アカギ、傀、竜が清澄高校麻雀部に入部したそうです   作:叶芽

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#34 オーバーワールド その2

 

 

 

 

 

 

 

 

 鷲巣巌。

 彼がこの世に戻ってきた経緯を語るには、まずD・Dのことについて語らなくてはならない。

 D・D…デイヴィット・デイヴィスは病に倒れ、既に一度この世を去っている。彼が夢見た【楽園】…それを叶えることもなく、その生を終えたはずであった。

 彼は【名簿】を手にした日から、病に侵されながらも鷲巣の行方を捜した。世界中のありとあらゆるところを巡った。そして彼は確信した。鷲巣巌がいる場所は【オーバーワールド】であるということを。

 【オーバーワールド】…それは太平洋に作られた、異能者が集められていると言われている【島】。鷲巣巌はそこに居る。御伽噺の領域を出ないであろうこの説をD・Dが信じたのは、彼の命がもう残り少なかったことが大きい。

「根拠なんて無かったよ。妄信に近かったね。焦ってたのかな」

 後にD・Dは、当時の自分をそう自嘲する。

 家族を皆陸に置き、己は一人で海に出た。そして2週間後の太平洋上…D・Dの時間はそこで停止した。

 

 彼が目を覚ますと、そこには赤と黒を主とした背景。焦げたような臭いと蒸されているかのような熱気。聴こえてくるのは誰かの叫び声と、何かが砕けるような音や、切られたような音、裂かれたような音、弾けたような音。

 辺りを見回すと、阿鼻叫喚の世界が広がる。自分よりも何十倍も大きい者が、自分と同じ小さいものを殺している、道具にしている、食べている。その光景を見て、D・Dは笑った。

「まさか、これが【地獄】なんて言わないよな?」

 なんと生易しいものか。彼がこれまで見てきた世界の方が、よっぽどの地獄であった。そこらにいる【鬼】など、彼にとっては赤子以下であった。

 芸術的ともいえる彼の人体破壊能力を前にして、サイズなど何の関係も無い。そして彼は感じた。体力が回復しているということを。加えてその体力は全盛期のものであった。

 鬼達は慌てふためく。『ここにも居た』と。なんとD・D以外にも、この鬼達に立ち向かい、勝利し、駆逐している者がいるのだ。

 彼は先に進み、そして『彼』を発見した。

 鷲巣巌。彼がその『もう一人』であった。彼もまた、鬼に反逆する一人であった。

 そこが、彼等二人の出会いだった。

 

 鷲巣はD・Dに自分のことを訊いた。彼には、自分がここに居る理由がわからなかったからだ。D・Dは答える。鷲巣が赤木しげると対決し、敗北したということを。

 訊いた鷲巣は、俯き、そして黙った。続いて体を震わせ嗚咽を漏らし始めた。D・Dは黙っておくべきだったかと一瞬思ったが、次の瞬間、鷲巣の身体に変化が始まった。

 鷲巣の身体が見る見るうちに若返っていく。老体だったそれが、肌の張りを戻し、筋肉は膨れ上がり、髪は黒に戻っている。そして彼は声を震わせた。

 

「思い出したわ…赤木しげる……ッ!」

 

 鷲巣巌。彼の時間は、6回戦の南4局を残して停止した。1900CCの出血に、彼の身体は耐えることが出来なかった。

 

「それで…どうするんだい?」

 

「戻る…ッ!!戻ってやるぞッ!あの世界に。この世界が仮に地獄だったとしても関係ない…何としてでも戻る……ッ!!!」

 

「ふっ…乗ったよ。私もまだ死にたくないんでね」

 

 そして二人の旅は始まった。

 

 その世界は塔のようになっていて、地獄はその第一階層に過ぎなかった。彼らは第二、第三と進み続けた。階を進むごとに、敵は強大にそして禍々しく、この世のものからかけ離れていく。空間の有り様も、過酷なものとなっていく。

 

「まるでゲームのようだね」

 

「つまらん。これを考えた神がいるとしたら、そいつは相当の暇人で、マヌケに違いないな」

 

 第六階層からは悪鬼、魑魅魍魎の類のものは居らず、存在していたのは街、という空間であった。空も、太陽も存在する。一つの世界がその空間にはあった。しかし、現代的な街とはかけ離れていて、中世欧州の雰囲気を漂わせていた。大きな壁に囲まれた、巨大な街。中央には大きな教会のようなものが建てられている。

 そこの住民は好戦的な様子は無く、会話することが出来た。D・D達は訊いた。ここが何処なのかと。どういう所なのかと。

 壁の扉から来た者ということで一旦怯えはしたものの、D・Dが宥め、その住民は答えた。ここが【オーバーワールド】であるということを。

 

 【オーバーワールド】の正体。それは所謂『あの世』であり、その世界に行くためには、死を経験しなくてはならない。

 死んだ者の殆どはこの第六階層に来ることになり、ここで数年間『勤め』を果たした後、現世に転生する。だが、鷲巣達は当然『勤め』などするつもりは無い。

 『勤め』をせずに現世に戻るための方法は一つしかない。次元を越える権利を所持しているのは異能者達の巣窟、第七階層の王のみである。その王と『交渉』しなくてはならない。

 

 ワシズ達は王と面談し、『交渉』という名のギャンブルが始まった。

 行われた競技は、麻雀。

 卓に着いたのはワシズ達と、【れいん】と名乗るオーバーワールドの王と【松実露子】であった。

 そして、D・Dは知ることになる。『絶望』の意味を。鷲巣巌の、その全盛期の力を。

 

 

 

 

 

 

「似ているな…貴様」

 席に着いたワシズが声をかけた対象は玲音だった。

「誰に?」

 訊き返す。

「【オーバーワールド】の王…奴も名を【れいん】と言っていたな」

「そこにも…いたんだ、私を名乗る人…」

「【松実露子】共々、捻り潰してやったがな」

「大丈夫、安心して。私は他の誰でも無い…私は私、玲音だから」

「その言葉は、自分は【オーバーワールド】の王よりも『強い』ということにしておこう」

「察してくれて嬉しい。ありがとうワシズ『君』」

 

(今…玄さん達のお母さんの名前…言った?)

 それ以外、穏乃には何を言っているのか訳が分からなかった。ただ、この男にこれっぽっちも臆することも無く、しかも笑顔まで見せて受け答えするこの女の子は、只者では無いと感じた。

 

決勝 大将戦 前半戦

 

赤木しげる(清澄  1年)     105800

高鴨穏乃 (阿知賀 1年)     95100

鷲巣巌  (臨海  1年)     106700

岩倉玲音 (白糸台 1年)     92400

 

 席順はアカギ、穏乃、ワシズ、玲音の順となった。なお玲音の本当の学年は3年だが、学年ブーストによる有利さを得たくなかった玲音は、その記録を書き換えこの対局に臨んだ。

(もっとも、この人達相手じゃ、学年ブーストなんて意味ないかもだけど)

 

 

「それじゃあ始めようぜ鷲巣…『あの日』の続きだ」

 起家はアカギ。賽は振られ、

 

「あの時と同じと思うなよ…赤木しげる…」

 

「そりゃあ楽しみだ…。見せてもらうぜ、全盛期のお前を」

 

 闘牌は開始された。

 

 

 開始された。

 

 

 開始された瞬間、穏乃の手が止まった。

 

「え?」

 

 穏乃の目の前に、あり得ないものがあった。あり得ない現象があった。

 彼女は龍門渕との練習試合を思い出した。彼女達と打った天江衣を思い出した。彼女は言っていた。自分は牌が透けて視えると。彼女の言う通り、天江衣の麻雀はそれが出来なくては成立していなかった。

 現在、穏乃に訪れている現象はまさしく『それ』。山の牌…そして全員の手牌が全て、ガラスのように透けている。

(どうして?私に…何かがあったの?赤土先生達とのウォーミングアップの時?それとも、他に何か?)

 一つ一つが冷たい妖気さを漂わせているそれを見た穏乃は、その迫力にゾッとした。

 

「勘違いしているようだから教えてやる」

 明らかな混乱を見せていた穏乃に対してのワシズの言葉。

「貴様が今見えているものは、この4人…全員が同じように見えている」

「それが、ワシズ君の力だよ。彼の力は他者の認識にまで及ぶの。阿知賀の大将さん」

 玲音が補足した。

 

 穏乃は愕然とした。

 こんなに、こんなにもつまらないことがあったのか。

 

 山。

 

 彼女にとって麻雀の楽しさは、全てそこにあった。

 これから駆け巡る山が、毎回違う山が立ち上がることに彼女は楽しみを覚えた。

 しかし今その山は、初めからその解答を見せている。これからの一歩一歩、その先に見える未来、その結末…全て。

 

「ツモ。8000・16000」

 

 全て。

 

アカギ(清澄)     89800(-16000)

穏乃 (阿知賀)    87100(-8000)

ワシズ(臨海)     138700(+32000)

玲音 (白糸台)    84400(-8000)

 

 東1局は4巡で決着がついた。

 

(喰いずらしも出来ない上にプラスその豪運…。学年ブースト使っておけば良かったかな)

 玲音は自嘲気味に軽く笑った。

 

 ワシズの支配。それは卓に着いた者全員に、ガラスのように透けた牌を認識させる。しかしその本質は、ただ牌が透けて見えるというものでは無い。

【鷲巣麻雀】…それは彼が絶対に和了する麻雀。確定したその未来、その絶望を突きつけるという所に、この支配の本質がある。

 

 

「何それ?そんなの反則じゃん!」

 ヴィヴィアンにそのことを教えたD・Dは続けた。

「【レベル7】…最高ランクの中でも群を抜いた支配だね。実際に【オーバーワールド】では、同じくレベル7の松実露子を完全に上回っていたし」

「その【オーバーワールド】って本当にあるの?」

「ヴィヴィもいっぺん死んでみるかい?」

「いやよ」

 

 

 【オーバーワールド】…それは異能者の棲む異界を意味する言葉だが、異能者達を研究する【組織】の名称でもある。

 【オーバーワールド】という異能者の集まる世界に行くためには、肉体を捨て、魂の存在にならなくてはならない。そこで組織の者達は、現世に【オーバーワールド】を現出させ、そして研究することを目論んだ。

 この『インターハイ』の会場は、現世に現出した【オーバーワールド】の一つである。

 D・Dが運を計るために麻雀を利用したように、組織の者達は異能を計るために麻雀を利用した。異能者を集めるかのようなルールを作成したのは、彼らであった。

 彼らの目論見通り異能者達は『インターハイ』に集結し、年々その数は上昇の傾向にある。そのために、年々ルールの調整はされている。

 だが何よりも重要なのは【オーバーワールド】に異能者が集まるのと同時に、異能者一人一人が【オーバーワールド】を形成させているということである。

 

 

 そして…決勝……その大将戦こそ【オーバーワールド】の中枢であり、特異点とも言える。

 

 

 

 

「【オーバーワールド】…まさか本当にあるとわね。びっくりだよ」

 かつての先輩の姿を見た熊倉トシは、啜っていたラーメンの箸を止めた。

 宮守女子のメンバーは、同じく準決勝で敗退した有珠山高校のメンバーと共に海に来ていた。海には永水女子も来ていた。

 しかし決勝の大将戦ともなると、海の家のテレビの前にはその全員が集まっている状態で、席は満席。賑やかなものとなっていた。

 

「おーっと!!臨海のワシ……武田選手!二連続の役満ツモー!しかもまだ3巡ッ!!まさに超運!超超超超運ですッ!!!」

 テレビ画面からアナウンサー、福与恒子の実況がけたたましく響く。

(あのアナウンサー…どうやら『知っている』ようだね)

 

「あれが先生の学生時代の先輩、ですか?」

 宮守、臼沢塞が訊いた。

「そうだね。アナウンサーが本名言いかけてたけど、鷲巣巌…。私の先輩だよ」

 トシはワシズの事を語るとともに【オーバーワールド】のことについても彼女に説明した。

「【オーバーワールド】ってうちにたまに来る人達もそんな名前でしたよー」

 トシの傍でその話を聞いていた永水の薄墨初美は、同じく永水の石戸霞に確認した。

「ええ。そうですけど…何か関連が?」

 トシは答える。

「組織の名称だね。彼らの目的は異能者の研究。そして、異界に有る筈の【オーバーワールド】をこの世に現出させること」

 

「コワイ…」

 エイスリン・ウィッシュアートも同じく、その組織を知っていた。彼女は震えだした。

「そうだね。『あの場所』では何が起こるかがまったくわからない。現に、副将戦では血を見ることになった。もしかしたら、それ以外の区間でも複雑な事情と、事態が入り乱れているかもしれないしね」

 そう言って、トシは残りのラーメンを啜り終えた。後半の方は大分冷めてしまっていて、彼女はもう一杯ラーメンを注文した。

 

(赤木君…君は『あの』鷲巣先輩に、どう戦うんだい?)

 

 楽しみでもあったが、同時に…怖ろしくもあった。あの現象を打ち破る現象がこの世にあるとしたら…それこそまさに、間違いなく怖ろしいものであるからだ。

 

 

 

 

東2局終了時

 

アカギ(清澄)     81800

穏乃 (阿知賀)    71100

ワシズ(臨海)     170700

玲音 (白糸台)    76400

 

 

東3局 親 ワシズ ドラ {中} 賽の目 3

 

「リーチ」

 

 今度はダブリー。まるでヴィヴィアンのカウントダウンのように、その速度は加速していく。

 

東家 ワシズ 手牌

 

{一二三四[五]六七八中中中発発}

 

 裏ドラも{中}で確定してのダブリー。次巡の彼のツモは{九}。問答無用の数え役満が成立していた。加えてこの巡での、喰いずらしが出来ない。そのように各々の手が構成されている。

(このままじゃ…また役満をツモられる…)

 高鴨穏乃に見えた未来。それは誰もがそう思うであろう未来。変えようのない運命。許されたのは、絶望だけとなった。

(これじゃ…何のためにここに居るの!?)

 彼女は心の中で叫んだ。この場に存在する圧倒的理不尽を呪った。

(でも…)

 叫んだところで何も変わらない。呪ったところで相手が変わるわけでもない。祈ったところで誰かが助けてくれるわけも無し。誰もが目を背けたくなる状況。

 

 

 

 だが…

 

 

 

 アカギは違った。

 

 彼は真っ直ぐと卓を、そして山を見ている。確定されているであろう未来を前にして、これっぽっちの絶望の色も見せない。

 

「ふんっ」

 ワシズは笑った。かつての自分なら、ここで憤怒したであろう。焦燥を見せていたであろう。何故怯えん。何故震えんと。

 だが、それが赤木しげるなのだ。赤木しげるが、この程度で折れるはずがない。そのことをワシズは理解していた。

 いつでも来い、赤木しげる。とでも言わんばかりに、彼はどっしりと構え、深く背もたれに腰かけた。

 

南家 玲音 手牌

 

{一三八九③⑨1259東西北} ツモ {白}

 

 国士を目指した方が早いようにも見える配牌。

 

(9種9牌…。でも『本場を増やすだけ』の流しは意味ないし、アカギ君や阿知賀に喰わせることも出来ないし…でも…そろそろアカギ君、動くんじゃない?)

 

 彼女は打{③}。外から見れば、国士を見つつ、萬子か索子の重なりを期待するような手。勿論玲音はそんなことは考えていない。

 

「どうした…ツモらんのか」

 

 アカギはツモ山に手を伸ばさず、手牌に手をかけた。切った牌は{北}。だが打牌の内容など些細なことであった。アカギは、ツモっていないのだ。

 

「オーッと!?清澄の赤木しげる選手!なんと小牌ッ!この大将戦、決勝ともなるとさすがの彼も緊張したかーッ!?」

「小牌は和了放棄になりますが、意図してやりましたよね」

 健夜は安永に訊ねた。

「あ…あぁ…流れ論を基盤とする麻雀なら、喰えない状況下でのワザ小牌はテクニックの一つだが…」

 安永の脳裏に過ったのは、かつてのワシズ、その全盛期の麻雀である。

(あのワシズの支配があそこでも発揮されているというのなら…確かにその方法は『効く』…だが、これは一位を取らなくては意味の無い大会だぞ…。奴の支配は一局限りじゃない…)

 

 安永の予想通り、ワシズのツモは{南}。この牌は、本来なら穏乃のツモ牌。そして玲音のツモは{九}。元々のワシズのツモ牌であり、そして和了牌の{九}である。

(うん…。でもこれじゃあ私がアガちゃうよ?それでいいのかな?)

 玲音のツモは三連続{九}。彼女はその{九}を暗槓し、嶺上牌は{白}。新ドラは{九}。彼女にはひたすらワシズのツモが連続で流れていく。さらに{三}2枚。{六}3枚。

 

10巡目 南家 玲音 手牌

 

{一三三三六六六八白白} 暗カン {■九九■} ツモ {一} 打 {八}

 

「リーチ」

 彼女は牌を曲げた。和了れる確信があったからである。それは、卓に着く全員が知っていたことである。彼女の和了牌の{白}は、ワシズの次巡のツモ牌であった。

 

「ロン。裏無しで32000」

 

アカギ(清澄)     81800

穏乃 (阿知賀)    71100

ワシズ(臨海)     137700(-32000 -1000)

玲音 (白糸台)    109400(+32000 +1000)

 

「アカギ…『そんなのに』何の意味がある。あまり失望させてくれるなよ。それとも貴様、あの日から弱くなったのか?」

「それはこっちの台詞だ。お前こそ、あの日より弱くなったんじゃないのか?ククク…」

「挑発のつもりなら言っておくが…ワシは『この支配』を解く気など無い…」

「ワシって歳でも無いだろ、鷲巣」

 ワシズの言う通りであり、この戦術を使用しても、得をするのはワシズの下家。アカギに利点など無い。

(小牌…確かにそれでツモはずれてくれるけど、それをした人は和了れない…。でも…誰かがしないと臨海が和了ってしまう……これって…こんなの麻雀じゃないよッ!)

 穏乃の頭に過ったのは、三人で協力して臨海を抑えるというもの。先鋒~副将戦までであったなら意味があった。二着までなら勝ち上がれる2回戦や準決勝なら意味があったであろう。しかしこれは決勝…しかも大将戦。それはまったく意味が無い。

 

 そして…ワシズにとって意味が無いとは、そういったことでは無い。

 

 根本的に違う。

 

 

「ツモ。地和」

 

東4局 親 玲音 ドラ {①}

北家 ワシズ 手牌

 

{一九①⑨19東南西北白発中} ツモ {北}

 

アカギ(清澄)    73800(-8000)

穏乃 (阿知賀)   63100(-8000)

ワシズ(臨海)    169700(+32000)

玲音 (白糸台)   93400(-16000)

 

 国士無双十三面。喰いずらしも、ワザ小牌も意味を成さない圧倒的運量と支配力。それこそが全盛期のワシズの真骨頂である。

 

 帝王は笑う。

 

『それがどうした』と。

 

 小細工程度でどうこう出来る次元にもはや彼はいない。

 心・技・運。全てが揃っているからこその鷲巣巌。相手の心の隙を突く程度の麻雀では、彼に勝つことなど不可能である。

 

(それでも)

 玲音は知っている。それでもアカギは何かをしてくる。異能を持たなくとも、異能と同等の、あるいはそれ以上のことを成す赤木しげるなら、必ず。

 

 

南1局 親 アカギ ドラ {二} 賽の目 6

 

 全ては静かに行われ、その異常は卓の人間にしかわからなかった。

 

(え?…ど…どうして…)

 

 異常に最も遅く気付いた穏乃が見たのは、アカギの配牌である。

 

東家 アカギ 配牌

 

{一⑧38東東南南西西西北白白}

 

(これって…臨海の人だけが良い手になる支配じゃないの?)

 

 たったの4局。だがその圧倒的力は、疑いようも無く穏乃の脳裏に焼き付いた。ワシズが和了してしまう異能状況。それが今なのだと。

 故にアカギの手に異常性を感じた。その高さではなく、その手が彼に入っていることである。

 穏乃は今度はワシズの手を見る。

 

西家 ワシズ 手牌

 

{三五九①④47北北南白発中}

 

 先程とはまるで状況が逆転している。ワシズの流れが、ごっそりアカギに渡ってしまったかのように。

 

(なるほど。賽の目は6。ベスト、なのかな)

 

 流れでは無い。ましてや支配でも無い。アカギのその技術を肉眼で認識出来たのは、かつて『その技術』を見たことのある玲音のみ。一方ワシズは、状況からアカギのした行為を理解した。

 この卓はマーテル。アルティマのように配牌も一緒に上がってくるタイプでは無く、山が上がった後、賽を振り、そして牌を2トンずつ取っていき配牌を作る。

 賽の目は右6今回の取り出しは穏乃の前の山からになる。

 アカギがした技術はすり替え。通常の麻雀なら意味の無いすり替えである。積み込みや、山牌にガンでも貼ってない限り、効果など無い。

 だが、この状況なら違う。ワシズの支配によって全ての山が視えているこの状況なら。

 アカギはこの局の配牌時、2トン取る際自分の手が山の上を通過する。そして、彼は手に持っている2トンと山の2トンを、前から後ろへ弾く要領ですり替えた。

 加えて、そのすり替えた2トンはワシズが取る筈の2トン。今回、ワシズはアカギの前の山から計4トン取ることになっており、アカギは穏乃の前の山からとった計4トンをそれらとすり替える。これにより、最低、4トン分の8牌は、入れ替わることになり、アカギとワシズの手牌はその分だけ逆転する。

 さらにアカギは、最後の2牌もすり替えている。ワシズのツモ牌はアカギのツモ山の隣。アカギのツモ牌を横に流し、ワシズのツモ牌を拾えば完了。

 その結果が、この状況である。

 

(そっか…ワザ小牌の時は確か取り出し位置がアカギ君の前。それにしても…やっぱり)

 速い。そして何よりも静かだった。カメラで捉えることなど当然不可能である。

 玲音は知っている。彼の『究静極技』…その最たる姿がそこにあった。

 

(ということだワシズ…。わざわざ山を公開していたら、拾ってくださいと言っているようなもの)

 

「ツモ…16000オール」

 

東家 アカギ 手牌

 

{東東南南南西西西北北白白白} ツモ {東}

 

アカギ(清澄)     121800(+48000)

穏乃 (阿知賀)    47100(-16000)

ワシズ(臨海)     153700(-16000)

玲音 (白糸台)    77400(-16000)

 

 半分より手前はアカギのテリトリー。その範囲内においてはワシズに手を掴まれることなく、全てのツモを、その上下、及び隣とすり替えることが出来る。

 今回。アカギが欲しかった残りの牌は全て、ワシズのツモ山、つまりアカギのツモ山の隣にあった牌。決着はワシズの前の山に差し掛かる前、玲音の前の山の段階でついた。

 

「ふんっ」

 ワシズは軽く鼻を鳴らした。

「下らん。所詮は賽の目頼りではないか」

「だが、賽の目だけは支配できないようだな。ワシズ」

 

 続く南1局1本場。賽の目は10。

「ということだアカギ。その程度のことでワシを揺さぶろうなど甘いわ」

 ワシズが読んだアカギの目論見は、支配の解除。すり替えをさせまいとガラス牌状態を解除し、通常の麻雀に誘い込むというもの。

 ワシズのガラス牌モードは絶対和了支配と連動している。ガラス牌モードを解除した場合、同時にワシズの絶対和了支配も解除される。

 無論、ワシズは地力でも十分にアカギに勝つ自信はあるが、彼は自分から支配を解除することは決してしない。それ程までに、アカギの力を信頼しているからである。

 

 故にしない。

 

 軽率な緩みなど、今の彼には存在しない。

 

 だが…

 

「私も出来るよ…『それ』…」

 

「あ?…」

 

 白糸台大将、岩倉玲音。

 

「ツモ。8100・16100」

 

アカギ(清澄)     105700(-16100)

穏乃 (阿知賀)    39000(-8100)

ワシズ(臨海)     145600(-8100)

玲音 (白糸台)    109700(+32300)

 

 玲音の居た世界で、彼女は何度も赤木しげるの技を見てきた。そして彼女の才能は、それらを使いこなすことも容易であった。

 玲音はかつて、東西戦で東側に勝利を収め、インハイ個人戦で優勝し、世界ジュニア、国民麻雀大会を制覇し、世界ランク8位の称号を手にしている。彼女の力は、この世界でも、裏を含めても上位に位置する。

 何より彼女の麻雀には、老いてはいたものの、熟練された赤木しげるの麻雀が存在している。それが彼女の異常な力量と、自信に繋がっている。

 

 南1局1本場、この局の賽の目は10だった。彼女にとって8牌ワシズとの『配牌交換』が出来るポイント。しかしその方法はアカギが行ったもの以上に凄まじい。

 取り出し位置は穏乃の前の山。玲音は最初の2トンと2回目の2トンを取る際にアクションを起こした。それは『アカギの前にある山の』ワシズの取る筈の4トン…計8牌とのすり替えである。

 手を一瞬横にスライドさせ牌を弾く。当然カメラに映る速度では無いが、アカギの目の前の山で行う彼女の技術は、もはや神技の領域、この世のものでは無い。

 

「やるなあんた。2回もアクションをしたのに、まったく見えなかった」

「アカギ君にそう言ってもらえると、嬉しいよ」

(でも…二回目は厳しいかなぁ…。アカギ君の目も慣れただろうし)

 

「貴様…ホラを吹くだけのことはある様だな」

「有難うワシズ君。でも、そろそろ厳しくなってきたんじゃない?」

「笑わせるな。2対1だろうが3対1だろうが結果は変わらんわ」

「何か…勘違いしているみたいだね」

 玲音はじっとワシズの眼を見て言った。

 その眼に圧力があるわけでは無い。冷たさや鋭さがあったわけでもない。外から見れば、無垢な瞳。だが、ワシズにはわかった。その女も、相当の修羅場を潜り抜けていることに。

「私はこの対局を見に来ただけじゃないよ。あなた達と打って、勝つために来たんだもん」

「いいだろう。精々楽しませてみろ。この鷲巣巌を」

 ワシズは、圧力と鋭さを持ったガンを玲音に飛ばした。

 

(でも…きっとあなたはもう一つ勘違いしている。この卓には、『もう一人』いるんだよ…)

 彼女は対面に座っている、俯いたその娘を見た。

 

 

 

 

 麻雀ってこんなにもつまらなかったかな…。冷たかったかな…。

 ガラスのように透き通った牌は、氷のように冷たい。その冷たさは、こっちの身体までも冷やして、心までも冷やされるように感じる。

 私は、今ここで何をしているんだろう。麻雀のはず。大会のはず。阿知賀のメンバーや、応援してくれるみんなの意思を背負って、ここに居るはず。

 でも何?これは…。

 これって、麻雀?

 私は知らない。こんな遊び知らない。

 

 私は知らない。

 

 風越の池田さんの話を思い出した。

 長野の地区大会の決勝、大将戦。役満ばかりの異常な大将戦だったって聞いたし、その記録も、映像も見た。でも、やっぱりあれは麻雀だって思えた。すごいって思えた。

 ここは違う。

 ここだけじゃない。先鋒戦の時からおかしいと思ってた。何かがおかしい。確信は持てなかったけど、おかしいと思ってた。

 

 私は知らない。

 

 こんな遊び知らない。

 

 こんな…つまらない…

 

 

 

 

 

 

南2局 親 穏乃 ドラ {九} 賽の目 9

 

(賽の目9かぁ…さっきと同じ感じ。私が『さっきと同じ』ことしたら、きっと掴まっちゃう。でも…)

((『あたし』の動きはどうかな))

 彼女にはもう一つの人格【lain】がいる。

(この局…お願いしていい?lain…)

((お願いされなくても打ったわよ))

 

 賽の目は9。取り出し位置は前局とほぼ同じで、穏乃の前の山からである。ワシズの配牌時に取る6トンの内、4トンはアカギの前の山にある。

 lainは最初の2トンを取る際、先ほどと同様、アカギの前の山のワシズの2トンとすり替えようとした。

 

「ッ!」

 

 アカギは反応した。彼女がすり替えに来ることは読んでいた。だが、その手を捉えることは出来なかった。速さが違うだけでは無い。動きのリズムがまるで別人、故にであった。

 

「あー、危なかった」

 言葉ではそう言っているものの、態度では余裕そのものを見せつけ、不敵に微笑んでも見せた。

「まるで別人じゃねぇか…。面白いな、あんた」

 アカギの言う通り、彼女は先程までとは纏っている空気が違う。態度が違う。足を組み、腕を組み、眼は先程の無垢なものとは一転し、鋭く、切れ味の良いものとなっていた。

「早く取りなよ『清澄』。残り『2トン』はあんたにあげるよ」

 そして口調までもが違う。

 

「多重人格か」

 ワシズが訊いた。

「そんなの、どうだっていいじゃない。勝負には関係ないでしょ」

「その傲慢な態度。気に入らんな」

 ワシズはこめかみに力をいれた。

「どういたしまして。『おっさん』」

(ちょっとlain!私が出辛くなっちゃうじゃん。あんまり挑発しないで)

((これくらいあたしの好きにさせてよ))

 

 ワシズが本来入るはずの配牌は三つに分裂した。誰かが好配牌に恵まれるということは無く、拮抗していた。

 

南家 ワシズ 配牌

 

{二[五]八②④7899東西北白}

 

西家 lain 配牌

 

{七九九九①⑥⑧[5]7東南発中}

 

北家 アカギ 配牌

 

{一二②③⑦⑨⑨139西発中}

 

 

(純チャン三色、ドラ3と言ったところかな。トータルすれば。あたしにドラが来たのは席順のおかげ、かな)

 

 だが、その局の勝負は、lainとアカギの勝負となった。二人は問答無用のすり替えも加えて手を進めた。

 

「おっさんは良いの?いいようにやられちゃってさ」

「このワシが小手先の勝負に付き合うわけが無かろう。勝手にしろ」

「ふーん。じゃあお言葉に甘えてっと」

 

5巡目

 

西家 lain 手牌

 

{七七八八九九九①⑥⑦⑧[5]7} ツモ {6} 打 {①}

 

(リーチはかけないの?ツモれるでしょ?)

 玲音が訊いた。

((うん。あのおっさんの言うことも一理あってさ、せっかくのオーバーワールド中枢なのに、小手先でチョロチョロしてるのもね。ツモじゃ効果はないよ。ここはドカッと直撃で、眼を覚まさせなきゃね))

(誰から?)

((そりゃ当然……))

 

 同巡、アカギも聴牌する。

 

北家 アカギ 手牌

 

{一二三②③⑦⑦⑨⑨⑨139} ツモ {2} 打 {9}

 

「リーチ」

 

 アカギは牌を曲げる。勿論一発ツモの公算があってのリーチである。

 

 次巡、lainはすり替えを行わず、そのまま牌ツモる。{二}、和了牌では無く、彼女はそのままツモ切った。そして彼女も宣言する。

 

「リーチっ」

 

 彼女の河は荒い。玲音と違って丁寧に牌を置かず、河の姿はだらしの無いものとなっている。リーチ棒も同様。置かずに、投げる。

 

 そして同巡、アカギのツモ番。アカギは山に手を伸ばす。

 本来ならアカギのツモ山に和了牌の{①}、{④}は無い。彼が欲しい{①}は隣の上山、本来なら穏乃のツモ牌である。アカギはその牌とすり替え、一発でツモる…

 

 はずが…

 

 ドン!

 

 その時、卓が下から突き上げられるような衝撃。

 アカギが奪おうとした{①}は裏側のまま、上山から落ちていた。

 

「あら、ごめんなさい。緊張しちゃって、膝が卓に当たっちゃった」

 卓に衝撃を加えたのはlainだった。

(痛いよー…なんてことしてくれるのよlain、痣になったらどうするのよー…)

「でも、いいよね。表になってるわけでもないし、あんたは『今手にしている』その牌をツモればいいだけなんだから」

 彼女自身、かなりのやせ我慢をしており、表情は引きつらせている。

 アカギは既にリーチをかけている。アカギはその牌をツモり、切るのか、和了るのかの二択のみ。

「ククク…やってくれるじゃねえか」

 彼はそれを表にして、河に

(何?)

 それは、彼の予想しなかった牌だった。

 

「どうしたの?アガらないの?」

 

(これは…)

 

「ならアガらせてもらうわ」

 

 lainは牌を倒す。

 

西家 lain 手牌

 

{七七八八九九九⑥⑦⑧[5]67} ロン {九} 

 

「裏無し。16000」

 

アカギ(清澄)     88700(-16000 -1000)

穏乃 (阿知賀)    39000

ワシズ(臨海)     145600

玲音 (白糸台)    126700(+16000 +1000)

 

(まさか…ここまで『静か』だったとは…)

 アカギが切った{九}は、先程まで彼に視えていた牌とは違う。アカギがツモる前、その牌は{一}。lainの当り牌では無かった。だからこそアカギはリーチをかけたのだ。

 視界に、微かに霧がかかり始めていた。

 

(だから…『もう一人』居るんだって。ここには…)

 『その力』は、もう直ぐ傍まで来ていた。

 

 

 会場には、映画館のような巨大スクリーンが設置されているルームがあり、その数百はあろう席も、一般や、学生、一部の記者の者達で埋め尽くされている。

 副将戦時にあった混乱も、今は終息に向かいつつある。後半戦途中、腹を切った臨海の副将だったケイが、終了後直ぐに病院に運ばれ一命を取り留めたことが先程発表されたことが大きい。

 だが一方、記者の方は慌しかった。外の人間と連絡が取れず、外に出た人間が会場に戻って来ないからだ。

 

 

 長野地区大会決勝で、清澄と対戦した3校もそれぞれ応援に来ており、試合の行方を見守っている。

 

「和ちゃん、咲ちゃんはどうしてるんだじぇ?」

 大将戦が始まる頃、和は咲から電話を受け取っていた。姉の件もあり、病院に居た彼女であったが、今会場内で、清澄の控室に居るという連絡だ。

「はぁ?何で?っていうか警備とか居るんじゃないのか?」

 池田が訊いた。

「咲さんが言うに、この会場に警備員はいないそうです。白糸台の方や、臨海の方も一緒に居るそうです」

「それ大丈夫なのかよ…」

「大丈夫かどうかは解りませんが…」

「でも、それで副将戦のあの時に、誰も止めなかったのには説明がつきますね」

 3年。福路美穂子もそこに居た。

「それで…今どうなっていますか?」

 和は大将戦の状況を訊いた。

「もう南1が終わって、臨海が圧勝だじぇ」

 優希からの返答に、和は耳を疑った。和が電話で席を外してから、まだそう時間は経っていなかったからだ。

「殆どの局が5巡程度で決着が付いていたからな」

 池田が補足する。

「役満のオンパレード…まるであの決勝の時みたいだし…」

 彼女は思い出した。地区大会決勝の大将戦、その後半戦のことを。

(いや…どう見てもあの時以上…か……)

 

 

「それにしてもやっぱり似てるっす」

 桃子は相変わらず加治木にもたれ掛かっている

「誰にだ?」

「白糸台の大将っす。あの娘、私にちょっと似てる」

「ちょっと変わった髪形をしている娘だな。似てるようには思えないが」

「雰囲気が、ステルスの時の私にちょっと似てるんっすよ。もしかしたらあの娘も『消えれる』のかも」

「ん?だが、今卓を蹴ったくったぞ」

「あれ?…じゃあ、気のせい……っすかね。ちょっと変わった人っすね」

「お前が言うか」

 

 

「やっぱり…爺やだ」

 これまでは独自にホテルを取り、そこで試合を鑑賞していた龍門渕も、その日は会場に来ていた。

「ですわね…。それも若い頃の…間違いありませんわ」

 衣と透華は写真でワシズの姿を知っている。

「でもあり得ないよ。人間が蘇るなんて…」

 はじめは否定しつつも、その声には若干の震えがあった。

「オカルトですわね。でも、衣がそう言うのでしたら、きっとそうなのですわ。あの方は、きっと復活したのですわ」

「そんな…」

「鈴木とやらに爺やの話を訊くに、爺やの力なら冥府魔道から戻って来てもおかしくないと思うぞ」

「地獄に行っている前提なんだね…」

 

「しかし、爺やの力も凄まじいが、そろそろ…奴が来る頃だな…」

「奴って赤木しげるのこと?」

 地区大会、そして合同合宿で衣と打った男、赤木しげる。その人なのかとはじめは訊いた。だが

 

「違う。阿知賀の大将……高鴨穏乃だ」

 

 

 

 

 

南3局 親 ワシズ ドラ {六}

 

 

 その局の賽の目は4。取り出し位置は穏乃の前の山。だがこの局、アカギも玲音(lain)もサマをするつもりは無かった。

 空気が明らかに違っていた。視界の霧が、段々と濃くなっていく。山に深く深く入り込んでいくような、五感が次第に狂っていくような、そして侵されているような感覚。

 二人は動かなかったというより、動けなかったのだ。二人にとって、まずはこの状況を分析することが先決だった。

 ワシズも気配は感じていた。そして、配牌を取った瞬間、その異常さの解答を認識した。

 

 これまで、山に視えている牌は全てガラスのように透けていた。今も霧が掛ってはいるものの、その牌はガラスのままである。

 

 

 

 しかし手に取った牌は、視えていた牌と全く違う。別の牌がそこにある。

 

 

 

(まさか…正面からワシズの支配をぶち破る奴がいたとは……)

 

 アカギの推察通り、もはやワシズの支配はそこには無い。全ての感覚が『何もの』かによって乱されている。

 

(そっか…そうだよね……)

 玲音は答えを見つけた。この世界の、この場所、この時に何故これほどまでに強大な『ノイズ』があったのかを。

 アカギやワシズでは無かった。彼らは確かに強大ではある。だが、決定的解答では無かったのだ。

 その解答は、対面に居た。

 

 

「リーチ」

 

 ワシズのダブリー。

 『それがどうした』というがの如く、それは繰り出された。

 

東家 ワシズ 手牌

 

{一二三九九①①①⑦⑦⑧⑧⑨}

 

 『ガラス牌通り』なら一発ツモに終わっていたその手だが

 

 ツモれず。

  

 次巡もツモれず。

 

 そしてさらに次巡も無駄ヅモを繰り返す。

 

 河の二段目に牌が並んだのは、アカギのワザ小牌が行われた東3局以来である。

 

 12巡目、ワシズは{①}をツモる。彼はノータイムで暗槓した。嶺上牌に視える牌は{⑨}。新ドラ、裏ドラは{九}。槓裏のドラは{⑧}。数え確定和了になる。

 

 

 ……

 

 

 {[⑤]}。今ワシズが手にしている牌はそれ。{⑨}でも、{⑥}でもない。

 

 

 

 

「ふんっ。面妖な…」

 

 彼は鼻を鳴らし、牌を叩きつけた。

 

 

 

「ロン……8000です……」

 

 

 パタリと牌は静かに倒された。倒したのはアカギでも、玲音でも無い。

 阿知賀女子大将、高鴨穏乃。

 

北家 穏乃 手牌

 

{二三四[五]六七②②⑥⑦234} ロン {[⑤]}

 

アカギ(清澄)     88700

穏乃 (阿知賀)    48000(+8000 +1000)

ワシズ(臨海)     128600(-8000 -1000)

玲音 (白糸台)    110700

 

 ここはオーバーワールドの中枢…特異点。

 

 そこに選ばれる者は、選ばれるべくして選ばれるのだ。

 

 穏乃もまたその一人。彼女も、選ばれるべくしてそこに居る。

 

 天賦の才を持つ狂人、赤木しげる。

 力を取り戻した闇の帝王、鷲巣巌。

 神域を受け継ぎし者、岩倉玲音。

 

 彼女は、彼等と打つに値する運命を持つからこそ、ここに居る。

 

 

 

「ツモ。8000・16000」

 

 

 

 

南4局 親 玲音 ドラ {1}

西家 穏乃 手牌

 

{1115577799中中中} ツモ {[5]}

 

アカギ(清澄)     80700(-8000)

穏乃 (阿知賀)    80000(+32000)

ワシズ(臨海)     128600(-8000)

玲音 (白糸台)    110700(-16000)

 

 

 

 

 

 

 その局、ガラス牌は全て霧に覆われ、認識することが出来なくなっていた。

 

 

 

 

 その霧の先に聳え立つものは 

 

 

 

 

 

 

―――深山幽谷の化身 高鴨穏乃

 

 

 

 

 

 

 

 

 オーバーワールドは今、完成した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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