―副将戦―
清澄・竜(西家)
風越・咲(北家)
龍門渕・透華(東家・親)
鶴賀・東横(南家)
龍門渕の副将は、静かだった。
俯いていて、震えていて、そして暗かった。
あの絶望的点数を考えれば、よくここまで来れた、と見ることもできるけど…。
次鋒戦では奇跡的アガリを連発出来ていた。でも中堅戦、せっかく稼いだ点数を風越に狙い撃ちされ、奪われてしまった。
結局その龍門渕は現在約六万。副将、大将での逆転は困難。あの清澄のことも考えれば、この回での終了もありえる。気持ちは分かる。
対面の風越はその逆。瞳に自信が満ち溢れていた。早く打ちたい、そう聞こえてきそうだった。龍門渕もそうだったけど、風越の副将も前の試合で他校を飛ばしていた。しかも現在トップ。警戒しなないと。
そして、清澄の男子。彼も静かだった。しかしそれは暗いというわけではなく、冷たかった。私ともどこか違う。そう、死体。肉としてそのままそこにある死体。そんな印象だった。怖かった。
「麻雀って…楽しいよね」
対面の風越が口を開いた。いきなり何をわけの分からないことを、と思ったけど、あまりにも暗い気配を漂わせている、龍門渕と清澄を励まそうとしたのかもしれない。
よけいなお世話を、と思った。三着かラスならまだしも、圧倒的トップに立っている風越の発言。
腹立たしい。
「今日もいろんな人と打てて…ホントに楽しいよ」
風越は続けた。
「いっしょに楽しもうよ」
誰も返さなかった。当然だと思う。風越は少しおどおどしていた。
そして、対局は開始された。
「ツモ、嶺上開花。70符2ハンは1200・2300です」
東一局、八巡目の出来事である。嶺上開花。私もほとんど見たことのない役を、彼女は平然と上がった。
彼女が発声した瞬間、龍門渕がビクッと動くのが見えた。まるで、死刑宣告を受け、今日が「その日」だと看守に背中を叩かれた死刑囚のようだった。
「ロン。110符1ハンは、3600です」
東二局、11巡目。龍門渕からの直撃だった。{発}、{①}を連槓して作った役だけど、もっと高目を狙えたんじゃないのか。遊んでいるのか。ますます、腹立たしくなった。龍門渕の瞳が見えた。涙を浮かべていた。
「カン、ツモ。門前清一、嶺上開花。4000・8000です」
東三局、13巡目、今度は倍満。三連続上がり。そのうち嶺上開花を二回。あまりにも異常だった。龍門渕の瞳は、今度は焦点を無くしていた。
―東三局終了時―
清澄 93800
風越 167100
龍門渕 49300
鶴賀 89800
東三局の上がりは、決定打のように見えた。三着の私も、さすがに、風越は抜かせない。せいぜい清澄を抜かして、少しでも点を稼ぎ、先輩に託すしかないと思っていた。
しかし、東四局から、変化が起こった。龍門渕が、豹変したのだ。私がその変化に気づけたのは、少し後になるけど。
東四局、風越から、カンの声が聞こえなくなった。普通はそうそう出来るものではないと思うけど、東三局までに四回もカンしていた。
私の常識的感覚は、たったの数分で乱されたということになる。
十五巡になっても風越からカンの声は聞こえなかった。寧ろ、風越の表情は困惑していた。ありえない、なぜ。そんな表情だった。
場は静かだった。だれもポン、チーなどの発声無く、手も進んだり、進まなかったり、でも普通に麻雀していれば、よくあるようなこと。
「ツモ。300・500」
十七巡目。上がったのは龍門渕。この点差を考えても、あまりにも低いのではないか。それとも、好調の風越の親は、少しでも早く流したかったのか。
しかし変化は、ここからだった。
「ツモ。1000オール」
また安い手を龍門渕は上がった。
「ツモ」「ツモ」「ツモ」
龍門渕の連荘が四本場に差し掛かる頃、さすがに私も異常性を感じた。場は基本的静かではあるけど、上がるのは彼女しかいなかった。
倍満、三倍満といった異常な上がりは無かった。しかし確実に龍門渕は点数を上げていた。
その場は、まるで静かな湖。それを支配する彼女は、どこか大人びいて見えた。
「全然カンできないよ〜」
風越がつぶやいた。やはり腹立たしかった。
その連荘は六本場まで続き、風越からも直撃を2回奪い、いつの間にか、龍門渕はトップに立っていた。
―南一局六本場終了時―
清澄 76500
風越 117500
龍門渕 133500
鶴賀 72500
「あンた・・・自分の麻雀打ちなよ」
七本場が始まる頃、清澄の男子が言った。龍門渕に対して言ったのだろう。
龍門渕はその声に耳を貸さず、静かに{3}を切った。
その時…
「ポン…」
清澄が、鳴いた。
鳴いた牌が、青白く光った。
静かに、その場の時が止まった様な、そんな感覚がした。
西家 竜 手牌
?????????? ポン {3横33}
次巡、龍門渕は{2}を切った。
「ポン」
清澄が、また鳴いた。また、また牌が光った。
その鳴きに、魂が持っていかれるようだった。美しかった。
西家 竜 手牌
??????? ポン{3横33} ポン{2横22}
その鳴き以降、龍門渕の捨て牌はチュンチャン牌が続いた。ど真ん中の{[⑤]}も、{[五]}も切っていた。
私は、国士かと思った。
一方清澄の捨て牌からは、索子の染め手を意識させるものだった。
「カン」
清澄が今度は{3}を加カンした。そして、嶺上牌をツモ入れ
「カン」
また鳴いた。今度は{2}。また、嶺上牌をツモ入れると
清澄は、{1}を捨てた。
「ロ…」
龍門渕が発声しようとしたその時、遮るように清澄が言った。
「あンた…自分の『手』見なよ……」
清澄の声に、龍門渕は手を止めた。
大人のような顔立ちだった彼女はそこには無く、何か我に返ったような、そんな印象を受けた。
彼女は自分の手牌を、ありえないものを見るような目で、見た。
おそらく、やはり国士。
そう、上がれない。なぜなら同巡。私が{1}を切っているから。
私はその時、『すでに消えていた』。
私はトントンと自分の捨て牌の{1}を叩き、牌の姿を見せた。
チョンボも悪くないけど、この局は私にも手は入っていた。止めてくれるならその方がいい。
「・・・は?・・・え、私・・・何・・・この・・・」
まるで、今までの自分は、自分ではなかったかのように。実際に
「こんなの、こんな捨て牌…私ではありませんわ!」
と叫んでいた。直ぐに、監視役に制され、彼女はしぶしぶ座った。
局は続行され、龍門渕の番がまわってきた。
半ば混乱状態の龍門渕は、ツモってきた{8}を切った。
「その牌…」
「その牌?…ハッ……何を私……こんな牌を・・・」
「その牌は…あンたの親父が最期に…最期に哭かせてくれた牌」
「え……お父様?貴方、お父様を知って……」
清澄は{8}を鳴いた。カンした。
そして空にかかげた嶺上牌を、そっと卓に離した。
「ツモ…緑一色……」
{666発} 加槓 {33横33} 加槓 {22横22} 大明槓 {88横88} ツモ {発}
それをアガリを観た者はすべて、そのアガリに魅せられた。
大会の規定により、大明槓からの嶺上開花によるアガリは、鳴かせた者の一人払い。責任払いを適用している。よって、龍門渕は32000と7本場分(2100)を失った。
―南一局7本場終了時―
清澄 110600
風越 117500
龍門渕 99400
鶴賀 72500
南二局、龍門渕は先ほどの責任払いにより、三位まで落ちることになったが、その瞳には色が戻った。十二巡目、龍門渕は叫んだ。
「リーチですわっ!!」
先ほどまで静かで大人な雰囲気を漂わせていた龍門渕は、そこにはなかった。
「いらっしゃいまし!ツモ!」
一発ツモ。
{[五]五六六七七③④⑤⑥⑦88} ツモ{⑧} ドラ {⑨} 裏ドラ {③}
「4000・8000いただきますわ!」
ヤミで7700ある手をわざわざリーチ。確か龍門渕の副将はデジタル(南1の連荘はあきらかにそうではないが)。違和感はあったけど、やる気に満ち溢れている彼女を見ると、それが『彼女の麻雀』なんだと思う。
南三局。ドラは{南}。局は6巡まで進み、清澄がまた動いた。
風越から{発}をポンし、{白}を切った。彼が鳴く牌は、鳴くたびに光った。
風越のツモがまたやってきて、風越は{中}をツモ切った。それを彼はポンし、また{白}を切った。
大三元に向かわないのか。そう思ったとき、またツモ番の来た風越が『また』つぶやいた。
「全然カンできない…」
この人は馬鹿なのか。それとも『この人にとって』この状況はおかしいのか。なんにせよ、こちらはいい気にはならない。最初の『麻雀楽しみましょう』発言による相乗効果もあり、ますます腹立たしかった。
「あンた…口を閉じなよ…。『言葉』が…白けるぜ」
彼は、風越がツモ切った{西}をカンした。
そして、嶺上開花。
「それは…その嶺上牌はわたしの……」
「『見えていても』『わかっていても』負けることがある。それが・・・麻雀だ・・・」
清澄は牌を叩きつけ、言った。ツモったのは{[五]}。
{五南南南} ポン{発発横発} ポン{中中横中} 大明カン{西西西横西} ツモ{[五]} ドラ{南} 新ドラ{西}
ホンイツ、トイトイ、{南}、{発}、{中}、ドラ7、赤1、嶺上開花
親の数え役満
風越の責任払いにより、清澄は首位になった。それも圧倒的な点差をつけて。
―南三局終了時―
清澄 154600
風越 65500
龍門渕 115400
鶴賀 64500
南三局一本場は、まるで嵐が過ぎ去ったかのように、場は、平らになり流局。南四局流れ二本場。
その結果は
「ロン」
「は?」
「メンタン。2600は3200っす」
の通り
龍門渕は驚いていた。それもそのはず、私のリーチが見えていなかったから。
「前半戦、終了っすね」
―副将戦前半戦終了―
清澄 154600
風越 65500
龍門渕 112200
鶴賀 67700
―そういえば、カメラを通してなら、私もいろんな人に見てもらえるんだっけ。この試合も、すごく多くの人が見てるんだろうな。
―でも、私を見てくれるのは一人でいい。
―しっかり見ててくださいよ、先輩。
私は子供の頃から、影の薄い子だった。だから私は、これまでコミュニケーションを放棄してきた。辛くもなんとも無かった。それ故に、存在感の無さに拍車がかかるばかりだった。
だけどある日私を、そんな私を、誰からも見つからないそこにいないはずの私を、大勢の人の前で叫んで求めてくれた人がいた。
それが、先輩。目的はネット麻雀で知った私を部に勧誘することだったけど、それでも、うれしかった…。
…だから、がんばるっす
コミュニケーションのための時間も悪くない。
それを教えてくれた、先輩のために。
私は存在感ゼロどころではない。いわば「マイナスの気配」。そのマイナスは、捨て牌まで巻き込む。
ここからは『ステルスモモ』の独壇場っすよ!
◆
「お父様が今どこにいるのか教えてくださいまし!どうか今!」
副将戦前半が終了し、五分間の休憩の間、龍門渕の透華は、竜に問い続けた。2ヶ月前に行方不明になった、父の行方を。
「勝負が終わったら、教えてやる。席に着きな」
「そんなこと言わずに・・・」
「龍門渕選手!席に着きなさい」
五分間の休憩が終わり、透華は仕方なく席に着いた。
「いいですか!終わったら絶対教えるのですよ!絶対ですわよ!」
竜は返さなかった。ただずっと、卓の真ん中を眺めていた。
―副将戦後半戦開始―
東一局
東家(タチ親)・咲 [風越] (65500)
南家・竜 [清澄] (154600)
西家・桃子[鶴賀] (67700)
北家・透華[龍門渕] (112200)
東一局、親は風越。ドラは{九}。九巡目、透華に三面張の聴牌が入った。
北家 透華 手牌
{八八九③④⑤⑦⑧⑨234[5]} ツモ {6}
この手から打、{九}。リーチを発声した。
「いいんすかそれ…ドラっすよ?ロン」
「え…?」
「リーチ一発ドラ1―――5200(ごんにー)っす」
西家 桃子 手牌
{七八③④⑤⑦⑦⑦789南南} ロン {九} ドラ {九} 裏ドラ {中}
「あなた!ちゃんとリーチ宣言はいたしまして!?」
「したっすよ?」
桃子のステルスは、前半戦に続き、後半戦でも発揮した。
東二局 親は清澄、竜。ドラは{一}。
八巡目、竜は北家、咲が切った{①}をカンした。そしてツモってきた{④}をツモ切りした。
新ドラは{8}。
竜 手牌 {②③④⑤⑥⑦⑧⑨⑨⑨} 大明カン {横①①①①}
竜はアガっていた。それも九蓮を。しかも、嶺上牌の{④}でも上がっており、その異常性に気づけたのは、モニターで観ていた者たちだけだった。竜の狙い、思惑は、誰にも分からなかった。
ステルス状態の桃子は、すでにリーチをかけていた。暗刻の{8}がそのままドラになり、竜の鳴きに感謝した。
そして次巡、桃子はツモ上がった。
南家 桃子 手牌
{4567888⑥⑦⑧中中中} ツモ {3} ドラ {一} 新ドラ {8} 裏ドラ {西} カン裏 {8}
裏ドラまで乗り、倍満の手になった。
東三局、桃子の親番がまわって来た。
この回も竜は鳴き、桃子はツモる。またも新ドラは桃子の味方をし、8000オール。またも倍満。
桃子はこの時、鳴くたびに閃光を放つ竜の鳴きは、自分の味方なのではないかと思った。たった二回の出来事ではあったが、その男の放つ『魔性さ』も相まって、桃子は竜が勝利の女神に近い者ではないかとさえ錯覚した。
不思議なことに「不用意な鳴きが、ただ相手を有利にしただけ」という考えが、起きなかったのだ。
しかし、それは違ったのだ。
東三局一本場、六巡目に竜が鳴いて以降、風越、清澄、龍門渕はすべてツモ切り、一向聴地獄になった。
一方、桃子の牌は縦に重なっていき、最終的に聴牌。
形は四暗刻
しかし、上がれずに流局。
「て…聴牌……」
桃子は嫌な気配を感じた。聴牌したのは桃子だけであり、倒した牌を全員が、注目した。
ノーテンと言えばよかったのか、しかし、トップまではまだ点差があり、大事な親を流したくなかった。
東三局一本場終了時
風越 52500
清澄 137600
鶴賀 115900
龍門渕 94000
東三局二本場、龍門渕からリーチが入る。同巡、同じく聴牌していた桃子は龍門渕に対しての危険牌を掴んだ。
(もしこれが当たり牌でも、あなたは見逃すっす)
桃子は切った。己がステルスを信じて。
しかしそれはロン。8000の二本場だった。
「私の捨て牌が見える?みえないんじゃ…」
桃子はつぶやいた。
「何を言っていますの?見えるとか見えないとか、そんなオカルトありえませんわ?」
運さえ味方をしていると思い込んだ桃子にとっては、信じがたい事実だった。
次局桃子は、龍門渕に親満を振り込んだ。
一度は十一万まで増え、トップも狙えた点棒が、九万程に戻ってしまった。
「あンた…『過去』は捨てな…」
清澄は自分のために鳴いていたのではない、曝すために、鳴いていたのだ。桃子は、そう確信した。
(あ~。じゃあこの人たち全員とガチ麻雀っすか)
だが、桃子は落ち込みもしなかったし、やけになることもなかった。
(でも…それはそれで……いつもより楽しめそうっすね!)
「ツモ!メンピン一発ツモ。1300・2600は1400・2700っす!」
東四局一本場。桃子はリーチの声も、ツモの声も、動きも、吹っ切れたように明るいものとなった。
桃子は『麻雀』を楽しんでいた。
一方、風越の咲は暗かった。副将戦開始時、自信に満ち溢れていた彼女は見る影も無かった。
「あンた…麻雀は楽しいものじゃなかったのか?」
その彼女に対して、竜が言った。
(麻雀は…楽しい……もの……)
咲は何かを思い出したかのようにハッとした。そう、自分でも思っていたことだし、言っていたことだった。
なぜ、自分は今そうでないのだろう。彼女は考えた。ツモれないから?負けているから?思うようにいかないから?
分からない。明確な答えを、彼女は出すことは出来なかった。
次に自分は楽しんでる時、自分は『どう』だったのか、それに思いを巡らした。
家族麻雀の時、風越の合宿の時、自分はどうだったのか。
合宿の時、風越女子の殆どは浴衣を着崩さず、足袋ソックスもしっかり履き、練習に打ち込んでいた。
自分は、それは苦手だった。帯を緩くし、靴下は・・・
(あ……)
そして、思い出した。
「あの…脱いでもいいですか?」
咲は靴と靴下のことを指した。監視役に許可をとり、それらを脱いだ。まるで、飛ぶような感覚。自分の麻雀には、それが『まず』あった。勝ち負けは、その後だ。
(うんっ!おんなじかんじだよ!)
―東四局一本場終了時―
風越 51100
清澄 136200
鶴賀 100800
龍門渕 111900
南一局、親は咲。
「ツモ。700オールです」
役はツモのみ。龍門渕と鶴賀は思った。血迷ったのか、と。連荘を考えるにしても、安すぎる。
「ツモ。嶺上開花500オールの一本場です」
南一局一本場。ポンした牌を加カンしての嶺上開花。符点も上がらない安アガリ。
南一局二本場 ドラは{一}
五巡目 咲 手牌 {233334⑥⑥⑧⑧⑧⑧三}
次巡、竜が捨てた{⑥}をポンし、打{三}。龍門渕と鶴賀は、食いタンの早アガリ。親の連荘を狙っていると思った。しかし、実際は聴牌に取らないわけの分からない打ち回し。
そして鶴賀、ドラの{一}をツモ。打{四}で聴牌。高め純チャンリャンペーコー清一ピンフ、数え役満の形。
清澄から直撃を奪いたかったためリーチはしなかった。
西家 桃子 手牌
{一一二二三三七七八八九九九}
龍門渕は{①}をツモった。
透華 手配 {二三四五六七八九西西西南南} ツモ {①}
咲の鳴きがなければ、透華は上がっていた。
さらに次巡、{⑥}をツモった咲はそれを
「カン」
{2}をツモ。
「カン」
{⑧}を暗カン。{2}をツモ。
「もいっこ、カン」
{3}を暗槓、そして
「ツモ。嶺上開花、タンヤオ、トイトイ、三暗刻、三槓子。8000オールの二本場です」
{2224} 加カン{⑥⑥
2000点の手が倍満に化けた。
自分には一生にあるかないかの数え役満を流された鶴賀は、さすがに悔しさをあらわにし、小さく卓を叩いた。
三本場、十巡目。このままではまずいと判断した透華は、聴牌気配のある鶴賀に差込を試みた。差込は成就し、3900の三本場を鶴賀に差出し、風越の連荘を止めた。
しかし、咲の勢いはまだ止まらなかった。
南二局、親は清澄。
六巡目に対面の鶴賀から{①}をポンした咲は、13巡目
「カン」
「もいっこ、カン」
「カン」
またも三連続、連槓。上がった役は、清一三槓子含みの数え役満だった。
北家 咲 手牌
{④④④⑤} 加槓 {①
このアガリで、咲はトップに立った。
―南二局終了時―
風越 111600
清澄 110700
鶴賀 88100
龍門渕 89600
止まらない、止まらない流れ
南三局 親、鶴賀。ドラは{1}。
後半戦、これまで、アガリも振り込みもしなかった竜が、動いた。
風越、咲の捨てた一萬をチー。打{4}。光を放つ鳴きは、健在だった。
竜 手牌 ?????????? チー {横一二三}
「それでも、もう私は止まらないよ」
咲 手牌 {三⑧⑧⑧⑨⑨⑨223北北北}
咲は笑った。
鶴賀の番、桃子の切った{2}を咲はポンし、{3}を切った。竜はその{3}をポンし、打{④}。また光った。
??????? チー {横一二三} ポン {横333}
そして咲は、また笑った。
「それでも、これでおしまいだよ。カン!」
咲は手持ちの{⑧}を暗槓。
{三⑨⑨⑨北北北} ポン {2横22} 暗カン {■⑧⑧■} リンシャンツモ {⑨}
「もいっこ、カン」
さらに{⑨}を暗槓。
{三北北北} ポン {2横22} 暗カン {■⑧⑧■} 暗カン {■⑨⑨■} リンシャンツモ {2}
咲はその{2}をさらにカンした。
「これで…」
咲は嶺上開花でアガリ牌の{三}をツモれる確信があった。
「甘いナ」
だが
「え?」
先に倒したのは、竜。
「ロンだ」
{1113①②③} チー {横一二三} ポン {横333} ロン {2} ドラ {1}
チャン槓三色ドラ3、満貫。トップの順位はまた入れ替わった。
「そ、そんな…」
「あンたにひとつだけ教えてやる。『そこ』は誰のモノでもない」
そしてオーラス。親は龍門渕。ドラは{③}。
竜は哭いた。鶴賀から{7}を。そしてドラの{③}を落とした。聴牌したのだろうか。新ドラは{③}。
竜は哭いた。龍門渕から{8}を。また、{③}を落とした。ドラのトイツ落とし。新ドラはまた、{③}。
竜は哭いた。風越から{9}を。そして、{③}を河へ。竜の狙いは何だ?新ドラは・・・{③}・・・。
桃子は堪えれなくなり、ドラをチーし、清一へ向かった。
(少しでも多く…少しでも多く、先輩へ…!)
桃子は心の中で叫んだ。咲も、透華も叫んだ。
清澄、哭くな……、と。
竜が哭く…。
「ひとつ哭けば、またひとつ…」
――――己がなおも 哭きたがる
{①} 暗槓 {■白白■} 大明槓 {777横7} 大明槓 {88横88} カン 大明槓 {横9999}
ツモ {①}
「終わったな…」
―副将戦終了―
風越 95600
清澄 150700
鶴賀 80100
龍門渕 73600