アカギ、傀、竜が清澄高校麻雀部に入部したそうです   作:叶芽

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#26 DUVET その1

―――助けて 息が出来ない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇデイヴ。一つ聞いていい?」

「なんだい?」

「何で卓を用意してるの?」

「君にはもう一回打ってもらうことになるかもしれないからね」

「だれと打つのよ」

「義理を重んじる侠…と言ったところか。大将戦後だとは思うから、それまで仮眠をとっておきなさい」

 

 

 

 

 

【解説室】

 

 

「いやー、しかしすごい試合だったねー。すこやんと安永プロの二人合わせても解説が追いつかなかったなんて、今までにあったけ?」

「え?いや、無いと思うけど…」

 

 卓の不調により、試合は三十分繰り下がって、次の試合は11時からのスタート、ということになった。時間があいて暇になったはずなんだけど、こーこちゃんが隣だと、それも無いか。

 マイクも切ってるし、こーこちゃんも普段の話し方になってる。

 

「安永プロ、帰っちゃったね」

「傀選手がトップをまくれなかったのがショックだったんだと思う」

 

 先鋒戦が終わった直後、安永プロは何秒か言葉を失っていた。かと思ったら急に立ち上がって、あんなのは傀では無いと怒鳴り散らして、部屋を出て行った。落ち着くまで、少し時間が掛かりそう。

 

「あそこで{4}切っていれば逆転したんじゃないの?」

「あれは準決勝の宮永選手と同じケースだよ。松実玄からは、ドラは切られないと決めつけての{4}単騎」

「でも、単騎じゃ待ちは悪すぎじゃない?準決の宮永選手は、一応は多面張だったわけだし」

「潜在ドラのことは話したよね」

「松実玄選手の手牌には、新ドラになる牌も集まってくる、というのだったけ」

「そう。恐らく{4}以外が潜在ドラだったんだと思う。だから切られるのは{4}と読み、待ちをその通りにした」

「でも、ツモってきた{4}を残してのリーチだよね。読んでの待ち変更には思えないけど」

「傀選手は『流れ』レベルで状況を読んでいる、ってこと」

「ちょっと何言ってるかわからない」

「えっとね。例えば千里山の園城寺選手の未来予知のことは知っているよね?傀選手は、自分の勝つ未来、流れを作っている、と言えばいいかな」

「そんなオカルトありえないよ」

「今更!?というかこーこちゃんも全部『解って』言ってるよね?」

 

 安永プロ程では無かったけど、私にも彼の『敗北』は衝撃的だった。

 あれは彼の完全な読み間違え。あの人にそんなことが起こりえるなんて、思いもしなかった。

 あり得ない。確かに、あそこにいるのは『あの』人鬼じゃない。

 ひとでなしの世界に住む、あの人鬼じゃない。

 

―――死んだ金は卓に戻って来ない

 

 弱き者の最期に行き着く所、それがあの人。あの鬼。

 最期に残された衣さえも剥ぐように、あの人は全てを奪っていく。

 私は『あの人の隣』で、そうなっていく人を何人も見てきた。

 

 

―――

――――

 

 

 私が三連覇を果たしたその年、劉という人物から話が入った。

 内容は見物麻雀の依頼。とある高レートの卓で、振り込みもアガりも最小限の麻雀をするというものだった。

 自分はただ見ているだけでいいと、あの老人は言った。負け分も払う必要は無いと。

 そして、あの人と同卓した。

 その卓に入ってきたのは、ある不動産屋の課長、江崎という男性だった。

 

 恐ろしい麻雀だった。

 頭がどうにかなりそうな額のレートのことだけじゃない。

 決定されている勝者と、決定されている敗者のロン合戦という異常事態。

 もはや麻雀じゃない。勝負と言えるものじゃない。

 敗者がもがき、苦しみ、失っていく。

 敗者には、そのことがわかっていない。次こそはいける。次こそは勝てる。そう思いながら、振り込み、ラスを続ける。

 その姿は滑稽で、惨めで、不様だった。

 劉は江崎に対して言う。

 ここにいるのは弱者の一生に一度の不様が見たいだけのひとでなしなんです。

 違う。私は違う。私は心の中で否定した。

 だけど、私は……笑っていた。

 鬼の棲む荒野。私も、鬼の一人だったのかもしれない。

 

 それから私は何人も見てきた。

 落ちていく、消えていく、溺れていく。

 助けを求めるその人の手を、私はただ見ているだけだった。手を伸ばして掴むことを、私はすることが出来なかった。

 怖かった。敗者になるのが怖かった。人鬼が、怖かった。

 

 でも、今なら助けることが出来るかもしれない。

 今のあの人は、『ぬるい』。

 

 

 

――

―――

 

 

「小鍛治プロ?」

「え?」

「どうしたのぼーっとして」

「あ…別に、何でもないよ」

「あ、もしかしてすこやんも傀選手応援してて、負けたからショックだった?駄目だよ15歳とアラフォーは歳離れ過ぎだから」

「アラサ―だよ!……って何言ってるの!?」

「ははは、冗談だよー。」

「もう…」

「ところで小鍛治プロ、次鋒戦、注目選手は誰ですかねー?」

「何急にあらたまって」

「いやいや、もう始まってますよ?」

「え!?うそ?」

「うん嘘」

「ちょっとこーこちゃんそういうのやめてよー」

「で、注目選手は?」

「あ、結局答えるのね」

「やっぱり白糸台の積倉選手?」

「うん。爆発力は全国でもトップクラスだから、彼はすごいと思う。でも、私は臨海の鉄壁選手かな…」

「確かに、去年の個人戦全国一位だったけど、結構地味じゃない?私は爆岡選手の方が好きだなー」

「え?」

「いや、麻雀の話だよ?何想像してるのすこやん?」

「あ…。違うよ!そんなこと考えてないよ!」

「どんなことー?」

「そっちに広げないで!……えっと、鉄壁選手に注目してるのは、やっぱりその分析能力がすごいこと。爆岡選手の『爆牌』の攻略も、彼の分析あってのものだったから、今回の積倉選手の『満潮』にも何らかの対策は打ってくると思う」

「ほうほう」

「あとは、阿知賀の松実宥選手だね」

「あー、だよねー。……妹の玄選手もすごかったよね。最後の追い上げ。あの麻雀って…」

「こーこちゃんも気付いた?」

「そりゃ…あの麻雀は……ね」

 

 松実姉妹。

 あの『氷のK』こと松実景(景は本名ではなく芸名のようなもの。本名は露子)の娘だ。最初は注目されていた。だけど、その試合で彼女達の闘牌を観た者達の殆どは、その目をすぐに白糸台の宮永照などに戻した。

 彼女達の闘牌は、松実景の要素は少しはあっても、力の差は歴然だった。

 あの人が『氷』と言われていたのは、冷静な判断力とか、揺らがない精神とか、そういう意味じゃなかった。

 あの人の『氷』は、この世の現実そのものだった。

 この世の全ては必ず死に、固まり、そして冷たくなる。あの人の麻雀にはそういったテーマがあった。

 松実景と相対した者は、彼女に勝てるとは絶対に思えない。敗北のさだめを悟る。勝負の熱を、奪われる。

 ドラの来ないその手は動かない。

 まるで氷河期が訪れたかのように。

 

 あの人がプロを辞めてしまって、私はあの人と打つことは無かったけど、もしあの人と打ったらと思うと、ぞっとする。

 

 

 

 

 

 

「玄さんおかえりー!」

「すごかったよ玄さん」

「よく頑張ったね、玄」

 

 穏乃達や晴絵は、帰ってきた玄に対しねぎらいの言葉を贈った。

 あのメンバーの中でのトップ通過。奇跡に近い偉業を成し遂げたのだ。高揚し、盛り上がるのは当然であった。

 姉、松実宥を除いて。

 彼女は唯一表情を曇らせていた。

 

「玄ちゃん……」

 宥が言った。

「あ……」

 

 その表情、言葉を聞き、玄ははっとした。

 

「そう……だよね」

「うん。……もう、あんな打ち方は、しないで…」

「…どうしたんですか?」

 

 思わしげな会話をする二人に対し、穏乃は訊ねた。

 

「あのね、穏乃ちゃん……」

 

 玄は、宥のことについて皆に話し始めた。

 寒がり屋の松実宥、そのルーツについて。

 

 

 

 

 

 

 麻雀の一番強い奴はどうやって決めるか。

 それはノーレートの公式試合しかない。そこは言い訳のきかない場所。

 高校生最強を決めるなら、インターハイ個人戦。

 ある日、積倉はとある雀荘にて、富良という中学生に対して、そう言った。その場には、鉄壁もいた。鉄壁も彼の意見に同意だった。

 だが、彼はその『個人戦』に出場していない。鉄壁はそのことに疑問を持った。

 訊こう。前半戦が終わってから、もしくは、試合が終った後。鉄壁はそう思った。

 

 午前11時00分。次鋒戦が開始された。

 

前半戦 東1局 親(起家 宥) ドラ {白}

 

三年・阿知賀・宥(東家)  115900

三年・臨海・鉄壁(南家)  77700

二年・清澄・染谷(西家)  114500

一年・白糸台・積倉(北家) 91900

 

北家 積倉 配牌

 

{三四八九②④⑧⑧112南北}

 

(干潮スタート……望むところです)

 

 積倉の麻雀には大きく分けて、満潮と干潮がある。簡単に言えば、満潮はツいている。干潮はツいていない。満潮時のツモった手は形も良く打点もついてくる。逆に干潮時のツモった手は形も悪く打点も小さい。

 

第一ツモ {一}

 

 両面ターツの{三}、{四}に対して裏スジの{一}。干潮時ならではの不ヅキのツモである。

 この状況においての積倉の選択は『諦め』である。干潮時は、様々なことを諦め、欲や焦りを消し、気持ちに余裕を持つことを基本とする。

 

九巡目、松実宥からの親リーが入る。

 

東家 宥 捨て牌

{九南⑦北四⑤}

{⑨一横8}

 

北家 積倉 手牌

 

{九九②④⑧⑧1112西北北} ツモ  {⑤}

 

 諦め、欲を捨てた積倉の手牌は、ベタ降りの準備が出来ていた。当り牌を絶対に打たない心の余裕があった。

 2巡後、松実宥は6000オールをツモる。

 

 

東家 宥 手牌

 

{34555②②[⑤]⑥⑦[五]六七} ツモ  {[5]}

 

宥(阿知賀)  133900(+18000)

鉄壁(臨海)  71700(-6000)

染谷(清澄)  108500(-6000)

積倉(白糸台) 85900(-6000)

 

(赤い牌……)

 鉄壁はその手を見て再認識する。松実宥には『赤い牌』が集まる。その牌を基本彼女に流れていくとするなら、彼自身の『支配色』の規則も、若干の変更が必要となってくる。

 支配色とは、現実におけるモザイク現象をヒントに鉄壁自身が見つけ出した法則である。

 好調者の好む色は山の近くに比較的多く固まっている傾向があり、逆に、不調者の欲しい牌の色は、山の深い所に固まり安い、というものだ。

 だが、現在トップの松実宥には『赤い牌』が集まる傾向があり、その法則は鉄壁の支配色の理論を超えたものだった。つまり、好調者である彼女ツモはその局彼女が好む色、つまり支配色と赤い牌の二種類であり、故に支配色が読みにくいのである。

 

 

東1局一本場 親 宥 ドラ {東}

 

北家 積倉 手牌

 

{五七七③⑥12266白発発}

 

 

 6巡目、下家の宥から{発}が切られる。積倉はそれを叩いた。

 干潮時は、諦めを基本とするが、動ける状況では動くことも選択肢の一つである。動きの基本は、いいとこ鳴きのダメスル―。それは手牌の形のことではなく、人のことである。点数の一番高い所から鳴き、点数の一番少ない所からはスル―する。

 流れ論の基本のようなもの。

 次巡、積倉は{六}をツモり、そしてさらに{②}、{6}とキー牌をツモっていった。

 しかし、次巡、上家の染谷からリーチが入る。

 

西家 染谷 捨て牌

 

{①②七九北⑧}

{⑥三横白}

 

 同巡、積倉は{一}をツモった。

 

(ちょっと危険だけど、これくらいは行ってみる)

 

 彼の捨て牌は通った。

 当り牌を掴んだのは彼の下家の宥。

 

「ロンじゃ。一発で12300」

 

西家 染谷 手牌

 

{23456789東東南南南} ロン {4}

 

宥(阿知賀)  121600(-12300)

鉄壁(臨海)  71700

染谷(清澄)  120800(+12300)

積倉(白糸台) 85900

 

 

(うん……当り牌を掴まなかったのと、ツモられたら倍満の失点が、横移動の無失点で終わった。やや上げ潮ですね)

 

 そのように『諦め』と『動き』をバランスよく繰り返しながら、徐々に上げ潮に導いていく。

 満潮に近付いていけば、自然に前に進むことが出来る。リーチがかかっても現物があったり、他家が開発してくれたりする。また、両面ターツも作りやすくなり、イーシャンテンは両面両面の形になり、先手を取りやすくなる。仮に、先制を取られても、押すことも出来るようになる。

 

「ツモ、2600オール」

「ツモ。6100オール」

 

 積倉はその親番、二連続ツモあがりをみせた。

 

(満潮の潮の香りが出てきました)

 

東4局一本場終了

 

宥(阿知賀)   107900

鉄壁(臨海)   67000

染谷(清澄)   116100

積倉(白糸台)  109000

 

 

 続く東4局二本場、ドラ {3}。積倉の好調は続く。5巡目にして好形イーシャンテン。

 

東家 積倉 手牌

 

{三四五六七②③④⑤⑦233} ツモ {3} 打 {⑦}

 

(ほぼ満潮状態ですね…)

 

 しかし

 

「ポン!」

 

 同巡、宥の切ったオタ風の{南}を、染谷が鳴いた。

 

(ん………これはまずい……)

 

 好調者のツモの移動を気にするなど、現在では完全なオカルトである。だが、麻雀が運のゲームであると信じるなら、それは当然のことなのだ。

 次巡、そしてさらに次巡、その理の通り積倉は無駄ヅモを繰り返す。

 

(溺れヅモか…そして、対面の鉄壁さん…僕のほぼ満潮を引き入れての…)

 

「リーチ」

 

 が入った。

 そして

 

「ツモ。8200・16200!」

 

西家 鉄壁 手牌

 

{一一八八八⑥⑥⑥88白白白} ツモ {8}

 

(ここまで高いのがツモれるなんて……)

 彼はその手の高さ以上に、積倉の仕上がりっぷりに戦慄した。

(状況があと少し遅ければ、とんでも無いことになってるぞ……)

 

宥(阿知賀)   99700(-8200)

鉄壁(臨海)   99600(+32600)

染谷(清澄)   107900(-8200)

積倉(白糸台)  92800(-16200)

 

(さすが…全国、といったところですね……すんなり行かせてくれない)

 親かぶりを受けた積倉であったが、その表情は満足げであった。

 

(まさか、役満をツモられるとはのう…。だが、今のは普通にいっとたらもっと恐ろしいことが起きた気がする……)

 

 鉄壁はその染谷を見た。

 

(清澄の次鋒…染谷まこさん。彼女もまたオカルト。でも、僕達とは違う…)

 

 ツモの喰い取りによる流れ変化などの、オカルト的麻雀は鉄壁や積倉同様、彼女もする。だが、彼女は彼等とは違い、感覚的オカルトである。

 彼女は過去の記憶から類似状況を引出し、その状況に対応する。しかしそれは、細かい計算のもと行われるものでは無く、漠然とした感覚のもと行われる。理論と哲学をもとに行われる鉄壁や積倉とは違う。

 

(故に、局所的対処になりやすい。……勿論それはそれでいい面もあるけど…それだけでは『彼』は止められない)

 

 積倉の麻雀の恐ろしさはその柔軟性にある。干潮時なら干潮時の打ち回しがあり、満潮時には満潮時の打ち回しがある。それぞれの状況に置かれた手の役割を全うさえできれば、流れは彼に味方し、彼は満潮に歩を進め、最終的勝利を収める。

 たとえ勢いや流れを崩されても、それに対する対応術を彼はいくらでも持っている。難しい手をクリアし続け、次第に彼の手は軽くなっていく。それが、積倉手数の強さ。

 

 局は進み、そして前半戦オーラス…

 

 彼は左手にしている腕時計を確認し、宣言した。

 

 

「午前、11時38分……満潮………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 麻雀で一番強い者を決めるにはどうしたらいいか。

 それは、ノーレートの公式試合。万人が観る大会。言い訳のきかない場所で打つ。それが最も近い回答だと思う。

 そう信じている一方で、僕はこうも思う。そもそも一番強い者、最強ってなんだ、と。

 少なくとも、結果を残した者はそれに近いはずだ。強者と打ち、対策をし、そして、ちょっとばかし運が味方し、勝利した者が、強い。弱いわけはないはずだ。

 だけど麻雀は基本四人、あるいは三人で打つ競技だ。少なくとも公式試合で一対一、というのはそうは見かけない。去年の個人戦だってそうだった。爆岡がいて、八崎さんがいて、茶柱さんがいて、そして、僕が居た。その対局の勝者は、僕だった。でも、八崎さんや茶柱さんがいなかったら、おそらく僕が爆岡に勝つことはなかっただろう。

 

 そして今、僕は積倉に挑んでいる。彼の打ち筋は、分析できるだけ分析はした。だけど、直接的対策が、結局は見つからなかった。

 僕が見つけたのは、彼が阿知賀次鋒、松実宥の特性をまだ見抜けていない、という点だけだった。Aブロック準決勝においての違和感。僕はそれを見逃さなかった。おそらく、彼はぶっつけ本番で対戦相手に臨みたかったのだろう。

 僕は、阿知賀、松実宥の特性を知っている。これは、麻雀打ちとしての強さになるのだろうか。先鋒戦、清澄の傀もそうだった。他の三人の特性を理解し、利用していた。それが強いと言えるのだろうか。

 それが麻雀の魅力なのか。僕は、その魅力にとりつかれたから、今も麻雀を打っているのだろうか。

 

南4局 親 積倉 ドラ {7}

 

宥(阿知賀)     95700

鉄壁(臨海)     96600

染谷(清澄)     94900

積倉(白糸台)    112800

 

 

 

「ツモ…4000オール…」

 

 予想通り、彼はツモあがりを見せた。だが、その形は彼が望んだ形であっただろうか。

 

東家 積倉 手牌

 

{三四五③④⑤3467888} ツモ {2}

 

 一発も無く、赤牌も三色も無い。これが満潮のツモあがりか?違う。これは、満潮の読み間違えだ。

 阿知賀、松実宥。赤い牌が集まるという彼女の特性はもはや異能と言っていい。妹の松実玄程の絶対性はないけど、その力は場全体に影響を及ぼしている。少なくとも、僕の支配色の定義をある程度は捻じ曲げている。

 であるなら、積倉の満潮の哲学にも歪みを生じさせるはずだ。

 読み間違えが発生した場合、打ち方自体ににも間違いが出てくるはずだ。積倉は潮の状態に合った打ち方をする。逆に間違った打ち方をすれば、流れは変わる。

 積倉は崩れ、そして流れを掴めれば……。

 

 だけど、そんなことをして勝ったって言えるのか。まるで不確定要素の大介を現場に置いているかのようだ。今回だって、たまたま阿知賀、松実宥がそこに居たから起きた現象じゃないのか。

 馬鹿な…。自分が納得できる場ならいいのか?

 だめだ、今は考えることが出来ない。今は、この状況で一応はチームに貢献するように打つしかない。僕だけの試合では無いのだ。

 これが、麻雀だっていうのか。

 

 

 

南4局一本場 親 積倉 ドラ {八}

 

宥(阿知賀)  91700

鉄壁(臨海)  92600

染谷(清澄)  90900

積倉(白糸台) 124800

 

 

9巡目 西家 鉄壁 手牌

 

{三三三六八④⑤678発発発} ツモ {⑥}

 

(役牌暗刻にドラ1……。やはり、満潮の読み間違えはあったと言っていいだろう。だが、完全に流れが消えたわけでも、その流れがごっそりこっちへ来てくれたとも思えない。ここは)

 

西家 鉄壁 打 {発}

 

({三}切りの{七}待ちでも、{六}切りのドラ単騎でもない。ここは、まだ受ける)

 

10巡目 南家 宥 手牌

 

{四[五]③④[⑤]⑧⑧44[5]566} ツモ {七} 

 

(赤土先生の言っていた『満潮』……。でも先生の言った通り、手は来てくれた。【読み間違い】はあったんだ)

 

 打 {七}

 

「チー」

 

 鉄壁は宥から切り出された{七}を鳴き、打{発}。次巡{二}をツモり、残りの{発}を河に置いた。

 

西家 鉄壁 手牌

 

{二三三三④⑤⑥678} チー {横七六八}

 

 河に連続で並んだ三つの{発}を見て、宥はまた晴絵の言葉を思い出した。

 

(先生の言っていた【爆守備】……先生は、彼の打ち方を良く観ておくようにって言ってたけど…)

 

 同巡、染谷から{一}が切られ、そして積倉から{四}が切られた。

 

(ん…同巡でアタれない…。嫌な所で{一}を切ったな清澄)

 

 次巡、鉄壁は{五}をツモり、打{二}。

 だがさらに次巡、鉄壁のツモは{六}。彼は手を止め、小考した。

 

西家 鉄壁 手牌

 

{三三三五④⑤⑥678} チー {横七六八} ツモ {六}

 

 

(現在支配色は萬子…。好調者の和了牌も萬子になる筈だ。この{六}は、阿知賀のアタり。僕の予測なら、流れは、満潮を止めた原因である阿知賀に行くはずだ。この牌は先ほどの鳴きで喰いとった結果だ。なら…)

 

 打、{五}。彼はその{六}で待つことを選択し、全ては彼の理論通りに運んだ。

 

「ツモ!600・1100!」

 

西家 鉄壁 手牌

 

{三三三六④⑤⑥678} チー {横七六八} ツモ {六}

 

 

(私の和了り牌が、止められている…)

 宥の{三}、{六}待ち…それらをかわした上での和了という結果。彼女は身震いした。  

 

(なんちゅー受けじゃ…)

 一方、染谷はそのアガりに感嘆した。結果として現れたのは不可解な受け、和了であり、形だけなら彼女が時として行う非論理的な打ち回しに近いが、実際はそうでは無い。感性、感覚では無く、思考に思考を重ね、己が掲げる論理を信じる、哲学の麻雀である。

 

前半戦終了

 

宥(阿知賀)   91100

鉄壁(臨海)   94900

染谷(清澄)   90300

積倉(白糸台)  123700

 

「なるほど、赤い牌ですか……。てっきり萬子と{中}だけかと思っていました…」

 

 積倉が呟いた。

 

(気付いて、しまったか……。いや、半荘三回も打っていれば、さすがに彼なら気付くだろう。でも出来るなら、後半戦の最中に気付いてほしかった。それなら、体制を立て直す前に……)

 

 そう鉄壁は思ったが、すぐさまその考えを否定した。そんな積倉に勝っても勝ったと言えるのか。再度その考えが過ったからだ。

 

(それより…)

 

 彼には気になることがあった。積倉の個人戦への不参加。その理由を彼に訊こうと席を立った。

 

「積倉君、一つ訊きたいことが…」

 鉄壁の言葉を遮るように、積倉は言葉を挟んだ。

「すまない。あなたの言いたいことはわかります。ですが、その質問には、今は答えたくありません。今は、この試合を楽しみたいのです……」

「僕が何を訊くのか、わかったのか?」

「表情を見れば、おおよそは」

 

 鉄壁はそれ以上踏み込むことはしなかった。自分が臨海の人間であり、積倉が白糸台の人間。答えたくない、の一言でおおよその察しがついたからである。彼はそうか、とだけ言い残し、舞台を降りた。

 試合が終われば、積倉は答えてはくれるだろうが、しかし、この大会は何かがおかしい。彼はそう思う。だが、同時にこうも思っていた。自分達のような人間は、ただ打つことしか出来ないし、そうしたい。余計なことに関与せず、考えもせず、ただ純粋に打つ。それでいいはずなのだ。

 彼は廊下で宥を迎えた阿知賀のメンバー達に目をやった。『ああいった温かさ』が普通なのだ。自分達にはそれが無い。誰もかれもが自分の目的だけで打っている。これは、団体戦だというのに。

 

(出来るなら、ああいったメンバーと一緒に大会に参加したかった。ここは…冷たすぎる……)

 

 

 

 

「前半戦、お疲れ、宥」

 赤土晴絵は、労いの言葉と共に自販で購入したホットのココアを渡した。

「あ、ありがとうございます」

 宥は、晴絵の予想通り、積倉の満潮の読み間違いがあったことを話した。

「うん。そのようだね…。臨海にあがりを喰われちゃったけどね」

「後半は、準決の時のように白糸台は崩れてくれるでしょうか?」

「いや…気付いたみたいだからそれは無いと思う。出来れば後半戦に気付いてくれればよかったんだけど、そこらへんがさすが、と言ったところだろうね。……このまま行くと、私の予想は当りそうだね」

 晴絵は軽い笑いを交えて言った。しかし、その表情は晴れやかなものでは無かった。

「温かい牌が……消えてしまうこと、ですか…」

 宥は恐る恐る確認した。

「白糸台……積倉手数が宥の特性に気付くのが後半戦だったら、それも無かっただろうけど、もう彼は間違いなく、正確に宥の特性を理解しているだろうね。正確に理解さえすれば、正確な満潮打法を駆使して、確実な満潮を造る。それが彼だよ」

「よく…知っているんですね」

「あんた達の対戦するであろう相手は、ちゃんと隅々まで調べているよ。先生だからね。あと、飲みなよ。あったかいうちに」

 晴絵は、渡したホットココアを、まだ宥が口をつけていないことを見て、言った。

「あ……ありがとう…ございます……」

 宥は一口だけそれを啜った。

「………前にも言ったけど、この決勝は、臨海の鉄壁保のする麻雀をよく観察して」

「はい……」

 積倉の完全な満潮が始まれば、宥は【赤い牌】を失う。それは、積倉の麻雀が、かつて赤土晴絵が対戦した小鍛治健夜のものと同質のものであることから導き出した結論である。

 これまで築き上げてきた経験、努力、自信、熱意。ありとあらゆるものを剥いでいく麻雀がそれである。建てた家を破壊されるように。着ている衣を剥がされるように。残るのは、ただただ冷たさだけ。松実宥は、そういったものと戦わなくてはならない。

「先生は、一度だけ小鍛治プロから直撃を取ったことがあるんですよね。それと同じことは、私には出来ないんですか?」

 宥は数日前、赤土にそう質問した。晴絵は否定した。

「あれは対策と呼べるものじゃ無いよ。ペテンに次ぐペテン。異能者の思い込みや絶対性の隙を突いただけのもの。一回しか使えないし、何より意味がない。宥には出来ないし、してほしくない。それにそもそも、積倉は小鍛治プロや宥達のような異能によってあの流れを造り出しているわけじゃないから、たぶん通用しないだろうし」

 しかし、晴絵が宥に示した対策というものも、対策と呼べるほどのものでは無く、論理性の無いものであった。

 結局の所、晴絵は積倉に対する直接的対応策を見つけることが出来なかった。

 晴絵は、宥が決勝で同卓するであろう相手に目を光らせた。少なくとも臨海が勝ちあがってくることは想像に容易く、その次鋒、鉄壁保の麻雀を調査し、そこに打開策を見出した。

 晴絵は、この決勝が始まる何日も前から、宥に、臨海の鉄壁保の対局の映像、牌符をいくつも見せた。鉄壁の麻雀の根幹には、例え不ヅキがあっても、それを真正面から受け止める、というのがある。それが、宥に訪れるであろう『寒さ』を克服する後押しになる。晴絵はその一点に可能性を見出した。

 赤い牌を失う。晴絵はそのことを宥に告げることに躊躇いがあった。その言葉を聞いた後の彼女の不安げな表情がその理由の解答であった。しかし、彼女には知っておく必要がある。たったの一半荘。それが、きっと彼女にとって大切な半荘。

 彼女の母がどのような麻雀をしていたのかは当然晴絵も知っている。彼女がその血を受け継いでいるというのなら、『赤い牌』の彼女の麻雀には先がある。そう晴絵は読んだ。

 そして、宥自身予感はあった。もし晴絵の言うように赤い牌が消失するとしたら、どのような手牌が自分に降りてくるのかということを。

 それは、かつて彼女が恐怖した、母の最期の手牌。

 

「お姉ちゃん」

 晴絵との話を終えた宥に、玄が話しかけた。

「お母さんの手は、冷たくなんか……なかったよ」

「……でも……玄ちゃん…」

 宥は否定した。自分がかつて見たもの、触れたもの、あれは紛れもない氷だったのだ。

「ううん…」

 それでも玄は続けた。母の手は、冷たくなんかなかった。

「もし、お姉ちゃんの言う通り冷たかったとしても、たぶんその冷たさには先がある…」

「冷たさの…先?」

「そう……うまく言えないけど、お姉ちゃんにもしそれが訪れたら、きっとわかる…」

 

 宥は、わかった。とだけ言って、一口しか口をつけなかったココアを玄に渡し、舞台の方に歩を進めた。

 

 玄に渡されたそれは、もう冷たくなっていた。

 

 

 

 

後半戦

 

積倉(白井台)   123700

染谷(清澄)    90300

鉄壁(臨海)    94900

宥(阿知賀)    91100

 

 

東1局 親 積倉 ドラ {⑦}

 

積倉(東家・タチ親)

染谷(南家)

鉄壁(西家)

宥(北家)

 

 

 後半戦が開始された。

 前半戦、トップで抜けることが出来た積倉であったが、その起家、手牌には覇気が無かった。

 

9巡目 東家 積倉 手牌

 

{四五五六七七1234567} ツモ {五}

 

 {1}、{4}、{7}のいずれかを切れば聴牌。しかし、その形は{五}、{七}の悪形のシャボ待ちである。満潮の香りのかけらも無く、典型的干潮の形。

 付け加えると、もうその段階で他家の三人はそれぞれ一鳴きをしており、既に聴牌気配を放っていた。三人は三人とも、積倉の満潮が途切れたのを察し、攻めに転じていた。

 

(さすがに、干潮スタートに戻ってしまいますか…。ですが、完全な干潮と言うわけでもないですね)

 

 そんな状況に置いて、積倉は微笑む。満足である、と。

 

(親リーチが打てる贅沢!)

 

 彼は{1}を切り、リーチを選択した。ブラフぎみのリーチ。

 対して、三人の攻めは優秀だった。

 

南家 染谷 手牌

 

{一二三②③789北北} ポン {発横発発}

 

西家 鉄壁 手牌

 

{二三四六八⑥⑦⑧22} チー {横768}

 

北家 宥 手牌

 

{一一③④[⑤]4[5]中中中} {九九横九}

 

 

 同巡、染谷は{七}をツモる。満潮が過ぎ去ったとはいえ、トップ親のリーチ。彼女は積倉の捨て牌を観た。

 

積倉 捨て牌

 

{北一2①中九}(上家ポン)

{二⑤横1}

 

(さすがにこれは打てんのう…)

 

 彼女は現物の{北}を選択。

 同巡、鉄壁の番。ツモって来たのは{6}。

 

(打てない…。少なくとも、僕が攻めれる局では無い)

 

 彼も降りる。現物の打{2}。

 そして同巡、宥にはドラの{⑦}が訪れた。

 

(ドラ…。清澄も臨海も降りたから、本来なら私が行くべき、なのかな…。でも、一発目にこれは切れない…)

 

 宥も降りる。現物の{一}を河に置いた。

 そう。三人の攻めは優秀だった。だがそれは、現物を抱えた攻め、いつでも降りることが出来る、と言う意味での優秀さだった。

 故に、積倉に一人旅の機会を与えてしまった。それが彼の狙い。

 結果は流局に終わった。

 鉄壁は倒された手を見て、戦慄した。

 

(効果的だ…。間違いなくその戦術は効果的だ。今のは、哲学的には攻めるべきだったんだ。だけど、数学的には、というか常識的には攻めてはいけない。攻めることが出来ない場面を作り出してきた…このままでは)

 

 状況は彼の危惧した通りになった。次局も彼はまたも先制の親リーをかける。手の形は先ほどと同じように悪形。だが、またも彼は満足する。親リーそのものが贅沢、と。

 鉄壁の考えている通り、哲学的には攻めていい。しかし、常識的には攻めることが出来ない。

 哲学と常識の狭間にある者は、現在の状況でどちらかを選択する。三人にとって不運だったのは、確実なる逃げ道が存在してしまっていたことである。負けられない戦い。三人が安全を優先してしまうのは必然であった。

 

(だが……【手】をクリアされてしまう…。このままでは、また彼に流れが…)

 

「ツモ。2000オールは2100オール」

 

 積倉手数の【哲学】は、次第に、そして確実に三人の足元を浸し始めて行った。

 

東1局 一本場 親 積倉 (リー棒一本)

 

積倉(白糸台)  133000(+6300+1000)

染谷(清澄)   87200(-2100)

鉄壁(臨海)   91800(-2100)

宥(阿知賀)   88000(-2100)

 

 

(さすがにこの局で何とかしなくては)

 

 東2局 二本場 ドラ {7}

 西家、鉄壁は宥から{西}を叩き、動いた。

 

西家 鉄壁 手牌

 

{11157888発発} {西西横西}

 

 5巡という早い段階で張ることが出来たが、表示牌の{6}索待ち。捨て牌にも染めを臭わせている分出あがりは期待できない。満潮を作りつつある積倉に抵抗できる待ちだろうか。鉄壁にとってそれは自信のある待ちでは無かった。

 

6巡目 積倉 手牌

 

{七八①②③⑦⑨2228発中} ツモ {⑧}

 

(嵌{⑧}のツモ…。また満ちてきました。ですが、対面の鉄壁さんが押し気味……イーシャンテンか、もしくは聴牌。飜牌を鳴かれては太刀打ち出来ない。だから一呼吸遅らせる)

 

 打、{2}。彼は役牌に手をかけなかった。{7}、{9}、もしくは{九}のいずれかを引き、{2}が頭になった形が、飜牌を押せるタイミングと読んだ。

 しかし、次巡引いてきたのは{[⑤]}。意外な牌であった。

 

(面白い。こっちを引いてきますか。と言うことは、彼女の【赤い牌】も引き始めていると読んでもいいかもしれませんね)

 

 基本方針に変更はないが、彼は先に飜牌の『{中}』に手をかけた。

 反応無し。状況が自分に味方し始めていることを彼は感じ取った。

 そして次巡{7}ツモ。打{[⑤]}。

 

(支配色通りなら、和了牌は索子になるのですかね。鉄壁さん)

 

 積倉はトドメの{九}をツモり、予定通りの打{発}で、さらにリーチをかけた。

 鉄壁はその牌に反応する。

(間に合わないかもしれないけど)

 そう鉄壁は思った。

 

「ツモ。2800オール」

 

東家 積倉 手牌

 

{七八九①②③⑦⑧⑨2278} ツモ {6}

 

 結果は鉄壁の予想通り積倉のツモあがりで終わった。

 もし{発}を先に打って鳴かれていたらもう{中}では勝負が出来ない。{発}か{中}、どちらが先かは不確定。その不確定要素が自分に傾き始めたら、それは満潮の兆し。

 

(何か…胸が苦しくなってきた感じが……)

 

 最初に変化を感じ取ったのは松実宥だった。準決勝の時や、前半戦の時に感じた満潮宣言前の感覚は違っていた。真の満潮は、徐々に彼女達を包みつあった。

 

3本場 ドラ {五}

 

7巡目 東家 積倉 手牌

 

{二三四六七八九③④2388} ツモ {1}

 

 兆しは手にも表れてきた。満潮気味の形。だが、彼は即リーを自重した。

 

(おそらく、普段なら『この局』で訪れていたんだろうね。でも、今は阿知賀がいる。松実宥によってもたらされた状況。それが今)

 

 次巡彼は{②}をツモってくる。リーチをかけていれば一発であった。

 

(でも、それは【間違った打法】。準決勝の時や、前半戦の時のように、満潮打法は崩壊してしまいます…。ここはツモらない。うつぼ打ちです)

 

 打 {1} 

 

 海の穴の中に潜むうつぼのように、目の前の気に入った餌だけを目的とする。宥によってもたらされた『満潮のズレ』の状況に対する彼の修正策が、そのうつぼ打ちであった。

 次巡ドラの五萬をツモってきた彼は、八萬を河に置き、またダマを継続した。

(満潮は、完成前が肝心。ここは慎重に行きます)

 

「リーチ」

(ほら来た…)

 

 鉄壁からのリーチが入った。

 

西家 鉄壁 手牌

 

{三四五①②③⑥⑦⑧⑨⑨56}

 

捨て牌

 

{九北発89七}

{西①横5}

 

(もし危険牌をツモったら、あっさり現物の{8}を落として穴から出ない)

 そう彼は考えた。

 

 宥は鉄壁の捨て牌を見て、ツモらずに小考した。

 

北家 宥 手牌

 

{⑤⑥⑦⑧⑧⑧1234679}

 

(手が……冷たくなってきている……。先生の言った通り。ここで、ここで何とかしなくちゃ…)

 

 有はその{5}をチーした。このまま【それ】が訪れてしまったら、本当に手は凍りついてしまう。

 恐怖が、彼女を走らせた。

 だが、その『鳴き』を見て積倉は微笑む。

(まわりの動きが自分に利すれば…)

 

「ツモッ!6300オール!」

 

東家 積倉 手牌

 

{二三四五六七②③④2388} ツモ {4}

 

(あっ……)

 

 宥は声を出しそうになった。

 今のは鳴いてはいけなかった。

 取り返しのつかないことをしてしまった。

 彼女は震えた。

 

 

 

東1局三本場 

 

積倉(白糸台)   161300(+18900+1000)

染谷(清澄)    78100(-6300)

鉄壁(臨海)    81700(-6300-1000)

宥(阿知賀)    78900(-6300)

 

(まずいのぉ・・これはもう……)

 

 その局、染谷は自分の手を見て確信した。

 

南家 染谷 手牌

 

{二二四六六七八④⑤⑥456} {五}待ち

 

(あの手出しの{八}の時、恐らく{六}、{七}、{八}の形に{五}をツモっての打{八}じゃの。捨て牌を見るにフリテンリーチも拒否っとる。フリテンリーチならわしがあがっとった。さすがに『つかまれた』かのぉ…)

 

 圧倒的質量と、冷たさが迫ってくる。地の底から、それは這い上がってくる。

 

(何も……出来なかった…)

 

 唇を噛みしめ、鉄壁は目を閉じた。

 

(寒い…)

 

 宥の震えは強くなった。そして彼女は感じる。訪れてしまったと。

 

 

 その時、積倉は本日二度目となる『確認』をした。

 

「12時、14分……【満潮】…」

 

 

 四本場、その言葉と共に、彼は牌を曲げた。

 

「ツモ。16400オール」

 

{三四五五③③④④[⑤][⑤]34[5]} ツモ {[五]}萬 ドラ {五} 裏ドラ {④}

 

 

 

東1局四本場 

 

積倉(白糸台)   210500(+49200)

染谷(清澄)    61700(-16400)

鉄壁(臨海)    65300(-16400)

宥(阿知賀)    62500(-16400)

 

 

 後半戦、東1局にして、勝敗は誰の目にも明らかだった。

 

 

 

 

【解説室】

 

 

「決まったーーーッ!積倉選手、爆発の16400オーーールッ!これはもう他校は絶望かー!?」

 こーこちゃんの割れそうな声が部屋に響く。相変わらず、こーこちゃんの実況は抑揚が無いというか、ずっと上がりっぱなしで、聞いてるだけで疲れる。

「これはもう白糸台の優勝で決まりでしょうか?小鍛治プロ」

「あ、はい。さすがに今の役満は大きいですね。彼の言う、満潮の完成でしょう」

「でも、前半戦では宣言してもあっさり終わっちゃいましたよね?」

「あ、それは前半戦の時も言ったけど、松実宥選手の特性が彼の満潮打法にノイズを加えていたから。今はそれを考慮して打っているからそれもないです」

「てことは、結局小鍛治プロの期待していた鉄壁選手も、もう駄目な感じでしょうか?」

「彼も彼なりに抵抗はしていたようですが、さすがにここまでの流れを造られてしまうと、さすがに厳しいですね」

「おーと!ここに来てついに小鍛治プロの予想が外れてしまったー!意気消沈の残念顔をお見せ出来ないのが残念です!」

「ちょ、ちょっと予想って、あの時オンエアしてなかったよね!?それと、残念顔なんて言うのやめてー!」

 

 似ている。卓を包んでいる空気、雰囲気が、あの鬼の巣に。

 狩る者と狩られる者、奪う者と、奪われる者。

 今、積倉手数の造り出した流れは、他の三人を呑みこんだ。状況は、傀君や松実景さんの生み出す状況に近い。対峙している三人は今、冷たさの中にいるはず。

 もしかしたら、松実宥がそれをすると思ったけど、どうやらそれもなさそう。妹の方が、母の血が濃かったのかな。

 

 私はいつか、あの状況に立ち向かわないといけない。

 あの人に勝って、これまで助けることが出来なかった人たちに対する罪悪感が祓われるとも思えない。でも、前に進むためには、そうするしかない。そんな気がする。

 

 局は進む。

 このまま、白糸台の優勝でこの大会は終わりを迎えるのかと思ったその時、状況は意外な方向に進んだ。

 

 

 

 

 もう、松実宥の『赤い牌』は無い。

 積倉が役満をあがり、5本場、6本場と連続で和了した頃には、もうその場の誰もが確信していた。勿論、彼女自身もである。

 赤い牌とは、単に赤色を含む牌が彼女に集まりやすい、というだけのものでは無い。彼女自身の手は勢い、覇気、そういった類のものは既に無く、凍りついていた。イーシャンテンどころか、リャンシャンテンになることも困難。そういう状況。

 彼女には触れる牌すらも冷たく思えた。触れた指さえ凍るような感覚。その冷たさは、腕、肩、首、胸と広がって行き、吐く息どころか内臓さえも凍る思いが、彼女を包んだ。

 

(寒い…)

 

 彼女の心の声すらも震えていた。

 赤土晴絵の予言は、訪れてしまった。

 

 二位との差ですら約20万の点差がある。まだ東場、南場と残っており、そもそもまだ次鋒であるが、積倉が見せつける流れは、他を絶望させるに十分であった。

 はずだった。

 

 積倉はその者の表情を見て疑問に思う。何故だ、と。

 松実宥では無い。彼女は震えている。

 鉄壁保では無い。彼の表情は硬い。

 『染谷まこ』である。彼女だけ、この状況下において平然としている。表情にも、動きにも淀みは無い。

 

 何故だ。

 そう思いながら積倉は微笑む。興味深い、と。

 何故彼女だけ違うのか。それが知りたかった。

 これから彼女は何をするのか。それを見たかった。

 彼は期待を胸に、リーチ棒を場に出した。

(さあ。僕のこの満潮を、どうするんだい?清澄…)

 そのリー棒に対する染谷の答えは、鳴きでも、不可解な打ち回しでも無かった。

「リーチじゃ」

 追っかけリーチであった。

 

(リーチ……?張れる、というのですか?この状況で)

 

 次巡。ツモ和了をみせたのは積倉では無かった。

「ツモじゃ。4700・8700」

(な……に…?)

 

 あっさりと倒されたその手を見て積倉の表情は一瞬固まった。その手は、自分の手と殆ど変らない、満潮の形であった。

 偏りのない、純粋な両面の平和の形。

(偶然か?それとも…)

 彼はそれが偶然では無いことを、次局彼女に親倍を振った時に知る。

 その局も彼の勢いが落ちたというわけでは無かった。先制リーチも打つことが出来、待ちの形、手役の大きさ、共に異常は無かった。だが、ツモ和了ること無く、振り込んだ。不可解でも不自然な形でもなく、自然な形への振り込み。

(何が、起きている?)

 染谷まこの自然な和了。しかし、彼の哲学には無い不自然な状況。これはなんだ。彼は思考する。

 

 彼が思考するとほぼ同じころ、鉄壁はすでに答えを出しつつあった。

 鉄壁は、彼女の過去の試合を思い出す。その中で、この状況に近い対局を検索し、そしてヒットした。

 それは、長野県大会決勝の次鋒戦である。

 その次鋒戦は、先鋒戦、傀が作り出した圧倒的流れが、他校に移ってしまった対局であった。その対局では、染谷まこは20万点以上点数を吐き出した。

 彼女は、現在の卓上と似た過去の対局を引き出すことが出来る。そして、その状況に感性で対応できる。

 これは『既に経験した対局』。『つまりはそういうこと』。

 そう鉄壁は結論付けた。

 

(あの時に比べれば、今回は大したことはないのぉ。)

 鉄壁の推察は半分以上的中していた。だが

(あの時は『傀が三人おった』からのぉ…)

 染谷が経験していた『流れ』は、その三倍であった。

 満潮を作る『過程』は染谷はまだ経験していなかったが、満潮が生み出す『結果』は、既に彼女は経験していたのだ。

 

(この『流れ』は、場をかき混ぜて歪ませてっちゅうのは効かん。じゃが、自分もその『流れ』に同化できりゃあ……)

 

「ロンじゃ!36300!」

 

 積倉からの直撃。今の彼女に『満潮』は意味を成さなかった。

 

(これが……全国区ですか…・・・面白いです……本当に、実に興味深い……)

 

「ここに来て……良かった……」

 積倉は笑みをこぼし、小さく呟いた。

 

 

東2局 2本場 終了時

 

積倉(白糸台)   190800

染谷(清澄)    125000

鉄壁(臨海)    43500

宥(阿知賀)    40700

 

 

(何てことだ……完全に見落としていた……)

 

 異能に偶然など無い。

 

(十分予期できた状況じゃないか……何故見落としていた…。ちょっと考えれば、満潮において起きる状況と、傀が造り出す状況は似ていることくらい分かるじゃないか。なら……何で『染谷まこが【傀】に負けた試合』にもっと注目しなかったんだ…)

 彼は積倉の弱点、穴ばかりに注視していた。そして【松実宥】という答えを見つけてしまった。見つけることが出来てしまったが故に、もう一つの答えを見つけることが出来なかった。

 彼は自嘲する。

 爆岡を攻略できたと天狗になっていた自分を。

 答えを見つけることが出来た自分を。

 だが、本当は自分はまだ何も見つけていない。

 自分は麻雀の二割どころか、一割も理解できていない。

 

「何が、『麻雀で一番強い奴』だ!」

 

 彼は心の中でそう叫んだ。

 彼は瞳を閉じ、ゆっくりと、深く呼吸した。

 その後、両頬を力強く叩き、開いた。

 

(………でも、今、何が大事なのかはわかっている。これから僕がどう打つか、それが大事なんだ)

 

 自分がこれからどう打つか、彼は既に答えを出している。

 その彼の目を、積倉は見た。

 

(雰囲気が……いや、空気が変わりましたね…。それも、彼の周りだけじゃない。場、全体の空気を変えました。これが……去年個人戦優勝者ですか……)

 

 東2局2本場。積倉と染谷の配牌は満潮のそれを表していた。

(これまで経験したことの無い現象ですが、どうやら満潮は二人居る、と思っていた方が良いようですね)

 積倉は打ち方を変えるということはしなかった。

 積倉は満潮後、染谷が和了した局を思い出した。染谷の待ちはどれも、自分が待っていた色と同じであった。彼は、鉄壁の支配色の定義から、自分も染谷も『好調者』であると結論付けた。

(つまり、僕の満潮は消えていない)

 二人の満潮において起きる現象は未知数だが、彼はシンプルに和了するものは、二人に一人、二分の一と推測した。

(点差は十分あるし。このまま進み、この推測を確かめに行くことにしましょう。してはいけないことは、自分から満潮を崩してしまうことです)

 その局も、二人は牌を曲げた。

 

(来た……。でもこの局、僕のすることは一つだ)

 

 そして鉄壁は、それを受けた。

 一枚、二枚、三枚と、彼は『壁』を河に造った。

 彼の河に並ぶのは『壁』『壁』『壁』。

 絶対に振り込まないという意思が、そこにあった。

 

 当然、ツモ和了を主流とする満潮打法に対してはまったくの意味の無い行為である。

 壁を造り、振り込まない意思を見せようとも、積倉や染谷はただツモるだけである。

 

 はずなのだ。

 

 だが、鉄壁の河には壁が並ぶ。

 次巡も、そしてさらに次巡も。

 積倉も、染谷もツモ和了を見せず、河には彼の壁が次々に並ぶ。

 まるで押し寄せてくる波を、防波堤が塞き止めているかのように。

 

(なんじゃあ……こりゃあ……)

(これは…面白い……)

 

 オカルトを超えたオカルトに、二人は驚愕した。

 

(意思……ですか……)

 

 積倉は、八崎真悟が去年、県予選個人戦にて優勝した際、WEEKLY麻雀TODAYのインタビューにて言った言葉を思い出した。

 

―――麻雀にあるのは流れなどではなく、意思だけだ。

 

 その言葉が意味している状況と、今の状況が同じものである、と言うわけでは無いが、意思の力は時として、麻雀の理を捻じ曲げることもある。そう、積倉は思っている。偶然などとは考えない。

 

(そう考える方が面白いですし、なにより楽しいですからね)

 

 流局。

 誰もが予想もしなかった結果が、そこにあった。

 

(助かった…。満潮が二人の状況下で起きる現象はまったく予想がつかない。なら、ここは…耐えるしかなかった。少なくとも、一人の独壇場は無くなったし、流れも完全と言うわけでは無いようだ…)

 

 彼はホッと一息付き、牌を手前に倒し、ノーテンを宣言した。

 

(今のは……【爆守備】……)

 

 凍りついた手を手前に伏せ、同じくノーテン宣言をした宥は、晴絵の言葉を思い出した。

(爆守備。それは吹雪を真正面から受け止め、それでもいつか過ぎ去るのを待つ、雪原に一人立つ針葉樹のようなもの。そう先生は言っていた)

 

 その局、血の出るような気持ちで打ち出された一つ一つのその牌は、切られたたびに宥の胸を叩いた。

 

(寒さの中を生きる……生きている……)

 

―――お母さんの手は、冷たくなんか、なかったよ……

 

―――その冷たさには、先がある……

 

(玄ちゃん……)

 

 頭に妹の声が過る。

 彼女の全身は氷のように冷たい。まるでかつての、そして『あの時』の母のように。

 だが今、胸の奥に、微かな温かさを感じ始めていた。

 

 冷たかった母。でも優しかった母。

 冷たい手。でも温かい言葉。

 冷たい風。でも、生きている命。

 

 冷たい麻雀。でも……母は……

 

 

 

 

東2局 流れ3本場 ドラ {中} 親 染谷

 

4巡目 南家 鉄壁 手牌

 

{②②⑥⑦12567899} ツモ {3}

 

北家 積倉 捨て牌

 

{⑧七六}

 

東家 染谷 捨て牌

 

(積倉は索子に寄せている。清澄は、筒子…。僕のツモが索子……支配色は索子。二人満潮現象に歪みが生じている……)

 

南家 鉄壁 打 {⑥}

 

同巡 北家 積倉 手牌

 

{二四③④234[5]568中中} ツモ {7}

 

(さすがに、ちょっと潮が引き始めましたね)

 

積倉 打 {四}

 

 

 鉄壁も、積倉も手牌を索子に伸ばし始めた。

 8巡目、先に聴牌したのは鉄壁だった。

 

南家 鉄壁 手牌

 

{112334567899②} ツモ {2} 打 {②}

 

(流れは、来ている……)

 {3}、{6}、{9}の聴牌。手替わりもある手であり、当然リーチはかけなかった。

 次巡、彼は{1}をツモり、選択を迫られた。

 {2}を切り、九蓮を含む待ちにするか、待ちの数の多い{9}切りを選択するか。

(清澄が{9}を一枚切っている。積倉は持っているだろうか。どの道、アガリにかけるなら{9}切りだけど……)

 

 彼は打{2}を選択した。

 

南家 鉄壁 手牌

 

{1112334567899}

 

(やはり、ここは32000が欲しい。ここは、チャンスな気がする……)

 

 1巡遅れて、染谷も聴牌した。

 

東家 染谷 手牌

 

{③④[⑤]⑤⑧⑧⑧白白白発発中} ツモ  {[⑤]} 打 {中}

 

北家 積倉 手牌

 

{2344[5]567788中中}

 

 染谷から切り出されたドラ。鳴けば聴牌だが、彼はこれをスル―した。

(歪みのある状況では鳴きません。この手は門前で仕上げます)

 目的通り、彼は門前のまま手を完成させた。

 11巡目、彼は{6}をツモり、打{2} 聴牌。

 

北家 積倉 手牌

 

{344[5]5667788中中} 

 

(う…打{9}ならその{2}で…)

 

 鉄壁に後悔の時間も与えず、染谷は{④}をツモり、打{③}で、さらにリーチをかけた。

 

東家 染谷 手牌

 

{④④[⑤][⑤]⑤⑧⑧⑧白白白発発}

 

(これは攻めれる流れじゃ。臨海や阿知賀からは出んじゃろうし、ここはツモか、攻めてくる白糸台からの出アガリじゃろう)

 

 そして、鉄壁のツモ番。

 ツモって来た牌は、{3}。

(まずい……。打ち取っていた{2}……ツモっていた{3}……清澄のリーチ……一度あがりを逃した上に、この{3}はおそらく積倉のあがり牌……)

 

 彼は{2}に手をかけた。

 

南家 鉄壁 手牌

 

{1113334567899}

 

(後手を踏んだ。ここは、九蓮を崩す!)

 

 そもそも、この局にもう自分の和了は無い。そう鉄壁は受け入れた。

 しかし、次巡、染谷から{5}が切り出される。

 

(ん…、まだ手はあるか…)

 

「チー」

 

南家 鉄壁 打 {8}

 

{1113356799} チー{横534}

 

 あがるための鳴きでは無かった。あくまで目的は積倉のツモをずらす。それだけであった。

 

(今の鳴きは…おそらく正解ですね)

 

 その通りであり、次巡に本来なら彼はツモ和了を決めていた。

 掴んだのは染谷まこ。{9}。

(流れを、信じすぎとったかのぉ)

 悪寒はあったが、彼女は切るしかなかった。

 

「ロン。8900……」

 あがったのは鉄壁。

 

(頭跳ね、ですから倒せませんか……。これは、取られましたね……)

 

 

東2局 流れ三本場

 

積倉(白糸台)    191300

染谷(清澄)     116600(-8900)

鉄壁(臨海)     52900(+8900+1000+1000)

宥(阿知賀)     39200

 

 

 その和了は、彼女…松実宥にとって決定打だった。

 たとえ不運に見舞われても、自分のミスによって流れを失っても、折れない。

 その闘牌は、強く彼女の胸を打った。

 

 ドクン。

 

 大きな音が、胸の奥で鳴った。そんな気がした。

 殻が今、破れた。

 奥から溢れてくる温かさの潮流が、彼女の全身に広がって行く。

 その熱と共に、彼女の頭の中にあった、キーワードが一つずつ、繋がっていった。

 

 冷たさ。

 温かさ。

 母。

 生命。

 麻雀。

 そして……

 

 

 東3局、流れを掴んだ鉄壁は連続で和了を見せた。

 積倉からも二度直撃を成功させ、その点を10万まで戻した。

 そんな中、宥はじっと耐えていた。凍ったままの手牌を抱えて。

 そして待っていた。

 だが、それは鉄壁のように寒さが過ぎ去るのを待つ、と言うだけものでは無かった。

 

 命を刻む時。

 その時を、静かに、ただじっと待っていた。

 

 そして、東3局三本場、『その牌』がついに、河に置かれた。

 

 

「ポン!」

 

 

 彼女は………哭いた。

 

 

 

 牌が、青白く閃光った。

 

 

 

 染谷まこは、目を見開き、彼女を見た。

 

 

 

 それは、まぎれもない『竜』だった。

 

 

 

 

 哭きの竜が、そこにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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