【第三部】全国大会編では、臨海、白糸台高校のメンバーが宮永照を除き、他の麻雀漫画の混成メンバーになります。
明らかに高校生じゃない人もいますが、高校生です。
また、男女混合のため臨海女子は、臨海高校と表記します。
なお、白糸台高校の大将に関しては麻雀漫画のキャラではありません。
※原作と違い五位決定戦はありません。すみません。考慮してませんでした。
第三部以降の追加クロス作品は以下の通りです。
・兎―野性の闘牌
・ノーマーク爆牌党
・満潮ツモクラテス
・根こそぎフランケン
・凍牌
・serial experiments lain
・天-天和通りの快男児
・FATALIZER
これらに加えてもう一作品ありますが、その作品は登場した回の後書きに記します。
以上です。
#20 阿知賀女子学院
【第三部】 全国大会編
「和のいる風越女子は……県予選、敗退……?」
新聞でそのことを知った高鴨穏乃は愕然とした。
阿知賀女子は県予選を突破し、全国に駒を進めることが出来た。しかし、本来の目的である「原村和と全国の舞台で打つ」という本来の夢は、そこで潰えたのだ。
暫くの放心状態。家を出る気にもなれず、その日は学校の授業を欠席した。
授業が終わり、普段なら部室に行っている時間。普段なら有り余る元気を走りにまわし、向かっている時間。穏乃は部室に足を運んだ。しかしその足は重い。
「遅い!」
気力なくドアを開けた穏乃に浴びせられた、新子憧の恫喝。憧は、穏乃が「どうなっているか」など、見ないでもわかっていた。
「憧……和が…。和の高校が……」
普段の彼女からは想像も出来ないほどの、弱い声。
「わかっているわよ。ネットで観た。知った。だから?」
「だから……って和の高校が負けたんだよ?和は…全国に来ない……だから…」
憧は穏乃の頬をビンタした。言葉から間などなく、早かった。そして間髪入れず言った。
「その先の台詞を、ついてきてくれた灼先輩や宥先輩に言うの!?私達に負けたみんなに言える!?初瀬に言えるの?……そんなの私が許さないんだから!……」
「憧…そのへんで」
憧を止めたのは赤土晴絵。彼女は続けた。
「確かに、風越女子は名門。インターミドルの優勝者である原村和がそこに入った。なのに和の高校が負けたのはショックだったかもしれないね」
この言葉は嘘。赤土は知っていた。天江衣を。そして清澄の彼らを。風越女子が県予選を突破するのは、百分の1、否、万分の1の確率も無いことを。
「でも…」
それでも彼女は言った。
「全国で勝とう。全国で勝てば、和は穏たちのことを知ることが出来る。そして来年、きっと和は必死で全国を目指すはず。そこに穏たちも行けばいい」
「でも宥さんは……」
彼女は三年。今年の大会がラスト。仮に来年勝ち上がることが出来たとしても、その舞台に彼女はいない。
「私は、大丈夫だよ。私は、十分に楽しめたし、これからも十分に楽しめるんだもん。来年、私は選手としてはいないけど、みんなの頑張っているところが見れれば、それでいいの」
暖房をつけることが出来ない今。彼女は震えながらではあったが、精いっぱいの優しさが込められた言葉だった。
「それに、赤土先生を連れて行かないといけない…」
鷺森灼が言った。
「頑張ろうよ。穏乃ちゃん」
松実玄が言った。
穏乃は暫く俯いて、何も言わなかった。震えていた。
そして
叫んだ。
何もかもを吹き飛ばすように、大きな声で、強い声で。
自分の目標などわからない。どうすればいいかわからない。何もわからない。
だが、この叫びに、勢いにすべてを委ねたかった。
「打とう!全国で!」
言葉にした。本心ではない。まだ本心ではない。叫びの言葉、勢いの言葉。
だけど、いつかこれが本当になってくれることを、彼女は祈った。
◆
「各県の二位までとなら、戦っていいわけだ」
阿知賀女子麻雀部のミーティング。全国に向けてのミーティング。晴絵は全国大会までの七回の土日を使って、対戦相手の候補を決めて、試合を申し込むことを提案した。
「風越女子とも戦うことは出来るけど…」
「いやです」
穏乃が言った。憧はその後を続けた。
「結果…見ました。圧倒的でした。清澄。そして二位の龍門渕」
「まあ…点数だけならね」
「それに、あたしは感傷で和とは打ちたくない…」
「そう言うと思ったよ。じゃあ…長野の龍門渕でいいか?」
「はい!」
龍門渕側の都合もあったため、龍門渕とは最後の週に打つことになった。
「よおし。今の所全勝か。あとは龍門渕だけだな」
それまでの6週。阿知賀は、挑んだ全ての県の二位に全勝していた。
「でも、三筒牧のあの人には誰も勝てなかったです」
「荒川憩は去年の個人戦女子二位だからね。あれに勝てれば……」
赤土は言葉を止めた。
「先生?」
玄が心配そうに聞いた。
「ごめん。なんでもない。……総合力。三筒牧が北大阪で二位なのは、総合力で千里山に劣るってことでしょう。なら、個人で勝てなくても、総合力で勝てばいい…」
晴絵の頭によぎったのは、清澄、白糸台、そして臨海。その三つの学校の先鋒。
傀、宮永照、そしてヴィヴィアン。彼らにかかれば、先鋒で試合が終了しかねない。事実、傀は県予選決勝以外、ヴィヴィアンは全ての試合で先鋒で決着をつけている。『カウントダウン』だけは、どうしようもない。出来るなら、決勝、準決勝まで当たりたくない学校である。彼らには、総合力など何の意味もないかもしれない。持ち点10万のデスマッチ。あるのはそれだけなのだから。
そして七週目。龍門渕高校との試合の日が来た。
そして……。
「勝てない」
穏乃は呟いた。
これまで戦ってきた所とは桁が違った。特に天江衣。まるで山が全て見えているかのような打ち回し、場の支配力、そして高確率の海底撈月。
(まずいな)
晴絵は思った。
(このままでは、かつての私になる。だが、天江衣で躓いていたら、全国では危険なことになる。全国で戦うなら、ここは乗り越えてもらわないと……)
しかしその心配はすぐに払拭された。
穏乃は、すぐにまた衣に勝負を申し込んだ。
そして、また一人、また一人と、阿知賀のメンバーは怪物に挑んだ。臆することも無く。
(私より強い部分、あるじゃない)
「清澄って、本当に天江さんに勝てたんですか?こんなに強いのに」
穏乃が訊いた。
「ああ、そうだ。アカギ、赤木しげるが衣に土をつけた」
「やっぱり、すごいんですか」
「奴だけじゃない。傀や、竜も同じくらい強いぞ」
彼らの名を聞いた時に晴絵にあったのは恐怖、不安。観るだけでも彼らの闘牌は怖ろしい。その魔に、彼女達は喰われるかもしれない。それが全国大会。
だが、今の彼女達を見ると「何とかなってしまうんじゃないか」と思えた。期待、そして高揚。彼女達の表情にあるのはそれだ。天江衣も十分に全国区魔物だ。それに対して、臆せず向かえるのだ。希望はある。
晴絵は祈った。阿知賀の、彼女達に良き青春があることを。
◆
インターハイ5日目。
準決勝進出を決定した阿知賀女子だったが、二回戦、一位の千里山に圧倒的大差をつけられた結果となった。
優勝するためには、もっともっと強くなくてはならない。千里山に負けているようでは、白糸台、そして、決勝まで上がってくるであろう清澄、臨海には太刀打ちできない。論外なのである。
その日の夜、偶然、鶴賀学園の生徒である、東横桃子、蒲原智美と会った彼女達は、風越の原村和の友人ということがきっかけで、蒲原の祖母の家に招かれることになった。鶴賀のメンバーは、清澄の応援に来ていた。
阿知賀の彼女達は望んだ。強さを。
当然、一晩どころで強く慣れるはずもない。そう加治木ゆみにも言われた。だが、それでも打ちたかった。劇的な変化が無くても、前には進むのだ。それをやめたくなかった。
そして打つことになり、蒲原は風越の生徒もそれに誘った。
そこに現れたのは、主将の福路美穂子、宮永咲だった。彼女達が東京に来ていたのは、清澄の応援もあるが、個人戦女子において二人は全国出場を決めていたからだ。
卓を三つ用意し、準備も整って各々が席に着いた頃、穏乃は襖の方に目をやった。その襖はほんの少しだけ空いていた。気になった穏乃はそれを閉めようと襖の方へ足を運んだ。
「ひゃっ…」
声がした。誰か居る。聞き覚えのある声。穏乃は伸ばした手を止めた。
「もしかして、の…和……?居るの?」
そこから離れようとする足音。穏乃はすぐに襖を開けた。そこに居たのは、やはり和、原村和だった。
阿知賀のメンバーは個人戦の結果については知らなかった。知らされていなかった。個人戦など眼中になかったのだ。そして、監督の赤土はそのことを知っていた。知ってはいたが、彼女達のことを気遣い、伝えなかった。個人戦に登録していなかった後悔によって、全国大会でのモチベーションの低下、それを怖れた。
彼女達が麻雀部を作り、全国を目指してきた目的を聞いた加治木は、風越を呼ぶ際、原村和のことを伝えた。聞いた話から、彼女達は原村和が来ていることを知らないということが分かったからだ。
一方、穏乃たちが来ていることを知った和は、彼女達に会いたかった。しかし、話を聞いた和は、穏乃たちのことを思って、こっそりと覗くだけにする、ということにした。
だが、彼女達は対面した。
最初は言葉が出なかった。
だが、次の瞬間、穏乃は和に抱きついた。彼女の名を叫んだ。
そして、憧、玄も駆け寄って来た。
不安はあった。長い時間、住んでいた距離が彼女達の心の距離を離してしまうのではないかと。かつてあった距離はもうどこにもないのではないのかと。
しかし、そんなものは無かった。
どんな経緯であれ、和と再会できた。もともと掲げていたルートとは違ったが、そんなものは関係なかった。会って、抱き合えて、話せて、そして嬉しかったのだから。後悔なんて、あるわけない。故に、再会を喜び合う彼女達に、危惧されていたモチベーションの低下、というものは無かった。
ここで強くなろうという理由は、ここまで勝ち進んできた責任と、赤土晴絵のためだったからである。最初は目標の先に和が居たが、今は違う。阿知賀の女子たちは、改めて修行のお願いを加治木たちにした。
「じゃあさっそく打つかー。最初はどういう面子でいこうかー」
蒲原が言った。
「あの!」
穏乃が言った。
「んー?どうしたー?」
「私…和とは打ちたくありません」
「あ、あたしも」
憧も続いた。
「あの……どうして?」
和は訊いた。
憧は、自分たちが今ここに居る理由、麻雀部を作り、全国を目指し、駆け上がってきたその理由を改めて伝えた。
「だから、ここであたしや、穏乃が和と打つのは、なんか違うって感じがして…。あたしは……和とは全国の舞台で打ちたいかな…って」
「だから来年、絶対に『遊ぼう』!和!」
和は安心したように「そうでしたか。わかりました」と返した。穏乃たちもホッとした。
そして、修行が始まった。修行というにはあまりにも短い間ではあるが、それでも打つ。それが彼女達の選択だった。
阿知賀のそれぞれのメンバーはなるべくばらけるように面子を組み、穏乃が最初に打つことになった相手は、宮永咲、加治木ゆみ、東横桃子となった。
「確かに」
宮永咲が言った。
「確かに一日そこらでは変化はないかもしれないね。でも稀に、劇的な変化、考え方の変化が、たったの一局で訪れる時もある…。それを、私はあの合宿で知りました。竜君と打って」
「竜…?」
穏乃が聞いた。
「清澄の副将。鳴けばあがる、嶺上使い。そう言われていると思います。私はその人にコテンパンにやられたんだけど、でも、自分の麻雀に大きな変化があったの」
「そうっすね…。私も傀さんと打って色々変わったッす」
桃子が言った。
「モモ……あのときは」
「もう大丈夫っすよ先輩。私の勘違いでしたから。もう何度目っすか?」
そう言いながら、桃子は加治木に抱きついた。
「こら、モモ…これから賽を回すんだから……」
その光景を見て、阿知賀のメンバーの顔は赤くなった。それ以外のメンバーにとっては、もう見慣れた光景であった。
「モモと咲があの二人について言ってくれたなら。最後は私か」
桃子をもとの位置に戻させ、賽子ボタンを押し、加治木は言った。
「あの決勝は、私にとって忘れることのできないものとなった。アカギと打った時だ。確かに、半荘一回、あるいは一局で変わってしまう時もあるかもしれないな」
対局が開始された。
「あ……あれ?」
半荘一回目が終了した。
穏乃が驚いたのは、自分が思っていた点数と最終結果のまったく違ったことだった。
「オーラスがモモだったからな。仕方がないさ」
加治木が言った。
「え?え?」
混乱。理解しがたい現象。
「私、一位だと思っていたけど、なんでこんなに点が…」
「オーラス、私に振り込んだっすよ。親倍に。一位からラスに転落っす」
「これが……『ステルスモモ』…ですか?」
穏乃は恐る恐る聞いた。
「だいぶバージョンアップしてるっすけどね。東4局の記憶だって、無いと思うっすよ」
寒気。恐怖。これが全国区の領域。穏乃は思い知った。
「でも。これで驚いてたら、竜君たちにも、お姉ちゃんにもかなわないよ」
咲が言った。
「お姉ちゃん……宮永……宮永照の妹、ですか?」
「うん。私もね、お姉ちゃんに会って、打つためにここに、東京に来たの」
半荘二回目。今度は東場で穏乃は飛んだ。宮永咲の嶺上開花、その責任払いによって。
「東場だけで、嶺上開花二回って、すごい確率じゃないですか?」
「清澄の竜が現れる前までは、『嶺上使い』は咲の称号だったらしいな」
加治木が言った。
「加治木さん、それちょっと恥ずかしいですよ。あくまで風越の中だけですし」
結局、以後の対局でも穏乃が4着以外を取れることは無かった。
「あー勝てない。強すぎる。強すぎますよ!私、本当に天江さんよりも強い人がいるのか、正直信じることが出来なかったんですけど、本当なんですね……」
彼女はだらけるように仰向けに倒れた。
「でも、さっきのオーラスの君の『北』二回の見逃し。あれは正直驚いたぞ」
「あれであがっても逆転できないですし、このメンバーで連荘出来るとも思わなかったし…」彼女は起き上がって、言った。
「だが、ドラをツモるまで待てる度胸と勘、そうは出来るものでは無い。現に海底でモモが最後の北を切っている。本来なら、それで逆転だ」
「でも、全国にはもっとすごい人がいるんですよね。てことは、東横さんの牌を視えていて、そしてロン出来ないと、駄目なんですよ」
彼女は大きくため息をついた。
「私と同じ人はいないと思うっすよ。そして、ヒントを言うと、私を視えていなくても、勝つことは出来るっす」
桃子は姿を現して、言った。そして、傀のことを思い出した。
(そう、傀さんは私を視えていなかった。ただ牌を倒しただけ。勝つ流れを作り、その流れに沿って、牌を倒した)
「え?そうなんですか?どうやって、教えてください!」
勢いよくつめ寄られて、桃子は驚いたが、一呼吸おいて答えた。
「麻雀に真があればただ一つ。勝つことっすよ」
「あ、それ竜君が言ってたっけ」咲が思い出したように笑った。
穏乃は理解できなかった。
「えっと……どういう意味?」
頭の上ではてなが増加。パンクしそうになる前に、加治木が付け足した。
「ただ目の前の点棒を拾ったり、和了牌に飛びついたりするのではなく、完全なる勝利に的を絞る、と言えばいいかな。マネできるようなものでもないが、さっきの君の打ち方は、それに近い打ち方だと思う。だから、君の場合は自信を持てばいい。君は、狂気に身を委ねなくては出来ないはずのことを、普通の状態でやってのけてくれる、そんな気がする」
「そ、そうなんですか?…」
彼女が、三人の言っていることを理解することは出来なかった。
高鴨穏乃は、知る者ではなく、ただ先に進む者なのだから。
(でも…さっきのオーラス…最後のステルスには…ちょっと自信が持てなかった。高鴨穏乃さん…もしかしたら…)
桃子そう思うと、微かに笑みをこぼした。
◆
その時、勢いよく一人の女子が部屋に入ってきた。
「私もまぜるし!」
入ってきたのは池田華奈。久保コーチの手伝いの関係で福路たちと一緒に来ることは出来なかったが、用事に片がついたので、合流することが出来た。
彼女は福路のいる卓につきたかったが、すでにその卓は埋まっていて、しぶしぶ空いている卓に座った。そこには、宥、灼が既に座っていた。席はもう一つ空いていた。それを見た蒲原が、自分が入ろうか、としようとしたその時、灼が口を開いた。
「あの、原村…和さん。入ってくれますか?」
「え?…でも」
意外だった。まさか先ほどのやり取りの後で、自分が呼ばれるなど思いもよらなかった。
確かに、和は灼や宥とは面識がない。和に会うために全国に来たのはあくまで穏乃や憧、そして玄だ。だが、同じ阿知賀のメンバーだということで、躊躇いがあった。
「あの…いいのですか?」
和は恐る恐る訊いた。
「はい。原村さんに会うために全国に来たのは穏乃たちです。私や宥先輩はそれに乗っかっただけです」
彼女の本当の目的である、赤土のことについては言わなかった。照れがあった。彼女は続けた。
「原村さんはインターミドルの優勝者だということは聞いています。なら、打つべきだと思いました。私達も、強くなるべきだと思うので」
それを聞いた原村は、納得したように「わかりました」と言って、卓についた。
別の卓で打っていた穏乃たちは、ちらっとだけ視線を向けたが、すぐに自分の卓に意識を戻した。彼女達も『わかっていた』のだ。自分達は打たない。でも、宥や灼は『打つべき』なのだ。原村和は強い。県大会決勝では、風越は負けたものの、原村和と福路美穂子だけは、圧倒的プラスを叩きだしていた。だから、灼達の行動に対してどうこう言うことも、考えることも無かった。
「ツモ…1300・2600」
最初の半荘を制したのは原村和だった。その和了は早く、なにより効率的であり、合理的だった。納得してしまう強さが、彼女にはあった。灼達は思った。『強い』と。『強い』とは『こういうもの』なんだと。
「あの…」
オーラスが終わった直後、まだ、牌を卓に戻し始める前に、和が口を開いた。
「松実…宥さん。…手を見せてもらっていいでしょうか?」
「え?……あ、はい…」
開かれた手を見て、和は納得したような表情に一旦なり、直ぐに目を細め、鋭い口調で言った。
「なんでこの時にこの牌を切らなかったんですか?」
彼女の言っていることは、松実宥の奇妙な打ち筋についてだった。まるで、赤い牌に固執するような打ち回し。故に非効率的な打牌の箇所がいくつも見受けられた。和はそのことを指摘した。
「こ……これは……」
宥は答えた。自分が赤い牌にこだわる理由、その打ち回しについて。それを聞いた和はため息と共に言った。
「姉妹そろって『そう』でしたか…」
「そんなオカモチっだっけ?」
別の卓で打っていた憧が言った。
「オカルトだよ!」
穏乃が合わせた。
「もう、穏乃も憧も!」
それぞれの卓で、彼女達の笑い声。
温かい空気。かつてあった、あの時のような。
「いい友達ですね」
福路が言った。
「え?…ええ。まあ…。すみません。なんか、こっちだけで盛り上がってしまって」
同卓している憧は、少し照れ気味に返した。
「ううん。いいのよ。それ、ロン…8000。ラストね」
「わっ、また…」
連続三回の和了。さすがの憧も驚いた。
「福路さん…強い…」
玄も同卓していたが、玄はその半荘一度もあがらせてもらうことが出来なかった。また、その卓には妹尾佳織もおり、役満の親かぶりも受けた。
「勝てない…」
普段強気の憧であったが、弱気を漏らした。ベストは尽くしている。ミスは無かったはず、それでも、圧倒的点差をつけられて、負ける。ミスを連発していのが明らかにわかる妹尾にすら負けている。あまりにも理不尽。しかし、それが力の差というものなのだろうか。
「まだ、たったの半荘一回よ。あと、私が言っていいことじゃないけど、麻雀ってそういうものよ。大会だって、半荘は二回しかないの」
「でも!」
「でも、勝ちたい。その気持ちはわかるわ。でも、理不尽な結果になるのが、麻雀。それを、ここから先は痛いほど思い知ることになると思うわ」
「これから」
「決勝まで行けば、清澄や……臨海とあたるわね。間違いなくあの二校は決勝まで行くわ。あの人たちと打つと、思い知るわ。でも、決して自分を失わないで。自分のルールだけは曲げないで。私から言えることは、それだけ」
「自分のルール」
「強い人ってね。私の見る限るでは、自分だけの現実を持っているものなの。他人からみたら、ちょっとおかしい考え方でも、その人にとっては絶対、曲げられないもの。松実さん、あなたもそうよね?ドラを切れないんでしょ?」
「え?どうして、たったの半荘一回で……福路さんとは、あったこともなかったのに…」
「それも私のルール…この眼も…」
彼女は閉じていた右目を、開いた。
「正念場の時は、開くことにしているわ。だからと言って、何かが変わるはずはないんだけど、場や、相手が良く観える気がする。あなたの場合は、そうするまでもなく、ドラを大切にしているのがわかったわ。そうすれば、ドラが集まってくれるんでしょ?なら、それがあなたのルール」
「あたしだけの…ルール」
「それがぶれてしまったら、そこを突いてくる天才が、清澄にはいるわ」
「それって」
福路は微かに笑って、少し照れを含めて、その名を言った。