「提督、間もなく山風が到着します」
「分かっているよ。どうせ今日の仕事も終わったし、出迎えてくる」
大淀からの報告を当然把握していた僕は、そう言って執務室を出た。
上から山風配備の知らせを聞いたときには余りのうれしさから小躍りするほどだった(その場に居た吹雪に怪奇の目で見られたことは言うまでも無い)。
しかし上には僕と僕を贔屓する元帥を快く思ってない連中も多く、嫌がらせなのか輸送船に護衛を一切付けずに寄越してきた。
結果、輸送船は轟沈、山風も大破相当の被害を受けた。
首謀者は怒らないから名乗り出なさい。今なら100人前のチタタプを作るだけで許してやる。
と言いたい所だけど、あいにく現場の声は上の奴らに届かない。
多分元帥さんが
そんなことを考えているうちにドックに着いた。既に艤装整備員の人や妖精さんが受け入れ態勢を整えていた。
勘違いしている人が多いかもしれないが、僕以外全員艦娘と妖精さんと言うわけではない。ちいさな妖精さんでは、重たい艤装を運ぶことは出来ないし、身の丈ほどのドライバーでねじを締めることも出来ない。だからといって艦娘全員分の艤装を明石一人で整備するのも無理がある。もっと言えば間宮さんと伊良湖ちゃんだけで全員分の食事を用意することも出来ない。
なので普通に人間もいる。そもそもここ海軍の基地だし。
数分経つとドッグの中が騒がしくなる。山風がVF‐25に引っ張られて柱島に到着したのだ。
女の子がおもちゃみたいに小さい飛行機に引っ張られる様はちょっとシュール。
そんなことを思いつつ整備士達が艤装を手際よく運んでいく。きょとんしている山風と僕だけが残った。
緑色の癖の強い長い髪を頭の高いところでハーフアップにして、動物の耳のような黒いリボンを着ている特徴的な姿だ。
違和感を感じたのでよく見ると、左頬にぱっくりと切り傷が出来ている。
「白露型駆逐艦…その8番艦…山風」
「僕がここの提督の濱本だ。ちょっとじっとしてろよー」
ポケットから高速修復剤の成分が含まれている絆創膏を取り出し、傷口に張ってあげる。こんなこともあろうかと普段から持ち歩いているのが役に立った。
「10分すれば直るだろうから、それまでは貼って置けよ」
「わ、分かった。あり…ありがと」
顔を赤らめながらお礼を言ってくれた。可愛い。
着いてくるように言って、まずは執務室に向かった。
執務室に戻ると既に大淀は帰ったようで誰もいなかった。
「この泊地についての説明はされた?」
「されて無い…」
通信機越しだともうちょっとハキハキ喋ってくれてたんだけどな…人前だと緊張するタイプか。
「ここはかなり特殊でね。他の司令部が対処できない作戦や状況になったら、それを遂行、解決することがほとんどだ。その性質上通常海域への進出はほとんどしない。大体が遠征か演習だ。資材が厳しくってね。しかしさっき言った他が対処できないことが起きたら真っ先にここに『解決しろ』って通知が来る。例えば深海棲艦の大量発生とか、新種の調査とか、孤立した部隊の救出とか、後は最近だと深海棲艦に支配された泊地の奪還とかだな」
失敗すれば評価も落ちて無理難題を押し付けられることもなくなるとか考えたことは何度もあるが、やるだけ無駄だろうというのが、僕と大淀と吹雪が出した結論だ。
「分かった」
そこで机の上にある電話が鳴った。山風に断ってから出る。
「もしもし?」
『はい、こちら工廠の明石です』
ふむ、明石が内線を使うとは珍しい。普段は直接執務室に来るのに。
「何かあったのかい」
『山風ちゃんの艤装の件なんですけどね、足りない部品が多すぎて修理が出来ないんですよ。ほら、輸送船沈んじゃったらしいじゃないですか。そこで予備の部品も沈んでしまったので』
「…他の白露型のパーツは使えないのか?」
『魚雷発射管は村雨ちゃんのを流用したんですが、機関は丸ごと取り替えないといけないです。こっちも白露型の艤装から流用できれば楽なんですが、この前の整備で全機オーバーホールして在庫が無いですし、どうやら白露型の機関だと改白露型の艤装では相性が悪いみたいで…」
艤装修復用のパーツは艦ごと分けられて管理しているので、普通流用するようなことは無い。そもそもがオーダーメイドみたいなもので、例えば睦月が如月の艤装を装備しても何一つ作動しないし(勿論ここの睦月が他所の睦月の艤装を装備することは可能)、それは内部パーツにも言えることだ。だから今回みたいに流用したことは初めてだった。
それにしても改白露型だと流用も難しくなるのか…他の改○○型の艤装にも当てはまりそうだな。
「ふむ、上には掛け合うけど期待しないでくれよ」
『おかしなことを言いますねぇ。この泊地で上層部を信頼しているのはそこにいる山風ちゃんくらいですよ。他は例外を除いてまったく信頼してませんからね』
「それもそうか。ところでって、切りやがった」
言ってる途中で電話が切れた。
「艤装、もしかして…直らないの?」
「聞こえてたか…そうだな。現状だと厳しいな」
「そう…分かった…」
流石にショックだったのか、目に見えるほどのくらいオーラを纏って出て行った。
まぁ、着任早々戦力外通告だからなぁ。
せっかく一緒にWIXOSSやろうと思ったんだが…今の様子じゃ無理かな。
「そうだ。部屋の場所教えてないや…」
路頭に迷った山風が執務室に戻ってきたのは5分後だった。
それでは皆さん良いお年を。来年もよろしくお願いします。