アカギ、傀、竜が清澄高校麻雀部に入部したそうです   作:叶芽

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#30 Dragon’s Dream その1

 

 中堅戦において行われた、清澄と白糸台の『通し』のイカサマについての調査は継続されることは無く、小鍛治健夜の予想通り『純粋な読みによる差し込み』という結論に落ち着いた。

 

 千夏の解放についてはD・Dの存在もあってか、速やかに行われた。松坂らは、D・Dに背いて無理に千夏を連れ戻すことは出来なかった。

「君たちの存在を抹消しても良いんだよ」

 刃向おうとした門脇に放たれたD・Dのこの一言で、千夏の件に関しては決着が付いた。松坂、門脇、磯野の三名は控室から退室した。

 現在部屋に残っているのは、D・D、ヴィヴィアン(仮眠中)、高津、ケイ、千夏のみ。千夏も、フランケンが戻り次第、共に部屋を出る構えだ。

 

「それでは、行ってきます」

 ケイは静かに立ち上がり、そして部屋を後にした。

 

「確認しますがデイヴィットさん…。『副将戦まで』で良いんですよね」

 高津が言った。D・Dは答える。

「大丈夫だよ。大将戦は関係ない。共武会の方に関しては『そういう風』に記録の書き換えはしてあるみたいだからね。記憶、の方が正しいと思うけど、まぁ彼女が『記録』と言うのなら、そうなんだろうね」

「私どもとしては約束さえ守ってくださればそれで構わないのですが…しかし、信じがたい話ですね」

「『オーバーワールド』に行ってからは、何が来ても驚かなくなったよ。私はね」

「彼女もその住人なんでしょうか」

「違うそうだよ。彼女はこの世界の人間じゃ無い。まぁ、人間なのかも疑問だけどね」

 D・Dは軽く笑いを交えて言った。

 

 関西共武会と桜輪会(及び桜道会)との抗争。その決着は、暴力によってではなく、麻雀でつけられる。

 本来なら、大将戦までの結果で勝敗が決められるはずだが、D・Dの計らいで副将戦までの結果が勝敗を決めるものとなった。なお、清澄や阿知賀が副将戦終了時トップだった場合、白糸台と臨海の順位が上だった側が勝利となる。それでも同点の場合は、インハイのルールに合わせ、上家取りとなる。

 だが、ここでケイはトップで終了しなくてはならない。

 高津の目的は、抗争の決着だけでは無い。寧ろ『こちら』が本命である。

 高津の目的は【名簿】。

 【名簿】とは、政治家と企業の癒着の証拠、その記録である。

 大規模な金融危機の際、国は倒産させてはならない企業を指摘するが、当然企業側としては選ばれる側になりたい。故に発生する賄賂をはじめとする不正行為。世に出てはならないスキャンダル。【名簿】はそれらを全て記している。

 そして今、その【名簿】を所持しているのはD・D。圭がトップで副将戦を終えた場合、D・Dと【名簿】を賭けた勝負を挑む権利が与えられる。

 

 元々、D・Dは【名簿】などには興味など無かったが、名簿を作成した政治家、羽鳥の息子が【名簿】を賭けて勝負を持ちかけてきた。あらゆるギャンブルに飽き、飢えていた彼故の行動であったが、相手はD・D、勝てるはずも無かったのだ。

 【名簿】などD・Dにとって不要のものであったはずだが、そこに記されていた一人の人物を目にすると、その考えを改めた。

 『鷲巣巌』の名である。

 D・Dが名簿を入手したのは一年前。しかし鷲巣はその一年前に亡くなっている、と言われていた。だが、D・Dには確信があった。

 鷲巣巌は生きている。あの男は、あの程度では死なない、と。

 そして【名簿】を手に入れた翌月、彼は『オーバーワールド』にて、この世の節理に関しての考え方を改めることになる。

 

 

 

 

 

 インターハイ決勝戦の前日のこと。

 

「それじゃあ、当日の『条件』の確認をしておこうか」

 その部屋には、白糸台副将の白虎と、臨海副将のケイだけがいる。白虎は続ける。

「まず一つ、前半戦を終了した時点で白糸台のポイントが臨海を上回っていること。もう一つは、1回、君がオレの指定の聴牌に振り込むこと…以上2点…OK?」

「はい」

「あまり露骨すぎると高津の野郎にばれるからな」

 もともと、圭は関西共武会…白糸台側の人間である。さらに言うと、白虎の味方であった。

 圭はかつて、オフ会という形で騙され、高レート雀荘の卓に着いてしまったことがある。だが、その際に発揮した実力を白虎に認められ、以後彼の依頼を受けると言う形で、ギャンブルの世界に足を踏み入れた。

 ケイが白虎と出会った最初の『ギャンブル』の場所は、人身売買を行う者達のもぐりの場所でもあり、ケイはそこでアミナという少女と出会い、そして彼女を『買った』。アミナは、対局で三対一という形で『包囲』されていたケイに対し、助けになる行為をしてくれていた少女だった。

 しかしケイが彼女を買った理由は、その感謝では無い。理屈など無かった。『反射』だった。落としたナイフを、とっさに拾いに出す手のような、危険な『反射』。

 アミナは不法入国者である。ケイは彼女と共に生活しているが、それもいつまで続くかわからない。入国管理局に見つかれば、その時点で終わる。

 白虎は、このインハイにおける戦争にて、圭をスパイとして桜輪会に送り込んだ。アミナの偽造の『家族ビザ』を報酬とし、協力を条件とした。

「お前は、やるしかないんだよ」

「はい」

 ケイは静かに返答した。

 

 

 

 

 

 控室に戻った久であったが、その部屋には染谷以外は誰もいなかった。

「あら、まこだけ?」

 久は訊く。

「京太郎は買い出し…。他も、ついさっき出て行ったわ」

(買い出しなんて頼んでないけど、気を使ってくれたのかな、みんな)

 久は染谷が座っているソファの隣に腰かけ、大きく伸びをし、そして言った。

「終わっちゃったわ。私の舞台」

 彼女の視線は天井だった。これから自分の瞳がどうなってしまうのかを、予見していたかのように。

「そうじゃの…」

 そう染谷は合わせた。

 彼女の言葉と共に、久の瞳から止めようの無いものが溢れてきた。

 嬉しさや感謝、負けてしまった悔しさ、そして終わってしまった悲しさの涙は、既に流した。

 今彼女が流している涙は、後悔。

 抑えていた感情は決壊し、彼女は声を上げ、泣いた。子供のようで、幼さがあった。

 染谷は、その彼女を自分の胸に抱き寄せ、優しく頭を撫でた。

 

 

 

 

 

 憧が帰ってきて、次は私の番。

 ハルちゃんが越えられなかった準決勝。私達は、それを不戦勝みたいな形で越えてしまった。でも…違う。こんなのは越えたにはならない。この決勝に勝ってこそ初めて、ハルちゃんが越えられなかった『準決勝』を越えたことになる。

 だから絶対負けられない。これが私にとっての、十年越しのリベンジだから。

 

 憧は悔しさで泣いていた。ごめん。ごめんって。

 でも、そんなことないって、私達は返した。それは励ましたり慰めたりとかそういうのじゃなくて、事実だったことも付け加えた。あんな異常な打ち手がいる中で、あの程度の失点で終えることが出来たのは、寧ろプラス以上の価値があった。

 だから、私はその勢いを引き継ぐ。玄、宥さん、憧…。みんなの頑張り、無駄にはしない。

 

 そして、この決勝の舞台…あの子と打つ。清澄の副将、竜司君と。

 彼を見たのは10年前。姿は変わっているけど、でも変わっていない。あの子はあの時から今日までずっと、竜司君だ。

 何故、竜司君がここに居るのか。それを訊きたかったけど、今、彼と相対して、その気持ちは吹っ飛んだ。ただ純粋に、彼と打ちたい。そうなった。

 彼はもう既に場決めの牌を引いていて座っていた。私も引いた。対面。私は座り、一息ついた。

「10年ぶりだな」

 思いもしなかった。竜司君は、覚えていた。私を。私は、襖の隙間からずっと見ていただけなのに。

「覚えて…いたんだ」

 戸惑った。何を返していいかがわからなくて、それ以上言えなかった。

 暫く沈黙は続いたけど、何故か落ち着けた。豪勢な作りのステージで、圧倒されないか不安だったけど、竜司君がそこに居るからか、懐かしい気持ちになれた。

 

 でも、もしこの空気の通りに、全てが動いていたとしたら…もしその通りなら、私は嫌な思いをするかもしれない。

 

 それから少しして、白糸台と臨海の人も来た。白糸台の人は上家に、臨海の人は下家に座った。

「よお…一か月半ぶりか?竜さん」

 白糸台の人が竜司君に声をかけた。確か、白根虎之助。竜司君は見向きもしなかった。

「竜さんよ、オレを忘れたなんて言わせない…白虎だ。あんたらが合宿していたその初日、あんたらに負けて頭を丸めさせられた」

 ハンチング帽を被っているその人は、右人差し指で、少しだけ帽子のつばを持ち上げ、そのスキンヘッドの一部を見せた。

「今日あんたに勝って、また髪を伸ばしてぇなぁ…」

 あまり、良い人じゃなさそう。たぶん私の、嫌いなタイプ。

「…あんたの母親……」

 そうその人が言った時、微かに竜司君が反応したように感じた。

「死んだ親父が死ぬ前に教えてくれたことですが、あんたの母親…俺の姉だそうですよ。歳はかなり離れてますけどね…。だが信じられますか?オレがあの伝説の『哭きの竜』の弟だなんて…。なあ、あんたは何か知ってないんですか?」

 その人は、竜司君の母親について話し出した。竜司君は返さず、ただじっと卓を見つめていた。

 竜司君の家族…。玄達のお父さん曰く、誰のものでも無かった竜司君にだって、親はいる。私はそのことについては全く知らないけど、気にならないわけじゃない。どちらかと言えば知りたい。

 でも、到達する結論は決まっている。彼は、誰のものでも無い。おそらく、彼のお母さんだって、きっと誰のものでも無かったはず。彼の麻雀は、いつもそう語っていたから。

 

「まあ…いいや。それより…あんたもわかっているでしょうけどこのインハイ、ただの学生の祭りじゃない…。あまり余計なことをしないでもらえると助かるんですけどね」

 やっぱり、この空気だ…。竜司君の周りには…こういう空気がまとわりついている。昔の、玄達の旅館にあった…あの空気。きっとこのインハイの裏には…あるんだ…。

 嫌だな…。せっかく、ハルちゃんのリベンジが…したかったのに…。こんなことが…この舞台で行われるなんて…。悔しい。でも、どうしようもない…。

 

「ふっ」

 その時、竜司君が…笑った。

「何か異存でもあるンですか…竜さん」

「勝負とは、あンたが思っている以上に純粋なものだ……」

 

 その言葉を聞いて、心の中で落ち続けていたそれは、そこで止まった。

 そうだ…その通りだと、私は心の中で頷いた。ここで行われるのは『勝負』以外の何ものでもない。ただ打ち、勝者と敗者が生まれる、そういう競技…麻雀。

 私は、私の信じる全てを、この舞台で出し尽くす。

 心の奥底に沈みかけていたそれに、私は火を灯した。

 

 

 

 

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