモの際、不要牌を山に戻し、山から一牌抜く。誰にも気付かれず、静かに、そして早く。ダブリ―の状態でも手は変えることが出来、ツモは通常の二倍。

 彼女はそれだけでなく、カンをしての嶺上牌、裏ドラのすり替えなど、自動卓で出来る範囲の、かつ無難な技を駆使し、続く東2局、東3局、たった三局で彼女の点は6万弱まで伸ばした。

 しかし、竜は何もしなかった。そんな彼を見てはじめは、自分の早さに追いつけない、現場を押さえることなど出来ないと確信した。だが

 

「あ……ツモりました!………地和……でしょうか……和了ったの、初めてです!」

 

 それは、東4局で早くも崩壊した。妹尾の止めようの無い地和。つまり運の前には、早く和了る、あるいは手を高くするためのイカサマなど、何の意味も無い。彼女にとって不運なのは、彼女を囲った全員がそれを持っていたということだ。

 

 全自動卓で天和を起こせでもしない限りは。

 

(でき……ないこともない……でも……)

 

 『道具』はある。『インビジブルスレッド』0.1ミクロン程度の太さしかないが、1㎏の荷重に耐えることのできる「魔法の糸」。

 この自動卓の種類はアルティマ。この糸を利用したイカサマ、自動卓天和は存在する。

 だが前提として『仕込む』ためには、ある程度局が進まなくては牌を集めることが出来ず、厳しい。一枚一枚、牌に糸をセットする必要があるからだ。

 地和であがられたこの局がまさしくその例であり、牌に仕込む時間すらない。

 

「カン」

「うっ……」

 今度は、宮永咲のはじめからの大明カン。この局、王牌は咲の正面に配置されており、王牌をすり替える隙も無かった。そしてそのまま彼女は跳満をツモった。はじめの責任払いである。

 

(なんで……なんでこんな………嘘だ………嘘だ嘘だ嘘だ……)

 

 たったの二局。彼女は神を呪った。

 しかし、今回は仕込むことが出来た。天和のタネ。その13枚。

 

(これで…後は……)

 

「いけないナ……勝負に道具を持ちこんじゃ……」

 

(え!?)

 

 牌が卓に落とされ、スタートボタンを押し、手牌、山が上がったその時、竜は言った。

 はじめは、とっさに仕掛けを解いてしまった。

 

「あ……しまっ……」

 

(視えて……いたの?……肉眼で確認なんて出来るわけがないのに……そんな……)

 

 明確な『証拠』が存在するこのイカサマは『物』を取られた時点でアウト。彼女はそれを重々承知の上で行っていた。しかし、それ故に言葉一つで退いてしまった。

 

 そして、

 

「甘いな…」

 

 そしてまたも竜は牌を倒す。心無くした彼女の捨て牌が彼に喰われるのは必然であった。

 たった三局。彼女の目の焦点は平静を保っていなかった。それでも、手だけは技に向かっていった。

 

「はじめ!もうやめてくださいまし!…」

 

 透華ははじめの手を掴んだ。彼女は、1、2秒ほど掴まれたことに対し反応できなかった。放心状態に近かった。彼女はゆっくりと振り返り、透華の目を視た。

 透華ははじめのその瞳を見て、心が引き裂かれそうな思いになった。

 怯えていた。明らかに彼女は怯えていた。何に対して怯えているのか分からない。人は死ぬ前、こんな表情をするのだろうか。絶望なのか、恐怖なのか。

 

「……とーか………だめだよ……今、対局中だよ………?」

 

 力無いその声は、ますます透華の胸を引き裂こうとした。

 

「あの……大丈夫ですか?」

 はじめの異常は周りにもわかる程大きく、咲や妹尾は彼女を心配した。

「あの、少し中断しましょうか?国広さん…調子悪いみたいですし」

「わ、わたしもそうした方が良いと思い…ます」

「竜君も、いいよね?『まだ勝負は終わっていない』とか言わないでよ?」

 

 竜は俯いたままで応えはしなかったが、咲はそれを承諾と受け取った。咲ははじめの後ろで観ていた透華の方を向き、お願いします、とだけ言った。咲は竜の周りの人間関係に関心があり、かつ文学的想像力を持っていたのもあり、はじめの心理状態についてはある程度の理解があった。透華は咲に対し一礼だけし、はじめを手洗い場に向かわせ、自分も同行した。

 

「竜君……自覚ある?」

 

 彼女達が場を離れた後、咲は苦笑いを含めて竜に対しそう言ったが、竜は応えなかった。

 

 

 

 

「はじめ、言ってくださいまし。あなた一体……」

 

 彼女は俯いたまま黙っていた。透華に対し目を合わせようともしなかった。透華は同じ言葉を、今度は強く繰り返した。

 

「透華は!………」

 

 はじめは跳ねのけるように言い、そして続けた。

 

「透華は……あの人のこと……どう思ってるの……?」

「あの人って……」

「わかってるでしょ?清澄のあの人だよ」

「え?何を言って……」

「どう思ってるの?」

「どうって……な、何も思ってませんわ……」

「嘘……嘘だよ。わかるよ……透華のことなんて……………」

「はじめ……」

「ボクね……透華をあの人に取られるって思ったんだ…。……まあ、あの人もそんな悪い人じゃないよ。たぶん、カッコいいし。それにあの麻雀、ボクも少しだけど、見惚れちゃたくらいだし、透華の気持ちもわかるよ。でも、ボクはそれに耐えられない……だから」

「そんなことありませんわ!そんなこと……」

「あるよ!見ればわかるよ。ボク以外の人がわかるくらいなんだ。………だから、あの人を透華から消さなきゃ……勝って………勝てば………あの人は透華から消える………。そうしなきゃ、透華が……透華からボクが消えちゃうんじゃないか……って……」

「はじめ……」

「でも……ボクは透華との約束……繋がりを切っちゃた……。こんなこと、もうしないと思っていたのに……どっちみち……もう透華はボクのこと嫌いにな……」

「はじめ!」

 

 透華ははじめの頬を叩いた。

 

「はじめ……そんなことありませんわ………何で……そんな悲しいことを言うんですの?」

 

 声は震え、目には涙も溜めていた。

 

「はじめ……わたくしはあなたを嫌いになることなんてありえませんわ」

「でも……透華はあの人のこと……」

「あの人のことなど、あなたと比べたらちっぽけですわ!……あの人は、確かに魅力的な所があるのは…み……認めますわ…でも、それであなたがわたくしの前から去ってしまうのなら、耐えられませんわ。わたくしも………耐えられませんわ……」

「透華……」

「ですから……もう手品はおよし……。まっすぐなあなたが、わたくしは好きなのですから………」

 

 たったの一言。はじめが求めていたのはその一言だった。彼女は、繋がれている自分の鎖を見た。彼女は思った。この鎖がある限り、自分と透華は繋がっている。約束された繋がりなのだと。しかし心は、鎖から解き放たれたような、さわやかな気持ちに彼女はなれた。

 

 

 

 

 

 卓に戻ったはじめに対し、咲は言った。

 

「竜君は何も言わないから、私が言うけど、私達はイカサマはしていないし、そもそも『運』なんてものはないよ。だから……」

「わかっている……。だから、ボクの本当の麻雀を、これから見せる……」

 

 局は南2局一本場から再開された。

 

 

南2局一本場 親 竜 ドラ六萬

 

妹尾 40000

竜  39000

咲  19000 

一  2000

 

 

十二巡目 西家 一 手牌

 

 

{五六②③④⑤⑦235567} ツモ {七}

 

 

(まっすぐ……)

 

 

 三色を考えれば打{5}を選択する場面だが、彼女は打{⑦}を選択。素直な両面を作る道を選んだ。

 素直に…。それが彼女の選択。

 次巡彼女は{8}をツモり、打{②}でリーチ。そしてその素直さが実ったのか、さらに次巡、{1}、{4}待ちのうちの{4}の方を引き、一発のツモ和了りを見せた。

 

「一発ツモタンピンドラ1。跳満です」

 

 実際は場に{⑥}が一枚切られていたので、はじめの選択が客観的に正解と言えるものだったのだが、彼女自身は、そんな効率は何一つ考えていなかった。ただ純粋に、麻雀の基本「両面を作ってツモる」を実践しただけだったのだ。

 

(ん……)

 

 宮永咲はその和了に違和感を覚えた。何の変哲もない和了のはずだが、それは、龍門渕の天江衣や、彼女の姉、宮永照と同じ…異能性をその和了に感じた。

 国広一は、今何かを支配しつつある、と。

 

(次局から……たぶんカンは出来ない…)

 

 咲はそう感じた。

 

南3局 親 咲 ドラ {6}

 

 

「ポン」

 

 7巡目、咲は、対面の妹尾から{中}を鳴いた。

 

東家 咲 手牌

 

 

{②②②2345666}   ポン {中横中中}

 

 

(これで…残りの{②}は妹尾さんに流れちゃうけど、それ以上に、竜君のツモを国広さんにまわしたかった。たぶん…竜君のツモと、国広さんのツモは…かみ合わない……。今の国広さんに、通常のツモをまわしちゃいけない……気がする)

 

 咲の観察、予測は概ね的中していた。はじめも既にイーシャンテンであり、萬子なら何をツモってきても聴牌になる形だった。しかし、咲の鳴きにより、はじめがツモったのは字牌となった。

 通常の流れだったら、はじめは萬子をツモったのだろうか。それが定かになる前に、その局は妹尾が咲に親満を振り込む形で終了した。

 

(確認…した方が良かったかな……)

 

 咲は竜の捨て牌を観た。筒子の染め手を臭わせる形で、仮に竜が萬子を掴んだとしたら、それを切ると思ったからだ。

 しかし、考察するまもなく状況は変化した。

 

(え……?何……コレ……)

 

 南3局一本場、違和感は明確な寒気へと変貌し、咲の周りを包んだ。

 何かが……迫ってくる。

 

 

「リーチ」

 

(………!)

 

 それはダブリ―。何の変哲もないダブリ―。

 切ったのは{白}。咲は対子で持っていたので、間髪入れずに鳴いた。しかし

 

「リ…リーチします!」

「ごめん……それ……。7700は8000」

 

 妹尾が切った牌で和了した。妹尾は咲の鳴きにより、第一ツモで聴牌することが出来たが、そっくりそのまま振り込んだ理由となってしまった。彼女にはまだ降りるという技術は持ち合わせていなかったからだ。

 運の良さが仇となった

 否、今のはじめは、それさえも味方にしている状態だった。

 

 次局。オーラス。親ははじめ。咲は鳴き、とにかくツモをずらした。だが

 

「ツモ。2600オール」

 

 一発が消えただけで、もはや彼女を止めることは出来なかった。

 ただ、まっすぐ進むだけなのに、両面を作り、ツモるための麻雀をしているだけなのに、彼女は誰よりも早かった。何かに愛されているかのように。

 

 

 

 

南4局一本場 親 一 ドラ {八}

 

妹尾  14300

竜   30300

咲   25300

一   30100

 

 

 オーラス一本場。竜とはじめの点差は200。はじめは一飜ででも和了れば逆転となる。

 流れは間違いなくはじめにある。配牌はそれを物語っていた。

 

 

東家 一 配牌

 

{五六七八⑥⑦⑧23789東東}

 

 またも配牌聴牌。今の彼女なら、ダブリ―をかければ間違いなく最も早く和了るだろう。しかし、はじめはそう思いきることが出来なかった。

 

(あの人が……このまますんなり行かしてくれるかな……)

 

 彼女は少考した。透華によって解放された彼女は、もはや勝敗など気にしていなかったはずである。ただ素直に打てばいい。それだけだった。だが、今彼女の前には、彼女が初期に描いていた願望、竜に勝つ、それが戻ってきていた。

 

(もう……勝つとか、負けるとか……どうだっていい。………でも、勝てるかも……しれない)

 

 それはほんの僅かだった。しかしその僅かが、彼女に思考という愚行を与えてしまった。

 

(リーチは、しなくていい。いや……したら駄目だ……あの人は、動けなくなったボクを狙い撃ちしてくる……)

 

 県大会決勝、そしてこの合宿、彼女は竜をみてきた。その打ち筋、強さを知っている。実際に相対して、それを実感もした。その過程が彼女に『選択』を与えてしまった。

 彼女は{五}を切り、リーチは自重。しかし聴牌は維持。678の三色を意識しているのか。無欲と欲の狭間から出た一打。混乱、濁り。彼女はそれらに包まれている自覚はまだない。正確に自分を認識できていない。

 

「ポン」

 

 鳴いた。彼は鳴いた。

 

西家 竜 手牌 

 

?????????? ポン {五横五五}

 

(やっぱり…)

 

 はじめは、リーチ自重を正解と捉えた。たったの一鳴きだが、彼女には彼の鳴きが光って見えたからだ。

 竜から切り出された牌は、{⑨}。

 

「{⑨}だ。鳴かないのか?」

 

 その言葉は咲に対してだった。

 

({⑨}は、鳴ける……。でも鳴いても…正直、勝てる…気がしない……。けど、竜君から話しかけてくれたのは、ちょっと嬉しいかな…)

 

 彼女は{⑨}をポンした。この鳴きは勝つ勝たないというより、竜に対しての微かな感謝であった。

 

 咲は手牌から{③}を切った。今度は、妹尾が鳴いた。

 妹尾からは{西}が切られ、今度は咲が大明カン、嶺上牌は{⑨}で、それをまたカンした。嶺上牌は{⑦}。

 

北家 咲 手牌

 

{④⑤⑥⑧北北北} カン {横⑨(横⑨)⑨⑨} カン {西西西西} ツモ {⑦}

 

 新ドラは二枚とも{西}。咲は混一、{北}とドラ8の手を瞬時に手に入れた。

 咲の鳴きはあくまで、竜に対しての感謝である。しかし、完全に勝ちを諦めたわけではなかった。否、正確には諦めていたが、竜によって、もう一度彼女は歩を進めた。

 

(あまり信じたくないけど、妹尾さんのビギナーズラック…それは有るものだと仮定してやってみたけど……)

 咲の考えはこうである。妹尾の運が今、国広に負けているとしたら、配牌イーシャンテンからリャンシャンテン程度。妹尾の手牌にはカンの出来る{③}が三枚、咲がカン出来る{北}と、{西}を一枚ずつ持っている。

 カン材のありかがわかる咲の感性は、この合宿でさらに強化され、相手がカン出来る牌までも知ることが出来るようになっていた。

 以上のことから、彼女が推測した妹尾の手牌は

 

{③③③■■■■西北■■■■}

 

 という形であり、リャンシャンテンの妹尾が手を進めれば、必然的に西や北が溢れると読んだ。出来面子から{③}を切ったのはそのためである。

 

(カンされなくてよかったー。でも、この{③}はカンするより、ポンだよね。リャンシャンテンなら、きっと{③}は何かと連続している……と思う)

 

 そして咲は{⑤}を切った。理由はシンプル。次の嶺上牌は{④}。{⑧}は竜のカン材。妹尾の番が来れば、まず間違いなく、妹尾は{北}を切る。そして嶺上開花。それが彼女の計画。

 そういった彼女の『勝ちに行く』ために放たれた{⑤}を……竜は哭いた。

 

(やっぱり……うまくいかないなぁ……)

 

 鳴かれた彼女はため息をついた。しかしその表情は柔らかく、落胆の印象は無かった。

 悔しさ半分、嬉しさ4分の1、希望4分の1。

 

西家 竜 手牌

 

??????? ポン {五横五五} ポン {[⑤]⑤横⑤}

 

 切られた牌は白。

 

 咲の番が回ってきた。ツモってきたのは{1}。彼女の最後の希望は、妹尾まで番が回ること。彼女は希望は捨てはしなかった。

 

(その牌は……!)

 

 はじめは目を見開いた。

 {1}。リーチをしていたらあがっていた。最も早くあがっていた。もはや異能の証明でしかなかった。彼女は、何ものかに愛されていた。言うなれば『麻雀の意思』に。

 そして彼女のツモ番。ツモったのは{6}。

 

(どうしよう……『何を切る?』『どっちを切る?』『降りる?』『進む?』『リーチ?』『ダマ』?)

 

 言葉を知らなかった赤子が、急激に大量の言葉を与えられたかのように。(はじめ)は自分が混乱しているのをようやく自覚した。

 

(何が……起こっている?……何をすれば………?ヒントが……無い…)

 

 河にある牌は、{白}と、{1}のみ。豪運の彼女達故に起きてしまった現象。『運』が自分に対して牙を向いたのだ。

 

 

…………………………

 

 

 

―――考えろ…

 

 

―――考えろ考えろ……

 

 

―――あの人の『待ち』は……何?

 

 

(ボクは……ずっとあの人の麻雀を見てきた。解る……解るはず。解るはずなんだ)

 

(…………三色………三色だ……間違いない……あの人の狙いは三色同刻……)

 

(………そして……待ちは……9索……単騎……三色に向かったボクを……)

 

 

(いや……6索も……7、8索持ちのノベタン。どっちに行ってもアタリ……それがあの人の……)

 

(じゃあ……降りる?でも何を切れば……通る牌が………無い……)

 

(違う……降りたら……あの人に勝てないじゃないか……)

 

(それも違う!……そもそも……もう勝ち負けなんて………)

 

(あれ……?………ボクは………どうしたいんだっけ…………)

 

 

 

――― はじめ!

 

 

―――透華?…………透華の声………

 

 

 

「早く打ちなよ……時の刻みはあンただけの物じゃない」

 

 

 

………………………………

 

 

 

(はは……そうだね……ハヤク切らなきゃ……)

 

(もう駄目だ……。何を切ってもアタる……。あの人の麻雀はそうだ……)

 

(まるで後出しジャンケンのように……)

 

「はじめ!!」

 

 

―――違う!

 

 

(通る……何かは通る………。あの人が衣のように何かを持っていたとしても……心を読んでいたとしても……手牌が透けて視えていたとしても……『運』があったとしても……通る……通る未来は絶対にある……)

 

(それに……ボクに求められていることは『そんなこと』じゃない。透華が好きなボクでいたい……それだけなんだ………だから……)

 

 

「透華………ありがとう………」

 

 

 

 彼女はまっすぐ牌を切った。

 

 

 

「終わったな………」

 

 

 

 

 それがアタリ牌だったことに、彼女は少しだけ安心した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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