Lda1015
白糸台高校の決勝進出が決まった。
準決勝は、中堅の竹井さんが千里山の娘を飛ばしておしまい。
いつもは最低でも次鋒で他校を飛ばしていたんだけど、積倉さん、ちょっと不調だったのかな。オーラスのツモ、ちょっと安かったし。
千里山の娘、泣いていた。
これが、インターハイなんだなぁって思った。
それにしても、先鋒戦で倒れた娘、大丈夫かなぁ。
命を削って、未来を観たあの娘。
今度お見舞いに行こう。
お見舞いってのはちょっと違うかな。
こっそりと覗きに行く、かな。
……
決勝。今度こそ、たぶん私まで回ってくる、と思う。
そして、あの二人と打つ。
楽しみ。
ノイズが多くて、観ることが出来なかったこの時間の結末を、私は知りたい。
だから私は、ここに居る。
でも、おじさん…じゃないか。なんて呼ぼうかな。
赤木しげるのことを。
◆
【鉄壁保】
Bブロック準決勝、僕達臨海高校はまたも一位通過の結果を収めた。
そしてまたも先鋒戦での終了。
先鋒のヴィヴィアンは、起家でスタートし、冒頭「この試合に東二局は来ない」と宣言したが、その通りになった。開幕から彼女は仕上がっていたそうで、『カウントダウン』よる七連続和了。
これまでの傾向を観るに、あれの恐ろしいのは、開始した局から無条件で七連続和了が確定している、と言う点だ。打ち破る術も、まだわからない。あの傀ですら、何一つ対策出来ていなかった(ように見えた)。しかも、今回のあれは、打点の高さがこれまでと桁が違う。ゴミ手のように軽々と16000オールを連続であがっていく。やられた方はたまったものじゃない。
『カウントダウン』が終了した次局である七本場、宮守女子が清澄に振り込んで飛び、準決勝は終了した。
いや、あれは振り込みじゃない。差し込み。手なりに手を進めた先の放銃にも見えるが、僕は感じた。あれは懇願。「どうかこの化け物を止めてくれ。決勝で倒してくれ」そんな意思を込めた打牌。
宮守女子先鋒、小瀬川白望。これまで、表情に殆ど変化の無かった彼女が、微かに歪めていたのだ。
だが
僕たちの控室は荒れていた。モニター、ソファー、カーテン、窓。物という物が破壊されていた。
破壊したのはヴィヴィアン。
その理由は、D・Dが言うに『傀に笑われた』そうだ。
直後、彼女は傀を殺そうとしたのだろう。その殺気は、モニター越しでもわかった。鬼のような形相をしていたわけでは無い。あれはまるで昆虫だった。獲物を捕らえる、昆虫。昆虫の持つ殺気が、その瞬間にはあった。
だが、それは一瞬で消えた。彼女は止まった。そこから、傀が席を立つまでまるで金縛りにあっていたかのように、動かなかった。
傀は、笑っていた。表情だけではない。声を出していた。気味が悪かった。彼女を見下し、まるで敗北していたのはヴィヴィアンであったかのようだった。
D・Dは言った。「『あの』彼を見たのは久しぶりだ」と。
加えてこうも言っていた。「『暴虎』が戻ってきた」と。
この大会が普通じゃないのはさすがにわかる。
臨海のメンバーが、僕とケイ君以外全員転校生、インターハイ直前に急に就任してきた顧問のD・D、そして、明らかに年齢を偽っているヴィヴィアン(彼女が日本生まれ日本育ちというのも驚いた)。
裏に大きな組織があるような、そんな感じがする。
なんらかの実験が行われているような、そんな感じがする。
その中で、僕は打つ。
だけど正直、僕はそのことに対してあまり関心を持たなかった。
仮に、大きな何かが大会の裏で進行していたとしても、僕の麻雀に変化があるわけでは無い。僕は僕の麻雀を打つだけだ。
幸運なことに、決勝戦の白糸台高校の次鋒に、積倉がいる。団体戦で彼にリベンジを果たせる機会が来るとは思ってもみなかった(また先鋒戦で終了、ということが無ければだが)。彼は個人戦にエントリーしていなかった。
まさか公式の場で彼と打てるとは。
彼とは近所の雀荘に最近現れるようになり、僕とも何回か打った。そして全て完敗。
爆岡の爆牌を破ってから、自分の麻雀に大分自信を持てるようになってきた後だったものだから、さすがにキツかった。
そしてその後、ヴィヴィアン、D・D、そして清澄の三人のような化け物が次々と現れた。積倉以外にも、(団体戦以外では公式の場で打つこともないが)、宮永照、天江衣、神代小蒔だけでも、その麻雀の研究に追われていたという中だったから、頭がどうにかなりそうだった。
僕の『支配色』、爆岡の『爆牌』のように、様々な信仰を持つ者は沢山いる。麻雀で勝つには、その信仰を分析、研究しなくてはならない。気が遠くなりそうだ。
でも、僕はこの道を選んだ。
後戻りは出来ない。したくない。
僕は、今は目の前のことを考えることにした。
相手は『満潮』積倉手数。
◆
【熊倉トシ】
重い空気。無理もないね。
彼女達は泣いている。無理もないね。
彼女達の祭りは終わってしまった。
だけど、彼女達をこれで終わらせたりなんて絶対にしない。
でも、彼女達が決勝に進まなくて良かったとも、私は思っている。
この大会の裏で蠢く陰謀、計画、実験。仮に彼女達が決勝に行ったとしても、それに巻き込まれることはおそらく無い。
残酷なことだが、彼女達の力ではまだ、臨海や白糸台と勝負にならないからだ。勝負にならない限りは、巻き込まれることは無い。
だが、もしかしたら。
そのことを考えたら、やはり進まなくて良かった。そう思うことにした。
この大会の裏で行われているのは戦争。
白糸台のバックに居る共武会。臨海高校のバックに居る桜輪会との戦争。桜輪会は桜道会と同盟を組んでいる。共武会の目的は、桜道会を潰すため、今回の大会で桜輪会を吸収すること。トーナメントの抽選など有って、無いようなものだね。
このインターハイで優勝校に成れば、世間から注目されるだけでは無い。生徒のプロへの道が開かれるだけでは無い。金。マスコミ、CM、企業、麻雀プロ協会からの支援など、結果的に莫大な金がその学校に入ってくる。それが、組の資金、力に変わる。
もちろん、負けたからといって、組が力を失うわけでは無い。だが、共武会の挑発に、桜輪会が乗ったということで、この戦争は始まった。
負けたら、組は全てを失う。
それがこの大会の裏。
そしてD・Dは、その戦争を利用し、実験を行っている。
それがこのインターハイ。
赤木しげる。
彼もこの大会に出ているとは。つくづく彼は、そういった星の下に生まれたのだと、思わざるを得なかった。
彼とは『鷲巣麻雀』以来か。
言葉通り、若者の生き血を吸う、暴走した怪物、鷲巣巌。
それを止めるため、私は赤木君のサポートを依頼された。
鷲巣巌は、私の学生時代の先輩だった。堕落した彼を見るのは、そして打つのは辛かった。私のかつての生徒、隼君が対面に居たのも、その辛さを後押しした。
勝負は赤木君と鷲巣…鷲巣先輩との差し勝負。赤木君は血を賭け、先輩は金を賭けた。
勝負の前の決め、変わり果てた先輩の狂気に私は戦慄した。だけど、赤木君の狂気はそれ以上だった。対局中、衝撃を受けた場面はいくつもあったけど、思い返してみるに、あの彼の交渉が、最も彼、赤木しげるの狂気を象徴していた。
彼と似た種類の者、傀君や竜君とは打ったことがあったけど、彼とは、今も打ちたくない。
その彼らが、今同じ学校の生徒として、この大会に参加している。
彼らは、この大会にいったい何を残していくのか。
楽しみだね。
◆
【宮永咲】
「お姉ちゃん!」
買い出しを頼まれて、私はコンビニに行っていたんだけど、コンビニを出て、その先に見えた公園に、お姉ちゃんが居た。お姉ちゃんは一人、ブランコに座っていた。ギコギコと、小さく漕いでいた。私は走った。
「咲…」
お姉ちゃんが私を見た。本来なら結構恥ずかしい場面を見られているはずだけど、お姉ちゃんは動じてなかった。まっすぐと、私を見上げた。
「お姉ちゃん…久しぶり………」
うまい言葉が見つからない。あまりにも急だったから。
「お前は、私の妹ではない…」
お姉ちゃんは、淡々と、静かにそう言う。表情も冷たいまま。何で?どうして?
お姉ちゃんは、いつからそうなっちゃったの?
「そんなこと、言わないで…よ。お姉ちゃん…」
何で、そんな冗談みたいなことを言うの?
家を出る前も、お姉ちゃんは言った。お前は妹じゃない。
「お姉ちゃん…。私、もう、やめたんだよ?プラマイゼロ…」
プラマイゼロ。それが、お姉ちゃんを傷つけたんだよね?
家族麻雀。勝ちも負けも嫌った私の麻雀。そのせいで、お姉ちゃんはいつもラスだった。私が『勝負』すればきっとお姉ちゃんはずっとラス、なんてことは無かった。
私は、もうプラマイゼロをしない。勝つこと、負けることを怖がったりしない。
竜君に出会って、私は変わった。変わったんだ。
「咲…咲は勘違いしている」
やめて。
「私達家族が修復するなんてことは絶対に無い」
やめて。
「咲…。咲が怖かったのは、負けることじゃない。勝つことでもないのは、咲もわかっているよね?」
それ以上言わないで…。
「私が『照魔鏡』に目覚めた理由くらい。咲は知っているはず」
「やめて!お姉ちゃんそれ以上言わないで!」
知っている。解っている。でも認めたくない。そんなこと絶対に……。
「家族麻雀で負けていた私は、毎回お父さんに暴力を振るわれていた。殴られていた。蹴られていた。『失敗作』『失敗作』って。私の『照魔鏡』はそんな偽りの家族生活の中で身につけたもの…」
「やめて!」
「ねぇ……咲が怖かったのは、勝つことでも、負けることでもないよね?家族の【真実】をみるのが怖かったんだよね?」
「やめて!!!」
もう……もう、やめて………
ごめんなさい………
ごめんなさい、お姉ちゃん……。
でも、でも………
…・・・・・・・
・・・・・・・・・・
―――咲……。私は・・・
―――私は『失敗作』じゃないよね?
―――私は、ここまで来た。頂上まで…登りつめた……
―――お父さんは、もう私を失敗作なんて言わないよな?
―――咲………
◆
【岩倉玲音】
「先生!」
いけない、思わずびっくりして言っちゃった。
でも、だってあまりにも先生なんだもん。
原村先生、全然変わってない。
原村先生、おじさんと同い年って言うものだから、嘘だって思ってたけど、本当なんだ。
「え?」
びっくりされちゃった。そりゃそうだよね。
「この人、和の知り合い?」
「い…いえ……どちらさまですか?」
隣にジャージを着たポニーテルの女の子が居た。先生の、この頃の友達かな。
「あ、いえ……すみません。人違いでした……」
本当は違うんだけど、ここはこう言わないと、ね。
初めまして、じゃないんだけど、ちょっとさみしい。
「その制服、白糸台!もしかして、選手の方ですか?」
「穏乃、指差したら失礼ですよ」
ジャージの子が訊いてきた。
「あ、はい。大将を勤めています。岩倉、玲音です」
「大将……と言うことは、決勝で、私と打つ……」
「え?」
てことは
「私、阿知賀女子の大将、高鴨穏乃です!」
へえ。
「そっか…。じゃあ、よろしくお願いします、だね。高鴨さん」
「は、はい!よろしくお願いします!」
元気があって、面白そうな子。
楽しみが増えた。