主人公は京太郎で、咲-Saki-成分も少なく、おまけ的な話です。
追加クロス作品は以下の通り。
・銀と金
・カイジ
・ジョジョの奇妙な冒険
・シノハユ
追加作品が増える場合、追記していきます。
前と比べ、一話一話短めですが、更新ペースは遅いかもしれません。
#40 部室
業後、これまでの習慣を継続しているかのように足は部室に向かう。少し前まで暑苦しかったと思ったら一転、冷える時期が来た。吐いた息が見える。今年の秋は短いのかもしれない。そろそろ部室に暖房を入れないと、手が凍って牌にも触れない。もっとも、触れたところで相手はいない。今日も、明日も、明後日も一人だろう。
学祭の時期も近付いてきて、校舎の方は騒がしい。その音はこの旧校舎には届かない。時間は先に進んでいるはずなのに、この場所だけ時間が止まっているかのような、凍りついているかのような感覚になる。
部室に入ったら、鞄をベッドの方に放り投げて、いつものように卓に着く。今日もあいつ等はいない。誰もいない。小さなため息の音が部屋に響く。卓に散らかりっぱなしの牌を見ていると、あいつ等がいた頃を思い出す。それで時間が過ぎていく。こんな毎日が、いったい後どれだけ続くのだろうか。
あいつ等とはクラスが一緒だった。傀は授業に毎回出席し、成績もトップ。向こうの採点ミス以外では減点の無い訳のわからない優秀さを発揮していた。奇妙なのが、授業が終わった後の休憩時間、奴は必ず教室を出るのだが、出た後姿を消し、次の授業が始まるまで誰にも見つからない。授業が始まったら、いつの間にか席に着いている。いつしか学校では七不思議の一つとなっていた。鶴賀の東横さんもそれに近いようで、二人は似たような人種なのかもしれない。
竜は殆ど出席をしない。たまに来た時は教室がざわつく程だ。出席したのは現代文と古典のみ。それ以外の授業で奴を見たことは無い。テストも当然受けることは無く、成績や出席数がどう考えても留年直行コースだった。
アカギは来たり来なかったりバラバラ。規則性が無い。真面目にノートを取っているような時もあったり、寝ている時もある。成績は俺と同じ位。真ん中より上。
そんなあいつ等も業後、必ず部室に来ていた。必ず打っていた。必ず俺は負けていた。負けた数なら、全国、いや世界一の自信がある。今あいつ等は、学校にも来ていない。
あの頃は熱かった。気温のせいもあるが、それ以上に鉄火場だったからだ。金を賭けているわけでも命を賭けているわけでもない。なのにそれ以上のものでも賭けているかのような奇妙な緊張感があった。
ほのぼの、和やか、和気藹々とはかけ離れていた空間。対局中の会話など殆ど無い。口を開くのは俺と、たまにアカギくらいで、他は発声と牌の音、そして外の音。そこに先輩たちの音が混ざる。それが部室の音だった。
ここは、そんな部屋だった。
それら全てが過去形であるという事実が目の前にあり、俺だけがこの部屋に一人残された。
これからあの部屋がもう戻って来ないのなら、あの時に戻りたい。何度繰り返すことになっても構わない。時計の針が止まることになったって、永遠に閉じ込められることになったって良い。あの部屋に戻ることが出来るのなら、
「どんなことになったって良いんだ!」
声に出ていた。
卓を叩いていた。
俯いた視界に筒子が映る。
ふと、あの時を思い出した。
そう言えば、一度だけあった。
勝ちもせず、負けもしなかった勝負。
珍しく、傀も竜も遅れた日。来るまでの時間、アカギと二人でした勝負。
【ナイン】
一回しかやらなかったが、結果は引き分け。互いが全ての回で同じ牌を出したものだから、強く記憶に残っている。その牌の順番までも。確率としては中々低く、珍しくアカギも驚いていた。
だが俺は、勝ちたかった。引き分けまで行ったんだ。今度は、勝てるかもしれない。
その『今度』が…欲しい。
一度でいい。今は、その『今度』を何が何でも取り戻したい。
その時、ドアが開く音がした。バンッという勢いの良い音から、元部長だと分かった。
「やっほー。久しぶりっ」
元部長は特に落ち込んでいる様子を見せることは無かった。三人がここを去った理由を、悟っているような、納得しているような印象。
だが俺は、悟れもしなければ納得も出来ていない。
「須賀君、洋上麻雀大会に出るんだって?」
「あぁ…はい…」
洋上麻雀大会。今週の土日の二日間に太平洋上の船の上で行われる大会だが、情報量が少なすぎて、何が何やらという感じだ。個人戦優勝者ということで参加資格が与えられたらしく、女子個人戦優勝者の咲も参加する。
「その大会なんですけど、検索しても出てくるのが漫画に出てくる大会しか無くて、本当に実際あるのか分からなくて…」
「あるわよ。プロの間では有名よ」
元部長は即答した。先輩はプロとの繋がりもあるから、そこから情報を得ているのだろう。
「じゃあ何でネットには何もないんですか。テレビでも新聞でも見たことが無いですし」
質問しながらも、俺もおぼろげながらその理由は解りかけていた。
「そりゃもちろん、裏の大会だからよ」
やっぱり。
「須賀君や風越の宮永さんみたいに、インハイ、インカレ個人戦優勝者は『タダ』で参加できるけど、実際は、例年通りなら参加費に10億…今年はその倍で20億必要みたい」
その額を聞いて、ドクンと俺の胸が鳴った。
「血なまぐさい臭いを感じるでしょ?」
止まっていた針が、カチリと動いた。
「そう…ですね…」
「嬉しそうね」
当たり前だ。大金のかかった勝負に心が躍ったわけじゃない。
あいつ等は、そういう所にこそいるからだ。
間違いない。あいつ等はそこに来る。
俺の直感がそう言っている。
「となれば…忙しくなりますね…。調整を始めねぇと…」
どうにかなりそうなテンションを押えてはいたが、顔の方はどうしようも無かった。
「本当に…嬉しそうね…」
先輩は若干引き気味だった。でも仕方がないだろ。
もうこれだけは、どうしようも無いんだから。
【第四部】 洋上麻雀大会編