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―――透華を取られる……透華が取られる………あの人に透華が……透華があの人に……いや……いやだ…………いやだそんなの…………勝たなきゃ……あの人に勝って……勝てば……きっと透華は………
―――……あの人を負かす……あの人が負ければ……透華はわかってくれるはず……透華には……あの人はいらない……透華の世界に、アイツはいちゃいけないんだ…………
「ふっ……」
―――笑った……またあの人が笑った……………
◆
合宿も残り二日となった。最後の一日は各校が帰宅となるため、事実上最後の一日である。
もうその頃には、国広一は確信せざるを得なかった。龍門渕透華の異変。最早彼女の目に映っているのは自分ではなく、清澄の竜であることに。このままでは透華を取られる。そう思った彼女は竜に挑んだ。しかし
「悪いナ……それロンだ………」
「ぐっ……」
彼は牌を倒す。彼女の心を見透かしたように、嘲笑うかのように。はじめにはそうされているようにしか思えなかった。三戦連続で飛ばされ、もう彼女は震えを止めることが出来なかった。怒りなのか、悔しさなのか。それらに耐えることはもう出来なかった。
「透華、ごめん……」
後ろで対局を観ていた透華に対し、はじめは言った。そして彼女は、自分を曲げた。
「はじめ!?」
四回戦目冒頭、東一局、彼女はダブリ―をした。しかしその手牌は
{四五九⑦⑦⑧⑨345699}
悪くない配牌だが、聴牌には程遠い形。彼女のした行為はノーテンリーチだった。しかし、透華は知っている。このリーチは脅しのためのものでは無く、和了るためのリーチであることを。国広一が『手品』をするということを。
「ツモ……ダブリ―ツモ平和、ドラ2……3000・6000」
「あわわ、親かぶりです……」
東一局終了時
妹尾 19000
竜 22000
咲 22000
一 37000
親かぶりを受け、困惑したようなそぶりをする妹尾を、はじめは一瞬睨み付けた。前三回戦のうち二回戦、はじめは彼女にも苦しめられたからである。
「はじめ……今………あなた……」
「だから……ごめん透華。でも……勝たなきゃ駄目なんだ……」
「でも!……」
「もう透華に嫌われてもいい……でも透華が、あの人の所に行くのは、ボクは耐えられないよ……」
「はじめ?な、何を言って……」
『手品』を防ぐための拘束具は、もはや機能などしていなかった。彼女がその気になれば、拘束具など外さなくとも手品は出来る。彼女にとってツモは、不要牌を山に戻す作業と化している。今は、監視カメラなど無い。
「あンた、手品師かい?」
対面の竜が、言った。
(!?……今のが……視えたの?たった一回で……いや、それでも)
「……何?何か言いたいことあるの?」
竜は何も返さなかった。
(もし視えていても、カメラが無い以上現場を押さえなければ意味がない。ボクの早さに、あの人が追いつけるものか……)
彼女のしたイカサマはいたってシンプル。ツモの際、不要牌を山に戻し、山から一牌抜く。誰にも気付かれず、静かに、そして早く。ダブリ―の状態でも手は変えることが出来、ツモは通常の二倍。
彼女はそれだけでなく、カンをしての嶺上牌、裏ドラのすり替えなど、自動卓で出来る範囲の、かつ無難な技を駆使し、続く東2局、東3局、たった三局で彼女の点は6万弱まで伸ばした。
しかし、竜は何もしなかった。そんな彼を見てはじめは、自分の早さに追いつけない、現場を押さえることなど出来ないと確信した。だが
「あ……ツモりました!………地和……でしょうか……和了ったの、初めてです!」
それは、東4局で早くも崩壊した。妹尾の止めようの無い地和。つまり運の前には、早く和了る、あるいは手を高くするためのイカサマなど、何の意味も無い。彼女にとって不運なのは、彼女を囲った全員がそれを持っていたということだ。
全自動卓で天和を起こせでもしない限りは。
(でき……ないこともない……でも……)
『道具』はある。『インビジブルスレッド』0.1ミクロン程度の太さしかないが、1㎏の荷重に耐えることのできる「魔法の糸」。
この自動卓の種類はアルティマ。この糸を利用したイカサマ、自動卓天和は存在する。
だが前提として『仕込む』ためには、ある程度局が進まなくては牌を集めることが出来ず、厳しい。一枚一枚、牌に糸をセットする必要があるからだ。
地和であがられたこの局がまさしくその例であり、牌に仕込む時間すらない。
「カン」
「うっ……」
今度は、宮永咲のはじめからの大明カン。この局、王牌は咲の正面に配置されており、王牌をすり替える隙も無かった。そしてそのまま彼女は跳満をツモった。はじめの責任払いである。
(なんで……なんでこんな………嘘だ………嘘だ嘘だ嘘だ……)
たったの二局。彼女は神を呪った。
しかし、今回は仕込むことが出来た。天和のタネ。その13枚。
(これで…後は……)
「いけないナ……勝負に道具を持ちこんじゃ……」
(え!?)
牌が卓に落とされ、スタートボタンを押し、手牌、山が上がったその時、竜は言った。
はじめは、とっさに仕掛けを解いてしまった。
「あ……しまっ……」
(視えて……いたの?……肉眼で確認なんて出来るわけがないのに……そんな……)
明確な『証拠』が存在するこのイカサマは『物』を取られた時点でアウト。彼女はそれを重々承知の上で行っていた。しかし、それ故に言葉一つで退いてしまった。
そして、
「甘いな…」
そしてまたも竜は牌を倒す。心無くした彼女の捨て牌が彼に喰われるのは必然であった。
たった三局。彼女の目の焦点は平静を保っていなかった。それでも、手だけは技に向かっていった。
「はじめ!もうやめてくださいまし!…」
透華ははじめの手を掴んだ。彼女は、1、2秒ほど掴まれたことに対し反応できなかった。放心状態に近かった。彼女はゆっくりと振り返り、透華の目を視た。
透華ははじめのその瞳を見て、心が引き裂かれそうな思いになった。
怯えていた。明らかに彼女は怯えていた。何に対して怯えているのか分からない。人は死ぬ前、こんな表情をするのだろうか。絶望なのか、恐怖なのか。
「……とーか………だめだよ……今、対局中だよ………?」
力無いその声は、ますます透華の胸を引き裂こうとした。
「あの……大丈夫ですか?」
はじめの異常は周りにもわかる程大きく、咲や妹尾は彼女を心配した。
「あの、少し中断しましょうか?国広さん…調子悪いみたいですし」
「わ、わたしもそうした方が良いと思い…ます」
「竜君も、いいよね?『まだ勝負は終わっていない』とか言わないでよ?」
竜は俯いたままで応えはしなかったが、咲はそれを承諾と受け取った。咲ははじめの後ろで観ていた透華の方を向き、お願いします、とだけ言った。咲は竜の周りの人間関係に関心があり、かつ文学的想像力を持っていたのもあり、はじめの心理状態についてはある程度の理解があった。透華は咲に対し一礼だけし、はじめを手洗い場に向かわせ、自分も同行した。
「竜君……自覚ある?」
彼女達が場を離れた後、咲は苦笑いを含めて竜に対しそう言ったが、竜は応えなかった。
◆
「はじめ、言ってくださいまし。あなた一体……」
彼女は俯いたまま黙っていた。透華に対し目を合わせようともしなかった。透華は同じ言葉を、今度は強く繰り返した。
「透華は!………」
はじめは跳ねのけるように言い、そして続けた。
「透華は……あの人のこと……どう思ってるの……?」
「あの人って……」
「わかってるでしょ?清澄のあの人だよ」
「え?何を言って……」
「どう思ってるの?」
「どうって……な、何も思ってませんわ……」
「嘘……嘘だよ。わかるよ……透華のことなんて……………」
「はじめ……」
「ボクね……透華をあの人に取られるって思ったんだ…。……まあ、あの人もそんな悪い人じゃないよ。たぶん、カッコいいし。それにあの麻雀、ボクも少しだけど、見惚れちゃたくらいだし、透華の気持ちもわかるよ。でも、ボクはそれに耐えられない……だから」
「そんなことありませんわ!そんなこと……」
「あるよ!見ればわかるよ。ボク以外の人がわかるくらいなんだ。………だから、あの人を透華から消さなきゃ……勝って………勝てば………あの人は透華から消える………。そうしなきゃ、透華が……透華からボクが消えちゃうんじゃないか……って……」
「はじめ……」
「でも……ボクは透華との約束……繋がりを切っちゃた……。こんなこと、もうしないと思っていたのに……どっちみち……もう透華はボクのこと嫌いにな……」
「はじめ!」
透華ははじめの頬を叩いた。
「はじめ……そんなことありませんわ………何で……そんな悲しいことを言うんですの?」
声は震え、目には涙も溜めていた。
「はじめ……わたくしはあなたを嫌いになることなんてありえませんわ」
「でも……透華はあの人のこと……」
「あの人のことなど、あなたと比べたらちっぽけですわ!……あの人は、確かに魅力的な所があるのは…み……認めますわ…でも、それであなたがわたくしの前から去ってしまうのなら、耐えられませんわ。わたくしも………耐えられませんわ……」
「透華……」
「ですから……もう手品はおよし……。まっすぐなあなたが、わたくしは好きなのですから………」
たったの一言。はじめが求めていたのはその一言だった。彼女は、繋がれている自分の鎖を見た。彼女は思った。この鎖がある限り、自分と透華は繋がっている。約束された繋がりなのだと。しかし心は、鎖から解き放たれたような、さわやかな気持ちに彼女はなれた。
◆
卓に戻ったはじめに対し、咲は言った。
「竜君は何も言わないから、私が言うけど、私達はイカサマはしていないし、そもそも『運』なんてものはないよ。だから……」
「わかっている……。だから、ボクの本当の麻雀を、これから見せる……」
局は南2局一本場から再開された。
南2局一本場 親 竜 ドラ六萬
妹尾 40000
竜 39000
咲 19000
一 2000
十二巡目 西家 一 手牌
{五六②③④⑤⑦235567} ツモ {七}
(まっすぐ……)
三色を考えれば打{5}を選択する場面だが、彼女は打{⑦}を選択。素直な両面を作る道を選んだ。
素直に…。それが彼女の選択。
次巡彼女は{8}をツモり、打{②}でリーチ。そしてその素直さが実ったのか、さらに次巡、{1}、{4}待ちのうちの{4}の方を引き、一発のツモ和了りを見せた。
「一発ツモタンピンドラ1。跳満です」
実際は場に{⑥}が一枚切られていたので、はじめの選択が客観的に正解と言えるものだったのだが、彼女自身は、そんな効率は何一つ考えていなかった。ただ純粋に、麻雀の基本「両面を作ってツモる」を実践しただけだったのだ。
(ん……)
宮永咲はその和了に違和感を覚えた。何の変哲もない和了のはずだが、それは、龍門渕の天江衣や、彼女の姉、宮永照と同じ…異能性をその和了に感じた。
国広一は、今何かを支配しつつある、と。
(次局から……たぶんカンは出来ない…)
咲はそう感じた。
南3局 親 咲 ドラ {6}
「ポン」
7巡目、咲は、対面の妹尾から{中}を鳴いた。
東家 咲 手牌
{②②②2345666} ポン {中横中中}
(これで…残りの{②}は妹尾さんに流れちゃうけど、それ以上に、竜君のツモを国広さんにまわしたかった。たぶん…竜君のツモと、国広さんのツモは…かみ合わない……。今の国広さんに、通常のツモをまわしちゃいけない……気がする)
咲の観察、予測は概ね的中していた。はじめも既にイーシャンテンであり、萬子なら何をツモってきても聴牌になる形だった。しかし、咲の鳴きにより、はじめがツモったのは字牌となった。
通常の流れだったら、はじめは萬子をツモったのだろうか。それが定かになる前に、その局は妹尾が咲に親満を振り込む形で終了した。
(確認…した方が良かったかな……)
咲は竜の捨て牌を観た。筒子の染め手を臭わせる形で、仮に竜が萬子を掴んだとしたら、それを切ると思ったからだ。
しかし、考察するまもなく状況は変化した。
(え……?何……コレ……)
南3局一本場、違和感は明確な寒気へと変貌し、咲の周りを包んだ。
何かが……迫ってくる。
「リーチ」
(………!)
それはダブリ―。何の変哲もないダブリ―。
切ったのは{白}。咲は対子で持っていたので、間髪入れずに鳴いた。しかし
「リ…リーチします!」
「ごめん……それ……。7700は8000」
妹尾が切った牌で和了した。妹尾は咲の鳴きにより、第一ツモで聴牌することが出来たが、そっくりそのまま振り込んだ理由となってしまった。彼女にはまだ降りるという技術は持ち合わせていなかったからだ。
運の良さが仇となった
否、今のはじめは、それさえも味方にしている状態だった。
次局。オーラス。親ははじめ。咲は鳴き、とにかくツモをずらした。だが
「ツモ。2600オール」
一発が消えただけで、もはや彼女を止めることは出来なかった。
ただ、まっすぐ進むだけなのに、両面を作り、ツモるための麻雀をしているだけなのに、彼女は誰よりも早かった。何かに愛されているかのように。
◆
南4局一本場 親 一 ドラ {八}
妹尾 14300
竜 30300
咲 25300
一 30100
オーラス一本場。竜とはじめの点差は200。はじめは一飜ででも和了れば逆転となる。
流れは間違いなくはじめにある。配牌はそれを物語っていた。
東家 一 配牌
{五六七八⑥⑦⑧23789東東}
またも配牌聴牌。今の彼女なら、ダブリ―をかければ間違いなく最も早く和了るだろう。しかし、はじめはそう思いきることが出来なかった。
(あの人が……このまますんなり行かしてくれるかな……)
彼女は少考した。透華によって解放された彼女は、もはや勝敗など気にしていなかったはずである。ただ素直に打てばいい。それだけだった。だが、今彼女の前には、彼女が初期に描いていた願望、竜に勝つ、それが戻ってきていた。
(もう……勝つとか、負けるとか……どうだっていい。………でも、勝てるかも……しれない)
それはほんの僅かだった。しかしその僅かが、彼女に思考という愚行を与えてしまった。
(リーチは、しなくていい。いや……したら駄目だ……あの人は、動けなくなったボクを狙い撃ちしてくる……)
県大会決勝、そしてこの合宿、彼女は竜をみてきた。その打ち筋、強さを知っている。実際に相対して、それを実感もした。その過程が彼女に『選択』を与えてしまった。
彼女は{五}を切り、リーチは自重。しかし聴牌は維持。678の三色を意識しているのか。無欲と欲の狭間から出た一打。混乱、濁り。彼女はそれらに包まれている自覚はまだない。正確に自分を認識できていない。
「ポン」
鳴いた。彼は鳴いた。
西家 竜 手牌
?????????? ポン {五横五五}
(やっぱり…)
はじめは、リーチ自重を正解と捉えた。たったの一鳴きだが、彼女には彼の鳴きが光って見えたからだ。
竜から切り出された牌は、{⑨}。
「{⑨}だ。鳴かないのか?」
その言葉は咲に対してだった。
({⑨}は、鳴ける……。でも鳴いても…正直、勝てる…気がしない……。けど、竜君から話しかけてくれたのは、ちょっと嬉しいかな…)
彼女は{⑨}をポンした。この鳴きは勝つ勝たないというより、竜に対しての微かな感謝であった。
咲は手牌から{③}を切った。今度は、妹尾が鳴いた。
妹尾からは{西}が切られ、今度は咲が大明カン、嶺上牌は{⑨}で、それをまたカンした。嶺上牌は{⑦}。
北家 咲 手牌
{④⑤⑥⑧北北北} カン {
新ドラは二枚とも{西}。咲は混一、{北}とドラ8の手を瞬時に手に入れた。
咲の鳴きはあくまで、竜に対しての感謝である。しかし、完全に勝ちを諦めたわけではなかった。否、正確には諦めていたが、竜によって、もう一度彼女は歩を進めた。
(あまり信じたくないけど、妹尾さんのビギナーズラック…それは有るものだと仮定してやってみたけど……)
咲の考えはこうである。妹尾の運が今、国広に負けているとしたら、配牌イーシャンテンからリャンシャンテン程度。妹尾の手牌にはカンの出来る{③}が三枚、咲がカン出来る{北}と、{西}を一枚ずつ持っている。
カン材のありかがわかる咲の感性は、この合宿でさらに強化され、相手がカン出来る牌までも知ることが出来るようになっていた。
以上のことから、彼女が推測した妹尾の手牌は
{③③③■■■■西北■■■■}
という形であり、リャンシャンテンの妹尾が手を進めれば、必然的に西や北が溢れると読んだ。出来面子から{③}を切ったのはそのためである。
(カンされなくてよかったー。でも、この{③}はカンするより、ポンだよね。リャンシャンテンなら、きっと{③}は何かと連続している……と思う)
そして咲は{⑤}を切った。理由はシンプル。次の嶺上牌は{④}。{⑧}は竜のカン材。妹尾の番が来れば、まず間違いなく、妹尾は{北}を切る。そして嶺上開花。それが彼女の計画。
そういった彼女の『勝ちに行く』ために放たれた{⑤}を……竜は哭いた。
(やっぱり……うまくいかないなぁ……)
鳴かれた彼女はため息をついた。しかしその表情は柔らかく、落胆の印象は無かった。
悔しさ半分、嬉しさ4分の1、希望4分の1。
西家 竜 手牌
??????? ポン {五横五五} ポン {[⑤]⑤横⑤}
切られた牌は白。
咲の番が回ってきた。ツモってきたのは{1}。彼女の最後の希望は、妹尾まで番が回ること。彼女は希望は捨てはしなかった。
(その牌は……!)
はじめは目を見開いた。
{1}。リーチをしていたらあがっていた。最も早くあがっていた。もはや異能の証明でしかなかった。彼女は、何ものかに愛されていた。言うなれば『麻雀の意思』に。
そして彼女のツモ番。ツモったのは{6}。
(どうしよう……『何を切る?』『どっちを切る?』『降りる?』『進む?』『リーチ?』『ダマ』?)
言葉を知らなかった赤子が、急激に大量の言葉を与えられたかのように。
(何が……起こっている?……何をすれば………?ヒントが……無い…)
河にある牌は、{白}と、{1}のみ。豪運の彼女達故に起きてしまった現象。『運』が自分に対して牙を向いたのだ。
…………………………
―――考えろ…
―――考えろ考えろ……
―――あの人の『待ち』は……何?
(ボクは……ずっとあの人の麻雀を見てきた。解る……解るはず。解るはずなんだ)
(…………三色………三色だ……間違いない……あの人の狙いは三色同刻……)
(………そして……待ちは……9索……単騎……三色に向かったボクを……)
(いや……6索も……7、8索持ちのノベタン。どっちに行ってもアタリ……それがあの人の……)
(じゃあ……降りる?でも何を切れば……通る牌が………無い……)
(違う……降りたら……あの人に勝てないじゃないか……)
(それも違う!……そもそも……もう勝ち負けなんて………)
(あれ……?………ボクは………どうしたいんだっけ…………)
――― はじめ!
―――透華?…………透華の声………
「早く打ちなよ……時の刻みはあンただけの物じゃない」
………………………………
(はは……そうだね……ハヤク切らなきゃ……)
(もう駄目だ……。何を切ってもアタる……。あの人の麻雀はそうだ……)
(まるで後出しジャンケンのように……)
「はじめ!!」
―――違う!
(通る……何かは通る………。あの人が衣のように何かを持っていたとしても……心を読んでいたとしても……手牌が透けて視えていたとしても……『運』があったとしても……通る……通る未来は絶対にある……)
(それに……ボクに求められていることは『そんなこと』じゃない。透華が好きなボクでいたい……それだけなんだ………だから……)
「透華………ありがとう………」
彼女はまっすぐ牌を切った。
「終わったな………」
それがアタリ牌だったことに、彼女は少しだけ安心した。