アカギ、傀、竜が清澄高校麻雀部に入部したそうです   作:叶芽

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#5 地区大会決勝 大将戦 その2

 

大将戦 東一局 親 衣 ドラ{9}

 

衣(東家)     73600   

アカギ(南家)   150700 

加治木(西家)   80100

池田(北家)    95600

 

 

 

 南家、清澄のリーチに、会場は固まった。次に現れた現象は、怒りと呆れに分かれた。

 清澄のリーチは西家、鶴賀のリーチに対する追っかけという形で行われた。鶴賀の加冶木は赤二つの567三色、タンピンが付き、ダマで12000だった。

 

西家 加治木 手牌

 

{三四五六七[5]67[⑤]⑥⑦⑧⑧}  

 

 待ちは、{二}、{五}、{八}。ダマで確実に上がっておきたい手でもあったが、この手は4巡で張ったものである。捨て牌は

{北①発7}

 全て手出し。ツモれる流れを感じ、自信もあった。他家が降りるならそれでもいいし、勝負してくれるなら尚よい。清澄の追っかけリーチ後も、その勝負に勝つ自信はあった。しかし

 

「カン」

 

 自信も勝気も、状況一つでひっくり返ることは、よくある話である。

 清澄のアカギはドラの{9}を暗槓。新ドラ『も』{9}となり、その状況は、加治木に若干の後悔を与えた。

 

(これが、『竜』…ね)

 

 アカギが嶺上牌を手にした瞬間、加治木はツモられる感覚がした。副将戦、竜に見せ付けられたイメージが、そうさせたのかもしれない。

 だが、アカギはその牌を視た後、表情一つ変えず、それをそっと河に置いた。{[五]}。加治木のアタリ牌である。

 

「何をしている?清澄。アガリであろう」

「ああ。私も感じたぞ。アガリじゃないのか」

「え…何言ってるの君たち…そんな都合よく…」

 

 二人とは違う意見を言ったものの、さすがの池田もアカギがツモるイメージを思い浮かべた。

 竜が嶺上開花であがった回数は三回。常識的に考えれば多いが、実は風越の咲があがった回数よりかは少ない。

 にも関わらず、池田さえ感じたのだ。竜が他者へ植え付けたものは、それほど大きかったのだ。

 

「どうもこうも無い。俺は五萬を河へ置いた。それ以外の事実がどこにある」

 

 加治木の眼は鋭さを増し、アカギを睨みつけた。アカギのそのニヒルな返答から、それがあたり牌にしか思えなかった。

 彼女の怒りは声にも、若干の動作にも表れた。発声も、倒した牌の僅かな乱れも、その静かな怒りの表れだった。

 

 裏ドラ、カン裏が開かれた。その両方『も』、表示牌は{8}つまりドラは{9}だった。

 

(ドラ16だと?ということは奴は、数え役満を棒にふったのか?)

 

 怒りと共に、驚愕が加治木の心理に現れた。しかし、加治木はこう強く思えた。

 奴は本当にあぐらをかいている、驕っている、勝てる、と。

 

 一方、龍門渕の衣に表れたのは疑問と違和感だった。異能者でも、魔でも邪でもない者に何故あのような現象が訪れるのか。

 明らかに偶然ではなく、必然と思わざるを得ないあのような現象は、あのようなただの人間に成せるものではないのだ。

 衣は、足の爪先の方からなにか冷たいものがゆっくりと、這って上がってくる様な、そんな感覚がした。

 

 

 東二局。ドラは{南}。8巡目のこと。アカギは{七}を暗槓をした。今度は新ドラの方だけ乗った。直後アカギはリーチ。親リーである。

 同巡、加治木も張る。役牌、かつドラである南を抱えて聴牌。三暗刻も加え、またダマで12000の手。

 

南家 加治木 手牌

 

{一一一二三四444南南南北}

 

 アカギの現物、{北}の単騎で待ち、先ほどのこともあり、今度はリーチを自重した。

 そして三巡後、ツモったもは加治木。アカギは親かぶりを受け、二位の加治木との点差は、役一万ほどとなった。

 

 

衣    70600

アカギ 126700

加治木 110100

池田   92600

 

 

「部…部長…。アカギの奴…いったい何をやってるんすか?」

 

 清澄高校の控え室、京太郎のみ、アカギの意味不明の行為が理解できなかった。

 

「だぶん、アカギ君ならこう答えるかもね。これは魔を撃つ伏線、土台ってね…」

「俺には意味が分かりません…。か…勝つ気…あいつ勝つ気あるんですか?」

「勝つ気よ…。つまりそれ程、龍門渕の大将は、何かを持ってるってこと。そうよね竜君、傀君?」

 

 彼らは言葉では返さなかったが、微かに笑ったように、久には見えた。

 

 アカギのリーチに役など無かった。アカギの手は、バラバラだったのだから。

 

(人の身で有りながらのあれ程の流れ、然し二度もあがらないとは…)

 

「不愉快だ…」

 

 衣は苛立ちを声にした。

 

「一度は、人の身でありながら、衣を楽しませるのではないかと思っていたが、いつまでもそうしているなら…そろそろ御戸開きといこうか」

 

 殺気も交えたであろう声と視線を送った衣であったが、やはり、その時も微かな疑問と違和感を感じた。

 アカギは、微動だにしないのだ。己が殺意に近い感情を、声にも視線にもし、視える形にしているにも関わらず。

 

 

 東三局、衣の支配が始まった。アカギ、加治木、池田の手は14巡、15巡と動かず、一向聴のままだった。

 16巡目に加治木はアカギから鳴きを入れ聴牌する。しかし17巡目、衣からリーチが入る。

 そして衣は、ファイナルドローにおける役『海底撈月』を他家に見せ付けた。平和、純チャンも絡む倍満手となった。

 衣の支配は、東四局になり強さを増した。衣以外の三人は、鳴くことも、『国士以外』では聴牌することも出来ないツモだった。

 衣の二連続『海底撈月』は、池田にはかつての恐怖を、加治木には新しい恐怖を認識させるのに、十分であった。

 ドラ、裏ドラ含めて6つのドラを載せた『海底撈月』はまたも倍満になり、最下位だった。衣は、早くも二着に浮上した。

 

 

 『なのに』

 

 何故、清澄の男だけは動じないのだ。

 『これ』を普通の麻雀としているような、まるでノーレートで打っているかのような、平然とした態度。鶴賀や風越に見られる、絶望感など、微塵も感じられない。何故だ。

 

 

 衣の爪先から進入した『なにか冷たいもの』は、脛の辺りまで来ていた。

 

 

衣   102600

アカギ 118700

加治木  98100

池田   80600

 

 

 

(凄まじいな…『竜』って奴は)

 

 東三、東四と引き続き、南一局も場は衣の支配下だった。

 しかし、アカギは十三巡目に暗カンし、聴牌。打{③}。

 

南家 アカギ 手牌

 

{123①②③⑤中中中}  暗槓 {■44■}

 

 ドラ、新ドラこそ乗らなかったものの、聴牌することが困難である衣の支配下の中で、その影響を受けない『竜』に、アカギはあらためて感服した。

 

 アカギが今行っている事、それは『建設』である。

 要塞、それも幻想の要塞を…。

 後に来るであろう魔の大群、それに耐え、そして撃つための要塞。

 傀が植え付けたイメージ、竜の強運、それらを使い、場に新たに自分のイメージを造り出す。

 

(嶺上開花からの手出し…張ったか?)

 

 現に加治木は、今、場を支配している衣より、アカギを意識していた。

 嶺上牌が有効牌、そのイメージが、加治木にアカギの聴牌を予感させた。

 また同時に、加治木は東三、東四と続いた衣の支配、衣が海底を引きあがることを、偶然と思わなかった。

 

(今トップのこいつに差し込むのは…だが…)

 

 加治木は衣の支配が必然であると考え、故に親である衣の連荘は阻止しなくてはと判断した。

 それに、驕っている清澄ならいつでも抜かせる、その考えは加治木に差込を選択させた。

 

 打{⑤}。加治木の差込は成功した。中のみ(60符)2000。

 

(雰囲気は漂わせたつもりだったが、こうも綺麗に一点読みができるもんかね)

 

 アカギは、加治木の判断と、一点読みの感性に感心した。

 

 南二局。加治木はこれまでの傾向から、普通に手を進めれば、一向聴地獄の袋小路になると考えた。

 

南家 加治木 手牌

 

{二三六七②②③⑨⑨1677西}

 

 この配牌より打{③}スタート。そのセオリー外の打牌と加治木の感性は、七巡で七対子を聴牌させた。

 

{三三②②⑨⑨1177北北西}

 

 そしてリーチ。衣の支配は、抗えるものであるということを場に示したかった。

 アカギや衣に、見せ付けたかった。

 

(へぇ…)

 

 『海が引いてる』とはいえ、その鋭い感性に、アカギはまたも感心した。

 同巡、池田は一発を掴まされた。

 

西家 池田 手牌

 

{二三三八八⑦⑦⑧⑧⑨234} ツモ {西}

 

 一向聴を捨て切れなかった彼女は、加治木に振り込んだ。

 一発七対子、裏ドラが付き跳満。池田の点棒は約七万、トップのアカギとの差は五万となった。

 

 そして南三局、池田はまたも振り込む。

 今度は衣に跳満。差はさらに広がった。

 足は震え、手も震え、今にも逃げ出したい。

 咲には「前向きに」と言っても、自分は前向きになれない。キャプテンには「楽しんで」と言われても、自分は楽しめない。80人の青春を背負った大将戦は池田にはあまりにも重かった。

 

 南三局、アガることの出来た衣であったが、その心境は、不安の混じるものとなっていた。

 南二局と違い『海が引いている』わけでも無かった南一局に、何故アカギは聴牌することができたのだ。この疑問が、衣の頭を過ぎった時、同時にこうも思った。

 やはり奴は、人外なのではないか、と。それも自分の感じれぬ、次元の違う何かではないか、と。その不安が南三局、アガリを『急がせた』のではないか。

 実際、南三局は、衣は海底であがることが出来た。支配が十分だったからだ。しかし、アカギは絶対の支配下であったはずの南一で聴牌した。

 だから、『慌ててしまった』のではないか。

 衣はこの考えをすぐさま否定をした。

 自分の麻雀は海底だけではない。点数の殆どは、直撃を狙ったものだ。自分の海底撈月を恐れ、飛び込んできたものを狩る。それが、天江衣の麻雀。今回も、それが成功したに過ぎない。逃げたわけではないのだ。衣はそう信じた。

 

(然し…然し…)

 

 アカギは聴牌をした。この事実は、消せないものであった。

 

 南四局、加治木は気づく。

 自分がアガれた南二局は『海が引いていた』ことに。今度は対子もかぶらず、七対子にも向えない。自分は抗えていたわけではなかった。

 

 だが、アカギは明らかに抗っていた。

 四人の中で唯一、捨て牌に1、9字牌が存在しない。

さらに、4、5、2、3といった数牌のターツも捨て、赤も捨て、明らかに国士を臭わせるものだった。

 そして十五巡目…。

 

「間にあった…」

 

 アカギ、リーチ。

 

(ばかな!国士にしてもリーチだと?何の為に?)

 

 加治木にも池田にもそのリーチの意味が理解できなかった。

 

(は……張った、ということか…)

 

 衣の絶対なる支配の中、アカギは張った。その事実がリーチ。

 衣にはリーチがその事実を示しているようにしか思えなかった。

 十七巡目、衣は四枚目の{白}を掴まされる。

 

南家 衣 手牌

 

{一二三六六56678④⑤⑥} ツモ {白}

 

 海底は自分。その牌は{4索}。アガリ牌。しかしこの{白}は、国士の、アタリ牌かもしれない。

 衣が、自分の支配を信じることが出来れば、この{白}はあっさり切ることが出来ただろう。相手が聴牌などするわけが無いのだ。

 しかし、アカギは、唯一アカギはあの南一局のようにその支配を上回るかもしれない。

 それに、アカギは二連続、カンドラやカン裏を乗せる運も持っていた。ありえる…。そう、衣は『微かに』思ってしまった。

 衣は点数を見た。自分は114600。相手は120700。ここで役満に打ち込んでしまえば、82600と152700。しかもそれはアカギが自分の支配を上回ったことの証明にもなる。それも加えると、逆転は難しい。

 そう、衣は思ってしまった。

 

 衣、打{六}。降りる。

 そして、流局。

 

「ククク…降りたな…天江衣…。もっと自分に自信を持てよ…」

「ま、まさか貴様…張ってないのか?」

「いや・・・自信を持ってくれれば、それを獲れた。まぁ今回は、その選択が正解だったってこと…」

 

西家 アカギ 手牌

 

{一九19①⑨東南西北中発発}

 

 アカギは『その』{白}で待っていた。

 

 

『得体の知れない何か』は、もう衣の、腰のあたりまで来ていた。

 

 

―前半戦終了―

 

衣   113600

アカギ 122700

加治木 107100

池田   55600

 

供託は後半戦持ち越し

 

 

 

 

 

―風越―

 

 

「華菜…来てしまったわ…」

 

 

 休憩時間、一人卓に突っ伏している池田の傍に福路は来ていた。

 福路は、池田から休憩時間には来ないようにと言われていた。

 勝っていた場合は調子に乗り、負けていたら落ち込んでしまう、という理由だ。

 しかし、福路は来ずにはいられなかった。

 池田が心配でというのもあるが、具体的助言があったからでもある。

 

「華菜…」

「なんですか…キャプテン…」

 突っ伏したまま、福路の方を向かずに池田は返す。

「清澄の大将…どう思う?」

「え…?」

 

 予想外の質問に、池田は顔を起こし、その質問に答えた。

 池田は東一、東二局の連続カンドラ乗りリーチのこと、衣の支配を逃れた南一、国士の南四の出来事を語った。

 特に、東一のドラ16乗りに関しては異常だったことを福路に伝えた。

 

「たしかに、カンドラ乗りや、国士はすごかったけど、華菜が思っているほど、清澄の大将はすごくないわ…」

 

 福路は、東一、東二の『真実』を池田に教えた。

 

 

 

 

―鶴賀―

 

 

 試合会場から出た廊下を少し進むと階段がある。その側にある休憩椅子で加治木は休んでいた。

 

「先輩。どうぞ」

 加治木から見て、突如現れた桃は、加治木に買ってきたミネラルウォーターを渡した。

 

「ありがとう。桃…」

「先輩…勝ってください」

「ああ…勝つさ」

 

「先輩・・・あんなのに負けないでください・・・」

 声には怒りが込められていた。清澄に対してである。

 

「あんなの?…とは、何だ?…清澄の大将か?負けないさ、驕っているトップなどいつだって抜かしてやる」

「違うんっす…驕っている、なんてものじゃないっす…。東一、東二の清澄は先輩達から見逃しと指摘されったっすが…あれは見逃しじゃなかったんっす」

「リーチ後に、見逃しじゃない・・・。ノーテン…ノーテンでリーチしたということか…」

「そうっす…つまりはリーチという脅しで、先輩達を止めていたに過ぎない『ふざけた』奴なんっす」

「確かに、ふざけた奴だな。それをこの県大会決勝でやるなんてな」

 

 加治木はあらためて桃に勝利を約束し、会場へ向った。

 

 

 

―清澄―

 

 

「アカギ君が欲しいのってこれ?」

 

 アカギが向った自販機前には、既に竹井が居り、栄養ドリンクらしきものをアカギに渡した。

 

「そういうのじゃないですけど、まぁ、ありがとうございます。それにしても懐かしいなこれ」

「アカギ君の東一、東二のノーテンリーチ、モニター越しじゃバレバレよ?もう他校の人たちはそれぞれの大将に伝えてるだろうし、後半戦からは、通用しないんじゃない?」

 

「ククク…無意味なこと…」

「どういうこと?」

 

 アカギの『答え』を聞きたい久は、機嫌よさげな調子で、その言葉を返した。

 

「部長はもうわかってるんでしょ?…ククク…」

「まあね…フフフ…」

 

 アカギは竹井から渡されたドリンクを一口したあと、言った。

 

「やはり『そんなことより』気を付けるべきは天江衣…」

「前半戦の印象じゃ、そろそろ『効いてくる』ころだと思うけど」

「俺は天江衣の祖父と、一度勝負したことがあります」

「鷲巣…鷲巣巌ね…」

「ええ…俺は幾度と無くアイツを追い詰めました。絶望を何度も見せました。だが、アイツはその度に、何度も何度も立ち上がり、復活。逆に俺を追い詰めもした。アイツの豪運が、アイツに敗北を許さなかったかのような、そんな『何か大きなものに愛された』奴でした。天江衣はその血を引いている。東三から始まった『支配』は、その片鱗に過ぎないであると同時に、アイツが鷲巣の血を引いてる証明でもある」

 

 息継ぎ代わりにドリンクをもう一度口にした後彼は、続けた。

「なら・・・追い詰めたら追い詰めるほど『あの血』は天江衣に、敗北を許さない。『若い頃』のアイツがもしかしたら見れるかもしれない。俺はそれを見たくて、大将戦を希望したんです」

 

「『それでさ』アカギ君は、鷲巣に勝ったの?」

「さぁね…」

「『でも』…負けは許さないわよ。傀君や竜君、まこ、出れなかった須賀君、そして、私の青春をアカギ君は今背負ってるんだからね。特に私は三年、来年は無いの。重いわよ?まぁ、傀君を使って、たくさんの子の青春を踏みにじった私に言えた台詞じゃないけど…ね…。それでも…それでも…行けるとこまで行きたい…」

 

 アカギは何かを言おうとした。だが竹井はそれを防ぐように続けた。

 

「でも、でもよ?…アカギ君がアカギ君の麻雀を打つ事が前提だし、アカギ君の青春でもあるから…ね!」

「負けるつもりはありませんよ」

「アカギ君…」

「本来、俺や傀、竜にとって、こんな、こんなあたり前で、そして貴重な青春とやらは、程遠いものだった。欲しいとは思ったことは無かったが、いざこうなってみると、悪くない、そんなものです。部長はそれを作ってくれた。だから…勝つ…ということです」

 

 言い終えたアカギは、会場へ向った。

 

「なら…もう一度『いってらっしゃい』」

 

 久は、アカギの背中に、聴こえないようにそっと、囁いた。

 

 

 

―龍門渕―

 

「あー!もう衣はどこですの?衣は!」

「とーか、こっちにもいないよ。自販機前も、屋上もいない」

 

 龍門渕の四人は、衣を探していた。目的は当然、アカギのノーテンリーチを教える為である。

 しかし、どこを探してもいない。もしかして逃げたのか、と彼女たちの頭を過ぎったが、すぐさまその考えは殺した。執事のハギヨシも探したが、それでも見つからなかった。

 最終的に、鉢合わせた透華と一は試合会場の扉の前で待ち伏せることにした。

 しかし、来ない。残り一分、三十秒、来ない。そして…。

 

「最終戦、後半戦開始です」

 

 突然、アナウンスが入った。まだ衣が来ていないのに、彼女達はそう思い、振り返り卓の方を見ると、そこには衣が既に座っていた。

 入る為にはその扉しかないにも関わらず、衣は中に入っていた。

 彼女達は、衣とすれ違ったことに、気づかなかった。だが座っている衣を見た彼女達は、納得した。

 あの衣は『いままで見たことの無かった衣』だった。

 自信に満ち溢れていた、他者に恐怖を植え付けるあの圧倒的な衣は、どこにもいなかった。

 

 あそこに座っていたのは、小学生低学年にも間違われかねない、幼い、幼い娘だった。

 

 

 

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