アカギ、傀、竜が清澄高校麻雀部に入部したそうです   作:叶芽

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#4 地区大会決勝 大将戦 その1

 

 

「そうですか…やはり…」

 

 竜は透華に父親のことを話した。

 透華の父は、裏では雨宮賢という偽名を持った、関西共武会の代打だった。極道のいざこざにより、桜道会の代打ちの扱いを受けた竜と勝負し、敗北した。

 透華の父は、最終局、竜が大明カンをした瞬間に、その時桜道会のトップだった、三上信也に射殺される。「もう勝負は終わった」と。

 その時アガった竜の役は、偶然なのか、竜が透華からアガったのと同じ『緑一色』だった。

 

「あンたの親父は、俺が殺したも同然。恨むなら恨みな…」

「…いいえ。お父様を殺したのは…『極道』ですわ…。それにあなたも…極道が憎い…ですわよね?わかりますわ……私も極道が、憎いのですから…」

 

 少しの間、廊下に沈黙が流れた。

 

「あンたの親父から伝言を預かっている。『衣を外に出してやってくれ。自由にしてやってくれ』…それだけだ…」

 

 真実は、透華の父親が最期に『竜に』頼んだことだった。しかし竜は、その願いを透華に託した。

 竜は振り返り、控え室へ戻ろうとした。

 

「あの、まってくださいまし!」

 

 竜は足を止め、首だけを少し透華の方に向けた。

 透華の息は、若干荒かった。

 

「あの…あの…お名前を、あなたのお名前を教えてくださいまし!」

「名簿に書いてある。それを見な」

「わたくしは、あなたから……あなたから『その名』を聞きたいのです!」

 

「……竜……」

 

「竜…竜さん!……・もしよろしかったら、あの、あの……・」

 

「とーーーーかーーーー!」

 

 走ってきた国広が、透華に後ろから抱きついた。

 

「いくよ!もう決勝はじまっちゃうよ!……あ!もしかしてとーか……」

 

 透華の竜を見つめる瞳を見て、国広は察した。

 

「だめだよ!とーかは渡さないから!」

 

 彼女は竜を睨みつけた。

 

「とーか!彼氏なんて作っちゃ駄目だよ!とーかにはボクがいるんだから。ほら、行くよ」

「か、彼氏なんて…そんなこと…ちょっと一(はじめ)!離してくださいまし!」

 

 国広は透華の腕を引っ張り、控え室の方へ引きずっていった。

 それを見た竜は、かすかに笑った。

 

 

―鶴賀―

 

「すみません、先輩。私、全然先輩のお役に立てませんでした…」

 

 桃子の声は震えており、目には涙を溜めていた。

 

「気にするな桃…。私が取り返す。そして、勝ってみんなで全国だ」

「でも先輩…あの点差……取り返せるんですか……?私……私…」

 

「『圧倒的点差にあぐらをかいている清澄を私が撃つ』どこかおかしいか?」

 

「……そう……そうっすね……」

「桃?」

「……うん、そうっすよ!先輩なら、先輩ならできるっす!」

 

 空元気でも、それでも先輩を応援しなくては。桃の二度目の返事には、その思いが込められていたのか、張りを少し戻していた。

 

「そうだ、じゃあ行ってくる」

「あの、先輩…」

「なんだ?」

 

「あの……清澄の人に言われたんすけど…『過去を捨てろ』って。あの人が私のこと知るわけはないんすけど、私の過去って、つまりは誰にも注目されてなかったってことっすよね。けど、先輩に出会って、みんなとおしゃべりして、コミュニケーションって悪くないって思って…」

 

「……それで?」

 

「あの……『ステルス』…もし私が消えること辞めたら……けどそれじゃ、もう先輩のお役に立てない、って思ったら……」

「桃」

 加冶木の声は、優しさに満ち溢れていた。

「私がお前を求めたのは、お前のそういう能力じゃない。純粋にお前の打ち方が好きだったから、お前が欲しかった。後半戦、消えるのをやめてからのお前はいきいきしてたぞ。私は、そっちのお前の方が…好きだ」

 

「先輩…」

 

 桃は目に涙を溜めていた。しかしその涙は、嬉しさの涙だった。

 

 

 

―風越―

 

 

「泣くなって咲…」

「でも……でも……ヒック……」

 

 池田は涙と鼻水でくしゃくしゃな顔になっている咲の頭を撫でていた。

 

「全国に行く前に、良い勉強になったと思うし。なにごとも、前向きに、だし」

「でも、華菜先輩…」

「あんな点差、倍満二回で吹っ飛ぶじゃないか。それに、先鋒戦のこと考えれば、全然今の状況、なんてことないし」

「う……うぅ……」

「あー。キャプテン!あとよろしくですっ」

 

 そばにいた福路に泣きじゃくる咲を任し、試合会場へ向かった。しかし、歩を数歩進めた池田は、何かを思い出したかのように足を止めた。

 

「咲!」

 

「はい…?」

「麻雀…楽しめたか?」

 

「……楽しめ……楽しめました……けど……けど…悔しかったです!」

 

「なら!その無念!あたしが晴らしてやるし!」

 

 池田は右こぶしを天に突き上げ、咲に、そしてキャプテンの福路に、宣言した。

 

(華菜…)

 

 実力では、池田と咲では、圧倒的に咲の方が、上である。

 福路が、咲を大将とせず、池田を大将としたのかにはそれなりの理由があった。

 表向きの理由は、龍門渕の大将、天江衣のへの警戒のためである。圧倒的得点力のある咲には、恐らく対等である衣と大将戦で戦わせ、龍門渕とは一か八かの勝負に持ち込ませるより、副将戦で他校を飛ばしてくれる方が、風越の勝利を確実に近いものにできる、という考えである。

 もう一つの理由は、池田と衣の因縁である。

 去年の団体戦。池田は衣に倍満を振り込み、風越の連続優勝記録をストップさせた、という汚名がある。その汚名を池田自身に払拭させたかった。その願いからである。

 しかし、現実は福路の希望に反するものになっていた。

 福路の希望は、清澄の点数と自分たちの点数が逆の状況である。故に、福路は半ばあきらめていた。そのことは、池田も理解しているだろう。

 しかし池田は、それでも池田は咲に対し、自分に対し、勝利を宣言した。

 福路はその姿を見て、泣いた。咲と共に、泣いた。

 

 

 

―龍門渕―

 

 

「とーかったら、他校の男子に色目つかうんだよ!」

「いーじゃねぇか、透華も恋する乙女だってことだ」

「こ、恋なんて…そんなつもりはわたくしありませんわ!」

「透華、初恋は他校の男子・・・・」

「ともきまで!……もう!」

「それにしても……大将戦だな…」

「ええ…しかし、衣は勝てるでしょうか。あの白髪に」

「オレさ…今回は、衣は負けてもいいんじゃないかって思ってるんだ」

「え?」

「そりゃ、みんなでまた東京に行きたいとは思ってる。衣もそれを望んでると思う。けど、衣が『いまのまま』だったら、たぶん駄目なんだ。勝てないって意味じゃない。その、なんて言ったら良いかわからないけど、衣は、変った方が良いと思う。そうなれば、衣もきっと新しい、幸せな毎日っていうか…………あーわかんねぇや」

「わかりますわ……純…」

「ボクも、そう思うよ……」

 

 衣は、あの白髪と戦えば、変れるかもしれない。

 そうなればもっと、もっと良い毎日を、みんなと過ごせるかもしれない。龍門渕の四人は、そう思った。

 

 

 

―清澄―

 

 

 久は、試合会場の少し前まで、アカギについて行った。

 その廊下には、二人しかいなかった。

「お望みどおり、大将までまわしたわよ。ま『対等』な点数とはいえないかもだけど」

「いや『対等』ですよ。いや、寧ろこっちがやばいかも」

「そう?」

「部長…今俺たちにとって点棒はなんですか?」

「え…?」

 

 久は数秒考えた、唐突な問題で、頭が回らなかった。

 そして、アカギがその答えを言おうとした時

 

「あ、ちょっとまって。あと五秒、いや、三秒」

 

久は答えたかった。答えることで、アカギに少しでも近づきたかった。

 

「……目盛り、そう目盛りよ!私たちは、まだ勝ってないわ!」

「その通り」

 

 彼女は『正解』を引き当て、ほんの少し、満たされた気分になった。

 その気持ちは自然と表情に出た。

 

「俺たちにとって、点棒は目盛り。つまりなんら価値のないもの。勝利という結果の前では。だから、今の点差もあまり勝利には意味をなさない。寧ろ向こうはその点差を意識して、死に物狂いでこちらを殺りにくる。必死さってのは時に王、時に魔を撃つ」

 

「けど…勝つんでしょ?」

「負ける気はないですよ」

「いってらっしゃい」

 

 彼は言葉で返さず、背を向け、右手をそっと上げ、振った。

 久はその姿を、しばらく見つめた。

 

 

 

―決勝戦前半戦―

 

龍門渕 天江(起家)  73600

清澄  アカギ    150700

鶴賀  加冶木     80100

風越  池田      95600

 

 

 天江衣は失望していた。

 透華たちの言ってた『衣を楽しませる』とかいう白髪から、何も感じなかったのだ。

 

(透華のうそつき)

 

 自分と同じ、異能者、魔物の類だったのは、すれ違った風越の副将だけだった。

 この会場には、自分と、あの短髪しか、異能は感じなかった。

 

(こいつは、これまで衣が壊してきた玩具となんら変りはないではないか。やはり衣は、一人のままなのだろうか)

 

「そうかな?」

 

「え…?」

「『人間』を舐めるなよ?天江衣」

 

 アカギの唐突な発言に、加冶木と池田は困惑した。『こいつは何を言っている?』

 

 

(まぁ見てな…凍りつかせてやる)

 

 

 その夜は、満月だった。

 

 

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