アカギ、傀、竜が清澄高校麻雀部に入部したそうです   作:叶芽

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#44 死海

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「断る」

 ホテルのロビーで新聞を読んでいた竹井は、その視線を変えずにそう返答した。

「さすがにそう返しますかね…」

 誘いを持ち出した江藤自身、断られるのも仕方ないと感じていた。竹井が、自分の誘いを受けて良い思いをしたことは皆無であり、何よりその内容が【洋上麻雀大会】となれば尚更であった。

「ワニ蔵にでも頼めばいいだろ」

「断られました。彼もあの大会のことは『知って』いたみたいです」

「フランケンは」

「声をかけませんでした。彼らの幸せを邪魔する気にはなりません」

「俺の幸せは邪魔するのか」

「あなたにとっては、それが幸せなんですか」

「そうだ」

「牌にも触らず、ホテルでなまけているその姿、私には幸せには見えませんね」

「お前がどう見ようとお前の勝手だ。そもそも俺は、なまけものだ」

「まぁ…大会が大会と言うのもありますか」

「二度と出るか。あんな大会」

「実験対象になったことが、そんなに嫌だったんですか?」

「わかってんなら、何故俺に声をかける」

「今回の大会で、『結論』が出ます」

「ほう…あのカルト集団が『結論』なんて大層なものを出せると」

「気になりませんか?」

「何度でも言うが、断る。あの場所にいるだけで吐き気が止まらないんでな」

「はぁ…そうですか…」

「そんなに行きたいなら、あいつはどうだ。よく傀に間違わられる…。傀と打てるかもとか言っておけば釣れるだろ」

「あれですか…。神出鬼没っぷりも傀に似てきていて、探すの苦労するんですよね…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「駄目だ」

 喫茶店にて、ネリーの要求に対してアレクサンドラはそう返答した。

「ネリーが奢るのに?」

「君はそのために私をここに連れてきたのか」

 ネリーの要求は、自分を【洋上麻雀大会】に出させてほしい、と言うものだった。

「というか君はどこでそれを知ったんだ」

「サトハ達の会話を聞いて」

「なるほど。しかし参加費の段階で君の欲しい額を遥かに超えるんじゃないのか?」

「そうだけど…そこで勝てば、もっとお金が貰えるし、ネリーにお金を出してくれる人も増える。この学校にだって悪い話じゃないと思うよ。ネリーに先行投資してくれれば…」

「ということは、あの大会を『知らない』ということだな。君は」

「え?」

 注文していたパフェが届き、アレクサンドラはそれを一口した後、答えた。

「真実を言おう。今回のあの大会で金は一銭も出ない」

「そうなの?じゃあなんでケイや、他の人はその大会に参加するの?」

「彼には彼の事情がある。少なくとも金は目的では無い。他の参加者も、金のために打つわけでは無い」

「金のためじゃないなら…何のために?」

「ネリー…君は神を信じるか?」

「え…?」

「それが重要だ。神を信じるのなら、あの大会で得られるものに価値を見い出せるのだろう。だが信じないのなら、あの大会の頂点には何の意味も存在しない。そしてネリー、このパフェの代金は私が払う。こんなことに君が金を使う必要は無い」

 そう言うと彼女は殆ど口をつけなかったパフェをネリーの方にやった。

「もう食べないの?」

「残りは君が食べると良い」

「ミョンファに太るタイプって言われたの、まだ気にしてるの?」

「まぁね」

 

 

 

 

 

 

 

 出航は金曜の夕方。その日、及び次週の月曜の授業は特別に休みを貰うことが出来た。それは風越の咲も同様で、俺達は同じ新幹線に乗って東京入りした。インハイ以来の東京だ。

 新幹線内にて俺と咲は情報を共有した。と言っても、互いが持っていた情報は殆ど同じだった。俺が知らなかったのは、咲の姉が大会にて殆ど活躍できなかった、と言う程度。一方咲が知らなかったのは、夏の大会にて白糸台の中堅を勤めた竹井さんが、大会経験者であること。大したことでは無かった。

 大会はエスポワールという豪華客船の中で行われる。その船の向かう先は、太平洋上のどこか。元部長曰く、衛星からも観測が出来ないポイントだそうで、その異空間性が異能持ちの対局者を乱す。その場では咲も牌が見えなくなり、故に咲はこれまでにそうなってもいいように、白糸台のメンバーに調整してもらっていたらしい。

 一方俺に関しては、特に異能の類などは持ち合わせていない点、そこらへんにおいては考慮する必要が無かった。

 面倒事の多いこの大会に咲がわざわざ準備までして参加する理由は、咲は「強い人と打ちたいから」と答えていたが、相変わらず嘘が下手だった。咲も、竜がこの大会に出ると確信しているからだろう。咲があいつを意識している程度のことは、誰にでも分かる。

 咲も俺に大会に参加する理由を聞いてきたが、俺は正直に答えた。アカギも、傀も、竜も、全員そこにいる。あいつ等と打って、部室に帰って来させる。元部長は、あいつ等は望んで清澄を出たと思っているが、俺にはそうは思えない。あいつ等が今いる場所は、あいつ等が望んだ場所じゃない。何故かそうとしか思えない。

 俺が納得出来ないのもある。だがそれ以上に、違和感が消えないからだ。あいつ等は望んで清澄に来た。そして大会に出た。しかし、まだ『打ち切っていない』はずだ。『表』の世界には、まだまだ上の世界は存在する。なのにその世界を放棄して、中途半端のまま『裏』に帰る。そんなこと、あいつ等がするだろうか。

 

 しない。

 

 俺の知っているあの三人は、そんな奴らじゃない。

 

 

 

 

 

 

 

「何、読んでんだ?咲」

 隣に座っている咲に、なんとなく聞いた。

「ん、ドグラ・マグラっていう…ちょっと変な本」

「面白いのか?」

「んー…今の所面白い、という感じとは違うかな。少し怖めで、京ちゃんには、ちょっと難しいと思う」

 なんだかほんのちょっぴり馬鹿にされた感じがした。

「あ?馬鹿にすんなよ咲。ちょっと貸してみろ。俺だってそれくらい読めるからな」

 と言って、俺は咲からその本を取り上げ、最初のページに目をやった。

「京ちゃん?」

「何々?…胎児よ…胎児よ…」

「ちょっと音読しないでっ」

「……。……すまん咲。これ……なんて読むんだ?」

「『おどる』……。京ちゃん……本当に高校生?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 出航した夜、船内の広間ではパーティが開かれていた。裏の大会ではあるが、表向きには政財界の親睦会であり、明日明後日に行われる麻雀大会も座興に過ぎない。

 広間には豪勢な料理達が並び、政財界の有名どころが数十、代打ちらしき者十数名が入り乱れている。ここには居ないが高津さんや…竜さんもこの船のどこかにはいるはずだ。

「おっ、向こうにも中々良さげかつ珍妙なものが!」

 天江衣はパーティに出された数々の料理達に興味心身で、広間を駆け回っている。一応はお目付け役として彼女についてきたとなっているわけだから、彼女から目を離すわけにはいかない。僕は彼女に振り回されていた。

「天江ちゃ…」

「ちゃんではなく!」

 彼女は僕よりも年上のはず…だが、どうもその体系からそうは見えず、「ちゃん」をつけてしまう。しかし彼女はそれを好ましく思わないようで、直ぐに訂正を求める。

「ごめん。天江さん。そんなにあっちに行ったりこっちに行ったりしていると、迷子に…」

「ならない!衣は子供じゃない!衣を子供扱いするな!」

 録画で見た彼女とは、雰囲気が全然違う。どうも調子が狂う。僕は彼女に振り回されていた。

 

「衣ちゃん!」

「だからちゃんではなく!…って咲!?」

 天江の前には個人戦優勝者の二人、須賀京太郎と宮永咲がいた。天江を呼び止めたのは、宮永咲の方。天江は彼女に抱きついた。

「衣ちゃ…衣さん!?」

「まさか咲も来てるとは」

「う…うん。私も驚いている…。でもこの大会って」

 彼女の困惑に、僕は答えることにした。

「えっと、あの…まぁ参加費は、天江ちゃ…さんの祖父が払って…」

「衣はアカギに会いに来た!」

 僕の説明の途中に天江は割り込んだ。彼女の言う通り、彼女の目的は赤木しげるに会うためである。夏の大会以降、清澄から消えたのは竜さんだけでは無く、傀も赤木しげるも同じく行方を眩ました。赤木しげるに会えなくなったことで落胆していた彼女を見て、鷲巣は彼女をこの大会に参加させた。だが、それはやはり真の理由では無く、それを知るのは、大会二日目…最終日の事にはなるのだが。

「それより今は咲、こっちに来い。向こうにも何やら面白いのがあるぞ!」

 と言って、天江は宮永の手を引っ張ってまた新しい珍味を求めて走って行った。僕にはもう追う気力は無かったが、一人になるわけでは無いのなら、まぁいいかと思い、その場に留まった。

「あの…どうも……京太郎です…」

 その場に残ったのは僕と、須賀京太郎。彼から声をかけてきた。

「どうも…ケイです…。天江さんの付き添いという形ですが、この大会に参加します」

「参加……されるんですか?」

「楽しんで来い…と、天江さんの祖父から参加費まで出してもらって」

「衣ちゃんの祖父って…鷲巣巌ですよね。さすがというか、ほんとにすごいなーあの人」

「知っているんですか?鷲巣巌を」

 仮にも赤木しげると同じ高校。鷲巣に関しては僕より詳しいとは思っていたが、一応聞いた。

「ええ、まぁ。そこら辺の世界に詳しい人も部にはいますし。それより、お腹…もう大丈夫ですか?」

 彼は夏の大会で僕が切った腹の事を気にかけてくれた。

「…。はい。何とかもう不自由なく動くことが出来ます。気にかけてくれて、ありがとう」

「そっちの世界も、大変ですね…」

 悪い人では、なさそうだ。

「それより大丈夫かなあいつ等」

「あいつ等?」

「いや、咲ってよく迷子になるから…」

 

「え?……」

 

 

 

 どれだけ動き回っても広間から出ることが無ければ何とかなるだろうと高を括っていた僕が間違いだった。二人のどちらかがトイレにでも足を運ぶ等のケースを考慮していなかった。

 やはりぬるま湯の世界にいた僕の思考は、衰えているのかもしれない。

 それから僕と須賀君は、彼女達を見つけるのに2時間かかった。その間に、僕と須賀君の間に敬語は消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーまったくだ!」

 部屋に戻った京太郎は、咲にそう言いながら、背中からベッドに飛び込んだ。

「だからごめん、って言ってるじゃん…もう……」

 大会では無く、あくまで親睦会という体を取っていることからか、参加者の部屋がバラバラに分けられるということは無く、男女個人戦優勝者の二人は、同じ部屋で寝ることになった。また、ケイの方も衣と同じ部屋を取ることが出来た。

「全く、ミョンファさんが見つけてくれなかったら、どうなってたことやら…」

 咲と衣を見つけたのは雀明華。屋内でも傘をさす不思議な少女だが、ケイと同じく臨海高校の人間だった。走り回る京太郎とケイを見た彼女は、彼らに咲達のいる場所を教えた。

 彼女もこの大会に参加していることをケイは驚いたが、明華は自分が所属している組織のことをケイに話すと、彼も納得した。

「落ち着きが無いんだよお前らは。それと比べてあの人はおっとりとしていて、少しは見習ったらどうだ」

 比べられた咲はぷくっと膨れ

「はいはいどーせ私はおっちょこちょいですよーだ!」

 と京太郎に投げ、自分はベッドに包まった。

 京太郎も目を瞑り、数秒後には、その意識は明日に向けられていた。

 

 

 

 大会は、明日の朝から始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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