アカギ、傀、竜が清澄高校麻雀部に入部したそうです   作:叶芽

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#27 DUVET その2 -Gold Experience-

 

 

 

 

 宥へ…

 

 

 

 あなたがいつの日か訪れるこの『手』に、真実を記しておきます。

 私は、最低の母親です。

 私は、弱い女です。

 私は、卑怯な人間です。

 

 私は、あなたが生まれるずっと前から、お父さんと出会うずっと前から、裏の世界で生きていました。

 父も、母も殺されて、残ったのは私の命だけ。

 私は、私の運だけで生きるしかありませんでした。

 運以外の全てを失った私は、その世界では何一つ語りませんでした。

 ただ、打つ。ただ、勝つ。それしか、道は無かったのです。

 その世界の人たちは、何一つ語らず、ただ勝ち続ける私を『男』として見ました。

 ドラに愛される私のことを『竜』と呼び、誰もかれもがその幻想に振り回されました。

 そこに居たのは、竜と言う男の幻想だけだったのです。

 

 その世界が、嫌でした。

 誰もかれもが下らない幻想に振り回されて、命を奪う。命を落とす。命を賭ける。

 誰もかれもが『男』を売り、『男』に憧れ、『男』に生きる。

 それが、極道でした。

 そんな世界で、唯一私を女として見てくれた男性がいました。

 あなたのお父さんです。

 あの人は私に表の道を与えてくれました。私は、プロ雀士になりました。

 

 裏の世界が私を手放す、ということにはなりませんでした。裏の世界は、私ではなく、『竜』という幻想しか見えていなかった。

 ですが、裏とは違った表の世界は、私には新鮮でした。

 私は、表と裏の顔を持つようになりました。

 表の世界でも、私は勝ち続けました。

 最初は良かったのです。充実感もありました。大きな大会にも出て、色々な方にも出会って、様々なことを学びました。

 そしてあなたが生まれ、思ってもみなかった家庭的幸福が、私に訪れたのです。

 ですが、そんな日々もいつしか崩れていきました。誰もかれもが、私を怖れるようになったのです。

 人は私を『氷のK』と呼び、避けるようになりました。

 あなたも、私が抱くたびに泣いていました。

 そして玄が生まれ、私の生活はますます多忙になりました。出産してから数日もしないうちに裏で打ち、表では記者たちの取材。

 そんな私に、そんな私に対して、あの人は、「今日も頑張れよ」って。

 私の中の、何もかもが凍りつきました。

 あの人の優しさは、見せかけだけのものだった。

 使える『道具』としてしか見ていなかった。

 あの人が幻想に惑わされなかった理由がそこでわかりました。

 あの人は氷だったのです。完璧なる現実主義者。自己の利を考え、冷徹に他者を利用する。それが、あの人だったのです。

 私が傷つくことを言われても、それが重要なことだったとしても、あの人は何も感じない。

 私は、全てを失いました。

 

 『私』には自信がありました。歴代唯一の国内無敗雀士だったのです。その自信が、私を『裏』に足を運ばせました。

 そこに居たのは『竜』だったのです。

 『私』は『竜』に会ったのです。

 

 ですが、それは真実ではないのです。

 私は、私の中で『竜』を作りました。

 『竜』を想い、生きるようになったのです。それしかなかったのです。

 そして、最悪のことを私はしました。

 私が表と裏を作ったように、あの人を、夫を、二つに分けたのです。

 私を傷つけた、氷のあの人と、理想の夫『竜』の二つに。

 そして生まれたのが、竜司です。あなたの弟です。あなたには、弟がいます。

 そして、『竜』は消えました。

 裏の人たちは竜司を『竜』の生まれ変わりと思い込み、私から引きはがしました。

 

 私は、自分で作りだしたものさえ失い、生んだものさえ奪われました。

 私は最低です。

 夫もいる。あなた達もいる。なのに、私は自分には何もないと独りよがりの絶望に浸っていました。

 私は、欲しいものしか見えなかった、自分勝手な人間です。

 それが、その凍りついた『手』が、『本当』の私なのです。

 

 

 

 

 

 伝わってくる。

 お母さんの声、悲しい声が、『手』から伝わってくる。

 こんな不思議なことが、この世にあるなんて。

 この『手』は、母が最期に打った対局の、オーラスに訪れた配牌。

 その日風邪で学校をお休みしていた私は、その対局を後ろで観ていた。

 

 私はお母さんが好きだった。でも、怖かった。

 違う。私はお母さんが怖かった。でも、失えなかった。失うことは、もっと怖ろしいから。嫌いになることが、出来なかった。

 だけど、優しかったし、言葉は、温かかった。

 やっぱり、私はお母さんのことが、好き?

 私も、お母さんと同じ。自分がどっちなのか、わからない。

 

 お父さんは、お母さんが死んでから、変わった。

 あんなにも冷たかったお父さんだけど、変わった。

 まるで、光は影と共にあるように、お父さんの冷たさには、お母さんが必要だったのかもしれない。

 好きにはなれないけど、今は嫌いでもない。

 

 清澄高校副将、甲斐竜司君。その子が、私の弟。

 同名というのもあるけど、長野の方達と打った時に教えられたし、赤土先生にもビデオを観せてもらったから、すぐにわかった。

 前々から予感はあったけど、今、繋がった。

 あの人は、お母さんの子。まぎれもない、大切な。

 あの人も哭いていた。

 

 今ならわかる。

 お母さんは、冷たくなんか無い。

 寒さの中を必死に生きる、温かい…違う、熱い命だった。

 お母さんも、哭いていたから。

 

 先生の言った通りだった。

 臨海の、鉄壁さんの麻雀を観ていたから、気付けた。繋げれた。

 原村和さんと打った時や、爆岡さんの麻雀を観た時、私は震えた。あの人たちは、まるで機械のような麻雀を打つ。

 でも、鉄壁さんは、その寒さにじっと耐える人。先生の言葉を借りるなら、まるで針葉樹。

 植物。お母さんも、花が好きだった。

 今、花が咲こうとしている。

 

 

 本当に温かいものは何か、それがわかった。

 

 

 

 

 私は、哭いた。

 

 私も、哭く。

 

 この冷たい『手』に、命を刻むために。

 

 

 

 

 

 

 

 牌が、青白く閃光った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お母さん。ごめんなさい。

 

 

 

 お母さん。ありがとう。

 

 

 

 

 お母さん。さようなら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――― ツモ   嶺上開花   緑一色  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次鋒戦が終わってから暫くして、一つだけ、気になることがあった。

 

 

 

 次鋒戦終盤、私は母の最期の対局を思い出した。

 それは麻雀教室での対局。

 その時、母の対面にいた女の子。

 

 

 

 

 あれから、もう何年も経っている。

 

 

 

 普通なら、そんなことは無いはず。

 

 

 

 でも、その子は今……白糸台の大将……。

 

 

 

 岩倉 玲音 

 

 

 

 

 あの子は、いったい……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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