【岩倉玲音について】
岩倉玲音。
彼女はこの世界の人間では無い。【隣の世界】からこの世界に来た少女である。無数に存在する【隣の世界】の中の一つ、そこから彼女は、【青山和】と共に次元を越えてこの世界に来た。『彼ら』と打つために。
彼女は赤木しげるから麻雀を学んだ。彼女の世界での赤木しげるは50を超える中年。時代も、この時代より未来である。
玲音の父親は、ギャンブルに足を運んでいる間の面倒見として、彼女を赤木の所に行かせた。それが二人の出会いだった。
幻視、幻聴等、その頃精神的に不安定だった彼女であったが、赤木との交流を深めるうちに、その幻と向き合うようになる。そしていつしかその幻は、真実となって彼女と共に生きることになった。それがもう一つの人格…【lain】である。
赤木しげるの死を看取った三年後、高2のインターハイを終えた後、彼女『達』は玲音の創造主と名乗る英利政美という男と接触し、彼女の正体が、世界の記録を書き換えることの出来るプログラムであることを知らされる。英利は玲音を使って、世界の意思を一つにしようと試みたが、彼女達はそれを拒絶し、英利政美の記録を書き換え、その存在を抹消した。
彼女が高3に進級した春、【麻雀の意思】に接触した翌週のこと。
彼女達は【
青山和と共に【隣の世界】を渡り歩く中、彼女達はノイズが異常に多い世界を発見する。その世界では、青山和でさえ介入出来ない時間帯が多数存在する。その内の一つが【第71回全国高等学校麻雀選手権大会】…『インターハイ』の決勝、その大将戦である。
その舞台に集まる『二人』を玲音が知った時、この時間に和が介入出来ないことに納得した。それ程までに、この『二人』の存在は強過ぎる。その存在は、時空すら歪ませていた。
『彼らと打ちたい』
【松実露子】と打った時と同様、玲音はそう思った。
だから彼女は、ここに居る。
「そろそろ出番ですね…玲音さん」
白糸台高校控室、そこに居るのはもう二人だけになっていた。
「うん。それにしても和ちゃん一人で寂しくない?」
「…はい…ちょっとさみしいかもです…」
「清澄高校の控室が大分賑やかだから、そこに行くと良いよ。ここと同じように、視界からは消しておくから」
「…そうですね。そうさせてもらいます」
「うん」
「では、行ってらっしゃい。『二人とも』頑張ってくださいね」
「「うん」」
部屋を出る直前、彼女は足を止め振り返った。
「ねぇ和ちゃん…ぎゅってしていい?」
「え?どうして…」
玲音は和の答えを待たずに彼女に抱きついた。
「これから2時間くらい、和ちゃん分が吸収できないからー」
彼女はそう言いながら和の大きな胸に頭を擦り付けた。
「ちょ…ちょっと玲音さん…」
「胸も吸収出来たらいいのになー…」
「そんなオカルト…ありえませんっ!」
((ちょっと玲音!いつまでやっているの?行くよ!))
彼女の中に存在するもう一つの人格、【lain】が彼女を引き止めた。
「lainも感じてるんだからいいじゃん~」
((あんたと同じにしないで!まったく、いつからこんな性格になったのかしら))
「私は昔からこうだよー」
((絶対に違う!和に会ってからだわ。胸なんてあっても仕方ないじゃない))
(相変わらず、ややこしい性格ですね)
とりあえずは抱いている玲音の頭を撫でながらも、和はそう思った。
◆
副将戦の時に起きた事件については、それを目撃した全ての者の記憶には灼きついた。しかし、その全ての【記録】は消去され、存在していたのは別の記録であった。独自に録画している者の記録でさえ、別のものになっている。
結局、その事件が起きた証拠を、誰一人として提示することが出来なかった。また、会場の位置情報は依然書き換えられたままであり、外から大会を中止させられることも無かった。
「夢でも、見ていたみてぇだ…」
安永はぼそっと言葉を漏らした。
「そうですね…」
「まぁ気にしていても仕方ないですよ。切り替えようよっ」
恒子はそう言いながら、携帯を取り出した。
「電波は止まっているよ?こーこちゃん」
健夜が言った。
「あ、えっとね、大将戦の面子についてですよ」
「ん?どういうことだ?」
安永が訊いた。
「臨海高校の大将だけ、発表が無いんですよ」
恒子が答える。
「…は?臨海の大将は【武田俊】じゃないのか?」
「それは表向きの情報です。実況もそっちの名前でやることになりますけど、大将戦の前に、局の方からメールで、本当の方を教えてもらうことになってるんです。ちょっと、意味が解らないですけど」
「でも、今は通信が…」
健夜がそう言った瞬間、携帯に目をやっていた恒子の表情が、固まった。
「それが…来ているんですよ……」
彼女は、まるで信じられないものを目にしているような雰囲気を漂わせた。
「ちょっと見せてみろ」
安永は恒子から携帯を取り上げた。
「それ…同姓同名な…だけでしょうか…」
恒子は恐る恐る訊いた。
そしてモニターに『その人物』が映った。
◆
アカギが対局室に入った頃、既にステージには先客が一人いた。玲音である。
玲音は振り返り、ステージの階段を登るアカギを見た。
アカギは階段を登る途中足を止め
「あんた、どこかで会わなかったか?」
と言った。
「初めまして…だよ?」
玲音は微かに笑い、そう答えた。
続いて阿知賀女子大将、高鴨穏乃が入ってきた。
「今日は、ジャージじゃないんだね」
玲音は訊いた。穏乃の服装は普段のジャージでは無く、制服だった。
「えっと、メンバーの憧に言われて、阿知賀の代表なんだから、代表らしく制服で…って感じです!」
「良い、心構えだね」
「でもこの制服、憧に借りたんですけどね」
照れ含みの微笑を零し、彼女は場決めの牌を裏返した。
◆
「ん…起きたのかヴィヴィ」
仮眠を取っていたヴィヴィアンはソファーから体を起こし、モニターに目を向けた。
「大将戦だよね。面子だけでも知りたいし」
「まぁそうだろうね」
「ところで誰よ。【武田俊】なんて嘘までついて、なんで隠す必要があったの?」
「いや、実際隠す必要は無かったんだけどね。ただ、ちょっと驚かせたかったって所かな」
「はぁ?…まったく、おっさんの考えることは理解できないわ」
「そうだね。驚く人間は、数えるくらいしかいないだろうし」
◆
最後に、『その男』が対局室に入ってきた。
「揃っておるようだな…」
ガン、ガンと音をたて、力強くその男は階段を一段一段登る。
(うっ…)
その禍々しい圧力に、穏乃は気圧され、口を押えた。
一歩一歩近付いてくるたびに、彼女の寒気と吐き気は加速した。
(堪えろ…。ここで負けちゃ…駄目だ)
彼女は耐えようとした。だが、足の震えは止まらない。肉体が恐怖から逃れられない。
逃げろ。
逃げろ。
逃げろ。
彼女の直感はそう訴えている。
だが、彼女は逃げなかった。
自分は今、一人でここに立っているわけでは無いからだ。
仲間の想いと共に、ここに居る。
(震えてもいい…怯えてもいい……でも、逃げちゃだめだ!)
それが、今の彼女を支えていた。
アカギは振り返り、対局室に入ってきたその男を見、そして言った。
「やはり……生きていたか……。ククク…随分と若返ったもんだな」
「地獄から舞い戻って来てやったぞ…ッ!……赤木しげる……ッ!!!」
そこに居たのは、闇の帝王【鷲巣巌】……その若かりし姿であった。
この回より『ワシズ』がクロスします。
またこのSSでの岩倉玲音は、『Arcadia』様に投稿させていただいた
『serial experiments akagi site-A』
及び
『serial experiments akagi site-B』
の設定を引き継いでいます。
この作品は1ページ1ページが非常に短いので、もし読まれる場合、全件表示の方が読みやすいかもしれません。
またこの作品はこちらでも投稿させていただいています。